セルビア・コソボ・EU・米国2025年02月28日 22:21

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【概要】

 セルビアの最新の国連総会における反ロシア決議に対する投票は、セルビアに強い影響力を持つ三大国のうち二国に対する重大な判断ミスを示しており、その結果、ヴチッチ大統領は「誤り」であると説明した。この説明はロシアのペスコフ報道官によって受け入れられたが、このスキャンダルには予想以上に深い意味がある。国連総会の投票は、誤って行われることはなく、またそれ自体は象徴的なものであり、実際に重要なのは国連安全保障理事会(UNSC)の決定である。それに加えて、セルビアはこれまでにも反ロシアの決議に賛成票を投じており、ヴチッチはそれを「誤り」とは認めていなかった。

 セルビアが支持した反ロシアの決議には、2022年3月の特別軍事作戦を非難する決議、同月のロシアによる人道的危機の創出を非難する決議、2022年4月のロシアの人権理事会からの排除、2022年10月のロシアによるウクライナ領土の併合を非難する決議、2023年2月のウクライナからの一方的撤退をロシアに要求する決議などが含まれる。これらの決議にセルビアは賛成したが、2022年11月のロシアからの賠償要求決議には唯一反対し、その理由はコソボに悪用されることを懸念したためであった。

 セルビアの反ロシア決議に対するほぼすべての支持がロシアとの関係に悪影響を及ぼすことはなかった。ロシアはこれらの投票が西側諸国の圧力下で行われたと認識しており、国連総会の決議が象徴的なものであることも理解している。ロシアにとって重要なのは、セルビアが西側の制裁に従わず、ウクライナへの武器供与を間接的に行ったとの報道があったことをヴチッチが否定しても、セルビアが西側の制裁に抵抗し続けることであった。

 驚くべきことに、セルビアの最新の投票は、アメリカ合衆国とロシアが国連総会の反ロシア決議を拒否したのとは異なり、欧州連合(EU)の立場に合わせたものであった。アメリカが同日の後に安全保障理事会で中立的な決議を支持するためにロシアと再び協力したことと対照的である。このことは、セルビアがこれまでにないほどEUの圧力を感じていたことを示唆している。

 セルビアがもしアメリカの方針を優先していれば、国連総会での反ロシア決議に対して、アメリカと共に投票し、ロシアとの立場を一致させた可能性が高かった。それにもかかわらず、セルビアはEUの立場に合わせて投票した。この点が最も注目すべき点であり、トランプ政権下でセルビア・コソボ問題に関与したリック・グレネル元特使がコソボの指導者と対立していることは、セルビアにとって有利な状況である。

 セルビアが三大国のうち二国に逆らったことは重大な判断ミスであり、ヴチッチはその誤りを自ら認識したか、あるいはアドバイザーから指摘された可能性がある。この「誤り」という説明は、ロシアに向けたものではなく、アメリカとの関係を重視した結果であった。セルビアは、アメリカとEUの間に存在する亀裂が現実のものであり、その影響がセルビアの利益に大きな影響を与える可能性があることを認識したため、政策を修正したのである。

 ヴチッチは投票後、セルビアのウクライナ紛争に対する政策を早急に調整したが、それが遅れても、今後のコソボ問題に与える影響を注視する必要がある。

【詳細】

 セルビアの最新の国連総会(UNGA)における反ロシア決議への投票に関して、セルビアのヴチッチ大統領が「誤り」としてその投票結果を説明したことは、国際的に大きな関心を集めた。この「誤り」についての説明は、ロシア側のペスコフ報道官によっても受け入れられたが、その背後には予想以上に複雑な国際政治の動きがある。

 1. セルビアの歴史的な投票行動

 まず、セルビアは過去にも反ロシアの決議に賛成してきた。例えば、2022年3月にはロシアの特別軍事作戦を非難する決議に賛成し、同月にはロシアによる人道的危機を非難する決議にも賛成した。その後も、2022年4月にはロシアを国連人権理事会から排除する決議、2022年10月にはロシアによるウクライナの領土併合を非難する決議、2023年2月にはロシアにウクライナからの一方的撤退を求める決議に賛成した。しかし、セルビアは2022年11月のロシアに対する賠償請求を求める決議には反対票を投じた。この反対の理由は、セルビアがコソボ問題を懸念していたためである。

 セルビアがこれらの反ロシア決議に賛成したことが、ロシアとの関係に重大な悪影響を与えることはなかった。ロシアは、これらの投票が西側諸国からの圧力の結果であると認識しており、国連総会の投票自体は象徴的なものであるため、実質的にはセルビアの行動に対して寛容であった。特に、セルビアが欧米の制裁を遵守せず、ロシアとの経済的・軍事的な関係を維持している点が重要視されていた。

 2. 最新の反ロシア決議への投票とその影響

 セルビアが最新の国連総会における反ロシア決議に賛成したことは、他の決議とは異なり注目を集めた。特に、アメリカとロシアが共に反対票を投じ、ロシアとの外交的協力を維持していたのに対し、セルビアはEUの立場に合わせて投票したことが非常に印象的である。セルビアがアメリカの方針に従わず、EUの方針に沿って投票した背景には、EUからの圧力を強く感じていたことがある。

 これまでセルビアは、アメリカとロシアの対立の中でバランスを取るような立場を取っていたが、今回の投票ではその立場が明確に変化した。アメリカがロシアと共同で反対票を投じたことや、UNSCでの中立的な決議が支持されたことは、セルビアにとって重要な外交的な兆候であった。セルビアがEU側に接近することは、今後の外交関係において重要な転機を意味する。

 3. ヴチッチ大統領の「誤り」の説明

 ヴチッチ大統領は、セルビアの反ロシア決議への賛成票を「誤り」として説明したが、この説明には外交的な意図が含まれている可能性が高い。ヴチッチは、この説明をロシアに向けたものとして行ったわけではなく、むしろアメリカとの関係を重視した結果であったと考えられる。ロシアは過去の反ロシア決議に対して寛容であったが、セルビアがアメリカに対してより親密な立場を取ることが、ロシアとの関係にどのような影響を与えるかは不明である。

 ヴチッチは、この「誤り」という言い訳を通じて、アメリカとの関係を修復しようとした可能性がある。アメリカとの関係を強化することが、セルビアにとって重要な戦略的選択肢であることを認識しており、そのためにはEUとの外交的協調を選ぶことが有利だと判断したのだろう。

 4. EUとアメリカの間の戦略的亀裂

 セルビアがEU側に近づいた背景には、アメリカとEUの間で新たな戦略的亀裂が生じていることが影響している。この亀裂は、ロシアとアメリカの間に新たなデタント(緊張緩和)が生まれていることによって顕著になっている。このような状況下で、セルビアはアメリカとEUの間でどちらの立場を取るべきかというジレンマに直面している。セルビアがEU側に投票したことは、今後の外交戦略における重要な選択肢を示唆している。

 5. コソボ問題への影響

 セルビアの外交政策の重要な要素は、コソボ問題である。ヴチッチ大統領がアメリカとの関係を強化することを選んだ場合、コソボ問題への影響が大きくなる可能性がある。アメリカはコソボ独立を認めている一方で、ロシアはコソボをセルビアの一部として支持している。このため、セルビアがアメリカとの関係を深めることは、コソボ問題における立場にも影響を与えるだろう。

 まとめ

 セルビアが最新の反ロシア決議に賛成したことは、単なる「誤り」ではなく、セルビアの外交政策における重要な転換点を示す出来事である。ヴチッチ大統領は、アメリカとEUの間の戦略的亀裂を考慮し、セルビアの利益を最優先に考えた結果、EU側に立つことを選んだ。今後、この政策変更がコソボ問題やセルビアの国際的な立場にどのように影響するかが注目される。

【要点】

 1.セルビアの投票履歴

 ・セルビアは過去に複数回、反ロシアの国連総会決議に賛成してきた。例として、2022年3月のロシアの特別軍事作戦非難、2022年4月のロシアを国連人権理事会から排除、2022年10月のロシアによる領土併合非難などがある。
 ・例外的に、2022年11月のロシアへの賠償請求決議には反対した。この投票は、セルビアがコソボ問題を懸念していたためである。

 2.ロシアとの関係

 ・セルビアの反ロシア決議への賛成は、ロシアとの関係に直接的な悪影響を与えることはなかった。ロシアは、セルビアが西側からの圧力の下で投票していると認識し、国連総会での投票は象徴的なものであると見なしていた。
 ・セルビアが欧米の制裁を避け、ロシアとの経済的・軍事的な関係を維持していることが重視されている。

 3.最新の反ロシア決議に賛成した背景

 ・セルビアは、アメリカとロシアが共に反対票を投じた決議に対し、EU側に賛成票を投じた。
 ・これにより、セルビアはアメリカの方針ではなく、EUの方針に従ったことが示され、特にEUからの圧力が強く影響したと考えられる。

 4.ヴチッチ大統領の「誤り」の説明

 ・ヴチッチ大統領はセルビアの投票を「誤り」として説明し、この言い訳をロシアではなく、アメリカに対して行った可能性が高い。
 ・セルビアがアメリカとの関係を強化したいという意図が背景にあり、ロシアとの関係を考慮した上での調整であった。

 5.アメリカとEUの戦略的亀裂

 ・現在、アメリカとEUの間で戦略的な亀裂が生じており、特にロシアとの「新しいデタント(緊張緩和)」が影響している。
 ・セルビアは、この亀裂を踏まえ、EU側に立つことを選んだ可能性が高い。

 6.コソボ問題への影響

 ・セルビアがアメリカとの関係を深めることは、コソボ問題に対する立場に影響を与える可能性がある。
 ・アメリカはコソボの独立を支持している一方、ロシアはコソボをセルビアの一部として支持しているため、セルビアの外交政策の変化がコソボ問題にも関連してくる。

 7.まとめ

 ・セルビアの反ロシア決議への賛成は、単なる「誤り」ではなく、セルビア外交政策の転換を示しており、EU側に立つことでアメリカとの関係を強化しようとした結果である。
 ・今後、この政策変更がセルビアの国際的立場やコソボ問題にどのような影響を与えるかが注目される。

【参考】

 ☞ コソボとセルビアの関係は、歴史的、民族的、政治的に非常に複雑で緊張している。

 1. 歴史的背景

 ・オスマン帝国時代

 コソボはかつてオスマン帝国の一部であり、16世紀から19世紀まで支配されていた。この時期、コソボにはアルバニア人が多く移住し、民族構成が変化した。

 ・セルビア王国時代

 コソボは中世のセルビア王国の中心地の一つであり、セルビアにとって宗教的・歴史的に非常に重要な地域でした。特に、1389年の「コソボの戦い」はセルビア人にとって象徴的な戦争の一つであり、セルビア民族の誇りと深く結びついている。

 ・ユーゴスラビア時代

 第二次世界大戦後、コソボはユーゴスラビアの一部となり、その後、セルビアの一部として統治された。コソボのアルバニア人は、ユーゴスラビア時代を通じて民族的・文化的な独自性を維持し、次第にセルビア政府との対立が深まっていった。

 2. コソボ戦争と独立宣言

 ・1990年代の民族紛争

 1990年代、コソボはセルビアとアルバニア人の間で激しい対立を見せ、特に1998-1999年のコソボ戦争が重要な転換点となる。この戦争は、アルバニア人の独立を求める運動とセルビアの支配に対する反発が激化し、NATO軍がセルビアに対して空爆を行う結果となった。

 ・コソボの独立宣言

 2008年、コソボは一方的に独立を宣言した。この宣言はセルビア政府から強く反発され、セルビアはコソボの独立を認めていない。一方で、多くの国、特にアメリカ合衆国とEU諸国はコソボの独立を承認したが、ロシアや中国など一部の国々は反対している。

 3. 現在の関係

 ・セルビアの立場

 セルビア政府は、コソボを自国の一部と見なしており、その独立を決して認めていない。セルビアは国際社会でコソボの独立承認に反対し、特に国連での承認を防ぐために外交的努力を続けている。コソボ問題は、セルビアにとって非常に敏感で、国内政治にも大きな影響を与えている。

 ・コソボの立場

 コソボ政府は独立を強く主張し、EU諸国やアメリカとの関係を築いている。しかし、セルビアやロシアをはじめとする一部の国々はコソボの独立を認めておらず、国際的な承認が完全ではない。

 4. 国際社会の関与

 ・EUとの交渉

 セルビアとコソボは、EUの仲介で数回の交渉を行っているが、両者の立場の違いが大きいため、解決には時間がかかっている。EUは、セルビアがコソボを認めることを加盟条件の一つとして求めており、これがセルビアのEU加盟への障害となっている。

 ・アメリカとロシアの役割

 アメリカはコソボの独立を強く支持しており、EUとともにコソボを承認している。一方、ロシアはセルビアの立場を支持し、コソボの独立に反対している。ロシアの影響力は、特に国連安保理でコソボ問題が議論される際に重要となる。

 5. 政治的・経済的影響

 ・セルビア国内の反応

 コソボ問題はセルビア国内の政治にも大きな影響を与えており、コソボの独立を認めることへの反発は強い。政治家たちは、コソボ問題を国内のナショナリズムや国民感情に訴えるために利用することが多く、政府の政策にも影響を与えている。

 ・コソボの国際的地位

 コソボは、独立宣言後も完全な国際的承認を得ていないため、国際的な地位が不安定である。セルビアが国際的な場でコソボの承認を阻止し続ける限り、コソボは完全な国家としての地位を確立するのは難しいとされている。

 6. 最近の動向

 ・セルビアとEUの関係

 セルビアはEU加盟を目指しているが、コソボ問題が大きな障害となっている。EUはセルビアに対し、コソボとの関係改善を求めており、これが交渉の進展を難しくしている。

 ・セルビアとロシアの関係

 セルビアはロシアとの伝統的な友好関係を維持しており、コソボ問題ではロシアが支援する立場をとっている。ロシアのサポートは、セルビアにとって重要な外交的支柱となっている。

 まとめ

 コソボとセルビアの関係は、民族的、歴史的、政治的な背景に基づく深刻な対立を含んでおり、解決には長い時間がかかる可能性が高い。セルビアはコソボを自国の一部として主張し続けており、国際的な承認問題とともに、両国の関係は今後も厳しい状況が続くと考えられる。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Analyzing The Scandal Over Serbia’s Latest Anti-Russian Vote At The UNGA Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.26
https://korybko.substack.com/p/analyzing-the-scandal-over-serbias?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157947310&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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