【概要】

　中国の軍事専門家は、DeepSeekのAIモデルが新たな兵器や無人車両の開発に応用できると述べている。DeepSeekは、無人車両の制御や指令の発信など、さまざまな軍事用途に使用できるとされる。これは、重慶ランドシップ情報技術(自動運転ソリューション提供者)によって発表されたホワイトペーパーに記載されている。

　ランドシップによると、DeepSeekは指令、通信、情報収集、監視、偵察(ISR)といった軍事分野において優れた可能性を持つとされており、軍事戦略の立案においても、大量の情報を分析し、正確な意思決定を支援することができるという。DeepSeekは高い言語理解と生成能力を備え、戦場の任務に迅速に適応することができるとされている。

　さらに、DeepSeekは衛星、レーダー、ドローンと連携することで、軍事偵察の効率性と精度を向上させることができるとされている。衛星画像から重要な軍事目標を迅速に識別し、そのサイズや数を推定して、軍事的な意思決定を支援する。

　ランドシップは2025年2月、DeepSeekを搭載した自動運転軍事車両「Xingji P60」を発表した。この車両は、ランドシップの民生用自動運転ソフトウェアと、DeepSeekの軍事用大規模言語モデル(LLM)を統合し、複雑で変化する環境における情報処理と意思決定を効率的に行うことができる。

　また、IDriverPlus(ランドシップの親会社)と中国の国有企業ノリンコは、オールテレイン無人救助車両の共同開発に関する戦略的協力契約を締結した。

　DeepSeekの最新AIモデル「DeepSeek R1」は、Nvidia H800グラフィック処理ユニットを使用した低コストの方法「知識蒸留」により訓練された。これにより、より高性能なAIチャットボットを活用してロジックを微調整し、知能を向上させた。

　中国の軍事評論家であるXu Bingjun氏は、DeepSeekの低コスト戦略を評価し、DeepSeekがリアルタイムで戦場の状況を分析し、戦闘計画を最適化することにより、戦闘の効果を大幅に向上させると述べている。無人兵器、ドローン、無人戦車や艦船など、より多くの自律的な戦闘プラットフォームが開発されることで、兵員の犠牲を減らし、戦闘効率が向上するという。

　アメリカでは、DeepSeekが政府のデバイスに使用されることを禁じる法案が提出されるなど、国家安全保障上の懸念から、DeepSeekに対する制限が強化されている。

　ランドシップは、Huaweiと協力して、DeepSeekの軍事分野での活用を促進しようとしており、DeepSeek R1をHuaweiのモバイルデータセンター(MDC)システムに導入し、リアルタイムの推論能力を向上させることを目指している。

【詳細】　

　DeepSeekのAI技術は、中国の軍事用途において大きな可能性を秘めているとされており、特に無人車両や自律型兵器システムの開発に貢献することが期待されている。以下は、DeepSeekの軍事利用に関するさらなる詳細な説明である。

　1. DeepSeekの技術的な特徴と軍事利用

　DeepSeekは、言語理解と生成において非常に高い能力を持つAIシステムであり、これにより戦場で迅速かつ的確な指令を出すことが可能となる。このAIは、複雑で変化する戦闘環境においても適応でき、軍事指令の発信や通信、情報分析など、多岐にわたる軍事任務をサポートする。

　特に、DeepSeekは以下の分野での活用が期待されている。

　・指令と通信: DeepSeekは、戦場での命令や指令の迅速な伝達を支援する。AIが言語理解を駆使して指令を生成し、軍事部隊間で効率的な通信を可能にする。
　・情報収集と監視(ISR): 深層学習アルゴリズムを用いて、大量の衛星データやレーダー情報、ドローン映像を迅速に分析し、重要な軍事目標を特定する。これにより、リアルタイムでの戦場情報提供が可能となり、指揮官の意思決定を支援する。
　・戦略的意思決定支援: 戦場でのデータ分析により、戦闘計画を最適化し、敵の動きを予測することができる。これにより、軍事戦略を動的に調整し、迅速な意思決定を行うことが可能となる。

　2. 無人兵器と自律型兵器の発展

　DeepSeekのAIは、無人兵器や自律型戦闘プラットフォームの開発を加速する可能性がある。無人戦車、無人艦船、ドローンなどが、戦場で独立して任務を遂行できるようになる。このようなプラットフォームは、戦闘の際の人的損失を減少させるとともに、より効率的な戦闘を実現する。

　・無人戦車・艦船: DeepSeekを搭載した無人戦車や艦船は、複雑な環境下で自律的に動作することが可能であり、兵士のリスクを減らしつつ、高い戦闘能力を発揮する。これらのプラットフォームは、AIによってリアルタイムで周囲の状況を把握し、迅速に対応する。
　・ドローンの自律化: ドローンは、監視や偵察任務だけでなく、攻撃任務にも使用されるようになる。DeepSeekのAIは、これらのドローンに高度な認識能力を与え、ターゲットを精確に識別し、攻撃する能力を向上させる。

　3. 衛星と連携した偵察活動

　DeepSeekは、衛星画像やレーダーデータを解析する能力があり、これにより、遠隔地からの軍事目標の特定が迅速に行われる。衛星と連携することで、広範囲にわたる情報収集が可能となり、戦場の全体像を把握しやすくなる。これにより、軍の司令部は、戦場の動向を正確に把握し、必要な判断を迅速に下すことができる。

　・ターゲット識別と評価: DeepSeekは、衛星画像を解析して、敵の兵器や基地を迅速に識別し、その規模や配置を推定する。この情報を基に、軍事的な意思決定が支援される。

　4. ランドシップとDeepSeekの提携

　DeepSeekのAI技術を開発したランドシップ(旧北京ランドシップ情報技術)は、深層学習と自動運転技術を組み合わせ、無人車両や兵器システムに適用することを目指している。特に、ランドシップはHuaweiとの協力を強化し、HuaweiのAIチップを利用した自律型システムの開発を進めている。

　・Xingji P60車両: ランドシップは、DeepSeekを搭載した自律型軍事車両「Xingji P60」を発表し、これを国際防衛展示会(IDEX 2025)で披露した。この車両は、民間用自動運転技術とDeepSeekの軍事用AIを統合し、戦場での複雑な状況下での効率的な意思決定を支援する。
　・Huaweiとの協力: Huaweiとランドシップは、AI技術を軍事分野に応用するための協力関係を構築しており、DeepSeek R1の展開を通じて、AIによる意思決定支援とリアルタイム推論の向上を目指している。

　5. アメリカでの反応と制限

　DeepSeekの技術は、アメリカや西側諸国において警戒されており、アメリカの議会ではDeepSeekが政府機関のデバイスで使用されることを禁じる法案が提出されている。また、アメリカの一部の州やNASAなどでは、DeepSeekが公式デバイスで使用されることを制限している。これらの動きは、DeepSeekの技術が国家安全保障に与える潜在的なリスクを懸念してのものだ。

　6. 今後の展望

　DeepSeekは、低コストで高性能なAI技術を提供することを目指しており、その軍事分野での利用がますます進んでいる。AIと自律型兵器の融合は、今後の戦争の様相を大きく変える可能性があり、DeepSeekの技術はその中心的な役割を果たすと考えられている。

　・多様な軍事プラットフォームへの適用: 今後、DeepSeekはさらに多くの無人戦闘システムや自律型兵器に搭載され、戦場での自動化が進むと予想されている。AIによる戦闘支援は、人的リスクを減少させる一方で、戦闘の効率を向上させる。

　以上のように、DeepSeekのAIは軍事分野において革新的な可能性を秘めており、特に無人兵器や戦場での情報解析において重要な役割を果たすとされている。

【要点】

　DeepSeekのAI技術の軍事利用について、箇条書きで説明する。

　1. DeepSeekの技術的な特徴と軍事利用

　・言語理解と生成に優れ、戦場での指令伝達や情報分析に活用。
迅速な指令発信、通信、情報収集(ISR)を支援。
戦略的意思決定をサポートし、リアルタイムでの戦場情報提供を実現。

　2. 無人兵器と自律型兵器の発展

　・無人戦車、無人艦船、ドローンなど、戦闘プラットフォームに活用。
　・DeepSeekを搭載した無人兵器は、自律的に任務を遂行し、戦闘効率を向上。
　・ドローンは攻撃任務もこなす、ターゲット識別能力を強化。

　3. 衛星と連携した偵察活動

　・衛星画像やレーダーデータを解析し、戦場の全体像を把握。
　・戦場でのターゲット識別と評価を迅速に実施。
　・戦闘計画の最適化と敵動向の予測を支援。

　4. ランドシップとDeepSeekの提携

　・ランドシップはDeepSeekを無人車両や兵器システムに統合。
　・「Xingji P60」自律型軍事車両を発表、民間自動運転技術とAIを融合。
　・Huaweiとの協力で、AI技術の軍事応用を進める。

　5. アメリカでの反応と制限

　・アメリカでは、DeepSeekが政府機関のデバイスで使用されることを制限する法案が提出。
　・DeepSeekの技術が国家安全保障に与えるリスクを懸念。

　6. 今後の展望

　・DeepSeekは低コストで高性能なAIを提供し、無人戦闘システムや自律型兵器に搭載される。
　・AIによる戦闘支援が進み、人的リスクを減少させるとともに、戦闘の効率を向上させる。

【引用・参照・底本】

China explores military applications with DeepSeek ASIA TIMES 2025.03.01
https://asiatimes.com/2025/03/china-explores-military-applications-with-deepseek/

【桃源寸評】

　「ザンビアは対中債務がGDPの40%以上に達し」やスリランカの債務の例が挙げられているが、債務の内訳を債権国別に腑分けできればと思う。
　スリランカの場合など、確か随分以前に、中国が云うには西側の債権が大部分を占めていると、数値を挙げていた。

　アフリカというが、フランス等はは追い出されている。
　それにしても、焦点の定まらない記事内容である。

【寸評　完】

【概要】

　アフリカにおける中国の影響力の拡大は、国際的な勢力図を変化させており、特に米国やフランスの影響を凌駕する状況が生まれている。中国は現在、アフリカ最大の貿易相手国である。この現象に対し、西側諸国のメディアや政策立案者は、赤色で塗られた地図や中国国旗を多用することで、中国の影響力の拡大を視覚的に強調している。

　こうした手法は、中国の存在を脅威として認識させる「セキュリタイゼーション(安全保障化)」の一環であり、特定の聴衆(米国、日本、フランスなど)に対し、中国のアフリカ進出を自身の利益への直接的な挑戦として印象づける。しかし、このような視覚的表現は、アフリカ諸国の主権を過小評価し、単なる大国間競争の舞台として描くことで、各国の主体性を軽視する傾向がある。

　中国のアフリカにおける影響力は、特にインフラ、デジタルネットワーク、安全保障の分野で顕著であり、東アフリカやアフリカの角地域では経済的関与が中心であるものの、戦略的要衝における軍事拠点の確保など、安全保障上の懸念も増している。例えば、中国が管理する港湾施設(ジブチなど)は、商業利用と軍事利用の両方が可能であり、海上輸送路の戦略的制圧につながる可能性がある。

　また、中国の通信・デジタル分野への関与も、データ管理やサイバー監視に関する懸念を引き起こしている。中国企業の投資はアフリカのデジタル化を促進しているが、同時に情報流通やサイバーセキュリティにおける影響力の増大をもたらしている。これにより、中国がサイバー監視や政治的圧力の手段として活用する可能性が指摘されている。

　一方で、中国の影響力を脅威として過度に強調することには問題がある。まず、アフリカ諸国の主権と主体性を損なう形で描かれることが多く、これにより各国が自らの外交政策を独自に策定している事実が軽視される。例えば、ケニアは積極的に中国からの投資を誘致しつつ、米国や日本との関係をバランスよく維持する戦略を取っている。

　次に、こうした「脅威」としてのイメージが、政策的な過剰反応を招く可能性がある。例えば、米国や日本がアフリカへの関与を「中国への対抗策」として捉えた場合、アフリカ諸国の実際のニーズと合致しない政策が押し付けられる懸念がある。これは、エチオピアの事例にも見られ、西側諸国が制裁や支援の削減を行ったことで、中国やロシアへの接近を促す結果となった。

　中国のアフリカ進出が、各国にとって機会となるのか、あるいは負担となるのかは、アフリカ諸国自身がどのように国家利益を主張し、パートナーシップを形成するかにかかっている。主権を維持しつつ、中国の投資を効果的に活用することが、各国の戦略にとって重要な課題である。

【詳細】　

　アフリカにおける中国の影響とリスクの詳細分析

　中国のアフリカ進出は、経済・インフラ・デジタルネットワーク・安全保障の各分野で拡大している。これに伴い、中国の影響力を示す地図やビジュアルが欧米のメディアや政策立案者によって頻繁に使用されるようになっている。しかし、これらの表現は現実を単純化し、中国の存在を脅威として過度に強調する「セキュリタイゼーション(安全保障化)」の手法として利用されている。この記事では、中国のアフリカ進出の実態を多角的に分析し、各国が直面する主なリスクと課題を詳述する。

　1. 中国のアフリカ進出の概要

　(1) 経済・貿易

　中国はアフリカ最大の貿易相手国であり、2022年の貿易総額は2,820億ドルに達した。主要な輸出品は石油、鉱物資源、農産物であり、中国は代わりに工業製品や機械を輸出している。アフリカ諸国にとって、中国市場は重要な輸出先であり、中国の資本はインフラ整備に不可欠な役割を果たしている。

　(2) インフラ投資

　中国の企業や政府機関は、鉄道、道路、港湾、電力網などのインフラ整備に積極的に投資している。例えば、エチオピアの首都アディスアベバとジブチを結ぶ鉄道(アディスアベバ-ジブチ鉄道)は中国の融資と技術支援により建設された。また、ケニアのモンバサ・ナイロビ標準軌鉄道(SGR)も中国の支援によって完成した。こうしたプロジェクトはアフリカの経済発展に貢献しているが、融資条件や債務負担の問題も指摘されている。

　(3) デジタルネットワーク

　中国の通信企業、特に華為技術(Huawei)や中興通訊(ZTE)は、アフリカ各国のデジタルインフラ整備に関与している。これにより、通信技術の普及やインターネットアクセスの向上が進んでいる。一方で、中国企業が構築したネットワークがデータの監視や情報統制に利用される可能性が指摘されている。

　(4) 安全保障分野

　中国はジブチに初の海外軍事基地を建設し、紅海やアフリカ東部沿岸の要衝での軍事的プレゼンスを強化している。また、アフリカ各国の警察・軍隊向けに装備や技術支援を提供し、安全保障分野での影響力を拡大している。

2. 「セキュリタイゼーション」による誤解と影響

(1) 地図やビジュアル表現の問題

　欧米のメディアや政策立案者は、中国の影響力を示すために、アフリカ地図上に中国の国旗を重ねたり、赤色で塗りつぶしたりすることが多い。このような表現は、中国の関与を「外国の侵略」として印象づける効果を持つ。しかし、これは実際の経済関係や外交交渉の複雑さを無視し、中国の影響を過剰に脅威として扱うことにつながる。

　(2) アフリカの主権と国家意思の軽視

　中国の進出を「侵略」として描くことで、アフリカ諸国が主体的に外交政策を決定しているという事実が軽視される。例えば、ケニアやエチオピアは、インフラ投資や経済協力の一環として中国と積極的に交渉している。しかし、欧米の視点では、これらの国々が戦略的決定を下す能力を持たないかのように描かれることが多い。

　(3) 欧米諸国の戦略的誤算

　中国のアフリカ進出を単なる地政学的競争と捉えた場合、欧米諸国は対抗措置として投資を増やすか、制裁を強化するという短絡的な対応を取る可能性がある。実際、エチオピアはティグレ紛争を理由に欧米から制裁を受けたが、その結果、中国やロシアとの関係を強化する方向にシフトした。このような対応は、アフリカ諸国の対外政策の選択肢を狭めるだけでなく、長期的な関係構築にも悪影響を及ぼす。

　3. 中国の進出に伴う具体的なリスク

　(1) 債務の増加

　中国の融資はインフラ整備に貢献しているが、債務負担の問題も生じている。例えば、ザンビアは対中債務がGDPの40%以上に達し、債務返済の困難に直面している。スリランカのハンバントタ港の例(債務不履行による99年間の租借)を考慮すると、アフリカ諸国も同様の状況に陥る可能性がある。

　(2) データ安全保障のリスク

　中国企業が構築するデジタルインフラは、国家安全保障に関わるデータを管理する可能性がある。例えば、エチオピアでは中国の通信機器を利用した監視体制の強化が指摘されており、政府が反対派やジャーナリストを監視する手段として悪用されるリスクがある。

　(3) 二重用途(デュアルユース)のインフラ

　中国が建設する港湾や鉄道は、商業利用と軍事利用の両方が可能である。ジブチの中国軍事基地はその典型例であり、紅海の要衝における中国の戦略的影響力を拡大させている。今後、他のアフリカ諸国でも中国が軍事拠点を確保する可能性があり、これが地域の安全保障バランスを変化させる要因となる。

　4. まとめと今後の展望
　
　中国のアフリカ進出は、経済的利益と地政学的リスクの両面を持つ。欧米が「セキュリタイゼーション」によって中国の影響を過度に脅威として扱うことは、アフリカ諸国の主権や外交的自由を軽視することにつながる。一方で、中国のデジタルネットワーク支配や軍事プレゼンスの拡大には、慎重な監視と対応が求められる。

　アフリカ諸国にとっての課題は、中国との関係を適切に管理し、国家利益を最大化することである。中国の投資を活用しつつ、債務リスクや安全保障上の問題に対処するためには、多様な国際関係を維持し、透明性の高い契約や規制を導入することが不可欠である。

【要点】

　アフリカにおける中国の影響とリスク

　1. 中国のアフリカ進出の概要

　(1)経済・貿易

　・2022年の貿易総額は約2,820億ドル
　・アフリカは石油・鉱物資源・農産物を輸出し、中国は工業製品・機械を輸出

　(2)インフラ投資

　・鉄道・道路・港湾・電力網の整備を主導
　・例：アディスアベバ-ジブチ鉄道、モンバサ・ナイロビ標準軌鉄道(SGR)

　(3)デジタルネットワーク

　・HuaweiやZTEが通信インフラを提供
　・監視技術の導入が懸念される

　(4)安全保障分野

　・ジブチに初の海外軍事基地を建設
　・アフリカ諸国の警察・軍隊に装備・技術支援

　2. 「セキュリタイゼーション」による誤解と影響

　(1)地図やビジュアル表現の問題

　・アフリカ全土を中国の国旗や赤色で塗りつぶすなどの誇張表現

　(2)アフリカの主権軽視

　・各国が主体的に外交政策を決定している事実を無視

　(3)欧米諸国の戦略的誤算

　・アフリカ諸国への制裁が逆効果となり、中国やロシアとの関係強化を招く

　3. 中国進出に伴う具体的リスク

　(1)債務の増加

　・ザンビアの対中債務はGDPの40%以上
　・スリランカのハンバントタ港のような債務不履行リスク

　(2)データ安全保障のリスク

　・監視技術が政府による反対派・ジャーナリスト監視に利用される可能性

　(3)二重用途(デュアルユース)のインフラ

　・商業利用と軍事利用の両方が可能なインフラ建設
　・例：ジブチの中国軍事基地

　4. まとめと今後の展望

　・欧米の「セキュリタイゼーション」はアフリカ諸国の外交的自由を制限
　・中国のデジタルネットワーク支配や軍事プレゼンスには慎重な対応が必要
　・アフリカ諸国は多様な国際関係を維持し、透明性の高い契約や規制を導入することが不可欠

【引用・参照・底本】

China in Africa: Footprint maps mislead while real risks rise ASIA TIMES 2025.03.06
https://asiatimes.com/2025/03/china-in-africa-footprint-maps-mislead-while-real-risks-rise/

【桃源寸評】

　プーチンは、未だトランプから何も条件を明示されていないのでないか。
　それに、「中国への過度な依存を回避するため」というが、プーチン、つまりロシアは其のことについては、なにも言及していないと考えるが。

　プーチン(ﾛｼｱ)は、米国(西側)には何度も結果的には騙されている。
　今次のｳｸﾗｲﾅ戦争も、"一歩たりとも"が原因だと、当初プーチンは述べていた。

　中国を敬遠していては、中露の結束もロシア側が破ることになる。

【寸評　完】

【概要】

　ロシアのプーチン大統領がウクライナとの停戦に合意するかどうかについて、両方の可能性を支持する理由を5つずつ挙げている。

　停戦に応じない理由

　1.占領地域の完全な奪還を目指している

　プーチン大統領は、ウクライナが2022年9月にロシア編入を決めた4地域（ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソン）全域から撤退し、NATO加盟を放棄することを停戦の条件としていた。その後、ウクライナはクルスク州への攻撃を開始しており、ロシアが現時点で停戦を受け入れた場合、これらの地域の一部が事実上ウクライナの支配下にとどまり、朝鮮半島の非武装地帯（DMZ）のような膠着状態になる可能性がある。

　2.戦線が近く崩壊する可能性がある

　ウクライナが米国の軍事・情報支援を再開させる目的で停戦を提案したと考えられるが、ロシア側はこれを戦況が自国に有利に傾いている証拠と見なしている。したがって、停戦せずに攻勢を継続することで、占領地域の解放を迅速に達成できる可能性がある。

　3.西側平和維持部隊を阻止するため

　停戦期間中に欧州諸国の平和維持部隊がウクライナに派遣される可能性があり、すでにウクライナで活動している外国人部隊が「平和維持軍」として正式に認められる可能性もある。ロシアはこれをNATOの事実上の軍事介入と見なし、標的にすると明言しているため、停戦せずに戦闘を継続することで、この動きを阻止しようとする可能性がある。

　4.ロシア国内の世論の反対

　軍事作戦に従事した兵士を含む一部のロシア国民は、現在の戦況で停戦に応じることを「未完の戦い」と見なし、強く反対している。政府は特に軍関係者の意見を重視するため、国民感情がプーチン大統領の判断に影響を与える可能性がある。

　5.トランプが脅しだけである可能性

　トランプ政権は、ロシアが停戦を拒否した場合、中国やインドに対する二次制裁を強化すると警告しているが、プーチン大統領がこれを単なる威嚇と判断すれば、戦闘継続を選択する可能性が高い。プーチン大統領は、外交交渉を有利に進めるために交渉に応じているが、最大限の要求が受け入れられない場合、軍事行動を継続する可能性がある。

　停戦に応じる理由

　1.中国への過度な依存を回避するため

　トランプ大統領は、ロシアが停戦を拒否した場合、中国とインドに対して対ロ制裁の履行を強く求めると示唆している。インドがこれに従えば、ロシアの経済は中国への依存度を大幅に高めることになる。ロシアは中国に対するカウンターバランスとしてインドとの関係を重視しており、この均衡が崩れることを避けるため、停戦に応じる可能性がある。

　2.「新デタント」を中国に奪われるのを防ぐため

　停戦を拒否すれば、米国は中国との関係改善を優先し、ロシアがその機会を失う可能性がある。トランプ政権が対中貿易戦争の解決を模索しているとの報道がある中、ロシアが先に米国と合意に達すれば、米中間の戦略的交渉において優位に立つことができる。

　3．「新デタント」による世界秩序の変革

　ロシアが米国との戦略的パートナーシップをEUよりも強固なものにすることで、国際政治の力学を根本的に変える可能性がある。ロシア国内外の支持者に対しては、停戦の意義を国営メディアが説明し、世論の支持を得ることができる。

　4.停戦には追加または秘密の条件が含まれる可能性

　西側の平和維持部隊がウクライナに駐留せず、停戦期間中にウクライナへの大規模な再武装が行われないことを保証する秘密合意が存在する可能性がある。ロシアが米国に対して、エネルギー資源や希少鉱物への優先的なアクセスを提供することで、トランプ政権がこれらの条件を受け入れる可能性がある。

　5.トランプが本気であると判断する場合

　プーチン大統領がトランプ政権の「エスカレーションによるデ・エスカレーション」戦略を本気と判断した場合、冷戦時代のキューバ危機のような危険な対立を避けるために、停戦を選択する可能性がある。プーチン大統領は基本的に緊張を管理する戦略を好むため、必要以上の対立を避けるために停戦を選択する可能性がある。

　最終的にプーチン大統領がどのような決定を下すかは不明であるが、いずれの選択肢にも説得力のある理由が存在する。今回の決断は、特別軍事作戦開始以来最も重要なものとなる可能性があり、プーチン大統領は、停戦の賛否を唱えるクレムリン内の各派閥の意見を最後まで慎重に聞くことになるだろう。

【詳細】　

　プーチンは停戦に同意するのか？

　ウクライナは、米国とのジッダでの協議を経て、1か月間の停戦に同意した。しかし、それはロシア側も同意することが前提条件であり、プーチン大統領がこれに応じるかどうかは不透明である。トランプ大統領の特使であるスティーブ・ウィトコフは、今週後半にモスクワを訪問予定であり、国家安全保障担当補佐官のマイク・ウォルツもロシア政府関係者と接触する意向を示している。さらに、トランプ自身も金曜日までにプーチンと直接話したいと述べている。

　これらの交渉の目的は、ロシアに停戦を受け入れさせることである。しかし、プーチンがそれに同意しない理由として、以下の5つの要因が考えられる。

　ロシアが停戦に応じない可能性がある理由

　1. ロシアは「占領された領土」の完全解放を目指している

　プーチンは2024年6月に、停戦の条件として、ウクライナが2022年9月の住民投票でロシア編入を決めた4州（ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソン）から撤退し、NATO加盟の放棄を明確にすることを求めた。これは、ウクライナがロシアのクルスク州に侵攻する直前の発言である。

　現在の停戦案には、これらの領土を完全に解放する保証がない。もしロシアが停戦に合意すれば、前線が固定化され、事実上の「朝鮮半島型の非武装地帯」が形成される可能性がある。これは、ロシアにとって長期的な戦略的利益を損なうことになるため、停戦を受け入れない理由となる。

　2. ウクライナの前線崩壊が目前に迫っている可能性

　ウクライナが停戦を求めた背景には、米国の軍事・情報支援の再開だけでなく、ロシア軍の攻勢が前線崩壊を引き起こす寸前であるという事情があると考えられる。

　ロシア側がこの状況を認識している場合、停戦には応じず、むしろ交渉を進めながら戦線をさらに押し広げる可能性が高い。これは、ロシアの目標である「占領地域の完全解放」を迅速に達成する戦略に合致するためである。

　3. 欧州の「平和維持軍」の進出を防ぐため

　ロシアは、停戦期間中に欧州諸国の「平和維持軍」がウクライナに展開することを警戒している。すでにウクライナ国内には多数の欧州人義勇兵（事実上の正規軍に近い「傭兵」）が存在しており、彼らが単に「平和維持軍」の制服を着ることで、NATOの事実上の軍事介入となる可能性がある。

　ロシア政府は、このような動きを「絶対に受け入れられない」と明言しており、停戦に応じず戦闘を継続することで、NATOの関与を阻止しようとする可能性がある。

　4. ロシア国内の世論が停戦を望んでいない

　ロシア国内の一定の層、特に「特別軍事作戦」の退役軍人や支持者の間では、停戦が「中途半端な決着」と見なされる可能性が高い。

　戦争の大義として掲げられた「領土の完全解放」が達成されないまま停戦することは、これまでの犠牲を無意味にするという批判を招く。ロシア政府は国民感情を重視する傾向があるため、特に軍関係者の反対を無視できず、停戦に否定的な決定を下す可能性がある。

　5. プーチンが「トランプの脅し」を本気にしていない可能性

　トランプ政権は、ロシアが停戦を拒否した場合、中国やインドに対する「二次制裁」を強化すると警告している。しかし、プーチンがこれを「ブラフ」と見なしている可能性もある。

　もしプーチンが「トランプは本気で経済制裁や軍事支援をエスカレートさせることはない」と判断すれば、交渉を続けるふりをしながら軍事作戦を継続する可能性が高い。

　ロシアが停戦に応じる可能性がある理由

　1. 中国への過度な依存を回避するため

　トランプが先週、「停戦を拒否すれば中国とインドへの制裁を強化する」とツイートした。もしインドがこれに従えば、ロシアは中国への経済的依存度をさらに高めることになる。

　現在、ロシアはインドを対中牽制の「バランサー」として活用しているが、インドが制裁を受け入れれば、その戦略が崩れ、中国の影響力が決定的に強まることになる。この事態を避けるために、プーチンが停戦に応じる可能性がある。

　2. 「新デタント」において中国に先んじるため

　停戦を拒否することは、「米ロ関係の新たな雪解け（新デタント）」を拒否することを意味し、それによって米国がロシアの代わりに中国との関係改善を優先する可能性がある。

　トランプが来月中国を訪問するとの報道があり、もし米中間で貿易戦争の終結が交渉されれば、ロシアは孤立するリスクが高まる。プーチンがこれを避けるために停戦を受け入れる可能性がある。

　3. 世界の地政学的バランスを変えるチャンス

　停戦を受け入れることで、ロシアが米国にとってEUよりも重要な戦略的パートナーとなる可能性がある。もしプーチンがこれを「世界秩序をロシアに有利に変える機会」と判断すれば、停戦を決断するかもしれない。

　4. 停戦交渉に秘密の条件が含まれる可能性

　米国がウクライナへの軍事支援を制限する密約を交わす可能性もある。ロシアが米国にレアアースやエネルギー資源の供給を保証すれば、トランプがウクライナ支援を抑制する条件で停戦に同意する可能性がある。

　5. トランプの警告を真剣に受け止めている可能性

　プーチンが「トランプの脅しは本物」と判断すれば、リスクを避けるために停戦を受け入れる可能性がある。

　いずれの決定を下すにせよ、プーチンにとっては特別軍事作戦開始以来、最も重要な選択となる。彼は決断前に、クレムリン内の異なる意見を徹底的に議論させるだろう。

【要点】

　プーチンが停戦に同意しない可能性がある理由

　1.占領地域の完全解放を目指している

　・2022年9月の編入地域（ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソン）の完全奪還がロシアの目標。
　・停戦すれば前線が固定化され、目標未達のままとなる可能性。

　2.ウクライナ前線崩壊の兆候

　・ウクライナが停戦を求めるのは、ロシアの攻勢が決定的になりつつあるから。
　・ロシア側はこの好機を活かし、停戦せずに戦闘を継続する可能性。

　3.欧州の「平和維持軍」進出を警戒

　・停戦を利用し、欧州諸国が「平和維持軍」の名目で実質的なNATO部隊をウクライナに派遣する可能性。
　・ロシアはこれを受け入れず、戦闘を継続することで阻止しようとする可能性。

　4.ロシア国内世論が停戦に否定的

　・軍関係者や支持層は「領土の完全解放」を求めている。
　・停戦すれば「中途半端な決着」と見なされ、国内の不満が高まる可能性。

　5.トランプの脅しを本気にしていない

　・トランプは「停戦を拒否すれば中国やインドへの制裁を強化する」と警告。
　・プーチンがこれを「ブラフ」と見なせば、停戦に応じない可能性。

　プーチンが停戦に同意する可能性がある理由

　1.中国への過度な依存を回避

　・インドが対ロ制裁を受け入れれば、ロシアは経済的に中国へ過度に依存することに。
　・これを避けるために停戦に応じる可能性。

　2.「新デタント」における主導権確保

　・米国がロシアではなく中国との関係改善を優先すれば、ロシアの孤立が深まる。
　・米国との関係改善の機会を逃さないために停戦を受け入れる可能性。

　3.地政学的バランスの変化

　・停戦により、ロシアが米国にとってEUより重要な戦略的パートナーになる可能性。
　・これを利用してロシアの影響力を強化する選択肢。

　4.秘密の停戦条件がある可能性

　・ロシアが米国に対しエネルギーやレアアースの供給を保証する見返りに、米国が　
ウクライナへの軍事支援を制限する可能性。

　5.トランプの警告を真剣に受け止めている可能性

　・トランプが経済制裁や軍事支援強化を本気で進めると判断すれば、停戦を選択する可能性。

　いずれにせよ、プーチンにとっては特別軍事作戦開始以来、最も重要な決断となる。

【引用・参照・底本】

Will Putin Agree To A Ceasefire? Andrew Korybko's Newsletter 2025.03.12
https://korybko.substack.com/p/will-putin-agree-to-a-ceasefire?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=158906716&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email