米空軍:近代化や革新のニーズに直面2024年11月10日 21:27

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【概要】
 
 米空軍は、年々厳しくなる予算の制約と、近代化や革新のニーズに直面しており、中国の急速な軍備増強に対応する能力において課題を抱えている。今月のAir & Space Forces Magazineによると、米空軍長官のフランク・ケンダルは、グレープバイン(テキサス州)で開催されたAirlift Tanker Association Symposiumにおいて、次世代空中優勢戦闘機(NGAD)、次世代空中給油システム(NGAS)およびコラボレーティブ・コンバット・エアクラフト(CCA)ドローンに関する資金調達上の課題を強調した。

 これらの3つの主要プログラムは、中国との将来の空中戦争に備えるために必要とされており、ケンダルは「予算制約にもかかわらず、将来の部隊編成には創造性が必要」と述べている。また、核抑止力の近代化義務や、中国からのミサイルの脅威が高まる中、米空軍が近代化に苦慮している状況にも言及した。特に、米国の空軍基地や機動プラットフォームに対する中国の精密ミサイルの脅威が指摘されている。

 ケンダルによれば、空軍は限られたリソースからより多くの能力を引き出すための工夫をしているが、これが「中国という基準となる課題への対応能力に影響を及ぼしている」と述べた。さらに、戦闘空軍を支援するためのステルスタンカーと米宇宙軍の拡充の重要性にも触れ、予算増額の緊急性を強調している。中国の習近平国家主席が2027年までに台湾を奪取する準備を指示しているとされる中、米空軍の近代化ニーズに応えるための投資が急務であるとした。

 こうした米空軍のプロジェクトについて、Brandon Weichertは、2024年5月にThe National Interest(TNI)で、6世代戦闘機の開発は無駄であり、不要な資源投入であると主張している。Weichertは、ドローンやAIを組み込んだこれらの先進戦闘機は、米軍の能力を大きく向上させるものではないとし、既存の第5世代戦闘機の強化や宇宙ベースの兵器プラットフォームの開発に注力するべきだと提案している。

 一方、Dan Goureは、2024年8月のReal Clear Defenseの記事で、空中優位性を維持するためにNGADの開発を推進する必要があると論じ、F-22(1990年代後半の設計)の代替が求められると述べた。彼は、激しい電子戦環境ではドローンではなく有人プラットフォームが必要であると主張し、イスラエルが2024年4月にイランのドローンやミサイルを撃墜した例を引き合いに出し、無人機には限界があると指摘している。また、英、日、伊がグローバル・コンバット・エア・プログラム(GCAP)を通じて第6世代戦闘機の開発を進めており、仏、独、西もフューチャー・コンバット・エア・システム(FCAS)で同様に進行中であると述べた。

 一方で、中国はJ-15Tという改良型艦載戦闘機を珠海で開催された航空宇宙展で発表した。このJ-15Tは、先進の電子装備、中国製WS-10エンジン、カタパルト発射に対応しており、Fujianを含む全ての中国の空母で運用可能であるとされる。新しい広角ホログラフィックHUDやAESAレーダーの搭載により、燃料と武装を多く積載でき、作戦能力が向上している。

 加えて、J-35Aという陸上用ステルス戦闘機も公開され、中国が世界の戦闘機市場での存在感を高める可能性を持っている。

 元インド太平洋軍司令官のジョン・アキリーノは、2024年3月の米上院での証言で、船舶数で世界最大の海軍を有する中国が、まもなく世界最大の空軍をも手にする可能性があると警告し、米空軍が組織と技術の変革を要すると指摘した。

 また、米空軍は「グレートパワー競争に向けた最適化」という新たなイニシアティブの一環で大規模な再編を進めている。 

【詳細】

 米空軍の予算制約と近代化の必要性

 米空軍は現在、厳しい予算制約の中で次世代戦闘機や給油機、無人機の開発を進めなければならない状況にある。これにより、次世代空中優勢戦闘機(NGAD)、次世代空中給油システム(NGAS)、および協調戦闘航空機(CCA)ドローンの開発が遅れ、近代化が進まず、中国の軍備増強に対抗する準備が整っていないとの懸念がある。

 空軍長官フランク・ケンダルの発言

 米空軍長官フランク・ケンダルは、テキサス州で開かれたシンポジウムで、予算の制約が空軍の近代化計画に大きな影響を与えていると指摘した。特に中国の軍備拡張に対抗するには、予算増加とクリエイティブな部隊編成が不可欠であり、現状の資源で能力を最大限に引き出す「多くの工夫」が求められていると述べた。

 核抑止力と中国のミサイルの脅威

 米空軍は核抑止力の近代化という重要な任務も抱えており、この取り組みによる予算圧力が空軍の通常戦力の近代化を妨げている。また、中国のミサイルが米空軍基地や移動式プラットフォームを精密に標的にできる技術を持つことで、これらの基地やシステムが中国の攻撃に対して脆弱になっているとの指摘がある。

 ステルスタンカーと宇宙軍の成長の重要性

 ケンダルは、戦闘空軍が敵地で安全に作戦を行うために、敵の防空圏内でも運用できるステルスタンカーの開発が必要だと強調した。また、米国の宇宙軍の成長も中国の宇宙領域における脅威に対抗するために欠かせない要素であるとし、宇宙領域での優位性を確保するための資源拡充が求められている。

 中国の台湾侵攻準備と米空軍の対応の必要性

 中国の習近平主席は人民解放軍に2027年までに台湾奪取の準備を指示しているとの報告があり、これに対抗するためには米空軍の即応性と近代化が急務となっている。ケンダルは、こうした背景から近代化予算の増額と迅速な投資の必要性を訴えている。

 Brandon Weichertの主張:第6世代戦闘機の必要性に疑問

 米国の軍事評論家であるBrandon Weichertは、米空軍が開発を進めている第6世代戦闘機について、その技術的進歩が不確実であり、リソースの無駄遣いになると主張している。代わりに、宇宙ベースの兵器プラットフォームの開発や、既存の第5世代戦闘機の強化を進める方が費用対効果が高いと述べ、よりシンプルで低コストの無人システムが米軍にとって有利であると提案している。

 Dan Goureの反論:NGADの開発継続の重要性

 軍事専門家のDan Goureは、NGADの開発は空中優位性を維持するために不可欠であり、F-22のような1990年代の設計機体を代替する必要があると主張している。Goureは、有人機が無人機に比べて戦闘状況下での意思決定能力に優れているため、特に電磁戦が激化する環境下では有人機の重要性が高いと述べている。また、イスラエルが2024年に数百台のイランのドローンを撃墜した事例を挙げ、多くの国が無人機対策を講じていることから、無人機のみでは限界があると強調している。

 中国の新型戦闘機J-15TとJ-35Aの発表

 中国は、最新の艦載戦闘機J-15Tと陸上用のステルス戦闘機J-35Aを正式に発表した。J-15Tは、WS-10エンジンと電磁カタパルト離陸対応機能を搭載し、より重い兵器や燃料を搭載できるように強化されている。J-35Aは、PLAAFの関心が集まるステルス戦闘機で、FC-31をベースとした新型機であり、コスト効率の良い運用が可能で、輸出市場にも対応する意図があるとされている。

 米空軍の組織改革:大規模編成と指揮構造の強化

 米空軍は「大国間競争の最適化」計画の一環として、空軍の構成を再編成している。特に、より効果的な戦闘準備のために、個々の飛行隊ではなく、戦闘任務を遂行可能な「ウィング(大規模部隊)」を投入する方針を打ち出した。また、新設の「統合能力指揮部」により近代化が進み、改名された「エアマン開発指揮部」によって人的資源の強化が図られる。

 インド太平洋地域での持久戦力の課題

 Timothy WaltonとMark Gunzingerは、米空軍がインド太平洋地域で広大な距離をカバーしつつ持続的な作戦能力を維持する必要があると述べており、「距離の暴虐(tyranny of distance)」と称される広範な地理的制約に加え、中国軍の兵力の数的優位に対処する必要があると指摘している。

 F-35Aのエンジン強化、長距離兵器の導入などの提案

 WaltonとGunzingerは、F-35A戦闘機のエンジン強化(エンジンコアアップグレード)や、NGADおよびCCAの開発、長射程兵器であるAIM-260の導入、さらに敵対地域内で運用可能なステルスタンカーの取得が重要であると述べている。しかし、米空軍はこれらの進展を進める上で、予算の制約と費用対効果を考慮しつつバランスを取る必要があるとも警告している。

【要点】

 ・米空軍の予算と近代化のジレンマ

 米空軍は予算の制約が厳しくなる一方で、中国の急速な軍備増強に対抗するための近代化と革新が求められている。

 ・空軍長官フランク・ケンダルの指摘

 空軍長官のフランク・ケンダルは、次世代空中優勢戦闘機(NGAD)、次世代空中給油システム(NGAS)、および協調戦闘航空機(CCA)ドローンに必要な資金が不足しているとし、予算が厳しい中で創造的な部隊編成が求められると述べた。

 ・米空軍の核抑止力と中国のミサイルの脅威

 米空軍は核抑止力の近代化義務に追われつつ、中国からの精密ミサイルの脅威も高まっている。特に、米空軍基地や機動プラットフォームが標的になるリスクが指摘されている。

 ・ステルスタンカーの必要性と宇宙軍の重要性

 ケンダルは、戦闘空軍が敵対的な地域で作戦を行うためにステルスタンカーが必要であること、さらに宇宙軍の拡充も重要であると述べている。

 ・台湾侵攻準備に関する中国の動き

 中国の習近平国家主席が2027年までに台湾を奪取する準備を指示しているとされ、米空軍の近代化と予算投資の重要性が高まっている。

 ・Brandon Weichertの主張

 TNIの記事で、Weichertは6世代戦闘機の開発は不必要で資源の浪費であり、第5世代戦闘機の強化や宇宙ベースの兵器開発に注力すべきと述べた。

 ・Dan Goureの主張

 一方、GoureはReal Clear Defenseの記事で、6世代戦闘機の開発は空中優位性の維持に必要であると主張し、F-22の代替が必要であると述べた。また、有人機がドローンに比べて決定的な能力を持つとし、無人機には限界があると述べた。

 ・中国のJ-15TとJ-35Aの発表

 中国は新型の艦載戦闘機J-15Tと陸上用ステルス戦闘機J-35Aを発表し、それぞれの能力向上と輸出市場での存在感拡大を図っている。

 ・米空軍の再編成計画

 米空軍は「グレートパワー競争に向けた最適化」の一環として、大規模な再編成を進め、戦時任務に対応した「統合能力指揮部」や「エアマン開発指揮部」を新設し、部隊の戦闘力向上を図っている。
 
【引用・参照・底本】

US lacks the planes to win an air war with China ASIATIMES 2024.11.07
https://asiatimes.com/2024/11/us-lacks-the-planes-to-win-an-air-war-with-china/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=00e61f11d6-WEEKLY_10_11_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-00e61f11d6-16242795&mc_cid=00e61f11d6&mc_eid=69a7d1ef3c

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