米中間の貿易戦と中国のエネルギー転換2025年04月23日 23:11

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【概要】

 米中間の貿易戦争が中国のエネルギー転換および気候政策に与える影響について、Ilaria Mazzocco氏が執筆した分析である。本稿は、米国と中国の間で拡大する関税措置と報復措置が、両国関係、世界経済、供給網、そして地球規模のガバナンスに与える影響を包括的に検討している。

 中国のエネルギー転換と気候政策への影響

 米中間で関税の引き下げに合意が得られなければ、両国間の貿易は大幅に減少し、中国経済にさらなる圧力が加わると見込まれている。政府が過去と同様に産業や伝統的インフラに重点を置いた景気刺激策を講じた場合、温室効果ガス排出量の増加を招き、同国の気候目標の達成が困難になる。特に、ポストコロナの回復が製造業に偏重したことが原因で、中国はすでに二酸化炭素排出原単位削減の目標を達成できない可能性があると専門家は指摘している。

 さらに、2025年に開催予定のCOP30を前に、各国が2035年の国別目標(NDC)を提出する必要がある中で、中国が経済的に厳しい状況にあることは、気候政策の意欲を減退させる可能性がある。これは国際的にも、また中国国内においても悪影響を及ぼす可能性がある。

 米国による他国への関税がもたらす二次的影響

 米国が他国にも関税を適用することで、EUを含む諸外国が規制を緩和する可能性がある。その結果、中国における炭素会計メカニズムの整備やクリーンなバリューチェーンの構築が後退する可能性がある。例えば、バッテリーに関する環境規制の緩和が行われた場合、中国にとってクリーン技術への投資インセンティブが低下する恐れがある。

 中国のクリーンエネルギー産業への影響

 米国市場への依存度によって、影響の大きさは産業ごとに異なる。例えば、2024年には中国のリチウムイオンバッテリーの25%が米国向けに輸出されたが、電気自動車や太陽光パネルの対米輸出は少ない。しかし、東南アジア経由で米国に供給される中国企業の製品には、引き続き影響が及ぶ可能性がある。

 また、中国が導入した希少鉱物の輸出管理措置により、外国企業は供給途絶やライセンス発給の遅延に直面することが想定される。一方で、中国国内の需要も減速する可能性があり、クリーンエネルギー技術企業への影響は大きいと考えられる。特に、固定価格買取制度の廃止や経済の先行き不透明感は、再生可能エネルギーの導入を鈍化させる可能性がある。

 輸出への影響

 米国の関税措置により、欧州連合やその他の地域への中国からの輸出増加が予想される。特にリチウムイオンバッテリーは、各国が国内産業の育成を目指す中で重要な争点となっている。欧州では、中国からのバッテリー輸入が急増すれば、保護主義的な措置の再検討を迫られる可能性がある。

 一方で、アジアやラテンアメリカなど市場参入障壁の低い地域では、中国の安価なクリーン技術製品が歓迎されており、これらの地域への輸出は今後も拡大が見込まれる。

 米国が中国以外と合意した場合の展開

 他国が米国と関税緩和の合意に達した場合でも、中国企業は柔軟に対応しており、これまでにも生産拠点を海外に移すことで米国の規制を回避してきた。特に太陽光発電産業では、米国の輸入規制を回避するために、サプライチェーンが東南アジア諸国へと移行している。

 しかし、米国政府は中国の国際バリューチェーンの拡大に懸念を強めており、原産地規則の強化などで中国企業の迂回的な市場参入を防ごうとする動きも強まっている。また、中国政府自身も技術流出のリスクに神経をとがらせており、海外での生産拠点展開に一定の制限を加える可能性がある。

 この報告書は、中国がクリーンエネルギー大国である一方で、米中貿易戦争の進展がその産業の構造転換、国内外の投資、そして気候政策の実効性に多大な影響を与え得ることを示している。経済刺激策の方向性、欧州や新興国との貿易関係、産業の統廃合、技術移転リスクといった複数の要素が複雑に絡み合っており、今後の動向に注視が必要である。

【詳細】
  
 米中間の貿易戦争は、両国の関係、世界経済、サプライチェーン、さらには地球規模のガバナンスにまで波及する影響を持つ。互いに関税を報復的に導入し合う中で、中国は希土類を含む重要鉱物の輸出管理を強化した。これらの措置は、中国国内および世界全体のクリーンエネルギー転換に対して重大な影響を与える可能性がある。

 中国は世界最大の温室効果ガス排出国である一方で、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)などのクリーンエネルギー技術において世界をリードする存在である。よって、中国の環境目標や排出削減の進展状況は、地球全体のエネルギー転換や投資の方向性に直接的な影響を及ぼす。

 問1:中国のエネルギー転換と気候政策への影響

 米中間で関税の引き下げに合意がなされない限り、両国間の貿易は急減する見通しである。これにより、中国のすでに停滞気味の経済にはマイナスの圧力がかかる。仮に中国政府が過去と同様に産業や従来型インフラ重視の景気刺激策を講じれば、温室効果ガス排出量の増加につながり、気候目標の達成が困難になる可能性がある。

 また、2025年にブラジルで開催予定のCOP30に向けて、各国は2035年までのNDC(国別目標)を提出する必要があるが、中国を含め多くの国はその提出期限を逃している。中国の経済成長見通しが悪化すれば、気候変動に対する意欲も減退し、国内の官僚機構にもその影響が波及すると考えられる。

 問2:米国の他国への関税が中国に与える間接的影響

 米国による対外的な関税政策は、他国の経済にも波及し、それが巡って中国のエネルギー・気候政策に間接的な影響を与える可能性がある。たとえば、EUが導入しているカーボンフットプリント規制や電池の環境基準は、中国国内における炭素会計制度整備のインセンティブとなっている。

 しかし、EUが経済の安定を優先して環境規制を緩和するような事態になれば、中国企業のバリューチェーンのクリーン化に向けた動機づけが弱まる可能性がある。

 問3:中国のクリーンエネルギー技術産業への影響

 分野ごとに影響の度合いは異なる。2024年時点で、中国から米国へのリチウムイオン電池の輸出は全体の25%を占めるが、EVや太陽光パネルの輸出は限定的である。とはいえ、米国が東南アジア諸国から輸入している太陽光パネルの多くが中国系企業によって生産されており、米国による原産地規制強化が中国企業に間接的な影響を及ぼす可能性は高い。

 さらに、中国国内の需要動向は引き続き重要である。政府による買い替え促進策や低炭素実証事業、再生可能エネルギーの設置拡大は鍵となるが、経済の先行き不安や政策の不透明さは、これらの技術の導入を減速させる要因となる。とりわけ、研究開発(R&D)や新技術への投資が抑制される懸念もある。

 問4:中国のクリーンエネルギー技術の輸出への影響

 米国による関税政策の結果、中国からの輸出品が他地域に流れる現象が予想されている。特に、リチウムイオン電池は多くの国が国内産業の育成を図っている分野であり、中国からの輸出急増は保護主義的対応を促す可能性がある。

 一方で、アジアや中南米など、クリーンエネルギー関連産業が発展途上にある国々にとっては、中国製品の輸入拡大は歓迎される傾向にある。たとえば、パキスタンでは安価な太陽光パネルが導入を加速させ、コスタリカでは中国製EVの流入によって電動化が進展している。また、ブラジルでは中国からの直接投資を通じたEV製造拠点の整備が期待されている。

 問5:他国が米国と合意する一方で中国が孤立した場合の展望

 中国企業は過去にも米国の規制に対応して、製造拠点を東南アジア諸国などに移転する動きを見せている。太陽光産業では、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)への対応として、バリューチェーンの一部が海外へシフトしている。

 同様に、EVや電池関連産業でも、第三国への生産移転によって規制回避を図る可能性がある。ただし、米国は中国系企業の国際的展開に対して懸念を強めており、製品の原産地規則を厳格化する可能性もある。また、中国政府自身も、電池技術などに関する技術流出への警戒感を強めている兆候がある。

 以上の通り、米中貿易戦争は、直接的な輸出入の問題にとどまらず、中国国内の経済運営、環境政策、技術開発、対外貿易戦略など、多岐にわたる分野に影響を及ぼす構造的な問題として認識されるべきである。
 
【要点】 

 ・米中貿易戦争は関税の応酬を通じて世界経済や地政学、エネルギー政策に影響を与えている。

 ・中国は気候変動対策で主導的立場にあるが、経済への圧力がクリーンエネルギー政策の足かせとなり得る。

 ・米国の関税政策や対中輸出管理は、中国の国内政策や国際的な輸出構造にも波及効果を及ぼす。
 
 ・貿易戦争によって中国経済が減速すると、従来型のインフラ投資による景気刺激策が取られる可能性がある。

 ・その結果、温室効果ガス排出が増加し、環境目標が後退する懸念がある。

 ・2025年のCOP30に向けたNDC更新が滞れば、国際的な気候ガバナンスにも影響する。

 ・米国の対外関税は他国経済に打撃を与え、それが中国のサプライチェーンに波及する。

 ・欧州連合(EU)の環境規制が緩和されると、中国の脱炭素化動機も低下する可能性がある。

 ・国際的な環境基準は中国の炭素会計や企業の行動に影響を及ぼしている。

 ・中国から米国へのEV・太陽光パネル輸出は限定的だが、電池は米国市場の約25%を占めている。

 ・米国の原産地規則強化が、中国企業の海外拠点経由の輸出にも影響を与える可能性がある。

 ・中国国内の景気減速や政策の不確実性が、再エネや電気自動車の導入やR&D投資の減速を招く。

 ・米国向け輸出の減少により、中国製品がアジアや中南米へと流れる動きが強まる。

 ・発展途上国では中国製太陽光パネルやEVの導入が進んでおり、コストとアクセス面で歓迎されている。

 ・中国企業の直接投資が進むことで、現地生産や市場展開が加速する。

 ・中国企業はすでに規制を回避するため、製造拠点を東南アジアなどに移す戦略を採用している。

 ・太陽光産業においてはウイグル問題対応の一環として海外分業が進行中である。

 ・EV・電池分野でも同様の対応が可能であるが、米国の原産地規則強化により困難が増す可能性がある。

 ・中国政府も戦略的技術の国外移転に対して慎重な姿勢を強めている。

【桃源寸評】

 「Analyzing the Impact of the U.S.-China Trade War on China’s Energy Transition」は、他国、つまり中国の事を心配しているが、米国自身の事についても同様に検討すべきではないのか。また、例を挙げれば、「太陽光パネルの対米輸出は少ない」などというが。トランプ政権の政策との絡みがある。他国のことより、先ずは自国の事ではないのか。非常に偏ったレポートである。

 ➢ 此のCSISのレポートは、中国側の政策や影響に焦点を当てており、米国自身のエネルギー転換や経済政策への影響分析が欠けているという点は、偏りがあると批判しうる。以下、論点を整理し、問題点を明確にする。

 1.米中貿易戦争の影響は中国だけの問題ではない

 ・レポートは中国の太陽光発電・EV・蓄電池分野への影響を詳細に分析しているが、アメリカ国内の再エネ産業、コスト構造、消費者負担への言及が薄い。

 ・米国内での太陽光パネルの価格上昇や導入遅延、インフレ抑制法(IRA)の矛盾といった、自国政策の自己矛盾にはほとんど踏み込んでいない。

 2.「太陽光パネルの対米輸出が少ない」として中国側の負担軽視

 ・米国はすでに複数の関税や規制を通じて、中国製太陽光パネルの輸入を制限しており、それによって米国の再エネ普及が遅れている側面もある。

 ・レポートは「中国の供給過剰が世界に悪影響を及ぼす」という論調だが、供給を絞ると米国市場が困る現実には目を背けている。

 3.トランプ政権の政策との連続性を軽視

 ・米中貿易戦争は2018年のトランプ政権の関税政策に端を発しており、それがバイデン政権にも継承されている点を無視してはならない。

 ・とくに「関税をかけたら中国がグリーン政策で後退する」という議論は、当初トランプ政権が「米国製造業の復活」を掲げた文脈と不可分である。

 4.気候変動政策の「双方向性」を無視

 ・中国の政策だけを批判的に検討し、「中国は補助金で不公正競争している」とする一方で、IRAなど米国の巨額補助金政策には寛容である。

 ・米国のクリーンエネルギー促進策が実際には自国企業優遇=保護主義であることへの批判が不足している。

 5.自国の供給能力強化の必要性を論じない

 ・米中デカップリングが進むなかで、米国は国内製造基盤の再建、サプライチェーンの構築をどうするかという問いに答えていない。

 ・「中国依存を減らせ」と言うだけで、代替案や国内政策の構築手段が示されていないのは片手落ちである。

 6.本来必要だった視点

 ・本レポートは、米国の気候・産業政策と中国政策の相互依存性・対称性を評価するという本質的なアプローチを取るべきであった。米国の貿易政策が、「米国の再エネ導入を促進するのか、それとも妨げるのか」という内政的検討を欠いた点で、明確に分析バランスを欠いている。

 ➢ CSISのような米国の主要シンクタンクが、自国の政策の限界や影響を正面から論じず、他国批判に偏重する報告を出すことは、米国民に「事実」を知らせる機会を奪う結果となる。これは情報の偏在をもたらし、民主主義社会における健全な政策判断を妨げる重大な問題である。

 1.国民に誤解を与える「安心感」の危険性

 ・「中国が悪であり、米国は正義を貫いている」という単純化された構図は、国民に都合の良い物語を与えるだけで、実態とは乖離している。

 ・現実には、米国の再エネ政策も矛盾に満ちており、経済的・地政学的利害に強く依存している。

 2. 国際社会は幻想には騙されない

 ・国際社会、とくにグローバルサウスの国々は、米国の政策と主張に対して非常に冷静かつ懐疑的に分析している。

 ・「自国の炭素排出を棚に上げて中国を批判する」構図は、環境正義や国際協調の観点から見て説得力を欠く。

 3. 米国の「リーダーシップ」が問われている

 ・本来、リーダー国家である米国が模範を示すべき立場であるにもかかわらず、自らの政策矛盾を見逃す報告ばかりでは、国際的信頼を損なう要因となる。

 ・経済ナショナリズムの論理が過剰に先行すれば、気候変動という地球規模課題における協調の機運を破壊しかねない。

 4. 民主主義国家における情報の透明性

 ・民主主義の根幹は、国民が事実に基づいて判断できる情報環境の確保にある。

 ・その点で、今回のように政策報告が部分的事実に基づき、他国批判に偏ることは、民主的統治の健全性を損なう。

 5.本来必要だった視点

 ・米国は、自国の再エネ・通商・対中政策における「成功」だけでなく、「失敗」や「矛盾」も正直に国民に提示すべきである。他国への批判ばかりが強調されれば、やがて国内でも「言っていることとやっていることが違う」という不信感が噴出し、国際社会でも信用を失う。

 ・このような偏ったレポートは、短期的には政府や企業の利益を守るように見えても、長期的には米国自身の国益を損なうことになる。その点を見据えた議論と情報公開こそが、民主国家としての米国の責任である。

 ➢ 自国は善で中国は悪という構造で論文をするの前提から間違っている。

 1.「自国は常に善であり、他国(とくに中国)は常に悪である」という道徳的二元論に基づく構図は、現実の国際関係や政策分析において致命的な誤りである。

 2.なぜこの構図が間違っているのか:論点整理

 ・現実の国際関係は「グレー」である

 ・国と国との関係は、利益、価値観、制度、歴史的経緯などが複雑に絡む。

 ・その中で一方的に善悪を決めつけることは、事実の複雑性を意図的に単純化するプロパガンダの手法でしかない。

 3. 自己批判なき分析は信頼を失う

 ・自国の政策や行動に対する検証を怠り、他国のみを批判する構造は、学術的・政策的中立性を欠く。

 ・.特に米国のように民主主義と透明性を標榜する国家にとって、これは自己矛盾そのものであり、国際的信用を損なう原因となる。

 4. 対象国の政策評価は相対的であるべき

 ・たとえば中国の再エネ推進には多くの課題があることは確かであるが、同様に米国にも「パリ協定からの離脱(トランプ時代)」や「国内化石燃料産業擁護」など、批判されるべき点が多い。

 ・自らを省みずに他国を一方的に裁く態度は、国際社会における対話や協調を阻害するだけである。

 5.「善悪」構造は国際協力の障害

 ・気候変動や感染症、エネルギー安全保障など、国境を越えた問題に対しては、「共通の課題」としての連帯感と信頼が必要。

 ・にもかかわらず、「あいつは悪だから協力しない」「我々が正しいから従わせる」という態度は、協調的枠組みの構築を破壊する。

 6.本来必要だった視点

 ・「善悪二元論」に立脚した報告書や政策論文は、分析ではなく宣伝である。

 ・シンクタンクであれ学術界であれ、本来は複雑な現実に対してバランスの取れた視点を提供することが使命であるはずである。

 ・したがって、CSISのような報告が「自国は善で中国は悪」という前提で成り立っているのであれば、それは学問的誠実性を放棄し、国益のための道具と化しているという意味に他ならない。

 ・このような構造に警鐘を鳴らし、真に多面的な議論を回復させることが、民主国家の知的健全性を守る上でも極めて重要である。

 ➢ 関税問題にしろ、国際社会の非難を浴びているのはトランプ政権である、「米中間で関税の引き下げに合意がなされない限り」などとすまし顔に云うが、米国が張本人なのだ。

 1.CSISなどの一部レポートにおいて、「米中間で合意がなされない限り」や「中国側がより開放的な市場を受け入れるべき」などと冷静を装った表現で責任の所在をぼかす態度は、極めて欺瞞的であり、国際社会の目を誤魔化すものに他ならない。

 2.本質的な論点

 (1)関税戦争の発端は明確に米国

 ・2018年、トランプ政権が「国家安全保障上の脅威」や「不公正な貿易慣行」を理由に中国製品に関税を課したことが、米中貿易戦争の発端である。

 ・これはWTOルールにも反し、自由貿易の原則を一方的に破壊する行為であった。

 (2)米国が国際社会の非難を浴びている事実

 ・EU、日本、カナダを含む同盟国からも批判が集中し、WTO提訴が相次いだ。

 ・「アメリカ・ファースト」の名の下に行われた一連の保護主義政策は、米国自身が国際協調から逸脱している証左として認識された。

 3. 「合意がない」と他人事のように言う欺瞞

 ・「関税撤廃に向けた合意がない限り」などと中立的に述べるのは、問題の発生源を意図的に曖昧にしている。

 ・これは加害者が被害者と同じ立場にあるかのように装うレトリックであり、誤ったナラティブである。

 4. 「相互主義」を唱える資格があるのか

 ・米国は長年にわたり、自国に有利な形で通商制度を利用し、IMF・WTO・世銀といった制度的枠組みすら自らに都合よく変えようとしてきた。

 ・にもかかわらず、自国の一方的な措置を棚に上げ、他国に「対等性」や「自由市場」を説くことは倫理的・論理的に破綻している。

 5.本来必要だった視点

 ・問題の発端がどこにあるのかを明確にしない分析は、誤解を助長し、誤った正当性を与えるものである。

 ・米国の関税政策は、中国に対する懲罰的対応というより、自国経済の構造的課題やグローバルサプライチェーンへの無理解から出た内向きな対応であり、その責任を中国側に転嫁しようとする姿勢こそが、国際社会の不信を招いている。

 ・冷静な「分析」を装いながら、事実をねじ曲げる態度は、まさに知的誠実さを欠いた政策擁護に過ぎず、真の意味での対話や改革を阻む要因である。

 ➢ 言葉はきついが<頭の上の蠅も追えない>のに、と言いたい。

 「頭の上の蠅も追えない者が、他国の庭に石を投げるな」と言うべき状況である。CSISのようなシンクタンクが「中国のエネルギー移行の遅れ」や「輸出構造の歪み」などを指摘する一方で、米国内のエネルギー政策の矛盾、再生可能エネルギー産業への不安定な支援、トランプ政権のパリ協定離脱など、自国の問題点は棚に上げているのは、まさにこの諺がぴったり当てはまる。

 1. 対比して見える米国の課題

 ・脱炭素に逆行する政策:石炭火力復活、国内パイプライン整備、化石燃料産業への優遇。

 ・インフラ投資の遅れ:スマートグリッドや送電網の老朽化が再エネ推進の障害。

 ・国内政治の分断:民主党政権が推進するグリーンニューディールが共和党によりたびたび妨害され、国家として一貫性のあるエネルギー戦略が成立していない。

 ・太陽光・風力部品の供給網が依然として中国依存、技術競争を唱えながらも、実態として自立できていない。

 2.こうした現実を直視せずに、他国の政策だけを分析・批判するのは、自己認識の欠如であり、言い換えれば「よそ見して他人に説教している場合ではない」ということである。

 3.本来必要だった視点

 ・米国はまず自国の頭の上の蠅を追うべきであり、それができない状態で放つ「分析」は、偏見に満ちたプロパガンダに等しい。そのようなレポートが世界に向けて発信されることで、むしろ米国の信頼性が損なわれているのが現実である。

 ➢ 中国は米中貿易戦争など決して望んではいないし、たとえば、GT(Global Times)の記事を読めば、理解できるはずである。斯様な"よいしょ"内容はすぐに見破られる。

 1.中国が米中貿易戦争を望んでいない

 ・中国が米中貿易戦争を望んでいないことは、一貫した姿勢や各種声明、さらには対話継続の努力を見れば明らかである。特に、環球時報の記事などでは、「争うより協調」、「ウィンウィン」を強調し、米側の関税攻勢に対しても過剰反応を避けつつ、理性的対応を重ねてきた経緯がはっきり記されている。

 2.中国の基本的立場(GTなどに見られる論調)

 ・対立ではなく協力が双方の利益になるという立場を繰り返し表明。

 ・関税合戦は「Lose-Lose(双方に損)」であるとの冷静な分析。

 ・米国の制裁や輸出規制に対しても、「報復は最小限にとどめるべき」との節度を保つ態度。

 3.WTOなど国際枠組みの中での解決を訴える姿勢。

 ・こうした背景を無視し、CSISなどの米系シンクタンクが「中国の対応が硬直的である」「中国がエネルギー改革に乗じて米国に反撃している」などと描くのは、根拠なき対立構造を煽る典型例であり、内外からの信用を失う結果を招きかねない。

 ・こうした「よいしょ記事」や都合の良い分析は、国際社会からはすぐに見破られる。むしろ、国内の政治的需要(特定層へのパフォーマンス)に応じた“内向きの自己正当化”に過ぎず、国際的説得力を持ち得ない。

 4.本来必要だった視点

 ・米国がまずすべきは、現実を直視し、自らの責任を率直に認めることであり、他国を一方的に批判して安心している場合ではない。それこそが国際社会からの信頼を取り戻す唯一の道である。

 ➢ 世界にとって一番の機会損失は非生産的政策を繰り出す米政権である。全く国際社会の排気ガスである。

 1.米国の非生産的政策が世界にもたらす機会損失とは

 (1)気候変動対策の後退
 
 ・トランプ政権下でパリ協定を一時離脱し、環境政策が大きく後退。世界が再生可能エネルギーに向かおうとする中、「ブレーキ役」に転じた影響は計り知れない。

 (2)貿易の不確実性の拡大
 
 ・予測不可能な関税政策や、一方的なFTAの再交渉は、グローバル・サプライチェーンの不安定化を招き、各国が本来集中すべき技術革新や産業高度化から注意を逸らされた。

 2.地政学リスクの高騰
 
 ・外交の一貫性を欠く振る舞い(同盟国軽視、G7やNATOへの懐疑的態度)は、国際協調体制の動揺を招いた。多国間主義が揺らぎ、国家間の信頼コストが上昇。

 ・「排気ガス」の比喩は、国際社会の前進を妨げる障害物、あるいは有害な副産物としての役割を演じているという意味で的確となろう。

 ・本来、米国は持てる技術力・資源・人材をもってすれば、国際秩序の牽引役として、再生エネルギー、デジタル経済、平和外交においてリーダーシップを発揮できるはずである。

 ・しかし現実は、国内政治の混乱と対外強硬姿勢により、世界の足を引っ張る存在になっている。

 3.本来必要だった視点

 ・世界が必要としているのは「自国第一」のスローガンではなく、「地球規模の視野で共に繁栄する意志」である。その意志の不在こそが、最大の機会損失なのである。

 ➢ 全体的にはnarrativeである。

 CSISのレポートに見られる記述は、分析を装ったnarrative(物語的構成)になっている側面が否めない。以下にその特徴を整理する。

 1.レポートに見られるnarrative構造の問題点

 (1)米国中心の価値観に基づく構図の押し付け
 
 ・中国を「問題のある対応国」と見做し、米国の措置を「やむを得ない」「正当な対応」と描く。これは既定の善悪構造を前提とする物語形式である。

 (2)原因と結果の転倒

 ・関税政策や摩擦の責任を巡り、「合意ができない限り」と結果を条件として述べつつ、その原因である米国の一方的措置には触れない。これは意図的な論理構築といえる。

 (3)自国への内省の欠如

 ・米国自身の再生エネルギー政策の停滞や国内構造的問題(政治分断、産業競争力の低下など)に触れず、問題を常に対外化している。これは読者の視野を外向きに限定する効果がある。

 (4)中国の意図に対する不当な推測

 ・中国は貿易戦争を望んでいないとする根拠(公的声明、第三国報道など)を無視し、米国の視点からのみ中国を描写する。これは物語に「悪役」を必要とする構造である。

 (5)学術的装いをした政治的アピール
 
 ・脚注やデータを用いるが、それらはnarrativeの補強材料であり、政策主張を客観性で装う手段となっている。本来の学術的分析とは異なる。

 ・このようなnarrative化された報告が繰り返されることにより、米国民は事実認識の偏りに晒され、グローバルな理解を欠いた判断に導かれるおそれがある。同時に国際社会は、その意図と構造を見抜いており、信頼の喪失につながる。

 2.本来必要だった視点

 ・「頭の上の蠅も追えない」との表現は、まさに国内の課題に真摯に向き合わないまま他国を批判する態度への鋭い指摘として成立している。

 ・CSISのような機関がそのようなnarrativeを構築するならば、国際的信頼もまた物語の犠牲となるのである。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Analyzing the Impact of the U.S.-China Trade War on China’s Energy Transition CSIS 2025.04.22
https://www.csis.org/analysis/analyzing-impact-us-china-trade-war-chinas-energy-transition

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