世界の報道の自由は「前例のない低水準」にまで低下 ― 2025年05月02日 13:10
【概要】
2025年5月2日に報道されたパリ拠点の国際メディア擁護団体「国境なき記者団(RSF)」の年次報告によれば、世界の報道の自由は「前例のない低水準」にまで低下しており、特にアメリカ合衆国ではドナルド・トランプ大統領の下で「憂慮すべき悪化」が起きているとされている。
RSFが発表した「世界報道自由度指数」において、アメリカは2025年版で57位となり、前年からさらに2つ順位を落とした。この順位は、かつて内戦状態にあった西アフリカのシエラレオネの次である。RSFは、報道関係者に対する暴力的事件の件数やその他の専門家によるデータを基に指数を算出している。
RSFによると、2024年にトランプ政権は国営放送であるボイス・オブ・アメリカ(VOA)やラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)などへの資金援助を打ち切り、また、海外のメディア支援のための開発援助も削減したとされる。これらの動きが、報道環境の悪化を一層進めたとされている。RSFは、トランプ政権が「政府機関を武器化し、独立系メディアへの支援を削減し、記者を排除してきた」と述べた。
RSFの編集ディレクターであるアンヌ・ボカンデ氏は、報道の自由が損なわれる主要な要因として経済的圧力を挙げ、広告収入の多くがメディア企業ではなくFacebook、Google、Amazonといった巨大IT企業に流れている現状を指摘した。その結果、財政難により独立系報道機関が閉鎖に追い込まれる例が相次いでおり、事実に基づく報道の基盤が揺らいでいるとする。
RSFの報告書によると、「ジャーナリズムが健全に機能している」と評価された国は世界の4分の1未満にとどまり、「報道活動に適さない」とされる国が半数に達したのは、指数の歴史上初めてである。
報道の自由指数の上位には、9年連続でノルウェーが1位、2位にエストニア、3位にオランダが入った。一方、著しい下落が見られた国としては、アルゼンチン(21位下落で87位)、チュニジア(11位下落で129位)などが挙げられており、いずれも保守的・右派的な政権の下である。
また、RSFはパレスチナの記者がイスラエルによるガザ地区への攻撃を報道する中で直面している深刻な状況についても言及し、イスラエル軍が報道機関の施設を破壊し、記者約200人を殺害、18か月以上にわたり同地区を完全に封鎖していると報告している。イスラエルはこの影響で11位下落し、112位となった。
さらに、トランプ大統領は自身に批判的な報道機関に対し法的措置を検討していると表明しており、ニューヨーク・タイムズやCBS(パラマウント傘下)などに対する訴訟にも言及している。法学専門家の多くは、これらの訴訟は表現の自由を保障する合衆国憲法に照らして退けられる可能性が高いとみている。
また、国際的なメディア監視団体である「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」も、アメリカ国内における報道の自由の後退を警告し、報道機関同士が連携して高まる脅威に対抗すべきであると呼びかけている。
【詳細】
1. 報道の自由の世界的な低下
パリに本拠を置く国境なき記者団(RSF)は、報道の自由を評価する「世界報道自由度指数(World Press Freedom Index)」を毎年発表しており、2025年版では、報道の自由の状況が「前例のない低水準」に達していると結論付けた。この指数は2002年から継続的に作成されており、今回が23回目の公表である。
2025年の報告書では、世界の国々の半数以上で「報道活動の条件が悪い」とされ、「報道の自由が満足に守られている」とされる国は全体の4分の1にも満たない状況である。このような深刻な状況は、かつて例を見ないものであり、報道機関の存続が経済的圧力により脅かされている点が大きな要因であると指摘されている。
RSFの編集責任者アンヌ・ボカンデ氏は、事実に基づいた報道が経済的理由で困難になっていると述べ、特に独立系メディアが資金難から閉鎖を余儀なくされている実態を挙げた。2024年にはオンライン広告支出が2,473億ドルに達したが、その収益の大半がFacebook、Google、Amazonといった巨大IT企業に吸収され、報道機関にはほとんど利益が残らない構造となっている。彼女は、「ジャーナリストが貧困状態に陥れば、報道の敵(虚偽情報やプロパガンダ)に対抗する力を持たなくなる」と警告している。
2. アメリカ合衆国における状況の悪化
報告書において最も注目されたのは、アメリカ合衆国の報道自由度の顕著な悪化である。2024年には11位下落し、その翌年である2025年にはさらに2つ順位を落とし、57位となった。これは、報道の自由が回復困難な水準にまで後退していることを示している。
RSFは、ドナルド・トランプ大統領の2期目の政権が報道の自由をさらに侵害する形で「権威主義的な方向へとシフト」していると指摘している。具体的には、政府機関の「武器化」、つまり政府権限を報道機関への圧力手段として使用し、ボイス・オブ・アメリカやラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティといった国営メディアへの資金支援を打ち切り、さらに国外の民主化支援やメディア育成を目的とした開発援助も削減したことが挙げられている。
また、ホワイトハウス記者会見での一部記者の排除や、特定メディアを「敵対的存在」とみなす姿勢が顕著であり、これにより記者の安全や取材の自由が損なわれている。
RSFは、こうした状況下で「ニュース砂漠(news deserts)」と呼ばれる地域、すなわち報道機関が存在しない、もしくは機能不全に陥っている地域がアメリカ国内で広がっていると警告している。これは地域住民が信頼できるニュースを得る機会を失うことを意味し、民主主義の根幹である知る権利が脅かされているとする指摘である。
3. トランプ大統領によるメディアへの訴訟と攻撃
2025年5月時点で、トランプ大統領はニューヨーク・タイムズに対する訴訟を検討していると発表しており、また、CBS(パラマウント傘下)によるカマラ・ハリス副大統領(民主党)へのインタビュー放映に関しても、選挙戦前に自身に不利な発言が編集で削除されたとして訴訟を起こしている。
ただし、多くの法学専門家は、これらの訴訟は米国憲法修正第1条によって保障された「報道の自由」および「表現の自由」によって棄却されるか、訴訟が成立しない可能性が高いとの見解を示している。
4. 他国における報道自由の後退事例
報告書ではアメリカ以外にもいくつかの国の著しい順位低下が挙げられている。特に、アルゼンチンは右派政権のハビエル・ミレイ大統領の下で報道の自由度が21位も低下し87位となった。また、チュニジアも11位下落し129位となっており、いずれの政権もメディアに対する圧力を強めていると分析されている。
さらに、ガザ地区ではイスラエル軍によるメディア施設の破壊、約200人のジャーナリストの殺害、18か月以上にわたる完全封鎖が続いており、RSFはこの状況を「報道の自由に対する壊滅的打撃」として報告した。イスラエルの報道自由度は11位下がって112位となり、国内メディアに対しても弾圧が継続しているとされている。
5. 国際的な警告と連帯の呼びかけ
RSFだけでなく、アメリカ国内の報道監視団体である「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」も、国内における報道の自由の危機に懸念を表明しており、「高まる脅威に対抗するためには、報道機関が団結すべきである」との見解を示している。
【要点】
世界全体の傾向
・報道の自由は過去最悪レベルにまで後退。
・評価対象の半数以上の国で報道環境が「悪い」と分類。
・報道の自由が「良好」とされる国は全体の4分の1未満。
・経済的要因(広告収入の減少、独立系メディアの資金難)が主因。
・巨大IT企業(Google、Meta、Amazonなど)が広告収入を寡占し、報道機関に収益が回らず。
・RSF編集責任者は「事実報道の危機は民主主義の危機である」と警告。
アメリカ合衆国(2025年報告)
・米国のランキングは前年から2位下落し57位(2024年は55位)。
・トランプ政権が「権威主義的な方向へ転換」と指摘。
・政府の「武器化」により、国営メディア(VOA、RFE/RL)への支援打ち切り。
・海外向け民主化・報道支援の開発援助も削減。
・ホワイトハウスでの特定記者排除や、批判的メディアへの敵視姿勢が強まる。
・地域メディアの消失により「ニュース砂漠」が全米で拡大。
トランプによる報道機関への訴訟・攻撃
・ニューヨーク・タイムズに対して名誉毀損訴訟を検討中。
・CBSが放送したカマラ・ハリス副大統領のインタビューに対して訴訟を提起。
・専門家は「表現の自由(憲法修正第1条)により棄却の可能性高い」と分析。
他国の注目動向
・アルゼンチン:ミレイ政権下で報道の自由が21位下落し87位。
・チュニジア:11位下落し129位、報道統制が強化。
・イスラエル:ガザ紛争下で11位下落し112位。
・約200人のジャーナリストが死亡、報道施設の破壊多数。
・RSFは「報道の自由に対する壊滅的打撃」と指摘。
総括
・報道の自由は世界的に深刻な脅威に直面。
・特に民主主義国においても国家権力による報道抑圧が進行。
・RSFおよびCPJは「報道機関間の連帯と警戒の強化が必要」と訴える。
【桃源寸評】
民主主義や自由主義を標榜している国であっても、その内実が理念と乖離していれば、それは看板倒れであり、むしろ国際的信頼の低下を招く。特に報道の自由は、民主主義の健全性を測るバロメーターの一つであり、米国がそれを後退させている実態は、世界が直視すべき事実である。
2025年のRSF報告は、「米国は権威主義的転換を遂げつつある」と明記しており、これは単なる一部の批評ではなく、継続的なデータに基づいた国際的警告である。また、国際的影響力を持つ米国が、こうした報道抑圧を国内外に広めるならば、それは他国の抑圧体制にも正当化の口実を与えかねない。
表現の自由や報道の自由が単なるスローガンではなく、制度的かつ実質的に保障されているかどうか。これを評価することは、世界が米国の「実像」を把握するうえで不可欠である。
米国の報道自由の後退、特にトランプ政権下での制度的・政治的圧力の強化に対して、他国の反応や国際的な影響は以下のように整理される。
1.他国の反応と評価
(1)欧州諸国(特に北欧・西欧)
・懸念と失望を表明している。
フランス、ドイツ、ノルウェーなどは「民主主義の模範とされてきた米国が報道の自由で後退しているのは象徴的」と指摘。
・欧州議会では2024年以降、米国の報道統制傾向を「逆輸出的危機」として議題に挙げる議員も増加。
・特に欧州の公営放送(ARD、BBC、France Télévisionsなど)は、VOAなどへの支援打ち切りを「自由メディアへの直接攻撃」と報道。
(2)グローバルサウス(南半球諸国)
・二重基準(ダブルスタンダード)への反発が顕著。
米国が他国のメディア弾圧を批判してきた一方、自国では報道制限を強化していることに矛盾を感じる声が多い。
・中国、ロシア、イランなどは「米国の偽善」を国内外向けに積極的に宣伝し、情報戦の材料にしている。
⇨例:人民日報系のGlobal Timesは「米国は“自由”の名の下で最も非自由な国家になりつつある」と論評。
2. 国際的な影響
(1)民主主義の信頼性低下
・米国が他国のメディア弾圧を非難する際の道徳的権威が失われている。
⇨その結果、権威主義国家は「内政干渉だ」と反論しやすくなった。
・国際NGOや人権団体にとっても、米国との連携を強調しにくくなるという副次的影響が出ている。
(2)報道の自由の国際基準に対する後退圧力
・国際的な報道機関・支援機関(RSFやCPJなど)の正当性が脅かされつつある。
・米国の国際的報道支援(Voice of America、RFE/RLなど)が削減されることで、世界各地の独立メディアが孤立。
(3)国内外ジャーナリズムの危機
・米国の動向が他国の模範(あるいは口実)となることで、報道規制を正当化する動きが強まっている。
⇨例:ハンガリー、インド、トルコなどで、「米国でも制限されている」として報道管理を強化する政治的口実に使われている。
・「ニュース砂漠」の広がりは、国際的にもローカルジャーナリズムの意義を再考させている。
3. 総括
・米国が報道自由を後退させることは、単なる内政問題ではなく、国際的な自由秩序に連鎖的影響をもたらす。
・他国の反応は「懸念」「不信」「揶揄」に分かれ、それぞれが米国の影響力を構造的に損なう方向で作用している。
・報道の自由の低下は、民主主義モデルの輸出力を低下させ、代替的モデル(権威主義体制など)の浮上を招く。
米国における「自由」と「支配」の二律背反的な歴史構造に根ざしている。
メイフラワー号以来の問題としての構造的背景
1.自由の希求と他者支配の同居
・1620年のメイフラワー号によって到来したピューリタンたちは、宗教的自由を求めて新大陸に渡ったが、同時に先住民の土地を奪い、異文化を排除・支配する体制を築いた。
・これは、「自らの自由」のために「他者の自由を抑圧する」という、矛盾した国家理念の起源といえる。
2.内なる自由、外への抑圧
・建国期においても、白人男性による自由と民主主義は強調されたが、奴隷制、先住民排除、女性や貧困層の排除が制度として固定化された。
・この「排他的自由」は、今日の報道の自由の選別的適用や「体制に批判的な記者の排除」といった現象に通じている。
3.帝国的自由の逆説
米国は冷戦以降、「自由の守護者」としての自己像を国際的に確立してきたが、その間もCIAによる報道機関の操作、外国政府の転覆など自由の名の下に他国の報道や民主制度を干渉・操作してきた歴史がある。
現在、こうした行動の「内在化」が起こり、自由の理念が自国政府によってもむしばまれていることが問題視されている。
4.歴史的総括としての意味
したがって、RSFが指摘するような「報道の自由の後退」は、突発的な現象ではなく、米国史に深く根ざした構造的問題の顕在化にすぎないという立場が成り立つ。
それは、「自由を標榜しつつ選別的・排他的に運用する」というアメリカ的自由主義の自己矛盾の継承とも言える。
アメリカの叫びの本音
米国は自己の自由は認めても、他の自由は認めないという、片方向性の自由なのだ。自由を標榜するも、それは他の自由を擁護し叫ぶのでなく、自己の為の叫びなのだ。そして、其の欺瞞のの叫びが、国内に向かっても刺さるようになった。
結局は自国内においても、最終的には権力のある者の自由、独裁者の自由が確立される。
米国の「片方向性の自由」の構造
1.自己中心的な自由概念
アメリカは建国以来、「自由(Freedom)」を国是として掲げてきたが、その自由は常に自国民(特に支配階層)の自由に限定されてきた。
他国や他者(先住民、奴隷、国外諸国)の自由については一貫して軽視・否定されてきた。
2.「自由」の標榜と「抑圧」の同居
米国は「自由を守る」として戦争や制裁を正当化するが、その行為が他国の表現・報道・自治の自由を奪うことには無関心、あるいは意図的である。
3.報道の自由の自己利用化
報道の自由も、自らに都合のよい形で保護・奨励され、批判的報道・外国報道・内部告発には敵対的・抑圧的である。
RSFの指摘するように、トランプ政権下では体制批判的な報道が排除され、報道の自由の理念が自国益の道具として機能している。
4.自由の名による不自由の輸出
「自由と民主主義」の名の下に、他国の政府・メディアに圧力をかける行動(例:中東戦争、ラテンアメリカ政変支援、アジアの情報戦)は、自らの「自由」を守るために他者の「自由」を制限する実例である。
総括
このように、米国の自由主義は相互性を欠いた「片方向性の自由」であり、
それは「自由を叫ぶ」とき、自己の権利と利益のために叫ぶものであって、
他者の自由のために叫ぶことはほとんどないという構造を持っている。
それゆえ、アメリカが掲げる「自由」は、普遍的価値ではなく国家的自己正当化のレトリックとしての側面が強い。
ケネディの「Atlantic Partnership」の中からの抜粋である。
But can there be such a title? own home ^citj;
of Boston, Faneuil Hall—once the meeting-place of the authors of the Revolution- has long been known as the **Cradle of American Liberty." But when, in 1852, the Hungarian patriot Kossuth addressed an audience there, he criticized the name. "It is," he said, "a great name— but there is something in it which saddens my heart. You should not say "American liberty" You should say "liberty in America." Liberty should not be either American or European—it should iust be "liberty" (『ケネディ大統領演説集』昭和41年8月①日第21刷発行 原書房 176頁)
このケネディ演説に引用された**ハンガリーの愛国者コシュート(Lajos Kossuth)**の言葉は、自由の普遍性と、それを特定の国家に帰属させることの危うさを鋭く指摘している。以下にその意味と背景を詳述する。
引用の意味と主張の核心
“You should not say ‘American liberty.’ You should say ‘liberty in America.’ Liberty should not be either American or European—it should just be liberty.”
この発言に込められたメッセージは明快である。
1. 自由の「国有化」への警鐘
「American liberty(アメリカの自由)」という表現は、自由という普遍的価値を特定の国家の専有物と見なす姿勢を示している。
しかし、コシュートはそれを拒否し、自由はどの国のものでもなく、人類全体に属する価値であると訴える。
2. 普遍的価値としての「liberty」
「liberty in America(アメリカにおける自由)」という表現は、アメリカが自由を享受する場所のひとつであるにすぎないことを意味し、それを特権化・例外化することを否定する。
3. 悲しみの理由
コシュートが「心を痛める(saddens my heart)」と述べたのは、自由の名の下にアメリカが他国の自由を認めず、選別的に行動することを予見したからであろう。
事実、彼自身がハンガリーの独立を求めてアメリカに支援を求めた際、アメリカ政府は内政干渉を避けるとして明確な支援を拒否した過去がある。
ケネディの意図と文脈
ケネディがこの言葉を引用した背景には、アトランティック・パートナーシップ(Atlantic Partnership)という冷戦下の西側民主主義国連携構想がある。
彼はこの文脈で、自由はアメリカの独占物ではなく、ヨーロッパと分かち合うべき価値であると強調していた。
現代的意義
この言葉は、アメリカが「自由」を標榜して行動するとき、それが他者の自由を尊重しているのか、あるいは自己の権益の正当化にすぎないのかを見極める上で、極めて重要な視点を与える。
ケネディが引用したコシュートの言葉「自由はアメリカのものでもヨーロッパのものでもなく、単に“自由”であるべきだ」という主張を深掘りするには、これがアメリカ例外主義(American Exceptionalism)および米国外交思想とどのように対立・交錯するのかを分析する必要がある。
アメリカ例外主義との関係
1. アメリカ例外主義とは何か
アメリカ例外主義とは、アメリカ合衆国が他の国々とは異なる、特別な使命・価値を持つという思想である。主に以下の特徴を持つ。
・アメリカは民主主義と自由の守護者である
・他国と異なり、普遍的価値を代表している
・他国への介入も「正義」の名のもとで許容される
2. 自由の“専売化”という矛盾
コシュートが批判した「American liberty(アメリカの自由)」という言葉は、まさにこの例外主義の核心である。「自由は我々のものだ」「我々の価値観が普遍だ」という前提で、他国にその価値を押しつける。
・例:冷戦期の介入(ベトナム、イラン、グアテマラなど)
⇨アメリカは「自由の防衛」を掲げたが、実際には他国の政治体制を転覆し、自国に都合の良い政権を樹立した。
⇨それは果たして「自由」か?それとも「覇権の道具」か?
コシュートの批判の本質
1. 自由を自国の価値に限定することの危険性
自由が特定国家のものになると、それに沿わない「他者の自由」は無視・否定される。
・これは自己の自由の最大化=他者の自由の抑圧という構図を生みうる。
2. 普遍価値を名乗る国家の欺瞞性
・「自由のため」と称して行われる軍事行動、経済制裁、情報操作。
・実態は往々にして自己利益の確保、秩序の再編成である。
・そこでは、「自由」は名目的なスローガンとして消費される。
ケネディの発言の文脈的意義
ケネディは冷戦下においても、ヨーロッパ諸国との「パートナーシップ」を訴え、自由をアメリカの単独所有物とするのではなく、「共有すべき理念」として打ち出した。
しかしそれもまた、アメリカが中心となる構想であった点において、依然としてアメリカ中心主義的限界を内包していた。
現代的帰結:自由という言葉の空洞化
今日においても「自由」は、しばしば二重基準のもとに使われる。
場面 表向きの主張 実態・裏の構図
対ロ制裁 ウクライナの自由と主権 自国陣営の拡大とロシア封じ込め
対中政策 民主主義擁護 経済的競争と覇権争い
国内メディア対応 言論の自由 報道機関への圧力、敵視
結論
コシュートの発言は、アメリカの自由が真に普遍的な価値としての自由であるのか、それとも国家的利益の道具であるのかという根本的な問いを突きつけている。
・「American liberty」ではなく「liberty in America」と言うべきだというこの警告は、自由の所有化・利用化を批判するものであり、自由そのものの理念を純粋な形で取り戻す試みでもある。
☞「逆輸出的危機」
「逆輸出的危機」という表現の趣旨は、本来は他国に輸出すべきとされていた民主主義的価値や制度(報道の自由、法の支配、政治的多元性など)が、かえって米国自身で崩壊・後退し、その負のモデルが逆に世界に波及する恐れがあるという警告的意味合いである。
具体的には以下のような内容を含む。
趣旨の詳細
1.自由の輸出から抑圧の模倣へ
・かつて米国は「報道の自由」「開かれた政府」などの理念を国際社会に広める立場にあった。
・しかし近年は、政府による報道機関への敵対、国際放送機関への支援打ち切り、記者排除といった動きが逆に他国の報道弾圧の口実や模範として「逆輸出」されている。
2.民主主義の信用喪失
・米国の後退は、「自由で開かれた民主主義」という体制そのものの信頼性を損なう。
・その結果、権威主義体制をとる国々が「米国ですらそうなのだから、我々の報道統制も正当だ」と主張する材料になり得る。
3.制度的弱体化の連鎖
・米国が主導してきた国際的な自由・人権基準(例:報道保護条約や支援制度)が、米国自身の後退によって形骸化し、国際制度全体に逆風をもたらす危険がある。
まとめ
「逆輸出的危機」とは、自由や民主主義を標榜してきた中心国(米国)がその理念を内部から崩し、その影響がグローバルに拡散する現象を指す。
この概念は欧州の一部シンクタンクや国際メディアで使われはじめており、米国の内政がもはや「国内問題」では済まされず、国際秩序の根幹にまで影響を及ぼす懸念を示している。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
World press freedom plummets with ‘alarming deterioration’ in US under Trump, says RSF FRANCE24 2025.05.02
https://www.france24.com/en/live-news/20250502-alarming-deterioration-of-us-press-freedom-under-trump-says-rsf?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250502&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D
2025年5月2日に報道されたパリ拠点の国際メディア擁護団体「国境なき記者団(RSF)」の年次報告によれば、世界の報道の自由は「前例のない低水準」にまで低下しており、特にアメリカ合衆国ではドナルド・トランプ大統領の下で「憂慮すべき悪化」が起きているとされている。
RSFが発表した「世界報道自由度指数」において、アメリカは2025年版で57位となり、前年からさらに2つ順位を落とした。この順位は、かつて内戦状態にあった西アフリカのシエラレオネの次である。RSFは、報道関係者に対する暴力的事件の件数やその他の専門家によるデータを基に指数を算出している。
RSFによると、2024年にトランプ政権は国営放送であるボイス・オブ・アメリカ(VOA)やラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)などへの資金援助を打ち切り、また、海外のメディア支援のための開発援助も削減したとされる。これらの動きが、報道環境の悪化を一層進めたとされている。RSFは、トランプ政権が「政府機関を武器化し、独立系メディアへの支援を削減し、記者を排除してきた」と述べた。
RSFの編集ディレクターであるアンヌ・ボカンデ氏は、報道の自由が損なわれる主要な要因として経済的圧力を挙げ、広告収入の多くがメディア企業ではなくFacebook、Google、Amazonといった巨大IT企業に流れている現状を指摘した。その結果、財政難により独立系報道機関が閉鎖に追い込まれる例が相次いでおり、事実に基づく報道の基盤が揺らいでいるとする。
RSFの報告書によると、「ジャーナリズムが健全に機能している」と評価された国は世界の4分の1未満にとどまり、「報道活動に適さない」とされる国が半数に達したのは、指数の歴史上初めてである。
報道の自由指数の上位には、9年連続でノルウェーが1位、2位にエストニア、3位にオランダが入った。一方、著しい下落が見られた国としては、アルゼンチン(21位下落で87位)、チュニジア(11位下落で129位)などが挙げられており、いずれも保守的・右派的な政権の下である。
また、RSFはパレスチナの記者がイスラエルによるガザ地区への攻撃を報道する中で直面している深刻な状況についても言及し、イスラエル軍が報道機関の施設を破壊し、記者約200人を殺害、18か月以上にわたり同地区を完全に封鎖していると報告している。イスラエルはこの影響で11位下落し、112位となった。
さらに、トランプ大統領は自身に批判的な報道機関に対し法的措置を検討していると表明しており、ニューヨーク・タイムズやCBS(パラマウント傘下)などに対する訴訟にも言及している。法学専門家の多くは、これらの訴訟は表現の自由を保障する合衆国憲法に照らして退けられる可能性が高いとみている。
また、国際的なメディア監視団体である「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」も、アメリカ国内における報道の自由の後退を警告し、報道機関同士が連携して高まる脅威に対抗すべきであると呼びかけている。
【詳細】
1. 報道の自由の世界的な低下
パリに本拠を置く国境なき記者団(RSF)は、報道の自由を評価する「世界報道自由度指数(World Press Freedom Index)」を毎年発表しており、2025年版では、報道の自由の状況が「前例のない低水準」に達していると結論付けた。この指数は2002年から継続的に作成されており、今回が23回目の公表である。
2025年の報告書では、世界の国々の半数以上で「報道活動の条件が悪い」とされ、「報道の自由が満足に守られている」とされる国は全体の4分の1にも満たない状況である。このような深刻な状況は、かつて例を見ないものであり、報道機関の存続が経済的圧力により脅かされている点が大きな要因であると指摘されている。
RSFの編集責任者アンヌ・ボカンデ氏は、事実に基づいた報道が経済的理由で困難になっていると述べ、特に独立系メディアが資金難から閉鎖を余儀なくされている実態を挙げた。2024年にはオンライン広告支出が2,473億ドルに達したが、その収益の大半がFacebook、Google、Amazonといった巨大IT企業に吸収され、報道機関にはほとんど利益が残らない構造となっている。彼女は、「ジャーナリストが貧困状態に陥れば、報道の敵(虚偽情報やプロパガンダ)に対抗する力を持たなくなる」と警告している。
2. アメリカ合衆国における状況の悪化
報告書において最も注目されたのは、アメリカ合衆国の報道自由度の顕著な悪化である。2024年には11位下落し、その翌年である2025年にはさらに2つ順位を落とし、57位となった。これは、報道の自由が回復困難な水準にまで後退していることを示している。
RSFは、ドナルド・トランプ大統領の2期目の政権が報道の自由をさらに侵害する形で「権威主義的な方向へとシフト」していると指摘している。具体的には、政府機関の「武器化」、つまり政府権限を報道機関への圧力手段として使用し、ボイス・オブ・アメリカやラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティといった国営メディアへの資金支援を打ち切り、さらに国外の民主化支援やメディア育成を目的とした開発援助も削減したことが挙げられている。
また、ホワイトハウス記者会見での一部記者の排除や、特定メディアを「敵対的存在」とみなす姿勢が顕著であり、これにより記者の安全や取材の自由が損なわれている。
RSFは、こうした状況下で「ニュース砂漠(news deserts)」と呼ばれる地域、すなわち報道機関が存在しない、もしくは機能不全に陥っている地域がアメリカ国内で広がっていると警告している。これは地域住民が信頼できるニュースを得る機会を失うことを意味し、民主主義の根幹である知る権利が脅かされているとする指摘である。
3. トランプ大統領によるメディアへの訴訟と攻撃
2025年5月時点で、トランプ大統領はニューヨーク・タイムズに対する訴訟を検討していると発表しており、また、CBS(パラマウント傘下)によるカマラ・ハリス副大統領(民主党)へのインタビュー放映に関しても、選挙戦前に自身に不利な発言が編集で削除されたとして訴訟を起こしている。
ただし、多くの法学専門家は、これらの訴訟は米国憲法修正第1条によって保障された「報道の自由」および「表現の自由」によって棄却されるか、訴訟が成立しない可能性が高いとの見解を示している。
4. 他国における報道自由の後退事例
報告書ではアメリカ以外にもいくつかの国の著しい順位低下が挙げられている。特に、アルゼンチンは右派政権のハビエル・ミレイ大統領の下で報道の自由度が21位も低下し87位となった。また、チュニジアも11位下落し129位となっており、いずれの政権もメディアに対する圧力を強めていると分析されている。
さらに、ガザ地区ではイスラエル軍によるメディア施設の破壊、約200人のジャーナリストの殺害、18か月以上にわたる完全封鎖が続いており、RSFはこの状況を「報道の自由に対する壊滅的打撃」として報告した。イスラエルの報道自由度は11位下がって112位となり、国内メディアに対しても弾圧が継続しているとされている。
5. 国際的な警告と連帯の呼びかけ
RSFだけでなく、アメリカ国内の報道監視団体である「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」も、国内における報道の自由の危機に懸念を表明しており、「高まる脅威に対抗するためには、報道機関が団結すべきである」との見解を示している。
【要点】
世界全体の傾向
・報道の自由は過去最悪レベルにまで後退。
・評価対象の半数以上の国で報道環境が「悪い」と分類。
・報道の自由が「良好」とされる国は全体の4分の1未満。
・経済的要因(広告収入の減少、独立系メディアの資金難)が主因。
・巨大IT企業(Google、Meta、Amazonなど)が広告収入を寡占し、報道機関に収益が回らず。
・RSF編集責任者は「事実報道の危機は民主主義の危機である」と警告。
アメリカ合衆国(2025年報告)
・米国のランキングは前年から2位下落し57位(2024年は55位)。
・トランプ政権が「権威主義的な方向へ転換」と指摘。
・政府の「武器化」により、国営メディア(VOA、RFE/RL)への支援打ち切り。
・海外向け民主化・報道支援の開発援助も削減。
・ホワイトハウスでの特定記者排除や、批判的メディアへの敵視姿勢が強まる。
・地域メディアの消失により「ニュース砂漠」が全米で拡大。
トランプによる報道機関への訴訟・攻撃
・ニューヨーク・タイムズに対して名誉毀損訴訟を検討中。
・CBSが放送したカマラ・ハリス副大統領のインタビューに対して訴訟を提起。
・専門家は「表現の自由(憲法修正第1条)により棄却の可能性高い」と分析。
他国の注目動向
・アルゼンチン:ミレイ政権下で報道の自由が21位下落し87位。
・チュニジア:11位下落し129位、報道統制が強化。
・イスラエル:ガザ紛争下で11位下落し112位。
・約200人のジャーナリストが死亡、報道施設の破壊多数。
・RSFは「報道の自由に対する壊滅的打撃」と指摘。
総括
・報道の自由は世界的に深刻な脅威に直面。
・特に民主主義国においても国家権力による報道抑圧が進行。
・RSFおよびCPJは「報道機関間の連帯と警戒の強化が必要」と訴える。
【桃源寸評】
民主主義や自由主義を標榜している国であっても、その内実が理念と乖離していれば、それは看板倒れであり、むしろ国際的信頼の低下を招く。特に報道の自由は、民主主義の健全性を測るバロメーターの一つであり、米国がそれを後退させている実態は、世界が直視すべき事実である。
2025年のRSF報告は、「米国は権威主義的転換を遂げつつある」と明記しており、これは単なる一部の批評ではなく、継続的なデータに基づいた国際的警告である。また、国際的影響力を持つ米国が、こうした報道抑圧を国内外に広めるならば、それは他国の抑圧体制にも正当化の口実を与えかねない。
表現の自由や報道の自由が単なるスローガンではなく、制度的かつ実質的に保障されているかどうか。これを評価することは、世界が米国の「実像」を把握するうえで不可欠である。
米国の報道自由の後退、特にトランプ政権下での制度的・政治的圧力の強化に対して、他国の反応や国際的な影響は以下のように整理される。
1.他国の反応と評価
(1)欧州諸国(特に北欧・西欧)
・懸念と失望を表明している。
フランス、ドイツ、ノルウェーなどは「民主主義の模範とされてきた米国が報道の自由で後退しているのは象徴的」と指摘。
・欧州議会では2024年以降、米国の報道統制傾向を「逆輸出的危機」として議題に挙げる議員も増加。
・特に欧州の公営放送(ARD、BBC、France Télévisionsなど)は、VOAなどへの支援打ち切りを「自由メディアへの直接攻撃」と報道。
(2)グローバルサウス(南半球諸国)
・二重基準(ダブルスタンダード)への反発が顕著。
米国が他国のメディア弾圧を批判してきた一方、自国では報道制限を強化していることに矛盾を感じる声が多い。
・中国、ロシア、イランなどは「米国の偽善」を国内外向けに積極的に宣伝し、情報戦の材料にしている。
⇨例:人民日報系のGlobal Timesは「米国は“自由”の名の下で最も非自由な国家になりつつある」と論評。
2. 国際的な影響
(1)民主主義の信頼性低下
・米国が他国のメディア弾圧を非難する際の道徳的権威が失われている。
⇨その結果、権威主義国家は「内政干渉だ」と反論しやすくなった。
・国際NGOや人権団体にとっても、米国との連携を強調しにくくなるという副次的影響が出ている。
(2)報道の自由の国際基準に対する後退圧力
・国際的な報道機関・支援機関(RSFやCPJなど)の正当性が脅かされつつある。
・米国の国際的報道支援(Voice of America、RFE/RLなど)が削減されることで、世界各地の独立メディアが孤立。
(3)国内外ジャーナリズムの危機
・米国の動向が他国の模範(あるいは口実)となることで、報道規制を正当化する動きが強まっている。
⇨例:ハンガリー、インド、トルコなどで、「米国でも制限されている」として報道管理を強化する政治的口実に使われている。
・「ニュース砂漠」の広がりは、国際的にもローカルジャーナリズムの意義を再考させている。
3. 総括
・米国が報道自由を後退させることは、単なる内政問題ではなく、国際的な自由秩序に連鎖的影響をもたらす。
・他国の反応は「懸念」「不信」「揶揄」に分かれ、それぞれが米国の影響力を構造的に損なう方向で作用している。
・報道の自由の低下は、民主主義モデルの輸出力を低下させ、代替的モデル(権威主義体制など)の浮上を招く。
米国における「自由」と「支配」の二律背反的な歴史構造に根ざしている。
メイフラワー号以来の問題としての構造的背景
1.自由の希求と他者支配の同居
・1620年のメイフラワー号によって到来したピューリタンたちは、宗教的自由を求めて新大陸に渡ったが、同時に先住民の土地を奪い、異文化を排除・支配する体制を築いた。
・これは、「自らの自由」のために「他者の自由を抑圧する」という、矛盾した国家理念の起源といえる。
2.内なる自由、外への抑圧
・建国期においても、白人男性による自由と民主主義は強調されたが、奴隷制、先住民排除、女性や貧困層の排除が制度として固定化された。
・この「排他的自由」は、今日の報道の自由の選別的適用や「体制に批判的な記者の排除」といった現象に通じている。
3.帝国的自由の逆説
米国は冷戦以降、「自由の守護者」としての自己像を国際的に確立してきたが、その間もCIAによる報道機関の操作、外国政府の転覆など自由の名の下に他国の報道や民主制度を干渉・操作してきた歴史がある。
現在、こうした行動の「内在化」が起こり、自由の理念が自国政府によってもむしばまれていることが問題視されている。
4.歴史的総括としての意味
したがって、RSFが指摘するような「報道の自由の後退」は、突発的な現象ではなく、米国史に深く根ざした構造的問題の顕在化にすぎないという立場が成り立つ。
それは、「自由を標榜しつつ選別的・排他的に運用する」というアメリカ的自由主義の自己矛盾の継承とも言える。
アメリカの叫びの本音
米国は自己の自由は認めても、他の自由は認めないという、片方向性の自由なのだ。自由を標榜するも、それは他の自由を擁護し叫ぶのでなく、自己の為の叫びなのだ。そして、其の欺瞞のの叫びが、国内に向かっても刺さるようになった。
結局は自国内においても、最終的には権力のある者の自由、独裁者の自由が確立される。
米国の「片方向性の自由」の構造
1.自己中心的な自由概念
アメリカは建国以来、「自由(Freedom)」を国是として掲げてきたが、その自由は常に自国民(特に支配階層)の自由に限定されてきた。
他国や他者(先住民、奴隷、国外諸国)の自由については一貫して軽視・否定されてきた。
2.「自由」の標榜と「抑圧」の同居
米国は「自由を守る」として戦争や制裁を正当化するが、その行為が他国の表現・報道・自治の自由を奪うことには無関心、あるいは意図的である。
3.報道の自由の自己利用化
報道の自由も、自らに都合のよい形で保護・奨励され、批判的報道・外国報道・内部告発には敵対的・抑圧的である。
RSFの指摘するように、トランプ政権下では体制批判的な報道が排除され、報道の自由の理念が自国益の道具として機能している。
4.自由の名による不自由の輸出
「自由と民主主義」の名の下に、他国の政府・メディアに圧力をかける行動(例:中東戦争、ラテンアメリカ政変支援、アジアの情報戦)は、自らの「自由」を守るために他者の「自由」を制限する実例である。
総括
このように、米国の自由主義は相互性を欠いた「片方向性の自由」であり、
それは「自由を叫ぶ」とき、自己の権利と利益のために叫ぶものであって、
他者の自由のために叫ぶことはほとんどないという構造を持っている。
それゆえ、アメリカが掲げる「自由」は、普遍的価値ではなく国家的自己正当化のレトリックとしての側面が強い。
ケネディの「Atlantic Partnership」の中からの抜粋である。
But can there be such a title? own home ^citj;
of Boston, Faneuil Hall—once the meeting-place of the authors of the Revolution- has long been known as the **Cradle of American Liberty." But when, in 1852, the Hungarian patriot Kossuth addressed an audience there, he criticized the name. "It is," he said, "a great name— but there is something in it which saddens my heart. You should not say "American liberty" You should say "liberty in America." Liberty should not be either American or European—it should iust be "liberty" (『ケネディ大統領演説集』昭和41年8月①日第21刷発行 原書房 176頁)
このケネディ演説に引用された**ハンガリーの愛国者コシュート(Lajos Kossuth)**の言葉は、自由の普遍性と、それを特定の国家に帰属させることの危うさを鋭く指摘している。以下にその意味と背景を詳述する。
引用の意味と主張の核心
“You should not say ‘American liberty.’ You should say ‘liberty in America.’ Liberty should not be either American or European—it should just be liberty.”
この発言に込められたメッセージは明快である。
1. 自由の「国有化」への警鐘
「American liberty(アメリカの自由)」という表現は、自由という普遍的価値を特定の国家の専有物と見なす姿勢を示している。
しかし、コシュートはそれを拒否し、自由はどの国のものでもなく、人類全体に属する価値であると訴える。
2. 普遍的価値としての「liberty」
「liberty in America(アメリカにおける自由)」という表現は、アメリカが自由を享受する場所のひとつであるにすぎないことを意味し、それを特権化・例外化することを否定する。
3. 悲しみの理由
コシュートが「心を痛める(saddens my heart)」と述べたのは、自由の名の下にアメリカが他国の自由を認めず、選別的に行動することを予見したからであろう。
事実、彼自身がハンガリーの独立を求めてアメリカに支援を求めた際、アメリカ政府は内政干渉を避けるとして明確な支援を拒否した過去がある。
ケネディの意図と文脈
ケネディがこの言葉を引用した背景には、アトランティック・パートナーシップ(Atlantic Partnership)という冷戦下の西側民主主義国連携構想がある。
彼はこの文脈で、自由はアメリカの独占物ではなく、ヨーロッパと分かち合うべき価値であると強調していた。
現代的意義
この言葉は、アメリカが「自由」を標榜して行動するとき、それが他者の自由を尊重しているのか、あるいは自己の権益の正当化にすぎないのかを見極める上で、極めて重要な視点を与える。
ケネディが引用したコシュートの言葉「自由はアメリカのものでもヨーロッパのものでもなく、単に“自由”であるべきだ」という主張を深掘りするには、これがアメリカ例外主義(American Exceptionalism)および米国外交思想とどのように対立・交錯するのかを分析する必要がある。
アメリカ例外主義との関係
1. アメリカ例外主義とは何か
アメリカ例外主義とは、アメリカ合衆国が他の国々とは異なる、特別な使命・価値を持つという思想である。主に以下の特徴を持つ。
・アメリカは民主主義と自由の守護者である
・他国と異なり、普遍的価値を代表している
・他国への介入も「正義」の名のもとで許容される
2. 自由の“専売化”という矛盾
コシュートが批判した「American liberty(アメリカの自由)」という言葉は、まさにこの例外主義の核心である。「自由は我々のものだ」「我々の価値観が普遍だ」という前提で、他国にその価値を押しつける。
・例:冷戦期の介入(ベトナム、イラン、グアテマラなど)
⇨アメリカは「自由の防衛」を掲げたが、実際には他国の政治体制を転覆し、自国に都合の良い政権を樹立した。
⇨それは果たして「自由」か?それとも「覇権の道具」か?
コシュートの批判の本質
1. 自由を自国の価値に限定することの危険性
自由が特定国家のものになると、それに沿わない「他者の自由」は無視・否定される。
・これは自己の自由の最大化=他者の自由の抑圧という構図を生みうる。
2. 普遍価値を名乗る国家の欺瞞性
・「自由のため」と称して行われる軍事行動、経済制裁、情報操作。
・実態は往々にして自己利益の確保、秩序の再編成である。
・そこでは、「自由」は名目的なスローガンとして消費される。
ケネディの発言の文脈的意義
ケネディは冷戦下においても、ヨーロッパ諸国との「パートナーシップ」を訴え、自由をアメリカの単独所有物とするのではなく、「共有すべき理念」として打ち出した。
しかしそれもまた、アメリカが中心となる構想であった点において、依然としてアメリカ中心主義的限界を内包していた。
現代的帰結:自由という言葉の空洞化
今日においても「自由」は、しばしば二重基準のもとに使われる。
場面 表向きの主張 実態・裏の構図
対ロ制裁 ウクライナの自由と主権 自国陣営の拡大とロシア封じ込め
対中政策 民主主義擁護 経済的競争と覇権争い
国内メディア対応 言論の自由 報道機関への圧力、敵視
結論
コシュートの発言は、アメリカの自由が真に普遍的な価値としての自由であるのか、それとも国家的利益の道具であるのかという根本的な問いを突きつけている。
・「American liberty」ではなく「liberty in America」と言うべきだというこの警告は、自由の所有化・利用化を批判するものであり、自由そのものの理念を純粋な形で取り戻す試みでもある。
☞「逆輸出的危機」
「逆輸出的危機」という表現の趣旨は、本来は他国に輸出すべきとされていた民主主義的価値や制度(報道の自由、法の支配、政治的多元性など)が、かえって米国自身で崩壊・後退し、その負のモデルが逆に世界に波及する恐れがあるという警告的意味合いである。
具体的には以下のような内容を含む。
趣旨の詳細
1.自由の輸出から抑圧の模倣へ
・かつて米国は「報道の自由」「開かれた政府」などの理念を国際社会に広める立場にあった。
・しかし近年は、政府による報道機関への敵対、国際放送機関への支援打ち切り、記者排除といった動きが逆に他国の報道弾圧の口実や模範として「逆輸出」されている。
2.民主主義の信用喪失
・米国の後退は、「自由で開かれた民主主義」という体制そのものの信頼性を損なう。
・その結果、権威主義体制をとる国々が「米国ですらそうなのだから、我々の報道統制も正当だ」と主張する材料になり得る。
3.制度的弱体化の連鎖
・米国が主導してきた国際的な自由・人権基準(例:報道保護条約や支援制度)が、米国自身の後退によって形骸化し、国際制度全体に逆風をもたらす危険がある。
まとめ
「逆輸出的危機」とは、自由や民主主義を標榜してきた中心国(米国)がその理念を内部から崩し、その影響がグローバルに拡散する現象を指す。
この概念は欧州の一部シンクタンクや国際メディアで使われはじめており、米国の内政がもはや「国内問題」では済まされず、国際秩序の根幹にまで影響を及ぼす懸念を示している。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
World press freedom plummets with ‘alarming deterioration’ in US under Trump, says RSF FRANCE24 2025.05.02
https://www.france24.com/en/live-news/20250502-alarming-deterioration-of-us-press-freedom-under-trump-says-rsf?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250502&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D
ウクライナと米国が締結した改訂版鉱物取引協定 ― 2025年05月02日 19:44
【概要】
ウクライナと米国が締結した改訂版鉱物取引協定の内容とその地政学的影響について述べたものである。
米国とウクライナは当初の草案から修正を加えた上で鉱物取引協定に署名した。修正点の一つは、ウクライナが過去の米国からの軍事支援に対して返済義務を負う提案を削除したことである。その代わりに、今後の米国の軍事支援(技術支援や訓練を含む)は、米国側が共同基金に対して拠出する経済的貢献とみなされることが明記された。
この仕組みによって、米国はウクライナへの具体的な安全保障の約束を行うよりも柔軟な政策運用が可能となる。米国が現在の和平交渉の微妙な局面において武器供与を進めれば、ロシアを刺激して交渉の決裂を招く可能性があるが、本協定に基づけば、停戦後に米国の投資を防衛するという名目で武器供与を継続できる余地が生まれる。
この結果、ロシアにとっては、ウクライナの完全な非武装化という目的の達成が困難になる。米国が今後どのような政権であっても、ウクライナ支援を完全に打ち切る可能性は現実的には低いと考えられるからである。
ドナルド・トランプ大統領がこの合意を評価し、5,000万ドル以上の防衛関連製品を対外有償軍事販売(DCS)としてウクライナに輸出する意向を議会に通知したと、キーウ・ポストの外交筋の話を引用して伝えている。これは2015年から2023年までに認可された16億ドル超のDCSと比べれば小規模ではあるが、トランプ氏が再びDCSを再開する意図を示したものと解釈される。
さらに、トランプ氏がウクライナ側に和平交渉の失敗の責任があると判断した場合、大規模な武器支援を控える可能性がある一方で、DCSは継続される可能性があるとされる。逆に、ロシア側に責任があると見なした場合には、大規模な軍事支援を再開する可能性も示唆されている。すなわち、今後も米国からウクライナへの武器供与は継続する見通しであり、その内容や規模、スピード、条件が変動するという点が強調されている。
このような状況下で、ロシアはウクライナの完全な非武装化を断念し、部分的な非武装化で妥協する可能性を考慮するかもしれない。その際には、「ドニエプル川以東」の地域を非武装地帯とし、非西側の平和維持部隊によって管理させる案などが考えられる。また、特定兵器の配備に関する地理的制限を設けることで妥協が図られる可能性もあるが、その場合には国連安全保障理事会の承認による監視・履行メカニズムが必要となる。
和平を真剣に模索するのであれば、トランプ氏はこのような妥協案あるいはそれに準じる提案を受け入れるべきである。そうでなければ、ロシアのプーチン大統領にとって非武装化の目的を放棄する合意を承認することは政治的に困難となる。このように、米国とウクライナの鉱物取引協定の改訂内容は、ロシアが掲げる非武装化という戦略目標の達成を大きく複雑化させる要因となっている。
【詳細】
1. 改訂鉱物協定の主な変更点と意義
米国とウクライナは、当初の鉱物取引協定案を修正し、最終的に署名した。最も重要な修正点は、ウクライナがこれまで受け取った米国の軍事支援に対して返済を行うという条項が削除されたことである。代わりに新たに追加された条項では、将来の米国による軍事支援(兵器の供与、軍事訓練、技術移転など)が、米国の「共同基金」への経済的拠出と見なされることとなった。
この条項によって、米国は安全保障条約のような拘束力の強い保障を提供することなく、継続的な支援を正当化できる仕組みを得た。また、この基金構想は、軍事支援と経済投資を連動させる枠組みを形成し、米国の政策決定に柔軟性をもたらしている。
2. 和平交渉への影響と軍事支援の新たな論理
この合意が意味するのは、ウクライナへの米国の軍事支援が今後も継続される可能性が高いということである。特に、米国の支援が「投資保護」の文脈で正当化されるようになる点が重要である。つまり、和平が成立した後であっても、ウクライナが安定を維持するという名目で、米国は新たな武器パッケージの提供を続ける可能性がある。
一方で、米国が和平交渉の最中に軍事支援を急ぐことは、ロシア側に交渉の無意味さを印象づけ、和平そのものが破綻するリスクを伴う。したがって、米国は支援の「時期」や「名目」に注意を払う必要があるが、新たな鉱物協定は、支援を外交的に正当化する新たな枠組みを提供している。
3. トランプの対応とDCS再開の示唆
ドナルド・トランプ大統領がこの合意に対して肯定的な対応を見せたことに言及している。キーウ・ポストによると、トランプ氏は議会に対し、5,000万ドル以上の「対外有償軍事販売(DCS)」による武器輸出を承認する意向を伝えた。DCSは政府を通さずに民間企業が武器を輸出する仕組みであり、政府間の軍事援助(Foreign Military Financing)よりも裁量の幅が広い。
2015年から2023年の間に認可されたDCSの総額は16億ドルを超えており、今回の5,000万ドルはそれに比べれば小規模であるが、トランプ氏が再び軍事支援を再開する方針を持っている兆候と見なされる。
4. ウクライナまたはロシアの「責任論」による対応の変化
トランプ氏が今後の和平交渉の失敗をウクライナの責任と判断した場合、大規模な軍事パッケージの提供を控える可能性がある。しかし、その場合でもDCSのような手段を用いて、限定的な支援は継続される可能性がある。逆に、ロシア側に責任があると見なせば、トランプ氏は報復として大規模な軍事支援を許可する可能性がある。したがって、今後も武器供与が止まる可能性は低く、量・質・スピード・提供形態などの調整が行われるのみである。
5. ロシアの対応戦略の再構築
ロシアの「ウクライナの完全非武装化」という目標は、米国がこのような形でウクライナ支援を制度化することにより、ますます非現実的なものとなっている。このため、ロシアは以下のような「妥協戦略」に転じる可能性があるとされている:
ドニエプル川以東を非武装地帯とし、非西側諸国(例えば中国や中央アジア諸国など)の平和維持部隊によって管理させる。
ウクライナにおける特定の兵器の配備に地理的制限を設ける。
上記制限を履行させるための国連安保理承認済みの監視・検証メカニズムの設置を要求する。
このような妥協案は、ロシアが表向きの「非武装化目標」を維持しつつ、現実的な政治的妥結を目指すための現実的な選択肢とされている。
6. 和平成立の鍵と米露の相互理解
最終的に記事が強調しているのは、米国(特にトランプ氏)が真剣に和平を追求するのであれば、上記のような妥協案を検討・承認する必要があるという点である。さもなければ、プーチン大統領が自国の戦略目標の一つを放棄する内容の合意を政治的に承認することは困難となる。すなわち、本件鉱物協定の修正内容は、和平交渉の行方に直接影響を与えるほどの戦略的意味を持っており、特にロシアの非武装化目標を実現困難にする要因として機能している。
【要点】
改訂鉱物協定の概要と目的
・米ウクライナ間の鉱物協定が修正・署名された。
・修正により、ウクライナが受けた軍事支援の返済義務が削除された。
・新たに、将来の米軍事支援が「共同基金」への投資とみなされる条項が追加された。
・経済支援と軍事支援を結びつけ、米国が柔軟に支援を継続できる枠組みが整えられた。
和平交渉と軍事支援の両立の仕組み
・米国はこの協定を活用して、和平成立後も「投資保護」の名目で武器支援を継続可能。
・ただし、戦争継続中に支援を急ぐと、ロシア側が和平交渉を無意味と見なすリスクもある。
・米国にとっては、「支援のタイミングと名目」が外交戦略上の鍵となる。
トランプ氏の関与とDCSの再開
・トランプ氏は、5000万ドル以上の**対外有償軍事販売(DCS)**の承認を議会に通達。
・DCSは民間企業経由での武器供与であり、政府援助(FMF)より自由度が高い。
・トランプ政権下でのDCSは2015–2023年で16億ドル超、今回の承認は小規模だが象徴的。
・トランプ氏が軍事支援を再開する意思を示した可能性。
和平失敗時の「責任の所在」で米国の態度が変化
・和平失敗をウクライナの責任と見なす場合、米国の大規模支援は停止されうる。
・ただしDCSのような限定支援は継続される可能性が高い。
・ロシアの責任と判断されれば、米国は報復的に武器供与を強化する可能性がある。
・結論:支援は止まらず、形態・規模・速度が調整されるのみ。
ロシアの戦略転換の可能性
・「ウクライナの完全非武装化」は米国の制度的支援によって実現困難に。
・ロシアは以下のような「現実的妥協案」に転換する可能性:
・ドニエプル川以東の非武装地帯化。
・非西側平和維持軍による管理(例:中国・中央アジア)。
・特定兵器の配備制限+国連安保理承認の監視体制。
米露の妥協が和平の鍵
・プーチン大統領は政治的に譲歩の正当性が必要(非武装化を放棄できない)。
・トランプ氏が和平を本気で望むなら、上記のような妥協案を検討・容認すべき。
・改訂鉱物協定は、ウクライナの軍事力維持の制度的保証となり、ロシアの交渉条件を硬化させる可能性がある。
【桃源寸評】
ロシアが想起すべき歴史的裏切り
・「Not One Inch Eastward」(これ以上東には拡大しない)」とは、冷戦終結直後の1990年前後に西側(特に米国のベーカー国務長官)が当時のソ連ゴルバチョフ政権に対してNATO不拡大の口約束をしたとされる表現である。
・この約束は文書化されておらず、後年NATOは1999年以降ポーランド、ハンガリー、チェコなどを加盟させ、さらにバルト三国やバルカン半島にも拡大した。
・ロシアはこれを西側による戦略的裏切りと認識し、以後の対NATO政策の根幹に据えている。
・現在のウクライナ和平交渉でも、ロシアはこの過去を踏まえ、「文書による保証」「履行可能な措置」「安保理承認付きの拘束力ある枠組み」を強く求めている。
・ゆえに、米国の「鉱物協定」によって形式的な非加盟状態のまま実質的な軍事支援が継続される構図は、ロシアにとって「再び騙される危険」と映る。
現在の交渉の全体構造とロシアの立場
・ロシアは「特別軍事作戦」の目標の一つとして、ウクライナの非ナチ化および非武装化を掲げており、これは国内向けにも戦争の正統性を示す重要な柱である。
・交渉においては、ウクライナの中立化(非NATO加盟)と非武装化を核とする案がロシア側から繰り返し提示されてきた。
・しかし米国の新鉱物協定により、米国がウクライナの軍事力維持に制度的関与を強化する構図が生まれたため、ロシアにとっては「和平を結ぶこと自体が非武装化の放棄を意味する」リスクが増した。
・これに対抗し、ロシアは「部分的非武装化」や「地理的制限」「非西側監視団の配置」など、段階的・限定的妥協案へシフトする可能性がある。
鉱物協定の領域的対象
・記事において明確な地理的範囲は示されていないが、ウクライナの鉱物資源の豊富な地域は以下に集中している。
1.ドニプロペトロウシク州(鉄鉱石、マンガン)
2.ザポリージャ州(チタン、リチウム、ウラン)
3.ドネツィク州(石炭、レアメタル)
4.キロヴォフラード州・ニコラエフ州(レアアース、グラファイト)
5.西部カルパティア地域(特にリヴィウ州)(レアアース、ウラン)
・特にリチウム・レアアース・チタンなどは米国の軍事・ハイテク産業にとって戦略的価値が高く、これらの鉱物の採掘・輸出に関する共同管理が協定の主眼と考えられる。
・すなわち、米国がこれらの鉱物資源を確保・保護する権益を有することになり、その防衛のための軍事支援は正当化される構造となる。
総合的見解
改訂鉱物協定は、「形式上の安全保障協定」ではなく、「実質的な防衛義務を生む経済協定」であり、事実上の米国による安全保障提供と同等である。
・ロシアにとっては、こうした構図がまさに「NATO非拡大の約束破り」の繰り返しであり、和平交渉において最大の警戒対象となる。
・よって、今後の交渉においてロシアは、「経済協定にカモフラージュされた軍事関与」の停止や制限を強く求めると予測される。
➢鉱物資源が豊富かつ占領または係争中の主な州
現在のウクライナにおける鉱物資源の豊富な州のうち、ロシアに「占領された」または「占領されつつある」地域には以下が含まれる。以下の情報は、2024年末時点までの情勢に基づき、最新情報に応じて若干の変動があり得る。
1. ドネツィク州(Donetsk Oblast)
・資源:石炭、チタン、リチウム、鉄鉱石、マンガン、天然ガスなど。
・状況:2014年から親ロシア勢力が部分的に支配、2022年以降にロシアが併合を主張。
・戦略的意義:ウクライナ最大の工業地帯(ドンバス)の中心。鉱業・重工業が密集。
2. ルハンシク州(Luhansk Oblast)
・資源:石炭、天然ガス。
・状況:2014年から親ロシア勢力が支配し、2022年にロシアが併合を主張。
・戦略的意義:エネルギー資源の宝庫で、ガス田の存在が重要。
3. ザポリージャ州(Zaporizhzhia Oblast)
・資源:チタン、ジルコニウム、鉄鉱石、石炭、ウラン。
・状況:州の南部(メリトポリなど)をロシアが占領、ザポリージャ市など北部はウクライナが保持。
・戦略的意義:重化学工業と鉱業が盛んな地域であり、ザポリージャ原発も存在。
4. ヘルソン州(Kherson Oblast)
・資源:地下水資源、農業用資源(鉱物は限定的)。
・状況:州南部をロシアが実効支配中、ドニエプル川を境に係争状態。
・戦略的意義:黒海への戦略的アクセスおよび農業・水利資源。
以下は部分的に鉱物資源があるが、ロシアが占領していない主要鉱物州
5. ドニプロペトロウシク州(Dnipropetrovsk Oblast)
・資源:チタン、鉄鉱石、マンガン、ウラン。
・状況:現在ウクライナが支配しているが、前線に近接。
・戦略的意義:鉱業の中核地であり、ロシアが戦略的目標とする可能性がある。
6. キロヴォフラード州(Kirovohrad Oblast)
・資源:ウラン、レアアース、チタン。
・状況:完全にウクライナが支配。
・戦略的意義:レアメタル供給の鍵であり、西側企業が注目する地域。
総評
ロシアがすでに占領、または支配を試みている地域は、ウクライナの鉱物資源の中でも「チタン」「リチウム」「石炭」「天然ガス」などを含む戦略資源が集中している。これらの資源は、欧米諸国が経済支援・再建計画の一環として注目する対象でもあるため、ロシアとの対立や和平交渉の重要な駆け引き材料ともなっている。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
The Amended Minerals Deal Will Likely Lead To More American Weapons Packages For Ukraine Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.02
https://korybko.substack.com/p/the-amended-minerals-deal-will-likely?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=162672224&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ウクライナと米国が締結した改訂版鉱物取引協定の内容とその地政学的影響について述べたものである。
米国とウクライナは当初の草案から修正を加えた上で鉱物取引協定に署名した。修正点の一つは、ウクライナが過去の米国からの軍事支援に対して返済義務を負う提案を削除したことである。その代わりに、今後の米国の軍事支援(技術支援や訓練を含む)は、米国側が共同基金に対して拠出する経済的貢献とみなされることが明記された。
この仕組みによって、米国はウクライナへの具体的な安全保障の約束を行うよりも柔軟な政策運用が可能となる。米国が現在の和平交渉の微妙な局面において武器供与を進めれば、ロシアを刺激して交渉の決裂を招く可能性があるが、本協定に基づけば、停戦後に米国の投資を防衛するという名目で武器供与を継続できる余地が生まれる。
この結果、ロシアにとっては、ウクライナの完全な非武装化という目的の達成が困難になる。米国が今後どのような政権であっても、ウクライナ支援を完全に打ち切る可能性は現実的には低いと考えられるからである。
ドナルド・トランプ大統領がこの合意を評価し、5,000万ドル以上の防衛関連製品を対外有償軍事販売(DCS)としてウクライナに輸出する意向を議会に通知したと、キーウ・ポストの外交筋の話を引用して伝えている。これは2015年から2023年までに認可された16億ドル超のDCSと比べれば小規模ではあるが、トランプ氏が再びDCSを再開する意図を示したものと解釈される。
さらに、トランプ氏がウクライナ側に和平交渉の失敗の責任があると判断した場合、大規模な武器支援を控える可能性がある一方で、DCSは継続される可能性があるとされる。逆に、ロシア側に責任があると見なした場合には、大規模な軍事支援を再開する可能性も示唆されている。すなわち、今後も米国からウクライナへの武器供与は継続する見通しであり、その内容や規模、スピード、条件が変動するという点が強調されている。
このような状況下で、ロシアはウクライナの完全な非武装化を断念し、部分的な非武装化で妥協する可能性を考慮するかもしれない。その際には、「ドニエプル川以東」の地域を非武装地帯とし、非西側の平和維持部隊によって管理させる案などが考えられる。また、特定兵器の配備に関する地理的制限を設けることで妥協が図られる可能性もあるが、その場合には国連安全保障理事会の承認による監視・履行メカニズムが必要となる。
和平を真剣に模索するのであれば、トランプ氏はこのような妥協案あるいはそれに準じる提案を受け入れるべきである。そうでなければ、ロシアのプーチン大統領にとって非武装化の目的を放棄する合意を承認することは政治的に困難となる。このように、米国とウクライナの鉱物取引協定の改訂内容は、ロシアが掲げる非武装化という戦略目標の達成を大きく複雑化させる要因となっている。
【詳細】
1. 改訂鉱物協定の主な変更点と意義
米国とウクライナは、当初の鉱物取引協定案を修正し、最終的に署名した。最も重要な修正点は、ウクライナがこれまで受け取った米国の軍事支援に対して返済を行うという条項が削除されたことである。代わりに新たに追加された条項では、将来の米国による軍事支援(兵器の供与、軍事訓練、技術移転など)が、米国の「共同基金」への経済的拠出と見なされることとなった。
この条項によって、米国は安全保障条約のような拘束力の強い保障を提供することなく、継続的な支援を正当化できる仕組みを得た。また、この基金構想は、軍事支援と経済投資を連動させる枠組みを形成し、米国の政策決定に柔軟性をもたらしている。
2. 和平交渉への影響と軍事支援の新たな論理
この合意が意味するのは、ウクライナへの米国の軍事支援が今後も継続される可能性が高いということである。特に、米国の支援が「投資保護」の文脈で正当化されるようになる点が重要である。つまり、和平が成立した後であっても、ウクライナが安定を維持するという名目で、米国は新たな武器パッケージの提供を続ける可能性がある。
一方で、米国が和平交渉の最中に軍事支援を急ぐことは、ロシア側に交渉の無意味さを印象づけ、和平そのものが破綻するリスクを伴う。したがって、米国は支援の「時期」や「名目」に注意を払う必要があるが、新たな鉱物協定は、支援を外交的に正当化する新たな枠組みを提供している。
3. トランプの対応とDCS再開の示唆
ドナルド・トランプ大統領がこの合意に対して肯定的な対応を見せたことに言及している。キーウ・ポストによると、トランプ氏は議会に対し、5,000万ドル以上の「対外有償軍事販売(DCS)」による武器輸出を承認する意向を伝えた。DCSは政府を通さずに民間企業が武器を輸出する仕組みであり、政府間の軍事援助(Foreign Military Financing)よりも裁量の幅が広い。
2015年から2023年の間に認可されたDCSの総額は16億ドルを超えており、今回の5,000万ドルはそれに比べれば小規模であるが、トランプ氏が再び軍事支援を再開する方針を持っている兆候と見なされる。
4. ウクライナまたはロシアの「責任論」による対応の変化
トランプ氏が今後の和平交渉の失敗をウクライナの責任と判断した場合、大規模な軍事パッケージの提供を控える可能性がある。しかし、その場合でもDCSのような手段を用いて、限定的な支援は継続される可能性がある。逆に、ロシア側に責任があると見なせば、トランプ氏は報復として大規模な軍事支援を許可する可能性がある。したがって、今後も武器供与が止まる可能性は低く、量・質・スピード・提供形態などの調整が行われるのみである。
5. ロシアの対応戦略の再構築
ロシアの「ウクライナの完全非武装化」という目標は、米国がこのような形でウクライナ支援を制度化することにより、ますます非現実的なものとなっている。このため、ロシアは以下のような「妥協戦略」に転じる可能性があるとされている:
ドニエプル川以東を非武装地帯とし、非西側諸国(例えば中国や中央アジア諸国など)の平和維持部隊によって管理させる。
ウクライナにおける特定の兵器の配備に地理的制限を設ける。
上記制限を履行させるための国連安保理承認済みの監視・検証メカニズムの設置を要求する。
このような妥協案は、ロシアが表向きの「非武装化目標」を維持しつつ、現実的な政治的妥結を目指すための現実的な選択肢とされている。
6. 和平成立の鍵と米露の相互理解
最終的に記事が強調しているのは、米国(特にトランプ氏)が真剣に和平を追求するのであれば、上記のような妥協案を検討・承認する必要があるという点である。さもなければ、プーチン大統領が自国の戦略目標の一つを放棄する内容の合意を政治的に承認することは困難となる。すなわち、本件鉱物協定の修正内容は、和平交渉の行方に直接影響を与えるほどの戦略的意味を持っており、特にロシアの非武装化目標を実現困難にする要因として機能している。
【要点】
改訂鉱物協定の概要と目的
・米ウクライナ間の鉱物協定が修正・署名された。
・修正により、ウクライナが受けた軍事支援の返済義務が削除された。
・新たに、将来の米軍事支援が「共同基金」への投資とみなされる条項が追加された。
・経済支援と軍事支援を結びつけ、米国が柔軟に支援を継続できる枠組みが整えられた。
和平交渉と軍事支援の両立の仕組み
・米国はこの協定を活用して、和平成立後も「投資保護」の名目で武器支援を継続可能。
・ただし、戦争継続中に支援を急ぐと、ロシア側が和平交渉を無意味と見なすリスクもある。
・米国にとっては、「支援のタイミングと名目」が外交戦略上の鍵となる。
トランプ氏の関与とDCSの再開
・トランプ氏は、5000万ドル以上の**対外有償軍事販売(DCS)**の承認を議会に通達。
・DCSは民間企業経由での武器供与であり、政府援助(FMF)より自由度が高い。
・トランプ政権下でのDCSは2015–2023年で16億ドル超、今回の承認は小規模だが象徴的。
・トランプ氏が軍事支援を再開する意思を示した可能性。
和平失敗時の「責任の所在」で米国の態度が変化
・和平失敗をウクライナの責任と見なす場合、米国の大規模支援は停止されうる。
・ただしDCSのような限定支援は継続される可能性が高い。
・ロシアの責任と判断されれば、米国は報復的に武器供与を強化する可能性がある。
・結論:支援は止まらず、形態・規模・速度が調整されるのみ。
ロシアの戦略転換の可能性
・「ウクライナの完全非武装化」は米国の制度的支援によって実現困難に。
・ロシアは以下のような「現実的妥協案」に転換する可能性:
・ドニエプル川以東の非武装地帯化。
・非西側平和維持軍による管理(例:中国・中央アジア)。
・特定兵器の配備制限+国連安保理承認の監視体制。
米露の妥協が和平の鍵
・プーチン大統領は政治的に譲歩の正当性が必要(非武装化を放棄できない)。
・トランプ氏が和平を本気で望むなら、上記のような妥協案を検討・容認すべき。
・改訂鉱物協定は、ウクライナの軍事力維持の制度的保証となり、ロシアの交渉条件を硬化させる可能性がある。
【桃源寸評】
ロシアが想起すべき歴史的裏切り
・「Not One Inch Eastward」(これ以上東には拡大しない)」とは、冷戦終結直後の1990年前後に西側(特に米国のベーカー国務長官)が当時のソ連ゴルバチョフ政権に対してNATO不拡大の口約束をしたとされる表現である。
・この約束は文書化されておらず、後年NATOは1999年以降ポーランド、ハンガリー、チェコなどを加盟させ、さらにバルト三国やバルカン半島にも拡大した。
・ロシアはこれを西側による戦略的裏切りと認識し、以後の対NATO政策の根幹に据えている。
・現在のウクライナ和平交渉でも、ロシアはこの過去を踏まえ、「文書による保証」「履行可能な措置」「安保理承認付きの拘束力ある枠組み」を強く求めている。
・ゆえに、米国の「鉱物協定」によって形式的な非加盟状態のまま実質的な軍事支援が継続される構図は、ロシアにとって「再び騙される危険」と映る。
現在の交渉の全体構造とロシアの立場
・ロシアは「特別軍事作戦」の目標の一つとして、ウクライナの非ナチ化および非武装化を掲げており、これは国内向けにも戦争の正統性を示す重要な柱である。
・交渉においては、ウクライナの中立化(非NATO加盟)と非武装化を核とする案がロシア側から繰り返し提示されてきた。
・しかし米国の新鉱物協定により、米国がウクライナの軍事力維持に制度的関与を強化する構図が生まれたため、ロシアにとっては「和平を結ぶこと自体が非武装化の放棄を意味する」リスクが増した。
・これに対抗し、ロシアは「部分的非武装化」や「地理的制限」「非西側監視団の配置」など、段階的・限定的妥協案へシフトする可能性がある。
鉱物協定の領域的対象
・記事において明確な地理的範囲は示されていないが、ウクライナの鉱物資源の豊富な地域は以下に集中している。
1.ドニプロペトロウシク州(鉄鉱石、マンガン)
2.ザポリージャ州(チタン、リチウム、ウラン)
3.ドネツィク州(石炭、レアメタル)
4.キロヴォフラード州・ニコラエフ州(レアアース、グラファイト)
5.西部カルパティア地域(特にリヴィウ州)(レアアース、ウラン)
・特にリチウム・レアアース・チタンなどは米国の軍事・ハイテク産業にとって戦略的価値が高く、これらの鉱物の採掘・輸出に関する共同管理が協定の主眼と考えられる。
・すなわち、米国がこれらの鉱物資源を確保・保護する権益を有することになり、その防衛のための軍事支援は正当化される構造となる。
総合的見解
改訂鉱物協定は、「形式上の安全保障協定」ではなく、「実質的な防衛義務を生む経済協定」であり、事実上の米国による安全保障提供と同等である。
・ロシアにとっては、こうした構図がまさに「NATO非拡大の約束破り」の繰り返しであり、和平交渉において最大の警戒対象となる。
・よって、今後の交渉においてロシアは、「経済協定にカモフラージュされた軍事関与」の停止や制限を強く求めると予測される。
➢鉱物資源が豊富かつ占領または係争中の主な州
現在のウクライナにおける鉱物資源の豊富な州のうち、ロシアに「占領された」または「占領されつつある」地域には以下が含まれる。以下の情報は、2024年末時点までの情勢に基づき、最新情報に応じて若干の変動があり得る。
1. ドネツィク州(Donetsk Oblast)
・資源:石炭、チタン、リチウム、鉄鉱石、マンガン、天然ガスなど。
・状況:2014年から親ロシア勢力が部分的に支配、2022年以降にロシアが併合を主張。
・戦略的意義:ウクライナ最大の工業地帯(ドンバス)の中心。鉱業・重工業が密集。
2. ルハンシク州(Luhansk Oblast)
・資源:石炭、天然ガス。
・状況:2014年から親ロシア勢力が支配し、2022年にロシアが併合を主張。
・戦略的意義:エネルギー資源の宝庫で、ガス田の存在が重要。
3. ザポリージャ州(Zaporizhzhia Oblast)
・資源:チタン、ジルコニウム、鉄鉱石、石炭、ウラン。
・状況:州の南部(メリトポリなど)をロシアが占領、ザポリージャ市など北部はウクライナが保持。
・戦略的意義:重化学工業と鉱業が盛んな地域であり、ザポリージャ原発も存在。
4. ヘルソン州(Kherson Oblast)
・資源:地下水資源、農業用資源(鉱物は限定的)。
・状況:州南部をロシアが実効支配中、ドニエプル川を境に係争状態。
・戦略的意義:黒海への戦略的アクセスおよび農業・水利資源。
以下は部分的に鉱物資源があるが、ロシアが占領していない主要鉱物州
5. ドニプロペトロウシク州(Dnipropetrovsk Oblast)
・資源:チタン、鉄鉱石、マンガン、ウラン。
・状況:現在ウクライナが支配しているが、前線に近接。
・戦略的意義:鉱業の中核地であり、ロシアが戦略的目標とする可能性がある。
6. キロヴォフラード州(Kirovohrad Oblast)
・資源:ウラン、レアアース、チタン。
・状況:完全にウクライナが支配。
・戦略的意義:レアメタル供給の鍵であり、西側企業が注目する地域。
総評
ロシアがすでに占領、または支配を試みている地域は、ウクライナの鉱物資源の中でも「チタン」「リチウム」「石炭」「天然ガス」などを含む戦略資源が集中している。これらの資源は、欧米諸国が経済支援・再建計画の一環として注目する対象でもあるため、ロシアとの対立や和平交渉の重要な駆け引き材料ともなっている。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
The Amended Minerals Deal Will Likely Lead To More American Weapons Packages For Ukraine Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.02
https://korybko.substack.com/p/the-amended-minerals-deal-will-likely?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=162672224&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシアの空対空ミサイルR-37M(イズジェリエ610M) ― 2025年05月02日 21:06
【概要】
2025年4月28日、ウクライナ中部の都市チェルカースィ近郊で、ウクライナ側のSu-27戦闘機が撃墜された。チェルカースィは前線から300キロ以上離れた地域に位置している。当初、ウクライナ政府は事件についてコメントを控えていたが、その後、損失を認め、パイロットが脱出したことを公表した。
一方、ロシア国防省はこの件に関して口を開き、自国の航空宇宙軍(VKS)がSu-27を撃墜したと発表した。ただし、使用された兵器や航空機の詳細は明らかにされていない。
ウクライナ政府は損失の原因として、ロシアによる撃墜以外にも複数の可能性を挙げている。機械的故障、操縦ミス、さらには友軍誤射の可能性も提示されており、例えばF-16戦闘機が誤ってSu-27を標的としたとする説明も存在している。
西側諸国が自国の航空戦力の損失を秘匿する傾向にあることに言及しており、米国製F-15戦闘機の「104勝0敗」という記録も軍事関係者によって否定されているとする。
米国およびNATOの航空戦術においては、AEW&C(早期警戒管制機)が極めて重要な役割を果たしている。これにより、味方機は敵のレーダー探知を回避するために無線沈黙を保ったまま戦闘行動が可能となるが、必ずしも勝利を保証するものではない。
ウクライナはこのような空中戦での優位性を得るべく、スウェーデン製Saab 340 AEW&C、通称「S 100 アルグス」を導入している。これらは米国製F-16と連携してロシアの航空戦力に対抗する目的で運用されている。
ロシア側は、航空機に加えて兵器面でも優位性を有している。中でも空対空ミサイル「R-37M」は、最大射程400キロメートル、速度マッハ6〜7の極超音速であり、既に2件の世界記録(213 kmと217 km)を樹立している。このミサイルはMiG-31BM迎撃機、Su-35S制空戦闘機、Su-30多用途戦闘機など複数の機種に搭載可能である。Su-57ステルス戦闘機にも対応しているとされるが、Su-57ではさらに高性能とされる「R-97(イジュデルイエ810)」を使用するとも報じられている。
このような兵器と航空機に加え、ロシア軍は高度な地上レーダー網や、自軍のAEW&C機「A-50U」などを活用しており、これが空中戦での優位性を一層高めている。また、S-400やS-300(PMU2、V4など)といった地対空ミサイル(SAM)システムも配備しており、例えば9M82MDミサイルは最大射程400 km、マッハ9の速度を誇る。
このような要素により、ウクライナ軍の戦闘機がロシア軍との交戦で空中優勢を確保することは非常に困難であり、実際にウクライナの戦闘機パイロットの約80%が撃墜により死亡しているとされている。
今回撃墜されたSu-27については、Su-57戦闘機によるものという可能性も示されている。Su-57は高いステルス性と先進技術を備えており、2024年8月末にはF-16戦闘機を撃墜したとも伝えられている。Su-57は従来のR-77ではなく、マッハ5以上の速度を持つ新型空対空ミサイル「R-87(またはイジュデルイエ180)」を装備しているとされる。
R-37MはSu-57の内部兵装倉に収まらないため、Su-57専用に設計されたとされる「R-97」はステルス性を維持しながら400kmの射程を実現しており、Su-57を「空飛ぶS-400」と形容する声もある。
このR-97の性能は極めて高く、世界中の第5世代戦闘機と比較しても、空対空戦闘における能力で比肩するものは存在しない可能性がある。今回の撃墜にSu-57が関与した可能性は現時点で未確認であるが、そうであったとしても不自然ではないとされる。
一方で、MiG-31BMやSu-35S、Su-30SMなどの他のロシア機による撃墜であった可能性もある。事実、2025年2月初頭にはポルタヴァ州ミルホロド空軍基地所属の第831戦術航空旅団のSu-27が、VKSのSu-30SMによって撃墜されており、パイロットは死亡している。
【詳細】
2025年4月28日、ウクライナ中部の都市チェルカースィ付近で、ウクライナ空軍所属のSu-27戦闘機が撃墜された。この都市は前線から300km以上離れており、作戦域の深部に該当する。当初、ウクライナ当局はこの事件に関して沈黙を保ち、損失と脱出したパイロットの存在のみを認めた。その後、ロシア側が発表を行い、Su-27はロシア航空宇宙軍(VKS)によって撃墜されたと明かされたが、使用されたプラットフォーム(戦闘機やミサイルの種類)については特定されていない。
ウクライナ側は事後、損害を最小限に見せようとする対応に転じ、事故の原因として「機械的故障」「パイロットの操縦ミス」「友軍機による誤射」など複数の代替シナリオを提示した。特に最後の説では、Su-27がロシアの「ゲラニウム(Geranium)」無人機を迎撃しようとした際、F-16によって誤って撃墜された可能性があるとされた。
西側(NATO)諸国も同様に、自国の損失を隠蔽する傾向があるとし、アメリカ製F-15戦闘機に関する「104勝0敗」という神話的な戦績も、軍事関係者の間では既に否定されていると記している。
アメリカやNATOの空戦ドクトリンでは、AEW&C(早期警戒管制機)の存在が極めて重要である。これにより、電子戦や無線沈黙技術を活用し、敵の探知を回避した上で戦闘機を有利な位置に導くことが可能となる。しかし、これらの技術を駆使しても、戦闘における勝利が保証されるわけではない。
ウクライナ軍もその空戦能力向上のため、スウェーデン製のSaab 340 AEW&C(スウェーデン空軍ではS100“アルグス”)を導入しており、F-16戦闘機の支援に用いられている。
一方、ロシアは戦闘機だけでなく、搭載する空対空ミサイルの性能においても大きな優位性を持つ。特にR-37M(イズジェリエ610M)は、最大射程400km、飛行速度マッハ6〜7の極超音速ミサイルであり、過去に213kmおよび217kmという空対空交戦距離の世界記録を達成している。このミサイルはMiG-31BM、Su-35S、Su-30などの複数の機体から発射可能である。
さらに、Su-57ステルス戦闘機も新型ミサイルを搭載する可能性が高い。R-37MはSu-57の内部兵器倉に収容できないため、より高度な「R-97(イズジェリエ810)」の開発が進められている。このR-97は内部兵装に対応しつつ、依然としてマッハ6〜7の速度と400kmの射程を維持しているとされる。これにより、Su-57は「空飛ぶS-400」とも形容される空中戦能力を獲得している。
また、Su-57は従来のR-77ではなく、最新のスクラムジェット推進ミサイルであるR-87(またはイズジェリエ180)も搭載しているとされる。このミサイルはマッハ5以上の速度を持ち、特に高防空地域での活動能力を示す証左ともなっている。記事では、Su-57が2024年8月末にウクライナ軍のF-16を初めて撃墜した可能性があるとも記されている。
一方、2025年2月には、ポルタヴァ州のミルゴロド航空基地に所属する第831戦術航空旅団のSu-27が、VKSのSu-30SMによって撃墜されたことも紹介されている。このとき、ウクライナ人パイロットは死亡している。
さらにロシア軍は、A-50U早期警戒機、S-400やS-300(PMU2やV4など)といった地対空ミサイルシステムも運用しており、9M82MDミサイルは最大射程400km、速度マッハ9に達する。このような装備群により、ロシアは戦域において強固な航空優勢を確保しており、ウクライナ軍パイロットの約80%が戦闘中に死亡しているとされる。
このように、ロシア航空宇宙軍は、高速・長射程・高命中率のミサイルと、それを搭載可能な戦闘機群、さらには地上および空中の管制・探知装備を統合することで、空対空戦闘において極めて強力な能力を有している。今回のSu-27撃墜事件も、こうしたシステム全体の一端を示すものといえる。
【要点】
1.事件の概要
・2025年4月28日、ウクライナ空軍のSu-27がチェルカースィ付近(前線から300km以上)で撃墜。
・ウクライナは当初沈黙、後に損失を認め、パイロットは脱出成功と報告。
・ロシア側が撃墜を発表。使用機種や兵器の詳細は未公表。
2.ウクライナ側の反応と主張
・当初は「事故」や「誤射」などの説を提示
⇨機械的故障説
⇨操縦ミス説
⇨友軍(F-16)による誤射説(Geran無人機を迎撃中の誤射)
3.NATOと空戦ドクトリン
・NATOはAEW&C(早期警戒管制機)と戦闘機の連携を重視:
・敵の電子探知を避け、戦闘機を有利な位置に誘導する運用。
・だが技術的優位だけで勝てるわけではない。
4.ウクライナの空戦支援体制
・スウェーデンのSaab 340 AEW&Cを導入(F-16支援用途)。
・本機はスウェーデン軍ではS100“Argus”と呼称。
5.ロシアのミサイル技術と空対空能力
・R-37M(イズジェリエ610M)
⇨射程最大400km、速度マッハ6~7。
⇨既に213km・217kmでの撃墜記録あり。
⇨MiG-31BMやSu-35S、Su-30などで運用可能。
・R-97(イズジェリエ810):
⇨Su-57の内部兵装対応型の新型長距離ミサイル。
⇨射程400km、マッハ6~7、発射母機のステルス性保持。
・R-87(イズジェリエ180)
⇨スクラムジェット推進、マッハ5超の中距離空対空ミサイル。
⇨Su-57専用装備と推定される。
6.ロシアSu-57の運用実績(推定)
・2024年8月:Su-57がウクライナのF-16を初撃墜した可能性あり。
・Su-57は「空飛ぶS-400」とも称される統合制空能力を持つ。
7.従来型撃墜の例
・2025年2月:ミルゴロド基地所属のSu-27がSu-30SMに撃墜される。
・パイロットは死亡。損失はVKSによる高性能ミサイルの戦果と見られる。
8.ロシアの統合防空能力
・空中:A-50U AEW&C、Su-57、Su-35Sなど。
・地上:S-400、S-300(PMU2、V4型)、ミサイル9M82MD(射程400km、マッハ9)。
・統合的運用により制空権を強化。
9.被害規模
・ウクライナ空軍のパイロットの約80%が戦闘中に死亡。
・ロシア軍は作戦深部での撃墜も可能であることを今回証明。
【引用・参照・底本】
Did Russian Aerospace Forces Just Set a New Air-to-air Record? GlobalReserch 2025.04.30
https://korybko.substack.com/p/the-amended-minerals-deal-will-likely?https://www.globalresearch.ca/russian-aerospace-forces-set-new-air-kill-record/5885734
2025年4月28日、ウクライナ中部の都市チェルカースィ近郊で、ウクライナ側のSu-27戦闘機が撃墜された。チェルカースィは前線から300キロ以上離れた地域に位置している。当初、ウクライナ政府は事件についてコメントを控えていたが、その後、損失を認め、パイロットが脱出したことを公表した。
一方、ロシア国防省はこの件に関して口を開き、自国の航空宇宙軍(VKS)がSu-27を撃墜したと発表した。ただし、使用された兵器や航空機の詳細は明らかにされていない。
ウクライナ政府は損失の原因として、ロシアによる撃墜以外にも複数の可能性を挙げている。機械的故障、操縦ミス、さらには友軍誤射の可能性も提示されており、例えばF-16戦闘機が誤ってSu-27を標的としたとする説明も存在している。
西側諸国が自国の航空戦力の損失を秘匿する傾向にあることに言及しており、米国製F-15戦闘機の「104勝0敗」という記録も軍事関係者によって否定されているとする。
米国およびNATOの航空戦術においては、AEW&C(早期警戒管制機)が極めて重要な役割を果たしている。これにより、味方機は敵のレーダー探知を回避するために無線沈黙を保ったまま戦闘行動が可能となるが、必ずしも勝利を保証するものではない。
ウクライナはこのような空中戦での優位性を得るべく、スウェーデン製Saab 340 AEW&C、通称「S 100 アルグス」を導入している。これらは米国製F-16と連携してロシアの航空戦力に対抗する目的で運用されている。
ロシア側は、航空機に加えて兵器面でも優位性を有している。中でも空対空ミサイル「R-37M」は、最大射程400キロメートル、速度マッハ6〜7の極超音速であり、既に2件の世界記録(213 kmと217 km)を樹立している。このミサイルはMiG-31BM迎撃機、Su-35S制空戦闘機、Su-30多用途戦闘機など複数の機種に搭載可能である。Su-57ステルス戦闘機にも対応しているとされるが、Su-57ではさらに高性能とされる「R-97(イジュデルイエ810)」を使用するとも報じられている。
このような兵器と航空機に加え、ロシア軍は高度な地上レーダー網や、自軍のAEW&C機「A-50U」などを活用しており、これが空中戦での優位性を一層高めている。また、S-400やS-300(PMU2、V4など)といった地対空ミサイル(SAM)システムも配備しており、例えば9M82MDミサイルは最大射程400 km、マッハ9の速度を誇る。
このような要素により、ウクライナ軍の戦闘機がロシア軍との交戦で空中優勢を確保することは非常に困難であり、実際にウクライナの戦闘機パイロットの約80%が撃墜により死亡しているとされている。
今回撃墜されたSu-27については、Su-57戦闘機によるものという可能性も示されている。Su-57は高いステルス性と先進技術を備えており、2024年8月末にはF-16戦闘機を撃墜したとも伝えられている。Su-57は従来のR-77ではなく、マッハ5以上の速度を持つ新型空対空ミサイル「R-87(またはイジュデルイエ180)」を装備しているとされる。
R-37MはSu-57の内部兵装倉に収まらないため、Su-57専用に設計されたとされる「R-97」はステルス性を維持しながら400kmの射程を実現しており、Su-57を「空飛ぶS-400」と形容する声もある。
このR-97の性能は極めて高く、世界中の第5世代戦闘機と比較しても、空対空戦闘における能力で比肩するものは存在しない可能性がある。今回の撃墜にSu-57が関与した可能性は現時点で未確認であるが、そうであったとしても不自然ではないとされる。
一方で、MiG-31BMやSu-35S、Su-30SMなどの他のロシア機による撃墜であった可能性もある。事実、2025年2月初頭にはポルタヴァ州ミルホロド空軍基地所属の第831戦術航空旅団のSu-27が、VKSのSu-30SMによって撃墜されており、パイロットは死亡している。
【詳細】
2025年4月28日、ウクライナ中部の都市チェルカースィ付近で、ウクライナ空軍所属のSu-27戦闘機が撃墜された。この都市は前線から300km以上離れており、作戦域の深部に該当する。当初、ウクライナ当局はこの事件に関して沈黙を保ち、損失と脱出したパイロットの存在のみを認めた。その後、ロシア側が発表を行い、Su-27はロシア航空宇宙軍(VKS)によって撃墜されたと明かされたが、使用されたプラットフォーム(戦闘機やミサイルの種類)については特定されていない。
ウクライナ側は事後、損害を最小限に見せようとする対応に転じ、事故の原因として「機械的故障」「パイロットの操縦ミス」「友軍機による誤射」など複数の代替シナリオを提示した。特に最後の説では、Su-27がロシアの「ゲラニウム(Geranium)」無人機を迎撃しようとした際、F-16によって誤って撃墜された可能性があるとされた。
西側(NATO)諸国も同様に、自国の損失を隠蔽する傾向があるとし、アメリカ製F-15戦闘機に関する「104勝0敗」という神話的な戦績も、軍事関係者の間では既に否定されていると記している。
アメリカやNATOの空戦ドクトリンでは、AEW&C(早期警戒管制機)の存在が極めて重要である。これにより、電子戦や無線沈黙技術を活用し、敵の探知を回避した上で戦闘機を有利な位置に導くことが可能となる。しかし、これらの技術を駆使しても、戦闘における勝利が保証されるわけではない。
ウクライナ軍もその空戦能力向上のため、スウェーデン製のSaab 340 AEW&C(スウェーデン空軍ではS100“アルグス”)を導入しており、F-16戦闘機の支援に用いられている。
一方、ロシアは戦闘機だけでなく、搭載する空対空ミサイルの性能においても大きな優位性を持つ。特にR-37M(イズジェリエ610M)は、最大射程400km、飛行速度マッハ6〜7の極超音速ミサイルであり、過去に213kmおよび217kmという空対空交戦距離の世界記録を達成している。このミサイルはMiG-31BM、Su-35S、Su-30などの複数の機体から発射可能である。
さらに、Su-57ステルス戦闘機も新型ミサイルを搭載する可能性が高い。R-37MはSu-57の内部兵器倉に収容できないため、より高度な「R-97(イズジェリエ810)」の開発が進められている。このR-97は内部兵装に対応しつつ、依然としてマッハ6〜7の速度と400kmの射程を維持しているとされる。これにより、Su-57は「空飛ぶS-400」とも形容される空中戦能力を獲得している。
また、Su-57は従来のR-77ではなく、最新のスクラムジェット推進ミサイルであるR-87(またはイズジェリエ180)も搭載しているとされる。このミサイルはマッハ5以上の速度を持ち、特に高防空地域での活動能力を示す証左ともなっている。記事では、Su-57が2024年8月末にウクライナ軍のF-16を初めて撃墜した可能性があるとも記されている。
一方、2025年2月には、ポルタヴァ州のミルゴロド航空基地に所属する第831戦術航空旅団のSu-27が、VKSのSu-30SMによって撃墜されたことも紹介されている。このとき、ウクライナ人パイロットは死亡している。
さらにロシア軍は、A-50U早期警戒機、S-400やS-300(PMU2やV4など)といった地対空ミサイルシステムも運用しており、9M82MDミサイルは最大射程400km、速度マッハ9に達する。このような装備群により、ロシアは戦域において強固な航空優勢を確保しており、ウクライナ軍パイロットの約80%が戦闘中に死亡しているとされる。
このように、ロシア航空宇宙軍は、高速・長射程・高命中率のミサイルと、それを搭載可能な戦闘機群、さらには地上および空中の管制・探知装備を統合することで、空対空戦闘において極めて強力な能力を有している。今回のSu-27撃墜事件も、こうしたシステム全体の一端を示すものといえる。
【要点】
1.事件の概要
・2025年4月28日、ウクライナ空軍のSu-27がチェルカースィ付近(前線から300km以上)で撃墜。
・ウクライナは当初沈黙、後に損失を認め、パイロットは脱出成功と報告。
・ロシア側が撃墜を発表。使用機種や兵器の詳細は未公表。
2.ウクライナ側の反応と主張
・当初は「事故」や「誤射」などの説を提示
⇨機械的故障説
⇨操縦ミス説
⇨友軍(F-16)による誤射説(Geran無人機を迎撃中の誤射)
3.NATOと空戦ドクトリン
・NATOはAEW&C(早期警戒管制機)と戦闘機の連携を重視:
・敵の電子探知を避け、戦闘機を有利な位置に誘導する運用。
・だが技術的優位だけで勝てるわけではない。
4.ウクライナの空戦支援体制
・スウェーデンのSaab 340 AEW&Cを導入(F-16支援用途)。
・本機はスウェーデン軍ではS100“Argus”と呼称。
5.ロシアのミサイル技術と空対空能力
・R-37M(イズジェリエ610M)
⇨射程最大400km、速度マッハ6~7。
⇨既に213km・217kmでの撃墜記録あり。
⇨MiG-31BMやSu-35S、Su-30などで運用可能。
・R-97(イズジェリエ810):
⇨Su-57の内部兵装対応型の新型長距離ミサイル。
⇨射程400km、マッハ6~7、発射母機のステルス性保持。
・R-87(イズジェリエ180)
⇨スクラムジェット推進、マッハ5超の中距離空対空ミサイル。
⇨Su-57専用装備と推定される。
6.ロシアSu-57の運用実績(推定)
・2024年8月:Su-57がウクライナのF-16を初撃墜した可能性あり。
・Su-57は「空飛ぶS-400」とも称される統合制空能力を持つ。
7.従来型撃墜の例
・2025年2月:ミルゴロド基地所属のSu-27がSu-30SMに撃墜される。
・パイロットは死亡。損失はVKSによる高性能ミサイルの戦果と見られる。
8.ロシアの統合防空能力
・空中:A-50U AEW&C、Su-57、Su-35Sなど。
・地上:S-400、S-300(PMU2、V4型)、ミサイル9M82MD(射程400km、マッハ9)。
・統合的運用により制空権を強化。
9.被害規模
・ウクライナ空軍のパイロットの約80%が戦闘中に死亡。
・ロシア軍は作戦深部での撃墜も可能であることを今回証明。
【引用・参照・底本】
Did Russian Aerospace Forces Just Set a New Air-to-air Record? GlobalReserch 2025.04.30
https://korybko.substack.com/p/the-amended-minerals-deal-will-likely?https://www.globalresearch.ca/russian-aerospace-forces-set-new-air-kill-record/5885734
094型潜水艦:中国人民解放軍海軍(PLAN)の戦略核抑止力 ― 2025年05月02日 22:34
【概要】
中国人民解放軍は、創設76周年を記念した海軍のオープンデーにおいて、原子力弾道ミサイル潜水艦「094型(晋級)」に関する詳細を初めて公開した。公開された資料によれば、094型潜水艦は潜航時排水量が11,000トン、最大速力は30ノット、最大潜航深度は400メートルである。
従来の外部推定では、同型艦の潜航排水量は9,000トン、速力は20ノット、潜航深度は300メートルとされていたが、今回の公開情報はこれらを上回る性能を示している。さらに、ポスターに記載された寸法によれば、艦体の全長は約135メートル、全幅は13メートル、そして水上排水量は8,000トンである。
本艦は、核弾頭を搭載可能なJL-2弾道ミサイルを装備しており、その射程は約7,000キロメートルに達する。これにより、中国の海洋発射型核戦力の中核を担うと位置付けられている。
094型潜水艦は2007年に就役して以来、2018年および2019年の海軍閲兵式に参加していたが、性能の詳細が公にされたのは今回が初めてである。
【詳細】
094型潜水艦は、中国人民解放軍海軍(PLAN)の戦略核抑止力、すなわち「海中配備型核戦力(sea-based nuclear deterrent)」の中核を担う戦略型原子力潜水艦(SSBN: Submersible Ship Ballistic Nuclear)である。これまで同型艦の詳細な性能については公表されておらず、今回の情報公開は、2007年の就役以来初となる。
公開された性能:
・潜航排水量:11,000トン
これは従来の推定値(約9,000トン)を大きく上回る数値であり、094型の艦体規模や装備の増強を示唆するものである。
・水上排水量:8,000トン
通常の運用状態での排水量であり、潜航排水量との差は内部への海水流入などによる増加分と考えられる。
・最大潜航深度:400メートル
従来の推定では300メートル程度とされていたが、それよりも100メートル深く潜行可能であり、作戦運用の柔軟性と安全性の向上が示唆される。
・最大速力:30ノット(およそ時速55.5km)
これも従来の20ノットという推定を大きく上回る。戦略型原潜としては高速であり、敵の探知・追跡を回避する能力が高いとされる。
・全長:135メートル
同型艦の寸法に関する初の公式情報であり、弾道ミサイル搭載区画の長さや艦内居住区の配置を含む設計の規模を示す。
・全幅:13メートル
艦内構造の余裕や安定性を左右する重要な寸法である。
・搭載兵装
094型潜水艦は、JL-2(巨浪2型)弾道ミサイルを搭載している。これは中国が独自開発した潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)であり、以下の特徴を有する。
・射程:約7,000キロメートル
これにより、中国沿岸部から発射してもアメリカ本土西海岸、インド全域、欧州の一部にまで到達可能とされる。
・弾頭:核弾頭(詳細な弾頭数や投射能力は未公開)
単弾頭または複数弾頭型(MIRV)である可能性が取り沙汰されている。
背景と意義:
本艦は、海軍の戦略核三本柱(陸上発射、航空投下、潜水艦発射)の一角を担う存在として位置付けられている。これまで094型は、中国の核抑止戦略における「第二撃能力(second-strike capability)」の象徴とされてきたが、性能に関しては公的な情報が乏しく、分析は主に衛星画像や外国の軍事情報に依存していた。
2018年および2019年には、中国海軍の観艦式に参加していたが、静かに水面を移動する姿が映像で確認された程度であり、今回のオープンデーにおけるポスター形式でのスペック開示は、中国が自国の軍事技術力に自信を持ち始めた兆候とも受け取れる。
型式と進化
なお、報道には「Type 094A」という表現も登場しており、これは基礎設計が同じであるものの、静粛性やセンサー系統などに改良が加えられたバリエーション型を指す可能性がある。従来の094型は、騒音レベルが高く米海軍の監視網に捕捉されやすいとされていたが、094A型ではスクリューや外装の改良により静粛性が向上したとの見方もある。
【要点】
基本情報(初公開の公式性能)
・艦名:094型(晋級)戦略原子力潜水艦(SSBN)
・初登場:2007年就役
・初の性能公開:2025年4月下旬、海軍創設76周年記念行事のオープンデーにて
公開された技術仕様
・全長:約135メートル
・全幅:約13メートル
・水上排水量:8,000トン
・潜航排水量:11,000トン(従来推定の9,000トンを上回る)
・最大潜航深度:400メートル(従来推定の300メートルを上回る)
・最大速力:30ノット(従来推定の20ノットを上回る)
兵装と能力
・搭載ミサイル:JL-2(巨浪2型)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)
・射程:約7,000km
・弾頭:核弾頭搭載(詳細な弾頭数やMIRV化の有無は未公開)
・抑止能力:第二撃能力(second-strike capability)を有する戦略核兵器プラットフォーム
公開の意義と背景
・従来の姿勢:詳細非公開、海軍閲兵式(2018年・2019年)での参加実績あり
・今回の公開:性能を含む具体的な情報の提示は初
・意義:海中核抑止力の透明性の一部向上および技術的自信の表れと解釈される
・静粛性の改善:094A型とされる改良型では騒音低減が図られていると報じられている
【引用・参照・底本】
China’s military reveals details of Type 094 nuclear submarine for first time SCMP 2025.05.02
https://www.scmp.com/news/china/military/article/3308686/chinas-military-reveals-details-type-094-nuclear-submarine-first-time?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-china&utm_content=20250502&tpcc=enlz-china&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&next_article_id=3308838&article_id_list=3308856,3308793&tc=7
中国人民解放軍は、創設76周年を記念した海軍のオープンデーにおいて、原子力弾道ミサイル潜水艦「094型(晋級)」に関する詳細を初めて公開した。公開された資料によれば、094型潜水艦は潜航時排水量が11,000トン、最大速力は30ノット、最大潜航深度は400メートルである。
従来の外部推定では、同型艦の潜航排水量は9,000トン、速力は20ノット、潜航深度は300メートルとされていたが、今回の公開情報はこれらを上回る性能を示している。さらに、ポスターに記載された寸法によれば、艦体の全長は約135メートル、全幅は13メートル、そして水上排水量は8,000トンである。
本艦は、核弾頭を搭載可能なJL-2弾道ミサイルを装備しており、その射程は約7,000キロメートルに達する。これにより、中国の海洋発射型核戦力の中核を担うと位置付けられている。
094型潜水艦は2007年に就役して以来、2018年および2019年の海軍閲兵式に参加していたが、性能の詳細が公にされたのは今回が初めてである。
【詳細】
094型潜水艦は、中国人民解放軍海軍(PLAN)の戦略核抑止力、すなわち「海中配備型核戦力(sea-based nuclear deterrent)」の中核を担う戦略型原子力潜水艦(SSBN: Submersible Ship Ballistic Nuclear)である。これまで同型艦の詳細な性能については公表されておらず、今回の情報公開は、2007年の就役以来初となる。
公開された性能:
・潜航排水量:11,000トン
これは従来の推定値(約9,000トン)を大きく上回る数値であり、094型の艦体規模や装備の増強を示唆するものである。
・水上排水量:8,000トン
通常の運用状態での排水量であり、潜航排水量との差は内部への海水流入などによる増加分と考えられる。
・最大潜航深度:400メートル
従来の推定では300メートル程度とされていたが、それよりも100メートル深く潜行可能であり、作戦運用の柔軟性と安全性の向上が示唆される。
・最大速力:30ノット(およそ時速55.5km)
これも従来の20ノットという推定を大きく上回る。戦略型原潜としては高速であり、敵の探知・追跡を回避する能力が高いとされる。
・全長:135メートル
同型艦の寸法に関する初の公式情報であり、弾道ミサイル搭載区画の長さや艦内居住区の配置を含む設計の規模を示す。
・全幅:13メートル
艦内構造の余裕や安定性を左右する重要な寸法である。
・搭載兵装
094型潜水艦は、JL-2(巨浪2型)弾道ミサイルを搭載している。これは中国が独自開発した潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)であり、以下の特徴を有する。
・射程:約7,000キロメートル
これにより、中国沿岸部から発射してもアメリカ本土西海岸、インド全域、欧州の一部にまで到達可能とされる。
・弾頭:核弾頭(詳細な弾頭数や投射能力は未公開)
単弾頭または複数弾頭型(MIRV)である可能性が取り沙汰されている。
背景と意義:
本艦は、海軍の戦略核三本柱(陸上発射、航空投下、潜水艦発射)の一角を担う存在として位置付けられている。これまで094型は、中国の核抑止戦略における「第二撃能力(second-strike capability)」の象徴とされてきたが、性能に関しては公的な情報が乏しく、分析は主に衛星画像や外国の軍事情報に依存していた。
2018年および2019年には、中国海軍の観艦式に参加していたが、静かに水面を移動する姿が映像で確認された程度であり、今回のオープンデーにおけるポスター形式でのスペック開示は、中国が自国の軍事技術力に自信を持ち始めた兆候とも受け取れる。
型式と進化
なお、報道には「Type 094A」という表現も登場しており、これは基礎設計が同じであるものの、静粛性やセンサー系統などに改良が加えられたバリエーション型を指す可能性がある。従来の094型は、騒音レベルが高く米海軍の監視網に捕捉されやすいとされていたが、094A型ではスクリューや外装の改良により静粛性が向上したとの見方もある。
【要点】
基本情報(初公開の公式性能)
・艦名:094型(晋級)戦略原子力潜水艦(SSBN)
・初登場:2007年就役
・初の性能公開:2025年4月下旬、海軍創設76周年記念行事のオープンデーにて
公開された技術仕様
・全長:約135メートル
・全幅:約13メートル
・水上排水量:8,000トン
・潜航排水量:11,000トン(従来推定の9,000トンを上回る)
・最大潜航深度:400メートル(従来推定の300メートルを上回る)
・最大速力:30ノット(従来推定の20ノットを上回る)
兵装と能力
・搭載ミサイル:JL-2(巨浪2型)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)
・射程:約7,000km
・弾頭:核弾頭搭載(詳細な弾頭数やMIRV化の有無は未公開)
・抑止能力:第二撃能力(second-strike capability)を有する戦略核兵器プラットフォーム
公開の意義と背景
・従来の姿勢:詳細非公開、海軍閲兵式(2018年・2019年)での参加実績あり
・今回の公開:性能を含む具体的な情報の提示は初
・意義:海中核抑止力の透明性の一部向上および技術的自信の表れと解釈される
・静粛性の改善:094A型とされる改良型では騒音低減が図られていると報じられている
【引用・参照・底本】
China’s military reveals details of Type 094 nuclear submarine for first time SCMP 2025.05.02
https://www.scmp.com/news/china/military/article/3308686/chinas-military-reveals-details-type-094-nuclear-submarine-first-time?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-china&utm_content=20250502&tpcc=enlz-china&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&next_article_id=3308838&article_id_list=3308856,3308793&tc=7
トランプ政権:対中抑止という目標に矛盾をもたらしている ― 2025年05月02日 23:50
【概要】
ドナルド・トランプ政権第2期(2025年)初の100日間におけるアジア地域に対する米国の安全保障政策を分析し、その継続性と変化の両面を報告したものである。筆者は、地域的な安全保障アーキテクチャの構築という対中抑止の基本方針が継続されている一方で、関税戦争と同盟軽視の姿勢がこれを損なう可能性があると述べている。
第1次トランプ政権(2017〜2021年)において、米国は中国との経済的な深い関係が中国の自由化や平和化につながるという期待を放棄し、より敵対的な姿勢をとるようになった。中国が権威主義を強化し、海外で攻撃的な行動を取るようになったこと、そしてパンデミックによって米国が中国製品に依存している現実が露呈したことが背景にある。この時期、米国は対中関税を課し、サプライチェーンを中国から分離する動きに着手した。
同時に、トランプ氏は自由貿易よりも関税政策を重視し、米国の同盟関係に対しては冷淡な態度を示した。バイデン政権(2021〜2025年)は一部の対中関税を維持・拡大しつつ、同盟を「力の増幅装置」として再評価し、対中抑止体制の強化に努めた。
2025年に発足した第2次トランプ政権は、関税政策と同盟への懐疑という二つの特徴を強化して実施している。世界全体に対して平均10%の関税を課し、5月には「相互関税」が導入される見込みである。NATOに対しては、米国がもはや防衛を保証しないと表明し、西欧諸国およびカナダとの関係を悪化させている。また、ロシアのウクライナ侵攻に対しても融和的な態度をとっている。
一方、アジアにおける米国防省の対中抑止体制は基本的に継続されている。国防長官ピート・ヘグセスは2025年3月に初訪問として日本とフィリピンを訪れた(韓国は大統領の弾劾により不在)。日本では共同訓練と兵器技術開発の強化、在日米軍司令部の機能強化が確認された。フィリピンでは、米比相互防衛条約が南シナ海でのフィリピン政府船舶に対する攻撃にも適用されることが再確認され、米国製無人海上機器やNMESIS対艦ミサイルが比国内に配備された。これらのミサイルは、理論上は台湾包囲を試みる中国艦船を攻撃可能とされる。
AUKUS(米英豪の原子力潜水艦協定)も継続中であり、オーストラリアは米国の製造能力増強のため5億ドルを支払い済である。ただし、トランプ大統領がこの枠組みをどれだけ理解し、支持しているかは不透明である。
国務長官マルコ・ルビオは、対外援助凍結命令の例外として、台湾に8億7000万ドル、フィリピンに3億3600万ドルの軍事支援を承認した。米艦は2月および4月に台湾海峡を航行し、台湾への関心を明示している。
しかしながら、トランプ政権の他地域における「利己的な姿勢」や同盟国の軽視は、アジアでの戦略的取り組みに悪影響を及ぼし得る。特に日本と韓国にとって、関税と防衛費負担の両面で圧力が増している。両国とも軍事と貿易の分離を求めているが、トランプ氏は「ワンストップ・ショッピング(=包括交渉)」の原則を強調している。
日本代表団は4月16日、韓国代表団は4月24日に訪米し、追加関税の回避を協議した。日本は米軍駐留費用として年17億ドル、今年度はさらに30億ドルを負担しており、沖縄からグアムへの海兵隊移転にも資金を提供している。韓国は2029年まで有効な協定で年間約10億ドルを負担している。それにもかかわらず、トランプ氏は日本が「何も払っていない」、韓国は「100億ドルを払うべきだ」と発言している。
日本は近年、以下のように米国の戦略に貢献している。
・国防費のGDP比1%から2%への増額計画
・米国製トマホーク巡航ミサイル400発の購入
・精密誘導ミサイルの自国開発と配備促進
・統合運用司令部の設立
・台湾に近い南西諸島での防衛強化
オーストラリアでは、米国への信頼が大きく揺らいでいる。2024年中頃には61%の国民が「米国を信頼できる」と回答していたが、2025年4月には66%が否定的な回答を示した。理由は、NATOやウクライナに対する米国の姿勢、及び一律関税政策にある。米豪間では米国の方が貿易黒字であるにもかかわらず、豪州にも関税(鉄鋼・アルミニウム製品には25%)が課された。アルバニージー首相は、関税が「相互的」であるならば、豪州に対する関税は「ゼロ」であるべきと主張したが、トランプ氏はこれを拒否した。
中国のXiao Qian・駐豪大使は、米国の「覇権的かついじめ的行動」に対抗するため「中国と手を組もう」と提案したが、リチャード・マールズ副首相は「中国の手を握るつもりはない」と否定した。
結論として、米国が「アメリカ・ファースト」とアジア地域の安全保障構築という二つの目標を両立させる「大戦略」を策定しない限り、これらは互いに矛盾し、効果を相殺し合うことになると筆者は指摘している。
【詳細】
米国のアジア安全保障政策の継続性と矛盾
2025年に再び発足したトランプ政権は、100日間で多数の分野に変化をもたらしたが、対中抑止のための地域防衛構築という目標は前政権から継続している。アジアにおける同盟国との軍事協力や対中国防衛アーキテクチャの構築は維持されているが、それと並行して進行する貿易摩擦や同盟軽視が、その戦略を内部から損ねている。
対中政策の背景
トランプ初期政権(2017~2021年)は、中国との経済的相互依存が中国の自由化や協調的行動を促進するという前提が誤っていたと結論づけ、対中政策を強硬化させた。この時期、中国は習近平政権の下で国内の権威主義と対外的な攻撃性を強め、特に新型コロナウイルス流行時には、米国の中国依存の脆弱性が顕在化した。
米国は中国からの輸入品に対して関税を課し、供給網の再構築を推進し始めた。同時にトランプ大統領は、米国の同盟関係を「片務的で不公平な負担」と見なし、軽視する姿勢を強めた。
バイデン政権期の修正
バイデン政権(2021~2025年)は、対中関税の一部を維持・強化しつつ、中国の先端技術取得への規制を強化した。また、米国の同盟関係を重視し、特に日韓との安全保障協力や欧州との連携を再強化した。これは、軍事的抑止力を多国間で高めるという従来の戦略に回帰するものであった。
トランプ政権(第2期)の特徴
第二次トランプ政権は、以下の2点で外交政策を大きく特徴づけている。
・高関税政策:2025年4月時点で全世界に対して平均10%の関税を課しており、さらに「報復的関税(reciprocal tariffs)」として最大25%の追加課税が検討されている。
・同盟軽視:NATOに対して防衛義務を否定する発言や、ロシアへの融和姿勢を示し、西側諸国との関係を悪化させている。
アジアにおける軍事政策の具体例
日本
・国防総省のピート・ヘグセット国防長官が3月に訪日し、米軍司令部の格上げ(行政事務所から軍司令所へ)と共同兵器開発の強化を確認。
・日本は、国防費をGDP比1%から2%に引き上げる計画を進め、米国製トマホーク巡航ミサイル400基の購入、精密誘導兵器の独自開発、琉球諸島の防衛強化、統合作戦司令部の設置など、米国の戦略に即した措置を取っている。
フィリピン
・南シナ海におけるフィリピン艦艇や航空機への攻撃が米比相互防衛条約の対象である
ことを明言。
・米比は共同兵器生産を計画し、先進的な海上ドローンやNMESIS対艦ミサイルをフィリピン領内に配備。
・2025年4月にはバリカタン演習にて、ルソン島バタン諸島にNMESISが展開され、台湾南方のルソン海峡における対中抑止の象徴的存在となっている。
台湾
・外交支援の対象として例外的に870百万ドルの軍事援助を承認。
・2月と4月には米艦が台湾海峡を航行し、中国の反発を招くリスクを負いながら台湾支援の姿勢を明示している。
AUKUS協定の不確実性
・米英が豪州に原子力潜水艦を提供する枠組みは維持されている。
・2025年1月に豪州は米国の潜水艦建造能力強化のため5億ドルを支出。
・ヘグセット国防長官はトランプ大統領の支持を明言する一方、トランプ自身は「AUKUSとは何か?」と質問するなど、理解や関心の乏しさが露呈している。
同盟国に対する貿易圧力
日本・韓国
・米国は両国に対して「貿易黒字」と「防衛依存」を問題視。
・トランプ政権は、防衛・貿易問題を一括交渉する「ワンストップ交渉」を志向。
・日本代表団は4月16日に訪米し、最大24%の追加関税回避を模索。
・韓国も4月24日に訪米し、25%の「報復関税」回避を交渉。
・両国ともすでにバイデン政権下で多年度の駐留経費分担協定を締結しているが、トランプはその内容を無視し、日本には「何も払っていない」、韓国には「100億ドル払え」と主張。
豪州との関係悪化
・2024年半ばには「米国を信頼できる」とした豪州世論は61%であったが、2025年4月には66%が「信頼できない」と回答。
・米豪間には貿易黒字がなく、関税の理由が薄いにもかかわらず、米国は豪州製鉄鋼・アルミ製品に25%の関税を課した。
・アルバニージー首相とウォン外相による関税除外の要請は拒否された。
結論
アジアにおける米軍の防衛体制強化と、同盟国との軍事協力は継続されている。しかし、同時に進行する関税強化と同盟軽視は、同盟関係の信頼を損ねており、結果的に対中抑止という目標に矛盾をもたらしている。今のところ「アメリカ・ファースト」と「アジア安全保障体制の主導」を両立させる包括的戦略は示されておらず、この二つの方針は相互に干渉し合っている。
【要点】
・トランプ政権(第2期)は多くの政策を転換しているが、アジアにおける対中防衛体制の構築という安全保障目標は継続している。
・一方で、同盟国に対する高関税や同盟軽視が、その戦略を内部から弱体化させている。
トランプ第1期およびバイデン政権の対中政策
・トランプ第1期:経済的相互依存による中国の協調行動促進という前提を否定。
・新型コロナ流行を契機に、中国依存のリスクを認識。
・バイデン政権:一部関税を維持し、技術輸出制限を強化。
・同盟国重視へ転換し、多国間抑止を重視。
トランプ政権(第2期)の特徴
・世界全体に10%の関税を課し、「報復関税」として最大25%の追加課税を検討。
・NATOやアジアの同盟国に対し、安全保障義務を軽視・否定。
・中国への軍事的抑止体制の維持には前向きである。
日本に関する政策
・ピート・ヘグセット国防長官が来日し、米軍司令部の格上げを発表。
・日本は防衛費をGDP比2%へ増額、トマホークミサイル購入、琉球諸島の防衛強化などを実施。
・米軍との統合作戦体制を強化中。
フィリピンに関する政策
・米比相互防衛条約に基づき、フィリピン艦艇への攻撃は米軍の防衛義務対象と明言。
・NMESIS対艦ミサイルをフィリピンに配備し、南シナ海および台湾南方に圧力をかける体制を構築。
・2025年4月のバリカタン演習で実戦的展開。
台湾に関する政策
・台湾に対し870百万ドルの軍事支援を例外的に実施。
・米艦が台湾海峡を通過し、中国の反発を引き起こす行動を継続。
AUKUSに関する状況
・オーストラリアが米国の潜水艦建造能力に5億ドルを支援。
・トランプ大統領本人はAUKUSに対する理解や関心が乏しく、信頼性に疑義あり。
同盟国に対する貿易圧力
日本と韓国
・米国は両国の貿易黒字と防衛依存を問題視し、「ワンストップ交渉」を要求。
・日本代表団(4月16日)、韓国代表団(4月24日)が訪米し、最大25%の報復関税を回避しようと交渉。
・駐留経費分担について既に合意済みにもかかわらず、トランプは協定内容を無視した主張を展開。
オーストラリア
・豪州製の鉄鋼・アルミに25%の関税を課す。
・豪州政府の関税除外要請を拒否。
・2025年4月時点で、豪州国民の66%が「米国は信頼できない」と回答。
結論
・アジアにおける米国の対中軍事体制強化は継続中。
・同時に進行する関税政策と同盟軽視は、抑止体制の信頼性を損なっている。
・「アメリカ・ファースト」と「多国間による対中抑止」は構造的に矛盾しており、統一された戦略は提示されていない。
【引用・参照・底本】
US security policy in Asia shows some continuity in sea of change ASIA TIMES 2025.05.02
https://asiatimes.com/2025/05/us-security-policy-in-asia-shows-some-continuity-in-sea-of-change/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=aa44ec55cf-DAILY_01_05_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-aa44ec55cf-16242795&mc_cid=aa44ec55cf&mc_eid=69a7d1ef3c#
ドナルド・トランプ政権第2期(2025年)初の100日間におけるアジア地域に対する米国の安全保障政策を分析し、その継続性と変化の両面を報告したものである。筆者は、地域的な安全保障アーキテクチャの構築という対中抑止の基本方針が継続されている一方で、関税戦争と同盟軽視の姿勢がこれを損なう可能性があると述べている。
第1次トランプ政権(2017〜2021年)において、米国は中国との経済的な深い関係が中国の自由化や平和化につながるという期待を放棄し、より敵対的な姿勢をとるようになった。中国が権威主義を強化し、海外で攻撃的な行動を取るようになったこと、そしてパンデミックによって米国が中国製品に依存している現実が露呈したことが背景にある。この時期、米国は対中関税を課し、サプライチェーンを中国から分離する動きに着手した。
同時に、トランプ氏は自由貿易よりも関税政策を重視し、米国の同盟関係に対しては冷淡な態度を示した。バイデン政権(2021〜2025年)は一部の対中関税を維持・拡大しつつ、同盟を「力の増幅装置」として再評価し、対中抑止体制の強化に努めた。
2025年に発足した第2次トランプ政権は、関税政策と同盟への懐疑という二つの特徴を強化して実施している。世界全体に対して平均10%の関税を課し、5月には「相互関税」が導入される見込みである。NATOに対しては、米国がもはや防衛を保証しないと表明し、西欧諸国およびカナダとの関係を悪化させている。また、ロシアのウクライナ侵攻に対しても融和的な態度をとっている。
一方、アジアにおける米国防省の対中抑止体制は基本的に継続されている。国防長官ピート・ヘグセスは2025年3月に初訪問として日本とフィリピンを訪れた(韓国は大統領の弾劾により不在)。日本では共同訓練と兵器技術開発の強化、在日米軍司令部の機能強化が確認された。フィリピンでは、米比相互防衛条約が南シナ海でのフィリピン政府船舶に対する攻撃にも適用されることが再確認され、米国製無人海上機器やNMESIS対艦ミサイルが比国内に配備された。これらのミサイルは、理論上は台湾包囲を試みる中国艦船を攻撃可能とされる。
AUKUS(米英豪の原子力潜水艦協定)も継続中であり、オーストラリアは米国の製造能力増強のため5億ドルを支払い済である。ただし、トランプ大統領がこの枠組みをどれだけ理解し、支持しているかは不透明である。
国務長官マルコ・ルビオは、対外援助凍結命令の例外として、台湾に8億7000万ドル、フィリピンに3億3600万ドルの軍事支援を承認した。米艦は2月および4月に台湾海峡を航行し、台湾への関心を明示している。
しかしながら、トランプ政権の他地域における「利己的な姿勢」や同盟国の軽視は、アジアでの戦略的取り組みに悪影響を及ぼし得る。特に日本と韓国にとって、関税と防衛費負担の両面で圧力が増している。両国とも軍事と貿易の分離を求めているが、トランプ氏は「ワンストップ・ショッピング(=包括交渉)」の原則を強調している。
日本代表団は4月16日、韓国代表団は4月24日に訪米し、追加関税の回避を協議した。日本は米軍駐留費用として年17億ドル、今年度はさらに30億ドルを負担しており、沖縄からグアムへの海兵隊移転にも資金を提供している。韓国は2029年まで有効な協定で年間約10億ドルを負担している。それにもかかわらず、トランプ氏は日本が「何も払っていない」、韓国は「100億ドルを払うべきだ」と発言している。
日本は近年、以下のように米国の戦略に貢献している。
・国防費のGDP比1%から2%への増額計画
・米国製トマホーク巡航ミサイル400発の購入
・精密誘導ミサイルの自国開発と配備促進
・統合運用司令部の設立
・台湾に近い南西諸島での防衛強化
オーストラリアでは、米国への信頼が大きく揺らいでいる。2024年中頃には61%の国民が「米国を信頼できる」と回答していたが、2025年4月には66%が否定的な回答を示した。理由は、NATOやウクライナに対する米国の姿勢、及び一律関税政策にある。米豪間では米国の方が貿易黒字であるにもかかわらず、豪州にも関税(鉄鋼・アルミニウム製品には25%)が課された。アルバニージー首相は、関税が「相互的」であるならば、豪州に対する関税は「ゼロ」であるべきと主張したが、トランプ氏はこれを拒否した。
中国のXiao Qian・駐豪大使は、米国の「覇権的かついじめ的行動」に対抗するため「中国と手を組もう」と提案したが、リチャード・マールズ副首相は「中国の手を握るつもりはない」と否定した。
結論として、米国が「アメリカ・ファースト」とアジア地域の安全保障構築という二つの目標を両立させる「大戦略」を策定しない限り、これらは互いに矛盾し、効果を相殺し合うことになると筆者は指摘している。
【詳細】
米国のアジア安全保障政策の継続性と矛盾
2025年に再び発足したトランプ政権は、100日間で多数の分野に変化をもたらしたが、対中抑止のための地域防衛構築という目標は前政権から継続している。アジアにおける同盟国との軍事協力や対中国防衛アーキテクチャの構築は維持されているが、それと並行して進行する貿易摩擦や同盟軽視が、その戦略を内部から損ねている。
対中政策の背景
トランプ初期政権(2017~2021年)は、中国との経済的相互依存が中国の自由化や協調的行動を促進するという前提が誤っていたと結論づけ、対中政策を強硬化させた。この時期、中国は習近平政権の下で国内の権威主義と対外的な攻撃性を強め、特に新型コロナウイルス流行時には、米国の中国依存の脆弱性が顕在化した。
米国は中国からの輸入品に対して関税を課し、供給網の再構築を推進し始めた。同時にトランプ大統領は、米国の同盟関係を「片務的で不公平な負担」と見なし、軽視する姿勢を強めた。
バイデン政権期の修正
バイデン政権(2021~2025年)は、対中関税の一部を維持・強化しつつ、中国の先端技術取得への規制を強化した。また、米国の同盟関係を重視し、特に日韓との安全保障協力や欧州との連携を再強化した。これは、軍事的抑止力を多国間で高めるという従来の戦略に回帰するものであった。
トランプ政権(第2期)の特徴
第二次トランプ政権は、以下の2点で外交政策を大きく特徴づけている。
・高関税政策:2025年4月時点で全世界に対して平均10%の関税を課しており、さらに「報復的関税(reciprocal tariffs)」として最大25%の追加課税が検討されている。
・同盟軽視:NATOに対して防衛義務を否定する発言や、ロシアへの融和姿勢を示し、西側諸国との関係を悪化させている。
アジアにおける軍事政策の具体例
日本
・国防総省のピート・ヘグセット国防長官が3月に訪日し、米軍司令部の格上げ(行政事務所から軍司令所へ)と共同兵器開発の強化を確認。
・日本は、国防費をGDP比1%から2%に引き上げる計画を進め、米国製トマホーク巡航ミサイル400基の購入、精密誘導兵器の独自開発、琉球諸島の防衛強化、統合作戦司令部の設置など、米国の戦略に即した措置を取っている。
フィリピン
・南シナ海におけるフィリピン艦艇や航空機への攻撃が米比相互防衛条約の対象である
ことを明言。
・米比は共同兵器生産を計画し、先進的な海上ドローンやNMESIS対艦ミサイルをフィリピン領内に配備。
・2025年4月にはバリカタン演習にて、ルソン島バタン諸島にNMESISが展開され、台湾南方のルソン海峡における対中抑止の象徴的存在となっている。
台湾
・外交支援の対象として例外的に870百万ドルの軍事援助を承認。
・2月と4月には米艦が台湾海峡を航行し、中国の反発を招くリスクを負いながら台湾支援の姿勢を明示している。
AUKUS協定の不確実性
・米英が豪州に原子力潜水艦を提供する枠組みは維持されている。
・2025年1月に豪州は米国の潜水艦建造能力強化のため5億ドルを支出。
・ヘグセット国防長官はトランプ大統領の支持を明言する一方、トランプ自身は「AUKUSとは何か?」と質問するなど、理解や関心の乏しさが露呈している。
同盟国に対する貿易圧力
日本・韓国
・米国は両国に対して「貿易黒字」と「防衛依存」を問題視。
・トランプ政権は、防衛・貿易問題を一括交渉する「ワンストップ交渉」を志向。
・日本代表団は4月16日に訪米し、最大24%の追加関税回避を模索。
・韓国も4月24日に訪米し、25%の「報復関税」回避を交渉。
・両国ともすでにバイデン政権下で多年度の駐留経費分担協定を締結しているが、トランプはその内容を無視し、日本には「何も払っていない」、韓国には「100億ドル払え」と主張。
豪州との関係悪化
・2024年半ばには「米国を信頼できる」とした豪州世論は61%であったが、2025年4月には66%が「信頼できない」と回答。
・米豪間には貿易黒字がなく、関税の理由が薄いにもかかわらず、米国は豪州製鉄鋼・アルミ製品に25%の関税を課した。
・アルバニージー首相とウォン外相による関税除外の要請は拒否された。
結論
アジアにおける米軍の防衛体制強化と、同盟国との軍事協力は継続されている。しかし、同時に進行する関税強化と同盟軽視は、同盟関係の信頼を損ねており、結果的に対中抑止という目標に矛盾をもたらしている。今のところ「アメリカ・ファースト」と「アジア安全保障体制の主導」を両立させる包括的戦略は示されておらず、この二つの方針は相互に干渉し合っている。
【要点】
・トランプ政権(第2期)は多くの政策を転換しているが、アジアにおける対中防衛体制の構築という安全保障目標は継続している。
・一方で、同盟国に対する高関税や同盟軽視が、その戦略を内部から弱体化させている。
トランプ第1期およびバイデン政権の対中政策
・トランプ第1期:経済的相互依存による中国の協調行動促進という前提を否定。
・新型コロナ流行を契機に、中国依存のリスクを認識。
・バイデン政権:一部関税を維持し、技術輸出制限を強化。
・同盟国重視へ転換し、多国間抑止を重視。
トランプ政権(第2期)の特徴
・世界全体に10%の関税を課し、「報復関税」として最大25%の追加課税を検討。
・NATOやアジアの同盟国に対し、安全保障義務を軽視・否定。
・中国への軍事的抑止体制の維持には前向きである。
日本に関する政策
・ピート・ヘグセット国防長官が来日し、米軍司令部の格上げを発表。
・日本は防衛費をGDP比2%へ増額、トマホークミサイル購入、琉球諸島の防衛強化などを実施。
・米軍との統合作戦体制を強化中。
フィリピンに関する政策
・米比相互防衛条約に基づき、フィリピン艦艇への攻撃は米軍の防衛義務対象と明言。
・NMESIS対艦ミサイルをフィリピンに配備し、南シナ海および台湾南方に圧力をかける体制を構築。
・2025年4月のバリカタン演習で実戦的展開。
台湾に関する政策
・台湾に対し870百万ドルの軍事支援を例外的に実施。
・米艦が台湾海峡を通過し、中国の反発を引き起こす行動を継続。
AUKUSに関する状況
・オーストラリアが米国の潜水艦建造能力に5億ドルを支援。
・トランプ大統領本人はAUKUSに対する理解や関心が乏しく、信頼性に疑義あり。
同盟国に対する貿易圧力
日本と韓国
・米国は両国の貿易黒字と防衛依存を問題視し、「ワンストップ交渉」を要求。
・日本代表団(4月16日)、韓国代表団(4月24日)が訪米し、最大25%の報復関税を回避しようと交渉。
・駐留経費分担について既に合意済みにもかかわらず、トランプは協定内容を無視した主張を展開。
オーストラリア
・豪州製の鉄鋼・アルミに25%の関税を課す。
・豪州政府の関税除外要請を拒否。
・2025年4月時点で、豪州国民の66%が「米国は信頼できない」と回答。
結論
・アジアにおける米国の対中軍事体制強化は継続中。
・同時に進行する関税政策と同盟軽視は、抑止体制の信頼性を損なっている。
・「アメリカ・ファースト」と「多国間による対中抑止」は構造的に矛盾しており、統一された戦略は提示されていない。
【引用・参照・底本】
US security policy in Asia shows some continuity in sea of change ASIA TIMES 2025.05.02
https://asiatimes.com/2025/05/us-security-policy-in-asia-shows-some-continuity-in-sea-of-change/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=aa44ec55cf-DAILY_01_05_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-aa44ec55cf-16242795&mc_cid=aa44ec55cf&mc_eid=69a7d1ef3c#