アルジェリアとロシア2025年02月23日 20:48

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【概要】
 
 アルジェリアは、ロシアがマリ・トゥアレグ紛争において軍事供給の優位性を利用し、自国に譲歩を迫る可能性を懸念しているとみられる。このため、アルジェリアはインドおよびアメリカとの軍事協力を強化し、ロシア依存のリスクを分散させる動きを見せている。

 ロシアは長年にわたりアルジェリアの主要な防衛パートナーであったが、アルジェリアは米国およびインドとの関係を拡大しつつある。2025年1月には、アルジェリアとアメリカが「初の試み」とされる軍事協定を締結し、米国防関係者によれば「武器の相互供給や共同配備の可能性」があると報じられている。また、アルジェリアの軍事高官は最近インドを訪問し、大量の新兵器調達を模索している。

 背景には、2024年1月にマリが2015年のアルジェ協定を破棄した後、トゥアレグ武装勢力との紛争が再燃したことがある。2024年9月の国連総会で、マリ政府はアルジェリアが「テロ組織を支援している」と非難した。この「テロ組織」とは、反政府勢力であるトゥアレグ武装集団を指す。2024年7月には、これらの勢力がロシアのワグネル部隊を襲撃し、ウクライナの支援を受けていたとされる。この襲撃はアルジェリア国境付近で発生しており、ウクライナの軍事情報総局(GUR)やウクライナによる訓練を受けたトゥアレグ兵士が、アルジェリアを経由してマリに入った可能性が指摘されている。

 ロシアは、マリを含む「サヘル同盟」諸国に軍事支援を提供しており、地域のテロ対策と安定化に貢献している。しかし、アルジェリアはマリ政府がトゥアレグ武装勢力を「テロリスト」とみなすことに同意しておらず、この点で両国の立場は対立している。さらに、アルジェリアはワグネルのマリ撤退を求める立場を取っている。

 2024年7月のワグネル襲撃後も、ロシアは外交的配慮から強い反応を示さなかったが、アルジェリアはその後、軍事調達の多角化を加速させた。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータによれば、2019~2023年のアルジェリアの軍事調達の48%をロシアが占めていたが、ロシアからの輸入は2014~2018年と2019~2023年で83%減少している。

 アルジェリアは、ロシアがマリ紛争を巡る交渉で圧力を強める可能性を考慮し、インドと米国を新たな軍事供給源として選択した。これは、アルジェリアが従来から維持してきた東西バランス政策の一環ともいえる。この動向は、ロシアとアルジェリアの対立がマリにおいて一層激化し、それに伴い紛争の長期化や拡大を招く可能性があることを示唆している。

【詳細】

 アルジェリアの軍事政策とロシアとの関係変化

 アルジェリアは長年にわたりロシアを主要な軍事供給国としてきたが、近年はその依存度を下げ、多角的な軍事パートナーシップを模索している。その背景には、マリ・トゥアレグ紛争に対するロシアの対応や、地域の戦略環境の変化が影響している。特に、アルジェリアはロシアがマリ政府を支援することにより、マリ政府の主張する「テロリスト」(トゥアレグ武装勢力)に対して圧力を強めることを懸念しており、これがアルジェリアの軍事方針の転換を促した。

 2025年1月には、アルジェリアとアメリカが「初の試み」とされる軍事協定を締結し、米国防関係者は「武器の相互供給や共同配備の可能性がある」と述べている。また、同時期にアルジェリア軍高官がインドを訪問し、大規模な兵器調達の交渉を行った。これらの動きは、アルジェリアがロシア依存を低減させ、東西の軍事バランスを維持するための措置であると考えられる。

マリ・トゥアレグ紛争とアルジェリアの立場
1. マリ政府とトゥアレグ武装勢力の対立
マリ北部に住むトゥアレグ人は、長年にわたってマリ政府と対立しており、2012年には独立を求めて反乱を起こした。この紛争は2015年の「アルジェ協定」によって一時的に沈静化したが、2024年1月にマリ政府がこの協定を破棄し、トゥアレグ勢力との戦闘が再燃した。マリ政府はこれらの勢力を「テロリスト」と位置づけ、ロシアの支援を受けて武力鎮圧を進めている。

 2. アルジェリアとトゥアレグ勢力の関係

 アルジェリアは地理的・歴史的にトゥアレグ人と深い関係を持っており、これまで仲介者としての役割を果たしてきた。しかし、マリ政府がアルジェリアを「テロ組織の支援国」と非難し始めたことで、両国関係が悪化した。2024年9月の国連総会で、マリ政府は公にアルジェリアを非難し、2025年初頭にも同様の声明を発表している。

 3. トゥアレグ勢力へのウクライナの支援

 2024年7月、トゥアレグ武装勢力はアルジェリア国境付近でロシアのワグネル部隊を攻撃し、多数の死傷者を出した。この攻撃にはウクライナの支援が関与していたとされ、ウクライナ軍情報部(GUR)またはウクライナの訓練を受けたトゥアレグ兵士が作戦に加わった可能性がある。このようなウクライナの支援は、アルジェリアを経由することで実現したとみられ、これがロシアの対アルジェリア不信を高める要因となった。

 ロシアとアルジェリアの対立の深まり

 1. ロシアのサヘル政策とアルジェリアの懸念
ロシアはマリ、ブルキナファソ、ニジェールなどの「サヘル同盟」諸国を軍事的に支援しており、ワグネルを通じてマリ政府軍の訓練や作戦支援を行っている。この支援により、マリ政府はトゥアレグ勢力を排除しようとしているが、アルジェリアはこれに強く反発している。特に、ロシアがマリ政府の立場を全面的に支持することで、アルジェリアに対して軍事・外交的圧力をかける可能性が懸念されている。

 2. ロシアの武器供給減少とアルジェリアの軍事調達の多角化

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータによれば、2019~2023年におけるアルジェリアの軍事調達の48%がロシア製であったが、ロシアからの輸入は2014~2018年と2019~2023年の間で83%減少した。この減少の背景には、ロシアのウクライナ戦争による生産・輸出能力の低下に加え、アルジェリアが意図的にロシアへの依存を減らしていることがある。

 3. インド・米国との新たな軍事協力

 アルジェリアはロシア依存を低減するため、インドとアメリカとの軍事協力を強化している。インドとの関係強化は、ロシアと一定の軍事技術共有があるインドからの調達によって、ロシア製装備との互換性を維持しながら軍事近代化を進める狙いがあると考えられる。一方、アメリカとの協定は、戦略的に西側諸国との関係を強化し、軍事的選択肢を増やす意図がある。

 今後の展開と影響

 1. アルジェリアとロシアの関係悪化

 アルジェリアがインド・米国との軍事協力を深めることで、ロシアとの関係はさらに悪化する可能性が高い。特に、ロシアがマリ政府の支援を強化し、トゥアレグ武装勢力への圧力を強める場合、アルジェリアがより積極的に対抗措置を取る可能性がある。

 2. マリ紛争の長期化と地域不安定化

 アルジェリアとロシアの対立が続くと、マリにおける紛争が長期化し、サヘル地域全体の不安定化が進む可能性がある。特に、ウクライナの関与が続く場合、ロシアがより直接的に介入する可能性があり、紛争の激化が懸念される。

 3. アルジェリアの外交戦略の変化

 アルジェリアはこれまで東西バランスを維持する外交を展開してきたが、今回の動きはより多角的な外交戦略への転換を示している。インド・アメリカとの関係強化は、ロシアへの依存を低減するだけでなく、アフリカにおける影響力を拡大する狙いもあると考えられる。

 結論

 アルジェリアとロシアの関係は、マリ・トゥアレグ紛争を巡る対立によって大きく揺らいでいる。ロシアがマリ政府を支援し、トゥアレグ勢力への圧力を強める一方で、アルジェリアはインド・アメリカとの軍事協力を拡大し、ロシア依存の低減を進めている。この動向は、マリ紛争の長期化や地域の軍事バランスの変化を引き起こし、サヘル地域全体の地政学的な構造を変える可能性がある。
 
【要点】
 
 アルジェリアとロシアの関係悪化:要点まとめ

 1. 背景

 ・アルジェリアは長年ロシアを主要な軍事供給国としてきたが、近年その依存度を下げている。
 ・2024年、マリ政府がトゥアレグ勢力との和平協定を破棄し、ロシアの支援を受けて武力鎮圧を開始。
 ・アルジェリアはトゥアレグ人と関係が深く、ロシアのマリ支援に反発。

 2. マリ・トゥアレグ紛争とアルジェリアの立場

 ・マリ政府の動き:トゥアレグ武装勢力を「テロリスト」と認定し、ロシアの支援を受けて攻撃を強化。
 ・アルジェリアの懸念:トゥアレグ勢力の抑圧がアルジェリア国境にも影響を及ぼす可能性。
 ・ウクライナの関与:2024年7月、ウクライナの支援を受けたトゥアレグ勢力がロシアのワグネル部隊を攻撃。
 ・マリ政府の反発:2024年9月、国連でアルジェリアを「テロ支援国家」と非難。

 3. ロシアとの関係悪化の要因

 ・ロシアのサヘル政策:マリ、ブルキナファソ、ニジェールへの軍事支援を強化し、アルジェリアと対立。
 ・武器供給の減少:2014~2018年と2019~2023年の間で、ロシアからの武器輸入が83%減少。
 ・アルジェリアの多角化戦略:ロシア依存を減らし、インド・アメリカとの軍事協力を強化。

 4. アルジェリアの新たな軍事協力

 ・アメリカとの協定(2025年1月)

  ⇨ 軍事協力協定を締結。
  ⇨ 武器供給や共同配備の可能性。

 ・インドとの関係強化

  ⇨ 軍事技術の調達を進め、ロシア製装備との互換性を維持。

 5. 今後の展開と影響

 ・アルジェリアとロシアの関係悪化が進行。
 ・マリ紛争の長期化と地域不安定化の可能性。
 ・アルジェリアの外交戦略がより多角化(インド・米国との関係強化)。
 ・ロシアがサヘル地域への軍事関与を強めることで、さらなる対立の可能性。

【引用・参照・底本】

Russia’s Support Of Mali Is Driving Algeria To Diversify Its Military Partnerships Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.23
https://korybko.substack.com/p/russias-support-of-mali-is-driving?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157727884&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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