セルビア:「国民モデルの民主主義」に内在する問題2024年08月11日 19:53

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【概要】
 
 アンドリュー・コリブコは、セルビアにおける最近の騒乱は、アレクサンダル・ヴチッチ大統領の下でのセルビアの統治内の組織的な問題に起因する可能性があると主張している。彼は、状況の根源をセルビアの「民主主義の国家モデル」にさかのぼり、リオティントのリチウム採掘ライセンスを復活させるという物議を醸す決定が、最新の抗議行動の主要な引き金となったことを強調している。コリブコによれば、この決定は、愛国的な勢力、環境保護主義者、欧米が支援する資産など、様々な反政府活動家を政治的に動員したという。

 コリブコは、あらゆる抗議行動を「カラー革命」とレッテルを貼り、反対意見を弾圧する政府のアプローチが緊張を悪化させていると強調する。彼は、この戦略は、市民が不満を表現するための実行可能な手段の欠如と相まって、不信感と政治的エスカレーションのサイクルを生み出したと示唆している。その結果、セルビアは、新たな政権交代の瀬戸際に絶えずいるように見え、真の不満が、下心を持つ人々によって利用されている。

 コリブコの分析の核心は、セルビア政府が、その行動と政策を通じて、うっかりして、自分たちが恐れているまさにその不安定さの舞台を作り出し、最新の「カラー革命の陰謀」の責任をセルビア政府に負わせたということだ。

【詳細】

 Andrew Korybkoの論考における核心部分は、セルビアの現在の不安定な状況が、主にセルビア政府の内在的な問題に起因しているという点である。以下に、さらに詳細な分析を提供する。

 1. 「国民モデルの民主主義」に基づくシステム的な問題

 Korybkoは、セルビアが抱える問題を「国民モデルの民主主義」として位置付けてい。これは、アレクサンダル・ヴチッチ大統領が首相時代から築いてきた統治スタイルであり、現在ではその影響が色濃く残っている。このモデルは、政府が抗議や異議を制度的に抑制し、国民の不満を適切に吸収する「圧力弁」が欠如しているとKorybkoは指摘している。その結果、国民が不満を表明するための唯一の手段として、抗議活動が残されているとしている。

 2. リオ・ティント社とのリチウム採掘ライセンスの復活

 今回の抗議活動の引き金となったのは、セルビア政府が2022年に撤回されたリオ・ティント社のリチウム採掘ライセンスを、2024年7月に再び許可したことである。この決定は、国民の間で広く不評を買い、環境への影響や経済的な不公正さを懸念する声が高まった。特に、この決定が腐敗や西側の圧力によるものであるとの見方が広がり、抗議活動が活発化した。

 3. カラー革命の脅威と実際の愛国的勢力の台頭

 Korybkoは、リオ・ティント社の件に端を発した抗議活動には、愛国的勢力や環境保護団体、そして西側の影響を受けたグループが参加していると指摘する。しかし、これらの勢力は一枚岩ではなく、それぞれ異なる目標を持って行動している。この多様な抗議活動は、西側の「カラー革命」のシナリオに利用される可能性が高く、そのためロシアがクーデターの可能性について警告を発したとされている。

 カラー革命のシナリオでは、主に西側の支援を受けたグループが他の抗議者を「人間の盾」として利用し、国家による強制手段を避けながら政権奪取を試みることが一般的である。しかし、Korybkoは、セルビアにおいては実際に多くの抗議者がカラー革命に加担しているわけではなく、愛国的勢力や一般市民が自身の主張をするために参加していると述べている。

 4. 政府の反応と自己成就的予言のリスク

 セルビア政府は、抗議活動を「カラー革命」として恐怖を煽り、その結果、抗議活動に参加すること自体が抑制されるような状況を作り出しているとKorybkoは分析する。これにより、実際の選挙における不正操作がしやすくなる可能性があり、政府のこのような対応は自己成就的な予言を生み出すリスクを伴う。

 ヴチッチ政権が抗議活動をすべて「カラー革命」として描くことは、国民の抗議活動への参加意欲を削ぎ、その結果、抗議活動の抑制に成功するかもしれない。しかし、これにより不満は蓄積され続け、最終的には大規模な抗議や暴動が発生する可能性が高まる。このように、政府の対応が逆効果を生み出し、セルビアは常に新たな政権交代の危機に瀕しているように見える状況が生まれている。

 5. 結論: セルビア政府の責任

 Korybkoは、今回の状況において、セルビア政府が自ら不安定な状況を招いたと結論付けている。リオ・ティント社との契約の復活や、抗議活動への過剰な反応が、結果として反政府勢力の結集を促し、最終的には政府自身にとっての脅威となっているというのが、彼の主張である。

 この分析に基づくと、セルビアの不安定な状況は、外部からの圧力だけでなく、内部からの統治の問題に根ざしており、政府自身がその一部を助長していることが明らかになる。

【要点】

 ・セルビアのシステム的な問題: ヴチッチ大統領の下で構築された「国民モデルの民主主義」により、国民の不満を吸収する「圧力弁」が欠如している。

 ・リオ・ティント社とのリチウム採掘契約: セルビア政府がリオ・ティント社のリチウム採掘ライセンスを復活させたことが、抗議活動の引き金となった。

 ・抗議活動の多様性: 抗議活動には愛国的勢力、環境保護団体、そして西側の影響を受けたグループが参加しており、それぞれが異なる目標を持っている。

 ・カラー革命のリスク: 西側の支援を受けたグループが、他の抗議者を「人間の盾」として利用し、政権奪取を試みる可能性がある。

 ・政府の過剰反応とリスク: セルビア政府が抗議活動を「カラー革命」として描くことが、逆に不満を蓄積させ、大規模な抗議を招くリスクを高めている。

 ・セルビア政府の責任: 政府自身が、リオ・ティント社との契約や抗議活動への過剰な対応を通じて、不安定な状況を招いている。

【参考】

 ➢ 「国民モデルの民主主義」という言葉は、特定の国やリーダーが独自に構築した統治の形態を指す場合に使われる。セルビアにおける「国民モデルの民主主義」とは、アレクサンダル・ヴチッチ大統領が確立した特有の政治システムを表すものである。

 特徴

 ・集中化された権力: 権力が一人のリーダーまたは少数のエリートに集中する傾向がある。ヴチッチ大統領は、首相時代から現在の大統領職に至るまで、政治権力を強化し、重要な意思決定をコントロールしている。

 ・反対意見の抑制: 政府は、メディアや市民社会の監視を厳しくし、反対意見や抗議活動を抑え込むことで、体制を維持している。これにより、国民が不満を表明するための合法的な手段が限られている。

 ・抗議活動への対処: 政府は、抗議活動や反対運動を「カラー革命」として描くことで、国民の恐怖心を煽り、抗議への参加を抑制しようとする。これにより、実際の政権交代の可能性を防ごうとする意図が見られる。

 ・選挙の信頼性に対する疑念: 一部の批評家は、選挙において不正や不透明な操作が行われている可能性を指摘している。政府は頻繁に反対派を抑え込むため、選挙結果の正当性に疑問が投げかけられることがある。

 結果

 このような「国民モデルの民主主義」は、短期的には政権の安定を保つ手段となるかもしれないが、長期的には国民の不満が蓄積し、社会の不安定化を招くリスクがある。抗議活動や反対勢力の抑圧は、結果的に大規模な抗議や政権交代の危機を引き起こす可能性があり、これはセルビアの現状においても見られる懸念である。

 ヴチッチ政権の「国民モデルの民主主義」は、政府が国民の意見を真摯に受け止め、適切な対応を取らない限り、自己成就的な予言となり得る危険性を孕んでいる。

 ➢ リオ・ティント社(Rio Tinto)は、世界最大級の鉱業会社の一つで、金属や鉱物の探査、採掘、加工を行う多国籍企業である。本社はイギリスとオーストラリアにあり、世界各地で鉱山事業を展開している。

 主な事業内容

 ・鉱物の採掘: リオ・ティント社は、鉄鉱石、アルミニウム、銅、ダイヤモンド、金、ウランなど、多様な鉱物資源の採掘を行っている。

 ・リチウムの採掘: 特に近年では、電気自動車のバッテリーなどに使用されるリチウムの採掘が注目されている。リオ・ティント社は、このリチウムの供給を増やすために、セルビアなどでのリチウム採掘プロジェクトを推進している。

 セルビアでのプロジェクト

 ・セルビアでのリチウム採掘計画: リオ・ティント社は、セルビアでリチウム採掘を行うためのライセンスを取得し、そのプロジェクトを進めていた。しかし、環境への影響や地元住民の反発を受け、2022年に一度このライセンスは取り消された。

 ・ライセンスの復活: 2024年7月、セルビア政府はリオ・ティント社のライセンスを再び許可した。これが今回の抗議活動の大きな引き金となり、政府への批判が強まった。

 社会的・環境的影響

 ・環境問題: リオ・ティント社は、環境への影響をめぐって多くの批判を受けてきた。鉱業プロジェクトが環境に与える影響や、地元コミュニティへの影響が大きな問題となっている。

 ・社会的責任: 企業としての社会的責任も問われており、特に環境保護や地元住民との関係構築が重要な課題となっている。

 リオ・ティント社のセルビアでの活動は、経済的には重要なものとされている一方で、環境や社会への影響が大きな議論を呼んでおり、今回の抗議活動の根本的な原因の一つとされている。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

The Forgotten History of the Financial Crisis Andrew Korybko's Newsletter 2024.08.11
https://korybko.substack.com/p/the-serbian-government-is-inadvertently?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=147575438&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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