中国:高度な赤外線探知システム2025年02月17日 20:47

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【概要】

 中国の研究者によると、成層圏飛行船に搭載された高度な赤外線探知システムにより、アメリカ製のF-35戦闘機を約2,000km(1,240マイル)離れた地点から識別できる可能性がある。この研究は、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の向上を示唆している。

 この研究は、中国のミサイル・宇宙開発に関与する長春光学精密機械与物理研究所(CIOMP)の研究者によって行われた。研究チームは、F-35が関与する台湾周辺の模擬戦闘シナリオにおける赤外線シグネチャを分析し、その結果を2024年5月に中国語の学術誌『航空航天技術』に発表した。

 研究によると、F-35はレーダー吸収コーティングや外装の冷却によって、機体の平均温度を281K(7.85℃または46℉)程度に抑え、従来の探知手法では発見されにくい。しかし、エンジンの排気プルーム(排気ガスの噴出領域)は約1,000Kに達し、機体表面よりも赤外線放射が3桁大きいことが判明した。

 研究チームは、大気による干渉が少ない2.8~4.3μmの波長帯に着目し、水銀カドミウムテルル(HgCdTe)検出器と口径300mmの望遠鏡を使用することで、飛行船が高度20kmでホバリングしている状態で、F-35を側面または後方から1,800km以上の距離で探知できる可能性を示した。

 ただし、F-35の前方からの探知距離は350km程度に制限される。これは、同機のステルス設計により、正面方向の熱放射が抑えられているためである。

【詳細】

 中国の成層圏飛行船によるF-35探知能力についての研究

 研究の概要

 中国の長春光学精密機械与物理研究所(CIOMP)の研究者は、成層圏飛行船に搭載する赤外線探知システムを用いることで、アメリカ製のF-35戦闘機を約2,000km(1,240マイル)離れた地点から識別できる可能性があると主張している。この研究結果は、2024年5月に中国語の学術誌『航空航天技術』に発表された。

 F-35は第5世代戦闘機に分類され、ステルス技術を備えているため、従来のレーダー探知を回避する設計となっている。しかし、研究チームは、F-35の排気プルーム(排気ガスの噴出領域)が高温となり、赤外線放射を発する点に着目した。

 研究の詳細

 F-35のレーダー吸収コーティングや外装冷却により、機体表面の平均温度は**281K(7.85℃または46℉)**程度に抑えられている。このため、通常の赤外線探知技術では機体そのものを識別するのは困難である。しかし、エンジンの排気プルームは約1,000K(726.85℃)に達し、機体よりも3桁(1,000倍)強い赤外線放射を放つことが判明した。

 研究者は、この赤外線放射を利用すれば、F-35の探知が可能であると結論付けた。特に、大気による干渉が少ない**2.8~4.3μmの中波赤外線(MWIR)**の波長帯を利用すれば、長距離からでも高精度の探知が可能であるとしている。

 探知システムの構成

 研究チームは、以下の装備を組み合わせてF-35の赤外線探知を行った。

 ・水銀カドミウムテルル(HgCdTe)検出器:高感度の赤外線検出に適しており、特に中波赤外線(MWIR)の範囲に強い。
 ・口径300mmの望遠鏡:高解像度で遠距離の赤外線シグネチャを捉えるために使用。
 ・成層圏飛行船(高度20km):大気の影響を受けにくく、長時間滞空が可能なため、広範囲の監視に適している。

 このシステムにより、飛行船が高度20kmでホバリングしている状態で、F-35を側面または後方から最大1,800km以上の距離で探知できると試算された。

 探知角度による影響
 
 ・側面・後方からの探知(最大1,800km以上)
  ➡️エンジン排気プルームが直接観測できるため、高温の赤外線放射が検出しやすい。

 ・正面からの探知(最大350km)
  ➡️ステルス設計により前方の熱放射が抑えられているため、探知距離が大幅に短縮される。

 研究の意義と影響

 この研究結果は、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略にとって重要な意味を持つ。F-35はアメリカ軍の主力戦闘機であり、日本や台湾を含む同盟国にも配備されている。この機体を長距離から探知できる技術が実用化されれば、中国はより効果的に空域を監視し、F-35の行動を制限できる可能性がある。

 また、成層圏飛行船を活用することで、従来の地上配備型レーダーよりも広範囲の監視が可能となり、ステルス機に対する新たな探知手法の確立につながる可能性がある。

 ただし、実際の運用においては、大気の影響やF-35の飛行パターン、電子戦対策などの要素も考慮する必要がある。今回の研究は理論的なシミュレーションに基づくものであり、実戦環境でどの程度の精度を持つのかは、さらなる検証が求められる。
 
【要点】

 中国の成層圏飛行船によるF-35探知能力について

 研究の概要

 ・中国の長春光学精密機械与物理研究所(CIOMP)が成層圏飛行船を用いたF-35の赤外線探知技術を研究。
 ・2024年5月、中国語の学術誌『航空航天技術』に研究結果を発表。
 ・F-35のステルス技術はレーダー探知を回避できるが、エンジンの排気プルームの赤外線放射により遠距離探知が可能であることを示唆。

 F-35の赤外線特性

 ・機体のレーダー吸収コーティングと冷却により、表面温度は**281K(7.85℃)**に抑えられる。
 ・一方、エンジンの排気プルームは約1,000K(726.85℃)に達し、機体よりも1,000倍強い赤外線放射を放つ。
 ・2.8~4.3μmの中波赤外線(MWIR)の波長帯を利用することで、大気干渉を受けにくく長距離探知が可能。

 探知システムの構成

 ・水銀カドミウムテルル(HgCdTe)検出器:高感度の赤外線探知に適したセンサー。
 ・口径300mmの望遠鏡:遠距離の赤外線シグネチャを高解像度で観測。
 ・成層圏飛行船(高度20km):長時間滞空が可能で広範囲を監視できる。

 探知距離と方向

 ・側面・後方からの探知:最大1,800km以上で探知可能。
  ➡️排気プルームの強い赤外線放射を直接観測できるため、識別しやすい。

 ・正面からの探知:最大350km。
  ➡️ステルス設計により前方の熱放射が抑えられ、探知距離が短縮。

 研究の意義と影響

 ・接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略においてF-35のステルス性能を無効化する可能性。
 ・F-35はアメリカ軍や日本・台湾などの同盟国に配備されており、中国の防空戦略に影響を与える可能性。
 ・成層圏飛行船による広域監視により、従来の地上配備型レーダーでは困難な探知が可能になる。
 ・実戦環境での精度や大気の影響、F-35の電子戦対策など、さらなる検証が必要。

【引用・参照・底本】

China’s stratospheric airship can detect American F-35 fighter from nearly 2,000km: study SCMP 2025.02.11
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3298181/chinas-stratospheric-airship-can-detect-american-f-35-fighters-1800km-study?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-focus_sea_ru&utm_content=20250214&tpcc=enlz-focus_sea&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&tc=15

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