G7:姿勢を演出した外交的イベント・写真撮影のための会談2025年05月24日 16:25

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【概要】

 2025年5月21日から23日までカナダ・バンフで開催されたG7財務相会合は、米国のトランプ大統領による関税政策に起因する世界経済の不確実性が続く中、各国の結束と前向きな姿勢を示して閉幕した。

 G7(英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、米国)の財務相および中央銀行総裁らは、最終声明(コミュニケ)において「経済政策に関する不確実性はピーク時より低下しており、さらなる進展を目指して協力する」と述べ、統一した姿勢を打ち出した。

 議長を務めたカナダのフランソワ=フィリップ・シャンパーニュ財務相は会合を「建設的かつ生産的であった」と評し、「不確実性を低減し、成長を促進する必要がある」と述べた。

 一方で、米国のトランプ政権による幅広い関税政策は世界経済に混乱をもたらしており、会合ではこの問題が中心的な議題となった。米国財務長官スコット・ベセントは会合に参加し、各国から関税に対する懸念の声が相次いだ。

 カナダ銀行のティフ・マックレム総裁は閉幕記者会見で「当然ながら、関税は我々すべての関心事である」と述べ、「不確実性の低下は歓迎するが、今後の課題も多い」と語った。

 ベセント長官はAFPの取材に対し、「大きな対立はなかった。非常に良い会合だった」と述べた。

 ドイツのラース・クリングバイル財務相は、「現在の貿易紛争をできるだけ早く解決することが重要である」と強調し、「関税は世界経済に重い負担をかけている」と述べた。

 フランスのエリック・ロンバール財務相は、「雰囲気は温かく、友人かつ同盟国として話し合いを行った。すべてに合意したわけではないが、すべてを議論できた」と述べた。

 ブルッキングス研究所の上級研究員ジョシュア・メルツァー氏は、今回の共同声明について「非常に前向きなサインであり、6月に予定されている首脳会議に向けてのトーンを整えるものである」と評価した。

 また、会合にはウクライナのセルヒー・マルチェンコ財務相も出席し、G7に対してロシアへの圧力を維持するよう呼びかけた。共同声明では、ロシアが停戦に応じない場合は制裁を強化する可能性にも言及され、「さらなる圧力を最大化する選択肢を模索する」とした。

 ロシアとウクライナの間ではイスタンブールで3年以上ぶりの対面協議が行われ、外交的取り組みが活発化しているが、クレムリンはバチカンでの和平交渉の予定を否定した。

 トランプ大統領は同週、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、流血の事態を終わらせる意向を示したが、目立った成果はなかった。

 ロンバール財務相は、ウクライナ支援に関して「明確な進展があった」と述べた。

 さらに、共同声明では「ロシアの残虐な戦争を非難する」とした上で、戦争中にロシアを支援した国や団体については、ウクライナの復興事業から除外する方針を示し、「ロシアの戦争マシーンに資金や物資を提供した国・団体は、ウクライナ復興から利益を得る資格を持たない」と明記した。

 全体として、G7財務相会合は対立点を抱えながらも、協調の姿勢とウクライナ支援の継続、さらには経済的不確実性の緩和に向けた前向きな意志を示して閉幕した。
 
【詳細】 

 会合の基本情報

 2025年5月21日から23日まで、カナダ・アルバータ州のバンフ国立公園にて、G7( 先進7カ国)の財務相および中央銀行総裁による会合が開催された。出席国は英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、米国の7か国であり、さらにウクライナのセルヒー・マルチェンコ財務相も参加した。

 会合の開催背景には、米国トランプ大統領の再登場とそれに伴う保護主義的な経済政策、特に広範囲に及ぶ関税措置が再び国際的な経済不確実性を高めているという問題意識があった。

 会合の主題:経済政策の不確実性と協調の模索

 今回の会合では、第一に「経済政策の不確実性」の緩和に重点が置かれた。トランプ政権による関税の復活が各国経済に与える影響が議論の中心となり、各国からは慎重かつ批判的な声が上がった。

 共同声明(コミュニケ)の要点

 ・G7は「経済政策の不確実性はピーク時よりも低下した」と評価。

 ・各国は「不確実性の更なる緩和と安定化に向け協調する」と明言。

 ・特定の政策や数値目標には踏み込まず、抽象的な表現にとどまったが、各国間の対話継続を約束した。

 この声明は、具体的な対策よりも象徴的な「結束の演出」に重きを置いた内容である。

 各国の発言とスタンス

 ・米国(財務長官:スコット・ベセント)

 ベセント長官は「会合は良好で、大きな対立はなかった」と述べたが、実際には他国からの関税政策に対する反発が根強かったと報じられている。会合での米国の姿勢は、対立を避けつつ、自国の政策を擁護するというバランスを取ったものであった。

 ・カナダ(議長国:フランソワ=フィリップ・シャンパーニュ財務相)

 カナダのシャンパーニュ財務相は会合を「建設的かつ生産的であった」と総括し、「不確実性の低減は成長促進に不可欠」と指摘した。開催国として対話の継続と協調重視の姿勢を打ち出した。

 ・ドイツ(財務相:ラース・クリングバイル)

 クリングバイル財務相は「貿易摩擦の早期解決が不可欠であり、関税は世界経済に深刻な悪影響を与えている」と明言。さらに「我々の手は差し伸べられている」と発言し、米国に対話継続の意思を示した。

 ・フランス(財務相:エリック・ロンバール)

 ロンバール財務相は「すべてに同意したわけではないが、率直な対話が行われた」と述べ、温和で友好的な雰囲気を強調した。この発言は、表面的な融和と水面下の緊張が併存していたことを示唆する。

 ・ウクライナ問題と対ロシア制裁

 本会合ではウクライナ問題も重要な議題の一つであった。ウクライナのマルチェンコ財務相が出席し、G7に対してロシアへの制裁強化および支援継続を訴えた。

 ・共同声明におけるウクライナ関連の記述

  ⇨ロシアが停戦に応じなければ、さらなる制裁措置を検討すると明記。

  ⇨ロシアの戦争を支援した国・団体はウクライナ復興事業から除外する方針を表明。

  ⇨「ロシアの残虐な戦争を非難する」との強い言葉で断罪。

 この記述は、G7が単なる外交姿勢にとどまらず、戦後の国際的秩序と経済再構築においてもロシアとその協力者を排除する構えであることを示している。

 今後の展望

 ブルッキングス研究所のジョシュア・メルツァー氏は今回の声明を「6月に予定されているG7首脳会議に向けた前向きな布石である」と評価した。トランプ氏がその首脳会議に参加予定であることから、今回の財務相会合はその“予備交渉”としての役割を果たしたとも解釈できる。

 総括

 今回のG7財務相会合は、以下の特徴を持つものであった:

 ・米国との経済政策に関する溝が存在する中でも、G7諸国は「建設的対話と協調」の姿勢を演出。

 ・経済政策における不確実性の緩和に向けた意志を表明。

 ・ウクライナ支援と対ロシア制裁に関しては、強固で一致した立場を示した。

 ・6月の首脳会議に向けた関係強化と雰囲気づくりの一環として、象徴的な意味合いを持つ会合であった。 

【要点】

 1.会合の基本情報

 ・開催日程と場所:2025年5月21日~23日、カナダ・アルバータ州バンフ国立公園にて実施。

 ・参加国:G7(英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、米国)に加え、ウクライナの財務相も出席。

 ・目的:世界的な経済不確実性への対応、および関税政策や地政学リスク(特にウクライナ問題)への協調姿勢の確認。

 2.会合の主題と共同声明の要点

 (1)主題1:経済政策の不確実性

 ・G7は、経済政策の不確実性はピークを過ぎたとの認識を共有。

 ・各国は、さらなる不確実性の低下と経済の安定を目指し、協調することを確認。

 ・具体策には踏み込まず、今後の対話継続を重視する姿勢を明示。

 (2)主題2:トランプ政権の関税政策

 ・米国の保護主義的関税が再び国際的議論の的となった。

 ・他国からの懸念と批判が相次いだが、米国側は「大きな対立はなかった」との認識を示した。

 ・会合全体としては、対立の激化は避けつつ、対話の継続を選択。

 3.各国の主な発言とスタンス

 (1)カナダ(議長国)

 ・財務相シャンパーニュは「建設的かつ生産的な議論であった」と評価。

 ・成長促進には不確実性の緩和が不可欠との認識を提示。

 (2)米国

 ・財務長官ベセントは「大きな対立はなかった」と会合の成功を主張。

 ・トランプ政権の関税政策に対して他国からの批判を受けつつも、妥協的姿勢を見せず。

 (3)ドイツ

 ・財務相クリングバイルは、関税が世界経済に大きな負担を与えていると批判。

 ・「我々の手は差し伸べられている」として、米国との対話継続の用意を示す。

 (4)フランス

 ・財務相ロンバールは「友好的な雰囲気」での議論を強調。

 ・意見の違いを認めつつ、包括的な対話がなされたと発言。

 4.ウクライナ支援と対ロシア制裁

 (1)ウクライナの要請

 ・ウクライナ財務相マルチェンコが出席し、対ロシア制裁の継続と強化を要請。

 (2)共同声明の主な内容

 ・ロシアが停戦に応じない場合、追加制裁を含めたあらゆる選択肢を検討すると明記。

 ・ロシアの戦争を支援した国家・企業・団体は、ウクライナ復興事業への参加資格を持たないと宣言。

 ・「ロシアの残虐な戦争を非難する」との明確な表現で非難。

 (3)米ロ間の動き

 ・トランプ大統領がプーチン大統領と電話会談を実施。

 ・しかし、停戦や譲歩の具体的成果は見られず。

 5.会合の評価と今後の展望

 (1)G7全体としての立場

 ・経済の不確実性に対する前向きな見通しを共有。

 ・対ロシアの立場においては一致団結した強いメッセージを発信。

 ・対米関係では緊張をはらみつつも、対話の維持を優先。

 (2)ブルッキングス研究所の見解

 ・今回の共同声明は6月のG7首脳会議への「前向きな布石」と評価。

 ・市場および国際社会に対して安定と協調の意志を発信する意味合いが強い。

 6.総括

 ・本会合は、対立の火種(特に米国の関税政策)を抱えながらも、G7としての「結束」「協調」「支援継続」の姿勢を演出した外交的イベントであった。

 ・実質的な政策の一致や具体策の合意には至らなかったが、首脳会議に向けた準備と関係維持の場として、一定の意義を有していたと評価される。

【桃源寸評】💚

 G7財務相会合は、表面的には調和を見せつつも、実際には重大な政策的対立と国際秩序再編の課題を内包していることが読み取れる。

 G7の衰退を示唆する要素

 1. 経済的な相対的地位の低下

 ・G7諸国は、1980年代には世界GDPの約70%を占めていたが、現在では約40%前後に低下している。

 ・一方、G20や中国、インド、インドネシア、ブラジルなどグローバルサウス諸国の経済成長が顕著であり、経済重心がG7以外に移りつつある。

 2. 代表性の欠如

 ・G7は人口的にも地理的にも「西洋中心」であり、新興国や途上国の声を十分に反映していないとの批判がある。

 ・グローバルな合意形成の場としては、G20の方が多様性と代表性を持つとされる。

 3. 対外発信力・影響力の減退

 ・近年のG7サミットでは、共同声明が抽象的・象徴的にとどまり、実効性ある政策や拘束力のある決定に欠けるとする見方が強まっている。

 ・特に米国の政権交代(例:トランプ政権の再登場)により、G7内部の分裂が表面化し、統一的メッセージの発信が困難になっている。

 4. 対立回避的な会合運営

 ・各国が相互の立場を「尊重」し過ぎる結果として、会合は現状追認や形式的な協調演出に終始しやすい。

 ・実質的な議論よりも「国際的儀礼」や「写真撮影のための会談」に傾きつつあるとの批判がある。

 それでもG7が依然として持つ影響力

 1. 経済・金融における制度的中核

 ・G7はIMF、世界銀行、WTOなどの制度設計・運営に深く関与しており、グローバル経済ガバナンスの中枢に位置する。

 ・各国の中央銀行総裁が参加するため、金融政策協調や通貨安競争回避などの実務的合意が可能である。

 2. 軍事・外交の同盟軸

 ・NATOとの連携や対ロシア・対中国政策における方針調整の場として重要である。

 ・ウクライナ支援や対中戦略に関する共同声明は、G7が「価値観連合」として機能している証左である。

 3. 「西側の声」の象徴的プラットフォーム

 ・グローバルな多極化が進む中、自由主義・法の支配・民主主義を掲げる西側陣営の政治的立場を明確化する場として存在意義がある。

 ・国連安保理が機能不全に陥る中で、迅速な政治的意思表示の役割を果たしている。

 総括:G7は「衰退」か、それとも「再定義」か?

 G7は確かに「唯一の経済・政治指導軸」ではなくなりつつある。それは中国、インド、そしてグローバルサウスの台頭による多極化の結果である。

 しかし、制度的・象徴的な影響力を依然として保持しており、完全に「相手にされていない」というわけではない。

 今後のG7の存在意義は、排他的な先進国クラブとしてではなく、「価値を共有する国々による迅速な政策対応と政治意思の表明の場」として再定義できるかにかかっている。

 G7は1975年に首脳会合として発足した先進国中心の枠組みであり、加盟国はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本の7か国で構成されている。設立当初は、世界経済の大半を占める国々による政策協調の場として重要な役割を果たしてきたが、近年では世界GDPに占める比率は約40%にまで低下し、その相対的地位は低下しつつある。G7は西側諸国の立場を反映する色彩が濃く、国際社会においては「自由・民主・法の支配」といった価値観を共有する国々による連携の象徴として機能している。主要議題は経済政策、金融、地政学、安全保障などである。合意形成は非公式かつコンセンサス方式を基本とし、法的拘束力は持たない。

 これに対してG20は、1999年にアジア通貨危機や世界的金融不安への対応を目的に創設された。2008年の世界金融危機以降、首脳会合が常態化し、現在では世界GDPの約80%、人口の約65%を代表する実質的な「国際経済の主戦場」となっている。G7諸国に加え、中国、インド、ブラジル、ロシア、南アフリカなどの主要新興国が参加しており、より広範で包括的な代表性を持つ。議題もG7より幅広く、金融・通貨政策にとどまらず、気候変動、持続可能な開発、安全保障、国際保健まで多岐にわたる。意思決定は非公式合意に基づき、議長国が調整の主導権を握るうが、こちらも法的拘束力は持たない。

 一方、BRICSは2006年頃から形成され、2009年から首脳会議として定着した。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなる新興国グループであり、近年は加盟国を拡大する動き(BRICS+)も見られる。世界GDPの約30%、人口の約40%を占めており、成長可能性が高い地域の連携体として注目されている。BRICSは、従来の西側主導の国際秩序に対抗する「代替軸」を自認しており、国際通貨体制の多極化や、新興国主導の金融機関( 新開発銀行など)の強化を目指す。合意内容は非拘束的な共同声明に基づき、形式的な制度よりも政治的シンボルとしての結束を重視する傾向がある。

 このように、G7は依然として政治的・外交的な影響力を有する一方で、経済的・人口的な代表性ではG20やBRICSに後れを取っており、その存在意義は再定義を迫られている。

 G7とG20・BRICSの力学的対比

 1.G20との関係

 ・G7が「政策の核」であれば、G20は「合意の母体」である。

 ・G7は少人数で議論が迅速に進む利点があるが、代表性に欠ける。対してG20は合意形成に時間を要するが、国際的正統性が高い。

 ・多国間協調が必要な課題(気候変動、国際税制改革、デジタル通貨など)では、G7では限界があり、G20でなければ合意が困難である。

 2.BRICSとの関係

 ・BRICSはG7に対抗する「南の声」「非西側の価値観の代表」を自認している。

 ・国際通貨基金(IMF)や世界銀行への不満を背景に、BRICSは独自の金融機関(新開発銀行NDBなど)を設立しており、「ポスト西側」秩序の構築を志向。

 ・近年は拡大(BRICS+)により、「非G7圏の国際連携軸」としての地位を強めている。

 G7内部の対立構造:米欧分裂を中心に

 1.米国 vs 欧州(特にドイツ・フランス)の構図

(1)主な対立点

 分野 対立の具体例

 ・貿易政策 トランプ政権による鉄鋼・アルミ関税、IRA(インフレ抑制法)など
 ・気候変動 パリ協定離脱( トランプ) → 再加盟(バイデン)
 ・対ロ政策 米国の武器供与強化 vs 欧州の戦争疲れと外交解決志向
 ・デジタル課税 米GAFA課税をめぐる欧州の圧力に対する米国の反発
 ・多国間主義 米国の一国主義傾向(特にトランプ) vs 欧州の国際協調路線

 (2)特徴

 ・米国はG7内で最大の影響力を持つが、しばしば独自の政策( 例:一方的関税、ドル覇権の強化)を主張する。

 ・欧州(特に独仏)は、G7の合意を国際規範とする「制度外交」の重視と、気候・人権・多国間主義の推進を唱える。

 ・こうした価値観のズレが、「表向きの協調」と「水面下の不信」という二重構造を生んでいる。

 2.日加伊など「中間的立場」の役割

 ・日本やカナダ、イタリアは米欧間の橋渡しを試みる「バランサー」としての役割を持つ。

 ・特に日本は、インド太平洋戦略の共通課題(対中抑止)を米欧に訴え、同盟維持に努めている。

 ・ただし、実質的政策決定にはG7内部でも力の非対称性があり、「米欧対立 → バランサーが調整 → 共同声明に落とし込む」という構図が常態化している。

 3.総括

 ・G7は「国際的主導軸」というより、「特定の価値観(自由・民主・法の支配)を共有する国々による、政治的連携の場」として再定義されつつある。

 ・経済や人口の面ではG20やBRICSに及ばないが、制度設計や外交メッセージの発信では依然として中心的役割を果たす。

 ・しかし、米欧分裂の構造が常態化すれば、G7は「機能する組織」から「象徴的連携体」に後退する可能性がある。

 ・今後のG7の命運は、「多極化する国際秩序にどう対応し、G20やBRICSとどう共存していくか」にかかっている。

 G7・G20・BRICSの各枠組みが国際機関(IMF・WTO・世界銀行など)に与えてきた影響と、それを踏まえた今後の制度的再編の可能性について

 1. G7の影響と限界

 G7は、冷戦後長らくIMF(国際通貨基金)、世界銀行、WTO(世界貿易機関)といったブレトンウッズ体制の実質的な後ろ盾として機能してきた。とりわけIMFや世界銀行における出資比率と議決権の配分は、G7諸国(特に米国)によって支配されており、事実上の「取締役会」としての役割を果たしてきた。

 例えば、IMFの専務理事は常にヨーロッパ出身、世界銀行の総裁は常にアメリカ出身という「暗黙の了解」は、G7中心のパワーバランスを象徴している。

 しかし近年、新興国(特に中国・インド・ブラジルなど)からは「制度的正統性」が問われており、IMFの出資比率改革や、WTOの意思決定構造(全会一致制の限界)に対する不満が高まっている。これに対してG7は抜本的な制度改革には消極的であり、影響力の漸減という構造的問題を抱えている。

 2. G20の制度改革への役割

 G20は、2008年のリーマン・ショック以降、事実上の国際経済ガバナンスの主舞台となった。IMF改革(クォータ制度の見直し)や金融安定理事会(FSB)の創設など、具体的な制度改編においてG20は重要な推進力を果たした。

 G20の特徴は、先進国と新興国を同一テーブルに載せた多国間協議体であることにある。このことにより、IMFや世界銀行の改革においても、中国やインドなどの発言力の向上を促す環境が整った。ただし、G20自体が法的拘束力を持たないという限界を持つため、合意内容が国際機関の制度変更に直結するには時間がかかる傾向がある。

 また、WTOの機能不全(上級委員会の麻痺など)に対してもG20は警鐘を鳴らしており、「ルールに基づく貿易体制の再構築」を掲げる場として機能している。

 3. BRICSによる「制度の代替化」

 BRICSは、西側主導の制度に対して「改革」ではなく「代替の構築」を志向している点に特徴がある。代表例が以下である:

 ・新開発銀行(NDB):世界銀行の代替機能を志向。インフラ投資を中心に新興国支援を行う。

 ・BRICS準備通貨基金(Contingent Reserve Arrangement):IMFに代わる緊急支援メカニズムの構築を目指す。

 ・人民元やBRICS共通通貨構想:ドル依存からの脱却(脱ドル化)を意識した取り組み。

 これらは制度的にはまだ脆弱だが、国際制度そのものに対する信認の多極化を象徴しており、既存機関への圧力となっている。特にアフリカや中南米諸国を巻き込んだBRICSの拡大は、制度的な正統性をめぐる再編圧力を強めている。

 4. 今後の制度的再編の可能性

 今後の展望としては、以下のような制度再編のシナリオが想定される。

 ・IMF・世銀の出資比率改革の再加速
 
 G20の合意形成をもとに、新興国の持ち分を拡大。中国の影響力をどう制限・許容するかが鍵。

 ・WTOの手続き改革

 紛争処理制度の再設計(例:多国間調停制度)、新ルール形成における「柔軟な多数決」導入の可能性。

 ・二重構造的制度体制の台頭

 西側中心のIMF・WTOと、新興国主導のNDB・CRAが並立・競合する構造が定着する可能性。

 ・「準制度的枠組み」の強化

 G20やBRICS+のような非公式合意体が、制度的な「事実上の意思決定機関」として機能する傾向が強まる。

 総括

 G7は依然として国際制度の核心に影響力を持つが、実質的な政策形成力はG20にシフトしつつある。一方、BRICSは既存制度への参加ではなく、「代替制度の構築」を通じて国際秩序そのものに挑戦している。したがって今後の国際制度は、一元的統治から多元的・分散的秩序への移行が進む可能性が高い。

 国際政治経済における重要な批判のひとつが、G7諸国が「新自由主義(neoliberalism)」と呼ばれる経済思想を背景に、発展途上国やグローバル・サウスに対して不平等な経済関係を押しつけてきたという批判は、冷戦終結後特に強まってきた。以下に、その歴史的経緯と批判の構造を整理する。

 1. 「新自由主義」とは何か

 新自由主義とは、国家の経済への介入を最小化し、市場原理に基づく自由競争を最優先する経済思想である。1980年代以降、レーガン政権(米)とサッチャー政権(英)がこれを国内外の政策に適用し、民営化、規制緩和、財政緊縮、貿易自由化などを主要手段とした。

 この思想は、IMF・世界銀行などの国際金融機関を通じて、発展途上国への構造調整プログラム(SAPs)という形で実施されていった。

 2. G7諸国と構造調整政策の関与 G7諸国はIMF・世界銀行の実質的な「親会社」として、こうした政策を主導した。債務危機に陥ったアフリカ・中南米諸国に対し、救済の条件として以下のような政策が課された。

 ・公共部門の民営化(例:水道、電力、教育の民間開放)

 ・財政支出の削減(例:医療・教育予算の削減)

 ・労働市場の自由化(解雇規制の緩和、労働組合の弱体化)

 ・外資導入の自由化(資本移動の自由)

 これにより、短期的な財政均衡は達成される一方で、社会的インフラの破壊、貧富の格差の拡大、主権の侵食といった深刻な副作用を招いた。

 3. 「新植民地主義」との批判

 こうしたG7主導の政策は、「新自由主義的な新植民地主義(neocolonialism)」と非難されるようになった。主な批判点は以下のとおりである。

 ・発展途上国に一律の経済モデルを押しつけ、多様な発展戦略を否定した

 ・債務返済を優先させることで、社会的投資や人的資本形成を犠牲にした

 ・多国籍企業が参入し、天然資源・労働力を安価で搾取する構造を助長した

 ・経済主権を奪い、民主的決定より国際機関の意向が優先される体制を固定化した

 特に、サハラ以南アフリカでは医療・教育インフラの空洞化が深刻化し、「G7は援助の顔をした支配の手段」と見る批判が根強い。

 4. 現在の再評価と限界

 G7諸国は2000年代以降、貧困削減や債務帳消し(HIPCイニシアティブ)、ミレニアム開発目標(MDGs)支援などを通じて、かつての強権的姿勢を見直す動きを見せた。しかし、現在でも以下のような問題は残っている。

 ・G7諸国と国際金融機関の構造的な支配関係は変わっていない

 ・民間資本主導のインフラ支援(PPPなど)が市場利益優先の論理を内包する

 ・「気候資金」や「開発援助」の分配も、先進国の外交戦略に組み込まれている傾向がある

 5. BRICS・グローバルサウスからの反発

 BRICS諸国やアフリカ連合(AU)などは、こうした背景を踏まえ、「脱G7」的な国際秩序の構築を志向している。その中心にあるのは:

 ・開発資金の自律的調達(NDBなど)

 ・経済援助の「非条件化」

 ・通貨制度の脱ドル化

 ・グローバル・サウス内の南南協力の強化

 総括

 G7は、国際金融制度と新自由主義の拡張を通じて、発展途上国に対して構造的従属と搾取をもたらした歴史的責任を指摘されている。これは単なる経済政策の誤りではなく、制度的植民地主義の継続と見なす立場も存在する。

 こうした文脈を踏まえると、今日のG7に対する信頼の揺らぎや、BRICSなどの台頭は、単なるパワーバランスの変化ではなく、「正当性」をめぐる国際秩序の根本的再構成という長期的潮流の一端と理解されるべきである。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

G7 ends finance summit with show of unity amid tariff uncertainty FRANCE24 2025.05.23
https://www.france24.com/en/economy/20250523-g7-ends-finance-summit-with-show-of-unity-amid-tariff-uncertainty?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-info-en&utm_email_send_date=%2020250523&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D