地球‐月空間、世界初の3機の衛星による星座を確立 ― 2025年04月17日 22:34
【概要】
中国は、地球‐月空間(Earth-moon region of space)において世界初となる3機の衛星による星座(コンステレーション)を確立し、それらを安定した衛星間測位および通信リンクで接続することに成功した。これは、中国科学院(CAS)によって開発されたプログラムであり、同院が『Global Times』紙に提供した声明によって明らかにされた。
この発展により、独自の科学的および技術的成果が多数得られ、地球‐月空間の将来的な開発や宇宙科学の先端的探査のための基盤が確立されたとCASは述べている。
CASによると、「地球‐月空間」とは地球の軌道を起点に最大200万キロメートルまで広がる空間領域を指す。これは従来の地球周回軌道に比べて三次元的な体積が千倍以上に広がるものである。
この領域の開発と利用には、月資源の開発、地球外での長期居住、惑星間活動、太陽系探査の持続的推進といった戦略的重要性があるとされている。
CASは2017年にこの領域での先行研究および重要技術の開発を開始し、2022年2月には実証プロジェクトとして3機の衛星を用いた大規模な衛星星座の構築を企図したミッションが始動された。このミッションでは、地球‐月空間における「遠地遡行軌道(DRO:Distant Retrograde Orbit)」の特性および応用可能性の探査が目指された。
DRO-AおよびDRO-Bの2機は2024年3月に打ち上げられ、同年7月15日にそれぞれのミッション軌道に投入された。一方、DRO-Lは2024年2月に太陽同期軌道に打ち上げられ、予定通り実験を開始した。この3機が初めて星座を形成したのは2024年8月である。
衛星の運用計画として、DRO-Aは恒常的にDROに留まり、DRO-Bは地球‐月空間内での機動軌道を運行する。また、宇宙利用技術工程センター(CSU)によれば、3機の衛星体制により様々な測位分野において顕著な進展が得られている。
科学チームは、地球‐月空間の力学および探査に関する長年の研究に基づき、「飛行時間を延長する代わりに、搭載能力と冗長性を向上させる」という革新的な設計コンセプトを提案した。その結果、従来手法の5分の1の燃料で地球‐月遷移を達成し、世界初の「低エネルギーDRO投入」に成功した。
この成果は、地球‐月空間へのアクセスコストを大幅に削減し、今後の大規模な開発および利用に向けた新たな道を切り開くものである。
さらに、117万キロメートルに及ぶKバンドの衛星間マイクロ波測位通信リンクを実証し、地球‐月空間での大規模星座構築における重要な技術的障壁を突破した。これは世界初の成果である。
また、ガンマ線バースト観測などの天体物理研究を支援し、原子時計の運用などの新技術の試験も実施された。
軌道決定に関しては、従来の地上観測に代わり、衛星同士が互いを追跡する新たな方式を空間上で実証し、わずか3時間分の測位データで地上局による2日分の追跡と同等の精度を達成した。これにより、地球‐月空間における軌道決定のコストが大幅に削減され、効率的な運用が可能となった。
この成果について、CSUの研究者であるWang Wenbin氏は、従来の地上観測局を「衛星にして低軌道に置いたようなもの」であると述べ、今後の地球‐月空間および深宇宙探査における技術的な新しい道筋を提供すると評価した。
このシステムは、将来の月探査ミッションに対して、迅速な軌道決定や自律航法、そして月面施設向けの高精度な時刻信号の提供など、多面的な支援を行うと研究者は述べている。
また、DROは地球および月から離れており、遮蔽物がないため、探査機との通信リンクの構築、重要・緊急データのダウンリンクなどにも有利であるとされている。
【詳細】
1.地球‐月空間(cislunar space)の定義と意義
中国科学院(CAS)によれば、地球‐月空間とは、地球の重力圏を超え、地球からおよそ200万キロメートルの範囲に広がる広大な宇宙空間である。地球周回軌道と比較すると、この領域の三次元空間体積は1000倍以上に達する。
この領域は従来の宇宙活動の枠を大きく拡張するものであり、戦略的意義は極めて大きい。具体的には、以下の分野における基盤空間とされている。
・月資源の本格的な開発
・地球外における長期的有人滞在(居住施設の建設等)
・惑星間輸送・活動の拠点形成
・太陽系の持続的・体系的探査
このため、中国は2017年から地球‐月空間での基礎研究および技術開発を開始しており、2022年には本格的な実証計画に着手した。
2.遠地遡行軌道(DRO)と衛星星座の構成
DRO(Distant Retrograde Orbit)とは、月の周囲を月と逆方向に、比較的安定な軌道で回る特異な軌道であり、軌道力学的に長期間安定性を保持する性質を有する。地球と月から十分に距離を取ることで、通信や測位の観測に最適な条件が得られる。
今回のプロジェクトでは、3機の衛星を以下のように運用している。
・DRO-A:DROに恒常的に滞在。衛星間ネットワークの基点となる。
・DRO-B:地球‐月空間を移動する運用軌道をとり、柔軟な観測とデータ収集が可能。
・DRO-L:太陽同期軌道(地球周回軌道)にて補助的な観測を行う。
これら3機が2024年8月に初めて星座を構成し、衛星間通信および測位ネットワークが確立された。
3.技術的成果とブレークスルー
a. 低エネルギー軌道投入の成功
科学チームは、「飛行時間を犠牲にし、推進剤消費を抑える」という新設計概念を導入し、従来の5分の1の燃料で地球‐月遷移およびDRO投入を実現した。これは世界初の「低エネルギーDRO投入」であり、将来的な輸送コストの大幅な削減を可能とする。
b. 117万kmのKバンド衛星間通信
世界初となる117万キロメートルに及ぶKバンドの衛星間マイクロ波通信・測距リンクの確立に成功した。これは従来の衛星通信距離の限界を打ち破るものであり、地球‐月空間における大規模星座の可能性を技術的に裏付ける。
c. 衛星間測位による軌道決定
これまで宇宙機の軌道は地上局からの追跡により決定されてきたが、本ミッションでは、1機の衛星が他の衛星を追跡し、その観測データを用いて軌道を決定する「宇宙ベース測位」を実現。3時間分の観測データにより、従来2日分に相当する精度を達成。これは軌道決定のコストを大幅に低減し、完全自律航法の実現に近づくものである。
d. 科学観測・実証技術
・ガンマ線バースト(GRB)の観測
・衛星搭載の原子時計の実証
・衛星間での自律的な時刻同期・ナビゲーションの試験
これらはいずれも、深宇宙における航行・科学探査に直結する技術要素であり、地球外活動の信頼性を高めるものとなる。
4.応用展望と今後の任務支援
研究者らは、本星座システムが将来の中国の月面探査プロジェクトを多角的に支援する役割を担うとしている。
・月周回機への高速軌道決定と自律航法の提供
・月面基地等への高精度な時刻信号の配信
・月面探査機と地球間の中継通信支援
・探査機からの緊急データダウンリンク
DROの位置特性(地球および月からの距離・視界の確保)は、こうした用途に理想的な通信・観測プラットフォームとなる。
以上のように、本衛星星座は単なる実験的成功にとどまらず、地球‐月空間における恒久的な宇宙活動インフラの基礎を築いた画期的成果である。今後の深宇宙探査、月面基地建設、惑星間交通網の構築といった国家的宇宙戦略において中核を成す技術基盤と位置付けられる。
【要点】
1.地球‐月空間(cislunar space)の定義と重要性
・地球の重力圏を超え、地球から約200万kmまでの広大な空間を指す
・地球周回軌道と比較して、空間体積は1000倍以上
・国家戦略的に以下の活動基盤とされる
⇨ 月資源の開発
⇨ 宇宙空間における長期滞在拠点の構築
⇨ 太陽系惑星探査の中継拠点
⇨ 地球外交通・観測の恒久化
2.三機衛星星座の構成(DRO星座)
・DRO-A:Distant Retrograde Orbitに滞在、星座の中核を担う
・DRO-B:地球‐月空間を移動しつつ観測、柔軟な運用を行う
・DRO-L:地球周回の太陽同期軌道に配置、補助的な観測機能を担う
・2024年8月、これら3機により初の地球‐月空間衛星星座を構成
3.技術的成果と革新点
・低エネルギーDRO投入
⇨ 推進剤を従来の5分の1に抑え、軌道投入に成功
⇨ 飛行時間を延ばす設計で燃料消費を大幅削減
・117万km超のKバンド衛星間通信
⇨ 世界初の深宇宙衛星間マイクロ波リンクの確立
⇨ 通信距離と精度の両面で記録的成果
・衛星間測位による自律航法
⇨ 衛星が他の衛星を追跡して軌道を決定
⇨ 地上局を用いず、宇宙内のみで高精度測位が可能
⇨ 3時間の観測で2日分に相当する精度を達成
・科学実験・観測の実施
⇨ ガンマ線バースト(GRB)の検出
⇨ 原子時計の実証試験
⇨ 時刻同期技術およびナビゲーション技術の自律実証
4.今後の応用・展望
・月面・月周探査任務への支援基盤として以下を提供可能
⇨ 月面探査機や周回機の自律航法支援
⇨ 探査機との中継通信機能
⇨ 月面基地への時刻・位置情報の供給
⇨ 地球への高速・大容量データダウンリンク手段
・DROの位置特性により、通信・観測・測位の中継拠点として極めて有利
この衛星星座の確立は、地球‐月空間における恒久的宇宙インフラの構築に向けた、世界初の実用的ステップであり、中国の深宇宙戦略の中核技術を形成するものである。
【参考】
☞ 中国による地球‐月空間三機衛星星座の構築によって具体的に何がどうなるのか
1. 月探査と有人活動の高度化
(1)自律航法・測位が可能になる
・従来は地上局からの追跡によって探査機の位置と軌道を把握していたが、今後は衛星同士が互いを観測・測定することで、月周辺にある宇宙機が自己位置を高精度に把握できるようになる。
・これにより、地球との通信が一時的に遮断された際も、探査機は自律的に航法を維持できる。
(2)月面基地や探査機への正確な時刻供給が可能になる
・原子時計を搭載した衛星によって、月面の観測拠点に対し、ナノ秒レベルの時刻基準を提供できる。
・これは、科学観測や通信の同期精度を飛躍的に向上させる。
2. 通信の中継網の構築
(1)月探査機との常時通信が可能になる
・DRO軌道は地球および月面から一定の距離を保ちつつ、ほぼ遮蔽されない位置にあるため、探査機が裏側にいる場合でも通信中継が可能になる。
・探査機からの観測データや緊急情報を迅速に地球へ送信可能になる。
(2)災害やトラブル発生時のリスク低減
・探査機が障害を受けた場合、星座がデータを中継・回収できるため、地上から迅速な対応が可能となる。
3. 探査コストの大幅削減
(1)低燃費な軌道投入技術の確立
・地球から月への移動にかかる推進剤が従来の5分の1で済むようになった。
・これにより、探査機の質量の大部分を観測機器に割り当てることが可能となり、搭載能力とミッション寿命が飛躍的に向上する。
(2)地上局依存の減少
・軌道決定や測位を衛星間で実施できるため、大規模な地上施設や追跡アンテナが不要になる。
・運用コストを削減でき、商用探査企業にとっても参入障壁が下がる。
4. 将来的な民間活動と商業化の促進
(1)宇宙資源採掘・輸送の基盤が形成される
・地球‐月空間にインフラを展開することで、将来の月資源(例:ヘリウム3、水氷、レゴリス)の採掘・搬送を支える通信・測位・航法の基礎網となる。
(2)月面のインターネット構築に繋がる
・高速かつ安定した衛星間リンクにより、月面施設と地球インターネット網との連結も視野に入る。
・遠隔操作やリアルタイム監視が現実化する。
5. 深宇宙探査と惑星間通信への波及効果
(1)火星や木星探査にも転用可能な技術
・長距離通信技術や衛星間測位技術は、将来の火星有人探査や木星衛星探査への応用が可能である。
・太陽系全体に通信・測位網を拡張する布石となる。
結論
この三機星座の確立により、中国は月面探査、宇宙通信、航法、深宇宙探査において他国に先んじて基盤技術を獲得し、将来的な宇宙産業競争において圧倒的な優位性を得る可能性がある。これは「地球外の常設インフラ」という概念の現実化に向けた第一歩である。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
China establishes world's first three-satellite constellation in the Earth-moon region of space GT 2025.04.16
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332187.shtml
中国は、地球‐月空間(Earth-moon region of space)において世界初となる3機の衛星による星座(コンステレーション)を確立し、それらを安定した衛星間測位および通信リンクで接続することに成功した。これは、中国科学院(CAS)によって開発されたプログラムであり、同院が『Global Times』紙に提供した声明によって明らかにされた。
この発展により、独自の科学的および技術的成果が多数得られ、地球‐月空間の将来的な開発や宇宙科学の先端的探査のための基盤が確立されたとCASは述べている。
CASによると、「地球‐月空間」とは地球の軌道を起点に最大200万キロメートルまで広がる空間領域を指す。これは従来の地球周回軌道に比べて三次元的な体積が千倍以上に広がるものである。
この領域の開発と利用には、月資源の開発、地球外での長期居住、惑星間活動、太陽系探査の持続的推進といった戦略的重要性があるとされている。
CASは2017年にこの領域での先行研究および重要技術の開発を開始し、2022年2月には実証プロジェクトとして3機の衛星を用いた大規模な衛星星座の構築を企図したミッションが始動された。このミッションでは、地球‐月空間における「遠地遡行軌道(DRO:Distant Retrograde Orbit)」の特性および応用可能性の探査が目指された。
DRO-AおよびDRO-Bの2機は2024年3月に打ち上げられ、同年7月15日にそれぞれのミッション軌道に投入された。一方、DRO-Lは2024年2月に太陽同期軌道に打ち上げられ、予定通り実験を開始した。この3機が初めて星座を形成したのは2024年8月である。
衛星の運用計画として、DRO-Aは恒常的にDROに留まり、DRO-Bは地球‐月空間内での機動軌道を運行する。また、宇宙利用技術工程センター(CSU)によれば、3機の衛星体制により様々な測位分野において顕著な進展が得られている。
科学チームは、地球‐月空間の力学および探査に関する長年の研究に基づき、「飛行時間を延長する代わりに、搭載能力と冗長性を向上させる」という革新的な設計コンセプトを提案した。その結果、従来手法の5分の1の燃料で地球‐月遷移を達成し、世界初の「低エネルギーDRO投入」に成功した。
この成果は、地球‐月空間へのアクセスコストを大幅に削減し、今後の大規模な開発および利用に向けた新たな道を切り開くものである。
さらに、117万キロメートルに及ぶKバンドの衛星間マイクロ波測位通信リンクを実証し、地球‐月空間での大規模星座構築における重要な技術的障壁を突破した。これは世界初の成果である。
また、ガンマ線バースト観測などの天体物理研究を支援し、原子時計の運用などの新技術の試験も実施された。
軌道決定に関しては、従来の地上観測に代わり、衛星同士が互いを追跡する新たな方式を空間上で実証し、わずか3時間分の測位データで地上局による2日分の追跡と同等の精度を達成した。これにより、地球‐月空間における軌道決定のコストが大幅に削減され、効率的な運用が可能となった。
この成果について、CSUの研究者であるWang Wenbin氏は、従来の地上観測局を「衛星にして低軌道に置いたようなもの」であると述べ、今後の地球‐月空間および深宇宙探査における技術的な新しい道筋を提供すると評価した。
このシステムは、将来の月探査ミッションに対して、迅速な軌道決定や自律航法、そして月面施設向けの高精度な時刻信号の提供など、多面的な支援を行うと研究者は述べている。
また、DROは地球および月から離れており、遮蔽物がないため、探査機との通信リンクの構築、重要・緊急データのダウンリンクなどにも有利であるとされている。
【詳細】
1.地球‐月空間(cislunar space)の定義と意義
中国科学院(CAS)によれば、地球‐月空間とは、地球の重力圏を超え、地球からおよそ200万キロメートルの範囲に広がる広大な宇宙空間である。地球周回軌道と比較すると、この領域の三次元空間体積は1000倍以上に達する。
この領域は従来の宇宙活動の枠を大きく拡張するものであり、戦略的意義は極めて大きい。具体的には、以下の分野における基盤空間とされている。
・月資源の本格的な開発
・地球外における長期的有人滞在(居住施設の建設等)
・惑星間輸送・活動の拠点形成
・太陽系の持続的・体系的探査
このため、中国は2017年から地球‐月空間での基礎研究および技術開発を開始しており、2022年には本格的な実証計画に着手した。
2.遠地遡行軌道(DRO)と衛星星座の構成
DRO(Distant Retrograde Orbit)とは、月の周囲を月と逆方向に、比較的安定な軌道で回る特異な軌道であり、軌道力学的に長期間安定性を保持する性質を有する。地球と月から十分に距離を取ることで、通信や測位の観測に最適な条件が得られる。
今回のプロジェクトでは、3機の衛星を以下のように運用している。
・DRO-A:DROに恒常的に滞在。衛星間ネットワークの基点となる。
・DRO-B:地球‐月空間を移動する運用軌道をとり、柔軟な観測とデータ収集が可能。
・DRO-L:太陽同期軌道(地球周回軌道)にて補助的な観測を行う。
これら3機が2024年8月に初めて星座を構成し、衛星間通信および測位ネットワークが確立された。
3.技術的成果とブレークスルー
a. 低エネルギー軌道投入の成功
科学チームは、「飛行時間を犠牲にし、推進剤消費を抑える」という新設計概念を導入し、従来の5分の1の燃料で地球‐月遷移およびDRO投入を実現した。これは世界初の「低エネルギーDRO投入」であり、将来的な輸送コストの大幅な削減を可能とする。
b. 117万kmのKバンド衛星間通信
世界初となる117万キロメートルに及ぶKバンドの衛星間マイクロ波通信・測距リンクの確立に成功した。これは従来の衛星通信距離の限界を打ち破るものであり、地球‐月空間における大規模星座の可能性を技術的に裏付ける。
c. 衛星間測位による軌道決定
これまで宇宙機の軌道は地上局からの追跡により決定されてきたが、本ミッションでは、1機の衛星が他の衛星を追跡し、その観測データを用いて軌道を決定する「宇宙ベース測位」を実現。3時間分の観測データにより、従来2日分に相当する精度を達成。これは軌道決定のコストを大幅に低減し、完全自律航法の実現に近づくものである。
d. 科学観測・実証技術
・ガンマ線バースト(GRB)の観測
・衛星搭載の原子時計の実証
・衛星間での自律的な時刻同期・ナビゲーションの試験
これらはいずれも、深宇宙における航行・科学探査に直結する技術要素であり、地球外活動の信頼性を高めるものとなる。
4.応用展望と今後の任務支援
研究者らは、本星座システムが将来の中国の月面探査プロジェクトを多角的に支援する役割を担うとしている。
・月周回機への高速軌道決定と自律航法の提供
・月面基地等への高精度な時刻信号の配信
・月面探査機と地球間の中継通信支援
・探査機からの緊急データダウンリンク
DROの位置特性(地球および月からの距離・視界の確保)は、こうした用途に理想的な通信・観測プラットフォームとなる。
以上のように、本衛星星座は単なる実験的成功にとどまらず、地球‐月空間における恒久的な宇宙活動インフラの基礎を築いた画期的成果である。今後の深宇宙探査、月面基地建設、惑星間交通網の構築といった国家的宇宙戦略において中核を成す技術基盤と位置付けられる。
【要点】
1.地球‐月空間(cislunar space)の定義と重要性
・地球の重力圏を超え、地球から約200万kmまでの広大な空間を指す
・地球周回軌道と比較して、空間体積は1000倍以上
・国家戦略的に以下の活動基盤とされる
⇨ 月資源の開発
⇨ 宇宙空間における長期滞在拠点の構築
⇨ 太陽系惑星探査の中継拠点
⇨ 地球外交通・観測の恒久化
2.三機衛星星座の構成(DRO星座)
・DRO-A:Distant Retrograde Orbitに滞在、星座の中核を担う
・DRO-B:地球‐月空間を移動しつつ観測、柔軟な運用を行う
・DRO-L:地球周回の太陽同期軌道に配置、補助的な観測機能を担う
・2024年8月、これら3機により初の地球‐月空間衛星星座を構成
3.技術的成果と革新点
・低エネルギーDRO投入
⇨ 推進剤を従来の5分の1に抑え、軌道投入に成功
⇨ 飛行時間を延ばす設計で燃料消費を大幅削減
・117万km超のKバンド衛星間通信
⇨ 世界初の深宇宙衛星間マイクロ波リンクの確立
⇨ 通信距離と精度の両面で記録的成果
・衛星間測位による自律航法
⇨ 衛星が他の衛星を追跡して軌道を決定
⇨ 地上局を用いず、宇宙内のみで高精度測位が可能
⇨ 3時間の観測で2日分に相当する精度を達成
・科学実験・観測の実施
⇨ ガンマ線バースト(GRB)の検出
⇨ 原子時計の実証試験
⇨ 時刻同期技術およびナビゲーション技術の自律実証
4.今後の応用・展望
・月面・月周探査任務への支援基盤として以下を提供可能
⇨ 月面探査機や周回機の自律航法支援
⇨ 探査機との中継通信機能
⇨ 月面基地への時刻・位置情報の供給
⇨ 地球への高速・大容量データダウンリンク手段
・DROの位置特性により、通信・観測・測位の中継拠点として極めて有利
この衛星星座の確立は、地球‐月空間における恒久的宇宙インフラの構築に向けた、世界初の実用的ステップであり、中国の深宇宙戦略の中核技術を形成するものである。
【参考】
☞ 中国による地球‐月空間三機衛星星座の構築によって具体的に何がどうなるのか
1. 月探査と有人活動の高度化
(1)自律航法・測位が可能になる
・従来は地上局からの追跡によって探査機の位置と軌道を把握していたが、今後は衛星同士が互いを観測・測定することで、月周辺にある宇宙機が自己位置を高精度に把握できるようになる。
・これにより、地球との通信が一時的に遮断された際も、探査機は自律的に航法を維持できる。
(2)月面基地や探査機への正確な時刻供給が可能になる
・原子時計を搭載した衛星によって、月面の観測拠点に対し、ナノ秒レベルの時刻基準を提供できる。
・これは、科学観測や通信の同期精度を飛躍的に向上させる。
2. 通信の中継網の構築
(1)月探査機との常時通信が可能になる
・DRO軌道は地球および月面から一定の距離を保ちつつ、ほぼ遮蔽されない位置にあるため、探査機が裏側にいる場合でも通信中継が可能になる。
・探査機からの観測データや緊急情報を迅速に地球へ送信可能になる。
(2)災害やトラブル発生時のリスク低減
・探査機が障害を受けた場合、星座がデータを中継・回収できるため、地上から迅速な対応が可能となる。
3. 探査コストの大幅削減
(1)低燃費な軌道投入技術の確立
・地球から月への移動にかかる推進剤が従来の5分の1で済むようになった。
・これにより、探査機の質量の大部分を観測機器に割り当てることが可能となり、搭載能力とミッション寿命が飛躍的に向上する。
(2)地上局依存の減少
・軌道決定や測位を衛星間で実施できるため、大規模な地上施設や追跡アンテナが不要になる。
・運用コストを削減でき、商用探査企業にとっても参入障壁が下がる。
4. 将来的な民間活動と商業化の促進
(1)宇宙資源採掘・輸送の基盤が形成される
・地球‐月空間にインフラを展開することで、将来の月資源(例:ヘリウム3、水氷、レゴリス)の採掘・搬送を支える通信・測位・航法の基礎網となる。
(2)月面のインターネット構築に繋がる
・高速かつ安定した衛星間リンクにより、月面施設と地球インターネット網との連結も視野に入る。
・遠隔操作やリアルタイム監視が現実化する。
5. 深宇宙探査と惑星間通信への波及効果
(1)火星や木星探査にも転用可能な技術
・長距離通信技術や衛星間測位技術は、将来の火星有人探査や木星衛星探査への応用が可能である。
・太陽系全体に通信・測位網を拡張する布石となる。
結論
この三機星座の確立により、中国は月面探査、宇宙通信、航法、深宇宙探査において他国に先んじて基盤技術を獲得し、将来的な宇宙産業競争において圧倒的な優位性を得る可能性がある。これは「地球外の常設インフラ」という概念の現実化に向けた第一歩である。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
China establishes world's first three-satellite constellation in the Earth-moon region of space GT 2025.04.16
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332187.shtml