ロシアと米国の北極圏協力:中国の貿易安定化や交渉力向上2025年03月02日 19:09

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【概要】
 
 「ロシアと米国の北極圏協力が中国の利益を損なうことはない」という主張には、以下の5つの理由が挙げられている。

 1.ロシアと中国の戦略的パートナーシップは互恵的である

 過去数年間、ロシアと中国は戦略的関係を強化しており、これは双方の利益に適合している。最近では、ロシアの安全保障会議書記であるセルゲイ・ショイグ氏の北京訪問中に、両国はこの互恵的関係を再確認した。したがって、米国の発言だけでこの関係に亀裂が生じることは考えにくい。

 2.両国にはパートナーを多様化する主権的権利がある

 中国がウクライナとの軍事的パートナーシップを維持しているように、ロシアも米国との経済的協力を追求する主権的権利を有している。これらの関係は、各国の主権的決定であり、相互のパートナーシップに影響を与えるべきではない。

 3.パートナーの多様化は競争を促し、より良い取引をもたらす

 インドが先駆けたように、複数のパートナーとの関係を築くことで競争が生まれ、より有利な取引が可能となる。中国がロシアやウクライナなどと軍事的に協力しているのと同様に、ロシアが北極圏で中国や米国と経済的に協力することも、最良の取引を追求する合理的な戦略である。

 4.同じ地域の国との経済的結びつきを優先するのは自然なことである

 米国は北極圏の国であり、中国はそうではない。したがって、ロシアがこの地域で米国との経済的結びつきを優先するのは自然なことである。特に、ロシアと米国の間で新たなデタント(緊張緩和)が始まっている状況ではなおさらである。

 5.ロシアと米国の緊張緩和は中国とEU間の貿易を促進する

 北極圏でのロシアと米国の緊張が緩和されれば、この航路を利用した中国とEU間の貿易が円滑化される。逆に、緊張が続けば、米国がロシアを封じ込める名目で海上輸送に障害を設ける可能性がある。したがって、中国にとってもロシアと米国の北極圏での協力は利益となる。

 これらの理由から、ロシアと米国の北極圏での協力が中国の利益を損なうという懸念は根拠が薄いと考えられる。むしろ、この協力は中国のEUとの貿易促進など、広範な利益をもたらす可能性がある。

【詳細】
 
 ロシアと米国の北極圏協力が中国の利益を損なわない理由についての詳細分析

 アンドリュー・コリブコ氏の主張をさらに詳しく検証するため、ロシア・米国・中国の関係における戦略的要素、北極圏の地政学的状況、および経済的要素を考慮しながら、以下の5つのポイントを詳細に説明する。

 1. ロシアと中国の戦略的パートナーシップは互恵的であり、簡単に崩れるものではない

(1)ロシアと中国の関係の現状

 ロシアと中国は過去数年にわたり、経済・軍事・外交の各分野で協力関係を強化してきた。特に、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、西側諸国がロシアに対して制裁を強化する中、中国はロシアとの関係を強め、以下のような取り組みを行っている。

 ・エネルギー協力の強化:ロシアは欧州向けのエネルギー輸出が制限される中、中国向けの供給を拡大し、「シベリアの力」パイプラインを通じた天然ガス輸出を増加させている。
 ・通貨・金融協力:米ドル決済の制限を回避するため、人民元とルーブルによる取引が拡大し、ロシアの外貨準備における人民元の比率が上昇している。
 ・軍事協力の深化:ロシアと中国は合同軍事演習を定期的に実施し、安全保障面での連携を強めている。

 このような関係が築かれた背景には、両国の戦略的利益が一致していることがある。ロシアは西側諸国との対立が深まる中で、中国との経済的・軍事的協力を強化することが合理的であり、中国にとってもロシアからの安価なエネルギー供給は経済成長に不可欠である。

(2)米国の試みはロシアの基本戦略を変えられない

 米国はロシアと中国の関係を弱体化させることを狙い、「ロシアを中国の“従属的なパートナー”にさせない」と主張している。しかし、ロシアが中国との関係を完全に断ち切ることは非現実的である。

 ・エネルギー市場の依存度:ロシアのエネルギー輸出における中国の比率は急速に上昇しており、経済的に代替が難しい。
 ・西側との対立:ロシアはNATOとの緊張関係が続く中で、中国との協力を維持することが国益に適う。
 ・イデオロギー的要因:ロシアと中国はともに「多極化世界秩序」の支持を公言しており、米国中心の国際秩序に対抗する姿勢を共有している。

 したがって、北極圏におけるロシアと米国の限定的な経済協力があったとしても、ロシアが中国との戦略的パートナーシップを放棄することにはならない。

 2. ロシアと中国はパートナーを多様化する主権的権利を持つ

 (1)中国もウクライナと軍事協力を継続

 中国はロシアとの関係を維持しつつ、ウクライナとも軍事的な協力を続けている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の報告によると、2019年から2023年の間にウクライナの武器輸出の59%が中国向けであり、中国の兵器輸入の8.2%を占めていた。

 ・航空技術協力:ウクライナはかつてソ連の一部であり、高度な航空技術を持つ企業(モトール・シーチなど)を保有している。中国はこれらの技術を導入し、自国の軍事技術の発展に活用している。
 ・兵器輸入:ウクライナからの軍事技術導入は、中国の国防産業において重要な役割を果たしている。

 中国がロシアと良好な関係を持ちながらも、ウクライナとの軍事協力を継続しているように、ロシアが北極圏で米国との限定的な経済協力を行ったとしても、中国がこれを問題視する理由は少ない。

 3. パートナーの多様化は競争を促し、より良い取引をもたらす

 ロシアが北極圏で米国と協力することは、中国にとって必ずしも悪いことではなく、むしろ経済的なメリットをもたらす可能性がある。

 ・競争による取引条件の改善:ロシアが米国との協力を進めることで、中国はより有利な条件でロシアからのエネルギー供給を確保できる可能性がある。
 ・インドの多極外交戦略と類似:インドは米国・ロシア・フランスなどから兵器を調達し、各国を競争させることで最良の条件を引き出している。ロシアも同様に、中国・米国の間でバランスを取りながら、より良い経済条件を得ようとするのは合理的な戦略である。

 4. 同じ地域の国との経済的結びつきを優先するのは自然なこと

 北極圏は米国・ロシア・カナダ・ノルウェー・デンマークなどの沿岸国が主に関与する地域であり、地理的に中国の影響力は限定的である。したがって、ロシアが北極圏において米国との経済的結びつきを強化することは、地政学的に見ても自然な流れである。

 また、現在進行中のロシア・米国の「新デタント」(緊張緩和)を踏まえれば、ロシアが米国との経済協力を推進することは外交的にも妥当である。

 5. ロシアと米国の緊張緩和は中国とEUの貿易を促進する

 北極海航路(Northern Sea Route, NSR)は、中国・ロシア・欧州を結ぶ重要な貿易ルートである。このルートの安定性は、中国の貿易に大きな影響を与える。

 ・ロシアと米国の対立が続けば、米国は制裁や航行妨害を強化する可能性がある
 ・ロシアと米国が協力すれば、このルートの利用が安定し、中国の貿易にも好影響を与える

 したがって、北極圏におけるロシアと米国の協力は、中国にとっても貿易の安定性を高めるメリットがある。

 まとめ

 ロシアと米国の北極圏協力は、中国の利益を損なうどころか、戦略的・経済的に中国にも利益をもたらす可能性が高い。

【要点】

 ロシアと米国の北極圏協力が中国の利益を損なわない理由

 1. ロシアと中国の戦略的パートナーシップは揺るがない

 ・エネルギー協力の強化:ロシアは欧州向け輸出の減少を中国向けで補っており、代替は困難。
 ・金融協力の深化:ルーブル・人民元決済が増加し、制裁回避の手段となっている。
 ・軍事協力の継続:合同軍事演習を実施し、安全保障面での連携を強化。
 ・米国の分断工作は限界:ロシアは中国との関係を完全に断ち切ることは不可能。

 2. ロシアと中国はパートナーを多様化する権利を持つ

 ・中国もウクライナと軍事協力を継続:兵器輸入や航空技術協力を行い、軍事技術を向上。
 ・ロシアも多角的外交を実施:北極圏で米国と協力することは、単なる経済戦略の一環。
 ・互いに柔軟な外交を展開:限定的な協力が即座に同盟崩壊につながるわけではない。

 3. パートナーの多様化は中国にとっても有利

 ・競争による取引条件の改善:ロシアが米国と協力すれば、中国はより有利な条件で取引可能。
 ・インドの事例と類似:インドは多国間から兵器を調達し、価格交渉力を強化。ロシアも同様の戦略を採る可能性。
 ・中国はロシアに依存しない:ロシアの北極圏協力が中国の戦略に大きな打撃を与えることはない。

 4. 北極圏では沿岸国との協力が優先される

 ・北極圏の主要関係国はロシア・米国・カナダ・ノルウェーなど:地理的に中国の影響は限定的。
 ・北極海航路の発展には協力が不可欠:ロシアは地域の安定を優先し、中国の関与は二次的。
 ・地政学的に自然な動き:ロシアが米国と北極圏で協力するのは合理的な戦略。

 5. ロシアと米国の協力は中国の貿易にも好影響を与える

 ・北極海航路の安定化:ロシアと米国の対立が激化すれば、米国が制裁や航行妨害を強化する可能性。
 ・航路の安全確保:ロシア・米国の協力により、中国の貿易ルートの安定性が向上。
 ・EUとの貿易促進:ロシア・米国の関係改善が、北極圏経由の貿易を円滑にし、中国経済にもプラスに働く。

 まとめ

 ロシアと米国の北極圏協力は、中国の利益を損なうどころか、貿易の安定化や交渉力向上といったメリットをもたらす。

【引用・参照・底本】

Fact Check: Potential Russian-US Cooperation In The Arctic Wouldn’t Harm China’s Interests Andrew Korybko's Newsletter 2025.03.02
https://korybko.substack.com/p/fact-check-potential-russian-us-cooperation?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=158212095&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&token=eyJ1c2VyX2lkIjoxMTQ3ODcsInBvc3RfaWQiOjE1ODIxMjA5NSwiaWF0IjoxNzQwODk1MDc4LCJleHAiOjE3NDM0ODcwNzgsImlzcyI6InB1Yi04MzU3ODMiLCJzdWIiOiJwb3N0LXJlYWN0aW9uIn0.mwi6QPZqndho1vVIChORQnvfnBGAeYEhEtXcRmxR_Og&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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