EUの軍事産業計画→米国のNATOからの関与縮小2025年04月06日 18:50

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【概要】

 EUの軍事産業計画は、米国のNATOからの関与縮小を加速させる可能性があるという見解が示されている。米国は、NATO加盟国に対してロシアの支援を行う場合に、EU製の装備が米国の装備と相互運用できない可能性を懸念している。これにより、米国が介入を躊躇する可能性があると指摘されている。

 また、米国がEUの軍事産業計画に対して批判的な立場を取っているとされ、特にウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が提案した「ReArm Europe計画」について言及されている。この計画は、加盟国に対して防衛支出を平均1.5%増加させ、4年間で合計6500億ユーロを追加で投じることを目的としており、その結果としてEUの戦略的自立性が強化される可能性がある。しかし、この計画が米国のNATOからの関与縮小を加速させる可能性もある。

 さらに、米国の装備に対する依存度を減らすことで、EUがロシアとの紛争を引き起こす際に米国の承認を得る必要がなくなる可能性があるとされている。この場合、EUが米国にとって戦略的なリスクとなる可能性があり、米国の介入意欲が減少する恐れがある。

 一方で、ポーランドやバルト三国、ルーマニアなど、ロシア、ベラルーシ、ウクライナと接するNATOの東部フランクに位置する国々は、米国との軍事産業的な結びつきが強いとされている。これらの国々は、EUの軍事産業計画から外れ、米国の影響を保持するために重要な役割を果たす可能性がある。

 米国は、ポーランドとの軍事産業協力を強化し、技術共有や国内生産の一部を提供することにより、EUの周辺国に対する影響力を保持することができると指摘されている。このアプローチにより、EU内での米国装備の購入が促進され、EUの戦略的自立性が制限されると同時に、EU内での「欧州軍」の形成が困難になる可能性がある。

【詳細】

 この分析では、EUの軍事産業計画が米国のNATOへの関与縮小を加速させる可能性があることに焦点を当てている。具体的には、EUが進める軍事強化とそれに伴う戦略的自立性の追求が、米国との相互運用性の問題を引き起こし、米国がEUに対して介入をためらう要因となり得ることが指摘されている。

 1. EUの軍事産業計画と米国の懸念
 
 EUは、「ReArm Europe計画」に基づき、加盟国の防衛支出を増加させることを目指している。この計画には、加盟国が平均1.5%の防衛支出増を行い、合計で6500億ユーロを投入することが含まれている。さらに、防衛投資に対して1500億ユーロの融資を提供することも予定されている。この計画は、EUの戦略的自立性を強化することを意図しており、米国の支援に頼らずに独自の防衛能力を高めようとするものである。

 しかし、米国はこの計画に対して懸念を抱いており、その主な理由は、EUが米国の軍事装備から依存を減らし、独自の軍事産業を発展させることによって、米国とEUの軍事装備の相互運用性に問題が生じる可能性があるからである。米国とEUの間で使用される装備や技術に互換性がない場合、米国の指揮官がEUの部隊を効果的に統制できない可能性があり、これが米国がEUを支援する際の障壁となり得る。

 2. F-35の「キルスイッチ」問題と戦略的リスク

 さらに、EUが米国の装備からの依存を減らす中で、特にF-35戦闘機のような米国製の装備が、仮に「キルスイッチ」を搭載しているとする懸念も浮上している。この「キルスイッチ」は、米国がEUによるロシアとの紛争の激化を望まない場合に、米国がEUの装備を遠隔操作で無効化できる機能を持つとされるものである。もしEUがロシアとの対立を引き起こすような行動に出た場合、米国がその行動を制限できる可能性があるというわけである。

 もしEUがこのようなリスクを冒してまで独自の防衛政策を追求し、米国がその介入を拒否する場合、EUは戦略的な負担となり、米国の介入意欲が減退する可能性がある。この状況が続けば、EUと米国の間で相互依存関係が弱まり、米国の関与が減少していくことが予測される。

 3. 東欧諸国の対応と米国の影響力

 一方で、ポーランドやバルト三国、ルーマニアなど、NATOの東側に位置し、ロシアやベラルーシ、ウクライナとの接点が多い国々は、米国との関係を維持し、EUの軍事産業計画から外れる傾向にあると予測されている。これらの国々は、米国の軍事産業に依存し続け、米国の影響力が残る地域として重要な位置を占めることになる。

 特にポーランドは、米国との軍事協力を強化し、米国製の防衛技術を導入することによって、米国の影響力を保持しようとする可能性がある。米国はポーランドに対して、技術共有や部分的な国内生産を提供することによって、ポーランドを米国の軍事産業エコシステムに留めることができる。このような協力は、ポーランドがEU内の他の国々と独立した軍事経済圏を形成することを妨げ、米国の影響を維持する手段となる。

 4. EUの「欧州軍」構想と米国の影響

 EU内で進められている「欧州軍」構想は、米国の軍事支援に頼らずにEU内で独自の軍事力を形成しようという動きである。しかし、米国製の装備がEU内で主流を占めている現状において、相互運用性の問題が「欧州軍」の実現を困難にしている。このため、米国はポーランドなどの東欧諸国との軍事協力を強化することで、EU内での米国製装備の購入を促進し、EUの戦略的自立性を制限しようとする可能性がある。

 このような米国とポーランドの協力関係が強化されれば、EU内での「欧州軍」の構築が難しくなり、米国の影響力を維持するための障壁が高くなる。米国は、ポーランドとの協力を通じて、EU内での軍事的自立を抑制し、EUが米国に対して依存し続けるように圧力をかけることができる。

 結論

 EUの軍事産業計画が進む中で、米国はその相互運用性の問題や戦略的リスクを懸念し、NATOへの関与を縮小する可能性がある。これにより、EUと米国の関係は緊張し、EUが独自の防衛力を高める一方で、米国の影響力が低下することが予測される。しかし、米国はポーランドなどの東欧諸国との軍事協力を強化することによって、EU内での自立的な軍事力の形成を妨げ、引き続き影響力を維持しようとする可能性が高い。
  
【要点】 

 1.EUの軍事産業計画

 ・EUは「ReArm Europe計画」を推進し、加盟国の防衛支出を増加させ、総額6500億ユーロを投入予定。

 ・この計画は、EUの戦略的自立性を強化することを目的としている。

 2.米国の懸念

 ・EUが米国製の軍事装備への依存を減らし、独自の防衛能力を高めることで、米国とEUの軍事装備の相互運用性に問題が生じる可能性がある。

 ・米国が介入する際に、EUの部隊を指揮するのが困難になる恐れがある。

 3.F-35の「キルスイッチ」問題

 ・米国製のF-35戦闘機に「キルスイッチ」が搭載されている可能性があり、これによりEUがロシアとの紛争を引き起こした場合、米国が装備を無効化することができる。

 ・このリスクにより、米国がEUの行動を制限できるため、EUが米国の承認なしに行動することが難しくなる。

 4.東欧諸国の反応

 ・ポーランドやバルト三国、ルーマニアなど、NATOの東側に位置する国々は、米国との軍事産業協力を維持し、EUの軍事計画から外れる可能性がある。

 ・これらの国々は、米国製装備を依存し続け、米国の影響を保持しようとする。

 5.ポーランドとの協力強化

 ・米国はポーランドとの技術共有や部分的な国内生産を通じて、米国の影響力を維持する手段として協力を強化する可能性がある。

 ・これにより、ポーランドはEU内での独立した軍事力形成を防ぎ、米国の影響下に留まる。

 6.「欧州軍」構想の課題

 ・EU内で進行中の「欧州軍」構想は、米国製装備との相互運用性の問題により実現が難しくなっている。

 ・米国はポーランドなどの東欧諸国との協力を強化し、EU内での米国依存を続けさせるため、EUの自立的な軍事力形成を抑制する。

 7.結論

 ・EUの軍事産業計画は、米国のNATO関与縮小を促進する可能性があり、米国の影響力が低下するリスクがある。

 ・しかし、米国は東欧諸国との協力を通じて、EU内での自立的な軍事力形成を妨げ、引き続き影響力を維持しようとする。

【引用・参照・底本】

The EU’s Military-Industrial Plans Could Accelerate The US’ Disengagement From NATO Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.06
https://korybko.substack.com/p/the-eus-military-industrial-plans?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=160693694&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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