「共有する未来の中国・マレーシア共同体」2025年04月17日 19:51

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【桃源寸評】

 ✅米国は経済の武器化

 経済の「武器化(weaponization of economics)」とは、経済的手段(制裁、関税、貿易制限など)を、外交・安全保障目的で使用すること。他国の政策を変えさせたり、影響力を行使するために用いる行為などをいう。
 
 米国の「小さな囲いと高い塀」型保護主義の特徴

 ・小さな囲い」:保護対象を「安全保障に直結する戦略的分野」に限定する姿勢を意味する(例:先端半導体、AI、量子技術、バイオテクノロジーなど)。全面的な保護ではなく、選択的・精密な制限を志向していると説明される。

 ・「高い塀」:限定された分野に対しては、極めて強固な規制や制限(輸出規制、投資審査、関税、禁輸措置)を適用し、外国と遮断する。特に中国に対しては、国家安全保障を理由に厳しい技術流出防止措置を講じている。
 
 ✅米国は経済の武器化の実際

 ・半導体・AI技術などの対中輸出規制を主導

 米国は先端技術を中国に渡さないため、広範な輸出規制を設け、日本・オランダにも強制的に同調させている。これは典型的な経済の武器化である。

 ・対ロシア経済制裁の主導者

 ウクライナ戦争以降、ロシアへの金融制裁・貿易制限を主導。SWIFT排除、資産凍結など、経済手段を明確に外交・安全保障目的で行使している。

・対イラン・北朝鮮制裁の長期継続

 交渉のための圧力として、制裁という経済的手段を長年用いてきた。まさに政治目的での経済の武器化である。

・対外国投資の監視強化(CFIUS)

 中国資本による米国内企業買収を「国家安全保障」の名目で拒否。投資の自由を制限しており、「開かれた市場」との整合性はない。

・自国中心の産業補助金政策(IRA・CHIPS法)

 外資誘致のために多額の補助金をばらまき、他国企業の立地戦略に圧力をかける。経済政策を戦略的な競争手段として用いている。

・「小さな囲いと高い塀」戦略

 米国は「すべての対中関係を断つわけではない」と述べつつ、軍民両用技術などの重要分野では厳しく規制。つまり一部の経済分野を意図的に「武器化」している。

【寸評 完】

【概要】

 2025年4月16日、中国の習近平国家主席はマレーシアを国賓として訪問し、スルタン・イブラヒム国王との会談を行った。この訪問に際し、習主席は、中国とマレーシアが「共有する未来の中国・マレーシア共同体」を高い戦略的水準で構築し、両国関係に新たな「黄金の50年」をもたらす用意があると表明した。これは、50年にわたる中馬外交関係の節目を迎える中で発せられた発言であり、中国国営新華社通信によって報じられた。

 習主席は、両国は「良き隣人、良き友人、良きパートナー」であり、家族のように頻繁に訪問し合っていると述べた。これに対し、スルタン・イブラヒム国王は、習主席の訪問が両国関係を包括的に格上げし、各分野における協力を力強く発展させると期待を表明した。

 また、同日午後にはマレーシアのアンワル・イブラヒム首相との会談も行われ、習主席は「中国・マレーシア共有未来共同体」の高水準かつ戦略的な発展に向けた三つの提案を提示した。第一に「戦略的自主性の堅持と高度な戦略協調の実施」、第二に「発展戦略の融合と質の高い発展協力のモデル構築」、第三に「世代を超えた友好の継承と文明間の交流深化」である。

 両国は会談後、デジタル経済、サービス貿易、「両国両園」プロジェクトの高度化、共同研究所、人工知能、鉄道、知的財産権、農産物の対中輸出、ビザ相互免除、パンダ保護など、30以上の分野にわたる協力文書を交換した。

 習主席は、マレーシア国民からの歓迎を受け、訪問先のクアラルンプールでは多くの市民が注目する中で歓迎式典が開催された。現地住民の間では、米国による貿易上の圧力が増す中で、中国との貿易協力の意義が強調されており、主権の尊重と相互利益に基づく関係が重要であるとの声が広がっている。

 習主席はまた、アンワル首相との会談において、「デカップリング(切り離し)」や供給網の分断、「小さな庭に高い柵」といった保護主義的措置、関税の一方的な導入などに対し、開放性、包摂性、団結と協力を通じて対処すべきと強調した。さらに、「弱肉強食の論理」にはアジアの価値観である「平和・協力・開放・包摂」によって対応し、不安定な世界に対して安定したアジアで応じるべきと主張した。

 中国とマレーシアの貿易額は2024年に2,120億ドルに達し、中国は16年連続でマレーシア最大の貿易相手国となっている。投資面では、マレーシア・中国クアンタン工業団地への投資額が110億元を超えている。

 また、マレーシア側からも、ASEAN議長国としての役割を果たす中で中国と協力し、地域の経済成長や平和の維持を推進する意向が示された。アンワル首相は、一方的な関税措置には賛同しないと述べ、協力による集団的発展を追求することがASEANの基本方針であると強調した。

 オング・ティーキアット・アジア太平洋「一帯一路」議員連盟会長(元マレーシア運輸相)は、今回の習主席の訪問は、中国の周辺外交の成功を示すものであり、両国間の政治的信頼の深化を意味すると述べた。さらに、「共有未来共同体」の深化は中国とASEANの経済統合の成功例であり、地域の包括的発展を促進するものであると評価された。

 中国社会科学院国家グローバル戦略研究所のZhong Feiteng研究員は、中国の国際的イメージが、紛争や経済摩擦の中で「公平と正義、平和と発展を推進する国家」として高まっていると分析した。

 習主席はマレーシアとの会談において、「グローバル発展イニシアティブ」「グローバル安全保障イニシアティブ」「グローバル文明イニシアティブ」の実施についても協力を確認し、これらの取り組みがASEAN地域においても重要であると位置づけた。オング氏は、これらの取り組みがASEAN共同体ビジョンの実現にも寄与するものであると指摘している。

 以上のように、本訪問は経済協力にとどまらず、地域全体の安定、文明間の交流、安全保障、未来志向の発展に至るまで多方面にわたる協力の深化を示すものである。

【詳細】

 習近平国家主席のマレーシア国賓訪問の概要

 2025年4月16日、中国国家主席習近平はマレーシアのクアラルンプールにおいて、スルタン・イブラヒム国王およびアンワル・イブラヒム首相と会談を行った。これは習主席にとって12年ぶり2度目のマレーシア訪問であり、中国・マレーシア国交樹立50周年を記念する重要な機会となった。

 習主席は国王との会見において、中国とマレーシアが「良き隣人、良き友人、良きパートナー」であり、家族のように頻繁に交流してきたことを強調し、両国関係が過去50年を経てより明るい未来に向かっていると述べた。国王スルタン・イブラヒムもまた、習主席の訪問が両国関係を包括的に格上げし、さまざまな分野での協力を促進すると評価した。

 同日午後には、アンワル首相と会談し、「中国・マレーシア運命共同体」の戦略的高度化について意見を交わした。習主席は以下の三点の提案を行った。

 1.戦略的自主性の堅持と高レベル戦略協調の推進

 2.開発協力の連携強化と質の高い発展のモデル構築

 3.世代を超えた友好の継承と文明間交流の深化

 会談後には、両国政府間で30件以上の協力文書が交換された。これには以下の分野が含まれる。

 ・三大国際イニシアティブ(発展、安全、文明)

 ・デジタル経済およびサービス貿易

 ・「両国・双園(Two Countries, Twin Parks)」の高度化と発展

 ・共同研究所、人工知能、鉄道、知的財産権、農産物の対中輸出

 ・相互ビザ免除およびパンダ保護協力

 また、習主席は、東海岸鉄道(East Coast Rail Link)などの大型プロジェクトの円滑な実施と、デジタル・グリーン経済分野での未来産業協力を強調した。中国はマレーシア産の高品質な農産品の対中輸出を歓迎すると同時に、中国企業のマレーシアへの投資を奨励している。

 国際的文脈と地域協調

 習主席は、現在の国際的な「ジャングルの法則」的状況に対し、アジアの価値観である平和、協力、開放、包摂をもって応えるべきであるとし、米国による「小さな囲いと高い塀(small yard with high fences)」のような保護主義的動向に反対の立場を示した。また、地域の安定と確実性を持って、世界の不安定性と不確実性に対処すべきであるとの姿勢を示した。

 アンワル首相も、ASEANが一方的な関税措置には同調せず、協力を通じた経済成長の維持を目指すとし、マレーシアとして中国との協力を強化し、共通のリスクや課題に対応する意向を表明した。

 2024年の中国・マレーシア間の貿易総額は2,120億ドルに達し、中国は16年連続でマレーシアの最大の貿易相手国となっている。また、マレーシア中国関丹工業団地(Malaysia-China Kuantan Industrial Park)には累計110億元以上の投資が行われている。

 地域統合と外交的意義

 習主席の訪問は、中国の「近隣外交」の成果とされ、両国間の政治的信頼の深化と経済的統合を象徴するものである。マレーシアは本年のASEAN議長国であり、習主席はマレーシアがASEANの調整役を果たすことに期待を寄せた。両国は、「グローバル発展イニシアティブ(GDI)」、「グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)」、「グローバル文明イニシアティブ(GCI)」の推進でも連携を強めるとされている。

 中国社会科学院国家戦略研究所の鐘飛騰研究員によれば、この国賓訪問に対するマレーシア国内の反応は極めて前向きであり、中国が「公平と正義の擁護者」としての国際的イメージを高めていることを示すものであるとされる。

 市民の声

 現地クアラルンプールの市民ザリマン氏は、車内のモニターで歓迎式典を視聴しながら、米国の通商政策に対する懸念を示し、「貿易はすべての国にとって利益があるべきであり、相互の尊重が必要だ」と述べた。彼のような意見は他の住民にも広がっており、米国の関税政策に対する疑問と、中国との経済協力の重要性が強調されている。
 
【要点】 

 1.訪問の背景と概要

 ・習近平主席は2025年4月16日にマレーシアを国賓訪問した。

 ・訪問は中馬国交樹立50周年を記念したもので、12年ぶり2度目の訪問である。

 ・首都クアラルンプールにて、スルタン・イブラヒム国王およびアンワル・イブラヒム首相と会談した。

 2.国王との会見

 ・習主席は、両国が「良き隣人・良き友人・良きパートナー」であると述べ、交流を家族のようだと表現した。

 ・スルタン・イブラヒム国王は、習主席の訪問が両国関係をさらに格上げすると評価した。

 3.首相との首脳会談

 ・アンワル首相との会談で、両国の「運命共同体」の高度化について協議した。

 ・習主席は以下の3つの協力方針を提示した:

  ⇨ 戦略的自主性の堅持と高レベル戦略協調の推進

  ⇨ 開発協力の強化と高品質な成長モデルの構築

  ⇨ 文明間交流と次世代の友好の深化

 4.合意・協力事項

 ・会談後に30件以上の政府間協力文書を交換した。主な分野は以下のとおりである:

  三大国際イニシアティブ(発展・安全・文明)

  ⇨ デジタル経済とサービス貿易

  ⇨ 「両国・双園(Two Countries, Twin Parks)」構想の深化

  ⇨ 共同研究所・AI・鉄道・知的財産権・農産物輸出

  ⇨ ビザ相互免除およびパンダ保護協力

 5.具体的な経済協力

 ・東海岸鉄道(ECRL)などの大型プロジェクトの推進を確認した。

 ・デジタル・グリーン経済における新産業分野の協力を推進する方針を示した。

 ・中国はマレーシア産の高品質農産物の輸入を歓迎した。

 ・中国企業によるマレーシアへの投資を奨励した。

 6.国際的・地域的意義

 ・習主席は、世界の不安定性に対抗するため、アジアの平和・協力・開放・包摂の価値観を強調した。

 ・米国の「小さな囲いと高い塀」型の保護主義に反対する立場を表明した。

 ・アンワル首相も、ASEANは一方的な関税措置に加担せず、成長と協力を追求すると述べた。

 7.貿易・投資関係

 ・2024年の中馬貿易総額は2,120億ドルに達し、中国は16年連続でマレーシアの最大の貿易相手国である。

 ・関丹工業団地には110億元以上の投資が行われている。

 8.ASEANと地域外交

 ・習主席はマレーシアが2025年のASEAN議長国であることを評価し、地域協力の推進役として期待を寄せた。

 ・両国は「GDI」「GSI」「GCI」の三大国際イニシアティブを通じた協力を継続するとした。

 8.評価と市民の反応

 ・中国社会科学院の専門家によれば、今回の訪問は「近隣外交」の成果であり、極めて好意的に受け止められているとされる。

 ・クアラルンプール市民からは、米国の通商政策に懸念を示しつつ、中国との経済協力を支持する声があがっている。

【引用・参照・底本】

China-Malaysia ties ushering in new golden era, Xi says GT 2025.04.17
https://www.globaltimes.cn/page/202504/1332263.shtml

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