封建的官僚政治の時代に於ける言論壓迫2023年01月20日 18:30

絵本道化遊
 『アメリカ樣 全』宮武外骨 著

 (三一頁)
 封建的官僚政治の時代に於ける言論壓迫      2023.01.20

「想ひ起す、故森田思軒が、一文を草して黄海(日清戰争の海戰)のいはゆる霊鷹は霊に非ずと説くや、天下皆彼を責むるに國賊を以てしたりき、久米邦武氏が神道は祭天の古俗なりと論ずるや、其大學教授の職を免ぜられたりき、西園寺侯が所謂世界主義的教育を行はんとするや、其文相の地位を殆うしたりき、内村鑑三氏が學校で勅語の禮拝を拒むや、その教授(一高)の職を免ぜられたりき、尾崎行雄氏が演説で共和の二字を口にするや、その大臣の職を免ぜられたりき、彼等は皆大不敬をもつて罵られき、非愛國者をもつて罪せられき、これは明治聖代における日本國民の愛國心の発露なり」とは、明治三十年頃の幸徳秋水の論文の一節である。當時の秋水は、不敬問題を危險とする皇室觀念を抱いてゐたのだ。昨今憲法改正案に、出來るだけ現状を維持しようとするものは、民衆の中を歩かれる皇室を「宮城」の中に押しこめようとするの危險を思はねばならない。

右の幸徳秋水は、マダ大逆事件の巨魁に成るまでに亢進して居なかつた時に書いた文章であらう、その方が説文の意義を深からしめる

引用・参照・底本

『アメリカ樣』宮武外骨 著 昭和二十一年五月三日發行 藏六文庫
『繪本道化遊 全』宮武外骨 著 明治四十四年二月十日發行 雅俗文庫

(国立国会図書館デジタルコレクション)