欧州による平和維持部隊2025年04月13日 20:18

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【概要】

 ロシア外交官による、欧州による平和維持部隊(以下、PKO)のウクライナ派遣に関する発言が一見矛盾しているように見える。2025年4月初旬、在外大使ロディオン・ミロシュニクは、「これは実質的に欧州によるウクライナ占領と見なすことができる」「(目的は)交渉の結果に関係なく、軍事的手段でウクライナの政治体制を掌握し、この地の外部統治を維持することだ」と述べた。

 その翌日、ロシア外務省報道官マリア・ザハロワは、「これらの部隊は戦闘前線には配置されず、ウクライナ軍に取って代わることもない」「彼らの目的は、オデーサやリヴィウといった戦略的地点をウクライナ側と協調して防護することであり、このことはパリやロンドンでも公然と語られている」と発言した。

 このような発言の違いにより、欧州PKOの本来の目的やウクライナとの協調の程度について混乱が生じている。

 欧州諸国の部隊が正式にウクライナに入る場合、ミロシュニク氏とザハロワ氏の主張が混合したような形になる可能性が高い。ただし、ロシアが同国に展開する外国部隊を標的にすると明言している一方で、アメリカはウクライナに展開するNATO軍に対してNATO条約第5条の保障を適用しないとしているため、このようなPKO展開は現時点では現実的とは言い難い。

 それでもなおPKOが展開され、エスカレーションが発生しない場合、想定されるのは以下のいずれかである。すなわち、ロシアが国連安保理を通じて部分的な欧州主導のPKOを承認する場合、あるいは承認なしに展開を容認する場合である。後者の場合、ロシア側が何らかの戦略的計算に基づいて黙認することが考えられる。

 PKOが導入されれば、ウクライナ政府は軍事・戦略的な主導権を急速に失う可能性がある。欧州の一部の部隊が独自の目的で行動する恐れがあるからである。例えば、欧州PKOがウクライナ軍との協調のもとにオデーサやリヴィウといった戦略地点を防衛し、ウクライナ軍を前線に集中させるという名目で進駐したとしても、そのまま撤収せず居座る可能性がある。

 その場合、ウクライナ軍が欧州PKOを「脱線」した存在として武力排除することは考えにくく、ウクライナ側は彼らの行動を黙認することになるとみられる。また、大統領府、保安庁(SBU)、ウクライナ軍内部などの派閥が、それぞれ異なる欧州諸国のPKOと結びつく可能性も否定できず、結果的にウクライナ国内の政治的分裂、いわば“バルカン化”が進行する可能性がある。

 したがって、当初はウクライナと欧州諸国との緊密な協調を基にしたPKOであっても、やがては欧州諸国による事実上の占領状態に移行するリスクが存在する。これに対して、地域住民の基本的ニーズを満たし、極右勢力に干渉しないことで、治安上の混乱は抑えられる可能性がある。

 ただし、ポーランドが従来の方針を転換してPKOを派遣する場合は例外である。歴史的経緯により、ウクライナ国民の一部はポーランド軍を敵対的な占領者と見なし、武力抵抗の可能性が残る。

 結論として、欧州PKOのウクライナ派遣は現段階では非現実的とされるが、完全に排除することはできない。プーチン大統領が、ウクライナにとって不利益をもたらすと判断すれば、安保理を通じてあるいは通さずに展開を容認する可能性もある。他方で、欧州とウクライナが共にロシアへの圧力強化に動くリスクも存在し、慎重な計算を重視するプーチン大統領にとっては、そのような冒険は避けられると見られる。

【詳細】

 1.ロシア外交官の矛盾したように見える発言

 ロシアの二人の外交官が、ウクライナにおける欧州平和維持部隊(PKO)の想定展開について異なる見解を示したことが発端である。

 A. ロディオン・ミロシュニク(Rodion Miroshnik)

 ・肩書き:キエフの戦争犯罪を追跡するための特命大使(Ambassador-at-Large)

 ・発言内容

 ➡️欧州PKOの派遣は、「ウクライナに対する露骨な占領」と見なされ得る。

 ➡️「目的は、交渉の結果にかかわらず、ウクライナの政治体制を軍事的に掌握し、外部統治を維持すること」である。

 この発言は、PKOの本質を偽装された軍事介入として捉えており、欧州諸国による主権侵害や体制転覆の可能性を示唆している。

 B. マリア・ザハロワ(Maria Zakharova)

 ・肩書き:ロシア外務省報道官

 ・発言内容

 ➡️欧州PKOは前線には展開されず、ウクライナ軍と交代もしない。

 ➡️「オデーサやリヴィウのような戦略的地点を防護するために、ウクライナと協調して行動する」。

 この構想はパリやロンドンで公然と語られている。

 ザハロワの発言は、PKOの存在を補助的・限定的なものと位置づけており、ウクライナとの協調関係を前提としている。

 2.「矛盾」の構造とその解釈

 Korybko氏は、これらの発言が矛盾しているように見えても、両方が同時に成り立ち得ると示唆している。

 ・欧州PKOがウクライナに正式に展開された場合

 ➡️表面上はザハロワの言うように、限定的な防衛任務として始まる。

 ➡️しかし裏では、ミロシュニクが警告するように、政治的主導権の掌握や長期的な軍事的プレゼンスの確立へとつながる可能性がある。

 このように、限定的協力→既成事実化→事実上の占領という構図が生まれる可能性が指摘されている。

 3. ロシア・アメリカの態度と展開の可能性

 A. ロシアの基本方針

 ・外国部隊がウクライナに展開すれば、標的とすることを公言している。

 ・ただし例外として、国連安保理を通じて、ロシアがPKOを承認する可能性がある。

 ・または、戦略的な理由(Machiavellian calculations)から黙認する可能性も示唆されている。

 B. アメリカの態度

 ・ウクライナに展開するNATO部隊には、NATO条約第5条の集団的自衛権(Article 5)を適用しない方針を明言。

 ・これは、欧州PKOが攻撃された場合でも、NATO全体として報復する義務は生じないことを意味する。

 ・これらの背景から、欧州PKO展開は高リスクであり、慎重な政治的・軍事的判断を要することがうかがえる。

 4. ウクライナにとっての影響

 A. 指揮権・主導権の喪失

 ・欧州PKOに戦略拠点の防衛を委ねることにより、ウクライナ軍は前線集中が可能となる。

 ・しかしその一方で、欧州部隊が一度進駐した後に撤退しない可能性がある。

 ・その場合、ウクライナ政府は指導権を失い、欧州諸国の意向に左右される事態が懸念される。

 B. 内部対立と“バルカン化”のリスク

 ・大統領府、保安庁(SBU)、軍内部などの派閥が、異なる欧州諸国と結びつく可能性がある。

 ・結果的に、ウクライナ国内で分裂が生じ、国の統一性が崩れる。

 ・これは、1990年代の旧ユーゴスラビアのような**「政治的バルカン化」**につながる恐れがある。

 5.反発と例外:ポーランドの場合

 ・欧州諸国の中でも、ポーランド軍のPKO派遣が実現した場合、特別な問題が生じる可能性がある。

 ・歴史的対立の記憶により、多くのウクライナ人はポーランド軍を「敵対的な占領軍」と見なし、抵抗する可能性がある。

 ・他国のPKOとは異なり、ポーランドの場合のみ暴力的な衝突の可能性があると示唆されている。

 6.結論:可能性は低いが、完全には排除できない

 ・現時点で、欧州PKOのウクライナ正式展開はあくまで「あり得るが実現可能性は低い」シナリオにとどまっている。

 ・しかし、ロシアがウクライナに対する戦略的圧力を高める手段として黙認する、あるいは国際的な正当性を装う形で承認する可能性も否定できない。

 ・最大の懸念は、欧州とウクライナが連携してロシアに軍事的圧力をかける事態であり、そのようなリスクを忌避するため、プーチン大統領は展開を容認しない公算が高いと結ばれている。

【要点】 

 1.ロシア外交官による2つの見解

 ・ロディオン・ミロシュニク

 ➡️欧州PKOはウクライナの「軍事的・政治的占領」に等しい。

 ➡️交渉結果にかかわらず、西側による体制掌握・外部統治を目的としている。

 ・マリア・ザハロワ

 ➡️欧州PKOはウクライナ軍とは交代せず、戦闘には加わらない。

 ➡️オデーサやリヴィウなどの戦略的都市をウクライナ政府と協力して防衛する。

 ➡️仏英政府でこの構想は公然と議論されている。

 2.見解の「矛盾」とその解釈

 ・一見矛盾するが、両者の発言は段階的展開を示している可能性がある:

 ➡️初期:補助的・限定的な展開(ザハロワの見解)

 ➡️後期:政治的主導権の奪取や事実上の占領状態(ミロシュニクの警告)

 3.ロシアとアメリカの基本姿勢

 ・ロシアの方針

 ➡️外国軍は原則攻撃対象とする。

 ただし、以下の場合には例外があり得る。

 ➡️国連安保理決議を経たPKO(ロシアの同意を含む)

 ➡️自国の戦略的利益に資する場合の「黙認」

 ・アメリカの姿勢

 ・欧州PKOがロシアに攻撃されても、NATO条約第5条(集団自衛権)は発動しない。

 ・欧州諸国は単独責任で派遣する形になる。

 4.ウクライナにとっての影響とリスク

 ・短期的利益

  ⇨ 欧州PKOによる戦略都市の防衛により、ウクライナ軍は前線に集中可能。

 ・長期的懸念

  ⇨ 外国部隊の恒久的駐留により、ウクライナの主権が損なわれる恐れ。

  ⇨ 欧州諸国の影響力が国内に入り込み、政府内の派閥が外国勢力と結びつくリスク。

  ⇨ 結果的に「旧ユーゴ型の政治的バルカン化」が起こる可能性。

 5.特別な懸念:ポーランド軍の関与

 ・ポーランド軍の展開は、ウクライナ国内で反発を招きやすい。

 ・歴史的対立により、占領軍と見なされ、抵抗運動が発生する可能性がある。

 ・他の欧州諸国によるPKOとは異なり、暴力的対立のリスクが高い。

 6.総合的評価

 ・欧州PKOの本格的展開は、可能性はあるが現時点では低い。

 ・ただしロシアが戦略的判断で黙認する場合、展開が現実化する可能性も否定できない。

 ・プーチン大統領がそのような展開を容認するか否かが最終的な鍵を握る。

【引用・参照・底本】

Clarifying Russian Diplomats’ Seemingly Contradictory Claims About European Peacekeepers Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.10
https://korybko.substack.com/p/clarifying-russian-diplomats-seemingly?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=160997065&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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