モンロー主義 結 論2022年09月15日 16:53

外国人物図画 英吉利
 『モンロー主義の眞相』小山精一郎 著

 (55-56頁)
 二三 結 論               2022.09.15

 米國がモンロー主義として其の攻策を宣明せる以来、今日既に一世紀を經過し、世界列國の關係竝に亞米利加諸國の狀勢は著しき變遷を經て居る。現代に於て米國がモンロー主義を振り翳す要諦は、僅かに亞米利加大陸に對する歐洲諸國の干渉を排除して、自ら南北亞米利加諸國に對する覇權を掌握し、指導權を保維せんとするに外ならず。斯くて米國は亞米利加大睦の事項を自國に好都合なる狀態に指揮し、政治上、商業上の利益を収攬せんとするのである。然れども國際交通の頻繁を加へ、國際關係の緊密を顯はすに從ひ、米國のみ獨り亞米利加大陸に専横を逞ふする能はざるのみならず、亞米利加諸國の國勢向上し、強大を加ふるに從ひ、米國の意思指導に服從せざるに至るべきである。斯くてモンロー主義は其の權勢を失ひ、何等の價値を齎すに至らざるは想察するに難くない。併し現狀の如く米國か世界の最大強國として權威を有するに至り、政策としてのモンロー主義は相當に採用せらるべく、這回の巴里講話會議に於ても、當時のウイルソン大統領は國内政治家
の歡心を買はんが爲め、國際聯盟規約中にモンロー主義の原則を挿入せんことを希望し、列國亦た米國に憚りて之を認容し、同規約第二十一條に於て「モンロー主義の如き一定の地域に關する了解にして、平和の確保を目的とするものゝ效力に何等の影響無きものとす」と規定せるは列國が恰かも本主義を以て國際法の一部と見做すが如き結果を生じ、米國が亞米利加大陸のみならず世界に於ても權勢を有し、モンロー主義を強制し得ることを裏書するものである。國家強弱の關係は政策が法理を凌駕することを實地に證明したるものである。(終)

引用・参照・底本

『モンロー主義の眞相』在紐育 小山精一郎 著 大正十一年八月十四日發行 世界思潮研究會

(国立国会図書館デジタルコレクション)