李政権の「現実主義外交」 ― 2025年06月05日 18:39
【概要】
2025年6月4日、韓国において第21代大統領に共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)氏が選出され、同日中に就任式が行われた。これを受けて、中国の習近平国家主席は李大統領に祝意を伝え、中国が中韓関係の発展を重視していることを表明した。習主席は、中国は中韓の国交樹立時の精神に基づき、善隣友好と互恵共栄を堅持し、戦略的協力パートナーシップの継続的発展を共に推進したいと述べた。これは、中国が両国関係の未来に対し大きな期待を寄せていることを示している。
今回の大統領選挙は、前大統領尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏の弾劾に伴って実施されたものである。韓国国民の間では、政局の混乱からの脱却と国家運営の正常化が強く望まれていた。李氏は当選直後、速やかに就任式を行ったが、これは形式的な手続きを越えて、新政権への切り替えに対する社会的な緊急性を反映している。李大統領は就任演説において、国民生活の回復と経済の再生を優先課題とし、外交政策については国益を軸とした実用主義に基づく方針を示した。韓国メディア「コリア・ヘラルド」は、李氏の外交姿勢を「北朝鮮政策および全体的な戦略的方針の再設定」として評価し、「二項対立の選択に縛られない」との観点を示した。中国は、このような国益重視の外交姿勢が中韓関係に前向きな影響をもたらすことに期待を寄せている。
尹政権下における「価値に基づく外交」は、一方的な外交姿勢を強め、韓国を「グローバル中枢国家」にするとの主張とは裏腹に、かえって不安定な状況を生み出したとされる。李政権の「実用的外交」では、こうした片寄った方針を修正し、中国を含む周辺国とのバランスある関係の再構築が求められている。
南北間の緊張が続くなか、米韓同盟の「恩恵」は、駐留米軍の経費負担や貿易摩擦といった代償によって相殺されつつある。これらの要素は韓国経済に重くのしかかり、将来に対する国民の不安感を増大させている。こうした背景のもとで、中韓関係も国交樹立以来、最も厳しい局面に直面した。特に、尹政権による台湾問題に関する発言や行動は、二国間の協力に対し深刻な障害をもたらした。
中国と韓国は、地理的に近接し、常に隣接して共存せざるを得ない関係にある。また、両国は長年にわたり制度やイデオロギーの違いを乗り越え、互いに協力と成功を築いてきた歴史を有する。李大統領はかねてより、「実用的外交とはイデオロギーを超えたものであり、韓国は中国との関係を断ち切ることはできない」と述べており、「経済的に深く結びついており、地理的にも分離不可能である。それが運命だ」との認識を示している。
中国は韓国にとって最大の貿易相手国であり、韓国の対外投資における主要な対象国でもある。両国企業にとっても重要な市場であり、第三国との協力を含めた経済関係の深化には大きな潜在力がある。近年、産業分野においては競争も強まっているが、協力の戦略性と互恵性という本質は変わっていない。中国の巨大市場、完備された産業基盤、そして対外開放の継続は、韓国経済にとって引き続き大きな機会である。
中韓は地域問題でも協力の可能性を有しており、自由貿易の推進、朝鮮半島の安定維持、不確実性への共同対処などにおいて、役割を果たす余地がある。戦略的対話の維持と友好的協力の拡大は、東アジアにおける貿易・人の往来の促進のみならず、両国の経済成長にも寄与し、地域および国際社会にとっても歓迎される積極的なシグナルとなる。
中韓関係の発展を支える根本的な原動力は両国の共通利益にあり、これらは第三国を対象としたものではなく、第三国の影響を受けるべきでもない。中国は一貫して内政不干渉の原則を堅持しており、韓国が他国との関係を発展させることに干渉したことはない。他方で、韓国にも第三国の干渉を排除し、独自の外交政策を堅持することが期待される。特に、他国との関係を築くために中国との関係を犠牲にするような行動は、韓国自身に不利益をもたらし、地域諸国の一般的期待にも反すると歴史は証明してきた。
中国は中韓関係の発展に対する誠意と善意を変わらず持ち続けており、たとえ両国関係が困難な局面にあってもその姿勢は不変である。新たな韓国政府には、戦略的な洞察力をもってこの機会を捉え、実際的な行動を通じて中韓戦略的協力パートナーシップの安定的かつ長期的な発展を推進することが望まれる。これは両国国民の根本的な利益に合致し、東北アジアと世界の平和と発展にも安定をもたらすものである。
【詳細】
2025年6月4日に就任した韓国の新大統領・李在明(イ・ジェミョン)氏の政権発足に際し、中国側の視点から中韓関係の現状と将来の展望について論じたものである。まず冒頭では、習近平国家主席が李大統領に祝電を送り、中国が韓国との関係を重視している旨を伝えたことが紹介されている。祝電の中で習主席は、中韓国交正常化の原点である「善隣友好」「互恵共栄」「戦略的協力パートナーシップの深化」を改めて確認し、両国の国民により多くの利益をもたらすことを期待していると述べた。この祝意は、中国が現在の国際情勢の複雑さの中でも韓国との安定的な関係を志向していることを強調する意図がある。
次に、韓国における今回の大統領選挙が、前大統領・尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏の弾劾によって行われたことに触れ、国内においては政治的混乱の収束と行政の立て直しが求められていたことを指摘している。李大統領は、当選から数時間後にすぐに就任式を行ったが、これは形式上の意味を超えて、国家の再始動に対する強い意志と緊急性を示していると受け取られている。
李大統領の就任演説では、国内政策として「国民の生活の回復」「経済の再生」が最優先課題とされた一方、外交政策については「国益を基軸とした実用的外交」が掲げられた。これは、イデオロギーに左右されず、周辺国との関係を現実的かつ柔軟に調整する方針を意味する。韓国紙「コリア・ヘラルド」はこの姿勢を、外交・安全保障政策の「戦略的再調整」と位置づけ、「二者択一の枠組みに縛られないアプローチ」であると評価している。これは、前政権による対中強硬路線からの方針転換を示唆しており、中国側はこの変化に期待感を持っている。
また、社説では前大統領・尹氏の「価値外交」が強く批判されている。この「価値外交」は、米国や日本などとの関係強化を優先し、中国との関係を後回しにするものであったが、それは「バランス外交」という韓国の伝統的な外交スタイルを崩し、韓国を不要な国際的緊張に巻き込んだとする見方が示されている。具体的には、米韓同盟の強化に伴って、駐韓米軍の駐留費負担増大、米国との経済摩擦といったコストが韓国経済を圧迫し、国民の将来に対する不安を増大させていると論じている。
中国との関係もこの間に悪化し、国交正常化以降で最も厳しい状態に陥ったとされる。特に、尹政権が台湾問題において中国の立場を尊重しない発言を行ったことが、外交的信頼の毀損につながり、両国の協力関係に大きな打撃を与えたと分析されている。
社説は、地理的・経済的に中韓は切っても切れない関係であり、両国は体制や理念の違いを超えて共存・協力してきた歴史を持つと強調する。李大統領自身も過去に「韓国は中国との関係を切ることはできない。我々の経済は深く結びついており、地理的にも分断は不可能であり、これは運命である」と語っている。この認識は、中国側にとって歓迎すべきものであり、今後の政策展開に具体的な行動が伴うことが期待されている。
経済関係においても、中国は長年にわたり韓国最大の貿易相手国であり、韓国企業にとって重要な投資先・市場である。昨今は両国の産業が一部で競合関係にあるが、それでも協力関係の戦略的価値と互恵性は依然として重要である。中国の巨大市場、整備された産業インフラ、そして継続する対外開放政策は、韓国経済にとって依然として有望な機会を提供している。
また、社説は中韓両国が地域の安定と発展において果たし得る役割にも言及する。例えば、東アジア地域における自由貿易の推進、朝鮮半島の平和維持、気候変動や経済不安といった不確実性への共同対応などである。これらの分野における中韓の戦略的意思疎通と協力の強化は、東アジア地域の貿易と人的交流を促進するだけでなく、世界的にも前向きなメッセージを送ることができる。
さらに、社説は中韓関係の基盤として「共通の利益」に注目しており、これは第三国を対象としたものではなく、また第三国の干渉を受けるべきでもないと主張する。中国は韓国の他国との外交関係に干渉してこなかったが、韓国にも同様に、自国の対外政策において中国との関係を犠牲にすべきではないとの立場を示している。歴史的にも、他国との関係強化を理由に中国との関係を軽視した結果、韓国が不利益を被った事例があり、そのような選択は地域諸国の期待にも反すると述べている。
最後に、社説は中国の中韓関係に対する「誠意」と「善意」は常に変わらず存在しており、たとえ関係が困難な状況にあっても、その姿勢は変化していないことを強調する。そして、李政権が今後、戦略的な視野を持ってこの機会を活用し、実際の政策行動によって中韓戦略的協力パートナーシップの安定かつ持続的な発展を推進することが期待されている。これは両国民の福祉に資するだけでなく、東北アジアおよび国際社会の平和と発展にも安定要因を提供するとの主張で締めくくられている。
【要点】
1.李在明氏の大統領就任と中国の祝意
・2025年6月4日、李在明氏が韓国第21代大統領に就任。
・同日に中国の習近平国家主席が祝電を送り、中韓関係の重視と協力継続への意欲を表明。
・習主席は「善隣友好」「互恵共栄」「戦略的協力パートナーシップの深化」を今後も堅持すると述べた。
2. 韓国国内情勢と李政権の外交方針
・大統領選は、前任の尹錫悦大統領の弾劾を受けたもので、混乱の中で実施された。
・李大統領は就任演説において、「国民生活の回復」「経済再建」「現実主義外交」を主軸とする姿勢を表明。
・「イデオロギーにとらわれず、国益に基づいた外交」を掲げ、過度な陣営外交を否定。
・「コリア・ヘラルド」紙もこの外交方針を「戦略的羅針盤の再設定」と評価。
3. 尹政権の「価値外交」への批判
・尹政権は「価値外交」の名のもと、米国寄りの一方的外交を推進。
・この外交姿勢は「バランス外交」という韓国の伝統的外交方針から逸脱。
・米韓同盟強化によって得られる利益は、米軍駐留費の増加や通商摩擦によって相殺された。
・中国との関係は最悪の水準にまで悪化し、台湾問題における発言も大きな打撃を与えた。
4. 中韓関係の地政学的・経済的不可分性
・両国は地理的に隣接し、経済的にも密接に結びついている。
・李大統領はかつて「中国と縁を切ることは不可能。これは運命である」と発言。
・中国側はこの発言を「深い理解」として歓迎し、今後の実践を期待している。
5. 経済協力の重要性と今後の展望
・中国は長年にわたり韓国最大の貿易相手国であり、韓国企業にとって主要な市場である。
・両国産業の一部競合が見られるものの、協力の戦略的・互恵的な性質は変わっていない。
・中国の巨大市場、産業基盤、開放政策は韓国経済にとって引き続き有望な機会である。
6. 地域・国際課題における協力可能性
・中韓両国は、自由貿易の促進、朝鮮半島の安定、気候変動や経済不安などへの対応で協力可能。
・戦略的意思疎通と協力の拡大は、東アジアの貿易・人的交流を促進し、国際社会にも好影響を及ぼす。
7. 第三国への対応と外交の自主性の尊重
・中韓関係は「共通の利益」に基づくものであり、第三国を対象にしたものではない。
・中国は韓国が他国と関係を築くことに干渉してこなかったが、韓国にも独立した外交方針を求める。
・特に、他国との関係強化を理由に中国との関係を犠牲にすべきではないと強調。
8. 今後の関係発展への期待と呼びかけ
・中国は中韓関係に対して常に誠意と善意を持って接してきたと強調。
・新政権に対し、「戦略的視野」と「実際の行動」により両国関係の安定的・持続的発展を期待。
・これは両国民の福祉に資するだけでなく、東北アジアと世界の平和と発展にも貢献するとの結論で締めくくられている。
【桃源寸評】💚
「現実主義外交(pragmatic diplomacy / 現実主義的外交)」とは
「現実主義外交(pragmatic diplomacy / 現実主義的外交)」とは、イデオロギーや価値観、感情的な姿勢ではなく、実際の国益や現実的条件に基づいて外交政策を決定・遂行する立場や方針を指す。
以下にその定義・特徴・具体例などを詳述する。
定義
現実主義外交とは、国家の安全保障・経済的利益・地政学的現実などを最優先に考え、理想や理念にとらわれず、「実利」に基づいて他国との関係を築く外交方針である。
主な特徴
・国益最優先
理念や同盟よりも、自国にとって何が有利かを重視する。たとえば、自由・人権といった価値よりも貿易、安保、投資の実利を重視する。
・柔軟な立場
二項対立(二者択一)を避け、米中や日中といった対立する大国の間で中立やバランスを取る姿勢をとる。
・実用主義的アプローチ
相手国の体制や価値観に関係なく、対話や協力が可能であれば関係を築く。イデオロギーによる線引きをしない。
・経済重視
経済成長、輸出入、投資誘致などを目的にした外交を展開する傾向がある。
・情勢変化への柔軟な対応
国際情勢の変化に応じて立場や戦略を見直すことを厭わない。
・他の外交路線との比較
比較項目 現実主義外交 価値外交・理念外交
基準 実利・国益 自由・人権・民主主義などの価値
同盟形成 状況依存的 同じ価値観を持つ国との連携
柔軟性 高い 低い/硬直的になる可能性あり
対中国 協力も視野 批判・対抗姿勢が強まりがち
韓国における文脈:李在明政権と現実主義外交
・李在明大統領は、「国益中心の実用主義外交」を標榜し、**「中国とも米国とも対立せず、必要に応じて協力する」**という姿勢を取っている。
・これは前政権(尹錫悦)のように米国との「価値同盟」を前面に出し、対中関係を悪化させる方針とは対照的である。
・現実主義外交により、経済面での中国との協力や北朝鮮問題への柔軟な対応が期待されている。
日本における参考
・日本の吉田茂や田中角栄の外交も「現実主義外交」に分類されることがある(例:1972年の日中国交正常化)。
・また、戦後の日本外交全般において「日米同盟を基軸としつつも、中国・韓国・ASEANと現実的に協調する姿勢」は現実主義的である。
・総括
現実主義外交とは、国益を最大化するために、理念よりも実利、イデオロギーよりも柔軟性を重視する外交路線である。韓国の李在明政権における対中姿勢の見直しや「戦略的バランス」の追求は、この立場に立脚している。
なお、日本の件に関しては次のコメントも付しておく。
吉田茂外交と「現実主義外交」評価の再考
1.通説的理解(現実主義的とされる点)
・戦後の復興を最優先し、軍事を放棄しつつ経済再建に集中する「吉田ドクトリン」を推進。
・米国の庇護下で安全保障を担保し、軍備に予算を割かずに経済成長を実現。
・イデオロギーや自主独立より、国益としての安定と成長を重視したとされる。
2.問題点
・米国依存体制の制度化(=日米安保体制の固定化)により、日本の外交的・軍事的自主性は大きく制限された。
・形式的独立と実質的隷属(従属的独立)の構造を生み出した点は、現実主義というより「選択肢の放棄」とも言える。
・対米追従を「現実」として受け入れただけで、積極的な戦略性や交渉性が乏しいとも解釈可能。
3.総括
吉田茂の外交は「消極的現実主義」あるいは「対米従属的現実主義」とは言えるかもしれないが、主体的・戦略的な現実主義外交とは言い難い。
田中角栄の対中外交と「現実主義外交」評価の再考
1.通説的評価(現実主義的とされる理由)
・米中接近(ニクソン訪中)に追随する形で1972年に日中国交正常化を実現。
・台湾との断交と国交樹立を短期間で成し遂げ、日中経済関係の道筋をつけた。
・イデオロギーではなく、地政学と経済利益に基づいた外交判断だったと評価される。
2.問題点
・田中外交は、米中接近という超大国間の地殻変動に追随した「オーバーヘッド外交」の衝撃の結果にすぎないとも言える。
・台湾を切り捨てたが、日本独自の構想力やリスク覚悟の戦略があったかは疑問。
・また、対中宥和の基調はその後の「経済一辺倒外交」を助長し、現在の対中依存構造につながったとも解釈できる。
3.結論
田中角栄の対中外交は、戦略的柔軟性を示した現実主義的成果である側面はあるが、自主的な先導性に乏しいため「追随的現実主義」に過ぎないという批判は妥当である。
総合的な再定義の試み
「現実主義外交」という言葉を用いる際には、単に「理念ではなく国益を重視した」ことに着目するだけでなく、以下のような要素が含まれる必要があると考える。
・主体的な判断力と戦略性
・長期的国益の視野
・権力政治への対応能力
・第三国に左右されない外交独立性
この観点から見れば、吉田・田中両氏の外交は、「ある種の現実主義的選択」であったかもしれないが、真の意味での「戦略的現実主義外交」には達していなかったという評価が妥当である。
「現実主義外交」という語の適用範囲とその歴史的評価について、より精緻な理解が必要であることが明確となった。外交史的にも政治思想的にも核心を突くものとなろう。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Hoping for a new starting point in development of China-South Korea relations: Global Times editorial GT 2025.06.05
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335445.shtml
2025年6月4日、韓国において第21代大統領に共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)氏が選出され、同日中に就任式が行われた。これを受けて、中国の習近平国家主席は李大統領に祝意を伝え、中国が中韓関係の発展を重視していることを表明した。習主席は、中国は中韓の国交樹立時の精神に基づき、善隣友好と互恵共栄を堅持し、戦略的協力パートナーシップの継続的発展を共に推進したいと述べた。これは、中国が両国関係の未来に対し大きな期待を寄せていることを示している。
今回の大統領選挙は、前大統領尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏の弾劾に伴って実施されたものである。韓国国民の間では、政局の混乱からの脱却と国家運営の正常化が強く望まれていた。李氏は当選直後、速やかに就任式を行ったが、これは形式的な手続きを越えて、新政権への切り替えに対する社会的な緊急性を反映している。李大統領は就任演説において、国民生活の回復と経済の再生を優先課題とし、外交政策については国益を軸とした実用主義に基づく方針を示した。韓国メディア「コリア・ヘラルド」は、李氏の外交姿勢を「北朝鮮政策および全体的な戦略的方針の再設定」として評価し、「二項対立の選択に縛られない」との観点を示した。中国は、このような国益重視の外交姿勢が中韓関係に前向きな影響をもたらすことに期待を寄せている。
尹政権下における「価値に基づく外交」は、一方的な外交姿勢を強め、韓国を「グローバル中枢国家」にするとの主張とは裏腹に、かえって不安定な状況を生み出したとされる。李政権の「実用的外交」では、こうした片寄った方針を修正し、中国を含む周辺国とのバランスある関係の再構築が求められている。
南北間の緊張が続くなか、米韓同盟の「恩恵」は、駐留米軍の経費負担や貿易摩擦といった代償によって相殺されつつある。これらの要素は韓国経済に重くのしかかり、将来に対する国民の不安感を増大させている。こうした背景のもとで、中韓関係も国交樹立以来、最も厳しい局面に直面した。特に、尹政権による台湾問題に関する発言や行動は、二国間の協力に対し深刻な障害をもたらした。
中国と韓国は、地理的に近接し、常に隣接して共存せざるを得ない関係にある。また、両国は長年にわたり制度やイデオロギーの違いを乗り越え、互いに協力と成功を築いてきた歴史を有する。李大統領はかねてより、「実用的外交とはイデオロギーを超えたものであり、韓国は中国との関係を断ち切ることはできない」と述べており、「経済的に深く結びついており、地理的にも分離不可能である。それが運命だ」との認識を示している。
中国は韓国にとって最大の貿易相手国であり、韓国の対外投資における主要な対象国でもある。両国企業にとっても重要な市場であり、第三国との協力を含めた経済関係の深化には大きな潜在力がある。近年、産業分野においては競争も強まっているが、協力の戦略性と互恵性という本質は変わっていない。中国の巨大市場、完備された産業基盤、そして対外開放の継続は、韓国経済にとって引き続き大きな機会である。
中韓は地域問題でも協力の可能性を有しており、自由貿易の推進、朝鮮半島の安定維持、不確実性への共同対処などにおいて、役割を果たす余地がある。戦略的対話の維持と友好的協力の拡大は、東アジアにおける貿易・人の往来の促進のみならず、両国の経済成長にも寄与し、地域および国際社会にとっても歓迎される積極的なシグナルとなる。
中韓関係の発展を支える根本的な原動力は両国の共通利益にあり、これらは第三国を対象としたものではなく、第三国の影響を受けるべきでもない。中国は一貫して内政不干渉の原則を堅持しており、韓国が他国との関係を発展させることに干渉したことはない。他方で、韓国にも第三国の干渉を排除し、独自の外交政策を堅持することが期待される。特に、他国との関係を築くために中国との関係を犠牲にするような行動は、韓国自身に不利益をもたらし、地域諸国の一般的期待にも反すると歴史は証明してきた。
中国は中韓関係の発展に対する誠意と善意を変わらず持ち続けており、たとえ両国関係が困難な局面にあってもその姿勢は不変である。新たな韓国政府には、戦略的な洞察力をもってこの機会を捉え、実際的な行動を通じて中韓戦略的協力パートナーシップの安定的かつ長期的な発展を推進することが望まれる。これは両国国民の根本的な利益に合致し、東北アジアと世界の平和と発展にも安定をもたらすものである。
【詳細】
2025年6月4日に就任した韓国の新大統領・李在明(イ・ジェミョン)氏の政権発足に際し、中国側の視点から中韓関係の現状と将来の展望について論じたものである。まず冒頭では、習近平国家主席が李大統領に祝電を送り、中国が韓国との関係を重視している旨を伝えたことが紹介されている。祝電の中で習主席は、中韓国交正常化の原点である「善隣友好」「互恵共栄」「戦略的協力パートナーシップの深化」を改めて確認し、両国の国民により多くの利益をもたらすことを期待していると述べた。この祝意は、中国が現在の国際情勢の複雑さの中でも韓国との安定的な関係を志向していることを強調する意図がある。
次に、韓国における今回の大統領選挙が、前大統領・尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏の弾劾によって行われたことに触れ、国内においては政治的混乱の収束と行政の立て直しが求められていたことを指摘している。李大統領は、当選から数時間後にすぐに就任式を行ったが、これは形式上の意味を超えて、国家の再始動に対する強い意志と緊急性を示していると受け取られている。
李大統領の就任演説では、国内政策として「国民の生活の回復」「経済の再生」が最優先課題とされた一方、外交政策については「国益を基軸とした実用的外交」が掲げられた。これは、イデオロギーに左右されず、周辺国との関係を現実的かつ柔軟に調整する方針を意味する。韓国紙「コリア・ヘラルド」はこの姿勢を、外交・安全保障政策の「戦略的再調整」と位置づけ、「二者択一の枠組みに縛られないアプローチ」であると評価している。これは、前政権による対中強硬路線からの方針転換を示唆しており、中国側はこの変化に期待感を持っている。
また、社説では前大統領・尹氏の「価値外交」が強く批判されている。この「価値外交」は、米国や日本などとの関係強化を優先し、中国との関係を後回しにするものであったが、それは「バランス外交」という韓国の伝統的な外交スタイルを崩し、韓国を不要な国際的緊張に巻き込んだとする見方が示されている。具体的には、米韓同盟の強化に伴って、駐韓米軍の駐留費負担増大、米国との経済摩擦といったコストが韓国経済を圧迫し、国民の将来に対する不安を増大させていると論じている。
中国との関係もこの間に悪化し、国交正常化以降で最も厳しい状態に陥ったとされる。特に、尹政権が台湾問題において中国の立場を尊重しない発言を行ったことが、外交的信頼の毀損につながり、両国の協力関係に大きな打撃を与えたと分析されている。
社説は、地理的・経済的に中韓は切っても切れない関係であり、両国は体制や理念の違いを超えて共存・協力してきた歴史を持つと強調する。李大統領自身も過去に「韓国は中国との関係を切ることはできない。我々の経済は深く結びついており、地理的にも分断は不可能であり、これは運命である」と語っている。この認識は、中国側にとって歓迎すべきものであり、今後の政策展開に具体的な行動が伴うことが期待されている。
経済関係においても、中国は長年にわたり韓国最大の貿易相手国であり、韓国企業にとって重要な投資先・市場である。昨今は両国の産業が一部で競合関係にあるが、それでも協力関係の戦略的価値と互恵性は依然として重要である。中国の巨大市場、整備された産業インフラ、そして継続する対外開放政策は、韓国経済にとって依然として有望な機会を提供している。
また、社説は中韓両国が地域の安定と発展において果たし得る役割にも言及する。例えば、東アジア地域における自由貿易の推進、朝鮮半島の平和維持、気候変動や経済不安といった不確実性への共同対応などである。これらの分野における中韓の戦略的意思疎通と協力の強化は、東アジア地域の貿易と人的交流を促進するだけでなく、世界的にも前向きなメッセージを送ることができる。
さらに、社説は中韓関係の基盤として「共通の利益」に注目しており、これは第三国を対象としたものではなく、また第三国の干渉を受けるべきでもないと主張する。中国は韓国の他国との外交関係に干渉してこなかったが、韓国にも同様に、自国の対外政策において中国との関係を犠牲にすべきではないとの立場を示している。歴史的にも、他国との関係強化を理由に中国との関係を軽視した結果、韓国が不利益を被った事例があり、そのような選択は地域諸国の期待にも反すると述べている。
最後に、社説は中国の中韓関係に対する「誠意」と「善意」は常に変わらず存在しており、たとえ関係が困難な状況にあっても、その姿勢は変化していないことを強調する。そして、李政権が今後、戦略的な視野を持ってこの機会を活用し、実際の政策行動によって中韓戦略的協力パートナーシップの安定かつ持続的な発展を推進することが期待されている。これは両国民の福祉に資するだけでなく、東北アジアおよび国際社会の平和と発展にも安定要因を提供するとの主張で締めくくられている。
【要点】
1.李在明氏の大統領就任と中国の祝意
・2025年6月4日、李在明氏が韓国第21代大統領に就任。
・同日に中国の習近平国家主席が祝電を送り、中韓関係の重視と協力継続への意欲を表明。
・習主席は「善隣友好」「互恵共栄」「戦略的協力パートナーシップの深化」を今後も堅持すると述べた。
2. 韓国国内情勢と李政権の外交方針
・大統領選は、前任の尹錫悦大統領の弾劾を受けたもので、混乱の中で実施された。
・李大統領は就任演説において、「国民生活の回復」「経済再建」「現実主義外交」を主軸とする姿勢を表明。
・「イデオロギーにとらわれず、国益に基づいた外交」を掲げ、過度な陣営外交を否定。
・「コリア・ヘラルド」紙もこの外交方針を「戦略的羅針盤の再設定」と評価。
3. 尹政権の「価値外交」への批判
・尹政権は「価値外交」の名のもと、米国寄りの一方的外交を推進。
・この外交姿勢は「バランス外交」という韓国の伝統的外交方針から逸脱。
・米韓同盟強化によって得られる利益は、米軍駐留費の増加や通商摩擦によって相殺された。
・中国との関係は最悪の水準にまで悪化し、台湾問題における発言も大きな打撃を与えた。
4. 中韓関係の地政学的・経済的不可分性
・両国は地理的に隣接し、経済的にも密接に結びついている。
・李大統領はかつて「中国と縁を切ることは不可能。これは運命である」と発言。
・中国側はこの発言を「深い理解」として歓迎し、今後の実践を期待している。
5. 経済協力の重要性と今後の展望
・中国は長年にわたり韓国最大の貿易相手国であり、韓国企業にとって主要な市場である。
・両国産業の一部競合が見られるものの、協力の戦略的・互恵的な性質は変わっていない。
・中国の巨大市場、産業基盤、開放政策は韓国経済にとって引き続き有望な機会である。
6. 地域・国際課題における協力可能性
・中韓両国は、自由貿易の促進、朝鮮半島の安定、気候変動や経済不安などへの対応で協力可能。
・戦略的意思疎通と協力の拡大は、東アジアの貿易・人的交流を促進し、国際社会にも好影響を及ぼす。
7. 第三国への対応と外交の自主性の尊重
・中韓関係は「共通の利益」に基づくものであり、第三国を対象にしたものではない。
・中国は韓国が他国と関係を築くことに干渉してこなかったが、韓国にも独立した外交方針を求める。
・特に、他国との関係強化を理由に中国との関係を犠牲にすべきではないと強調。
8. 今後の関係発展への期待と呼びかけ
・中国は中韓関係に対して常に誠意と善意を持って接してきたと強調。
・新政権に対し、「戦略的視野」と「実際の行動」により両国関係の安定的・持続的発展を期待。
・これは両国民の福祉に資するだけでなく、東北アジアと世界の平和と発展にも貢献するとの結論で締めくくられている。
【桃源寸評】💚
「現実主義外交(pragmatic diplomacy / 現実主義的外交)」とは
「現実主義外交(pragmatic diplomacy / 現実主義的外交)」とは、イデオロギーや価値観、感情的な姿勢ではなく、実際の国益や現実的条件に基づいて外交政策を決定・遂行する立場や方針を指す。
以下にその定義・特徴・具体例などを詳述する。
定義
現実主義外交とは、国家の安全保障・経済的利益・地政学的現実などを最優先に考え、理想や理念にとらわれず、「実利」に基づいて他国との関係を築く外交方針である。
主な特徴
・国益最優先
理念や同盟よりも、自国にとって何が有利かを重視する。たとえば、自由・人権といった価値よりも貿易、安保、投資の実利を重視する。
・柔軟な立場
二項対立(二者択一)を避け、米中や日中といった対立する大国の間で中立やバランスを取る姿勢をとる。
・実用主義的アプローチ
相手国の体制や価値観に関係なく、対話や協力が可能であれば関係を築く。イデオロギーによる線引きをしない。
・経済重視
経済成長、輸出入、投資誘致などを目的にした外交を展開する傾向がある。
・情勢変化への柔軟な対応
国際情勢の変化に応じて立場や戦略を見直すことを厭わない。
・他の外交路線との比較
比較項目 現実主義外交 価値外交・理念外交
基準 実利・国益 自由・人権・民主主義などの価値
同盟形成 状況依存的 同じ価値観を持つ国との連携
柔軟性 高い 低い/硬直的になる可能性あり
対中国 協力も視野 批判・対抗姿勢が強まりがち
韓国における文脈:李在明政権と現実主義外交
・李在明大統領は、「国益中心の実用主義外交」を標榜し、**「中国とも米国とも対立せず、必要に応じて協力する」**という姿勢を取っている。
・これは前政権(尹錫悦)のように米国との「価値同盟」を前面に出し、対中関係を悪化させる方針とは対照的である。
・現実主義外交により、経済面での中国との協力や北朝鮮問題への柔軟な対応が期待されている。
日本における参考
・日本の吉田茂や田中角栄の外交も「現実主義外交」に分類されることがある(例:1972年の日中国交正常化)。
・また、戦後の日本外交全般において「日米同盟を基軸としつつも、中国・韓国・ASEANと現実的に協調する姿勢」は現実主義的である。
・総括
現実主義外交とは、国益を最大化するために、理念よりも実利、イデオロギーよりも柔軟性を重視する外交路線である。韓国の李在明政権における対中姿勢の見直しや「戦略的バランス」の追求は、この立場に立脚している。
なお、日本の件に関しては次のコメントも付しておく。
吉田茂外交と「現実主義外交」評価の再考
1.通説的理解(現実主義的とされる点)
・戦後の復興を最優先し、軍事を放棄しつつ経済再建に集中する「吉田ドクトリン」を推進。
・米国の庇護下で安全保障を担保し、軍備に予算を割かずに経済成長を実現。
・イデオロギーや自主独立より、国益としての安定と成長を重視したとされる。
2.問題点
・米国依存体制の制度化(=日米安保体制の固定化)により、日本の外交的・軍事的自主性は大きく制限された。
・形式的独立と実質的隷属(従属的独立)の構造を生み出した点は、現実主義というより「選択肢の放棄」とも言える。
・対米追従を「現実」として受け入れただけで、積極的な戦略性や交渉性が乏しいとも解釈可能。
3.総括
吉田茂の外交は「消極的現実主義」あるいは「対米従属的現実主義」とは言えるかもしれないが、主体的・戦略的な現実主義外交とは言い難い。
田中角栄の対中外交と「現実主義外交」評価の再考
1.通説的評価(現実主義的とされる理由)
・米中接近(ニクソン訪中)に追随する形で1972年に日中国交正常化を実現。
・台湾との断交と国交樹立を短期間で成し遂げ、日中経済関係の道筋をつけた。
・イデオロギーではなく、地政学と経済利益に基づいた外交判断だったと評価される。
2.問題点
・田中外交は、米中接近という超大国間の地殻変動に追随した「オーバーヘッド外交」の衝撃の結果にすぎないとも言える。
・台湾を切り捨てたが、日本独自の構想力やリスク覚悟の戦略があったかは疑問。
・また、対中宥和の基調はその後の「経済一辺倒外交」を助長し、現在の対中依存構造につながったとも解釈できる。
3.結論
田中角栄の対中外交は、戦略的柔軟性を示した現実主義的成果である側面はあるが、自主的な先導性に乏しいため「追随的現実主義」に過ぎないという批判は妥当である。
総合的な再定義の試み
「現実主義外交」という言葉を用いる際には、単に「理念ではなく国益を重視した」ことに着目するだけでなく、以下のような要素が含まれる必要があると考える。
・主体的な判断力と戦略性
・長期的国益の視野
・権力政治への対応能力
・第三国に左右されない外交独立性
この観点から見れば、吉田・田中両氏の外交は、「ある種の現実主義的選択」であったかもしれないが、真の意味での「戦略的現実主義外交」には達していなかったという評価が妥当である。
「現実主義外交」という語の適用範囲とその歴史的評価について、より精緻な理解が必要であることが明確となった。外交史的にも政治思想的にも核心を突くものとなろう。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Hoping for a new starting point in development of China-South Korea relations: Global Times editorial GT 2025.06.05
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335445.shtml