米・ロ:和平交渉における五つの重要な対立点 ― 2025年04月28日 18:18
【概要】
ロシアによる民間人地域への爆撃
トランプは、ロシアが民間人地域を爆撃し続けることを批判した。この点について、プーチンはウクライナの兵士を標的にしていると説明していたが、和平交渉が進行中の中で、民間人への攻撃が続いていることがトランプに強い印象を与え、プーチンの和平へのコミットメントに疑念を抱かせる結果となった。
ウクライナにおける欧州の平和維持軍
アメリカの和平案には、ウクライナにおける欧州の平和維持軍の展開が含まれていると報じられているが、ロシアはこれに反対している。ロシアは、欧州側がアメリカを引き込んで任務が拡大することを懸念しており、プーチンはトランプにこの案を取り下げるよう求めている。
ウクライナの非軍事化
ウクライナが非軍事化する義務が課されるかどうかが不明である。この点について、トランプはロシアに対して反発を示しており、ウクライナの非軍事化が将来的にプーチンが戦争を再開するきっかけになることを懸念している。しかし、ロシアにとっては、この要求を放棄することは容易ではない。
ウクライナの領土問題
アメリカがロシアの要求であるウクライナの占領地から撤退させることを拒否している点も大きな対立点である。ロシアは、2022年9月の住民投票を経て、これらの地域をロシア領と認定しており、撤退を求めることはロシアにとっては譲れない問題である。
ザポリージャ原子力発電所とカホフカダムの引き渡し
アメリカの和平案には、ロシアに対してザポリージャ原子力発電所とカホフカダムをアメリカに引き渡すことを求める内容が含まれており、これもプーチンには受け入れがたい要求である。ロシアにとって、これらの要求は前述の問題と同様に譲れないものであり、交渉を難しくしている。
これらの五つの対立点が積み重なったことで、和平交渉は難航しており、もしプーチンとトランプがこれらの問題を解決できなければ、和平プロセスは破綻する可能性が高い。また、トランプがゼレンスキーを説得して新しい合意を受け入れさせることも難しいため、このまま交渉が停滞すれば、戦争の終結は遠のくことになるだろう。
【詳細】
トランプがプーチンに対して怒りを示すようになった理由として、和平交渉における五つの重要な対立点がある。それぞれについて、さらに詳しく説明する。
1.ロシアの民間人地域への爆撃
トランプは、ロシアがウクライナの民間人地域を爆撃し続けていることを強く批判した。プーチンは、爆撃の対象はウクライナの軍隊であると主張していたが、民間人を巻き込んだ攻撃が続いていることが、和平交渉において非常に悪い印象を与えた。特に、アメリカとロシアの間で進められていた和平交渉の最中にこうした行動が続いたことは、トランプにとってプーチンの和平に対する真剣さを疑わせる原因となった。このため、トランプはプーチンに対して「戦争を止めたくないのではないか、ただ私を引き延ばしているだけなのではないか」と考え始め、プーチンの和平の意図に疑念を抱くようになった。
2.ウクライナへの欧州平和維持軍の派遣
アメリカの最新の和平案では、ウクライナに欧州の平和維持軍を派遣することが提案されている。しかし、ロシアはこれに強く反対している。ロシアは、欧州側がアメリカを操り、任務が拡大していくことを懸念しており、欧州の平和維持軍の派遣が、最終的にウクライナでの戦闘を長引かせる原因になるのではないかと心配している。特に、アメリカがNATOの義務に基づき、欧州平和維持軍を守るために介入することをロシアは警戒している。このため、プーチンはこの点を明確に排除するようトランプに求めており、アメリカがその提案を撤回しない限り、交渉は難航するだろう。
3.ウクライナの非軍事化
ウクライナが非軍事化する義務を負うかどうかも重要な問題である。2022年春に行われた和平交渉では、ウクライナは部分的に非軍事化することに同意していたが、その後の交渉の失敗により実現しなかった。この点について、ロシアはウクライナの非軍事化を求めているが、トランプはこれに強い懸念を示している。トランプは、ウクライナの非軍事化が将来的にロシアの攻撃を再開させるきっかけになるのではないかと心配しており、この要求を受け入れることに対して消極的である。また、ロシアにとっては、ウクライナの非軍事化は戦争の終結条件として欠かせない要素であり、この点を譲ることは難しい。
4.ウクライナの領土問題
ロシアは、ウクライナが占領している領土を引き渡すことを求めている。特に、2022年9月の住民投票を経て、ロシアはこれらの地域をロシア領として正式に認定しており、その返還を求めることはロシアにとって譲れない問題となっている。しかし、アメリカはこの要求に応じていない。アメリカ側は、ウクライナに領土を引き渡させることは「非現実的で達成不可能だ」と見ており、これがロシアとアメリカの間で対立を生んでいる。この要求をロシアが撤回しない限り、交渉は進展しにくい状況が続く。
5.ザポリージャ原子力発電所とカホフカダムの引き渡し
アメリカの和平案では、ロシアに対してザポリージャ原子力発電所とカホフカダムをアメリカに引き渡すことが求められている。しかし、これもプーチンにとって受け入れがたい要求である。ロシアにとって、これらの重要な施設をアメリカに引き渡すことは国の主権を侵害されることに等しく、これに同意することは絶対にないと考えている。ザポリージャ原子力発電所はロシアにとって戦略的に重要な施設であり、その支配権を失うことはロシアにとって大きな痛手となる。
これらの五つの対立点は、ロシアとアメリカ、そしてウクライナの間で解決すべき重要な問題であり、これらの問題が解決しない限り、和平交渉は成立しないと予想される。特に、ロシアとアメリカの間でこれらの問題をどのように調整するかが、和平の成否を左右する要因となる。トランプとプーチンがこれらの対立を解決し、ゼレンスキーを説得して新しい合意に合意させることができるかどうかが、今後の和平交渉の成否を決定するだろう。
【要点】
1.ロシアの民間人地域への爆撃
・トランプはロシアの民間人地域への爆撃を批判。
・プーチンは「ウクライナの兵士を標的にしている」と主張するが、民間人が巻き込まれ続けることでトランプはプーチンの和平への真剣さに疑念を抱く。
2.ウクライナへの欧州平和維持軍の派遣
・アメリカの和平案には、ウクライナへの欧州平和維持軍の派遣が含まれるが、ロシアはこれに反対。
・ロシアは欧州側がアメリカを操り、任務が拡大することを懸念しており、これが和平交渉の障害となっている。
3.ウクライナの非軍事化
・ロシアはウクライナの非軍事化を求めるが、トランプはこれが将来的にロシアの攻撃を再開させる懸念を抱く。
・ロシアにとっては、非軍事化が戦争終結の条件であり、譲ることは難しい。
4.ウクライナの領土問題
・ロシアはウクライナの占領地の返還を求め、アメリカはこれを拒否。
・2022年9月の住民投票でロシアが領土をロシア領として認定したため、ロシアは譲歩できない。
5.ザポリージャ原子力発電所とカホフカダムの引き渡し
・アメリカの和平案にはロシアがザポリージャ原子力発電所とカホフカダムをアメリカに引き渡すことが求められている。
・これもロシアにとって受け入れがたい要求であり、国の主権に関わるため、ロシアは拒否している。
【桃源寸評】
アメリカがこれまでに行った調停には、その力を背景にした側面が強いものが多いと言える。アメリカの外交政策は、しばしばその経済的、軍事的、政治的な影響力を活用して調停を進めてきた。そのため、アメリカの調停が必ずしも「無理強い」や「圧力」ではないにしても、その影響力を駆使した形で進められたケースが多い。以下、アメリカが調停者として関与した主なケースを振り返りながら、その背景にあるアメリカの力について詳しく考察する。
1. キャンプ・デービッド合意(1978年)
アメリカの力の活用: キャンプ・デービッド合意は、アメリカが外交的に極めて強い立場を利用して成功した例である。ジミー・カーター大統領は、アメリカが中東の安全保障において重要な役割を担っていたことを背景に、エジプトとイスラエルの両国を圧倒的な影響力で交渉に引き込んだ。
アメリカの影響: アメリカは経済的・軍事的支援を武器に、エジプトにはシナイ半島の返還を保証し、イスラエルには安全保障を提供することで、合意を導いた。この合意は、アメリカの国際的なリーダーシップを象徴するものとはなった。
2. デトロイト協定(1995年)
アメリカの力の活用: ボスニア内戦の終結に向けて、アメリカは NATOを含む多国籍軍を指導し、軍事的にも強い立場を利用した。クリントン政権は、アメリカが持つ軍事的圧力を背景に、交渉を有利に進めた。
アメリカの影響: アメリカの調停が成功した要因の一つは、ボスニアの各勢力に対するアメリカの強い圧力と、和平を強制するための軍事的な力が背景にあったからである。このようなアメリカの力を使った調停には、依然として大きな政治的な影響力が色濃く表れている。
3. パナマ運河条約(1977年)
アメリカの力の活用: パナマ運河問題に関して、アメリカは当初、その支配権を譲ることに対して消極的であったが、経済的・軍事的な観点から、自国の利益を最大化しながら交渉を行った。アメリカの強い影響力を背景に、パナマに対する譲歩を引き出した形である。
アメリカの影響: アメリカはパナマに対して、運河の返還を条件に、経済的な援助や安全保障を提供するなど、力を背景にした交渉を行った。
4. イラン・アメリカ間の核合意(2015年)
アメリカの力の活用: イラン核合意では、アメリカが経済制裁を強力に課し、それを解決するために外交的な調整を行った。アメリカの経済的な影響力を行使することで、イランを交渉のテーブルに引き出したと言える。
アメリカの影響: アメリカは国際制裁を主導し、イランの核開発を抑制するための強い圧力をかけた。その結果、イランは交渉に応じ、合意が成立したが、その後のアメリカの方針変更(トランプ政権下での合意破棄)によって、合意が不安定になった。
5. 北朝鮮との対話(2018年~2019年)
アメリカの力の活用: トランプ大統領は、北朝鮮に対して強力な経済制裁を課し、その圧力を交渉の一環として利用した。また、軍事的な存在感を示すことで、北朝鮮に対して譲歩を引き出そうとした。
アメリカの影響: アメリカは、北朝鮮に対して圧力をかけながらも、直接対話を進めることで、北朝鮮を交渉の場に引き込むことができた。このような対話の進展も、アメリカの軍事的・経済的な力が背景にあったことは否定できない。
結論
アメリカが調停者として関与した事例において、その力を背景にしたアプローチが多く見られる。特に経済的・軍事的な影響力を駆使する形で、アメリカは交渉を有利に進め、結果的に調停を成功させたことが多い。これらの事例は、アメリカが国際舞台での影響力を調停や交渉に活用していることを示しています。したがって、アメリカの調停が成功したケースにおいては、単なる「中立的な調停者」としての役割以上に、その国力を利用した調停であったと言えるだろう。
・パナマ運河条約
パナマ運河条約(Panama Canal Treaty)は、1977年にアメリカ合衆国とパナマの間で結ばれた国際的な協定で、アメリカがパナマ運河を管理していた状況を改め、運河の返還を行うことを定めました。この条約は、アメリカの影響力が色濃く反映された調整であり、アメリカの力を背景に交渉が進められた。以下にその背景、内容、そしてアメリカの影響力について詳述する。
1. 背景
運河の支配権: パナマ運河は、1914年に開通し、その後アメリカは運河の運営と管理を事実上独占してきた。運河はアメリカの商業的・戦略的に極めて重要な拠点であり、アメリカは運河の管理権を保持し続けていた。しかし、パナマは独立後、運河の支配を巡る不平等感を強め、アメリカとの交渉を要求するようになった。
パナマの主張: 1960年代後半から1970年代初頭にかけて、パナマ国内で運河の返還を求める声が強まり、パナマ政府はアメリカとの交渉を進めた。この時期、アメリカの影響力が徐々に変化していたことも背景にある。
2. 条約の内容
運河の返還: パナマ運河条約において、アメリカは運河の管理権を1977年から1999年にかけてパナマに返還することを決定した。最終的には、1999年12月31日に運河が完全にパナマに移譲されることになった。
運河の使用: アメリカとパナマは、運河の利用についても合意した。アメリカは、運河を商業的・軍事的に使用する権利を保持し続けることができたが、パナマが管理権を持つことになった。
協力的な関係: また、アメリカとパナマは、運河を管理するための共同機関を設立することにも合意し、運河の運営に関して協力する体制を築いた。
3. アメリカの影響力
アメリカの経済的・軍事的利益: アメリカは、運河を管理していたことによって、太平洋と大西洋を結ぶ重要な水路を確保していた。これにより、アメリカの貿易や軍事活動が円滑に行われるようになり、アメリカの国際的な影響力を強化していた。そのため、アメリカは運河の返還に応じる際も、パナマに対して一定の経済的・軍事的な利点を保証する形となった。
パナマへの譲歩: アメリカは、パナマの要求を受け入れ、最終的に運河を返還することを決定したが、この過程でアメリカはパナマに対して経済的援助を提供し、パナマ政府に対する支援を約束した。また、運河がアメリカの国益にとって依然として重要であることから、アメリカの軍事的利益が損なわれないような措置を取った。
4. 結果と影響
政治的な影響: この条約は、アメリカにとって大きな政治的な譲歩を意味した。アメリカはパナマの要求に応じ、最終的にはパナマに運河の管理権を返還したが、その代わりにアメリカの軍事的な利益が確保された。この条約は、アメリカがその影響力を行使しつつ、同時に国際的な約束を果たす形で結ばれた。
パナマの独立性: パナマにとって、運河の返還は国家の独立性を象徴する重要な勝利であった。運河の管理権を取り戻すことは、長年にわたるパナマの独立運動における重要な成果となり、国際的な地位を高めることにもつながった。
アメリカの影響力の移行: ただし、運河の返還はアメリカの影響力の縮小を意味する部分もあった。運河管理の完全な返還は、アメリカの軍事的・経済的影響力の一部をパナマに譲渡する形となったため、アメリカはこれまでのように自由に運河を支配することができなくなった。
結論
パナマ運河条約は、アメリカがその軍事的・経済的な力を背景にして交渉を進めたものの、最終的にはパナマに運河の管理権を返還する形で結ばれた協定である。この調停の過程において、アメリカの力が依然として強く影響しており、その背景にある軍事的・経済的な利益は決して無視できない。しかし、最終的には両国が譲歩し合うことで、アメリカの影響力が保持されつつ、パナマの独立性も尊重される形で合意が成立した。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Five Significant Disagreements Account For Trump’s Newfound Anger With Putin Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.28
https://korybko.substack.com/p/five-significant-disagreements-account?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=162306366&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシアによる民間人地域への爆撃
トランプは、ロシアが民間人地域を爆撃し続けることを批判した。この点について、プーチンはウクライナの兵士を標的にしていると説明していたが、和平交渉が進行中の中で、民間人への攻撃が続いていることがトランプに強い印象を与え、プーチンの和平へのコミットメントに疑念を抱かせる結果となった。
ウクライナにおける欧州の平和維持軍
アメリカの和平案には、ウクライナにおける欧州の平和維持軍の展開が含まれていると報じられているが、ロシアはこれに反対している。ロシアは、欧州側がアメリカを引き込んで任務が拡大することを懸念しており、プーチンはトランプにこの案を取り下げるよう求めている。
ウクライナの非軍事化
ウクライナが非軍事化する義務が課されるかどうかが不明である。この点について、トランプはロシアに対して反発を示しており、ウクライナの非軍事化が将来的にプーチンが戦争を再開するきっかけになることを懸念している。しかし、ロシアにとっては、この要求を放棄することは容易ではない。
ウクライナの領土問題
アメリカがロシアの要求であるウクライナの占領地から撤退させることを拒否している点も大きな対立点である。ロシアは、2022年9月の住民投票を経て、これらの地域をロシア領と認定しており、撤退を求めることはロシアにとっては譲れない問題である。
ザポリージャ原子力発電所とカホフカダムの引き渡し
アメリカの和平案には、ロシアに対してザポリージャ原子力発電所とカホフカダムをアメリカに引き渡すことを求める内容が含まれており、これもプーチンには受け入れがたい要求である。ロシアにとって、これらの要求は前述の問題と同様に譲れないものであり、交渉を難しくしている。
これらの五つの対立点が積み重なったことで、和平交渉は難航しており、もしプーチンとトランプがこれらの問題を解決できなければ、和平プロセスは破綻する可能性が高い。また、トランプがゼレンスキーを説得して新しい合意を受け入れさせることも難しいため、このまま交渉が停滞すれば、戦争の終結は遠のくことになるだろう。
【詳細】
トランプがプーチンに対して怒りを示すようになった理由として、和平交渉における五つの重要な対立点がある。それぞれについて、さらに詳しく説明する。
1.ロシアの民間人地域への爆撃
トランプは、ロシアがウクライナの民間人地域を爆撃し続けていることを強く批判した。プーチンは、爆撃の対象はウクライナの軍隊であると主張していたが、民間人を巻き込んだ攻撃が続いていることが、和平交渉において非常に悪い印象を与えた。特に、アメリカとロシアの間で進められていた和平交渉の最中にこうした行動が続いたことは、トランプにとってプーチンの和平に対する真剣さを疑わせる原因となった。このため、トランプはプーチンに対して「戦争を止めたくないのではないか、ただ私を引き延ばしているだけなのではないか」と考え始め、プーチンの和平の意図に疑念を抱くようになった。
2.ウクライナへの欧州平和維持軍の派遣
アメリカの最新の和平案では、ウクライナに欧州の平和維持軍を派遣することが提案されている。しかし、ロシアはこれに強く反対している。ロシアは、欧州側がアメリカを操り、任務が拡大していくことを懸念しており、欧州の平和維持軍の派遣が、最終的にウクライナでの戦闘を長引かせる原因になるのではないかと心配している。特に、アメリカがNATOの義務に基づき、欧州平和維持軍を守るために介入することをロシアは警戒している。このため、プーチンはこの点を明確に排除するようトランプに求めており、アメリカがその提案を撤回しない限り、交渉は難航するだろう。
3.ウクライナの非軍事化
ウクライナが非軍事化する義務を負うかどうかも重要な問題である。2022年春に行われた和平交渉では、ウクライナは部分的に非軍事化することに同意していたが、その後の交渉の失敗により実現しなかった。この点について、ロシアはウクライナの非軍事化を求めているが、トランプはこれに強い懸念を示している。トランプは、ウクライナの非軍事化が将来的にロシアの攻撃を再開させるきっかけになるのではないかと心配しており、この要求を受け入れることに対して消極的である。また、ロシアにとっては、ウクライナの非軍事化は戦争の終結条件として欠かせない要素であり、この点を譲ることは難しい。
4.ウクライナの領土問題
ロシアは、ウクライナが占領している領土を引き渡すことを求めている。特に、2022年9月の住民投票を経て、ロシアはこれらの地域をロシア領として正式に認定しており、その返還を求めることはロシアにとって譲れない問題となっている。しかし、アメリカはこの要求に応じていない。アメリカ側は、ウクライナに領土を引き渡させることは「非現実的で達成不可能だ」と見ており、これがロシアとアメリカの間で対立を生んでいる。この要求をロシアが撤回しない限り、交渉は進展しにくい状況が続く。
5.ザポリージャ原子力発電所とカホフカダムの引き渡し
アメリカの和平案では、ロシアに対してザポリージャ原子力発電所とカホフカダムをアメリカに引き渡すことが求められている。しかし、これもプーチンにとって受け入れがたい要求である。ロシアにとって、これらの重要な施設をアメリカに引き渡すことは国の主権を侵害されることに等しく、これに同意することは絶対にないと考えている。ザポリージャ原子力発電所はロシアにとって戦略的に重要な施設であり、その支配権を失うことはロシアにとって大きな痛手となる。
これらの五つの対立点は、ロシアとアメリカ、そしてウクライナの間で解決すべき重要な問題であり、これらの問題が解決しない限り、和平交渉は成立しないと予想される。特に、ロシアとアメリカの間でこれらの問題をどのように調整するかが、和平の成否を左右する要因となる。トランプとプーチンがこれらの対立を解決し、ゼレンスキーを説得して新しい合意に合意させることができるかどうかが、今後の和平交渉の成否を決定するだろう。
【要点】
1.ロシアの民間人地域への爆撃
・トランプはロシアの民間人地域への爆撃を批判。
・プーチンは「ウクライナの兵士を標的にしている」と主張するが、民間人が巻き込まれ続けることでトランプはプーチンの和平への真剣さに疑念を抱く。
2.ウクライナへの欧州平和維持軍の派遣
・アメリカの和平案には、ウクライナへの欧州平和維持軍の派遣が含まれるが、ロシアはこれに反対。
・ロシアは欧州側がアメリカを操り、任務が拡大することを懸念しており、これが和平交渉の障害となっている。
3.ウクライナの非軍事化
・ロシアはウクライナの非軍事化を求めるが、トランプはこれが将来的にロシアの攻撃を再開させる懸念を抱く。
・ロシアにとっては、非軍事化が戦争終結の条件であり、譲ることは難しい。
4.ウクライナの領土問題
・ロシアはウクライナの占領地の返還を求め、アメリカはこれを拒否。
・2022年9月の住民投票でロシアが領土をロシア領として認定したため、ロシアは譲歩できない。
5.ザポリージャ原子力発電所とカホフカダムの引き渡し
・アメリカの和平案にはロシアがザポリージャ原子力発電所とカホフカダムをアメリカに引き渡すことが求められている。
・これもロシアにとって受け入れがたい要求であり、国の主権に関わるため、ロシアは拒否している。
【桃源寸評】
アメリカがこれまでに行った調停には、その力を背景にした側面が強いものが多いと言える。アメリカの外交政策は、しばしばその経済的、軍事的、政治的な影響力を活用して調停を進めてきた。そのため、アメリカの調停が必ずしも「無理強い」や「圧力」ではないにしても、その影響力を駆使した形で進められたケースが多い。以下、アメリカが調停者として関与した主なケースを振り返りながら、その背景にあるアメリカの力について詳しく考察する。
1. キャンプ・デービッド合意(1978年)
アメリカの力の活用: キャンプ・デービッド合意は、アメリカが外交的に極めて強い立場を利用して成功した例である。ジミー・カーター大統領は、アメリカが中東の安全保障において重要な役割を担っていたことを背景に、エジプトとイスラエルの両国を圧倒的な影響力で交渉に引き込んだ。
アメリカの影響: アメリカは経済的・軍事的支援を武器に、エジプトにはシナイ半島の返還を保証し、イスラエルには安全保障を提供することで、合意を導いた。この合意は、アメリカの国際的なリーダーシップを象徴するものとはなった。
2. デトロイト協定(1995年)
アメリカの力の活用: ボスニア内戦の終結に向けて、アメリカは NATOを含む多国籍軍を指導し、軍事的にも強い立場を利用した。クリントン政権は、アメリカが持つ軍事的圧力を背景に、交渉を有利に進めた。
アメリカの影響: アメリカの調停が成功した要因の一つは、ボスニアの各勢力に対するアメリカの強い圧力と、和平を強制するための軍事的な力が背景にあったからである。このようなアメリカの力を使った調停には、依然として大きな政治的な影響力が色濃く表れている。
3. パナマ運河条約(1977年)
アメリカの力の活用: パナマ運河問題に関して、アメリカは当初、その支配権を譲ることに対して消極的であったが、経済的・軍事的な観点から、自国の利益を最大化しながら交渉を行った。アメリカの強い影響力を背景に、パナマに対する譲歩を引き出した形である。
アメリカの影響: アメリカはパナマに対して、運河の返還を条件に、経済的な援助や安全保障を提供するなど、力を背景にした交渉を行った。
4. イラン・アメリカ間の核合意(2015年)
アメリカの力の活用: イラン核合意では、アメリカが経済制裁を強力に課し、それを解決するために外交的な調整を行った。アメリカの経済的な影響力を行使することで、イランを交渉のテーブルに引き出したと言える。
アメリカの影響: アメリカは国際制裁を主導し、イランの核開発を抑制するための強い圧力をかけた。その結果、イランは交渉に応じ、合意が成立したが、その後のアメリカの方針変更(トランプ政権下での合意破棄)によって、合意が不安定になった。
5. 北朝鮮との対話(2018年~2019年)
アメリカの力の活用: トランプ大統領は、北朝鮮に対して強力な経済制裁を課し、その圧力を交渉の一環として利用した。また、軍事的な存在感を示すことで、北朝鮮に対して譲歩を引き出そうとした。
アメリカの影響: アメリカは、北朝鮮に対して圧力をかけながらも、直接対話を進めることで、北朝鮮を交渉の場に引き込むことができた。このような対話の進展も、アメリカの軍事的・経済的な力が背景にあったことは否定できない。
結論
アメリカが調停者として関与した事例において、その力を背景にしたアプローチが多く見られる。特に経済的・軍事的な影響力を駆使する形で、アメリカは交渉を有利に進め、結果的に調停を成功させたことが多い。これらの事例は、アメリカが国際舞台での影響力を調停や交渉に活用していることを示しています。したがって、アメリカの調停が成功したケースにおいては、単なる「中立的な調停者」としての役割以上に、その国力を利用した調停であったと言えるだろう。
・パナマ運河条約
パナマ運河条約(Panama Canal Treaty)は、1977年にアメリカ合衆国とパナマの間で結ばれた国際的な協定で、アメリカがパナマ運河を管理していた状況を改め、運河の返還を行うことを定めました。この条約は、アメリカの影響力が色濃く反映された調整であり、アメリカの力を背景に交渉が進められた。以下にその背景、内容、そしてアメリカの影響力について詳述する。
1. 背景
運河の支配権: パナマ運河は、1914年に開通し、その後アメリカは運河の運営と管理を事実上独占してきた。運河はアメリカの商業的・戦略的に極めて重要な拠点であり、アメリカは運河の管理権を保持し続けていた。しかし、パナマは独立後、運河の支配を巡る不平等感を強め、アメリカとの交渉を要求するようになった。
パナマの主張: 1960年代後半から1970年代初頭にかけて、パナマ国内で運河の返還を求める声が強まり、パナマ政府はアメリカとの交渉を進めた。この時期、アメリカの影響力が徐々に変化していたことも背景にある。
2. 条約の内容
運河の返還: パナマ運河条約において、アメリカは運河の管理権を1977年から1999年にかけてパナマに返還することを決定した。最終的には、1999年12月31日に運河が完全にパナマに移譲されることになった。
運河の使用: アメリカとパナマは、運河の利用についても合意した。アメリカは、運河を商業的・軍事的に使用する権利を保持し続けることができたが、パナマが管理権を持つことになった。
協力的な関係: また、アメリカとパナマは、運河を管理するための共同機関を設立することにも合意し、運河の運営に関して協力する体制を築いた。
3. アメリカの影響力
アメリカの経済的・軍事的利益: アメリカは、運河を管理していたことによって、太平洋と大西洋を結ぶ重要な水路を確保していた。これにより、アメリカの貿易や軍事活動が円滑に行われるようになり、アメリカの国際的な影響力を強化していた。そのため、アメリカは運河の返還に応じる際も、パナマに対して一定の経済的・軍事的な利点を保証する形となった。
パナマへの譲歩: アメリカは、パナマの要求を受け入れ、最終的に運河を返還することを決定したが、この過程でアメリカはパナマに対して経済的援助を提供し、パナマ政府に対する支援を約束した。また、運河がアメリカの国益にとって依然として重要であることから、アメリカの軍事的利益が損なわれないような措置を取った。
4. 結果と影響
政治的な影響: この条約は、アメリカにとって大きな政治的な譲歩を意味した。アメリカはパナマの要求に応じ、最終的にはパナマに運河の管理権を返還したが、その代わりにアメリカの軍事的な利益が確保された。この条約は、アメリカがその影響力を行使しつつ、同時に国際的な約束を果たす形で結ばれた。
パナマの独立性: パナマにとって、運河の返還は国家の独立性を象徴する重要な勝利であった。運河の管理権を取り戻すことは、長年にわたるパナマの独立運動における重要な成果となり、国際的な地位を高めることにもつながった。
アメリカの影響力の移行: ただし、運河の返還はアメリカの影響力の縮小を意味する部分もあった。運河管理の完全な返還は、アメリカの軍事的・経済的影響力の一部をパナマに譲渡する形となったため、アメリカはこれまでのように自由に運河を支配することができなくなった。
結論
パナマ運河条約は、アメリカがその軍事的・経済的な力を背景にして交渉を進めたものの、最終的にはパナマに運河の管理権を返還する形で結ばれた協定である。この調停の過程において、アメリカの力が依然として強く影響しており、その背景にある軍事的・経済的な利益は決して無視できない。しかし、最終的には両国が譲歩し合うことで、アメリカの影響力が保持されつつ、パナマの独立性も尊重される形で合意が成立した。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Five Significant Disagreements Account For Trump’s Newfound Anger With Putin Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.28
https://korybko.substack.com/p/five-significant-disagreements-account?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=162306366&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email