沈黙こそが最も危険な選択である ― 2025年04月13日 08:50
【概要】
2025年4月13日付のマイケル・ムーア氏によるニュースレター「The Home of the Brave」の要旨である。本稿は米国における「勇気」についての考察を起点とし、複数の事例を通じて民主主義のために声を上げる人々を称える内容となっている。
「勇気」の意味とアメリカ国家に対する批判
ムーア氏は、アメリカの国歌「星条旗」に言及し、「勇者の国(home of the brave)」という表現が奴隷制度と矛盾していることを指摘した。作詞者フランシス・スコット・キーが奴隷所有者であり、黒人を「劣った人種」と呼んでいた歴史を掘り起こし、第3節の歌詞には逃亡奴隷を殺害すると警告するような文言が含まれていたことを暴露している。
空軍基地前での抗議と高齢女性たちの逮捕
カリフォルニア州トラヴィス空軍基地前で、アメリカのパレスチナ人への軍事支援および不法移民の強制送還に抗議するため、数十人が人間の鎖を作って基地の入り口を封鎖した。逮捕者の中には高齢女性(祖母)も含まれており、彼女たちは首から、殺害されたパレスチナ人児童(1歳、3歳、5歳)の名前と年齢を掲げていた。
フロリダ州での教師の解雇と生徒による抗議
ブロワード郡の高校で、教師メリッサ・カルフーン氏が、生徒からの希望に応じてジェンダー中立の名前で呼んだことにより、解雇された。これはフロリダ州が通過させた法律に基づく処分であり、その法律では出生名以外の使用を禁止している。生徒たちはこの対応に抗議して校外に集団で退去し、教師およびトランスジェンダーの生徒に連帯を示した。
アイダホ州での掲示ポスターをめぐる攻防
中学校教師サラ・イナマ氏が、教室に掲示していた「Everyone is Welcome Here(すべての人がここに歓迎される)」というポスターを巡って問題が発生した。ポスターには様々な肌の色を持つ10本の手が描かれていた。学校側は「個人的・政治的な見解の表明」として撤去を求めたが、イナマ氏は再掲した。学校側は「現在の政治的風潮ではこの表現は物議を醸す」と主張した。地元の公共ラジオ局が確認したところ、問題視されたのは「多様な肌の色の手」であった。生徒や保護者は教師を支持し、州議会議事堂前で抗議デモを実施した。
ムーア氏の総括的主張
ムーア氏は以上のような一連の事例をもとに、「静かな勇気」を称え、今後も各人が身の回りで抵抗と連帯を示すことの重要性を強調した。中でも、誰一人排除されない社会を維持するためには、日常の中で起こる「小さな勇気」の積み重ねが必要であると訴えた。
追記:マフムード・カリール氏の国外追放決定
ニュースレター末尾に、ルイジアナ州の移民裁判所が、コロンビア大学大学院生であり米国の永住権を持つマフムード・カリール氏に対し、国外追放を命じたことが記されている。理由は、同氏が同大学での平和的な抗議活動の主導者の一人だったためとされる。ムーア氏はこれを「犯罪行為」と糾弾し、「このような前例を許せば誰も安全ではない」と警鐘を鳴らしている。また、トランプ氏が自ら「独裁的な統治」を行うと予告していたことに注意を促し、現在進行中の権威主義的措置に対し市民が沈黙すれば、自らの破滅を招くと強く警告した。
抗議行動の呼びかけ
マイケル・ムーア氏は、カリール氏の送還に抗議するための行動として、ニューヨーク市での抗議活動(主催:Jewish Voice for Peace)への参加を呼びかけている。沈黙こそが最も危険な選択であると訴え、即時の行動を求めた。
【詳細】
概要と主張の骨子
マイケル・ムーアは、本エッセイにおいて「勇気」とは何かを主題とし、日々の中で静かに、あるいは公然と行われる市民的勇気の諸形態を称揚している。彼はアメリカ国歌「星条旗」の背景や作詞者であるフランシス・スコット・キーの人種差別的な歴史を紹介し、国民的象徴の根底にある矛盾を指摘する。その上で、現在アメリカ各地で行われている抗議行動を「真の勇気」の例として取り上げている。
国歌と歴史の再検討
ムーアは、アメリカ国歌「星条旗」において歌われる「the land of the free and the home of the brave(自由の地、勇者たちの故郷)」という表現に言及し、その作詞者であるフランシス・スコット・キーが奴隷制度の擁護者であり、「黒人は劣等な人種である」と述べていたことを批判している。特に、国歌の第三節にある奴隷への脅迫的内容(逃亡を試みる者は殺すという趣旨)を問題視しており、それに対比する形で、奴隷から逃亡してイギリス軍と共にアメリカと戦った黒人たちの行為こそが「真の勇気」であったと述べている。
カリフォルニア州トラヴィス空軍基地での抗議
今週、カリフォルニア州ではトラヴィス空軍基地の入口を人間の鎖で封鎖する抗議活動が行われた。この抗議は、アメリカ軍がガザ地区におけるイスラエルの行動を支援していること、ならびにドナルド・トランプによる移民の強制送還を支える軍用機の使用に対する反対を目的としていた。12人が逮捕され、その中には高齢の女性2人(祖母)が含まれていた。彼女たちはパレスチナで殺害された1歳、3歳、5歳の子どもたちの名前を記したプラカードを首から下げていた。
フロリダ州での教師解雇と生徒の抗議
フロリダ州ブロワード郡の高校教師メリッサ・カルフーン氏は、生徒から依頼された性別中立の名前でその生徒を呼んだため、解雇された。これはフロリダ州の新法に基づく措置であり、教師が出生名以外の名前で生徒を呼ぶことが禁止されている。この対応に抗議して、該当する高校(サテライト高校)の生徒たちは授業をボイコットし、学校の外に集結して抗議活動を行った。
アイダホ州でのポスター撤去命令と反発
アイダホ州ボイジーにあるルイス&クラーク中学校の歴史教師サラ・イナマ氏は、「EVERYONE IS WELCOME HERE(誰もが歓迎される場所)」と書かれ、様々な肌の色の手とハートが描かれたポスターを教室に掲示していた。しかし、学校管理者はこのポスターが「個人的・政治的意見を表明している」として撤去を要求した。イナマ氏は一旦は従ったが、後に再びポスターを掲示し、学校区に訴え出た。これが「職務命令違反」とされ、問題は教育委員会にまで拡大した。
学校側は言葉の内容よりも、ポスターに描かれている手の肌の色が「特定のアイデンティティ集団に関する見解を示している」として問題視していた。この判断に対し、生徒たちはイナマ氏を支持し、保護者と共に州議事堂前で抗議活動を実施した。
勇気の多様な形と市民の責務
ムーアは、これらの事例に共通するのは「勇気」であり、それは必ずしも目立つ行為ではなく、小さな行動であっても体制に抗い、人間性と尊厳を守るための重要な一歩であると論じている。こうした行為の多くは、本人たちにとっても意図的な「勇敢な行為」とは認識されていなかったかもしれないが、それでもなお体制に一石を投じる力を持つものであると評価している。
ポストスクリプト:マフムード・カリル氏の国外追放命令
ムーアは最後に、ルイジアナ州の移民裁判所が、コロンビア大学の大学院生であり合法的な永住権を持つマフムード・カリル氏に対して、キャンパス内での平和的な抗議活動を理由に国外追放を命じたという最新情報を追記している。彼は、この判決を「犯罪」と非難し、これを許せばアメリカ国民・永住者を問わず誰もが安全ではなくなると警鐘を鳴らしている。ムーアは、トランプが独裁的に統治すると公言していたことを想起させ、今こそ市民が立ち上がるべき時であると強く訴えている。
ムーアは、ユダヤ系人権団体「Jewish Voice for Peace」がカリル氏の強制送還阻止のため、月曜日の夕方にニューヨーク市ロウアー・マンハッタンで抗議活動を計画していることを伝え、読者に参加を呼びかけている。
【要点】
1. 国歌とその歴史的背景
・アメリカ国歌「星条旗」の歌詞にある「the home of the brave(勇者たちの国)」に注目。
・作詞者フランシス・スコット・キーは奴隷制度擁護者であり、「黒人は劣等である」と公言していた。
・第三節には、逃亡奴隷に対する暴力的脅迫が含まれており、それを称賛する国歌の正当性に疑義を呈している。
・一方、イギリス側に加わって戦った逃亡黒人奴隷たちこそ「真の勇者」であったと評価。
2. トラヴィス空軍基地での抗議(カリフォルニア州)
・空軍基地の正門を市民が人間の鎖で封鎖する行動を実施。
・目的は、ガザ爆撃に関与する米軍の行動と、トランプによる移民強制送還に使用される航空機への抗議。
・参加者12人が逮捕され、その中には子どもを殺されたパレスチナ人に連帯する高齢女性も含まれていた。
3. フロリダ州での高校教師の解雇と生徒の抗議
・教師メリッサ・カルフーン氏が、生徒からの希望で性別中立名で呼んだ結果、解雇された。
・州法により、出生証明書に記載された名前以外で呼ぶことが禁じられていることが理由。
・生徒たちは教師支持のため、授業をボイコットし、校外で抗議活動を実施。
4. アイダホ州中学校での「歓迎ポスター」撤去命令と教師の抵抗
・教師サラ・イナマ氏が掲げた「EVERYONE IS WELCOME HERE」と記載されたポスターに対し、校長が撤去を命令。
・肌の色の異なる手が描かれていたことが「特定のアイデンティティに関する政治的主張」と判断された。
・教師は一度は従うも再掲示し、上層部に訴えたため処分対象となる。
・生徒・保護者が州議事堂前で抗議を行い、教師支持の意思を表明。
5. 「勇気」とは何かの再定義
・上記の行動をムーアは「勇気ある行為」として高く評価。
・抗議者たちは自身の行為を「勇敢」と意識していない場合もあるが、体制に対して人道的価値を貫く点で真の勇気とする。
・勇気は軍事的行為ではなく、市民の道徳的行動にも存在するとの主張。
6. マフムード・カリル氏の国外追放命令
・コロンビア大学大学院生で永住権保有者であるカリル氏が、大学構内での抗議活動を理由に国外追放命令を受ける。
・この処置をムーアは「犯罪的」であり、今後同様の弾圧が全国で拡大する恐れがあると警告。
・ユダヤ系人権団体「Jewish Voice for Peace」が、4月15日(月)夕方に抗議集会をニューヨーク市で実施予定。ムーアは参加を呼びかけている。
【引用・参照・底本】
The Home of the Brave Michael Moore 2025.04.14
https://www.michaelmoore.com/p/the-home-of-the-brave?utm_source=post-email-title&publication_id=320974&post_id=161044755&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
2025年4月13日付のマイケル・ムーア氏によるニュースレター「The Home of the Brave」の要旨である。本稿は米国における「勇気」についての考察を起点とし、複数の事例を通じて民主主義のために声を上げる人々を称える内容となっている。
「勇気」の意味とアメリカ国家に対する批判
ムーア氏は、アメリカの国歌「星条旗」に言及し、「勇者の国(home of the brave)」という表現が奴隷制度と矛盾していることを指摘した。作詞者フランシス・スコット・キーが奴隷所有者であり、黒人を「劣った人種」と呼んでいた歴史を掘り起こし、第3節の歌詞には逃亡奴隷を殺害すると警告するような文言が含まれていたことを暴露している。
空軍基地前での抗議と高齢女性たちの逮捕
カリフォルニア州トラヴィス空軍基地前で、アメリカのパレスチナ人への軍事支援および不法移民の強制送還に抗議するため、数十人が人間の鎖を作って基地の入り口を封鎖した。逮捕者の中には高齢女性(祖母)も含まれており、彼女たちは首から、殺害されたパレスチナ人児童(1歳、3歳、5歳)の名前と年齢を掲げていた。
フロリダ州での教師の解雇と生徒による抗議
ブロワード郡の高校で、教師メリッサ・カルフーン氏が、生徒からの希望に応じてジェンダー中立の名前で呼んだことにより、解雇された。これはフロリダ州が通過させた法律に基づく処分であり、その法律では出生名以外の使用を禁止している。生徒たちはこの対応に抗議して校外に集団で退去し、教師およびトランスジェンダーの生徒に連帯を示した。
アイダホ州での掲示ポスターをめぐる攻防
中学校教師サラ・イナマ氏が、教室に掲示していた「Everyone is Welcome Here(すべての人がここに歓迎される)」というポスターを巡って問題が発生した。ポスターには様々な肌の色を持つ10本の手が描かれていた。学校側は「個人的・政治的な見解の表明」として撤去を求めたが、イナマ氏は再掲した。学校側は「現在の政治的風潮ではこの表現は物議を醸す」と主張した。地元の公共ラジオ局が確認したところ、問題視されたのは「多様な肌の色の手」であった。生徒や保護者は教師を支持し、州議会議事堂前で抗議デモを実施した。
ムーア氏の総括的主張
ムーア氏は以上のような一連の事例をもとに、「静かな勇気」を称え、今後も各人が身の回りで抵抗と連帯を示すことの重要性を強調した。中でも、誰一人排除されない社会を維持するためには、日常の中で起こる「小さな勇気」の積み重ねが必要であると訴えた。
追記:マフムード・カリール氏の国外追放決定
ニュースレター末尾に、ルイジアナ州の移民裁判所が、コロンビア大学大学院生であり米国の永住権を持つマフムード・カリール氏に対し、国外追放を命じたことが記されている。理由は、同氏が同大学での平和的な抗議活動の主導者の一人だったためとされる。ムーア氏はこれを「犯罪行為」と糾弾し、「このような前例を許せば誰も安全ではない」と警鐘を鳴らしている。また、トランプ氏が自ら「独裁的な統治」を行うと予告していたことに注意を促し、現在進行中の権威主義的措置に対し市民が沈黙すれば、自らの破滅を招くと強く警告した。
抗議行動の呼びかけ
マイケル・ムーア氏は、カリール氏の送還に抗議するための行動として、ニューヨーク市での抗議活動(主催:Jewish Voice for Peace)への参加を呼びかけている。沈黙こそが最も危険な選択であると訴え、即時の行動を求めた。
【詳細】
概要と主張の骨子
マイケル・ムーアは、本エッセイにおいて「勇気」とは何かを主題とし、日々の中で静かに、あるいは公然と行われる市民的勇気の諸形態を称揚している。彼はアメリカ国歌「星条旗」の背景や作詞者であるフランシス・スコット・キーの人種差別的な歴史を紹介し、国民的象徴の根底にある矛盾を指摘する。その上で、現在アメリカ各地で行われている抗議行動を「真の勇気」の例として取り上げている。
国歌と歴史の再検討
ムーアは、アメリカ国歌「星条旗」において歌われる「the land of the free and the home of the brave(自由の地、勇者たちの故郷)」という表現に言及し、その作詞者であるフランシス・スコット・キーが奴隷制度の擁護者であり、「黒人は劣等な人種である」と述べていたことを批判している。特に、国歌の第三節にある奴隷への脅迫的内容(逃亡を試みる者は殺すという趣旨)を問題視しており、それに対比する形で、奴隷から逃亡してイギリス軍と共にアメリカと戦った黒人たちの行為こそが「真の勇気」であったと述べている。
カリフォルニア州トラヴィス空軍基地での抗議
今週、カリフォルニア州ではトラヴィス空軍基地の入口を人間の鎖で封鎖する抗議活動が行われた。この抗議は、アメリカ軍がガザ地区におけるイスラエルの行動を支援していること、ならびにドナルド・トランプによる移民の強制送還を支える軍用機の使用に対する反対を目的としていた。12人が逮捕され、その中には高齢の女性2人(祖母)が含まれていた。彼女たちはパレスチナで殺害された1歳、3歳、5歳の子どもたちの名前を記したプラカードを首から下げていた。
フロリダ州での教師解雇と生徒の抗議
フロリダ州ブロワード郡の高校教師メリッサ・カルフーン氏は、生徒から依頼された性別中立の名前でその生徒を呼んだため、解雇された。これはフロリダ州の新法に基づく措置であり、教師が出生名以外の名前で生徒を呼ぶことが禁止されている。この対応に抗議して、該当する高校(サテライト高校)の生徒たちは授業をボイコットし、学校の外に集結して抗議活動を行った。
アイダホ州でのポスター撤去命令と反発
アイダホ州ボイジーにあるルイス&クラーク中学校の歴史教師サラ・イナマ氏は、「EVERYONE IS WELCOME HERE(誰もが歓迎される場所)」と書かれ、様々な肌の色の手とハートが描かれたポスターを教室に掲示していた。しかし、学校管理者はこのポスターが「個人的・政治的意見を表明している」として撤去を要求した。イナマ氏は一旦は従ったが、後に再びポスターを掲示し、学校区に訴え出た。これが「職務命令違反」とされ、問題は教育委員会にまで拡大した。
学校側は言葉の内容よりも、ポスターに描かれている手の肌の色が「特定のアイデンティティ集団に関する見解を示している」として問題視していた。この判断に対し、生徒たちはイナマ氏を支持し、保護者と共に州議事堂前で抗議活動を実施した。
勇気の多様な形と市民の責務
ムーアは、これらの事例に共通するのは「勇気」であり、それは必ずしも目立つ行為ではなく、小さな行動であっても体制に抗い、人間性と尊厳を守るための重要な一歩であると論じている。こうした行為の多くは、本人たちにとっても意図的な「勇敢な行為」とは認識されていなかったかもしれないが、それでもなお体制に一石を投じる力を持つものであると評価している。
ポストスクリプト:マフムード・カリル氏の国外追放命令
ムーアは最後に、ルイジアナ州の移民裁判所が、コロンビア大学の大学院生であり合法的な永住権を持つマフムード・カリル氏に対して、キャンパス内での平和的な抗議活動を理由に国外追放を命じたという最新情報を追記している。彼は、この判決を「犯罪」と非難し、これを許せばアメリカ国民・永住者を問わず誰もが安全ではなくなると警鐘を鳴らしている。ムーアは、トランプが独裁的に統治すると公言していたことを想起させ、今こそ市民が立ち上がるべき時であると強く訴えている。
ムーアは、ユダヤ系人権団体「Jewish Voice for Peace」がカリル氏の強制送還阻止のため、月曜日の夕方にニューヨーク市ロウアー・マンハッタンで抗議活動を計画していることを伝え、読者に参加を呼びかけている。
【要点】
1. 国歌とその歴史的背景
・アメリカ国歌「星条旗」の歌詞にある「the home of the brave(勇者たちの国)」に注目。
・作詞者フランシス・スコット・キーは奴隷制度擁護者であり、「黒人は劣等である」と公言していた。
・第三節には、逃亡奴隷に対する暴力的脅迫が含まれており、それを称賛する国歌の正当性に疑義を呈している。
・一方、イギリス側に加わって戦った逃亡黒人奴隷たちこそ「真の勇者」であったと評価。
2. トラヴィス空軍基地での抗議(カリフォルニア州)
・空軍基地の正門を市民が人間の鎖で封鎖する行動を実施。
・目的は、ガザ爆撃に関与する米軍の行動と、トランプによる移民強制送還に使用される航空機への抗議。
・参加者12人が逮捕され、その中には子どもを殺されたパレスチナ人に連帯する高齢女性も含まれていた。
3. フロリダ州での高校教師の解雇と生徒の抗議
・教師メリッサ・カルフーン氏が、生徒からの希望で性別中立名で呼んだ結果、解雇された。
・州法により、出生証明書に記載された名前以外で呼ぶことが禁じられていることが理由。
・生徒たちは教師支持のため、授業をボイコットし、校外で抗議活動を実施。
4. アイダホ州中学校での「歓迎ポスター」撤去命令と教師の抵抗
・教師サラ・イナマ氏が掲げた「EVERYONE IS WELCOME HERE」と記載されたポスターに対し、校長が撤去を命令。
・肌の色の異なる手が描かれていたことが「特定のアイデンティティに関する政治的主張」と判断された。
・教師は一度は従うも再掲示し、上層部に訴えたため処分対象となる。
・生徒・保護者が州議事堂前で抗議を行い、教師支持の意思を表明。
5. 「勇気」とは何かの再定義
・上記の行動をムーアは「勇気ある行為」として高く評価。
・抗議者たちは自身の行為を「勇敢」と意識していない場合もあるが、体制に対して人道的価値を貫く点で真の勇気とする。
・勇気は軍事的行為ではなく、市民の道徳的行動にも存在するとの主張。
6. マフムード・カリル氏の国外追放命令
・コロンビア大学大学院生で永住権保有者であるカリル氏が、大学構内での抗議活動を理由に国外追放命令を受ける。
・この処置をムーアは「犯罪的」であり、今後同様の弾圧が全国で拡大する恐れがあると警告。
・ユダヤ系人権団体「Jewish Voice for Peace」が、4月15日(月)夕方に抗議集会をニューヨーク市で実施予定。ムーアは参加を呼びかけている。
【引用・参照・底本】
The Home of the Brave Michael Moore 2025.04.14
https://www.michaelmoore.com/p/the-home-of-the-brave?utm_source=post-email-title&publication_id=320974&post_id=161044755&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
研究内容を事実上政治的・イデオロギー的理由で排除 ― 2025年04月13日 11:45
【概要】
トランプ政権下で米国国立衛生研究所(NIH)が突然多くの暴力予防関連研究への資金提供を打ち切ったことに焦点を当てている。特に、LGBTQ+や有色人種の若者など、社会的に周縁化されたコミュニティを対象とする研究が多数停止された。これは、トランプ大統領が推進する多様性・公平性・包括性(DEI)プログラムの排除方針と連動している。
主張と視点
・命に関わる研究が犠牲になっている:研究者たちは、研究の中断によりレイプ、暴力、自殺が増えると警告しており、特に若者、特にLGBTQ+層が深刻な影響を受けるとする。
・科学的根拠の軽視:研究打ち切りの通知には、科学的に不正確な記述があり、これが研究者やその協力コミュニティとの信頼関係を壊している。
・資金削減は「節約」にならない:暴力の予防は長期的には医療費や刑事司法コストを削減するため、研究停止はむしろ税金の無駄であるとされる。
・政治的・イデオロギー的な干渉:研究の中止は、科学的判断ではなく、政治的・文化戦争的な価値観によって行われており、「気に入らないテーマ」を排除する行動とみなされている。
注目点
・研究の性質:多くは実験室内で完結するものではなく、実際の地域社会や当事者とのフィールドワークに基づく臨床的研究であるため、その中断は当該コミュニティに直接的な実害をもたらす。
・訴訟の動き:ACLU(アメリカ自由人権協会)などがNIHに対して訴訟を提起し始めており、今後法廷闘争に発展する可能性が高い。
・研究者の反応:資金や職員が失われても「声」は失われないとして、研究者たちは抵抗を続ける姿勢を示している。
考察
この事態は、公共政策と科学研究の交差点における政治的介入の典型例である。トランプ政権が掲げる保守的イデオロギーに反する研究が「無効化」されることで、弱い立場にある人々への社会的支援が制度的に断たれることになる。さらに、科学研究の自由と透明性という根本的な原則にも挑戦する動きであり、米国の学術環境に深刻な影響を与えている。
【詳細】
ドナルド・トランプ政権が再び始動した2025年、国家衛生研究所(NIH)による研究助成金の一方的な打ち切りが、特に暴力予防やマイノリティ支援を目的とする公衆衛生研究に深刻な影響を与えている実態を報じたものである。以下に、内容を項目ごとに詳しく説明する。
(1)何が起こったのか
・トランプ政権下のNIHは、すでに進行中だった数百件の研究プロジェクトの助成金を突然打ち切った。
・対象は、LGBTQ+、アジア系アメリカ人、黒人やヒスパニック系の若者、性的暴力の被害者など脆弱なコミュニティに焦点を当てた研究。
・NIH側は打ち切り理由として「もはや機関の優先事項に合致しない」という曖昧な説明をしている。
(2)影響を受けた研究内容の例
・アジア系アメリカ人家庭における銃暴力の予防研究(Tsu-Yin Wu)
⇨ アジア系の銃保有率増加に伴うリスクの科学的調査。
⇨ 自殺、家庭内暴力、事故などへの影響を明らかにし、予防策を開発しようとしていた。
・LGBTQ+若者への支援プログラム(Katie Edwards, Heather Littleton, Jessamyn Moxie)
⇨ デートDV、薬物乱用、自殺を予防するためのピア・メンタリングや介入モデルの開発。
⇨ 研究途中での打ち切りは、臨床的にも倫理的にも深刻な問題とされている。
(3)打ち切りの政治的背景
・トランプ政権はDEI(多様性・公平性・包摂)関連の政策や予算に強く反対している。
・NIHの打ち切り通知には「ジェンダー・アイデンティティに基づく研究は科学的でない」「生物学的現実を無視している」などの政治的・イデオロギー的文言が含まれている。
・実際の研究内容と無関係な決めつけも含まれており、研究者側は異議申し立てを行っているが、その手続きも不透明。
(4)研究者とコミュニティへの影響
・研究者の職員解雇やキャリアの危機に直面。
・コミュニティとの信頼関係や実施中の臨床試験への深刻な影響。
・特にLGBTQ+や有色人種の若者など、元々制度的に支援の乏しい層にとって、今回の研究は重要なセーフティネットだった。
(5)批判と法的対応
・研究者、大学、医療機関はこれを「政治的な粛清」と非難。
・4月4日には全米16州の司法長官がNIHを提訴。
・アメリカ自由人権協会(ACLU)も集団訴訟を起こし、表現・学問の自由の侵害として争っている。
(6)研究者の声と決意
・「最も脆弱な若者たちが命を落とす可能性がある」(Katie Edwards)
・「研究を止めても、声を奪うことはできない。これは正義ではない」(Edwards)
・「信頼を損ない、将来の研究協力を拒否する人が増える」(Littleton)
(7)全体としての意味
この一連の助成金打ち切りは、単に研究の中断にとどまらず、アメリカ社会の科学的・倫理的基盤の揺らぎを示している。特定の人種・ジェンダー・性的指向に基づく研究を「無駄」あるいは「非科学的」と断じる政権の姿勢は、公衆衛生の公平性と学問の自由に対する重大な脅威といえる。
【要点】
1. 助成金の打ち切り内容
・トランプ政権下のNIHが、進行中の複数の研究に対する助成金を突然打ち切り。
・対象は、LGBTQ+、アジア系、黒人、ヒスパニック系の若者や、性的暴力の被害者などを支援する研究。
・NIHの説明は「機関の優先事項に合致しない」という抽象的理由。
2. 打ち切られた研究の具体例
・アジア系家庭の銃暴力予防研究(Tsu-Yin Wu)
➡️アジア系社会における銃による自殺・事故・家庭内暴力リスクの分析。
・LGBTQ+若者への支援介入研究(Edwards, Littleton, Moxie)
➡️精神健康支援やデートDVの予防を目的とした介入プログラムの開発。
・➡️先住民の若者向け研究(Lisa Wexler)
自殺予防の実践研究。過去に高い効果を挙げていた。
3. 打ち切りの政治的背景
・トランプ政権は、DEI(多様性・公平性・包摂)政策に反対。
・NIHは研究に対して「ジェンダー・アイデンティティに基づく調査は非科学的」との見解を示す。
・研究内容を事実上政治的・イデオロギー的理由で排除。
4. 研究現場への影響
・助成金の中断により、研究者やスタッフが解雇や再配置の危機に。
・研究対象コミュニティとの信頼関係が損なわれる。
・実施中の介入や臨床試験が中断・放棄される恐れ。
5. 批判と法的対応
・大学や研究者から「政治的検閲」「科学への介入」との非難が噴出。
・2025年4月、全米16州の司法長官がNIHを提訴。
・ACLUが原告団と共に憲法上の表現・学問の自由侵害として集団訴訟を提起。
6. 研究者のコメント
・「脆弱な若者が命を落とす可能性がある」(Katie Edwards)
・「研究を止めても、声は奪えない」(Edwards)
・「信頼を失い、将来の研究協力にも影響」(Littleton)
7. 社会的意味合い
・政治的介入による助成金停止は、科学的中立性の破壊。
・研究と公衆衛生政策の分離が困難になり、社会的弱者への支援が後退。
・米国内での学問の自由の後退と差別的政策の正当化につながる恐れ。
【引用・参照・底本】
“Youth Are Going to Die Because of This”: Trump Defunds Violence Prevention truthout 2025.04.12
https://truthout.org/articles/youth-are-going-to-die-because-of-this-trump-defunds-violence-prevention/?utm_source=Truthout&utm_campaign=4d7d2e2492-EMAIL_CAMPAIGN_2025_04_12_05_07&utm_medium=email&utm_term=0_bbb541a1db-4d7d2e2492-653696056
トランプ政権下で米国国立衛生研究所(NIH)が突然多くの暴力予防関連研究への資金提供を打ち切ったことに焦点を当てている。特に、LGBTQ+や有色人種の若者など、社会的に周縁化されたコミュニティを対象とする研究が多数停止された。これは、トランプ大統領が推進する多様性・公平性・包括性(DEI)プログラムの排除方針と連動している。
主張と視点
・命に関わる研究が犠牲になっている:研究者たちは、研究の中断によりレイプ、暴力、自殺が増えると警告しており、特に若者、特にLGBTQ+層が深刻な影響を受けるとする。
・科学的根拠の軽視:研究打ち切りの通知には、科学的に不正確な記述があり、これが研究者やその協力コミュニティとの信頼関係を壊している。
・資金削減は「節約」にならない:暴力の予防は長期的には医療費や刑事司法コストを削減するため、研究停止はむしろ税金の無駄であるとされる。
・政治的・イデオロギー的な干渉:研究の中止は、科学的判断ではなく、政治的・文化戦争的な価値観によって行われており、「気に入らないテーマ」を排除する行動とみなされている。
注目点
・研究の性質:多くは実験室内で完結するものではなく、実際の地域社会や当事者とのフィールドワークに基づく臨床的研究であるため、その中断は当該コミュニティに直接的な実害をもたらす。
・訴訟の動き:ACLU(アメリカ自由人権協会)などがNIHに対して訴訟を提起し始めており、今後法廷闘争に発展する可能性が高い。
・研究者の反応:資金や職員が失われても「声」は失われないとして、研究者たちは抵抗を続ける姿勢を示している。
考察
この事態は、公共政策と科学研究の交差点における政治的介入の典型例である。トランプ政権が掲げる保守的イデオロギーに反する研究が「無効化」されることで、弱い立場にある人々への社会的支援が制度的に断たれることになる。さらに、科学研究の自由と透明性という根本的な原則にも挑戦する動きであり、米国の学術環境に深刻な影響を与えている。
【詳細】
ドナルド・トランプ政権が再び始動した2025年、国家衛生研究所(NIH)による研究助成金の一方的な打ち切りが、特に暴力予防やマイノリティ支援を目的とする公衆衛生研究に深刻な影響を与えている実態を報じたものである。以下に、内容を項目ごとに詳しく説明する。
(1)何が起こったのか
・トランプ政権下のNIHは、すでに進行中だった数百件の研究プロジェクトの助成金を突然打ち切った。
・対象は、LGBTQ+、アジア系アメリカ人、黒人やヒスパニック系の若者、性的暴力の被害者など脆弱なコミュニティに焦点を当てた研究。
・NIH側は打ち切り理由として「もはや機関の優先事項に合致しない」という曖昧な説明をしている。
(2)影響を受けた研究内容の例
・アジア系アメリカ人家庭における銃暴力の予防研究(Tsu-Yin Wu)
⇨ アジア系の銃保有率増加に伴うリスクの科学的調査。
⇨ 自殺、家庭内暴力、事故などへの影響を明らかにし、予防策を開発しようとしていた。
・LGBTQ+若者への支援プログラム(Katie Edwards, Heather Littleton, Jessamyn Moxie)
⇨ デートDV、薬物乱用、自殺を予防するためのピア・メンタリングや介入モデルの開発。
⇨ 研究途中での打ち切りは、臨床的にも倫理的にも深刻な問題とされている。
(3)打ち切りの政治的背景
・トランプ政権はDEI(多様性・公平性・包摂)関連の政策や予算に強く反対している。
・NIHの打ち切り通知には「ジェンダー・アイデンティティに基づく研究は科学的でない」「生物学的現実を無視している」などの政治的・イデオロギー的文言が含まれている。
・実際の研究内容と無関係な決めつけも含まれており、研究者側は異議申し立てを行っているが、その手続きも不透明。
(4)研究者とコミュニティへの影響
・研究者の職員解雇やキャリアの危機に直面。
・コミュニティとの信頼関係や実施中の臨床試験への深刻な影響。
・特にLGBTQ+や有色人種の若者など、元々制度的に支援の乏しい層にとって、今回の研究は重要なセーフティネットだった。
(5)批判と法的対応
・研究者、大学、医療機関はこれを「政治的な粛清」と非難。
・4月4日には全米16州の司法長官がNIHを提訴。
・アメリカ自由人権協会(ACLU)も集団訴訟を起こし、表現・学問の自由の侵害として争っている。
(6)研究者の声と決意
・「最も脆弱な若者たちが命を落とす可能性がある」(Katie Edwards)
・「研究を止めても、声を奪うことはできない。これは正義ではない」(Edwards)
・「信頼を損ない、将来の研究協力を拒否する人が増える」(Littleton)
(7)全体としての意味
この一連の助成金打ち切りは、単に研究の中断にとどまらず、アメリカ社会の科学的・倫理的基盤の揺らぎを示している。特定の人種・ジェンダー・性的指向に基づく研究を「無駄」あるいは「非科学的」と断じる政権の姿勢は、公衆衛生の公平性と学問の自由に対する重大な脅威といえる。
【要点】
1. 助成金の打ち切り内容
・トランプ政権下のNIHが、進行中の複数の研究に対する助成金を突然打ち切り。
・対象は、LGBTQ+、アジア系、黒人、ヒスパニック系の若者や、性的暴力の被害者などを支援する研究。
・NIHの説明は「機関の優先事項に合致しない」という抽象的理由。
2. 打ち切られた研究の具体例
・アジア系家庭の銃暴力予防研究(Tsu-Yin Wu)
➡️アジア系社会における銃による自殺・事故・家庭内暴力リスクの分析。
・LGBTQ+若者への支援介入研究(Edwards, Littleton, Moxie)
➡️精神健康支援やデートDVの予防を目的とした介入プログラムの開発。
・➡️先住民の若者向け研究(Lisa Wexler)
自殺予防の実践研究。過去に高い効果を挙げていた。
3. 打ち切りの政治的背景
・トランプ政権は、DEI(多様性・公平性・包摂)政策に反対。
・NIHは研究に対して「ジェンダー・アイデンティティに基づく調査は非科学的」との見解を示す。
・研究内容を事実上政治的・イデオロギー的理由で排除。
4. 研究現場への影響
・助成金の中断により、研究者やスタッフが解雇や再配置の危機に。
・研究対象コミュニティとの信頼関係が損なわれる。
・実施中の介入や臨床試験が中断・放棄される恐れ。
5. 批判と法的対応
・大学や研究者から「政治的検閲」「科学への介入」との非難が噴出。
・2025年4月、全米16州の司法長官がNIHを提訴。
・ACLUが原告団と共に憲法上の表現・学問の自由侵害として集団訴訟を提起。
6. 研究者のコメント
・「脆弱な若者が命を落とす可能性がある」(Katie Edwards)
・「研究を止めても、声は奪えない」(Edwards)
・「信頼を失い、将来の研究協力にも影響」(Littleton)
7. 社会的意味合い
・政治的介入による助成金停止は、科学的中立性の破壊。
・研究と公衆衛生政策の分離が困難になり、社会的弱者への支援が後退。
・米国内での学問の自由の後退と差別的政策の正当化につながる恐れ。
【引用・参照・底本】
“Youth Are Going to Die Because of This”: Trump Defunds Violence Prevention truthout 2025.04.12
https://truthout.org/articles/youth-are-going-to-die-because-of-this-trump-defunds-violence-prevention/?utm_source=Truthout&utm_campaign=4d7d2e2492-EMAIL_CAMPAIGN_2025_04_12_05_07&utm_medium=email&utm_term=0_bbb541a1db-4d7d2e2492-653696056
米国が安全な資金避難先としての地位を失いつつある ― 2025年04月13日 11:58
【概要】
2025年4月12日、FRANCE 24は、米国債市場における異常な動きについて報じた。通常、経済の不安定期には安全資産とされる米国債が買われる傾向にあるが、今回は逆に売却が進んでおり、専門家らは懸念を示している。
米国債とは、米国政府が財政赤字を補うために発行する債券であり、通常は安定した投資先とされる。しかし、最近では利回りが上昇しているにもかかわらず、買い手が集まっていない。この現象について、米国が安全な資金避難先としての地位を失いつつあるのではないかという見方が一部で浮上している。
ペン・ミューチュアル・アセット・マネジメントのファンドマネージャー、ジョージ・チポローニ氏は、米国債市場の安定性が揺らいでいることに言及し、懸念を示した。また、この動きは、消費者ローンや住宅ローンの金利上昇、企業の資金調達コスト増加にも波及し得るとされている。
10年物米国債の利回りは、前週の4.01%から一時4.58%まで上昇し、現在は4.50%前後となっている。通常、株価下落時に米国債が買われて利回りが下がるという市場の基本原理(Econ 101)が通用しない状況に、投資家らは困惑している。
この背景には、トランプ大統領の通商政策や予測困難な発言が投資家の信頼を揺るがせているという見方もある。トランプ氏は、今週の関税一時停止の決定が投資家の反応を受けてのものであることを示唆した。一方で、エバーコアISIのアナリストらは、信頼の回復には一時的な関税撤回だけでは不十分である可能性を指摘している。
米財務長官スコット・ベセント氏は、今回の利回り上昇を、過剰な借り入れを行っていた投資家の「正常なデレバレッジ」と位置付け、数年ごとに起きる事象であると述べた。
過去には、2009年の金融危機などでも米国が問題の発信地であったにもかかわらず、米国債は「流動性」「安定性」「売買の容易さ」から資金避難先として選ばれてきた。今回、そのような傾向が見られない点が注目されている。
他の要因としては、中国が保有米国債を売却している可能性、あるいは一部ヘッジファンドの戦略(ベーシストレード)の失敗による売却などが挙げられているが、確定的な説明はなされていない。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのチーフ・ストラテジスト、マイク・アローン氏は、米国の国際的信頼性の低下も一因と指摘している。
とはいえ、ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのブライアン・レーリング氏は、今後の動向は不確定であり、売りが早期に収束する可能性にも言及した。また、米国債に代わる流動性の高い債券が現時点では存在しないと述べた。
【詳細】
1. 概要:米国債の売却とその影響
2025年4月中旬、投資家が米国債(Treasury bonds)を大量に売却しており、これは通常安全資産と見なされてきた米国への信頼が揺らいでいる可能性を示唆する現象とされている。これにより、米国市場、ひいては経済全体への影響が懸念されている。
2. 米国債の役割と異変の意味
米国債とは、米国政府が発行する借用証書のことであり、国の支出が税収を上回る際の資金調達手段である。通常、世界的な経済不安があるときには、投資家は米国債に資金を避難させる(買いに走る)傾向にあるが、今回はその逆で、金利(利回り)が上昇しているにもかかわらず投資家が米国債を売却している点が注目されている。
3. 金利上昇と市場の動揺
10年物米国債の利回り(市場でのリスクの指標ともなる)が一時4.58%まで上昇した。これは1週間前の4.01%からの急上昇であり、通常は100分の数ポイント(ベーシス・ポイント)単位で動く債券市場としては異例の変動である。
このような利回りの上昇は、債券価格の下落を意味し、住宅ローンや自動車ローンなど、一般消費者の借入コストの上昇にもつながる。
4. 投資家の不安と背景にある要素
複数の市場関係者が、今回の売却は米国の信頼性や安定性に対する不安の表れであると指摘している。背景には以下のような要素があるとされる:
消費者のインフレ期待の悪化
最新の調査によると、米国消費者の間でインフレが今後加速するとの見方が広がっており、これが金利上昇(=債券売り)の一因となっている。
トランプ政権の政策不安
関税政策の変動や、予測不可能な外交・経済対応が、市場の信頼を損ねている可能性があるとされている。トランプ大統領は4月上旬に関税措置を90日間一時停止したが、これは市場安定化を狙ったものであったと報じられている。
米国が「安全資産」としての地位を失いつつあるとの懸念
Penn Mutual Asset Managementのファンドマネージャーであるジョージ・チポローニ氏は、「米国が安全な避難先としての地位を失いつつある」と指摘している。
5. 専門家による見解
いくつかの専門家は、債券市場の急変について明確な原因を断定するのは困難としている。債券市場は本来、株式市場と逆に動く(株が下がると債券は買われる)性質があるが、今回はそれが機能していない。
また、英国の元首相リズ・トラスの退陣(2022年)も、債券市場の反応がきっかけであったことに触れ、債券市場の影響力の大きさが再認識されている。
6. 他の可能性として挙げられる要因
中国による米国債売却説
一部では、中国が米国との対立に対応して米国債を売却している可能性があるとの観測もあるが、実際にはそれが人民元高や輸出競争力の低下を招くため、経済的合理性には乏しいとされている。
ヘッジファンドの“ベーシストレード”失敗
一部のヘッジファンドが、米国債を使ったレバレッジ取引(ベーシストレード)に失敗し、強制的に資産を売却している可能性がある。これにより、債券が大量に市場に流れ、利回り上昇につながったと指摘されている。
7. 政府の対応と発言
財務長官スコット・ベッセントの説明
財務長官は今回の債券売却を「数年に一度起こる正常なレバレッジ解消(deleveraging)」であり、過度に心配する必要はないと述べた。
トランプ大統領の発言
トランプ大統領は、債券市場の一時的な不安は自らの対応で解決したとし、「私はこの手のことに非常に長けている」と自信を示した。また、今回の関税措置の一時停止は、投資家の不安に対応するための判断であったことを認めている。
8. 今後の見通しと不確実性
Wells Fargoのブライアン・レーリング氏は、「今はまだ売却が一時的なものか、根本的な信頼の失墜なのか判断がつかない」としており、債券市場の反応が一時的である可能性も示唆している。
また、「米国債以外に同等の流動性と安全性を持つ債券は存在しない」とも述べており、長期的には再び米国債への信頼が回復する余地があることを示唆している。
【要点】
米国債売却の現象と背景
・米国債が2025年4月に大量に売却され、利回り(10年債で一時4.58%)が急上昇した。
・通常、安全資産とされる米国債が売られるのは異例であり、市場に不安を与えた。
・債券価格の下落は、住宅ローンやその他の借入金利の上昇に波及する。
投資家の不安の主な原因
・インフレ懸念の再燃
消費者のインフレ期待が高まり、金利上昇への圧力が強まっている。
・トランプ前大統領の政策リスク
関税の突然の見直しなど、予測不能な経済政策が不信感を誘発している。
・「安全な避難先」としての米国への信頼低下
一部の投資家は、米国がかつてほど安全な投資先でないと見ている。
市場関係者・専門家の見解
・原因の特定が難しい
通常のパターン(株下落で債券が買われる)が崩れており、明確な説明が困難。
・市場の過剰反応の可能性
一時的な売り圧力であり、長期的なトレンドとは限らないとの見方もある。
・債券市場の影響力の大きさ
過去に英首相が退陣に追い込まれた例もあり、無視できない動きである。
代替的な説明・仮説
・中国による売却説
地政学的緊張により中国が米国債を売却した可能性があるが、輸出面で不利なため合理性は薄い。
・ヘッジファンドの損失拡大
“ベーシストレード”というレバレッジ取引が破綻し、大量売却を引き起こした可能性がある。
政府の対応と発言
・財務長官ベッセントの説明
「数年に一度のレバレッジ解消であり、深刻視する必要はない」と発言。
・トランプ氏の自己評価
「この種の不安定性は自分の対応で解決した」「私はこの分野に強い」と主張。
今後の展望と不確実性
・市場の反応が一時的かどうか不明
信頼低下か、一過性の現象かはまだ判断できない。
・米国債の代替資産が存在しない
安全性と流動性の両面で米国債に代わる資産はないとの意見も。
【参考】
☞ ベーシストレード
「ベーシストレード(basis trade)」とは、債券市場でよく使われる裁定取引(アービトラージ)の一種であり、現物の国債と先物の価格差(ベーシス)を利用して利益を狙う手法である。
1.ベーシストレードの基本的な仕組み
・「ベーシス」=国債先物価格 − 現物国債価格(調整済)
先物と現物の価格に差があるとき、その差を収益機会と見なす。
・戦略内容
(1)利回りの高い現物の国債を買う
(2)同じ満期の先物を空売りする
・価格差が解消される(例:先物が下落・現物が上昇)ときに両方を決済して利益を得る。
・資金効率のためにレバレッジ(借金)をかけて行う
数十倍のレバレッジをかけることもある。
2.なぜこの取引が存在するのか?
・通常、先物価格と現物価格は時間とともに一致(収束)していく性質があるため、
理論上は「確実に利益が得られる取引」として人気。
・特に米国債市場のような流動性が高く、大規模な市場で頻繁に行われる。
3.ベーシストレードのリスク
・相場が理論通りに動かない場合、損失が拡大する
例えば、国債が急落しても先物がそれほど下がらない場合、ポジションが逆ざやになる。
・金利の急騰や政策変更の影響を受けやすい
特に最近のような金利上昇局面では、想定以上の価格変動が起きる。
・レバレッジのせいで損失が一気に膨らむ可能性
損失拡大により、ポジションの強制清算(マージンコール)が起きることもある。
4.現在の米国債市場との関連
・最近の米国債売りが「ベーシストレードの巻き戻し(レバレッジ解消)」によって引き起こされた可能性が指摘されている。
・一部のファンドが大規模なポジションを持っていた場合、損失の連鎖で雪崩的な売却(fire sale)が起きる。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Investors dump US government bonds as faith in America falters FRANCE24 2025.04.12
https://www.france24.com/en/business/20250412-investors-dump-us-government-bonds-faith-america-falters-tariffs-trump?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-info-en&utm_email_send_date=%2020250412&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D
2025年4月12日、FRANCE 24は、米国債市場における異常な動きについて報じた。通常、経済の不安定期には安全資産とされる米国債が買われる傾向にあるが、今回は逆に売却が進んでおり、専門家らは懸念を示している。
米国債とは、米国政府が財政赤字を補うために発行する債券であり、通常は安定した投資先とされる。しかし、最近では利回りが上昇しているにもかかわらず、買い手が集まっていない。この現象について、米国が安全な資金避難先としての地位を失いつつあるのではないかという見方が一部で浮上している。
ペン・ミューチュアル・アセット・マネジメントのファンドマネージャー、ジョージ・チポローニ氏は、米国債市場の安定性が揺らいでいることに言及し、懸念を示した。また、この動きは、消費者ローンや住宅ローンの金利上昇、企業の資金調達コスト増加にも波及し得るとされている。
10年物米国債の利回りは、前週の4.01%から一時4.58%まで上昇し、現在は4.50%前後となっている。通常、株価下落時に米国債が買われて利回りが下がるという市場の基本原理(Econ 101)が通用しない状況に、投資家らは困惑している。
この背景には、トランプ大統領の通商政策や予測困難な発言が投資家の信頼を揺るがせているという見方もある。トランプ氏は、今週の関税一時停止の決定が投資家の反応を受けてのものであることを示唆した。一方で、エバーコアISIのアナリストらは、信頼の回復には一時的な関税撤回だけでは不十分である可能性を指摘している。
米財務長官スコット・ベセント氏は、今回の利回り上昇を、過剰な借り入れを行っていた投資家の「正常なデレバレッジ」と位置付け、数年ごとに起きる事象であると述べた。
過去には、2009年の金融危機などでも米国が問題の発信地であったにもかかわらず、米国債は「流動性」「安定性」「売買の容易さ」から資金避難先として選ばれてきた。今回、そのような傾向が見られない点が注目されている。
他の要因としては、中国が保有米国債を売却している可能性、あるいは一部ヘッジファンドの戦略(ベーシストレード)の失敗による売却などが挙げられているが、確定的な説明はなされていない。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのチーフ・ストラテジスト、マイク・アローン氏は、米国の国際的信頼性の低下も一因と指摘している。
とはいえ、ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのブライアン・レーリング氏は、今後の動向は不確定であり、売りが早期に収束する可能性にも言及した。また、米国債に代わる流動性の高い債券が現時点では存在しないと述べた。
【詳細】
1. 概要:米国債の売却とその影響
2025年4月中旬、投資家が米国債(Treasury bonds)を大量に売却しており、これは通常安全資産と見なされてきた米国への信頼が揺らいでいる可能性を示唆する現象とされている。これにより、米国市場、ひいては経済全体への影響が懸念されている。
2. 米国債の役割と異変の意味
米国債とは、米国政府が発行する借用証書のことであり、国の支出が税収を上回る際の資金調達手段である。通常、世界的な経済不安があるときには、投資家は米国債に資金を避難させる(買いに走る)傾向にあるが、今回はその逆で、金利(利回り)が上昇しているにもかかわらず投資家が米国債を売却している点が注目されている。
3. 金利上昇と市場の動揺
10年物米国債の利回り(市場でのリスクの指標ともなる)が一時4.58%まで上昇した。これは1週間前の4.01%からの急上昇であり、通常は100分の数ポイント(ベーシス・ポイント)単位で動く債券市場としては異例の変動である。
このような利回りの上昇は、債券価格の下落を意味し、住宅ローンや自動車ローンなど、一般消費者の借入コストの上昇にもつながる。
4. 投資家の不安と背景にある要素
複数の市場関係者が、今回の売却は米国の信頼性や安定性に対する不安の表れであると指摘している。背景には以下のような要素があるとされる:
消費者のインフレ期待の悪化
最新の調査によると、米国消費者の間でインフレが今後加速するとの見方が広がっており、これが金利上昇(=債券売り)の一因となっている。
トランプ政権の政策不安
関税政策の変動や、予測不可能な外交・経済対応が、市場の信頼を損ねている可能性があるとされている。トランプ大統領は4月上旬に関税措置を90日間一時停止したが、これは市場安定化を狙ったものであったと報じられている。
米国が「安全資産」としての地位を失いつつあるとの懸念
Penn Mutual Asset Managementのファンドマネージャーであるジョージ・チポローニ氏は、「米国が安全な避難先としての地位を失いつつある」と指摘している。
5. 専門家による見解
いくつかの専門家は、債券市場の急変について明確な原因を断定するのは困難としている。債券市場は本来、株式市場と逆に動く(株が下がると債券は買われる)性質があるが、今回はそれが機能していない。
また、英国の元首相リズ・トラスの退陣(2022年)も、債券市場の反応がきっかけであったことに触れ、債券市場の影響力の大きさが再認識されている。
6. 他の可能性として挙げられる要因
中国による米国債売却説
一部では、中国が米国との対立に対応して米国債を売却している可能性があるとの観測もあるが、実際にはそれが人民元高や輸出競争力の低下を招くため、経済的合理性には乏しいとされている。
ヘッジファンドの“ベーシストレード”失敗
一部のヘッジファンドが、米国債を使ったレバレッジ取引(ベーシストレード)に失敗し、強制的に資産を売却している可能性がある。これにより、債券が大量に市場に流れ、利回り上昇につながったと指摘されている。
7. 政府の対応と発言
財務長官スコット・ベッセントの説明
財務長官は今回の債券売却を「数年に一度起こる正常なレバレッジ解消(deleveraging)」であり、過度に心配する必要はないと述べた。
トランプ大統領の発言
トランプ大統領は、債券市場の一時的な不安は自らの対応で解決したとし、「私はこの手のことに非常に長けている」と自信を示した。また、今回の関税措置の一時停止は、投資家の不安に対応するための判断であったことを認めている。
8. 今後の見通しと不確実性
Wells Fargoのブライアン・レーリング氏は、「今はまだ売却が一時的なものか、根本的な信頼の失墜なのか判断がつかない」としており、債券市場の反応が一時的である可能性も示唆している。
また、「米国債以外に同等の流動性と安全性を持つ債券は存在しない」とも述べており、長期的には再び米国債への信頼が回復する余地があることを示唆している。
【要点】
米国債売却の現象と背景
・米国債が2025年4月に大量に売却され、利回り(10年債で一時4.58%)が急上昇した。
・通常、安全資産とされる米国債が売られるのは異例であり、市場に不安を与えた。
・債券価格の下落は、住宅ローンやその他の借入金利の上昇に波及する。
投資家の不安の主な原因
・インフレ懸念の再燃
消費者のインフレ期待が高まり、金利上昇への圧力が強まっている。
・トランプ前大統領の政策リスク
関税の突然の見直しなど、予測不能な経済政策が不信感を誘発している。
・「安全な避難先」としての米国への信頼低下
一部の投資家は、米国がかつてほど安全な投資先でないと見ている。
市場関係者・専門家の見解
・原因の特定が難しい
通常のパターン(株下落で債券が買われる)が崩れており、明確な説明が困難。
・市場の過剰反応の可能性
一時的な売り圧力であり、長期的なトレンドとは限らないとの見方もある。
・債券市場の影響力の大きさ
過去に英首相が退陣に追い込まれた例もあり、無視できない動きである。
代替的な説明・仮説
・中国による売却説
地政学的緊張により中国が米国債を売却した可能性があるが、輸出面で不利なため合理性は薄い。
・ヘッジファンドの損失拡大
“ベーシストレード”というレバレッジ取引が破綻し、大量売却を引き起こした可能性がある。
政府の対応と発言
・財務長官ベッセントの説明
「数年に一度のレバレッジ解消であり、深刻視する必要はない」と発言。
・トランプ氏の自己評価
「この種の不安定性は自分の対応で解決した」「私はこの分野に強い」と主張。
今後の展望と不確実性
・市場の反応が一時的かどうか不明
信頼低下か、一過性の現象かはまだ判断できない。
・米国債の代替資産が存在しない
安全性と流動性の両面で米国債に代わる資産はないとの意見も。
【参考】
☞ ベーシストレード
「ベーシストレード(basis trade)」とは、債券市場でよく使われる裁定取引(アービトラージ)の一種であり、現物の国債と先物の価格差(ベーシス)を利用して利益を狙う手法である。
1.ベーシストレードの基本的な仕組み
・「ベーシス」=国債先物価格 − 現物国債価格(調整済)
先物と現物の価格に差があるとき、その差を収益機会と見なす。
・戦略内容
(1)利回りの高い現物の国債を買う
(2)同じ満期の先物を空売りする
・価格差が解消される(例:先物が下落・現物が上昇)ときに両方を決済して利益を得る。
・資金効率のためにレバレッジ(借金)をかけて行う
数十倍のレバレッジをかけることもある。
2.なぜこの取引が存在するのか?
・通常、先物価格と現物価格は時間とともに一致(収束)していく性質があるため、
理論上は「確実に利益が得られる取引」として人気。
・特に米国債市場のような流動性が高く、大規模な市場で頻繁に行われる。
3.ベーシストレードのリスク
・相場が理論通りに動かない場合、損失が拡大する
例えば、国債が急落しても先物がそれほど下がらない場合、ポジションが逆ざやになる。
・金利の急騰や政策変更の影響を受けやすい
特に最近のような金利上昇局面では、想定以上の価格変動が起きる。
・レバレッジのせいで損失が一気に膨らむ可能性
損失拡大により、ポジションの強制清算(マージンコール)が起きることもある。
4.現在の米国債市場との関連
・最近の米国債売りが「ベーシストレードの巻き戻し(レバレッジ解消)」によって引き起こされた可能性が指摘されている。
・一部のファンドが大規模なポジションを持っていた場合、損失の連鎖で雪崩的な売却(fire sale)が起きる。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Investors dump US government bonds as faith in America falters FRANCE24 2025.04.12
https://www.france24.com/en/business/20250412-investors-dump-us-government-bonds-faith-america-falters-tariffs-trump?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-info-en&utm_email_send_date=%2020250412&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D
トランプの政策:従来型の帝国主義の更新版 ― 2025年04月13日 13:10
【概要】
トランプが反帝国主義者であるという見方を否定し、「帝国の継続」としての彼の政策を取り上げている。以下はその主な内容である。
中東政策
・トランプ政権は、イランが中東での紛争を助長し、核計画を継続し、「テロリストの代理勢力」を支援しているとして、イラン産原油を購入する者に対して制裁を強化している。
・こうした言説は、オバマ政権やバイデン政権時代の表現と類似しており、対イラン政策において連続性があるとされる。
・トランプは、フーシ派をイランの代理と位置付け、紅海・アデン湾での攻撃に対し、イエメンの首都サヌアを空爆。これにより多数の死傷者が出たと報告されている。
・イエメンでの米軍の軍事行動は、2002年のブッシュ政権によるドローン攻撃に始まり、オバマ政権下(2009–2016年)で159回以上のドローン攻撃、トランプ政権初年(2017年)には127回の攻撃が行われた。
・トランプによる初期の軍事行動には、2017年の特殊部隊による襲撃があり、子供9人が死亡したと記されている。
・フーシ派の蜂起は、2004年に始まり、アメリカの介入がその一因であるとする見解が引用されている。
シリア政策
・トランプはシリアからの米軍撤退を表明したが、記事執筆時点では実現しておらず、かつての発言「石油を守るために駐留している」と矛盾していると指摘されている。
北極圏とカナダ
・北極圏にはアメリカを含むNATO諸国とロシアの領土が含まれており、米国はロシア・中国の影響拡大を警戒。
・アラスカのクリア宇宙軍基地では米・カナダの兵員がミサイル監視を行っている。
・カナダは「ファイブ・アイズ」加盟国であり、米国と共に世界的な情報収集に関与している。
・2023年、バイデン政権はカナダと宇宙協力覚書を締結。これにより米国の「宇宙での行動の自由」を推進。
・トランプはカナダを「第51番目の州」と呼び、関税を使って圧力をかけているとされる。
・同年、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンは防衛協力協定を米国と締結し、計36の軍事施設への米軍アクセスを提供。
・氷床の融解によって資源や航路の確保をめぐる競争が活発化しており、米国は「戦略的競争の場」として北極を重要視している。
グリーンランドとディエゴ・ガルシア
・トランプは第1期中にグリーンランド購入を提案し、現在は武力による確保も排除していない。
・グリーンランドには、米国のピトゥフィク宇宙基地があり、衛星通信の中継拠点となっている。
・米軍はインド洋のディエゴ・ガルシア島を使用しており、そこから中東・中央アジアへの爆撃やテロ容疑者の拘束が行われている。島は1960年代に英政府がチャゴス諸島民を追放して設立された軍事拠点である。
結論
・トランプ政権はベラルーシやハンガリーとの外交関係を再構築しつつあり、これを経済協力に繋げようとしている。
・トランプ系メディア企業は、ボルソナロ元大統領をめぐる訴訟でブラジルの司法に圧力をかけているとされる。
・トランプがガザの占領やイランへの空爆を示唆する一方、米軍は核兵器搭載可能なB-2爆撃機をチャゴス諸島の基地に配備していると報じられている。
【詳細】
ドナルド・トランプが「反帝国主義者」であるとする一部の主張に対し、その実態は帝国主義的政策の継続または強化であるとする実例を、多地域にわたって挙げている。特に中東、シリア、北極圏、そしてカナダとの関係を取り上げ、米国の軍事的・経済的影響力の維持と拡張が続いていることを論じている。
中東における政策
イランへの制裁
トランプ政権は、イランの石油を購入する者への制裁を強化した。その理由として「イランが中東の紛争を煽り、核計画を継続し、テロ代理勢力を支援している」としている。この表現は、オバマ政権時代の2010年やバイデン政権の発言とほぼ同様であり、政権が変わってもイランに対する基本的な認識と対応が継続されている。
イエメンのフーシ派攻撃
トランプ政権は、紅海やアデン湾でのフーシ派による船舶攻撃に対し、空爆によって報復。イエメンの首都サヌアを爆撃し、多数の死傷者が出たとされる。この記事では、これを「帝国的連続性」の一例と位置づけている。
米国は2002年にブッシュ政権下でドローンによるイエメン空爆を開始。オバマ政権下では少なくとも159回の空爆が行われた。2017年には、トランプ政権のもとで127回の空爆があったとされている。特に2017年の特殊部隊による作戦では、13歳未満の子ども9人が死亡したとされる。
フーシ派の反乱(2004年に開始)は、米国の軍事行動への反発も一因とされている。
シリアにおける占領と石油利権
トランプは米軍2,000人の撤退を表明しているが、実際には撤退が行われておらず、過去には「石油を確保するために米軍が駐留する」と明言していた。この記事では、米国がシリアを占領しているという認識のもと、「動機の正直さは評価できる」とも示されている。
北極圏における戦略的支配
北極圏の構成国とNATOの存在
北極圏には、アラスカ(米国)、カナダ、フィンランド、グリーンランド(デンマーク領)、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、ロシアが含まれる。その大半がNATO加盟国であり、米国の影響力が強い地域である。
アラスカとカナダ
アラスカには、ICBM監視を行う「クリア宇宙軍基地」があり、カナダ軍人も勤務している。カナダは「ファイブ・アイズ」と呼ばれる米国主導の国際監視ネットワークの一角である。2023年には宇宙協力に関する覚書を米加両国が締結し、米国の宇宙空間での「行動の自由」を支援する体制が強化された。
トランプは、関税政策を武器にしつつ、カナダを「51番目の州」と呼び、併合をほのめかす発言をしている。
北欧諸国およびグリーンランド
2023年には、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンが米国と個別の防衛協力協定を締結。合計36の新たな基地へのアクセスが米軍に認められた。同年、核搭載可能なB-2爆撃機がアイスランドのケフラヴィーク空軍基地に着陸した。
グリーンランドには、米国の「ピトゥフィク宇宙基地」が存在し、極軌道衛星との通信を1日10〜12回行っている。この基地は、米軍の「全領域支配(Full Spectrum Dominance)」戦略の一環として機能している。
北極の資源と戦略的価値
気候変動により氷床や永久凍土が融解し、石油・ガス・鉱物資源の探査や航路の利用が可能になっている。このため、米国は北極圏を「戦略的競争の場」と見なし、ロシアや中国による資源開発を阻止しようとしている。
ベラルーシ、ハンガリー、ブラジルとの関係
トランプ政権下で、米国は「ヨーロッパ最後の独裁国家」とされるベラルーシとの外交関係を再構築し、ハンガリーとも経済協力に向けた関係改善を進めている。また、トランプのメディア会社が、ブラジルの元大統領ジャイール・ボルソナロを擁護するような目的で、同国の判事を提訴している。
ディエゴ・ガルシアと「帝国の縮図」
米国はインド洋のディエゴ・ガルシア島に基地を持ち、中東・中央アジアへの空爆や、テロ容疑者の拘束・拷問などに用いている。1960年代、イギリスがこの島の住民(チャゴス人)を追放し、米軍基地の建設を可能にした。現在もチャゴス人たちは平和的に権利回復を求めて闘っている。
結論
トランプが「永遠の戦争」に反対しているという主張は、過去の事例から見て成立しない。むしろ、前政権からの帝国主義政策が継続されており、世界各地における軍事的・経済的支配の形を変えながら展開しているというのが、提示された事実の集積である。
【要点】
中東地域における政策
(1)イラン制裁の継続強化
・トランプ政権はイランの石油を購入する第三国に対しても制裁を実施。
・理由は「イランが中東の紛争を煽り、核開発を継続し、テロ代理勢力を支援している」とされた。
・この主張は、オバマ政権およびバイデン政権の見解とほぼ同様である。
(2)イエメン空爆の継続
・フーシ派が紅海やアデン湾で商船を攻撃したことを理由に、米軍は空爆で報復。
・イエメンの首都サヌアを爆撃し、民間人死傷者が出た。
・米国によるイエメン空爆は2002年に始まり、オバマ政権時代には159回、トランプ政権下では2017年だけで127回に達した。
・2017年の特殊部隊による地上作戦では子供9人を含む死者が出た。
・フーシ派の反乱の原因の一部は、米国の空爆にあるとされる。
シリアにおける軍事占領と資源支配
(1)軍撤退発言と実態の乖離
・トランプはシリアから米軍2,000人の撤退を発表したが、実際には撤退されなかった。
・石油利権のための駐留であることを明言し、「我々は石油を確保した」と語った。
・シリアにおける米軍の行動は、帝国的支配の継続例である。
北極圏における支配拡大
(1)北極圏のNATO化と米軍基地拡大
・北極圏8か国中7か国がNATOと米軍と連携。
・フィンランド、スウェーデン、ノルウェーは2023年に米国と軍事協定を締結し、合計36の基地へのアクセスを米軍に許可。
・アイスランドにはB-2戦略爆撃機が着陸。米軍の活動領域が北極全域に広がる。
(2)アラスカとカナダの連携強化
・アラスカの宇宙軍基地にはICBM探知機能があり、カナダ軍人も勤務。
・カナダはファイブ・アイズの一員として、情報共有・宇宙軍事連携を実施。
・2023年に宇宙協力覚書を締結し、米国の宇宙での自由な行動を支援。
・トランプはカナダを「51番目の州」と揶揄し、併合を暗示する発言も行った。
(3)グリーンランドの戦略的重要性
・米国はグリーンランドにあるピトゥフィク宇宙基地を使用。
・この基地は極軌道衛星との通信を担い、グローバルな軍事支配戦略(全領域支配)に貢献。
・トランプはグリーンランド買収を持ちかけた経緯がある。
(4)気候変動と資源競争
・氷床・永久凍土の融解により、北極の資源開発と新航路の利用が可能に。
・米国はこの地域を「戦略的競争の場」と定義し、ロシア・中国の進出阻止を狙う。
その他の国々との関係
・ベラルーシとの関係修復
米国は長年制裁対象であったベラルーシとの外交関係を再構築。
・ハンガリーとの接近
ハンガリーと経済的・軍事的な関係を強化。
・ブラジルへの影響力行使
トランプのメディア会社がブラジルの裁判官を提訴し、ジャイール・ボルソナロ擁護を試みた。
ディエゴ・ガルシア:帝国の縮図
・戦略的軍事基地の歴史と役割
⇨ ディエゴ・ガルシア島は英国がチャゴス人を追放して建設した米軍基地である。
⇨ 中東・中央アジアへの空爆、囚人の移送・拘束・拷問に使用された。
⇨ 現地住民は今なお平和的に権利回復を求めて活動中。
結論
・トランプは「永遠の戦争」を終わらせると主張したが、実際には軍事的・経済的影響力の拡大を継続。
・その政策は、単なる「反グローバリズム」や「孤立主義」ではなく、むしろ従来型の帝国主義の更新版であると解釈され得る。
・米国の支配戦略は、表現や手段を変えながらも世界規模で展開されている。
【引用・参照・底本】
Trump’s Anti-Imperial Imperialism COUNTERPUNCH 2025.04.06
https://www.counterpunch.org/2025/04/06/trumps-anti-imperial-imperialism/
トランプが反帝国主義者であるという見方を否定し、「帝国の継続」としての彼の政策を取り上げている。以下はその主な内容である。
中東政策
・トランプ政権は、イランが中東での紛争を助長し、核計画を継続し、「テロリストの代理勢力」を支援しているとして、イラン産原油を購入する者に対して制裁を強化している。
・こうした言説は、オバマ政権やバイデン政権時代の表現と類似しており、対イラン政策において連続性があるとされる。
・トランプは、フーシ派をイランの代理と位置付け、紅海・アデン湾での攻撃に対し、イエメンの首都サヌアを空爆。これにより多数の死傷者が出たと報告されている。
・イエメンでの米軍の軍事行動は、2002年のブッシュ政権によるドローン攻撃に始まり、オバマ政権下(2009–2016年)で159回以上のドローン攻撃、トランプ政権初年(2017年)には127回の攻撃が行われた。
・トランプによる初期の軍事行動には、2017年の特殊部隊による襲撃があり、子供9人が死亡したと記されている。
・フーシ派の蜂起は、2004年に始まり、アメリカの介入がその一因であるとする見解が引用されている。
シリア政策
・トランプはシリアからの米軍撤退を表明したが、記事執筆時点では実現しておらず、かつての発言「石油を守るために駐留している」と矛盾していると指摘されている。
北極圏とカナダ
・北極圏にはアメリカを含むNATO諸国とロシアの領土が含まれており、米国はロシア・中国の影響拡大を警戒。
・アラスカのクリア宇宙軍基地では米・カナダの兵員がミサイル監視を行っている。
・カナダは「ファイブ・アイズ」加盟国であり、米国と共に世界的な情報収集に関与している。
・2023年、バイデン政権はカナダと宇宙協力覚書を締結。これにより米国の「宇宙での行動の自由」を推進。
・トランプはカナダを「第51番目の州」と呼び、関税を使って圧力をかけているとされる。
・同年、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンは防衛協力協定を米国と締結し、計36の軍事施設への米軍アクセスを提供。
・氷床の融解によって資源や航路の確保をめぐる競争が活発化しており、米国は「戦略的競争の場」として北極を重要視している。
グリーンランドとディエゴ・ガルシア
・トランプは第1期中にグリーンランド購入を提案し、現在は武力による確保も排除していない。
・グリーンランドには、米国のピトゥフィク宇宙基地があり、衛星通信の中継拠点となっている。
・米軍はインド洋のディエゴ・ガルシア島を使用しており、そこから中東・中央アジアへの爆撃やテロ容疑者の拘束が行われている。島は1960年代に英政府がチャゴス諸島民を追放して設立された軍事拠点である。
結論
・トランプ政権はベラルーシやハンガリーとの外交関係を再構築しつつあり、これを経済協力に繋げようとしている。
・トランプ系メディア企業は、ボルソナロ元大統領をめぐる訴訟でブラジルの司法に圧力をかけているとされる。
・トランプがガザの占領やイランへの空爆を示唆する一方、米軍は核兵器搭載可能なB-2爆撃機をチャゴス諸島の基地に配備していると報じられている。
【詳細】
ドナルド・トランプが「反帝国主義者」であるとする一部の主張に対し、その実態は帝国主義的政策の継続または強化であるとする実例を、多地域にわたって挙げている。特に中東、シリア、北極圏、そしてカナダとの関係を取り上げ、米国の軍事的・経済的影響力の維持と拡張が続いていることを論じている。
中東における政策
イランへの制裁
トランプ政権は、イランの石油を購入する者への制裁を強化した。その理由として「イランが中東の紛争を煽り、核計画を継続し、テロ代理勢力を支援している」としている。この表現は、オバマ政権時代の2010年やバイデン政権の発言とほぼ同様であり、政権が変わってもイランに対する基本的な認識と対応が継続されている。
イエメンのフーシ派攻撃
トランプ政権は、紅海やアデン湾でのフーシ派による船舶攻撃に対し、空爆によって報復。イエメンの首都サヌアを爆撃し、多数の死傷者が出たとされる。この記事では、これを「帝国的連続性」の一例と位置づけている。
米国は2002年にブッシュ政権下でドローンによるイエメン空爆を開始。オバマ政権下では少なくとも159回の空爆が行われた。2017年には、トランプ政権のもとで127回の空爆があったとされている。特に2017年の特殊部隊による作戦では、13歳未満の子ども9人が死亡したとされる。
フーシ派の反乱(2004年に開始)は、米国の軍事行動への反発も一因とされている。
シリアにおける占領と石油利権
トランプは米軍2,000人の撤退を表明しているが、実際には撤退が行われておらず、過去には「石油を確保するために米軍が駐留する」と明言していた。この記事では、米国がシリアを占領しているという認識のもと、「動機の正直さは評価できる」とも示されている。
北極圏における戦略的支配
北極圏の構成国とNATOの存在
北極圏には、アラスカ(米国)、カナダ、フィンランド、グリーンランド(デンマーク領)、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、ロシアが含まれる。その大半がNATO加盟国であり、米国の影響力が強い地域である。
アラスカとカナダ
アラスカには、ICBM監視を行う「クリア宇宙軍基地」があり、カナダ軍人も勤務している。カナダは「ファイブ・アイズ」と呼ばれる米国主導の国際監視ネットワークの一角である。2023年には宇宙協力に関する覚書を米加両国が締結し、米国の宇宙空間での「行動の自由」を支援する体制が強化された。
トランプは、関税政策を武器にしつつ、カナダを「51番目の州」と呼び、併合をほのめかす発言をしている。
北欧諸国およびグリーンランド
2023年には、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンが米国と個別の防衛協力協定を締結。合計36の新たな基地へのアクセスが米軍に認められた。同年、核搭載可能なB-2爆撃機がアイスランドのケフラヴィーク空軍基地に着陸した。
グリーンランドには、米国の「ピトゥフィク宇宙基地」が存在し、極軌道衛星との通信を1日10〜12回行っている。この基地は、米軍の「全領域支配(Full Spectrum Dominance)」戦略の一環として機能している。
北極の資源と戦略的価値
気候変動により氷床や永久凍土が融解し、石油・ガス・鉱物資源の探査や航路の利用が可能になっている。このため、米国は北極圏を「戦略的競争の場」と見なし、ロシアや中国による資源開発を阻止しようとしている。
ベラルーシ、ハンガリー、ブラジルとの関係
トランプ政権下で、米国は「ヨーロッパ最後の独裁国家」とされるベラルーシとの外交関係を再構築し、ハンガリーとも経済協力に向けた関係改善を進めている。また、トランプのメディア会社が、ブラジルの元大統領ジャイール・ボルソナロを擁護するような目的で、同国の判事を提訴している。
ディエゴ・ガルシアと「帝国の縮図」
米国はインド洋のディエゴ・ガルシア島に基地を持ち、中東・中央アジアへの空爆や、テロ容疑者の拘束・拷問などに用いている。1960年代、イギリスがこの島の住民(チャゴス人)を追放し、米軍基地の建設を可能にした。現在もチャゴス人たちは平和的に権利回復を求めて闘っている。
結論
トランプが「永遠の戦争」に反対しているという主張は、過去の事例から見て成立しない。むしろ、前政権からの帝国主義政策が継続されており、世界各地における軍事的・経済的支配の形を変えながら展開しているというのが、提示された事実の集積である。
【要点】
中東地域における政策
(1)イラン制裁の継続強化
・トランプ政権はイランの石油を購入する第三国に対しても制裁を実施。
・理由は「イランが中東の紛争を煽り、核開発を継続し、テロ代理勢力を支援している」とされた。
・この主張は、オバマ政権およびバイデン政権の見解とほぼ同様である。
(2)イエメン空爆の継続
・フーシ派が紅海やアデン湾で商船を攻撃したことを理由に、米軍は空爆で報復。
・イエメンの首都サヌアを爆撃し、民間人死傷者が出た。
・米国によるイエメン空爆は2002年に始まり、オバマ政権時代には159回、トランプ政権下では2017年だけで127回に達した。
・2017年の特殊部隊による地上作戦では子供9人を含む死者が出た。
・フーシ派の反乱の原因の一部は、米国の空爆にあるとされる。
シリアにおける軍事占領と資源支配
(1)軍撤退発言と実態の乖離
・トランプはシリアから米軍2,000人の撤退を発表したが、実際には撤退されなかった。
・石油利権のための駐留であることを明言し、「我々は石油を確保した」と語った。
・シリアにおける米軍の行動は、帝国的支配の継続例である。
北極圏における支配拡大
(1)北極圏のNATO化と米軍基地拡大
・北極圏8か国中7か国がNATOと米軍と連携。
・フィンランド、スウェーデン、ノルウェーは2023年に米国と軍事協定を締結し、合計36の基地へのアクセスを米軍に許可。
・アイスランドにはB-2戦略爆撃機が着陸。米軍の活動領域が北極全域に広がる。
(2)アラスカとカナダの連携強化
・アラスカの宇宙軍基地にはICBM探知機能があり、カナダ軍人も勤務。
・カナダはファイブ・アイズの一員として、情報共有・宇宙軍事連携を実施。
・2023年に宇宙協力覚書を締結し、米国の宇宙での自由な行動を支援。
・トランプはカナダを「51番目の州」と揶揄し、併合を暗示する発言も行った。
(3)グリーンランドの戦略的重要性
・米国はグリーンランドにあるピトゥフィク宇宙基地を使用。
・この基地は極軌道衛星との通信を担い、グローバルな軍事支配戦略(全領域支配)に貢献。
・トランプはグリーンランド買収を持ちかけた経緯がある。
(4)気候変動と資源競争
・氷床・永久凍土の融解により、北極の資源開発と新航路の利用が可能に。
・米国はこの地域を「戦略的競争の場」と定義し、ロシア・中国の進出阻止を狙う。
その他の国々との関係
・ベラルーシとの関係修復
米国は長年制裁対象であったベラルーシとの外交関係を再構築。
・ハンガリーとの接近
ハンガリーと経済的・軍事的な関係を強化。
・ブラジルへの影響力行使
トランプのメディア会社がブラジルの裁判官を提訴し、ジャイール・ボルソナロ擁護を試みた。
ディエゴ・ガルシア:帝国の縮図
・戦略的軍事基地の歴史と役割
⇨ ディエゴ・ガルシア島は英国がチャゴス人を追放して建設した米軍基地である。
⇨ 中東・中央アジアへの空爆、囚人の移送・拘束・拷問に使用された。
⇨ 現地住民は今なお平和的に権利回復を求めて活動中。
結論
・トランプは「永遠の戦争」を終わらせると主張したが、実際には軍事的・経済的影響力の拡大を継続。
・その政策は、単なる「反グローバリズム」や「孤立主義」ではなく、むしろ従来型の帝国主義の更新版であると解釈され得る。
・米国の支配戦略は、表現や手段を変えながらも世界規模で展開されている。
【引用・参照・底本】
Trump’s Anti-Imperial Imperialism COUNTERPUNCH 2025.04.06
https://www.counterpunch.org/2025/04/06/trumps-anti-imperial-imperialism/
イスラエルとトルコ:「デコンフリクション・メカニズム(衝突回避の仕組み)」 ― 2025年04月13日 15:18
【概要】
イスラエルとトルコがシリアでの対立を回避するために検討している「デコンフリクション・メカニズム(衝突回避の仕組み)」の限界と、両国の地政学的対立の構造的背景を詳述したものである。
イスラエルとトルコは、先週アゼルバイジャンで会談し、シリアにおける偶発的な衝突を避けるためのメカニズム構築について協議したとされている。この仕組みは、2015年9月にイスラエルとロシアの間で合意された同様のメカニズムを想起させるものであるが、今回はより深刻な対立の下で検討されている点で異なる。
イスラエルは、旧ソ連時代以降のロシアを脅威とは見なしておらず、プーチン政権下でのイスラエル・ロシア関係は親密である。そのため、ロシアとのデコンフリクションは比較的容易であった。対照的に、トルコとの関係は、2023年10月7日の出来事以降に急激に悪化しており、両国は互いを直接的な脅威と見なしている。
トルコは、イスラエルのガザ侵攻を「ジェノサイド」と見なし、それが他のイスラム教徒に波及する可能性を懸念している。これに対して、イスラエルは、トルコがシリアの友好勢力を通じてハマスを支援し、同勢力がイスラエルの空爆からトルコの防空システムによって保護される可能性を警戒している。仮にそのような防空システムがトルコ軍ではなく、シリアの新政権によって運用される場合でも、イスラエルにとっては重大な懸念事項である。
また、トルコはシリアに地理的に接しており、イランよりも迅速かつ効果的に新政権やハマスを支援できる立場にある。これは、従来イスラエルがロシアとの調整で抑制してきた「抵抗の枢軸」との関係よりも、はるかに現実的かつ差し迫った脅威となっている。
イスラエルによるハマスへの空爆の際に、トルコ(あるいはその代理)がイスラエル機を撃墜する事態が起これば、地域全体を巻き込む危機へと発展しかねない。こうした事態を回避するための調整は重要であるが、アメリカがどちらの側につくかも不透明であり、万一の直接衝突は深刻な不確実性をはらんでいる。
このような緊張は、ハマスを巡る問題よりも、むしろシリアにおける覇権争いに起因している。イスラエルとトルコは、イランが退いた後のシリアで影響力を確保することを目指しているが、その方法は異なる。イスラエルは空爆の自由を維持し、ドルーズ人やクルド人を強化して、シリアを分権化しやすくしようとしている。一方、トルコは、軍事基地やハマスの駐留を通じて、中央集権的な国家を支援し、自らの影響力を具現化しようとしている。
両者は、イラン撤退後のシリアにおいて影響力を確保することが、自国の安全保障に不可欠であると考えており、この競争はゼロサムの性質を持つ。仮に一時的に、トルコが北部を、イスラエルが南部を実効支配するという形で妥協したとしても、イスラエルは北部におけるハマスの活動に不安を抱き、トルコはイスラエルの空爆能力を脅威と見なすため、こうした取り決めは持続可能性に乏しい。
特に、トルコがゴラン高原付近に秘密裏に防空システムを配備し、ハマスのイスラエル攻撃を支援する可能性もあり、地域危機の回避はあくまで一時的措置にとどまる可能性が高い。
このように、イスラエルとトルコの対立を本質的に緩和するには、デコンフリクション・メカニズムだけでは不十分であり、より包括的な外交的調整が必要である。ここで、シリア・ロシア・アメリカの三者が仲介者として果たせる可能性が指摘される。
イスラエルは、アサド政権崩壊後に破壊されたシリアの軍備を、ロシアの協力で再建させることには比較的寛容である。これは、ロシアを戦略的脅威とは見なしていないためである。イスラエルは、トルコの影響力を抑制する目的から、米国に対してシリアにおけるロシアの軍事プレゼンス維持を支持するよう働きかけている。
しかし、ダマスカスの新政権は、トルコによる14年に及ぶ支援の結果として成立したため、トルコへの信頼と忠誠心が強い。そのため、ロシアからの再軍備支援を受ける代わりにイスラエルの「制限」を受け入れることには消極的である。アメリカはこれに対して段階的な制裁解除というインセンティブを提示する可能性がある。
トルコもまた、シリア政権打倒に向けた長年の投資に見合う具体的な成果(軍事基地設置や空域の使用権)を要求する可能性が高く、これはイスラエルが阻止したい点である。米国はトルコに対しても、何らかの譲歩やインセンティブを提案するかもしれない。特にトランプ前大統領は、イスラエルとトルコの仲介役を申し出ており、何らかの妥協案を提示する可能性があるが、現時点ではその内容は不明である。
結論として、イスラエルとトルコの間で検討されている「デコンフリクション・メカニズム」は、表面的な衝突回避には寄与するかもしれないが、根本的な対立構造を解消するものではなく、地域の不安定化を抑えるには不十分であることを指摘している。最も効果的な解決策は、ロシアが一定の制約の下でシリアの軍備再建に関与し、イスラエルの安全保障懸念を緩和しつつ、トルコの影響力を牽制する形での三者協調であるとする。だが、これにはダマスカスとアンカラの協力が必要であり、トランプの仲介が成功しない限り、イスラエルとトルコの衝突は時間の問題ともなり得る。
【詳細】
2025年4月上旬、イスラエルとトルコはアゼルバイジャンにおいて、シリアにおける偶発的な衝突を回避するための「非衝突メカニズム(deconfliction mechanism)」の創設について協議を行った。詳細は公表されていないが、これは2015年9月にイスラエルとロシアの間で構築された類似の仕組みに倣う可能性がある。ただし、今回のメカニズムはそれ以上に重大な意味を持つ。なぜなら、2024年12月のアサド政権崩壊以降、シリアにおけるイスラエルとトルコの対立が激化しているからである。
イスラエルはソ連崩壊後のロシアを脅威と見なしておらず、むしろプーチン大統領の親ユダヤ的な姿勢により両国関係は緊密である。このため、シリアにおけるイスラエルとロシア間の非衝突メカニズムは、ロシアがイラン革命防衛隊(IRGC)やヒズボラに対するイスラエルの空爆に干渉する意図を持たなかったことから、比較的容易に維持されてきた。
一方、イスラエルとトルコの関係は、2023年10月7日以降、相互の脅威認識が急激に悪化した。トルコ側は、イスラエルのガザでの軍事作戦を「ジェノサイド」と見なし、これが将来的にイスラム世界全体に対して再現される可能性があると懸念している。その脅威を防ぐには、地域の勢力均衡を回復することが必要と考えている。イスラエルは、トルコが自らの影響下にあるシリア内の勢力にハマスを受け入れさせ、さらにそのハマスをトルコの防空システムで防護することを企図しているのではないかと警戒している。たとえその防空システムがシリア軍によって運用されていたとしてもである。
トルコはシリアと国境を接しているため、イランがアサド政権や「抵抗の枢軸(Resistance Axis)」に支援を行った際よりも迅速かつ効果的に、シリアの新政権やハマスの戦力を強化できる立場にある。これは、イスラエルにとって従来のロシアとの非衝突メカニズムでは対処できない新たな国家安全保障上の脅威である。ロシアの防空システムが「抵抗の枢軸」を防護することはなかったが、トルコの防空システムはハマスを防護する可能性があるためである。
仮にイスラエル空軍がハマスを標的とした空爆を実施中に、トルコの防空システム(たとえシリア軍の運用であっても)によって撃墜されれば、それは地域的な危機へと発展する恐れがある。両国とも、米国がそのような事態でどちらの側に立つかを予測できず、仮に直接的なイスラエルとトルコの衝突、さらには通常戦争に発展した場合、深刻な不確実性を抱えることになる。
こうした危機を回避するため、非衝突メカニズムは一時的に有効である可能性はあるものの、根本的な対立の原因はハマスという特定の勢力ではなく、両国が追求する地域的指導権にある。イスラエルとトルコは、アサド政権の崩壊によって空白となったシリア内の影響力を確保しようと、それぞれ異なる手法で競い合っている。
イスラエルは、自らが望むときにシリア内の目標を空爆できる自由を維持したいと考えており、同時にドルーズ人やクルド人を支援することで、シリアの分権化を進め、潜在的な脅威を分割統治の形で抑えようとしている。これに対し、トルコはシリアの中央集権的な国家体制の中に自国の軍事基地を設置し、ハマス戦闘員を駐留させることによって、14年間にわたる対アサド体制への投資の見返りを得たいと考えている。そして、イスラム共同体(ウンマ)の象徴的な指導者の地位を確立するため、イスラエルをシリア領内から軍事的に圧迫できる位置取りを模索している。
このように、両国はシリアにおける影響力確保をゼロサムな競争と捉えており、両者が自らの国益を実現するために必要と考える戦略が互いに衝突している。たとえ偶発的な戦争を避けようとする努力がなされても、実効性ある妥協は難しい。
理論上、北部シリアにトルコの影響力が及び、南部においてイスラエルが自由に行動できるという区分けが検討される可能性はあるが、イスラエルはトルコが防衛する北部にハマスの訓練キャンプが設置されることに懸念を抱く。また、トルコはイスラエルが南部シリアにある新政権に対して空爆の脅威を常に持ち続けることに不快感を持つと考えられる。さらに、トルコの防空システムがゴラン高原付近に密かに展開され、そこからハマスがイスラエルにミサイルを発射するという事態も排除できず、危機は単に先延ばしにされるだけかもしれない。
このような背景から、イスラエルとトルコの非衝突メカニズムだけでは対立の管理に不十分であり、より本質的な解決策が求められている。その一つとして、ロシアが果たしうる役割が挙げられる。
シリアは、アサド政権崩壊後にイスラエルによって破壊された軍事装備の一部を再取得したいと考えており、その手段として、ロシアからの供与が現実的である。これにより、ロシアはシリアの再建・資源開発における経済的特権を得ることが可能となる。ただし、これはイスラエルの安全保障上の限界を超えない範囲に限られる。イスラエルは、ロシアを脅威と見なしていないため、ロシアがシリアを部分的に再武装させることに同意する可能性がある。イスラエルはこの考えから、ロシアの基地をシリアに残すことを米国に働きかけている。
この提案の実現には、ダマスカスがロシアの影響下に再び入る必要があるが、現在のシリア新政権は14年間にわたるトルコの支援の恩恵を受けて成立したものであるため、トルコに強い忠誠と信頼を抱いていると考えられる。このため、ロシアへの依存を選択し、イスラエルが容認可能とする範囲内で再武装を図ることは現実的ではない可能性がある。米国が段階的な制裁解除をインセンティブとして提案することも考えられるが、その効果は不明である。
トルコ側も、自国の投資に対する見返りとして、シリア領内に軍事基地を設置し、軍用空域の使用権を確保することを望んでいる。これに対し、イスラエルは強く反対しており、米国がトルコに対して妥協を促すとしても、具体的な内容は未定である。なお、トランプ前大統領はイスラエルとトルコの間で調停を申し出ており、その提案内容が今後の焦点となる可能性がある。
結論として、イスラエルとトルコのシリアにおける対立を管理するためには、単なる非衝突メカニズム以上の外交的枠組みが必要である。最も効果的な方策としては、イスラエルが容認可能な範囲でロシアを介してシリアを部分的に再武装させ、トルコの影響力を抑制するという構想が挙げられるが、ダマスカスやアンカラがそれに同意するかは不確実である。トランプ氏が調停に成功すれば状況は変わるかもしれないが、失敗すればイスラエルとトルコの軍事衝突は避けられない可能性が残る。
【要点】
イスラエルとトルコの現状
・イスラエルとトルコは2025年4月上旬、アゼルバイジャンでシリアにおける非衝突メカニズム(deconfliction mechanism)の構築について協議した。
・両国関係は、2023年10月7日以降のガザ戦争を機に急激に悪化した。
・トルコはイスラエルのガザ攻撃を「ジェノサイド」と非難し、イスラーム世界全体の脅威とみなしている。
・イスラエルは、トルコがハマスに支援を行い、防空システムで保護する意図があると警戒している。
シリア情勢と非衝突メカニズムの背景
・2024年12月にアサド政権が崩壊し、シリアにおける権力の空白が発生した。
・イスラエルとトルコは、異なる勢力(ドルーズ人・クルド人 vs. ハマス)を支援して、シリアでの影響力拡大を図っている。
・トルコは、ハマス戦闘員の駐留と軍事基地の設置を通じて、シリア内に恒久的な軍事的プレゼンスを確保しようとしている。
・イスラエルは、トルコの影響圏でハマスが防空システムにより保護される可能性を容認できない。
軍事衝突の懸念
・ハマスを狙ったイスラエルの空爆が、トルコの防空網(たとえシリア軍が運用していても)によって妨害された場合、両国の直接衝突に発展するおそれがある。
・アメリカがそのような事態でどちらに味方するか不透明であり、偶発的衝突のエスカレーションが現実的な脅威である。
根本的な対立の構図
・対立の本質は「ハマス」そのものではなく、地域覇権の争いにある。
・イスラエルは分権的なシリア(ドルーズ・クルド支配地域)を支持し、トルコは中央集権的な体制とイスラーム系勢力の支援を好む。
・両者の戦略はゼロサムであり、持続的な妥協は困難とされる。
対立回避の試みと限界
・理論上は北部シリア=トルコ、南部=イスラエルの勢力圏分割案が考えられる。
・しかし、トルコは北部にハマスの訓練拠点を置く可能性があり、イスラエルは南部への継続的空爆能力を維持しようとするため、分割統治案は不安定である。
・単なる「非衝突メカニズム」では根本的な危機管理には不十分とされる。
ロシアの役割と可能性
・ロシアがシリア新政権に軍装備を供与することで、影響力を再確立し、イスラエルとトルコの対立を中和できる可能性がある。
・イスラエルはロシアを脅威と見なしておらず、シリアへの部分的な再武装を容認する可能性がある。
・ただし、トルコの長年の支援により、現在のシリア新政権はロシアよりトルコに親近感を持つ可能性が高い。
アメリカの役割と限界
・米国は段階的制裁解除をインセンティブとすることで、シリアやトルコの行動を調整できる可能性があるが、効果は不確実である。
・トランプ前大統領は、両国間の仲介役として動く可能性を示唆している。
結論
・シリアにおけるイスラエルとトルコの対立は深刻化しており、偶発的な衝突は現実の脅威である。
・非衝突メカニズムは一時的な緩和策に過ぎず、根本的には地域覇権と軍事的影響力の争奪が問題の核心である。
・ロシアまたは米国の介入が唯一の調停手段となる可能性がある。
【引用・参照・底本】
Can Israel & Turkiye Manage Their Escalating Rivalry In Syria? Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.06
https://korybko.substack.com/p/can-israel-and-turkiye-manage-their?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161074147&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=emailimperialism/
イスラエルとトルコがシリアでの対立を回避するために検討している「デコンフリクション・メカニズム(衝突回避の仕組み)」の限界と、両国の地政学的対立の構造的背景を詳述したものである。
イスラエルとトルコは、先週アゼルバイジャンで会談し、シリアにおける偶発的な衝突を避けるためのメカニズム構築について協議したとされている。この仕組みは、2015年9月にイスラエルとロシアの間で合意された同様のメカニズムを想起させるものであるが、今回はより深刻な対立の下で検討されている点で異なる。
イスラエルは、旧ソ連時代以降のロシアを脅威とは見なしておらず、プーチン政権下でのイスラエル・ロシア関係は親密である。そのため、ロシアとのデコンフリクションは比較的容易であった。対照的に、トルコとの関係は、2023年10月7日の出来事以降に急激に悪化しており、両国は互いを直接的な脅威と見なしている。
トルコは、イスラエルのガザ侵攻を「ジェノサイド」と見なし、それが他のイスラム教徒に波及する可能性を懸念している。これに対して、イスラエルは、トルコがシリアの友好勢力を通じてハマスを支援し、同勢力がイスラエルの空爆からトルコの防空システムによって保護される可能性を警戒している。仮にそのような防空システムがトルコ軍ではなく、シリアの新政権によって運用される場合でも、イスラエルにとっては重大な懸念事項である。
また、トルコはシリアに地理的に接しており、イランよりも迅速かつ効果的に新政権やハマスを支援できる立場にある。これは、従来イスラエルがロシアとの調整で抑制してきた「抵抗の枢軸」との関係よりも、はるかに現実的かつ差し迫った脅威となっている。
イスラエルによるハマスへの空爆の際に、トルコ(あるいはその代理)がイスラエル機を撃墜する事態が起これば、地域全体を巻き込む危機へと発展しかねない。こうした事態を回避するための調整は重要であるが、アメリカがどちらの側につくかも不透明であり、万一の直接衝突は深刻な不確実性をはらんでいる。
このような緊張は、ハマスを巡る問題よりも、むしろシリアにおける覇権争いに起因している。イスラエルとトルコは、イランが退いた後のシリアで影響力を確保することを目指しているが、その方法は異なる。イスラエルは空爆の自由を維持し、ドルーズ人やクルド人を強化して、シリアを分権化しやすくしようとしている。一方、トルコは、軍事基地やハマスの駐留を通じて、中央集権的な国家を支援し、自らの影響力を具現化しようとしている。
両者は、イラン撤退後のシリアにおいて影響力を確保することが、自国の安全保障に不可欠であると考えており、この競争はゼロサムの性質を持つ。仮に一時的に、トルコが北部を、イスラエルが南部を実効支配するという形で妥協したとしても、イスラエルは北部におけるハマスの活動に不安を抱き、トルコはイスラエルの空爆能力を脅威と見なすため、こうした取り決めは持続可能性に乏しい。
特に、トルコがゴラン高原付近に秘密裏に防空システムを配備し、ハマスのイスラエル攻撃を支援する可能性もあり、地域危機の回避はあくまで一時的措置にとどまる可能性が高い。
このように、イスラエルとトルコの対立を本質的に緩和するには、デコンフリクション・メカニズムだけでは不十分であり、より包括的な外交的調整が必要である。ここで、シリア・ロシア・アメリカの三者が仲介者として果たせる可能性が指摘される。
イスラエルは、アサド政権崩壊後に破壊されたシリアの軍備を、ロシアの協力で再建させることには比較的寛容である。これは、ロシアを戦略的脅威とは見なしていないためである。イスラエルは、トルコの影響力を抑制する目的から、米国に対してシリアにおけるロシアの軍事プレゼンス維持を支持するよう働きかけている。
しかし、ダマスカスの新政権は、トルコによる14年に及ぶ支援の結果として成立したため、トルコへの信頼と忠誠心が強い。そのため、ロシアからの再軍備支援を受ける代わりにイスラエルの「制限」を受け入れることには消極的である。アメリカはこれに対して段階的な制裁解除というインセンティブを提示する可能性がある。
トルコもまた、シリア政権打倒に向けた長年の投資に見合う具体的な成果(軍事基地設置や空域の使用権)を要求する可能性が高く、これはイスラエルが阻止したい点である。米国はトルコに対しても、何らかの譲歩やインセンティブを提案するかもしれない。特にトランプ前大統領は、イスラエルとトルコの仲介役を申し出ており、何らかの妥協案を提示する可能性があるが、現時点ではその内容は不明である。
結論として、イスラエルとトルコの間で検討されている「デコンフリクション・メカニズム」は、表面的な衝突回避には寄与するかもしれないが、根本的な対立構造を解消するものではなく、地域の不安定化を抑えるには不十分であることを指摘している。最も効果的な解決策は、ロシアが一定の制約の下でシリアの軍備再建に関与し、イスラエルの安全保障懸念を緩和しつつ、トルコの影響力を牽制する形での三者協調であるとする。だが、これにはダマスカスとアンカラの協力が必要であり、トランプの仲介が成功しない限り、イスラエルとトルコの衝突は時間の問題ともなり得る。
【詳細】
2025年4月上旬、イスラエルとトルコはアゼルバイジャンにおいて、シリアにおける偶発的な衝突を回避するための「非衝突メカニズム(deconfliction mechanism)」の創設について協議を行った。詳細は公表されていないが、これは2015年9月にイスラエルとロシアの間で構築された類似の仕組みに倣う可能性がある。ただし、今回のメカニズムはそれ以上に重大な意味を持つ。なぜなら、2024年12月のアサド政権崩壊以降、シリアにおけるイスラエルとトルコの対立が激化しているからである。
イスラエルはソ連崩壊後のロシアを脅威と見なしておらず、むしろプーチン大統領の親ユダヤ的な姿勢により両国関係は緊密である。このため、シリアにおけるイスラエルとロシア間の非衝突メカニズムは、ロシアがイラン革命防衛隊(IRGC)やヒズボラに対するイスラエルの空爆に干渉する意図を持たなかったことから、比較的容易に維持されてきた。
一方、イスラエルとトルコの関係は、2023年10月7日以降、相互の脅威認識が急激に悪化した。トルコ側は、イスラエルのガザでの軍事作戦を「ジェノサイド」と見なし、これが将来的にイスラム世界全体に対して再現される可能性があると懸念している。その脅威を防ぐには、地域の勢力均衡を回復することが必要と考えている。イスラエルは、トルコが自らの影響下にあるシリア内の勢力にハマスを受け入れさせ、さらにそのハマスをトルコの防空システムで防護することを企図しているのではないかと警戒している。たとえその防空システムがシリア軍によって運用されていたとしてもである。
トルコはシリアと国境を接しているため、イランがアサド政権や「抵抗の枢軸(Resistance Axis)」に支援を行った際よりも迅速かつ効果的に、シリアの新政権やハマスの戦力を強化できる立場にある。これは、イスラエルにとって従来のロシアとの非衝突メカニズムでは対処できない新たな国家安全保障上の脅威である。ロシアの防空システムが「抵抗の枢軸」を防護することはなかったが、トルコの防空システムはハマスを防護する可能性があるためである。
仮にイスラエル空軍がハマスを標的とした空爆を実施中に、トルコの防空システム(たとえシリア軍の運用であっても)によって撃墜されれば、それは地域的な危機へと発展する恐れがある。両国とも、米国がそのような事態でどちらの側に立つかを予測できず、仮に直接的なイスラエルとトルコの衝突、さらには通常戦争に発展した場合、深刻な不確実性を抱えることになる。
こうした危機を回避するため、非衝突メカニズムは一時的に有効である可能性はあるものの、根本的な対立の原因はハマスという特定の勢力ではなく、両国が追求する地域的指導権にある。イスラエルとトルコは、アサド政権の崩壊によって空白となったシリア内の影響力を確保しようと、それぞれ異なる手法で競い合っている。
イスラエルは、自らが望むときにシリア内の目標を空爆できる自由を維持したいと考えており、同時にドルーズ人やクルド人を支援することで、シリアの分権化を進め、潜在的な脅威を分割統治の形で抑えようとしている。これに対し、トルコはシリアの中央集権的な国家体制の中に自国の軍事基地を設置し、ハマス戦闘員を駐留させることによって、14年間にわたる対アサド体制への投資の見返りを得たいと考えている。そして、イスラム共同体(ウンマ)の象徴的な指導者の地位を確立するため、イスラエルをシリア領内から軍事的に圧迫できる位置取りを模索している。
このように、両国はシリアにおける影響力確保をゼロサムな競争と捉えており、両者が自らの国益を実現するために必要と考える戦略が互いに衝突している。たとえ偶発的な戦争を避けようとする努力がなされても、実効性ある妥協は難しい。
理論上、北部シリアにトルコの影響力が及び、南部においてイスラエルが自由に行動できるという区分けが検討される可能性はあるが、イスラエルはトルコが防衛する北部にハマスの訓練キャンプが設置されることに懸念を抱く。また、トルコはイスラエルが南部シリアにある新政権に対して空爆の脅威を常に持ち続けることに不快感を持つと考えられる。さらに、トルコの防空システムがゴラン高原付近に密かに展開され、そこからハマスがイスラエルにミサイルを発射するという事態も排除できず、危機は単に先延ばしにされるだけかもしれない。
このような背景から、イスラエルとトルコの非衝突メカニズムだけでは対立の管理に不十分であり、より本質的な解決策が求められている。その一つとして、ロシアが果たしうる役割が挙げられる。
シリアは、アサド政権崩壊後にイスラエルによって破壊された軍事装備の一部を再取得したいと考えており、その手段として、ロシアからの供与が現実的である。これにより、ロシアはシリアの再建・資源開発における経済的特権を得ることが可能となる。ただし、これはイスラエルの安全保障上の限界を超えない範囲に限られる。イスラエルは、ロシアを脅威と見なしていないため、ロシアがシリアを部分的に再武装させることに同意する可能性がある。イスラエルはこの考えから、ロシアの基地をシリアに残すことを米国に働きかけている。
この提案の実現には、ダマスカスがロシアの影響下に再び入る必要があるが、現在のシリア新政権は14年間にわたるトルコの支援の恩恵を受けて成立したものであるため、トルコに強い忠誠と信頼を抱いていると考えられる。このため、ロシアへの依存を選択し、イスラエルが容認可能とする範囲内で再武装を図ることは現実的ではない可能性がある。米国が段階的な制裁解除をインセンティブとして提案することも考えられるが、その効果は不明である。
トルコ側も、自国の投資に対する見返りとして、シリア領内に軍事基地を設置し、軍用空域の使用権を確保することを望んでいる。これに対し、イスラエルは強く反対しており、米国がトルコに対して妥協を促すとしても、具体的な内容は未定である。なお、トランプ前大統領はイスラエルとトルコの間で調停を申し出ており、その提案内容が今後の焦点となる可能性がある。
結論として、イスラエルとトルコのシリアにおける対立を管理するためには、単なる非衝突メカニズム以上の外交的枠組みが必要である。最も効果的な方策としては、イスラエルが容認可能な範囲でロシアを介してシリアを部分的に再武装させ、トルコの影響力を抑制するという構想が挙げられるが、ダマスカスやアンカラがそれに同意するかは不確実である。トランプ氏が調停に成功すれば状況は変わるかもしれないが、失敗すればイスラエルとトルコの軍事衝突は避けられない可能性が残る。
【要点】
イスラエルとトルコの現状
・イスラエルとトルコは2025年4月上旬、アゼルバイジャンでシリアにおける非衝突メカニズム(deconfliction mechanism)の構築について協議した。
・両国関係は、2023年10月7日以降のガザ戦争を機に急激に悪化した。
・トルコはイスラエルのガザ攻撃を「ジェノサイド」と非難し、イスラーム世界全体の脅威とみなしている。
・イスラエルは、トルコがハマスに支援を行い、防空システムで保護する意図があると警戒している。
シリア情勢と非衝突メカニズムの背景
・2024年12月にアサド政権が崩壊し、シリアにおける権力の空白が発生した。
・イスラエルとトルコは、異なる勢力(ドルーズ人・クルド人 vs. ハマス)を支援して、シリアでの影響力拡大を図っている。
・トルコは、ハマス戦闘員の駐留と軍事基地の設置を通じて、シリア内に恒久的な軍事的プレゼンスを確保しようとしている。
・イスラエルは、トルコの影響圏でハマスが防空システムにより保護される可能性を容認できない。
軍事衝突の懸念
・ハマスを狙ったイスラエルの空爆が、トルコの防空網(たとえシリア軍が運用していても)によって妨害された場合、両国の直接衝突に発展するおそれがある。
・アメリカがそのような事態でどちらに味方するか不透明であり、偶発的衝突のエスカレーションが現実的な脅威である。
根本的な対立の構図
・対立の本質は「ハマス」そのものではなく、地域覇権の争いにある。
・イスラエルは分権的なシリア(ドルーズ・クルド支配地域)を支持し、トルコは中央集権的な体制とイスラーム系勢力の支援を好む。
・両者の戦略はゼロサムであり、持続的な妥協は困難とされる。
対立回避の試みと限界
・理論上は北部シリア=トルコ、南部=イスラエルの勢力圏分割案が考えられる。
・しかし、トルコは北部にハマスの訓練拠点を置く可能性があり、イスラエルは南部への継続的空爆能力を維持しようとするため、分割統治案は不安定である。
・単なる「非衝突メカニズム」では根本的な危機管理には不十分とされる。
ロシアの役割と可能性
・ロシアがシリア新政権に軍装備を供与することで、影響力を再確立し、イスラエルとトルコの対立を中和できる可能性がある。
・イスラエルはロシアを脅威と見なしておらず、シリアへの部分的な再武装を容認する可能性がある。
・ただし、トルコの長年の支援により、現在のシリア新政権はロシアよりトルコに親近感を持つ可能性が高い。
アメリカの役割と限界
・米国は段階的制裁解除をインセンティブとすることで、シリアやトルコの行動を調整できる可能性があるが、効果は不確実である。
・トランプ前大統領は、両国間の仲介役として動く可能性を示唆している。
結論
・シリアにおけるイスラエルとトルコの対立は深刻化しており、偶発的な衝突は現実の脅威である。
・非衝突メカニズムは一時的な緩和策に過ぎず、根本的には地域覇権と軍事的影響力の争奪が問題の核心である。
・ロシアまたは米国の介入が唯一の調停手段となる可能性がある。
【引用・参照・底本】
Can Israel & Turkiye Manage Their Escalating Rivalry In Syria? Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.06
https://korybko.substack.com/p/can-israel-and-turkiye-manage-their?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161074147&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=emailimperialism/