獨居生活の一人者(ひとりもの)2022年06月10日 11:18

絵本道化遊
 『アメリカ樣 全』宮武外骨 著

 (一九頁)
 獨居生活の一人者(ひとりもの)        2022.06.10

 近頃は戰災のため夫か婦の一人者が多い、然しそれは獨居でなく他家の厄介者だから該當せぬ

 一人者、かみさん達になぶられる

  屁をひツておかしくもない、一人者

 一人者、お茶の沸く頃飯は濟み

  たまさかに煙りをたてる、一人者

 一人者、味噌は買へども音はせず

  餅のある内はなまける、一人者

 一人者、小面倒なと二升炊き

  香の物隣りへ漬ける、一人者

 一人者、たなちん程はうちに居ず

  金槌で度々あける、一人者

 一人者、客に暫く留守をさせ

  惜氣なく床を放れる、一人者

 一人者、綻び一つ手を合はせ

  綻びと子をとりかへる、一人者

 一人者、隣りの娘うなされる

  用向の隣りへたまる、一人者

 一人者、内からしめて頓死する

  居續を隣りで叱る、一人者

 一人者、死ぬと糠味噌までさがし

  友達に寝るぞ帰れと、一人者

 一人者、やれ茶をくれろ火をくれろ

 以上の外にマダ八句ある

引用・参照・底本

『アメリカ樣』宮武外骨 著 昭和二十一年五月三日發行 藏六文庫
『繪本道化遊全』宮武外骨 著 明治四十四年二月十日發行 雅俗文庫
(国立国会図書館デジタルコレクション)