ゼレンスキーの提案 ― 2025年01月24日 17:04
【桃源寸評】
絵空事を只云ってみただけか。
【寸評 完】
【概要】
ウクライナのゼレンスキー大統領がダボスでのスピーチ後のパネルセッションにおいて、最低20万人のヨーロッパの平和維持部隊の派遣を求めたことが取り上げられている。この要求の背景には、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスがウクライナの軍と合同でロシアとほぼ同規模の戦力を形成することを提案し、さらにトランプ元大統領がウクライナ問題に関してロシアおよび中国と取引をすることでヨーロッパを「見捨てる」可能性があるとの懸念がある。しかし、ヨーロッパがこの要求に応じる可能性は極めて低いと分析されている。
その理由として、英国がウクライナでの軍事基地設立を「探る」との新たな100年パートナーシップ協定で合意したものの、実際に設立する見込みが低いことが挙げられている。これは、アメリカの支援なしにロシアとの戦争に巻き込まれるリスクを避けたいというヨーロッパ諸国の思惑に基づいている。特に、トランプ氏が第三国での軍隊に対してNATOの第5条による相互防衛を保証しない方針を取ると予想されていることが影響している。この方針は、ロシアとの戦争が引き起こされ、それがアメリカを巻き込む事態を防ぐ意図がある。
トランプ氏の戦略的目標は、ウクライナ紛争をできるだけ早く終結させ、国内改革を優先するとともに、中国の封じ込めを目的としたアジア重視戦略に注力することである。このため、ロシアとの戦争を引き起こす可能性のある状況は極力避けられるべきであるとされる。
また、ヨーロッパがポーランドやルーマニアの国境に大規模な軍隊を配備し、将来的な紛争に備える可能性はあるが、それにもいくつかの条件が伴う。具体的には、ポーランドとウクライナの関係改善、2025年5月に予定されているルーマニア大統領選の結果、そして「ミリタリー・シェンゲン」構想の進展が必要である。しかし、これらの条件が現時点で満たされていないため、大規模な部隊の配備や平和維持部隊の派遣の可能性は低い。
さらに、トランプ氏がヨーロッパに負担を共有させる意図を持つ一方で、ロシアとの戦争を引き起こすことを避けるため、ヨーロッパが独自に平和維持部隊を派遣することを許可する可能性は極めて低いとされている。ただし、彼が交渉の一環としてこの提案を利用し、プーチン大統領との取引材料とする可能性は排除されていない。
最後に、トランプ氏が軍産複合体やヨーロッパの政治家(特にポーランドのドゥダ大統領)によって誤った方向に誘導され、ウクライナを彼自身の「ベトナム戦争」のような状況に陥らせるリスクも考慮されている。しかし、この可能性について結論を下すには時期尚早であり、現時点ではヨーロッパの平和維持部隊派遣シナリオは非常に起こりにくいものであると結論付けられている。
【詳細】
ウクライナのゼレンスキー大統領がヨーロッパに20万人規模の平和維持部隊を求めた背景と、その実現可能性について詳細に分析されている。この提案は、ロシアの軍事力に対抗するために、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスが共同でウクライナ軍と同規模の戦力を形成することを目指している。しかし、この提案に対するヨーロッパ諸国の応答は消極的であり、その理由をいくつかの観点から検討している。
ゼレンスキー大統領の提案の背景
ゼレンスキー大統領は、ダボス会議でのスピーチ後に行われたパネルセッションで、ヨーロッパ諸国が結束して平和維持部隊を派遣する必要性を強調した。その主張には以下の要素が含まれる
1.ロシアとの戦力均衡の必要性:ロシアの軍事的圧力に対抗するため、ウクライナ軍だけではなく、ヨーロッパの主要国(フランス、ドイツ、イタリア、イギリス)の軍隊を結集し、対等な戦力を形成する必要性を訴えた。
2.アメリカの関与低下への懸念:トランプ元大統領が再び権力を握った場合、ウクライナ問題に関してロシアや中国と妥協し、ヨーロッパを「見捨てる」可能性があると警告した。このため、ヨーロッパ諸国がアメリカの支援を前提とせず独自に行動するべきだという考えがある。
3.迅速な対応の必要性:ゼレンスキーは、トランプ氏の行動がヨーロッパにさらなるプレッシャーを与える前に、大規模な平和維持ミッションを準備する必要性を訴えた。
ヨーロッパが応じない理由
ゼレンスキーの提案に対して、ヨーロッパ諸国が応じる可能性は低いとされ、その主な理由は以下の通りである。
1.アメリカの支援なしにロシアと対立するリスク
・トランプ氏は、ウクライナのような第三国に展開するヨーロッパ軍に対してNATOの第5条(集団的防衛義務)を適用しない方針であると考えられる。
・第5条が適用されなければ、ヨーロッパはロシアとの直接的な戦争に巻き込まれた場合、アメリカの軍事的支援を受けられない。そのため、イギリスやフランスのような核保有国ですら、このようなリスクを冒すことには消極的である。
2.トランプ氏の戦略的目標
・トランプ氏はウクライナ紛争を迅速に終結させることで、国内改革や中国封じ込めに集中したいと考えている。ロシアとの戦争がアメリカの外交・内政を妨げる可能性は容認できないため、ヨーロッパが勝手に行動することは避けさせたい。
第三国での軍事行動がアメリカを巻き込む事態を防ぐため、トランプ氏はヨーロッパ軍の派遣計画を阻止する可能性が高い。
3.ヨーロッパ内部の課題
・ポーランドとウクライナの関係悪化:ゼレンスキー大統領がダボス会議でポーランドを無視したことから、両国間の関係が改善されない限り、ポーランドが積極的に関与する可能性は低い。
・ルーマニアの政治的不安定性:ルーマニアでは2025年5月に予定されている大統領選挙の結果次第で、ウクライナ支援政策が変わる可能性がある。
・「ミリタリー・シェンゲン」の未整備:ヨーロッパ内で軍事物資や部隊を迅速に移動させるための「ミリタリー・シェンゲン」構想は、いまだに具体化していない。この状況では、大規模な軍事展開が困難である。
トランプ氏の可能な対応
1.交渉材料としての利用
・トランプ氏は、ゼレンスキーの提案をプーチン大統領との交渉材料として利用する可能性がある。例えば、ヨーロッパに平和維持部隊を派遣する考えを示唆し、それを撤回する代わりにプーチン氏から譲歩を引き出す戦術を取る可能性がある。
2.条件付きでのヨーロッパ支援要求
・トランプ氏は、NATO加盟国に対し国防費をGDPの5%に引き上げることを条件に、ウクライナ西部(ポーランドやルーマニア国境)への大規模な軍事配備を提案する可能性がある。また、これに貿易政策の譲歩などの付加条件を加える可能性もある。
3.軍事力の縮小を条件とする可能性
・トランプ氏は、ゼレンスキー大統領に対してウクライナ軍の規模を大幅に縮小することを条件に、ヨーロッパへの支援を求める可能性がある。このような条件は、2022年春に議論された条約案をモデルとしている。
結論
ゼレンスキー大統領の20万人規模の平和維持部隊派遣要求が実現する可能性は非常に低い。アメリカの支援が期待できない状況下で、ヨーロッパ諸国はロシアとの直接的な衝突を避けたいと考えている。また、ヨーロッパ内部の政治的・軍事的課題も、この計画の実現を阻む要因となっている。さらに、トランプ氏の戦略は、ヨーロッパに負担を転嫁する一方で、ロシアとの戦争を回避することを重視している。このため、ヨーロッパが独自に平和維持部隊を派遣する可能性は極めて低いままである。
【要点】
ゼレンスキー大統領の提案の背景
・ロシアとの軍事力の均衡を図るため、ヨーロッパの主要国(フランス、ドイツ、イタリア、イギリス)が20万人規模の平和維持部隊を派遣することを要請。
・アメリカの支援が減少する可能性を見越し、ヨーロッパ独自の行動が必要と主張。
・トランプ氏の外交方針がウクライナ問題に悪影響を及ぼす前に対応を求めた。
ヨーロッパが応じない理由
1.アメリカの支援不足
・トランプ氏がNATO第5条の適用を制限する可能性があり、ヨーロッパ諸国はロシアとの直接対立を回避したい。
2.トランプ氏の戦略
・ウクライナ紛争の迅速な終結を目指し、ヨーロッパの独自行動を妨げる可能性が高い。
3.ヨーロッパ内部の課題
・ポーランドとウクライナの関係悪化が軍事協力に影響。
・ルーマニアの政治的不安定性や大統領選挙がウクライナ支援政策に影響。
・「ミリタリー・シェンゲン」が整備されておらず、迅速な軍事展開が困難。
トランプ氏の可能な対応
・交渉材料として利用:ゼレンスキーの提案をロシアとの交渉材料に利用する可能性。
・条件付き支援要求:NATO加盟国に国防費増額を求める代わりにウクライナ周辺への軍事展開を提案する可能性。
・ウクライナ軍縮条件:ゼレンスキーに軍縮を条件として平和維持部隊を提案する可能性。
結論
・ゼレンスキー大統領の提案は、ヨーロッパ諸国がアメリカの支援なしに行動するリスクや内部の課題から実現困難である。
・トランプ氏の戦略もこの計画を妨げる要因となるため、実現可能性は極めて低い。
【参考】
☞ ミリタリー・シェンゲン
「ミリタリー・シェンゲン(Military Schengen)」は、ヨーロッパ連合(EU)内で軍事物資や部隊の迅速な移動を可能にする仕組みを指す言葉である。これは、EU内の国境を越えて自由に移動できる「シェンゲン協定」を軍事用途に拡張した概念である。
目的
・迅速な軍事対応
ロシアの脅威など、ヨーロッパ東部での緊急事態に迅速に対応できるようにする。
・軍事連携の強化
NATOやEU加盟国間の防衛協力を円滑化し、抑止力を高める。
・ロジスティクスの効率化
部隊や装備品を各国間でスムーズに輸送できる環境を構築する。
背景
・ロシアの脅威
2014年のクリミア併合以降、ロシアの軍事活動がヨーロッパにとって安全保障上の懸念を引き起こしている。
・NATOの迅速な展開の必要性
NATOが加盟国防衛のために部隊を迅速に移動させる必要性が増加しているが、現在の複雑な通関手続きが障害となっている。
・現状の課題
現在、軍事物資や部隊をEU内で移動させる際、各国の国境で許可や検査が必要であり、時間がかかる。
主な課題
1.インフラ整備の不足
・鉄道や道路網が軍事物資輸送に十分対応できていない場合が多い。
2.政治的調整の遅れ
・各国の主権や安全保障上の懸念から、統一したルールの制定が進んでいない。
3.財政的負担
・インフラ整備や運用には莫大なコストがかかるため、各国の予算措置が課題となっている。
現状
・ミリタリー・シェンゲンの構想は議論段階にとどまり、多くの具体的な進展は見られない。
・EU内での連携強化は進行中であるが、軍事展開における手続きの簡素化は限定的である。
・ロシアとの緊張が続く中、ミリタリー・シェンゲンの早急な実現が求められているものの、政治的障害や技術的課題が障壁となっている。
今後の展望
・ミリタリー・シェンゲンの実現には、EU各国の協力とNATOの連携が不可欠である。
・ロシアの脅威が高まる中、ヨーロッパの防衛能力を高めるため、この構想が今後の政策議論の焦点となる可能性が高い。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
The Europeans Are Unlikely To Accede To Zelensky’s Demand For 200,000 Peacekeepers Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.24
https://korybko.substack.com/p/the-europeans-are-unlikely-to-accede?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155594947&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
絵空事を只云ってみただけか。
【寸評 完】
【概要】
ウクライナのゼレンスキー大統領がダボスでのスピーチ後のパネルセッションにおいて、最低20万人のヨーロッパの平和維持部隊の派遣を求めたことが取り上げられている。この要求の背景には、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスがウクライナの軍と合同でロシアとほぼ同規模の戦力を形成することを提案し、さらにトランプ元大統領がウクライナ問題に関してロシアおよび中国と取引をすることでヨーロッパを「見捨てる」可能性があるとの懸念がある。しかし、ヨーロッパがこの要求に応じる可能性は極めて低いと分析されている。
その理由として、英国がウクライナでの軍事基地設立を「探る」との新たな100年パートナーシップ協定で合意したものの、実際に設立する見込みが低いことが挙げられている。これは、アメリカの支援なしにロシアとの戦争に巻き込まれるリスクを避けたいというヨーロッパ諸国の思惑に基づいている。特に、トランプ氏が第三国での軍隊に対してNATOの第5条による相互防衛を保証しない方針を取ると予想されていることが影響している。この方針は、ロシアとの戦争が引き起こされ、それがアメリカを巻き込む事態を防ぐ意図がある。
トランプ氏の戦略的目標は、ウクライナ紛争をできるだけ早く終結させ、国内改革を優先するとともに、中国の封じ込めを目的としたアジア重視戦略に注力することである。このため、ロシアとの戦争を引き起こす可能性のある状況は極力避けられるべきであるとされる。
また、ヨーロッパがポーランドやルーマニアの国境に大規模な軍隊を配備し、将来的な紛争に備える可能性はあるが、それにもいくつかの条件が伴う。具体的には、ポーランドとウクライナの関係改善、2025年5月に予定されているルーマニア大統領選の結果、そして「ミリタリー・シェンゲン」構想の進展が必要である。しかし、これらの条件が現時点で満たされていないため、大規模な部隊の配備や平和維持部隊の派遣の可能性は低い。
さらに、トランプ氏がヨーロッパに負担を共有させる意図を持つ一方で、ロシアとの戦争を引き起こすことを避けるため、ヨーロッパが独自に平和維持部隊を派遣することを許可する可能性は極めて低いとされている。ただし、彼が交渉の一環としてこの提案を利用し、プーチン大統領との取引材料とする可能性は排除されていない。
最後に、トランプ氏が軍産複合体やヨーロッパの政治家(特にポーランドのドゥダ大統領)によって誤った方向に誘導され、ウクライナを彼自身の「ベトナム戦争」のような状況に陥らせるリスクも考慮されている。しかし、この可能性について結論を下すには時期尚早であり、現時点ではヨーロッパの平和維持部隊派遣シナリオは非常に起こりにくいものであると結論付けられている。
【詳細】
ウクライナのゼレンスキー大統領がヨーロッパに20万人規模の平和維持部隊を求めた背景と、その実現可能性について詳細に分析されている。この提案は、ロシアの軍事力に対抗するために、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスが共同でウクライナ軍と同規模の戦力を形成することを目指している。しかし、この提案に対するヨーロッパ諸国の応答は消極的であり、その理由をいくつかの観点から検討している。
ゼレンスキー大統領の提案の背景
ゼレンスキー大統領は、ダボス会議でのスピーチ後に行われたパネルセッションで、ヨーロッパ諸国が結束して平和維持部隊を派遣する必要性を強調した。その主張には以下の要素が含まれる
1.ロシアとの戦力均衡の必要性:ロシアの軍事的圧力に対抗するため、ウクライナ軍だけではなく、ヨーロッパの主要国(フランス、ドイツ、イタリア、イギリス)の軍隊を結集し、対等な戦力を形成する必要性を訴えた。
2.アメリカの関与低下への懸念:トランプ元大統領が再び権力を握った場合、ウクライナ問題に関してロシアや中国と妥協し、ヨーロッパを「見捨てる」可能性があると警告した。このため、ヨーロッパ諸国がアメリカの支援を前提とせず独自に行動するべきだという考えがある。
3.迅速な対応の必要性:ゼレンスキーは、トランプ氏の行動がヨーロッパにさらなるプレッシャーを与える前に、大規模な平和維持ミッションを準備する必要性を訴えた。
ヨーロッパが応じない理由
ゼレンスキーの提案に対して、ヨーロッパ諸国が応じる可能性は低いとされ、その主な理由は以下の通りである。
1.アメリカの支援なしにロシアと対立するリスク
・トランプ氏は、ウクライナのような第三国に展開するヨーロッパ軍に対してNATOの第5条(集団的防衛義務)を適用しない方針であると考えられる。
・第5条が適用されなければ、ヨーロッパはロシアとの直接的な戦争に巻き込まれた場合、アメリカの軍事的支援を受けられない。そのため、イギリスやフランスのような核保有国ですら、このようなリスクを冒すことには消極的である。
2.トランプ氏の戦略的目標
・トランプ氏はウクライナ紛争を迅速に終結させることで、国内改革や中国封じ込めに集中したいと考えている。ロシアとの戦争がアメリカの外交・内政を妨げる可能性は容認できないため、ヨーロッパが勝手に行動することは避けさせたい。
第三国での軍事行動がアメリカを巻き込む事態を防ぐため、トランプ氏はヨーロッパ軍の派遣計画を阻止する可能性が高い。
3.ヨーロッパ内部の課題
・ポーランドとウクライナの関係悪化:ゼレンスキー大統領がダボス会議でポーランドを無視したことから、両国間の関係が改善されない限り、ポーランドが積極的に関与する可能性は低い。
・ルーマニアの政治的不安定性:ルーマニアでは2025年5月に予定されている大統領選挙の結果次第で、ウクライナ支援政策が変わる可能性がある。
・「ミリタリー・シェンゲン」の未整備:ヨーロッパ内で軍事物資や部隊を迅速に移動させるための「ミリタリー・シェンゲン」構想は、いまだに具体化していない。この状況では、大規模な軍事展開が困難である。
トランプ氏の可能な対応
1.交渉材料としての利用
・トランプ氏は、ゼレンスキーの提案をプーチン大統領との交渉材料として利用する可能性がある。例えば、ヨーロッパに平和維持部隊を派遣する考えを示唆し、それを撤回する代わりにプーチン氏から譲歩を引き出す戦術を取る可能性がある。
2.条件付きでのヨーロッパ支援要求
・トランプ氏は、NATO加盟国に対し国防費をGDPの5%に引き上げることを条件に、ウクライナ西部(ポーランドやルーマニア国境)への大規模な軍事配備を提案する可能性がある。また、これに貿易政策の譲歩などの付加条件を加える可能性もある。
3.軍事力の縮小を条件とする可能性
・トランプ氏は、ゼレンスキー大統領に対してウクライナ軍の規模を大幅に縮小することを条件に、ヨーロッパへの支援を求める可能性がある。このような条件は、2022年春に議論された条約案をモデルとしている。
結論
ゼレンスキー大統領の20万人規模の平和維持部隊派遣要求が実現する可能性は非常に低い。アメリカの支援が期待できない状況下で、ヨーロッパ諸国はロシアとの直接的な衝突を避けたいと考えている。また、ヨーロッパ内部の政治的・軍事的課題も、この計画の実現を阻む要因となっている。さらに、トランプ氏の戦略は、ヨーロッパに負担を転嫁する一方で、ロシアとの戦争を回避することを重視している。このため、ヨーロッパが独自に平和維持部隊を派遣する可能性は極めて低いままである。
【要点】
ゼレンスキー大統領の提案の背景
・ロシアとの軍事力の均衡を図るため、ヨーロッパの主要国(フランス、ドイツ、イタリア、イギリス)が20万人規模の平和維持部隊を派遣することを要請。
・アメリカの支援が減少する可能性を見越し、ヨーロッパ独自の行動が必要と主張。
・トランプ氏の外交方針がウクライナ問題に悪影響を及ぼす前に対応を求めた。
ヨーロッパが応じない理由
1.アメリカの支援不足
・トランプ氏がNATO第5条の適用を制限する可能性があり、ヨーロッパ諸国はロシアとの直接対立を回避したい。
2.トランプ氏の戦略
・ウクライナ紛争の迅速な終結を目指し、ヨーロッパの独自行動を妨げる可能性が高い。
3.ヨーロッパ内部の課題
・ポーランドとウクライナの関係悪化が軍事協力に影響。
・ルーマニアの政治的不安定性や大統領選挙がウクライナ支援政策に影響。
・「ミリタリー・シェンゲン」が整備されておらず、迅速な軍事展開が困難。
トランプ氏の可能な対応
・交渉材料として利用:ゼレンスキーの提案をロシアとの交渉材料に利用する可能性。
・条件付き支援要求:NATO加盟国に国防費増額を求める代わりにウクライナ周辺への軍事展開を提案する可能性。
・ウクライナ軍縮条件:ゼレンスキーに軍縮を条件として平和維持部隊を提案する可能性。
結論
・ゼレンスキー大統領の提案は、ヨーロッパ諸国がアメリカの支援なしに行動するリスクや内部の課題から実現困難である。
・トランプ氏の戦略もこの計画を妨げる要因となるため、実現可能性は極めて低い。
【参考】
☞ ミリタリー・シェンゲン
「ミリタリー・シェンゲン(Military Schengen)」は、ヨーロッパ連合(EU)内で軍事物資や部隊の迅速な移動を可能にする仕組みを指す言葉である。これは、EU内の国境を越えて自由に移動できる「シェンゲン協定」を軍事用途に拡張した概念である。
目的
・迅速な軍事対応
ロシアの脅威など、ヨーロッパ東部での緊急事態に迅速に対応できるようにする。
・軍事連携の強化
NATOやEU加盟国間の防衛協力を円滑化し、抑止力を高める。
・ロジスティクスの効率化
部隊や装備品を各国間でスムーズに輸送できる環境を構築する。
背景
・ロシアの脅威
2014年のクリミア併合以降、ロシアの軍事活動がヨーロッパにとって安全保障上の懸念を引き起こしている。
・NATOの迅速な展開の必要性
NATOが加盟国防衛のために部隊を迅速に移動させる必要性が増加しているが、現在の複雑な通関手続きが障害となっている。
・現状の課題
現在、軍事物資や部隊をEU内で移動させる際、各国の国境で許可や検査が必要であり、時間がかかる。
主な課題
1.インフラ整備の不足
・鉄道や道路網が軍事物資輸送に十分対応できていない場合が多い。
2.政治的調整の遅れ
・各国の主権や安全保障上の懸念から、統一したルールの制定が進んでいない。
3.財政的負担
・インフラ整備や運用には莫大なコストがかかるため、各国の予算措置が課題となっている。
現状
・ミリタリー・シェンゲンの構想は議論段階にとどまり、多くの具体的な進展は見られない。
・EU内での連携強化は進行中であるが、軍事展開における手続きの簡素化は限定的である。
・ロシアとの緊張が続く中、ミリタリー・シェンゲンの早急な実現が求められているものの、政治的障害や技術的課題が障壁となっている。
今後の展望
・ミリタリー・シェンゲンの実現には、EU各国の協力とNATOの連携が不可欠である。
・ロシアの脅威が高まる中、ヨーロッパの防衛能力を高めるため、この構想が今後の政策議論の焦点となる可能性が高い。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
The Europeans Are Unlikely To Accede To Zelensky’s Demand For 200,000 Peacekeepers Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.24
https://korybko.substack.com/p/the-europeans-are-unlikely-to-accede?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155594947&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email