あたらしい憲法のはなし2022年08月27日 13:47

あたらしい憲法のはなし 表紙
『あたらしい憲法のはなし』東大教授 宮沢俊義 著

 (一-二頁)           
 はしがき            2022.08.27

 憲法というものは、いままではとかく法律家や政洽家だけが知っていればいいものと考えられていた。しかし、國民主權の新憲法のもとで、ほんとうの民主政治を行うためには、全國民のひとりひとりが、じゅうぶん憲法を知っている必要がある。ことに、少年少女の皆さんにはぜひ知っでおいてもらわなくてはならない。日本の將來をしよって立っているのいうまでもなく、皆さんである。その皆さんが新憲法の精神をよく腹に入れてみいてくれなくでは、H本の民主政治の將來は心細い。
 私はこの本で、新憲法に何が書いてあるかを、できるだけ誰にもわかるように書こうとしてみた。私は、とりわけ全國の少年少女の皆さんに讀んでいただきたいとおもって書いた。新憲法はやさしい口語體で書いてはあるが、いろいろなわかりにくい言葉が使ってあるので、説明しにくいところが多かった。だから、この本は讀んであまりわかりよくもなく、またおもしろくないかも知れない。しかし、日本がこののち、生きていくためには、民主政治を行うことが必要であること、そして民主政治を行うためには、新憲法をじゅうぶん理解し、それによってこれからの政治をやっていくことが必要であることを考えて、どうか、がまんして讀んでいただきたい。皆さんが新憲法の精神をよくのみこみ、やがでそれを政治の實際のうえに生かしていくようにするならば、私どもの日本の行先には、平和で幸福な生活が待っているにちがいない。    ゛
  昭和二十二年(一九四七年)三月      ’
                    宮 澤 俊 義

 (一-二頁)
 憲法とは何か          2022.08.27

 憲法とは、ひとくちでいえば、國家の政治の規則を書きあらわしたものである。たとえば、法律はどうしで作るか、裁判は誰がするか、税金はどういうふうに集めて、そしてそれを何に使うか、たいうような規則を、文章に書きあらわしたものが憲法である。
 會社や組合には.定款とか規約とかいうものがある。これは、會社や組合がその仕事をするにあたって必要な規則を、書きあらわしたものである。誰がその會社や組合を代表して仕事をするか、その仕事はどんなだんどりでなされるか、ということは、すべて定款や規約できまっている。つまり、定款や観約は會吐や組合の憲法である。
 むかしは、どこの國にも憲法というものはなかった。政治の規則は、はっきりと文章に書きあらわしてなかった。日本では、推古天皇の時代に、聖徳太子が憲法十七條をお定めになった(西暦六〇四年)が、この憲法というのは、だいたいは役人の心得のようなもので、政治の規則を書きあらわしたものではなく、いま私どもが憲法というものとは、だいぶ違ったものであった。
 ところが、世の中がすすむと、政治がやりかたが、だんだんこみいってくる。それに、國民の自由や權利をたいせつにして、政府がむやみにこれを妨げてはいけないということになり、國民がいろいろと政治に口を出しはじめ、國民の代表者が議會に出るようになってくると、どうしても、政治のやりかたをはっきり文章に書きあらわしておくことが、必要になってくる。そこで、どこの國でも、だんだんと憲法を作るようになっできた。

引用・参照・底本

『あたらしい憲法のはなし』東大教授 宮沢俊義 著 昭和二十八年十月十五日二版發行 朝日新聞社

(国立国会図書館デジタルコレクション)