サヘル地域の空白を埋める中国2025年02月17日 13:32

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【概要】

 フランスが西アフリカのサヘル地域での影響力を急速に失い、アメリカの大統領が予測不可能な態度をとる中、中国はこの空白を埋めることができるかもしれない。サヘル地域は、ナイジェリアをはじめ、ブルキナファソ、カメルーン、チャド、ガンビア、ギニア、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガルといった他の9カ国を含む。

 フランス軍は、マリ、ブルキナファソ、ニジェールの3カ国で追放され、チャド、セネガル、コートジボワールでもフランス軍の撤退が進んだ。これらの軍隊は、ボコ・ハラムや西アフリカのイスラム国(ISWAP)などの過激派グループによる安全保障上の脅威に対応するために派遣されていた。ニジェールはまた、約1,000人の米軍兵士による対テロミッションの協定を終了した。ニジェール政府はアメリカを「高慢な態度」と批判している。

 西洋諸国の存在がこの地域の安全保障問題を解決できなかったという意見もあるが、その撤退によって空白が生まれた。この空白を埋めるために、中国は以下の三つの方法で影響力を拡大できると考えられる。

 1.重要鉱物への投資の拡大

 中国はサヘル地域に存在する金、銅、リチウム、ウランといった重要な鉱物資源に対して影響力を強めることができる。2024年、西アフリカの金の生産量は1183万オンスに達し、ガーナ、ブルキナファソ、ギニア共和国、マリが主要な生産国となっている。

 2.ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)の危機解決

 マリ、ブルキナファソ、ニジェールの軍事クーデターにより、これらの国々はECOWASから脱退し、サヘル連邦を形成した。中国は、内政干渉を避ける政策に基づき、これらの国々とECOWASとの交渉を推進する立場にあり、ECOWASの統合を促進することで平和的な大国としてのイメージを強化できる。

 3.武器販売の増加

 中国の武器はすでにサヘル地域に広がっており、ナイジェリアは2019年に中国北方工業株式会社(Norinco)と1億5200万ドルの契約を結び、ボコ・ハラムに対する戦闘のための武器を調達した。この撤退により、西洋諸国が武器供与を控える中、中国はその市場を拡大することが可能となる。

 中国は、サヘル地域における影響力拡大のチャンスを得る一方で、地域内の競合する利益を調整する必要があり、中国の関与が一部では誤解を招く可能性もある。そのため、中国がそのすべての空白を埋めることができるかは不確かであるが、短期的には有利な状況にある。

【詳細】

 中国がサヘル地域における影響力を拡大する可能性について、さらに詳細に説明する。

 1. 重要鉱物への投資の拡大

 サヘル地域は、金、銅、リチウム、ウランなどの重要な鉱物資源を多く含んでおり、これらの資源は中国にとって戦略的に非常に重要である。特にリチウムは、電気自動車のバッテリーや再生可能エネルギー関連の技術に不可欠な素材であり、世界的に需要が高まっている。中国はこれらの資源を確保することで、今後の経済発展における競争優位を維持できる。

 具体的には、サヘル地域における西アフリカ諸国の金の生産は2024年に1183万オンスに達した。特に、ガーナ、ブルキナファソ、ギニア共和国、マリは金の主要生産国であり、これらの国々と中国の経済的なつながりは今後さらに強化される可能性が高い。中国は、これらの鉱物資源の採掘・精製に関与し、地域のインフラ整備やエネルギー供給の支援を通じて、地元経済に利益をもたらしながら、自国の鉱物供給源として確保していくことができる。

 2. ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)の危機解決

 2023年から2024年にかけて、サヘル地域のいくつかの国で軍事クーデターが発生し、その結果、マリ、ブルキナファソ、ニジェールなどはECOWASから脱退し、新たにサヘル連邦を結成した。これにより、ECOWASは深刻な危機に直面しており、その統一性は大きく揺らいでいる。ECOWASは、西アフリカの経済統合と地域安定を目的とした機関であるが、これらの脱退国の動きにより、地域の政治・経済的な協力体制が弱まった。

 中国は、非干渉政策をとることで、サヘル諸国の軍事政権や民間政権との関係を築くことができ、ECOWASとサヘル連邦との間で交渉を進める役割を果たす可能性がある。中国は過去にアフリカ諸国との間で、内政に干渉せず、経済支援を通じて影響力を拡大してきた実績がある。例えば、タザラ鉄道プロジェクト(タンザニアとザンビアを結ぶ鉄道の建設)では、アメリカやヨーロッパが関心を示さない中で中国が支援し、成功を収めた。

 このように、中国は平和的な大国としてのイメージを構築し、サヘル地域における統合の進展を支援することができる。もし中国がECOWASとサヘル連邦の間で調停役としての役割を果たせば、その影響力は大いに強化され、アフリカ全体での中国の存在感を一層高めるだろう。

 3. 武器販売の増加

 サヘル地域における武器市場は、中国にとって重要な機会を提供している。2019年にナイジェリアは、中国北方工業株式会社(Norinco)と契約を結び、ボコ・ハラムとの戦闘に必要な武器を調達した。この契約は、中国製の無人機やその他の武器システムがナイジェリアのテロ対策に使用される契機となった。また、フランスやアメリカの軍隊が撤退する中で、サヘル諸国は他国からの武器供給を求めている。

 特に中国の武器市場は、ロシアの武器に対する制裁が強化されたこともあり、サヘル地域における拡大のチャンスを迎えている。例えば、2024年6月にブルキナファソは中国から100台の戦車を受け取り、3か月後、マリはNorincoと契約を結んで武器供給を強化した。このような背景から、中国の武器販売はサヘル地域で急速に増加している。

 西洋諸国がサヘル地域での軍事関与を縮小しているため、中国が提供する武器が代替品として重要な位置を占めることとなる。中国の武器は、性能が高く、コストパフォーマンスも良いとされ、多くのアフリカ諸国にとって魅力的な選択肢となる。

 中国の関与の課題

 ただし、中国のサヘル地域への関与にはいくつかの課題も存在する。まず、地域内には複雑な政治的・経済的な利害関係が絡んでおり、中国が関与を深めることによって、特定の勢力や国との関係が悪化する可能性がある。また、サヘル地域には過激派組織が存在し、中国の企業やインフラが攻撃されるリスクも考慮する必要がある。

 さらに、中国が西洋諸国の撤退によって生じた空白を埋める能力に関しても疑問が残る。中国は経済力を背景にアフリカでの影響力を強化してきたが、サヘル地域のように複雑な安全保障の課題を解決するためには、単に投資や武器供給を行うだけでは不十分であり、長期的な安定化に向けた包括的な戦略が必要である。

 結論

 中国はサヘル地域における空白を埋める可能性を十分に秘めているが、その影響力を拡大するためには、地域の多様な利害関係に対応し、平和的な調停役としての役割を果たすことが求められる。経済的な投資や武器供給に加え、地域統合を支援することで、中国は短期的にはサヘル地域での存在感を強化できるだろうが、長期的な安定を確保するためには慎重な対応が必要である。
 
【要点】

 中国のサヘル地域への影響力拡大の可能性

 1.重要鉱物への投資

 ・サヘル地域には金、リチウム、ウランなど重要鉱物が豊富。
 ・中国はこれらの資源を確保することで、経済発展に必要な資源を維持。
 ・西アフリカ諸国(ガーナ、ブルキナファソ、マリなど)の金の生産と中国の経済的つながりが強化される。

 2.ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)の危機解決

 ・サヘル諸国(マリ、ブルキナファソ、ニジェールなど)がECOWASを脱退し、新たなサヘル連邦を形成。
 ・中国は非干渉政策で、軍事政権や民間政権との関係を築き、調停役としての役割を果たす可能性。
 ・ECOWASとサヘル連邦の交渉を支援することで、地域での影響力を強化。

 3.武器販売の増加

 ・サヘル地域では武器供給の需要が高まり、特に中国製の武器が注目されている。
 ・ナイジェリアやブルキナファソ、マリなどが中国製の武器を導入。
 ・中国の武器は性能が高く、コストパフォーマンスも良いため、多くのアフリカ諸国にとって魅力的。

 4.課題

 ・地域内には複雑な政治・経済的利害関係があり、関与の深まりが対立を招く可能性。
 ・サヘル地域の過激派組織による攻撃リスク。
 ・経済力を背景に影響力を強化しているが、安全保障課題への対応には包括的な戦略が求められる。

 結論

 ・中国はサヘル地域での影響力を強化する可能性があるが、平和的な調停役としての役割と、地域の安定化に向けた慎重な対応が重要。 

【参考】

 ➡️ サヘル(Sahel)は、アフリカ大陸の北部に位置する半乾燥地帯で、サハラ砂漠の南端に広がる地域を指す。具体的には、以下の国々が含まれる。

 サヘル地域の特徴

 1.地理的位置

 ・サヘルは、アフリカのサハラ砂漠と熱帯雨林帯との境界にある地帯。
 ・主に、アフリカ大陸の南部、サハラ砂漠のすぐ南に広がり、緯度的には約15度から20度北緯に位置する。

 2.含まれる国々

 ・ブルキナファソ 
 ・セネガル
 ・モーリタニア
 ・マリ
 ・ニジェール
 ・ナイジェリア
 ・チャド
 ・カメルーン
 ・ガンビア
 ・ギニア

 3.気候と環境

 ・サヘルは乾燥した半乾燥気候で、サハラ砂漠ほど過酷ではないが、乾季と雨季の差が大きい。
 ・乾季には水源が限られ、農業や牧畜に困難をもたらす。

 4.経済と産業

 ・農業(特に小麦、米、トウモロコシ)や家畜の飼育が行われているが、気候変動や旱魃(かんばつ)などの影響を強く受ける。
 ・また、鉱物資源(特に金やウラン)が豊富であり、これらが経済の重要な柱となっている。

 5.安全保障の課題

 ・サヘル地域は、極端な貧困、政治的な不安定、過激派組織(例:アルカイダ、ボコ・ハラム、イスラム国西アフリカ部門)などが支配する地域があり、治安が不安定。
 ・西洋諸国、特にフランスやアメリカの軍事支援が行われていたが、最近では撤退が進んでおり、地域の安定に対する新たな挑戦が浮上している。

 サヘル地域の国際関係

 ・サヘル地域は多くの地政学的プレーヤーが関与する戦略的に重要な場所であり、中国、フランス、アメリカなどの大国が関与している。
 ・中国は、資源の確保と経済的影響力を強化するため、特に鉱物資源への投資やインフラ整備に注力している。

 サヘルは、気候変動、テロリズム、貧困、難民問題など複雑な課題を抱える地域であり、その安定性が周辺地域、さらには国際社会全体に影響を与える。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

China could fill the gap 3 ways as the West exits Africa region ASIATIMES 2025.02.12
https://asiatimes.com/2025/02/china-could-fill-the-gap-3-ways-as-west-exits-west-africa-region/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=36bceb56e5-WEEKLY_16_02_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-36bceb56e5-16242795&mc_cid=36bceb56e5&mc_eid=69a7d1ef3c

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