ユダヤ民族を檢討する2023年01月09日 17:27

ユダヤ民族を檢討する
 『ユダヤ民族を檢討する』 柴田武福 著

 (1-3頁)
 緒 言                2023.01.09

 世界の諸民集中謎の存在として取扱はれて來たユダヤ民族は、古來亡國の民として凡ゆる他民族の忍ぶべからざる惨虐な嫌惡迫害に耐え忍んで來たがその守舊的ではあるが熱烈な信仰と、極めて進歩的な不斷の努力とは、遂に近代文化建設の無くてはならない立役者としての地位を確保せしめ、父祖の失へる國土の恢復成らずして他國に居候的生活をするも、、或は他民族の主權者となり、或は政治.外交、經濟界の實權を振り、全世界の文化的機能を意の儘に操縦して、嘗ての迫害者を狼狽忸怩たらしめて居る。
 斯くの如く、彼等が近代文化の原動力的存在となつて居る今日では、世界中の凡ゆる實際問題を檢討するに當り、彼等を除外しては凡そ意味ないものである。
 ユダヤ人問題研究の必要性もその爲に起るのである。ダヤ人を公正な立場から研究することは、世界の動向に正しい認識を與ふるものであつて、少くともこの問題に關し文化人は無關心であつてはならないと思ふ。
 併し、ユダヤ民族は世専各國に散在して居るので.その環境も事情も亦各種各樣であつて、研究上の諸困難は想像以上のものがある
 著者は滯歐中ユダヤ人と親しく交際し.個人的生活のすべてを研究した。又二十年間にわたつて、ユダヤ人及び非ユダヤ人の文献論説を蒐集して來た。
 その山積する諸材料のうちより一部を抽出して、この著となつたものである。始め學友明治大學哲學教授大島豐氏と共著で大冊出版の豫定であつたが大島君は遣米國民使節として急に渡米したので.止むを得ず、この總論的一著を先づものして、同君の歸国を侍つことにした。從つてこの研究書は二篇、三篇と續刊されるものである.
 事局多端の折柄多少なりとも讀者諸賢の參考ともなり得れば幸ひである.
 終りに出版を引き受けられ尼子靜氏の御好意と、頭山先生、恩師佐藤鐵太郎閣下並びに諸友の御鞭撻とに厚く感謝するものである。
   昭和十二年十二月―日   著者

引用・参照・底本

『ユダヤ民族を檢討する』 柴田武福 著 昭和十二年十二月十五日

(国立国会図書館デジタルコレクション)