ポーランドとバルト三国:オタワ条約から脱退2025年03月20日 16:07

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【概要】

 ロシアはオタワ条約の署名国ではなく、これら4カ国を侵略する予定もない。

 バルト三国とポーランドの防衛大臣は、ロシアからの新たな脅威に対応するため、オタワ条約(対人地雷禁止条約)から脱退することを発表した。ロシア、アメリカ、中国、インドなどはこの条約の署名国ではない。ウクライナは署名国であるにもかかわらず、バイデン政権から対人地雷を供与されたことが昨年11月に報じられている。

 この発表は、ポーランドのドナルド・ツスク首相が今月初めに「最も現代的な能力を手に入れなければならない、核兵器や現代的な非正規兵器(対人地雷を含む)」と言及したことを受けて行われた。さらに、数日前には欧州議会が「東の盾とバルト防衛線は、抑止力を高め、東からの潜在的な脅威を克服するためのEUの主要なプロジェクトであるべきだ」と強調した。

 これに関連する分析では、ロシアとベラルーシとの国境に沿った防衛計画が述べられており、EUの軍事化計画において重要な役割を果たすと予測されている。この防衛メガプロジェクトに投じられるのは、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が発表した8000億ユーロの一部に過ぎないが、それでもEUの計画を具現化するものであり、新たな鉄のカーテンとなる可能性がある。

 バルト三国とポーランドの政府は、ロシアが将来的に侵略する可能性があると自国民に信じ込ませているが、同時にアメリカに見捨てられることを恐れており、そのため国境防衛を優先している。この目標に沿って、対人地雷を調達することを正当化するためにオタワ条約から脱退する決定を下した。これはロシアに対する抑止力としての目的があるとされている。

 ロシアがアメリカの集団的防衛義務(NATOの第5条)に挑戦しようとしているわけではなく、またロシアが自国民を嫌う外国に侵略する必要もないことを考えれば、バルト三国とポーランドの防衛メガプロジェクト(対人地雷を強化する形で構築される)は、大きな影響を与えることはない。これらの計画がもたらす実際的な結果は、公共財政を防衛に投資することで社会経済的な分野に使える資金が減少するという機会費用に過ぎない。

 この問題は国内的なものであり、防衛問題が社会経済的問題よりも優先されることに対して外国の観察者がどれほど反発しても、国内ではそのような政策が支持されていると見られる。バルト三国のロシア系少数民族やポーランドの一部の反対者を除いて、国民の大多数はそのような政策に賛成し、必要な機会費用を支払う意欲がある。

 ロシアとベラルーシも同様に、バルト三国やポーランド、ウクライナとの国境に沿って自国の防衛計画を進め、対人地雷を強化する可能性がある(ただしベラルーシはオタワ条約から脱退する必要がある)。これに関しては、NATOがウクライナを代理としてロシアに戦略的敗北を強い、最終的にはベラルーシを従属させようとした歴史が背景にある。

 ロシアとアメリカの「新しいデタント」に対してモスクワは慎重な楽観を抱いているものの、ウクライナにおける代理戦争が無期限に続くか、再開される可能性は否定できない。最悪のシナリオでは、NATOがロシアに対して直接戦争を仕掛けることが考えられる。これは核の閾値を超える可能性が高く、従って、通常戦力が主導となることになる。その場合、ロシア・ベラルーシ連邦の国境防衛は非常に重要なものとなる。

 NATOとロシアの間で直接的な戦争が起きれば、すぐに核戦争に発展する可能性が高いが、今回の分析で議論された二つのシナリオ(ロシアがNATOを侵略する、NATOがロシアを侵略する)は、後者がいくらか現実的であり、前者は極めて非現実的である。なぜなら、NATOはすでにロシアの国境に向けて拡張を続け、ロシアの正当な国防権益を侵害し、その結果、ウクライナとの代理戦争が起きているからである。

 一方、ロシアのベラルーシにおける軍事的足跡はNATOの地域的なものよりもずっと小さく、また最新の形態を取ったのはNATOがロシアの国境に到達した後のことに過ぎない。したがって、歴史的にはNATOの攻撃的な意図が証拠として残されているが、ロシアの意図はそうではない。いずれにせよ、ポーランドとバルト三国の防衛計画やロシア・ベラルーシのそれに対する反応は、大きな変化をもたらすことはなく、今回の動きは新冷戦の緊張が高まっていることを示している。

【詳細】 
 
 バルト三国とポーランドのオタワ条約脱退に関する詳細な背景とその影響について、さらに詳しく説明する。

 1. オタワ条約とその背景

 オタワ条約(対人地雷禁止条約)は、1997年に締結され、対人地雷の使用、製造、貯蔵、移動を禁止することを目的とした国際的な協定である。この条約の採択は、地雷による民間人への被害を減少させるための重要な一歩とされており、現在180以上の国々が署名している。しかし、アメリカ、ロシア、中国、インドなどの大国は、この条約には署名していない。ポーランド、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)はこれまで署名しており、対人地雷の使用を禁止してきたが、ロシアからの脅威を理由に、2025年3月にこの条約から脱退することを決定した。

 2. 脱退の背景と理由

 ポーランドとバルト三国がオタワ条約から脱退した理由は、ロシアからの安全保障上の脅威に対応するためである。これらの国々は、ロシアの侵略的な行動に対して深い懸念を抱いており、特にウクライナ戦争がその懸念をさらに強化している。ポーランドのドナルド・ツスク首相は、核兵器や非正規兵器(特に対人地雷)を含む現代的な軍事能力の強化が必要だと述べており、これが脱退の直接的な背景となっている。バルト三国も同様に、ロシアの侵略の可能性に備えるために、軍事力を強化し、対人地雷を再導入することが必要と判断した。

 3. ロシアとの関係

 ロシアはこの地域に対して直接的な侵略の意図は示していないが、ポーランドとバルト三国は、過去の歴史的な背景や現在のロシアの軍事行動を踏まえ、ロシアが将来的に侵略を行う可能性を危惧している。ロシアは、NATO(北大西洋条約機構)の拡大を安全保障上の脅威として捉え、ウクライナのNATO加盟を防ぐために代理戦争を繰り広げているが、これらの国々はロシアが本格的に侵攻する可能性があると考えている。

 しかし、ロシアはNATOの第5条(集団的自衛義務)に対する挑戦を避ける傾向があり、またロシアがポーランドやバルト三国を占領しようとする理由も乏しい。これらの国々には、ロシアにとって占領する戦略的な価値が少なく、また現地住民がロシアを嫌悪しているため、占領の可能性は低いと考えられている。

 4. 防衛強化の背景

 バルト三国とポーランドは、ロシアの侵略から国を守るために防衛を強化し、特に国境防衛に力を入れる方針を打ち出している。欧州議会は「東の盾」と「バルト防衛線」をEUの抑止力強化の主要プロジェクトとして位置付け、これらの国々はその一環として防衛を強化している。ポーランドとバルト三国は、これまで以上に自国の安全を確保するために、対人地雷などの武器を再導入することを決定した。

 また、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、EUがロシアの脅威に対応するために、防衛プロジェクトに8000億ユーロを投資すると発表した。この投資の一部が、ロシアとベラルーシとの国境地帯に設けられる防衛施設に充てられる予定であり、これが新たな「鉄のカーテン」を形成することになると考えられている。

 5. 国内的な影響と支持

 ポーランドとバルト三国の国民の多くは、これらの防衛強化策を支持している。ロシアからの脅威を感じている市民は、防衛の強化が必要だと認識しており、政府の政策に賛成している。ただし、ポーランドとバルト三国には少数派の反対者もおり、特にロシア系少数民族や一部の反戦活動家は、防衛費用の増大を懸念している。しかし、これらの国々の政府は、国民の安全保障を最優先課題として、国民の支持を得ている。

 6. ロシア・ベラルーシの反応と防衛計画

 ロシアとベラルーシも、NATOに対抗するために自国の防衛を強化する可能性がある。特に、ロシアはベラルーシに軍事的な影響力を持っており、ウクライナ戦争の影響を受けた地域における防衛を強化しようとしている。ベラルーシがオタワ条約から脱退し、対人地雷を再導入する可能性もある。

 ロシアとベラルーシは、NATOの拡大を受けて自国の防衛ラインを強化する必要性を感じており、その一環として、国境地帯の防衛施設を強化する可能性がある。しかし、これらの計画が実際にどのように進展するかは不透明であり、ロシアとベラルーシの防衛計画が実際に実行されるかは今後の情勢次第である。

 7. 結論

 ポーランドとバルト三国のオタワ条約脱退は、ロシアからの脅威に対する防衛強化の一環として理解されるが、その影響は限られている。ロシアがこれらの国々を侵略する可能性は低く、対人地雷の使用が実際に大きな影響を与えることは少ないと考えられる。これらの国々の防衛強化は、国内の安全保障を優先する政策の一環として、国内で支持されているが、他国からはその戦略に疑問を抱かれることもある。

 最終的には、ポーランドとバルト三国の防衛強化が実際にどれだけ効果を発揮するかは不確実であり、ロシアとベラルーシの防衛計画との相互作用によって、今後の展開が決まるだろう。

【要点】

 1.オタワ条約の概要

 ・1997年に締結された対人地雷禁止条約。
 ・対人地雷の使用、製造、貯蔵、移動を禁止する目的。
 ・現在180以上の国が署名。しかし、アメリカ、ロシア、中国、インドなどは署名していない。

 2.ポーランドとバルト三国の脱退

 ・2025年3月、ポーランドとバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)はオタワ条約から脱退を決定。
 ・理由はロシアからの安全保障上の脅威に対応するため。

 3.ロシアとの関係

 ・ロシアの侵略的な行動やウクライナ戦争への懸念が背景。
 ・ロシアの侵略の可能性を危惧し、対人地雷を再導入する必要性が高まった。

 4.防衛強化の背景

 ・バルト三国とポーランドは「東の盾」「バルト防衛線」など、NATOの抑止力強化のために防衛を強化。
 ・欧州委員会は防衛投資に8000億ユーロを投じると発表。

 5.国内的な影響と支持

 ・国民は防衛強化を支持。
 ・ロシア系少数民族や反戦活動家の反対意見もあるが、政府は安全保障を最優先。

 6.ロシア・ベラルーシの反応

 ・ロシアとベラルーシは自国の防衛強化を進める可能性あり。
 ・ベラルーシも対人地雷の使用再導入を検討する可能性がある。

 結論

 ・ポーランドとバルト三国の脱退はロシアからの脅威への対応。
 ・対人地雷の使用が実際に大きな影響を与える可能性は低いが、防衛強化政策は支持されている。
 ・ロシアとベラルーシとの相互作用が今後の展開を決定づける。

【引用・参照・底本】

The Baltic States’ & Poland’s Withdrawal From The Ottawa Convention Won’t Change Much Andrew Korybko's Newsletter 2025.03.20
https://korybko.substack.com/p/the-baltic-states-and-polands-withdrawal?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=159461568&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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