ロシア:非武装化地域の設定と平和維持部隊の導入2025年01月18日 18:11

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【概要】

 アンドリュー・コリブコ氏が2025年1月17日に提案した「非西側の平和維持部隊が管理する非武装化された『ドニエプル川以東』地域の利点」について説明する。

 停戦後の平和維持のために最も現実的な手段として、この提案を評価している。

 ロシアの要求内容に関する報道

 ブルームバーグは、クレムリンの考えに詳しいとされる匿名の情報源を引用し、ロシアがウクライナに以下を要求する可能性があると報じた。

 ・憲法上の中立の回復
 ・NATOとの軍事的な結びつきの大幅な削減
 ・軍隊の規模の制限
 ・前線の凍結(ただし一部の領土交換を含む)

 また、個別のNATO加盟国がウクライナに武器を供与する場合でも、これらの武器がロシアへの攻撃や領土奪還に使用されないよう求めているとされた。これらの要求は、ロシアが実際に和平交渉で提起する可能性があるが、ブルームバーグの情報が不正確である可能性も否定できない。

 提案の詳細

 コリブコ氏は、ウクライナの軍事力を制限するための効果的な監視および執行メカニズムが不可欠であると主張する。書面や口頭の保証のみでは信頼性が乏しく、将来的にウクライナが再武装し、ロシアに攻撃を仕掛ける可能性が排除できないためである。この問題を解決するためには、西側諸国を除外し、非西側諸国のみが監視および平和維持活動に関与するべきであると提案している。

 具体的には、以下のような措置が含まれる。

 1.非武装地帯(DMZ)の設定

 ドニエプル川以東および接触線(LOC)北側の地域を非武装化し、この地域を非西側の平和維持部隊が管理する。これにより、ウクライナが一方的に停戦を破る可能性を抑制する。

 2.領土交換の合法化

 ロシアがハリコフ州の一部を返還し、ウクライナがクルスク州の一部を返還する形で、両国が領土を交換することを提案している。これにより、両国の憲法上の領土割譲禁止条項に抵触することなく、前線を固定できるとされる。

 3.監視と執行の強化

 非西側の平和維持部隊に以下の権限を与えることを提案している。

 ・ドニエプル川を越える列車や車両の検査
 ・違反者の拘束および違法な武器の押収
 ・必要に応じて武力を行使する権限

 また、違反が発見された場合には、事前に合意されたプロトコルに基づいて解決を図り、それが不可能な場合はドローンやミサイルによる精密攻撃を行う選択肢が考慮される。

 提案の目的

 この提案の目標は、ドニエプル川以東を緩衝地帯とすることである。この地域を軍事活動のない「無人地帯」として設定し、住民が移住を希望する場合にはロシアまたはウクライナの他地域への移動を支援する。これにより、停戦後の平和が維持されるとされる。

 メリット

 ・非西側諸国が関与することで、西側の影響を排除し、公平な監視体制を構築できる。
 ・双方の軍事的行動を抑制することで、新たな衝突の発生を防ぐ。
 ・ロシアとウクライナがそれぞれの領土要求を法的に維持しながら、停戦を実現する可能性が高まる。

 結論

 本提案は、ロシアとウクライナの停戦後の平和維持のために現実的かつ実行可能な手段であるとされる。ロシアがブルームバーグで報じられた以上の要求を交渉で掲げ、この提案を実現することが望ましいと考えられる。これにより、双方にとって持続可能な平和の基盤が構築されるであろう。

【詳細】

 Andrew Korybko氏の提案に基づいて、より詳しく忠実に説明した内容である。

 背景と提案の目的

 この提案は、ロシアとウクライナ間での停戦後、長期的な平和を維持する現実的な手段として提示されている。特に、ドニエプル川以東の地域(便宜上「トランス・ドニエプル地域」と呼ばれる)を非武装化し、西側諸国に属さない平和維持部隊による管理を行うことを目的としている。提案は、両国間で合意される休戦ライン(LOC)と河川を基盤に、国際的な監視と抑止力を確保する仕組みを整えることを目指している。

 ロシアの要求と提案の背景

 Bloombergによれば、ロシアはウクライナに以下を要求する可能性があるとしている。

 1.憲法上の中立性の回復。
 2.NATOとの軍事関係の大幅な縮小。
 3.軍備の制限。
 4.前線の凍結(ただし、領土交換を含む場合あり)。

 これらに加え、個別のNATO加盟国がウクライナに武器を供与することは容認されるものの、それらがロシアやその支配地域に対して使用されないという条件が求められる。しかし、この要求だけでは長期的な平和の維持が不確実であるとして、提案者は追加的な具体策を提案している。

 提案の詳細

 1. 非武装化と平和維持部隊の導入

 トランス・ドニエプル地域を非武装化し、非西側諸国(例: インドなど)の平和維持部隊を配備する。この部隊は、以下の役割を担う。

 ・LOCおよびロシア-ウクライナ国境沿いの監視。
 ・ドニエプル川を通過する車両や貨物の検査。
 ・違反行為に対する拘束、物資押収、必要に応じた武力行使の権限。

 2. キエフ周辺の特別措置

 キエフはドニエプル川の両岸に位置するため、通常の非武装化措置を適用することが難しい。このため、キエフの北東部、東部、南東部をフェンスで囲い、その外縁で検査を実施する特別な管理体制が提案されている。

 3. 領土交換

 ロシアがハリコフ州の占領地域を返還し、ウクライナがクルスク州の占領地域を返還するなどの形で領土交換を行う。これにより、両国は憲法上の領土譲渡禁止条項を遵守しながらも、現状に適応した形で国境を再設定できる。

 4. 違反行為への対応

 ウクライナが非武装化地域で重火器の再配備や違法行為を行うリスクを考慮し、以下の対応プロセスを整備する。

 1.非西側平和維持部隊による調査と報告。
 2.証拠を基にした正式な抗議。
 3.必要に応じた限定的な無人機攻撃やミサイル攻撃。

 地上での軍事行動は禁止され、違反した場合には経済的・金融的制裁などが自動的に発動される仕組みを導入する。

 利点と現実性

 ・安全保障の強化: 非西側平和維持部隊の配備により、両国の停戦違反を抑止する。特に、ウクライナが西側の支援を受けて再軍備する可能性を最小化できる。
 ・国際的な信頼性: 非西側諸国が関与することで、西側に対するロシアの警戒感を緩和しつつ、公正な監視体制を確保する。
 ・長期的な安定: ドニエプル川を天然の障壁として活用し、東西の分断による衝突リスクを低減する。

 結論

 この提案は、ロシアにとって最大限の安全保障を確保しつつ、ウクライナが領土主張を維持する現実的な妥協点である。仮にロシアがBloombergの報じる要求に留まる場合、将来的な紛争の再発を避けられない可能性があるため、このような包括的な提案を求めることが重要であると考えられる。 

【要点】
 
 背景と目的

 ・ドニエプル川以東(トランス・ドニエプル地域)を非武装化し、平和維持部隊で管理することで長期的な平和を実現。
 ・ロシアとウクライナの停戦合意後の紛争再発を防止する現実的な枠組みを構築。

 ロシアの要求(Bloomberg報道)

 1.ウクライナ憲法上の中立性の回復。
 2.NATOとの軍事関係の縮小。
 3.軍備制限の導入。
 4.前線の凍結(必要に応じて領土交換を含む)。
 5.西側の武器供与容認(ただしロシアや占領地域への使用禁止)。

 提案の詳細

 1.非武装化地域の設定と平和維持部隊の導入

 ・トランス・ドニエプル地域を非武装化。
 ・非西側諸国(例: インド)の平和維持部隊がLOCや国境を監視。
 ・車両や貨物の検査、違反行為への対応権限を付与。

 2.キエフ周辺の特別管理

 ・キエフ東部を特別管理区域として設定し、フェンスで囲む。
 ・物資や人の検査を行い、非武装化地域の原則を間接的に適用。

 3.領土交換

 ・ロシアがハリコフ州の占領地域を返還。
 ・ウクライナがクルスク州の占領地域を返還する形で領土を調整。

 4.違反行為への対応

 ・非武装化地域での違反行為は非西側平和維持部隊が調査・報告。
 ・必要に応じて無人機攻撃や経済制裁を発動。
 ・地上での軍事行動は禁止。

 提案の利点

 ・安全保障強化: 非西側平和維持部隊の導入により停戦違反を抑止。
 ・国際的信頼性: 非西側諸国の関与で公平性を確保。
 ・長期安定: ドニエプル川を自然の障壁として活用し、東西の衝突を回避。

 結論

 ・本提案は、ロシアの安全保障を確保しつつ、ウクライナの主権を尊重する妥協案である。
 ・ロシアの要求のみでは将来的な紛争再発を防げないため、包括的な停戦監視体制の構築が必要。

【引用・参照・底本】

The Merits Of A Demilitarized “Trans-Dnieper” Region Controlled By Non-Western Peacekeepers Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.17
https://korybko.substack.com/p/the-merits-of-a-demilitarized-trans?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=154996040&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

英国とウクライナの100年間パートナーシップ協定2025年01月18日 18:41

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【概要】

 イギリスとウクライナが締結した100年間のパートナーシップ協定は、その内容や意図について注目されているが、実際には表面的なPR活動であるとの指摘がある。この協定は2024年1月12日に発表された「安全保障保証」に基づく内容を再確認したものであり、特に新たな要素はほとんど含まれていない。ただし、「軍事基地の設置オプションの検討」に関する言及が加えられた点が特徴である。

 RTが指摘したように、この「軍事基地」の可能性についてイギリスが明確にしていたものの、この計画が現実のものとなる可能性は極めて低い。さらに、この協定が100年間の長期計画を謳っているものの、実際に実現するかどうかは不透明であり、多くの点で象徴的な性格を持つものである。

 この協定が発表されたタイミングも注目されている。ドナルド・トランプがアメリカ大統領に復帰したことと重なり、西側およびウクライナの反ロシア勢力の士気を高める狙いがあったと考えられる。トランプ政権はウクライナからの部分的な関与の縮小を示唆しており、その一環として国務長官候補のマルコ・ルビオが「この戦争は終結させるべきだ」と発言していることがその方向性を裏付けている。

 イギリスの安全保障保証の一部は実行に移される可能性が高い。例えば、武器の共同生産の拡大が挙げられる。一方で、ウクライナにおけるイギリスの軍事基地設置については、トランプ政権がロシアとの紛争に巻き込まれる可能性を懸念して反対することが予想される。そのため、イギリスがアメリカの支持なしにこの計画を進める可能性は低い。

 さらに、アメリカがトランプ政権下でウクライナからの部分的な撤退を進める場合、この協定の実現可能性はさらに低下する。アメリカの意向がウクライナにおける軍事戦略に大きな影響を及ぼすため、イギリスが独自に行動する余地は限られている。

 このように、イギリスの100年協定は主に象徴的な性質を持つものであり、その実行可能性はアメリカの政策次第であると言える。今後、アメリカがロシアとの妥協を進めることによって、ウクライナの軍事戦略におけるリスクを低減する可能性があるが、イギリスの計画が実現するかどうかは依然として不確定である。

【詳細】

 イギリスとウクライナの100年間パートナーシップ協定は、一見すると長期的な戦略を示すもののように見えるが、その実態は限られた新規性しか持たない文書である。この協定は、2024年1月12日にイギリスが発表した「安全保障保証」の内容を再確認したものであり、すでに既存の計画や意図を再提示しているに過ぎない。その中で唯一目立つ新たな要素は、「軍事基地の設置オプションを検討する」との言及である。しかし、この提案も具体的な行動計画というよりは象徴的な表現に留まっている。

 協定の背景と意図

 イギリスはウクライナで長期的かつ戦略的な影響力を確立したいと考えており、この協定はその意図を示すものである。しかし、実際にはアメリカがウクライナにおける軍事的・政治的動向を強く主導しているため、イギリスが単独で計画を実行する能力は制限されている。例えば、アメリカのNATO条約第5条(集団的自衛権)に基づく防衛支援がなければ、イギリスがウクライナでの軍事基地設置を進めるのは現実的ではない。この条約は、NATO加盟国が攻撃を受けた場合に全加盟国が連帯して防衛に当たるというものであるが、トランプ政権はウクライナでの関与を縮小する意向を示しているため、イギリスが独自にリスクを負う可能性は低い。

 軍事基地設置の可能性と制約

 「軍事基地の設置オプションの検討」という記述は、現時点では具体性に欠けるだけでなく、実現の可能性も極めて低い。イギリスが軍事基地を設置するには、アメリカの政治的支持と軍事的支援が必要不可欠である。もしイギリスがアメリカの支援なしに軍事基地を設置した場合、ロシアとの対立が激化するリスクが高まり、その結果、核戦争を含む重大な紛争に発展する可能性がある。アメリカがこのようなリスクを許容するとは考えにくいため、この提案は象徴的な政治的メッセージとしての意味合いが強い。

 アメリカの影響とトランプ政権の政策

 トランプ政権はウクライナ問題への関与を縮小し、アジア地域への戦略的軸足を移す「アジア回帰」を掲げている。この背景には、ウクライナ戦争がアメリカの国益に対して過剰な負担を強いるとの認識がある。トランプ政権下でのアメリカの方向性は、ウクライナにおける軍事的支援の縮小やロシアとの交渉を重視する姿勢を反映しており、ウクライナ戦争の終結に向けた妥協を目指すものとされている。このようなアメリカの政策は、イギリスの100年協定の実行可能性を直接的に制約する要因となっている。

 PRとしての側面

 この協定が100年という長期間を設定している点は、その現実的な実行可能性を考えると、政治的・象徴的な意味が強い。発表のタイミングがトランプ政権の始動と一致している点からも、西側諸国やウクライナ国内の反ロシア勢力の士気を高める意図があると考えられる。しかし、その内容が既存の「安全保障保証」の再確認に留まっていることから、本質的には目新しさに欠ける。

 今後の展望

 イギリスがウクライナで実際に軍事的プレゼンスを拡大するには、アメリカの支持と協力が不可欠である。しかし、トランプ政権がロシアとの妥協や部分的な撤退を優先する限り、イギリスが独自に行動する余地は限られている。したがって、この協定が実際の政策として具体化する可能性は低く、象徴的な政治的メッセージとしての役割を果たすにとどまると考えられる。

 要するに、この協定はイギリスがウクライナにおいて戦略的影響力を維持する意図を示しているものの、その実現可能性はアメリカの政策次第であり、多くの点で象徴的な側面が強い。 

【要点】
 
 協定の内容と新規性

 ・100年間のパートナーシップ協定は、2024年の「安全保障保証」を再確認したものであり、新規性に乏しい。
 ・唯一の新たな要素は「軍事基地設置オプションの検討」だが、具体的な計画や実現性はない。

 イギリスの意図

 ・ウクライナで長期的かつ戦略的な影響力を確立したい意向を示している。
 ・アメリカの支援がなければイギリス単独での実行は困難。

 軍事基地設置の制約

 ・NATO第5条(集団的自衛権)が発動されるにはアメリカの同意が必要。
 ・アメリカがウクライナでの関与を縮小する方針を示しているため、イギリスの軍事基地設置は現実的でない。

 アメリカの影響力

 ・トランプ政権は「アジア回帰」を優先し、ウクライナ問題から部分的に撤退する意向を示している。
 ・ロシアとの妥協を重視し、ウクライナでの軍事的リスクを最小限に抑えようとしている。

 PRとしての側面

 ・協定の発表は政治的・象徴的な意味が強く、反ロシア勢力の士気を高める意図がある。
 ・実際の政策として具体化する可能性は低い。

 今後の展望

 ・イギリスがウクライナで独自の軍事行動を行うには、アメリカの支持と協力が不可欠。
 ・アメリカの政策次第で、イギリスの計画は制約を受け続ける。
 ・協定は象徴的な政治的メッセージとしての役割にとどまる可能性が高い。

【引用・参照・底本】

The UK’s 100-Year Partnership Pact With Ukraine Is Just A Public Relations Stunt Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.18
https://korybko.substack.com/p/the-uks-100-year-partnership-pact?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155069463&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

ウクライナ:ロシアのインフラ施設に対する無人機攻撃2025年01月18日 19:13

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【概要】

 ウクライナがトルクストリーム(ロシアのインフラ施設)に対する無人機攻撃を試みたという事件について、記事では以下の五つの視点から分析している。

 1.ウクライナは過去にもトルクストリームを攻撃しようとした

 ウクライナは少なくとも2022年末に三度、このパイプラインを破壊しようと試みている。そのうち二件の失敗した破壊工作が詳細に分析されているが、今回初めて無人機が使用された。これは、トルクストリームがウクライナにとって依然として優先的な攻撃対象であることを示しているが、それにもかかわらず、トルコとの関係が悪化していないことは注目に値する。両国は軍事協力を続けており、無人機工場の共同設立さえ含まれる。このため、今回の攻撃が両国関係に大きな影響を与えるとは考えにくい。

 2.トルコもNATOもこの挑発に関心を示していない

 トルコの立場は理解しにくいが、ロシアの主張を信用していないか、挑発を受けてもウクライナへの武器供与を継続する方が利益になると判断している可能性がある。一方でNATOは、加盟国であるハンガリーがこの攻撃を主権侵害と非難したものの、全体としては無関心であり、反ロシア的な姿勢を維持している。

 3.ウクライナの目的はロシアとEU間のパイプライン分断を完成させること

 ウクライナは、稼働中の最後のパイプラインを破壊することで、戦後にロシアとEUが和解する可能性を低下させるとともに、ロシアの収入源を断つ意図があったとされる。この試みは、2022年9月に発生したノルドストリームへのテロ攻撃を補完する形で、欧州の戦後の地政学的構造に影響を与えようとする動きと見なせる。

 4.この攻撃はアメリカ政府の承認があったのか

 攻撃がウクライナ内の独自行動であった可能性と、アメリカのバイデン政権による承認があった可能性の二つのシナリオが考えられる。ラブロフ外相はすでにアメリカを非難しており、バイデン政権がどの程度これに関与していたかは、トランプが来週就任する際の政策に影響を与える重要な要因となる。

 5.トランプが就任後にどのように対応するか

 トランプがウクライナに対しトルクストリーム攻撃を容認しない旨を明確に示し、関連する深層国家の要素を排除するよう指示すれば、最善の結果が得られる可能性がある。一方で、トランプが欧州に対するエネルギー支配やトルコへの影響力強化を目的として、パイプライン破壊を支持する可能性も否定できない。その場合、さらなる攻撃が予想される。

 トルクストリームは、ウクライナ問題を巡るロシアとアメリカ間の大規模なエネルギー外交の一部として重要な役割を果たす可能性がある。このような枠組みを活用することは、トランプの目指す迅速な紛争終結に資するものであるが、それを逸脱する場合には、事態が危険なエスカレーションを招く可能性がある。

【詳細】

 ウクライナによるトルクストリームのガス圧縮施設への無人機攻撃未遂について、記事では詳細な分析を試みている。本件は単なる一地域での攻撃ではなく、ウクライナ、ロシア、トルコ、アメリカ、NATOなど複数の国や組織に関わる広範な地政学的影響を含んでいる。この事件の背景、関係国の対応、そしてそれが示唆するものについて、以下の観点でさらに詳しく説明する。

 1. ウクライナがトルクストリームを攻撃する動機

 ウクライナは2022年にもトルクストリームを攻撃しようとした記録があり、少なくとも3回の破壊工作が行われている。その背景には、トルクストリームがロシアからトルコ、さらに欧州へとガスを供給する戦略的なパイプラインであることが挙げられる。このパイプラインは、ウクライナを経由しないため、ウクライナがロシアとの対立を利用して経済的利益を得る従来の構造を迂回するものである。このため、トルクストリームの破壊は、ウクライナにとって経済的かつ地政学的な重要性を持つと考えられる。

 また、今回初めて無人機が使用されたことは、ウクライナの軍事能力や戦術が進化していることを示しており、より遠距離から正確な攻撃を可能にする能力をアピールする狙いもあった可能性がある。

 2. トルコおよびNATOの対応

 トルコの立場

 トルコ(トルコ共和国)はトルクストリームの重要な関係国であり、ロシアからのエネルギー供給を受ける一方で、ウクライナとも軍事協力を続けている。この二国間関係は複雑であり、トルコがロシアの「無人機攻撃未遂」という主張をどの程度信用しているか、あるいは信用していないかが不明である。また、トルコはウクライナへの軍事的支援が継続的に利益をもたらすと判断している可能性もあり、今回の事件が両国間の軍事協力を直ちに終わらせる理由にはならないと考えられる。

 NATOの対応

 NATOとしては、加盟国であるハンガリーが今回の攻撃を「主権侵害」として非難しているものの、全体としてはウクライナを擁護する立場を維持している。NATOは基本的に反ロシア的な政策を取っており、ロシアのエネルギー供給網が破壊されることについて大きな関心を示さない傾向にある。これは、欧州全体でロシアへの依存を減らすべきだとする戦略的な意図が背景にあると考えられる。

 3. 戦略的影響:ロシアとEU間の関係分断

 トルクストリームは、ロシアと欧州を結ぶ最後の稼働パイプラインであるため、その破壊は両者の経済的・外交的な関係をさらに悪化させる可能性がある。この破壊を試みることでウクライナは、戦後の欧州とロシア間の和解の可能性を低下させるとともに、ロシアのエネルギー輸出による収益をさらに制限しようとしている。

 これは、2022年9月に発生したノルドストリーム爆破事件と類似点があり、欧州のエネルギー安全保障に重大な影響を与えるものとして位置付けられる。ノルドストリーム事件の後、ロシアと欧州間の信頼関係が著しく損なわれたが、トルクストリームへの攻撃も同様の効果を狙ったものと考えられる。

 4. アメリカの関与の可能性

 ロシア外相セルゲイ・ラブロフは、今回の攻撃未遂についてアメリカの関与を非難している。具体的には、バイデン政権がウクライナに対してこの攻撃を承認した可能性が示唆されている。しかし、この行為がアメリカ政府全体の意図なのか、またはウクライナ国内の一部勢力やアメリカの「深層国家」による独自行動なのかは明確ではない。

 過去には、バイデン政権がウクライナによるロシアの早期警戒システム攻撃を制御した例があるため、今回もアメリカ政府が介入する余地があったかもしれない。この点については、トランプ政権への移行後に政策がどのように変化するかが重要である。

 5. トランプ政権の対応と将来の展望

 ドナルド・トランプが就任後にどのような対応を取るかは、今回の事件の今後の展開を大きく左右する可能性がある。トランプがウクライナの挑発行為を明確に非難し、トルクストリームの破壊工作を支持しない姿勢を示した場合、ロシアとアメリカの間で新たなエネルギー外交の枠組みが形成される可能性がある。

 一方で、トランプがアメリカのエネルギー支配を強化するために今回のような行為を容認した場合、さらなる攻撃が予想され、事態がより複雑化する恐れがある。

 総括

 トルクストリームへの攻撃未遂事件は、ウクライナ、ロシア、トルコ、アメリカ、NATOといった多国間の利害が交錯する複雑な問題である。この事件を通じて明らかになったのは、エネルギーインフラが現代の地政学的対立の中心的な要素となっていることである。特に、アメリカの政権交代がこの問題にどのような影響を与えるかは注目すべき点である。トランプ政権がロシアとの交渉を通じて紛争を早期に解決する道を模索するのか、それとも対立をさらに激化させる道を選ぶのかが今後の焦点となる。

【要点】
 
 ウクライナの攻撃動機

 ・トルクストリームはロシアからトルコ、欧州へガスを供給する戦略的パイプラインであり、ウクライナを経由しないため、経済的利益を損なう要因とされる。
 ・無人機を用いた攻撃はウクライナの軍事能力向上を示し、遠距離からの正確な攻撃が可能であることをアピールする狙いがある。

 トルコの対応と立場

 ・トルコはトルクストリームの主要受益国であり、ロシアとウクライナ双方と関係を維持している。
 ・トルコがロシアの主張をどの程度受け入れるかは不明だが、軍事協力が直ちに停止する可能性は低い。

 NATOの姿勢

 ・ハンガリーは攻撃を「主権侵害」と非難したが、NATO全体としてはウクライナを擁護する立場を維持。
 ・ロシアへのエネルギー依存を減らすという欧州の戦略に合致するため、重大な反応を示さない傾向にある。

 ロシアと欧州への影響

 ・トルクストリームはロシアと欧州をつなぐ最後の主要パイプラインであり、その破壊は両者の経済的・外交的関係をさらに悪化させる。
 ・ノルドストリーム爆破事件と同様に、エネルギー安全保障に悪影響を与える可能性がある。

 アメリカの関与の可能性

 ・ロシアは、今回の攻撃未遂にアメリカが関与していると非難。
 ・バイデン政権がウクライナの行動をどの程度承認または管理しているかは明確でない。

 トランプ政権の対応と展望

 ・トランプがロシアとの対話を重視し、ウクライナの挑発を非難する可能性がある。
 ・一方で、アメリカのエネルギー支配を強化する方針を取る場合、さらなる攻撃や対立の激化が懸念される。

 戦略的意義

 ・トルクストリームへの攻撃はエネルギーインフラが地政学的対立の中心であることを再確認させた。
 ・アメリカの政権交代やNATOの対応が、事態の進展に大きな影響を与える可能性がある。

【引用・参照・底本】

Analyzing Ukraine’s Attempted Drone Strike On TurkStream’s Russian Infrastructure Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.15
https://korybko.substack.com/p/analyzing-ukraines-attempted-drone?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=154876828&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

セルビアの西側化2025年01月18日 19:20

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【概要】

 セルビアの参謀総長ミラン・モイシロヴィッチ将軍は、昨夏の数十億ドル規模のラファール戦闘機の取引やロシアに対する西側制裁がセルビアの軍事戦略に与える影響について地元メディアのインタビューで説明した。同将軍によれば、ラファール戦闘機の購入は「主に戦術的研究に基づいて」おり、フランスとの「複雑な準備」を伴うものとして、この動きは事実上の親西側軍事転換を意味していると述べた。

 さらに、ロシアとの軍事技術協力に対する西側制裁の影響について質問された際、「いくつかの契約を終了し、いくつかを延期した」と明らかにし、「ロシアからの兵器供給は現時点でほぼ不可能である」と説明した。この発言は、セルビアの親西側軍事転換が制裁の圧力下で行われていることを示しており、必ずしも反ロシア的な理由によるものではない。

 確かに、セルビアは昨夏の取引以前からすでに西側に接近する動きを見せていた。例えば、国連総会(UNGA)でウクライナに関するロシアに反対する投票を行い、間接的にキーウを武装支援していると報じられている。しかし、モイシロヴィッチ将軍の発言によって、軍事契約の終了や延期が明らかになったことで、これらの動きはさらに明確な方向性を示すものとなった。

 セルビアのバランス外交の背景については、以下の過去の事例が参考になる。

 ・2023年6月7日:「セルビアの反政府抗議者は、カラー革命派と愛国派が混在している」
 ・2023年12月25日:「西側はブチッチの数多くの譲歩に満足せず、セルビアを完全に掌握しようとしている」
 ・2024年8月11日:「セルビア政府は、最新のカラー革命の陰謀に無意識のうちに責任がある」
 ・2024年9月2日:「セルビアのフランス戦闘機契約は、ブチッチの以前のカラー革命主張を失墜させた」
 ・2024年11月3日:「ハンガリーはロシアに対抗するための武器や弾薬の使用を許可しないが、セルビアは許可している」

 これらの状況から、西側諸国はブチッチ大統領の親西側姿勢や過去3年間の対ロシア制裁を利用してセルビアを完全に支配しようとしていることがわかる。具体的には、上からは制裁や政治的圧力を、下からは草の根抗議活動のカラー革命的利用を通じて圧力をかけている。これに関連し、「スレブレニツァ歴史プロジェクト」の代表であるステファン・カルガノヴィッチ氏は、最新の戦術について詳細な報告を発表している。

 セルビアはロシアから距離を置かざるを得ない状況にある。特に軍事技術分野では、西側諸国の影響力が増し、ロシアの影響力が減少している。フランス製の兵器をさらに購入し、フランス軍との訓練を増やす一方で、ロシア製兵器の購入やロシア軍との訓練が減少することは、この傾向を加速させる可能性が高い。

 制裁がこれほど成功した以上、それを解除する可能性は低く、特にロシアとセルビアの軍事協力を破綻させた制裁が解除される見込みはさらに低い。こうした背景の中で、セルビアの親西側軍事転換は、ロシアとの数十年にわたる戦略的関係を数年のうちに解消する可能性がある。これにより、セルビアは現在以上に西側の影響下に置かれる可能性があり、最終的にはロシアに対する制裁をセルビア自身が課すという事態に発展する可能性もある。ブチッチ大統領はこれまでそのような動きを拒否してきたが、ロシアが主要株主であるセルビアの石油企業をめぐる最新のアメリカの制裁圧力がセルビアの決定に影響を及ぼす可能性がある。

【詳細】

 セルビアのミラン・モイシロヴィッチ参謀総長が行った発言は、セルビアが西側諸国との軍事協力を深める方向へ進んでいることを示している。これは、昨夏のフランスとの数十億ドル規模のラファール戦闘機契約や、ロシアに対する制裁が背景にあるものである。この契約は単なる軍事装備の購入という以上に、セルビアが西側諸国と軍事的に連携を強化する契機となっている。その理由としてモイシロヴィッチ将軍は、戦術的な研究に基づき「安全保障のニーズに最適な選択肢だ」と説明している。つまり、セルビアはこの契約を結ぶことで、複数国との軍事的連携を強化し、ロシアとの伝統的な軍事協力を縮小し、西側諸国との軍事的依存を高めていると見られる。

 一方で、西側制裁の影響も大きい。モイシロヴィッチ将軍は、西側制裁によりロシアからの兵器供給が事実上不可能であると説明し、いくつかの契約を終了し、いくつかを延期せざるを得なかったと述べた。この発言は、セルビアがロシアとの軍事技術協力を断ち、西側諸国に軍事的依存を深める状況にあることを示している。このような状況下では、セルビアの選択肢が限られており、制裁によってロシアとセルビアの軍事協力が事実上崩壊しているため、セルビアは西側に転向するしかないという状況が浮き彫りになっている。

 さらに、セルビアのこれまでの動きも西側への傾斜を示している。セルビアはすでに過去数年間において、国連総会でウクライナ問題に関してロシアに反対する投票を行うなど、西側諸国との距離を縮めている。これに加え、間接的にキーウに武器を供与するなど、西側諸国との軍事協力を深める動きも見られた。モイシロヴィッチ将軍の発言がその事実をさらに補強し、セルビアの軍事戦略がロシアから西側諸国へと大きく転換しつつあることを示している。

 こうした背景の中で、西側諸国はセルビアに対し、さらなる軍事的依存を強制しようと圧力をかけている。アメリカやEUはセルビアを制裁圧力によって西側陣営へと導き、セルビアにロシアとの軍事協力を断念させようとする動きを強めている。これに対してセルビアは、自国の安全保障を考慮し、東西の間でのバランスを保つために慎重に動いていたが、制裁の影響が強まる中でその選択肢は限られつつある。

 セルビアの軍事転換が今後、数年でロシアとの長年にわたる戦略的関係を崩壊させる可能性があり、セルビアが西側諸国の影響下にさらに引き寄せられる形となることで、西側の影響力がセルビアの軍事機構においても一極的に強まることが予想される。この動きが続けば、セルビアはその外交政策を徹底的に西側に寄せ、西側諸国の一部になるという選択を迫られるかもしれない。

 このプロセスは、セルビアの大統領アレクサンダル・ブチッチにとっても非常に苦しいものとなっている。彼はこれまでロシアとの強い関係を維持し、制裁に対しても中立を保ってきたが、アメリカやEUからの圧力が強まる中で、西側との軍事同盟を深めざるを得ない状況に追い込まれている。セルビアのロシアの石油企業に対する制裁も視野に入っており、これによりセルビアはさらに厳しい選択を迫られることになるかもしれない。

【要点】
 
 ・セルビアのミラン・モイシロヴィッチ参謀総長は、西側諸国との軍事協力を強化する動きについて言及しており、これは昨夏のフランスとのラファール戦闘機契約やロシア制裁が背景にある。
 ・モイシロヴィッチ将軍は、フランスとの契約が「安全保障のニーズに最適な選択肢」として、単なる装備購入を超えて、西側諸国との軍事的連携強化を意味していると述べている。
 ・西側制裁の影響により、ロシアからの兵器供給が事実上不可能となり、セルビアは契約の終了や延期を余儀なくされている。
 ・これにより、セルビアはロシアとの軍事技術協力を断ち、西側諸国に軍事的依存を深める方向へと進んでいる。
 ・セルビアはすでに過去数年間において、国連総会でロシアに反対する投票を行うなど、西側諸国との距離を縮めてきた。
 ・モイシロヴィッチ将軍の発言は、セルビアが軍事戦略をロシアから西側諸国へと大きく転換しつつあることを示している。
 ・この背景には、西側諸国がセルビアに対し、制裁と政治的圧力を通じて一方的な軍事依存を強制しようとしていることがある。
 ・セルビアは安全保障を考慮し、慎重に東西のバランスを保とうとしていたが、制裁の影響が強まる中で選択肢が限られつつある。
 ・セルビアの軍事転換が、ロシアとの長年の戦略的関係を崩壊させ、今後数年で西側諸国との軍事的同盟を深化させる可能性がある。
 ・セルビアはブチッチ大統領がロシアとの強い関係を維持してきたが、制裁圧力が強まる中で西側との軍事同盟を強化せざるを得ない状況に追い込まれている。

【引用・参照・底本】

Serbia’s Top General Hinted At Carrying Out A Pro-Western Military Pivot Under Sanctions Duress Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.14
https://korybko.substack.com/p/serbias-top-general-hinted-at-carrying?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=154805970&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

ロシアがウクライナを完全かつ恒久的に制圧可能2025年01月18日 20:10

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【概要】

 ロバート・ケーガンが主張する内容に対して、反対の立場が真実であることを指摘する論点がいくつかある。ケーガンは、ロシアがウクライナを完全かつ恒久的に制圧することができると主張し、さらに米国がウクライナへの援助を強化しなければならないと訴えている。しかし、以下の3つの反論によって、その主張は根本的に間違っていることが明らかになる。

 1. ロシアにはウクライナを恒久的に制圧する能力がない

 ウクライナは地理的に広大な国であり、恒久的に制圧するためには莫大な軍事的資源が必要である。さらに、ウクライナの多くの市民が軍事経験を持ち、基本的な武器訓練を受けている。また、国全体にわたり武器が広がり、特に西部地域は極端な民族主義で知られている。ロシアがこれを制圧し続けるには、膨大な軍事的リソースが必要である。

 もしロシアがそのような試みをすれば、アフガニスタンやイラクのような反乱が発生するリスクがある。特にウクライナの西部地域では、極端な民族主義が存在し、ロシアの軍隊が容易なターゲットとなるでしょう。この地域では反政府勢力が長い間根を下ろしており、ソ連時代からその活動は続いている。
 したがって、ロシアがウクライナを制圧し続けることは、兵力と財政面でのコストがかかりすぎ、まさに「ロシアのベトナム」になる可能性がある。そのため、プーチン大統領は現実的な政府を作ることなしには、この目標を達成することはできない。

 2. NATOの通常兵力がロシアの突破を阻止する可能性がある

 ケーガンが主張するようなロシアと米国のブリンクスマンシップ(際どい対立)のシナリオは、非常に現実的である。ロシアが軍事的に突破した場合、NATOがウクライナの少なくともドニエプル川まで通常の軍事介入を行う可能性があるためである。
 ドナルド・トランプ前大統領は、ウクライナ問題で第三次世界大戦を引き起こすことを避けたいと考えている一方で、歴史に“負けた”大統領として記録されるのを避けたいとも思っている。
 そのため、仮にロシアがポーランドの南東部に軍を進駐させた場合、米国は簡単にヨーロッパから撤退することが難しくなる。このような状況では、トランプがNATOによる通常の介入を命じる可能性があり、その結果として、プーチンがウクライナの極端な民族主義の西部地域を制圧するリスクを負うことになるだろう。このような状況では、プーチンはウクライナ全体を占領する代わりに、戦争の終結のための大きな交渉に応じる可能性がある。

 3. プーチンは妥協を求めるが、それはロシアの主要な目的を達成するため

 プーチン大統領は、対話による妥協を求めている。ただし、その妥協は、ロシアがウクライナにおいて主張している重要な目標を満たすものでなければならない。その主な目的は、ウクライナの中立地位の回復、軍事的な非武装化、ナチスの清掃、そしてロシアに併合された地域の事実上の認知である。
 これらの目標は、プーチンにとって重要であり、彼はその実現に注力している。そのため、ある程度の妥協の余地はあるが、詳細において柔軟な対応を取ることも可能である。しかし、ウクライナの新たな事実を受け入れる必要があり、例えばNATOとの連携強化が進んでいるため、プーチンは完璧な終結を追求するよりも、現実を受け入れる可能性もある。
 最近のプーチンの行動は、単にウクライナ全体を占領し続けるつもりではなく、むしろ米国に対し一部の主な目標を譲歩させるために“エスカレーションからの脱却”を試みているだけである。
 トランプが第三次世界大戦をリスクにさらすことを避けると知っているため、プーチンがウクライナの一部を放棄する代わりに、交渉に応じる可能性は非常に高いと考えられる。

 これらの反論から分かる通り、ケーガンの主張は間違っており、ロシアがウクライナを恒久的に制圧することは不可能であること、米国とロシアの緊張状態が現実的であること、そしてプーチンが妥協を探る意思を持つが、それは条件付きであることが示されている。ケーガンの主張は、ウクライナへの援助を正当化するための誤った前提に基づいたものであり、その影響を受ける米国のエリート層に向けて誤解を招く可能性があるため、注意が必要である。

【詳細】

 ロバート・ケーガンが主張する内容に対して、反対の立場からさらに詳しく説明する。ケーガンは、ロシアがウクライナを完全かつ恒久的に制圧しようとするので、米国がウクライナへの援助を強化しなければならないと警告している。しかし、その主張には根本的な誤りがある。以下、ケーガンの主張を詳しく掘り下げて、それに対する反論を詳述する。

 1. ロシアにはウクライナを恒久的に制圧する能力がない

 ケーガンの主張に対して、ロシアがウクライナ全土を永続的に制圧することは現実的ではない。ウクライナは広大な国土を持ち、長期的に制圧するには大量の軍事資源が必要である。さらに、ウクライナの市民は多くが軍事経験を持ち、武器も広く普及しています。そのため、ロシアが長期間にわたりウクライナを制圧し続けることは非常に困難である。

 また、ウクライナ西部地域は極端な民族主義的地域であり、ナチス思想に対する根強い嫌悪感が広がっている。この地域でロシアの軍隊が活動すれば、反乱勢力からの攻撃を受けやすくなるため、非常に困難な状況に直面する。この地域では、既に長年反政府組織が存在し、その活動は根深く、特にソ連時代から反政府運動が続いている。そのため、ロシアがウクライナを永続的に制圧し続けることは、反政府勢力の攻撃によってますます困難になるだけである。

 さらに、ウクライナを制圧する試みは、アフガニスタンやイラクでの反乱と同様に、ロシアにとって致命的なコストを伴うものとなり得る。このような状況は、ロシアにとって「ベトナム戦争」のようなものになる可能性があるため、プーチン大統領もそのリスクを回避しようとしている。

 2. NATOの通常兵力がロシアの突破を阻止する可能性がある

 ケーガンの主張に対し、ロシアが軍事的にウクライナを制圧しようとする場合、NATOが通常の軍事力で介入するシナリオも現実的である。特に、ロシアが軍事的にドニエプル川を突破した場合、NATOがその進行を止めるために通常の軍事介入を行う可能性がある。
 ドナルド・トランプ前大統領は、ウクライナ問題で第三次世界大戦のリスクにさらすことを避けたいと考えている一方で、歴史に“負けた”大統領として記録されることを避けたいと考えている。そのため、トランプはNATOによる通常の介入を命じる可能性があり、またプーチンがウクライナの一部を放棄する代わりに、交渉に応じる可能性もある。

 もしロシアがポーランド南東部に進行し、NATOがウクライナに介入する状況になれば、米国は簡単にヨーロッパから撤退することができなくなる。このような状況では、トランプはウクライナをめぐる危機に介入し、NATOによる通常兵力でロシアの突破を防ぐ可能性がある。そのため、ロシアと米国の間でのブリンクスマンシップ(際どい対立)は現実的であり、プーチンにとっても難しい選択を迫ることになる。

 3. プーチンは妥協を求めるが、それはロシアの主要な目標を達成するため

 ケーガンの主張に対して、プーチン大統領は妥協を探る意思を持っている。ただし、その妥協はロシアの主要な目的を満たすものでなければならない。プーチンが最も重要視する目標は、ウクライナの中立地位の回復、軍事的な非武装化、ナチスの清掃、そしてロシアに併合された地域の事実上の認知である。

 プーチンはこれらの目標を達成するために、交渉に応じる可能性がある。特に、ウクライナの西部地域では民族主義が強く、ロシアの占領軍に対する抵抗も強いことを知っており、現実的に制圧し続けることは困難である。そのため、プーチンは現実的な選択肢として、交渉で自国の目標をある程度達成する方法を模索している。

 最近のプーチンの行動は、戦争を継続してポーランド南東部にロシア軍を進駐させることを意図したものではなく、むしろ米国に対し一部の主な目標を譲歩させるための戦術であると考えられる。このような状況では、プーチンも交渉を行い、戦争を終結させるために妥協する可能性がある。

 総括

 以上のように、ケーガンの主張は現実的ではなく、ロシアがウクライナを恒久的に制圧することは困難であり、米国とロシアの間でのブリンクスマンシップは現実的であること、そしてプーチンも妥協の可能性を持っていることが指摘される。ケーガンが行う誤った前提に基づいた議論により、米国のエリート層がウクライナへの誤った支援を促進される恐れがあるため、注意が必要である。

【要点】
 
 ロシアにはウクライナを恒久的に制圧する能力がない

 ・ウクライナは広大な国土を持ち、長期的に制圧するためには大量の軍事資源が必要。
 ・ウクライナ西部地域は民族主義が強く、抵抗運動が根深い。
長期間の制圧試みは、反政府勢力の攻撃を受けやすく、アフガニスタンやイラクのような反乱に直面する可能性がある。
 ・プーチンはリスクを回避し、交渉による解決を目指す。

 NATOの通常兵力がロシアの突破を阻止する可能性がある

 ・ロシアが軍事的にドニエプル川を突破した場合、NATOが介入するシナリオが現実的。
 ・トランプ前大統領は第三次世界大戦をリスクにすることを避けつつ、ウクライナを失うことも回避したいと考えている。
 ・トランプはNATOによる通常兵力介入を支持する可能性があり、ロシアの突破を阻止するために動く可能性がある。

 プーチンは妥協を求めるが、それはロシアの主要な目標を達成するため

 ・プーチンはウクライナにおけるロシアの主要な目標を達成するために、交渉に応じる意向がある。
 ・主要な目標には中立地位の回復、非武装化、ナチス清掃、ロシアに併合された地域の事実上の認知が含まれる。
 ・最近のプーチンの行動は、交渉による主な目標の達成を目指すものであり、戦争を継続させるつもりはない。
 ・妥協を通じて戦争を終結させる道もあると考えている。

【参考】

 ☞ ロバート・ケーガント(Robert Kagan)

 ・アメリカの著名な歴史家・国際政治学者であり、ネオコン(新保守主義)の代表的な人物の1人。
 ・1996年に『大国の興亡』(原題:Of Paradise and Power)を出版し、アメリカとヨーロッパの安全保障政策における違いを指摘。その中でアメリカの役割や国際政治における価値観の違いを論じたことで知られる。
 ・主にアメリカの対外政策、特に中東・ロシア・ヨーロッパにおけるアメリカの影響力、NATOの重要性、そして民主主義の普及に対する強い信念を持つ。
 ・ウクライナ危機やロシアの行動に対する強硬な立場を取り、対ロシア政策の強化をアメリカに呼びかけている。

 ケーガントは、特にアメリカの対ロシア政策やNATOの重要性、民主主義の普及をめぐる議論で影響力を持つ人物である。ウクライナ情勢やロシアとの対立においても、アメリカが積極的な介入をすべきだと主張している。
 また、彼の主張に基づいてアメリカの国内外で議論が巻き起こることが多い。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Three Arguments Tearing Apart Robert Kagan’s Claims About Trump, Ukraine, & Putin Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.15
https://korybko.substack.com/p/three-arguments-tearing-apart-robert?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=154868908&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email