トランプの「急進的な洗脳教育の終焉(Ending Radical Indoctrination in K-12 Schooling)」2025年02月12日 13:18

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【概要】

 トランプ大統領が推進する教育政策が、公教育の破壊とイデオロギーの押し付けを目的としていると批判している。具体的には、教育省(DOE)の解体、学校での人種・ジェンダー・歴史教育の制限、連邦資金の削減などを通じて、歴史の抹消と右派的価値観の強制を図っていると主張している。

 特に、トランプの「急進的な洗脳教育の終焉(Ending Radical Indoctrination in K-12 Schooling)」と名付けられた命令は、黒人や先住民の歴史、構造的不平等に関する教育を制限し、性自認に関する議論を禁止するものとして批判されている。記事では、これを「無批判的人種理論(uncritical race theory)」と呼び、体系的な人種差別の存在を否定し、個々の偏見に矮小化する試みと位置づけている。

 さらに、DOEの解体によって、貧困地域の学校を支えるタイトルI資金(184億ドル)や、障害を持つ学生の支援を保障する個別障害者教育法(IDEA)の資金(155億ドル)が削減される可能性が指摘されている。これにより、教育の公平性が損なわれ、学校から刑務所への流れ(school-to-prison pipeline)が加速することが懸念されている。

 また、教育カリキュラムへの連邦政府の介入は法律(20 U.S.C. § 1232a)に違反する可能性があると指摘し、歴史を歪曲する伝統の一環としてトランプの政策を批判している。具体的には、1776年委員会の復活を挙げ、アメリカの歴史を美化し、抑圧の歴史を軽視する試みと批判している。

 民主党がこうした攻撃に対して効果的に反撃していないことを指摘し、教育現場の教師や市民による抵抗の必要性を訴えている。民主党は書籍禁止やカリキュラム検閲に対して表面的な批判をするものの、具体的な対策を講じていないとし、教育の自由を守るための行動を呼びかけている。

【詳細】

 ドナルド・トランプ大統領が推し進める教育政策に対する批判を展開している。特に、公教育の「民営化」、移民・トランスジェンダーの生徒への攻撃、パレスチナ連帯の禁止、大学キャンパスでの反対意見の抑圧、人種・ジェンダー・セクシュアリティ・構造的不平等に関する議論の検閲など、多岐にわたる問題が指摘されている。さらに、トランプが「K-12学校における急進的洗脳の終結(Ending Radical Indoctrination in K-12 Schooling)」と名付けた行政命令が、事実に基づいた歴史教育の禁止を目的としていることを強く批判している。

 1. トランプの教育政策の狙い

 著者ジェシー・ハゴピアンによると、トランプの教育政策の本質は、教育を「洗脳」の手段とし、保守的なイデオロギーを浸透させることにあるとされる。具体的には、以下の点が問題視されている。

 ・公教育の民営化

 トランプ政権は、公立学校への資金提供を削減し、私立学校やチャーター・スクールへの補助を増やす政策を推進。これは教育の市場化を促進し、低所得層の学生が不利になる構造を強化するものとされる。

 ・歴史教育の検閲

 「急進的洗脳の終結」と名付けられた行政命令は、黒人、先住民、有色人種(BIPOC)の歴史や構造的不平等についての教育を行う学校への連邦資金提供を停止することを目指している。これは、いわゆる「批判的人種理論(CRT)」を標的としたものと考えられる。

 ・ジェンダーおよびセクシュアリティに関する教育の禁止

 トランプの命令は、学校においてジェンダー・アイデンティティやLGBTQ+に関する議論を排除することを求めている。

 ・教育省(DOE)の解体

 トランプは、教育省(Department of Education, DOE)の廃止を目指す大統領令を発令。完全な廃止には議会の承認が必要だが、ワシントン・ポストによると、すでに職員の行政休職や自主退職の圧力を通じて、機能の縮小が進められている。

 2. 教育省(DOE)の解体による影響

 DOEの解体は、特に以下の影響をもたらすと指摘されている。

 ・低所得者向け支援(Title I funding)の削減

 Title Iは貧困地域の学校への支援を行うプログラムであり、18.4億ドルの予算が危機に瀕する。

 ・障害を持つ学生への支援削減(IDEA)

障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act, IDEA)の下で保証されている15.5億ドルの支援が失われる可能性があり、障害を持つ学生への配慮が著しく後退する。

 ・公民権保護の弱体化

 教育省の公民権局(Office for Civil Rights, OCR)は、教育機関での人種差別、ジェンダー差別、障害者差別を取り締まる役割を果たしているが、DOEの廃止はこれらの監視機能を大幅に低下させる。結果として、「学校から刑務所へ(school-to-prison pipeline)」と呼ばれる、教育格差が原因で有色人種の学生が犯罪者にされやすい構造が強化されると警告されている。

 ・連邦学生ローン制度の混乱

 DOEは1.6兆ドルに及ぶ学生ローンを管理しており、その解体はローン制度を混乱させ、借り手の権利保護が弱体化する可能性がある。

 3. トランプの命令は違法である

 著者は、トランプの大統領令が連邦法に違反していると指摘する。
20 U.S.C. § 1232a(教育一般規定法, GEPA)では、連邦政府が学校のカリキュラムを指示・監督することを禁じている。したがって、トランプが行おうとしている教育内容の制限は、この法律に反する可能性が高い。

 また、保守派は「地方分権」や「州の権利」を主張することが多いが、トランプ政権はむしろ連邦政府の力を用いて教育内容を統制しようとしているという矛盾も指摘されている。

 4. 教育の歴史的改ざんの伝統

 トランプの政策は、新しいものではなく、アメリカの歴史において繰り返されてきた歴史改ざんの伝統の延長線上にあると著者は論じている。

 ・南部連合を美化した歴史教育

 19世紀後半から20世紀初頭にかけて、南軍の「名誉」を守るために歴史が改ざんされ、奴隷制の悪影響が軽視される教科書が作られた。特に「南部連合の娘たち(United Daughters of the Confederacy)」が主導した。

 ・Dunning School の影響

 コロンビア大学のウィリアム・ダニングが主導した歴史学派は、黒人の政治参加を「腐敗」とみなし、再建期(Reconstruction)を「失敗」と描いた。これがジム・クロウ法の正当化に利用された。

 ・現代の歴史改ざん

 現在、フロリダ州では「奴隷制は黒人に利益をもたらした」という州公認の歴史カリキュラムが導入されるなど、歴史教育の改ざんが続いている。

 トランプが再設立した「1776委員会」は、こうした歴史改ざんの流れを汲んでおり、「アメリカの建国を祝福する」ことを目的に、抑圧や抵抗の歴史を軽視・削除することを推進している。

 5. 民主党の対応の欠如

 著者は、トランプ政権の攻撃に対して民主党が十分に反撃できていないと批判する。

 ・民主党は共和党の「CRT禁止運動」に対し、CRTがK-12教育に導入されていないと繰り返し説明するだけで、教育カリキュラムにおける人種的不平等の教育の必要性を積極的に主張していない。
 ・バイデン政権は教育に関する共和党の政策を批判したが、具体的な対抗措置を講じていない。
 ・民間団体が主導する「Teach Truth Day of Action(真実を教える日)」などの運動に民主党が本格的に関与することはなく、全国的な反撃が不足している。

 結論

 トランプの教育政策は、教育の自由を制限し、公教育を破壊し、歴史改ざんを推進する試みであり、アメリカ社会の民主主義に対する重大な脅威であると著者は結論づけている。

【要点】

 トランプの教育政策に対する批判

 1. トランプの教育政策の狙い

 ・公教育の民営化:公立学校の資金を削減し、私立・チャータースクールを優遇
 ・歴史教育の検閲:「急進的洗脳の終結」命令により、人種差別・構造的不平等の教育を禁止
 ・ジェンダー・セクシュアリティ教育の排除:LGBTQ+関連の授業を禁止
 ・教育省(DOE)の解体:公民権保護や学生ローン管理を廃止

 2. 教育省(DOE)の解体による影響

 ・低所得者向け支援(Title I funding)削減:貧困層の学生が不利に
 ・障害者教育支援(IDEA)の縮小:障害を持つ学生の権利が脅かされる
 ・公民権保護の弱体化:人種・性差別の監視機能が低下
 ・学生ローン制度の混乱:1.6兆ドルのローン管理が不安定化

 3. トランプの政策は違法

 ・20 U.S.C. § 1232a(教育一般規定法, GEPA)違反:連邦政府がカリキュラムを統制することは禁止されている
 ・保守派の「地方分権」主張と矛盾:トランプは連邦政府の力で教育を支配しようとしている

 4. アメリカの歴史改ざんの伝統との関連

 ・南部連合の美化:奴隷制の影響を軽視する教育の歴史
Dunning Schoolの影響:黒人の政治参加を否定する歴史観の拡散
 ・現代の歴史改ざん:フロリダ州の「奴隷制は黒人に利益をもたらした」教育方針
 ・「1776委員会」の復活:アメリカの建国を美化し、抑圧の歴史を削除

 5. 民主党の対応の欠如

 ・「CRT禁止」に対抗できていない:歴史教育の必要性を積極的に主張せず
 ・具体的な対抗策が不足:バイデン政権は批判のみで実効性ある対策を取らず
 ・市民運動に対する関与が不十分:「Teach Truth Day of Action」などの活動を政府が支援せず

 6. 結論

 ・トランプの教育政策は民主主義に対する脅威
 ・公教育の破壊・歴史改ざん・人権抑圧が進行中
 ・効果的な対抗策が必要

【引用・参照・底本】

Trump’s Goal of Burying History Won’t Work If Teachers Refuse to Stop Teaching truthout 2025.02.11
https://truthout.org/articles/trumps-goal-of-burying-history-wont-work-if-teachers-refuse-to-stop-teaching/?utm_source=Truthout&utm_campaign=358596d94b-EMAIL_CAMPAIGN_2025_02_11_09_42&utm_medium=email&utm_term=0_bbb541a1db-358596d94b-653696056

ロシア:アフガニスタンとパキスタンの仲介に成功する可能性2025年02月12日 15:18

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【概要】

 ロシアがアフガニスタンとパキスタンの緊張緩和を仲介する可能性は中国よりも高いと考えられる。その理由は、ロシアのユーラシア地域における地政経済戦略が、この二国間関係の安定に大きく依存しているためである。一方で、中国の経済的利益はこの関係に左右されるものではない。

 ロシアのパキスタン駐在大使であるアルベルト・ホレフ氏は、ロシアが両国の対テロ対策を支持すると述べたうえで、二国間または多国間の枠組みでの問題解決を促した。これはロシアが仲介を望んでいることを示している。中国も同様の試みを行っているが、目立った成果を上げることができていない。

 ロシアの地政経済戦略は、中央アジア、アフガニスタン、パキスタンを経由してインドへとつながる並行的な輸送・エネルギー回廊の確立を目指している。そのためには、アフガニスタンとパキスタンの関係を良好に保ち、国境紛争を解決し、さらにはパキスタンとインドの問題にも取り組む必要がある。ロシアはすでに第一段階として、2024年夏にタリバンと戦略的パートナーシップを結び、12月にはパキスタンとの資源協定を締結した。

 次の段階として、ロシアはアフガニスタン・パキスタン間の対立緩和を推進する必要がある。ホレフ大使の発言の背景には、ロシアが両国の対テロ活動を支援しつつ、バランスを保とうとする意図があると考えられる。具体的には、ロシアはパキスタンの主張を支持しつつも、タリバンを非難することは避け、曖昧な形で「必要な支援」を提供すると述べている。これにより、パキスタンにはアフガニスタンからのテロ流入を防ぐ政治的支援を行い、一方でタリバンにはISIS-K対策として小規模な武器供与や特殊部隊の訓練支援などを行う可能性がある。ただし、パキスタンが主張する「タリバンがパキスタン・タリバン運動 (TTP)を支援している」との問題については言及を避けており、これはロシアが慎重にバランスを取っていることを示している。

 中国も同様のアプローチを取っているが、ロシアとは異なり、アフガニスタン・パキスタンの関係改善が中国の経済戦略にとって不可欠ではない。パキスタンはすでに中国の「一帯一路」構想の一環である中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を活用し、アフガニスタンも中央アジア経由で中国と鉄道で結ばれているため、両国間の貿易が円滑である必要はない。したがって、中国は両国の和解を望んでいるものの、それが自身の経済戦略の成否を左右するわけではない。

 対照的に、ロシアは両国の関係改善が自身の地政経済戦略の成否を左右するため、より積極的な介入が求められる。パキスタンにとっては、アフガニスタン経由でロシアと直接陸路でつながることは経済的に大きな利点があり、将来的にはロシアのエネルギー供給を受ける可能性もある。アフガニスタンにとっても、パキスタンとインドを結ぶ回廊の中継地点として経済的利益を得ることができる。このような利益は、中国が両国の仲介に成功したとしても提供されるものではない。

 ロシアは、この外交プロセスを推進するために、具体的なインフラおよびエネルギー投資計画を提示する可能性がある。これには、投資額の見積もり、融資条件、共同所有の可能性、雇用創出などが含まれる。仮に現時点で合意に至らなくとも、将来的に政治的・軍事的状況が変化すれば、これらの計画を基に再び協議が進展する可能性がある。

 現段階では、ロシアの仲介が成功するかどうかを断定することはできないが、少なくとも中国よりも意義のある努力をする可能性が高いと考えられる。

【詳細】

 この分析は、ロシアがアフガニスタンとパキスタンの緊張緩和を仲介する可能性が中国よりも高い理由について述べている。ロシアの地政経済戦略と、この地域における中国の戦略の違いに着目し、それぞれの国がこの問題をどのように位置付けているかを詳述している。以下に、その内容を忠実に詳しく説明する。

 1. ロシアと中国の仲介姿勢の違い

 ロシアと中国はいずれもアフガニスタンとパキスタンの関係改善を促進する意向を示しているが、その動機と影響力に違いがある。中国はすでに仲介を試みているが、成果を上げていない。一方、ロシアには成功の可能性があると指摘されている。

 ロシアの駐パキスタン大使アルベルト・ホレフは、週末にTASS (ロシア国営通信)を通じて、ロシアがパキスタンとアフガニスタンのそれぞれの対テロ活動を支持し、両国が二国間または多国間の枠組みで国境問題を解決することを奨励すると発言した。これは、ロシアが仲介の意向を持っていることを示唆している。

 2. ロシアの地政経済戦略とその必要性

 ロシアは、この地域での経済的・地政学的影響力を強化するために、中央アジア、アフガニスタン、パキスタンを経由してインドへと繋がる並行的な物流およびエネルギー回廊を開発する計画を持っている。この構想の成功には、アフガニスタンとパキスタンの関係改善が不可欠であり、さらに最終的にはパキスタンとインドの関係も改善する必要がある。

 この計画の第一段階として、ロシアは2023年夏にタリバン政権と戦略的なパートナーシップを締結し、さらに12月にはパキスタンとの間で戦略的資源協定を結んでいる。これにより、ロシアは両国と良好な関係を築く土台を整えた。

 しかし、第二段階であるアフガニスタンとパキスタンの緊張緩和はより困難であり、ここにロシアの外交的努力が求められる。

 3. ロシアの対テロ支援と「バランス外交」

 ホレフ大使の発言では、ロシアがパキスタンに対して、アフガニスタンからのテロリストの浸透を阻止するための政治的支援を提供すると示唆している。一方で、ロシアはタリバンを直接非難することを避け、「必要な支援を提供する」と表現した。

 この「必要な支援」とは、

 ・ロシアがタリバンに小規模な武器を提供する可能性
 ・ISIS-K (「イスラム国ホラサン州」)との戦闘能力を高めるためにタリバンの特殊部隊を訓練する可能性

などが考えられる。

 重要なのは、ロシアがパキスタンの立場 (タリバンがTTP〈パキスタン・タリバン運動〉などのテロ組織を支援しているという主張)には言及しなかった点である。この問題に触れれば、ロシアの仲介の立場が損なわれるため、慎重にバランスを取る姿勢を示している。

 4. 中国の仲介が進展しない理由

 中国も同様のアプローチを取っているが、ロシアとは異なり、アフガニスタンとパキスタンの関係改善が必ずしも自国の地政経済戦略の中核ではない。

 パキスタンは、すでに「中国・パキスタン経済回廊 (CPEC)」を活用して中国と直接貿易を行っており、アフガニスタンを経由する必要はない。アフガニスタンも、中央アジア経由で中国と鉄道ネットワークで繋がっており、パキスタンを通過しなくても中国との貿易が可能である。

 したがって、たとえ中国がアフガニスタンとパキスタンの緊張緩和を実現したとしても、両国にとっての経済的なインセンティブはほとんどなく、中国の戦略的利益には大きな影響を与えない。

 これに対して、ロシアは並行的な回廊の開発において、両国の協力が不可欠であるため、より強い動機を持って関与している。

 5. ロシアの仲介による利益

 アフガニスタンとパキスタンが関係を改善すれば、ロシアにとって次のような具体的な利益がある。

 ・パキスタンへのロシア産エネルギー供給の可能性

  ⇨ 現時点では、パキスタンはロシアからのエネルギー供給にアクセスしにくいが、アフガニスタン経由のルートが安定すれば、より直接的な供給ルートが確保される。

 ・アフガニスタンの経済的利益

  ⇨ アフガニスタンは、この回廊の「中継点」として関与することで、トランジット収入やインフラ整備の恩恵を受けることができる。

 ・インドへの回廊延長の可能性

  ⇨ 将来的に、アフガニスタン・パキスタン経由の回廊がインドまで延長されれば、ロシアのインド向け貿易ルートが拡充される。

 これらの経済的メリットがあるため、アフガニスタンとパキスタンは、ロシアの仲介に応じるインセンティブを持つことになる。

 6. ロシアの今後の戦略

 ロシアは、アフガニスタンとパキスタンの緊張緩和を促進するために、より具体的な経済的提案を提示する可能性がある。

 ・具体的なインフラ投資計画の提示

  ⇨ 物流・エネルギー回廊のルート、投資額、融資条件、共同所有の可能性、雇用創出の見込みなどを示す。

 ・段階的な信頼構築措置の提案

  ⇨ 小規模なプロジェクト (道路、貿易拠点)から始め、徐々に関係を改善させる。
たとえ現時点で交渉が進展しなくても、情勢が変化した際に再交渉できる枠組みを残すことが重要である。

 結論

 ロシアは、アフガニスタンとパキスタンの緊張緩和を仲介する意向を持ち、中国よりも成功の可能性が高い。その理由は、ロシアの地政経済戦略がこの関係改善を必要としており、両国に具体的な利益を提供できるためである。今後、ロシアがより詳細な経済提案を提示することで、仲介の成功確率が高まると考えられる。

【要点】

 ロシアがアフガニスタンとパキスタンの仲介に成功する可能性が中国より高い理由

 1.ロシアと中国の仲介姿勢の違い

 ・ロシアの駐パキスタン大使アルベルト・ホレフが、両国の関係改善を促進する意向を表明。
 ・中国も仲介を試みたが、成果を上げていない。
 ・ロシアは対テロ支援を提供しつつ、中立的な立場を維持している。

2. ロシアの地政経済戦略と必要性

 ・ロシアは中央アジア・アフガニスタン・パキスタン経由で**インドへ至る物流・エネルギー回廊**を開発予定。
 ・2023年夏:タリバンと戦略的パートナーシップを締結。
 ・2023年12月:パキスタンと戦略的資源協定を締結。
 ・この回廊の成功にはアフガニスタンとパキスタンの関係改善が不可欠。

3. ロシアの対テロ支援と「バランス外交」

 ・ロシアはパキスタンに対し、アフガニスタンからのテロ侵入阻止を支援。
 ・タリバンを直接非難せず、慎重な外交を展開。
 ・「必要な支援」として、タリバンへの武器供与やISIS-K対策の訓練支援の可能性。

 4. 中国の仲介が進展しない理由

 ・経済的インセンティブが不足

  ⇨ パキスタンはすでに「**中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」を活用。
  ⇨ アフガニスタンも中央アジア経由で中国と直接貿易可能。
  ⇨ アフガニスタン・パキスタンの関係改善が中国の利益に直結しない。

 5. ロシアの仲介による利益**

 ・パキスタンへのロシア産エネルギー供給が可能に
 ・アフガニスタンの経済的利益 (トランジット収入・インフラ整備)
 ・インドへの回廊延長の可能性 (ロシアの対印貿易拡充)

6. ロシアの今後の戦略

 ・具体的なインフラ投資計画の提示(物流・エネルギー回廊の詳細)
 ・段階的な信頼構築措置(小規模プロジェクトから始める)
 ・長期的な交渉枠組みの維持(情勢変化に対応)

結論

 ・ロシアの地政経済戦略にとって、アフガニスタンとパキスタンの関係改善は必須。
 ・中国より強い動機と具体的な利益提供が可能なため、ロシアの仲介成功の可能性が高い。

【引用・参照・底本】

Russia Has A Better Chance Of Mediating Afghan-Pakistani Tensions Than China Does Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.12
https://korybko.substack.com/p/russia-has-a-better-chance-of-mediating?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156975104&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=

鉄鋼およびアルミニウム一律25:EUは結束して対応2025年02月12日 16:53

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【概要】

 2025年2月11日、欧州連合(EU)の指導者らは、米国の鉄鋼およびアルミニウムに対する新たな関税措置に対し、強硬な対応を取ると表明した。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、この「不当な」措置には「断固かつ比例した対抗措置」を講じると述べた。

 米国のドナルド・トランプ大統領は前日、鉄鋼およびアルミニウムの輸入関税を一律25%に引き上げることを発表し、いかなる国にも例外や免除を適用しない方針を示した。

 フォン・デア・ライエン委員長は声明で「EUは経済的利益を守るために行動する。労働者、企業、消費者を保護する」と述べ、「関税は税金であり、ビジネスにとって悪く、消費者にとってはさらに悪い」と指摘した。さらに「EUに対する不当な関税は見過ごせない。強固かつ比例した対抗措置を引き起こす」と強調した。

 ドイツのオラフ・ショルツ首相も連邦議会で「米国が他の選択肢を残さないのであれば、EUは結束して対応する」と述べ、「最終的に貿易戦争は双方の繁栄を損なう」と警告した。

 EUの通商担当委員であるマロシュ・シェフチョビッチ氏は、関税措置について「双方にとって損失となるシナリオ」であり、「経済的に逆効果である」との認識を示した。また「米国は関税を課すことで、自国の市民に課税し、企業のコストを押し上げ、インフレを助長することになる」とストラスブールの欧州議会で述べた。

 フランスのマルク・フェラッチ産業相も、EUはトランプ大統領の関税引き上げに対し「断固かつ一致した対応を取るべきだ」と主張した。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、CNNのインタビューで「欧州の製品に関税をかけることは、アメリカ人にとって価格の上昇を意味する」と指摘した。

 トランプ大統領は、鉄鋼およびアルミニウム産業の支援を目的として関税を引き上げる方針を示しているが、この措置は複数の貿易相手国との間で貿易摩擦を引き起こす可能性がある。

【詳細】

 2025年2月11日、欧州連合(EU)の指導者らは、米国が鉄鋼およびアルミニウムに対して新たに課した関税に対し、強硬な対抗措置を取る方針を示した。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、この措置を「不当なもの」と断じ、「断固かつ比例した対抗措置を講じる」と表明した。

 米国の関税措置の詳細

 米国のドナルド・トランプ大統領は2月10日に、鉄鋼およびアルミニウムの輸入関税を一律25%に引き上げる方針を発表した。この関税措置には、いかなる国にも例外や免除が適用されないとされている。トランプ大統領は、この政策の目的として、自国の鉄鋼・アルミニウム産業の保護を掲げ、国内の雇用を維持・創出する狙いがあるとしている。

 この措置は、特に鉄鋼やアルミニウムの主要輸出国であるEU、日本、中国、カナダ、韓国、メキシコなどに影響を与えることが予想される。また、2018年にトランプ政権が導入した鉄鋼(25%)およびアルミニウム(10%)への関税とは異なり、今回はアルミニウムの関税率も25%に統一されている点が特徴である。

 EUの反応と対抗措置の可能性

 フォン・デア・ライエン委員長は、「EUは経済的利益を守るために行動し、労働者、企業、消費者を保護する」と述べた。さらに、「関税は税金であり、ビジネスにとって悪く、消費者にとってはさらに悪い」とし、「EUに対する不当な関税は見過ごせない。強固かつ比例した対抗措置を引き起こす」と強調した。

 ドイツのオラフ・ショルツ首相も連邦議会で「米国が他の選択肢を残さないのであれば、EUは結束して対応する」と述べた。また、「最終的に貿易戦争は双方の繁栄を損なう」とし、EUの経済にも悪影響を及ぼす可能性があることを指摘した。

 EUの通商担当委員であるマロシュ・シェフチョビッチ氏は、「双方にとって損失となるシナリオ」であり、「経済的に逆効果である」との認識を示した。また、「米国は関税を課すことで、自国の市民に課税し、企業のコストを押し上げ、インフレを助長することになる」と警告した。

 フランスのマルク・フェラッチ産業相も、EUはトランプ大統領の関税引き上げに対し「断固かつ一致した対応を取るべきだ」と主張した。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、CNNのインタビューで「欧州の製品に関税をかけることは、アメリカ人にとって価格の上昇を意味する」と指摘し、関税措置が米国国内の消費者にも悪影響を及ぼすことを強調した。

 過去の事例との比較

 トランプ政権時代の2018年にも鉄鋼・アルミニウムに対する関税が導入されたが、当時はEU、カナダ、メキシコ、日本など一部の同盟国が最終的に一定の免除措置を受けた。しかし、今回の関税措置は「例外や免除なし」と明言されており、より厳格な形で実施される可能性が高い。

 2018年の関税導入時、EUは報復措置として、アメリカ産のバーボンウイスキー、オートバイ、ピーナッツバター、オレンジジュースなどに対して報復関税を課した。今回の措置に対しても、同様の報復関税が課される可能性がある。

 貿易戦争の可能性と影響

 今回の関税措置がエスカレートすれば、EUと米国の間で報復関税の応酬が発生し、貿易戦争に発展する可能性がある。EUは2024年の大統領選後、バイデン政権との間で貿易摩擦を回避するための交渉を進めてきたが、トランプ政権が再び関税強化の方針を打ち出したことで、対立が再燃する可能性が高まっている。

 また、米国の関税措置は、中国、カナダ、メキシコ、日本、韓国など他の主要貿易国にも影響を及ぼし、世界的な貿易摩擦を引き起こす可能性がある。特に中国は過去に鉄鋼やアルミニウムの輸出をめぐって米国と対立した経緯があり、報復措置を取る可能性がある。

 さらに、鉄鋼およびアルミニウムは自動車産業や建設業にとって重要な原材料であるため、関税引き上げによるコスト増が自動車価格や住宅価格の上昇を招く可能性もある。

 今後の展開
 
 EUは今後、具体的な対抗措置について検討を進めるとみられる。過去の事例を踏まえると、米国製品への報復関税の導入や、世界貿易機関(WTO)への提訴などの手段が考えられる。

 一方、米国側も鉄鋼・アルミニウム産業を重視する国内政治的な理由から、関税政策を強行する可能性が高い。トランプ政権は関税措置を通じて、国内の産業支援を優先する姿勢を鮮明にしており、今後の米欧間の交渉が難航することが予想される。

 この状況が長引けば、国際貿易の不確実性が高まり、企業の投資判断や供給網(サプライチェーン)にも影響を及ぼす可能性がある。EUと米国の経済関係は依然として緊密であるため、対立が激化すれば世界経済全体にも影響が波及することが考えられる。

【要点】

 米国の鉄鋼・アルミニウム関税措置とEUの対抗措置

 1. 米国の関税措置の概要

 ・発表日:2025年2月10日
 ・対象品目:鉄鋼およびアルミニウム
 ・関税率:一律25%(アルミニウムの関税が従来の10%から引き上げられた)
 ・適用範囲:全ての国(例外・免除なし)
 ・目的:国内産業の保護、雇用創出

 2. EUの反応と対抗措置の可能性

 ・欧州委員会の反応

  ➢ ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長:「不当な関税であり、比例した対抗措置を取る」
  ➢ マロシュ・シェフチョビッチ通商担当委員:「米国の消費者にも悪影響を及ぼす」

 ・EU各国の反応

  ➢ ドイツ:オラフ・ショルツ首相「EUは結束して対応」
  ➢ フランス:エマニュエル・マクロン大統領「関税は米国の物価を押し上げる」

 ・報復措置の可能性

  ➢ 米国製品(バーボンウイスキー、オートバイ、ピーナッツバターなど)への関税
  ➢ 世界貿易機関(WTO)への提訴

 3. 過去の事例との比較

 ・2018年の関税措置(トランプ政権時)

  ➢ 鉄鋼25%、アルミニウム10%の関税を課した
  ➢ 当初EUも対象だったが、最終的に一部免除を受けた
  ➢ EUは報復措置として、米国製品に追加関税を課した

 ・今回の措置の違い

  ➢ 免除・例外なし
  ➢ アルミニウムの関税も25%に統一
  ➢ EUとの対立がより深刻化する可能性

 4. 貿易戦争のリスクと影響

 ・貿易摩擦の拡大

  ➢ EUだけでなく、日本、カナダ、メキシコ、韓国、中国も影響を受ける
  ➢ 各国の報復関税による貿易戦争の可能性

 ・経済への影響

  ➢ 自動車・建設業界のコスト増大(鉄鋼・アルミニウムは主要原材料)
  ➢ 米国消費者への価格転嫁 → 物価上昇、インフレ加速の可能性
  ➢ 企業の投資判断に悪影響、サプライチェーンの混乱

 5. 今後の展開

 ・EUは対抗措置の詳細を検討中

  ➢ 過去の報復関税と同様の対応が予想される

 ・米国側の対応

  ➢ 国内産業保護のため強硬姿勢を維持する可能性が高い
  ➢ 2024年の大統領選後、トランプ政権の貿易政策が本格化する兆し

 ・国際経済への影響

  ➢ 米欧の経済関係が悪化すれば、世界貿易の不確実性が増大
  ➢ 企業のコスト増・物価上昇による景気悪化リスク

 今後、EUと米国の交渉がどのように進むかが焦点となる。

【引用・参照・底本】

Europe vows 'firm' response to new US tariffs on steel and aluminium FRANCE24 2025.02.12
https://www.france24.com/en/europe/20250211-europe-firm-response-us-trump-25-percent-tariffs-steel-aluminum?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-info-en&utm_email_send_date=%2020250211&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D

半導体産業:市場原理から国家政策へと移行しつつある2025年02月12日 17:24

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【桃源寸評】

 市場経済重視→国家経済政策重点→出口無き迷路化、となれば、国家主導に優れ、技術力に優り、其れを支える広範な市場を有する中国が、<一頭地を出す>ことだろう。

 正に「知識 * 応用力 = 技術」という式は、技術を構成する要素を示すものとして解釈できる。この式では、技術が「知識」と「応用力」の掛け算によって成り立つのではないだろうか。

 ・知識:特定の分野に関する理論的な理解や情報。例えば、半導体の構造や物理的な特性、製造プロセスについての理解。

 ・応用力:得た知識を実際の状況に応じて活用できる能力。例えば、半導体技術を実際に製品化したり、新しい問題に対して適切な解決策を導き出す力。

 ・単に知識を持っているだけでは技術が生まれず、それを適切に応用できる力が加わることで初めて技術として実現されるということを強調している。知識と応用力の両方が重要であり、どちらかが欠けていても技術としての完成度は低くなると考えられる。
 
 やはり、"抜け出す=稼ぎ出す"には、市場が必要である。故に技術力が一層必要とされる。そしてその技術力を導くのが広大な市場なのだ。

 例えば日本、何処にその市場が存在するのか。

 自用ではじり貧となる。

【寸評 完】

【概要】

 この内容は、半導体産業の決定要因が市場原理から国家政策へと移行しつつある現状を詳しく説明している。特に、米中の経済摩擦が影響し、各国政府が積極的に半導体産業を支援するようになった点が強調されている。

 1.熊本県菊陽町の事例

 ・TSMCの工場誘致により地価高騰や人材確保の課題が発生。
 ・地域経済への影響が大きく、今後の半導体政策のモデルケースに。

 2.半導体工場新設の決定要因の変化

 ・以前は市場原理に基づく投資決定が主流。
 ・現在は各国政府が経済安全保障の観点から直接関与。

 3.DX・GXによる半導体需要の増大

 ・(デジタル化): AI・5G・データセンター需要の増加。
 ・GX(脱炭素化): 電化、省電力化によりパワー半導体の需要拡大。

 4.各国政府の半導体政策

 ・米国: CHIPS法による補助金・研究開発支援。
 ・日本: 既存企業の誘致と新興企業の育成。
 ・中国: 半導体の自給率向上を目指し、独自のサプライチェーンを構築。

 5.半導体産業の構造変化

 ・集中生産から経済ブロック単位の分散生産へ。
 ・政府の規制・補助金が投資判断に大きく影響。

 要するに、半導体産業は国家の戦略物資となり、各国政府が積極的に介入する時代に入った。市場原理だけではなく、国際政治の動向が生産体制や投資戦略を決定づけるようになっている。

【詳細】

 半導体産業の新しい投資戦略は、従来の市場原理に基づくものから、国家の経済安全保障や国際政治に強く影響されたものに変化してきている。この変化の背後には、特に米中間の経済摩擦や国際的な供給網のリスクがあり、各国政府は半導体の安定供給を国家戦略の一環として強化し始めている。

 1. 半導体産業の変化

 これまでの半導体産業は、「シリコンサイクル」と呼ばれる需給のサイクルに従って、需要と供給が大きく変動してきた。企業は市場の変動に応じて設備投資を行い、その効果を最大化することが求められていた。しかし、近年ではこの状況が一変し、国際政治や経済安全保障の観点から、半導体産業の投資が国家の手によって主導されるようになった。

 2. デジタルトランスフォーメーション(DX)とグリーントランスフォーメーション(GX)の影響

 現代の社会では、デジタル化(DX)やグリーン化(GX)に伴う半導体需要の急増が予測されている。DXは、人工知能(AI)や高度な通信ネットワークの普及によって、半導体の需要を押し上げており、特にデータセンターや5Gネットワークのインフラ投資がその例だ。GXでは、脱炭素化や循環型経済の推進に伴い、パワー半導体やセンサーなど、より高度な半導体の利用が求められている。これらの変化は、半導体の需要を従来よりも急速に引き上げている。

 3. 国際政治と半導体産業

 半導体が経済安全保障上の重要な戦略物資となったことで、国ごとの政策がその供給の中心に位置するようになった。米中の経済摩擦を背景に、各国政府は自国内での半導体開発・生産を強化し、外部からの技術依存を減らす方向に進んでいる。この背景にあるのは、半導体が国家の産業競争力や防衛能力に直結しているという認識だ。

 例えば、米国は「Chips and Science Act(CHIPS法)」に基づいて、半導体産業への補助金や研究開発支援を行い、自国の生産能力を増強しようとしている。この法案は、2030年までに米国の半導体生産シェアを世界全体の20〜30%に増やすことを目標にしており、そのために約40兆円規模の官民投資を行う予定だ。

 一方、中国は、米国との技術摩擦に対応するために、半導体産業の自立を目指して国家ファンドを投入し、国内の半導体技術開発を加速している。特に最先端の半導体製造装置に対する輸出規制を受けて、比較的輸出規制の少ない分野での生産を強化し、独自の半導体供給網を構築しようとしている。

 4. 半導体振興策の国際競争

 このような背景の中で、各国政府は半導体産業の強化に向けて積極的に振興策を打ち出している。米国、中国に加え、EUやインドなどの国々も、半導体生産シェアを増やすために独自の政策を進めている。例えば、EUは「European Chips Act」を導入し、2030年までに世界の半導体生産シェアを20%にすることを目指している。これにより、特にアナログ半導体やパワー半導体の分野では競争力を維持しつつ、デジタル半導体分野でも自立を目指している。

 5. 半導体工場の立地と地域経済への影響

 半導体工場の新設は、単に企業の意思決定だけでなく、国家の戦略的目標や地域の経済に大きな影響を与えるようになった。たとえば、台湾のTSMCが熊本県菊陽町に半導体工場を建設した例では、周辺地域の地価上昇や渋滞、専門人材の確保の問題などが生じている。こうした問題は、半導体工場が地域経済に与えるインパクトを示しており、今後、半導体産業が地域経済をどのように変革するかが重要な課題となる。

 6. 投資戦略の主体の変化

 かつては、半導体メーカー自身が投資戦略を決定し、供給網の中心に生産拠点を集中させることが多かった。しかし、現在では政府の意向が強く反映され、各国政府が半導体メーカーを誘致し、国内生産を強化する方向に進んでいる。これにより、半導体工場の立地が「経済ブロック単位」に分散する傾向が強まりつつある。

 このように、半導体産業の戦略が大きく変化している背景には、国際政治や経済安全保障の影響が強く働いており、今後の半導体市場の動向は、これらの要因によって大きく左右されることが予想される。

【要点】

 1.半導体産業の変化

 ・従来は市場原理に基づく需給サイクルが主流だったが、現在は国家経済安全保障や国際政治に影響されるようになった。

 2.デジタルトランスフォーメーション(DX)とグリーントランスフォーメーション(GX)の影響

 ・DX:AIや5Gネットワークに伴い、半導体需要が急増。
 ・GX:脱炭素化や循環型経済推進により、特定の半導体需要が増加。

 3.国際政治と半導体産業

 ・米中間の経済摩擦が影響し、各国政府が自国の半導体開発・生産強化に乗り出す。
 ・米国:中国の技術依存を減らし、国内生産能力を増強する政策を強化。
 ・中国:自国の半導体技術開発を加速、米国からの輸出規制を回避。

 4.半導体振興策の国際競争

 ・米国、中国、EU、インドなどが半導体生産シェア拡大のための政策を進めている。
 ・EUは「European Chips Act」を導入、2030年までに世界シェア20%を目指す。

 5.半導体工場の立地と地域経済への影響

 ・半導体工場の立地が地域経済に大きな影響(地価上昇や渋滞、専門人材の確保問題)。

 6.投資戦略の主体の変化

 ・企業の意思決定から政府の政策主導へ。
 ・半導体メーカーは政府の誘致を受けて、国家の経済安全保障戦略に沿った投資を進めている。

【引用・参照・底本】

半導体工場新設の決定要因が一変 市場原理から国際政治の影響下へ 一歩先への道しるべ ビズボヤージュ 2024.02.05
https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/feature/00042/120400001/?n_cid=nbpad_mltg_SF202359114

人工知能と人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組条約2025年02月12日 19:25

Microsoft Designerで作成
【概要】

 2025年2月11日(現地時間)、フランス・パリで開催されたAIアクション・サミットの際に、「人工知能と人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組条約」の署名式が行われた。この条約は、昨年5月に欧州評議会閣僚委員会で採択されたもので、AIシステムのライフサイクル全体にわたる活動が人権、民主主義、法の支配に適合することを目的としている。日本は、アジアで唯一の欧州評議会オブザーバー国として、この条約の起草作業に貢献し、安全で信頼できるAIの実現に向けた国際的な取り組みを主導してきた。

 この条約は、AI活動が人権、民主主義、法の支配に適合することを確保することを目的としており、特に公的機関のAI活動に適用される。民間のAI活動に関しては、条約の規定の適用やその他の適切な措置を講じることが求められ、国防に関する事項は対象外である。また、条約はAI活動に関する原則として、人間の尊厳、透明性、監督、責任、平等、無差別、プライバシー保護、安全なイノベーションなどを掲げている。

 さらに、条約はAI活動による危険性や影響の評価を行い、それに基づいて必要な措置を採ることを求めている。また、AIシステムによる人権侵害に対する実効的な救済措置を設け、国際協力を促進することも重要な内容である。監督機関の設置も義務づけられ、適切な権限・専門知識・資源を備えた独立した機関が義務遵守を監視する役割を担う。

 この条約は、署名国が5か国(欧州評議会加盟国3か国を含む)に達し、署名から3か月後に効力を発する。現時点では、条約は未発効であり、署名国の数が要件を満たす必要がある。

【詳細】

 「人工知能と人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組条約」は、人工知能(AI)の発展と利用における倫理的・法的基準を定めることを目的とした国際的な枠組みである。この条約は、AI活動が人権、民主主義及び法の支配に適合することを保証することを主眼としており、AI技術が引き起こす可能性のある危険性や影響を予測し、これに対処するための措置を各国が講じることを求めている。以下に、この条約の詳細について説明する。

 背景

 この条約の交渉は、2022年4月に欧州評議会の人工知能(AI)に関する委員会で開始された。日本は、欧州評議会のオブザーバー国として、この交渉に参加し、条約の起草過程にも関与している。条約は2024年5月に欧州評議会閣僚委員会で採択され、2024年9月から署名が開放され、2025年2月11日にフランス・パリで行われたAIアクション・サミットの場で正式に署名された。

 主な目的

 この条約の主目的は、AIシステムがそのライフサイクル全体にわたって、人権、民主主義及び法の支配に合致するように確保することである。これには、AIの設計、開発、運用における透明性、公正性、責任を確保し、AI技術が社会に与える影響を管理することが含まれる。

 適用範囲

 この条約は、主に公的機関によるAI活動に適用される。公的機関には、政府機関や公共部門を指し、民間企業が代行する場合も含まれる。また、民間のAI活動については、その危険性や影響に応じて、条約の規定の適用またはその他の適切な措置を取ることが求められている。これには、AIの使用による潜在的な人権侵害を防止するための措置や、個人情報保護などの責任が含まれる。なお、国防に関するAI活動は、この条約の適用外となる。

 AI活動に関する原則

 条約は、AIシステムが遵守すべき基本的な原則を定めている。これらの原則には以下が含まれる:

 ・人間の尊厳:AIの使用が人間の基本的な権利と尊厳を侵害しないこと。
 ・透明性:AIシステムの仕組みや運用に関して、説明責任を果たすこと。
 ・監督と責任:AIシステムの使用に関する監視と管理を徹底し、責任の所在を明確にすること。
 ・平等と無差別:AIが偏見を助長することなく、公正で平等に運用されること。
 ・プライバシーと個人情報保護:AI活動が個人のプライバシーを尊重し、個人情報を適切に保護すること。
 ・安全なイノベーション:AI技術が安全で信頼性のあるものであること。

 危険性・影響評価

 条約は、AI活動が人権、民主主義及び法の支配に及ぼす危険性や影響を特定し、それに対する評価、予防、緩和措置を講じることを求めている。具体的には、AI活動が社会に与えるリスクや影響を定期的に評価し、これに基づいて対策を採ることが求められる。

 実効的な救済措置

 AIシステムの使用によって人権侵害が発生した場合に、被害者が実効的な救済を受けられるよう、条約は実効的な救済手段を規定している。これには、AIシステムに関する情報の記録や、権限を有する当局に対して申立を行う権利が含まれる。

 国際協力

 条約は、締約国が協力し、情報交換や人権保護の強化を図ることを奨励している。特に、AI活動におけるリスクの防止に関して、国際的な連携を強化することが求められる。

 監督機関

 条約は、各国にAI活動が条約に適合しているかどうかを監視する機関の設置を義務付けている。監督機関は、義務遵守を監視するために独立して機能し、必要な権限、専門知識、および資源を備えていることが求められる。

 効力の発生

 本条約は、署名国のうち5か国が締結を表明し、その後3か月間の期間が満了した後に効力を生じる。現時点ではまだ未発効であり、締結国の数が要件を満たす必要がある。

 日本の立場

 日本は、アジアで唯一の欧州評議会オブザーバー国として、この条約の起草作業に貢献してきた。AIを利用した技術革新のリーダーシップを取ることを目指しており、この条約への署名は、国際的なAI枠組みの構築における日本の積極的な姿勢を示すものである。日本は、引き続き安全で信頼できるAI技術の実現を目指し、国際協力を推進していく方針である。

 以上のように、人工知能と人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組条約は、AIの利用が人権や社会に与える影響を管理し、倫理的な基準を設けることを目的としている。各国が共同でその実現に向けた努力を行い、国際的な協力と監督の仕組みを通じて、AI技術が人類に利益をもたらすようにすることを目指している。

【要点】

 ・目的: 人工知能(AI)の発展と利用における倫理的・法的基準を定め、人権、民主主義及び法の支配に適合することを確保する。

 ・背景: 欧州評議会で交渉が開始され、2024年9月に署名が開放され、2025年2月11日にパリで正式に署名。

 ・適用範囲: 公的機関(政府機関や公共部門)によるAI活動に主に適用され、民間のAI活動もリスクに応じて規制。

 ・原則

  ⇨ 人間の尊厳: 基本的人権を侵害しないこと。
  ⇨ 透明性: AIシステムの仕組みや運用に関する説明責任。
  ⇨ 監督と責任: 運用における監視と責任の所在明確化。
  ⇨ 平等と無差別: 偏見なく公正に運用。
  ⇨ プライバシー保護: 個人情報の適切な保護。
  ⇨ 安全なイノベーション: 信頼性の高いAI技術。

 ・危険性・影響評価: AI活動が人権や民主主義に与える影響を予測し、必要な対策を講じる。

 ・救済措置: 人権侵害が発生した場合、被害者が実効的な救済を受ける権利を保障。

 ・国際協力: 各国間で情報交換し、リスク管理の強化を目指す。

 ・監督機関: 各国にAI活動が条約に適合しているかを監視する独立した機関を設置。

 ・効力発生: 署名国の5か国が締結し、3か月後に効力発生。

 ・日本の立場: 欧州評議会オブザーバー国として、AI技術革新のリーダーシップを取ることを目指している。

【参考】

 ☞ AIアクション・サミットは2025年2月にフランス・パリで開催されたもので、初回の開催となる。このサミットでは、人工知能(AI)の責任ある使用に関する国際的な議論が行われ、同時に「人工知能と人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組条約」の署名式も行われた。

AIアクション・サミットは、人工知能(AI)に関連する国際的な課題に取り組むための重要なイベントであり、特にAI技術の発展とその倫理的・社会的影響を管理するための枠組みを議論する場となっている。このサミットは、AI技術の進展に伴い、各国政府、国際機関、業界リーダーが集まり、AIの倫理的利用、人権、法の支配、民主主義への影響などについて議論し、国際的な合意形成を目指す重要な機会である。

以下は、AIアクション・サミットの主な目的と特徴である。

 1.目的: AI技術の倫理的な利用とその管理を推進し、AIがもたらす課題に対する国際的な枠組みを構築すること。

 2.議題

 ・AI技術の進展が人権や民主主義に与える影響。
 ・AIの透明性、説明責任、信頼性、安全性の向上。
 ・AIによるリスクや潜在的な悪用に対処するための国際的なガイドライン。
 ・AIシステムのライフサイクル全体を通じた倫理的管理。

 3.参加者: 世界各国の政府代表、国際機関、AIの研究者、業界のリーダーが一堂に会する。

 4.成果:

 ・AIに関する法的・倫理的枠組みの確立。
 ・各国の政策を調整し、AIに関連するリスク管理や規制の強化。
 ・国際的な協力関係を強化し、AI技術の普及を安全かつ公平に進める。

 5.開催場所: 通常、主要な国際都市で開催されるが、2025年2月にはフランス・パリで開催された。

 6.重要性: 世界中のAI技術の利用とその影響を協調して管理し、各国が協力してより公平で安全なAI技術の運用を推進するための重要な会議である。

 AIアクション・サミットは、AI技術の未来を形作る上で中心的な役割を果たし、特に国際的な協力と規制の枠組み作りに向けた進展を促進する。

 ☞ 2025年2月のAIアクション・サミットに参加した国々は以下の通り
 
 1.日本
 2.カナダ
 3.ジョージア
 4.アイスランド
 5.イスラエル
 6.モルドバ
 7.モンテネグロ
 8.ノルウェー
 9.サンマリノ
 10.イギリス
 11.アメリカ合衆国
 12.中国
 13.欧州連合(EU)も参加している。

 これらの国々は、人工知能に関する国際的な協力や規制の枠組みを進めるために集まり、AI技術の倫理的な利用や影響について議論している。

[参考]

・AI Action Summit kicks off in Paris with aim of harnessing potential while improving governance GT 2024.02.10
https://www.globaltimes.cn/page/202502/1328204.shtml

・US, EU, UK, and others sign legally enforceable AI treatyThe global treaty lays out a set of principles that signatories commit to enforcing.
https://www.theverge.com/2024/9/5/24236980/us-signs-legally-enforceable-ai-treaty?utm_source=chatgpt.com

・日本が欧州のAI条約に署名 人https://www.excite.co.jp/news/article/impress_watch_1262291435053203548/権や法の支配を遵守

・日本が欧州のAI条約に署名 人権や法の支配を遵守
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1662175.html

・AI並びに人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組み条約
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/legal-news/legal-20240828-1.html

・Council of Europe Framework Convention on Artificial Intelligence and Human
Rights, Democracy and the Rule of Law
https://rm.coe.int/1680afae3c?_ga=2.230250847.27750668.1739355365-1280588389.1739355365

・Council of Europe adopts first international treaty on artificial intelligence
https://www.coe.int/en/web/portal/-/council-of-europe-adopts-first-international-treaty-on-artificial-intelligence?_ga=2.230250847.27750668.1739355365-1280588389.1739355365

・欧州評議会AIに関する委員会(CAI)AI条約交渉の概要
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/2022_008_03_00.pdf?_ga=2.268055117.27750668.1739355365-1280588389.1739355365 

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

人工知能と人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組条約の署名 日本外務省 2024.02.11
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_01725.html