疎開中の操觚たる手わざ2022年06月07日 11:41

絵本道化遊
 『アメリカ樣 全』宮武外骨 著

 (一八頁)
 疎開中の操觚たる手わざ 2022.06.07

 疎開はアメリカ樣のお蔭でなく、軍閥や官僚の無謀な野心で、我々が蒙つた損害の一つである、昭和十九年十二月四日より同二十年の八月十六日までの間、予は多摩川の支流たる大栗川へ魚釣りに行つた際馴染になつた南多摩郡多摩村上和田、愛宕山麓の關井と云ふ農家の階上階下の二室を借りての疎開、晴釣雨讀、殆ど毎日、鮒や鯉釣り、雨降りの日は階上で讀書、其間に武玉川、柳樽、柳樽拾遺等の柳句中より類別の抜記、金屛風、銀煙管、呉服屋、貸本屋、花嫁、花婿、國づくし、文字づくし、新世帯、座敷牢、勘當、妾、妻、夫婦喧嘩、持参金、時鳥、迷信、それみたか、たとへ語等、約五十余の類題に分けての句集であり、また對句をも並べて見た

 城をさへ況や蔵においてをや
 あつてさへ況や後家に於てをや

 鍋鋳掛足一本は無藝なり
 手一本無して掛る縫箔屋

 今の目は誰を見やると姑ばゝ
 口に稱名まなこでは嫁をねめ

 心中はほめてやるのが手向なり
 山出しは笑ふてやるが指南なり

 丙午遠い所から結納が來
 花嫁に時々化ける丙午

 白鷺は五位鷺よりも暮のこり
 五位鷺は白鷺よりも反り返り

對句は此ほかに數十ある、類題中で面白い句の多い獨身者(ひとりもの)を次ぎの頁に摘載する
引用・参照・底本

『アメリカ樣』宮武外骨 著 昭和二十一年五月三日發行 藏六文庫
『繪本道化遊全』宮武外骨 著 明治四十四年二月十日發行 雅俗文庫
(国立国会図書館デジタルコレクション)