総務省:全国の自治体一般職職員対象のカスハラ調査 ― 2025年05月06日 22:26
【概要】
総務省が2024年11月から12月にかけて実施した調査によると、全国の自治体一般職職員のうち、過去3年間に住民などからいわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」を受けた経験があると回答した者は35.0%に上った。
調査対象は、全国388の自治体に勤務する一般職の職員2万人であり、無作為に抽出された。回答は1万1507人から得られ、回収率は57.5%であった。
部門別に見ると、「広報広聴」部門では66.3%がカスハラを受けたと回答しており、最も高い割合を示した。「各種年金保険関係」および「福祉事務所」もそれぞれ61.5%と高水準であった。
カスハラの具体的な内容については複数回答方式で聴取されており、「継続的な、執ような言動」が72.3%で最多となり、「威圧的な言動」が66.4%で続いた。このほかにも、「長時間の拘束」や「人格を否定するような発言」などが挙げられている。
一方、厚生労働省が2023年度に実施した、民間企業や団体の従業員を対象とする類似の調査では、顧客などからカスハラを受けたことがあると回答した者は10.8%にとどまっており、自治体職員における経験率の方が顕著に高い結果となった。
【詳細】
総務省が2024年11月から12月にかけて実施した本調査は、自治体職員におけるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)の実態を把握するために行われたものであり、全国の市区町村および都道府県の388自治体に勤務する一般職の職員2万人を無作為に抽出し、郵送またはオンラインでアンケートを実施した。最終的に1万1507人から有効な回答を得ており、回収率は57.5%であった。
本調査によれば、過去3年間に住民等からカスハラを受けた経験があると答えた者は全体の35.0%にのぼる。この割合は、自治体職員における対住民対応の業務において、一定の頻度でハラスメントが発生している現状を示している。
部門別に見ると、特に住民と直接的なやり取りの多い業務において被害割合が高い傾向が顕著であった。「広報広聴」部門においては66.3%と最も高く、これは住民からの意見や苦情を受付ける業務の性質上、感情的な言動にさらされやすいことが背景にあると考えられる。「各種年金保険関係」および「福祉事務所」の各部門も61.5%と高率を示しており、生活や経済に直結する相談業務において、住民の不満や怒りが職員に向けられる傾向があることを反映している。
カスハラの具体的な内容としては、「継続的な、執ような言動」が72.3%で最多となっており、特定の住民から同じ内容を繰り返し、長期間にわたって言い続けられるケースが多いことが示された。次に多かったのは「威圧的な言動」で66.4%であり、怒鳴る、大声で責める、机を叩くといった行為が該当する。「人格を否定する発言」(48.3%)、「業務と無関係なプライベートに関する言及」(21.0%)なども一定数報告されており、職員の尊厳や安全が脅かされる場面も少なくない。
また、カスハラの結果として「精神的苦痛を感じた」と回答した職員は84.3%にのぼっており、業務への支障を来すだけでなく、メンタルヘルス上のリスクも深刻であることがうかがえる。「病院に通うことになった」(4.6%)、「休職を余儀なくされた」(1.1%)など、実際に健康被害に至ったケースも存在する。
参考までに、厚生労働省が2023年度に実施した民間企業や団体における同様の調査では、カスハラの被害経験を有する者の割合は10.8%であり、自治体職員の35.0%という数値と比較すると3倍以上の開きがある。このことから、住民対応の最前線に立つ自治体職員が、民間企業以上に過酷な対応業務に従事している実態が浮き彫りとなった。
総務省は本調査結果を踏まえ、今後、自治体におけるハラスメント防止マニュアルの整備、相談窓口の設置、研修の充実といった対策を促進する方針である。制度面および組織文化の両面からの対応が求められている。
【要点】
調査概要
・実施主体:総務省
・実施期間:2024年11月〜12月
・対象:全国388自治体に勤務する一般職の職員2万人(無作為抽出)
・有効回答数:1万1507人(回収率57.5%)
主な調査結果
・カスハラ経験率:全体の35.0%が過去3年間にカスハラを受けたと回答
・民間企業との比較:厚生労働省調査(2023年度)では民間側の経験率は10.8%、自治体職員は民間の約3倍以上の被害率
部門別の被害経験率(上位)
・「広報広聴」:66.3%
・「各種年金保険関係」:61.5%
・「福祉事務所」:61.5%
⇨ 住民との直接接触が多い部署ほど被害が多い傾向
カスハラの具体的内容(複数回答、上位)
・「継続的な、執ような言動」:72.3%
・「威圧的な言動」:66.4%
・「人格を否定する発言」:48.3%
・「業務と無関係なプライベートへの言及」:21.0%
・「長時間の拘束」なども報告あり
被害による影響
・「精神的苦痛を感じた」:84.3%
・「病院に通うようになった」:4.6%
・「休職を余儀なくされた」:1.1%
⇨メンタルヘルス上のリスクが顕在化
今後の対応(総務省の方針)
・ハラスメント防止マニュアルの整備
・職員向けの相談窓口設置
・カスハラ対策研修の強化
・安全確保と職員の精神的負担軽減の両立を目指す
【桃源寸評】
「法の定め」
地方自治法は「第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」とある。
第二条は、「⑭ 地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」
第十条 ② 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。
等々である。
「カスタマー(customer)」とは
「カスタマー(customer)」とは、一般的には「商品やサービスを受け取る見返りとして対価を支払う者」、すなわち「顧客」を意味する。主に民間企業において、企業の提供する製品やサービスの購入者や利用者を指す語である。
・しかしながら、行政機関における「カスタマー」という語の使用は、本来の定義とはやや異なる文脈で用いられている。
⇨ 公的機関における「カスタマー」の扱い(広義的用法)
⇨ 対価を支払っていなくても、サービスの提供対象となる住民等を「顧客」になぞらえる用法
⇨ 行政サービスを受ける者(住民、納税者、申請者など)を、組織の外部利用者という意味でカスタマーと呼ぶケースがある。
・1990年代以降の行政改革・NPM(New Public Management)思想の影響
・公的機関も「顧客志向」「サービス向上」を目指すべきという考えから、住民を「カスタマー」に準えた表現が広がった。
・この用語使用への批判と議論
⇨ 批判1:住民は「主権者」であり、サービスの一方的受益者ではなく、行政の主体的な構成員である。したがって「顧客」という上下関係を前提とした語は不適切である。
⇨ 批判2:行政サービスは商品とは異なり、法律・制度に基づく公的な権利・義務の執行であるため、「顧客満足」を過度に追求する姿勢は行政の公平性・中立性を損なう恐れがある。
・行政文脈における「カスタマー」は本来的な意味(=対価を払う顧客)を拡張した比喩的用法であり、厳密には「住民」「市民」「利用者」といった用語が本来適切である。従って、住民を「カスタマー」と捉えることには制度的にも概念的にも慎重な姿勢が求められる。
・この点において、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という語も、本来の意味を越えて行政職員への住民からの過剰要求・暴言等を指すために転用されている用語である。
「なぜ「カスタマー」は不適切か」
(1)主従関係の誤認
「カスタマーは常に正しい」という商業的原則が適用されやすく、住民が「注文を出す立場」であり、行政職員は「応じるべき存在」といった構図が強調される。結果として、不当な要求や暴言・威圧的態度が正当化されやすくなる。
(2)公共性・公平性の希薄化
行政サービスは法令に基づいて提供されるものであり、全住民に対して公平でなければならない。個別の「満足度」ではなく、「法の下の平等」が優先されるべきである。
(3)双方への負担
住民:期待が肥大化し、「行政は自分の要求に応じて当然」という誤解が生じる。
職員:「顧客第一」で応えきれない要求に晒され、心理的圧迫・業務過多を招く。
「福祉の受益者」という用語の適切性
・制度的な位置づけを明確にする
⇨福祉制度に基づいて提供されるサービスを「受ける者」であり、「要求する顧客」ではないという関係性を明示する。
・権利性と義務性の両立を表現
⇨社会保障制度における福祉は、申請によって得られる「権利」である一方、法に基づく審査や要件があり、「当然のサービス」ではないという認識を維持できる。
・行政職員との関係を公平に描く
⇨職員は「サービス提供者」であって「顧客対応要員」ではなく、制度に即して職務を遂行する立場である。対等な関係が保たれる。
・特に適している文脈
⇨生活保護、障害福祉、介護保険、児童扶養手当など、法律に基づく福祉給付・支援制度の利用者を表す際
⇨クレームや過剰要求が制度を逸脱しているか否かを判断する際の客観的な立場の明示
・現場職員の権利保護や対応方針を議論する際の用語の整理
「補足:用語選択がもたらす効果」
・「受益者」という語は、サービスを受けること自体が制度的な審査と根拠に基づくことを強調できるため、「一方的な要求」は制度外であるという線引きが可能となる。
・⇨同時に「受益者」は、必要とするサービスを正当に享受する立場でもあり、「弱者の尊厳」も損なわない。
・したがって、「福祉の受益者」は、カスタマーという語よりも制度の原理や行政の中立性、職員との適切な関係性を保つ上で、極めて有効かつ精緻な表現である。
「NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)とは」
・正式名称:New Public Management
・発祥:1980年代の英国・サッチャー政権、続いてニュージーランドなどで展開
・目的:公的部門に民間企業の経営手法(効率性・成果主義・顧客志向)を導入し、行政の無駄や硬直性を改革すること
・NPMの主な特徴
⇨NPM間企業的手法の導入→ 成果主義評価・業績管理・アウトソーシングの推進
・行政組織のスリム化
⇨官から民へ(小さな政府)
・「顧客志向」行政の推進
⇨住民=顧客、行政サービス=商品として捉える発想
・競争原理の導入
⇨地方自治体同士の競争、民間委託の活用
・NPMの功罪
☆サービスの効率化、職員の意識改革
★公平性の後退、住民との対立、数値至上主義の弊害
☆コスト削減
★脆弱な人権対応、現場の過重労働
☆透明性・説明責任の強化
★「顧客満足」と「法令遵守」の間の緊張
・このように、「NPM型の顧客志向」を行政にそのまま導入することは、表面的なサービス向上を目指す一方で、行政の中立性・公平性・職員の安全と尊厳を犠牲にしかねない。
・したがって、「市民=カスタマー」という構図は制度的にも心理的にも行政の本質から乖離した表現であり、カスハラ問題を一層悪化させる恐れがある。
ご希望であれば、行政における代替的な住民対応モデル(例:コ・プロダクション型)についても説明可能である。希望するか。
「NPMは新市場主義の結果である」
・NPM(New Public Management:新公共管理)は、新自由主義(neoliberalism)=新市場主義の政策潮流の中で登場・展開されたものであり、両者は密接に結びついている。
・NPMと新自由主義の関係
⇨思想的背景 NPMは「政府は非効率であり、民間の効率性を導入すべき」という新自由主義の信念に基づいている。
⇨登場の時期 1980年代、英国のサッチャー政権、米国のレーガン政権における市場原理の徹底と小さな政府路線の中で始まった。
・主な手法
⇨行政に競争原理を導入する
⇨公務員制度の民間化(契約・成果主義)
⇨外注・アウトソーシング推進
⇨行政のスリム化とコスト削減
・目的
⇨行政の「効率化」や「顧客満足度向上」だが、実態は「財政支出の抑制」「民営化の推進」が柱
「NPMが新市場主義である理由」
(1)市場至上主義の行政への拡張
・行政も市場のように競争させるべきだという考え(例:指定管理者制度、公営病院の経営評価)。
(2)公共部門の民間化
・教育、医療、福祉、交通など、本来公共性が重視される分野まで「効率性」の名のもとで外部化。
(3)数値主義(マネジメント指標)
・行政評価もKPIや成果数値で測定され、「質より数」が優先される傾向が強まる。
(4)住民=顧客(Customer)モデル
・「選ぶ権利」を強調し、制度利用者に競争原理を適用しようとする傾向(例:学校選択制、介護の自由契約)。
(4)結果と批判
・分野:新市場主義的NPMの影響
・福祉・医療:必要な支援の「選別」や「自己責任論」が進行。生活保護や障害福祉が「コスト」とみなされる傾向。
・教育:学校の成績競争、教員の成果主義などにより、教育現場の疲弊が指摘される。
・自治体行政:「住民満足」よりも「予算達成」や「外注可能性」が優先され、住民との乖離が拡大。
・NPMは新自由主義の一形態であり、「公共性」より「効率性・市場性」を行政に持ち込む試みである。
・その結果として、福祉の「受益者」が「顧客」と見なされ、不当要求・カスハラの構造が制度的に助長される背景ともなっている。
「この時代の日本の首相」
NPMが日本で本格的に導入され始めた1990年代から2000年代初頭の時代、日本の首相は以下のとおり。
・NPMが導入・拡張された時期の日本の首相
在任期間 首相名 NPMとの関連
1991年11月〜1993年8月 宮澤喜一 行政改革の基本路線が示され始めた時期。
1993年8月〜1994年4月 細川護熙 「政治改革」が主軸。公共部門改革も議論に。
1994年4月〜1994年6月 羽田孜 短期間で大きな施策なし。
1994年6月〜1996年1月 村山富市 公共事業中心の財政政策。NPM的改革は進まず。
1996年1月〜1998年7月 橋本龍太郎 中央省庁再編、行政改革会議の設置など、NPM的
・手法の導入を本格化。
1998年7月〜2000年4月 小渕恵三 経済対策が中心だが、NPM的政策も継承。
2000年4月〜2001年4月 森喜朗 教育改革や行政の「民間化」方向を踏襲。
2001年4月〜2006年9月 小泉純一郎 NPMの象徴的存在。郵政民営化、特殊法人改革、市場原理の導入などを徹底。
・特に重要な人物:小泉純一郎
⇨「官から民へ」をスローガンに、行政コスト削減、成果主義、民営化を強力に推進。
⇨郵政民営化はその代表例であり、「市場原理による効率化」が行政の隅々まで適用された。
⇨この時期、自治体にもNPM的改革が波及(指定管理者制度、PFI(Private Finance Initiative導入など)。
・ PFI:公共施設の建設・維持管理・運営などを、民間の資金・経営能力・技術力を活用して行う手法であり、従来の「公共=行政主導」からの転換を象徴する新自由主義的手段である。
・資金調達を行政が直接行うのではなく、民間事業者が投資し、その対価を行政が分割で支払う。
・民間が設計・建設・運営・維持管理まで一体で行うことが多く、「DBO(Design-Build-Operate)」や「BOT(Build-Operate-Transfer)」方式に類似。
・契約期間が長期(15年〜30年)にわたる。
・日本における展開
⇨日本では1999年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(いわゆるPFI法)が制定され、制度が本格導入された。
⇨対象事業には、庁舎・学校・病院・刑務所・上下水道・高速道路などが含まれる。
・問題点と批判
⇨公共の責任があいまいになり、失敗時に責任の所在が不透明。
⇨「コスト削減」が先行し、公共サービスの質が劣化する場合がある。
⇨民間への依存が進み、行政の企画・監督能力が弱体化する懸念。
・このPFIもNPMの一形態であり、「公共を市場に委ねる」代表的なモデルである。関連するPFI事例(例えば学校や刑務所でのPFI)。
「中曽根政権とNPMの関係」
(1)NPMの本質
・公共部門に「民間企業的な手法(成果主義、競争原理、コスト意識)」を導入し、効率的な行政運営を目指す考え方。
・1980年代にサッチャー政権(英)やレーガン政権(米)で始まり、国際的潮流となった。
・中曽根政権がNPMに与えた影響
⇨三公社の民営化(1985年〜1987年)
⇨国鉄、電電公社、専売公社の分割・民営化。
・「公共=非効率」という前提で、市場メカニズム導入による効率化を志向。
・NPMの基本理念である「官から民へ」の象徴的実施。
(2)行政改革(臨調)
・行政管理庁を強化し、成果重視の行政評価制度を導入。
・政策評価とPDCAサイクルの萌芽的導入は、後のNPM的「成果志向行政」の基礎となる。
・総人件費抑制と定員削減
・自治体・官僚の肥大化批判の中で、職員数の削減と効率化を進めた。
・公的セクターの「企業型マネジメント」への圧力が強まる。
・自治体への財政圧力
・地方交付税の見直しなどで、地方自治体の裁量と責任を増大。
・自治体も「経営主体」として自律的な予算管理と成果責任を求められるように変化。
(3)政策目的の転換
・「行政サービスの受益者」としての国民に、「顧客」としての役割が仮託されるようになる。
・この思想は、現在の「カスハラ問題」の背景ともなる顧客至上主義的発想の萌芽といえる。
・中曽根政権は、日本におけるNPM導入の制度的・思想的な出発点である。とりわけ、公務の企業化・競争化・民営化を初めて大規模に試みた点で、日本型NPMの源流をなす。
・この流れはその後、橋本龍太郎政権の「行政改革会議」(1996〜)や小泉純一郎政権の「構造改革」へと連なる。
「自治体職員も被害者」
PFIやNPMの導入によって、本来、地方自治法が定める「住民の福祉の増進」を目的とした自治体業務が、徐々に市場論理や民間委託に置き換えられた結果、自治体職員もまた制度の被害者となっていると評価できる。
以下に、そうした構造的問題を整理する。
・自治体職員が「被害者」となる構図
(1)業務の外部化・民間委託の増加
・福祉・教育・都市計画など住民密着型の業務が、コスト削減や効率性の名のもとに民間に委ねられる。
・結果として、自治体職員の現場経験やスキルの蓄積が困難になり、本来の「公共行政の担い手」としての能力が削がれる。
(2)自治の理念との乖離
・地方自治法第1条の2にある「住民の福祉の増進を図ることを基本」とする理念が、「成果」「効率」「コスト重視」にすり替えられていく。
・これにより、本来の公益追求よりも、数値目標や業績評価が優先され、自治体職員はジレンマに置かれる。
(3)カスタマーハラスメントの増加
・住民を「顧客」とみなすNPM的用語・姿勢が普及し、市民側もサービス業的な応対を当然視するようになる。
・その結果、「丁寧すぎる対応を強要」「執拗な要求」「威圧的態度」などが横行し、職員の心理的負担や業務負担が増大している。
(4)自治体職員の自己効力感の低下
・公共性を感じる実務が減ることで、「自分たちの仕事が社会にどう貢献しているか」が見えにくくなり、モチベーションや使命感の低下につながる。
・自治体職員は、本来住民に直接寄り添い、地域の将来を支えるべき存在である。しかし、NPM導入以降の制度設計により、その役割が制度的・心理的・機能的に制限されており、住民との間に不必要な摩擦が生じる構造が生まれている。
・このように見れば、「カスタマーハラスメントの加害者は誰か」、「カスタマーハラスメントの被害者は誰か」、という問いは、市民と自治体職員の両方を巻き込む制度的課題に他ならない。
【寸評 完】
引用・参照・底本】
日本全国の自治体職員、35%がカスハラ受けた経験あり=総務省 sputnik 日本 2025.05.06
https://sputniknews.jp/20250506/5000-19863609.html?rcmd_alg=collaboration2
総務省が2024年11月から12月にかけて実施した調査によると、全国の自治体一般職職員のうち、過去3年間に住民などからいわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」を受けた経験があると回答した者は35.0%に上った。
調査対象は、全国388の自治体に勤務する一般職の職員2万人であり、無作為に抽出された。回答は1万1507人から得られ、回収率は57.5%であった。
部門別に見ると、「広報広聴」部門では66.3%がカスハラを受けたと回答しており、最も高い割合を示した。「各種年金保険関係」および「福祉事務所」もそれぞれ61.5%と高水準であった。
カスハラの具体的な内容については複数回答方式で聴取されており、「継続的な、執ような言動」が72.3%で最多となり、「威圧的な言動」が66.4%で続いた。このほかにも、「長時間の拘束」や「人格を否定するような発言」などが挙げられている。
一方、厚生労働省が2023年度に実施した、民間企業や団体の従業員を対象とする類似の調査では、顧客などからカスハラを受けたことがあると回答した者は10.8%にとどまっており、自治体職員における経験率の方が顕著に高い結果となった。
【詳細】
総務省が2024年11月から12月にかけて実施した本調査は、自治体職員におけるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)の実態を把握するために行われたものであり、全国の市区町村および都道府県の388自治体に勤務する一般職の職員2万人を無作為に抽出し、郵送またはオンラインでアンケートを実施した。最終的に1万1507人から有効な回答を得ており、回収率は57.5%であった。
本調査によれば、過去3年間に住民等からカスハラを受けた経験があると答えた者は全体の35.0%にのぼる。この割合は、自治体職員における対住民対応の業務において、一定の頻度でハラスメントが発生している現状を示している。
部門別に見ると、特に住民と直接的なやり取りの多い業務において被害割合が高い傾向が顕著であった。「広報広聴」部門においては66.3%と最も高く、これは住民からの意見や苦情を受付ける業務の性質上、感情的な言動にさらされやすいことが背景にあると考えられる。「各種年金保険関係」および「福祉事務所」の各部門も61.5%と高率を示しており、生活や経済に直結する相談業務において、住民の不満や怒りが職員に向けられる傾向があることを反映している。
カスハラの具体的な内容としては、「継続的な、執ような言動」が72.3%で最多となっており、特定の住民から同じ内容を繰り返し、長期間にわたって言い続けられるケースが多いことが示された。次に多かったのは「威圧的な言動」で66.4%であり、怒鳴る、大声で責める、机を叩くといった行為が該当する。「人格を否定する発言」(48.3%)、「業務と無関係なプライベートに関する言及」(21.0%)なども一定数報告されており、職員の尊厳や安全が脅かされる場面も少なくない。
また、カスハラの結果として「精神的苦痛を感じた」と回答した職員は84.3%にのぼっており、業務への支障を来すだけでなく、メンタルヘルス上のリスクも深刻であることがうかがえる。「病院に通うことになった」(4.6%)、「休職を余儀なくされた」(1.1%)など、実際に健康被害に至ったケースも存在する。
参考までに、厚生労働省が2023年度に実施した民間企業や団体における同様の調査では、カスハラの被害経験を有する者の割合は10.8%であり、自治体職員の35.0%という数値と比較すると3倍以上の開きがある。このことから、住民対応の最前線に立つ自治体職員が、民間企業以上に過酷な対応業務に従事している実態が浮き彫りとなった。
総務省は本調査結果を踏まえ、今後、自治体におけるハラスメント防止マニュアルの整備、相談窓口の設置、研修の充実といった対策を促進する方針である。制度面および組織文化の両面からの対応が求められている。
【要点】
調査概要
・実施主体:総務省
・実施期間:2024年11月〜12月
・対象:全国388自治体に勤務する一般職の職員2万人(無作為抽出)
・有効回答数:1万1507人(回収率57.5%)
主な調査結果
・カスハラ経験率:全体の35.0%が過去3年間にカスハラを受けたと回答
・民間企業との比較:厚生労働省調査(2023年度)では民間側の経験率は10.8%、自治体職員は民間の約3倍以上の被害率
部門別の被害経験率(上位)
・「広報広聴」:66.3%
・「各種年金保険関係」:61.5%
・「福祉事務所」:61.5%
⇨ 住民との直接接触が多い部署ほど被害が多い傾向
カスハラの具体的内容(複数回答、上位)
・「継続的な、執ような言動」:72.3%
・「威圧的な言動」:66.4%
・「人格を否定する発言」:48.3%
・「業務と無関係なプライベートへの言及」:21.0%
・「長時間の拘束」なども報告あり
被害による影響
・「精神的苦痛を感じた」:84.3%
・「病院に通うようになった」:4.6%
・「休職を余儀なくされた」:1.1%
⇨メンタルヘルス上のリスクが顕在化
今後の対応(総務省の方針)
・ハラスメント防止マニュアルの整備
・職員向けの相談窓口設置
・カスハラ対策研修の強化
・安全確保と職員の精神的負担軽減の両立を目指す
【桃源寸評】
「法の定め」
地方自治法は「第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」とある。
第二条は、「⑭ 地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」
第十条 ② 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。
等々である。
「カスタマー(customer)」とは
「カスタマー(customer)」とは、一般的には「商品やサービスを受け取る見返りとして対価を支払う者」、すなわち「顧客」を意味する。主に民間企業において、企業の提供する製品やサービスの購入者や利用者を指す語である。
・しかしながら、行政機関における「カスタマー」という語の使用は、本来の定義とはやや異なる文脈で用いられている。
⇨ 公的機関における「カスタマー」の扱い(広義的用法)
⇨ 対価を支払っていなくても、サービスの提供対象となる住民等を「顧客」になぞらえる用法
⇨ 行政サービスを受ける者(住民、納税者、申請者など)を、組織の外部利用者という意味でカスタマーと呼ぶケースがある。
・1990年代以降の行政改革・NPM(New Public Management)思想の影響
・公的機関も「顧客志向」「サービス向上」を目指すべきという考えから、住民を「カスタマー」に準えた表現が広がった。
・この用語使用への批判と議論
⇨ 批判1:住民は「主権者」であり、サービスの一方的受益者ではなく、行政の主体的な構成員である。したがって「顧客」という上下関係を前提とした語は不適切である。
⇨ 批判2:行政サービスは商品とは異なり、法律・制度に基づく公的な権利・義務の執行であるため、「顧客満足」を過度に追求する姿勢は行政の公平性・中立性を損なう恐れがある。
・行政文脈における「カスタマー」は本来的な意味(=対価を払う顧客)を拡張した比喩的用法であり、厳密には「住民」「市民」「利用者」といった用語が本来適切である。従って、住民を「カスタマー」と捉えることには制度的にも概念的にも慎重な姿勢が求められる。
・この点において、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という語も、本来の意味を越えて行政職員への住民からの過剰要求・暴言等を指すために転用されている用語である。
「なぜ「カスタマー」は不適切か」
(1)主従関係の誤認
「カスタマーは常に正しい」という商業的原則が適用されやすく、住民が「注文を出す立場」であり、行政職員は「応じるべき存在」といった構図が強調される。結果として、不当な要求や暴言・威圧的態度が正当化されやすくなる。
(2)公共性・公平性の希薄化
行政サービスは法令に基づいて提供されるものであり、全住民に対して公平でなければならない。個別の「満足度」ではなく、「法の下の平等」が優先されるべきである。
(3)双方への負担
住民:期待が肥大化し、「行政は自分の要求に応じて当然」という誤解が生じる。
職員:「顧客第一」で応えきれない要求に晒され、心理的圧迫・業務過多を招く。
「福祉の受益者」という用語の適切性
・制度的な位置づけを明確にする
⇨福祉制度に基づいて提供されるサービスを「受ける者」であり、「要求する顧客」ではないという関係性を明示する。
・権利性と義務性の両立を表現
⇨社会保障制度における福祉は、申請によって得られる「権利」である一方、法に基づく審査や要件があり、「当然のサービス」ではないという認識を維持できる。
・行政職員との関係を公平に描く
⇨職員は「サービス提供者」であって「顧客対応要員」ではなく、制度に即して職務を遂行する立場である。対等な関係が保たれる。
・特に適している文脈
⇨生活保護、障害福祉、介護保険、児童扶養手当など、法律に基づく福祉給付・支援制度の利用者を表す際
⇨クレームや過剰要求が制度を逸脱しているか否かを判断する際の客観的な立場の明示
・現場職員の権利保護や対応方針を議論する際の用語の整理
「補足:用語選択がもたらす効果」
・「受益者」という語は、サービスを受けること自体が制度的な審査と根拠に基づくことを強調できるため、「一方的な要求」は制度外であるという線引きが可能となる。
・⇨同時に「受益者」は、必要とするサービスを正当に享受する立場でもあり、「弱者の尊厳」も損なわない。
・したがって、「福祉の受益者」は、カスタマーという語よりも制度の原理や行政の中立性、職員との適切な関係性を保つ上で、極めて有効かつ精緻な表現である。
「NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)とは」
・正式名称:New Public Management
・発祥:1980年代の英国・サッチャー政権、続いてニュージーランドなどで展開
・目的:公的部門に民間企業の経営手法(効率性・成果主義・顧客志向)を導入し、行政の無駄や硬直性を改革すること
・NPMの主な特徴
⇨NPM間企業的手法の導入→ 成果主義評価・業績管理・アウトソーシングの推進
・行政組織のスリム化
⇨官から民へ(小さな政府)
・「顧客志向」行政の推進
⇨住民=顧客、行政サービス=商品として捉える発想
・競争原理の導入
⇨地方自治体同士の競争、民間委託の活用
・NPMの功罪
☆サービスの効率化、職員の意識改革
★公平性の後退、住民との対立、数値至上主義の弊害
☆コスト削減
★脆弱な人権対応、現場の過重労働
☆透明性・説明責任の強化
★「顧客満足」と「法令遵守」の間の緊張
・このように、「NPM型の顧客志向」を行政にそのまま導入することは、表面的なサービス向上を目指す一方で、行政の中立性・公平性・職員の安全と尊厳を犠牲にしかねない。
・したがって、「市民=カスタマー」という構図は制度的にも心理的にも行政の本質から乖離した表現であり、カスハラ問題を一層悪化させる恐れがある。
ご希望であれば、行政における代替的な住民対応モデル(例:コ・プロダクション型)についても説明可能である。希望するか。
「NPMは新市場主義の結果である」
・NPM(New Public Management:新公共管理)は、新自由主義(neoliberalism)=新市場主義の政策潮流の中で登場・展開されたものであり、両者は密接に結びついている。
・NPMと新自由主義の関係
⇨思想的背景 NPMは「政府は非効率であり、民間の効率性を導入すべき」という新自由主義の信念に基づいている。
⇨登場の時期 1980年代、英国のサッチャー政権、米国のレーガン政権における市場原理の徹底と小さな政府路線の中で始まった。
・主な手法
⇨行政に競争原理を導入する
⇨公務員制度の民間化(契約・成果主義)
⇨外注・アウトソーシング推進
⇨行政のスリム化とコスト削減
・目的
⇨行政の「効率化」や「顧客満足度向上」だが、実態は「財政支出の抑制」「民営化の推進」が柱
「NPMが新市場主義である理由」
(1)市場至上主義の行政への拡張
・行政も市場のように競争させるべきだという考え(例:指定管理者制度、公営病院の経営評価)。
(2)公共部門の民間化
・教育、医療、福祉、交通など、本来公共性が重視される分野まで「効率性」の名のもとで外部化。
(3)数値主義(マネジメント指標)
・行政評価もKPIや成果数値で測定され、「質より数」が優先される傾向が強まる。
(4)住民=顧客(Customer)モデル
・「選ぶ権利」を強調し、制度利用者に競争原理を適用しようとする傾向(例:学校選択制、介護の自由契約)。
(4)結果と批判
・分野:新市場主義的NPMの影響
・福祉・医療:必要な支援の「選別」や「自己責任論」が進行。生活保護や障害福祉が「コスト」とみなされる傾向。
・教育:学校の成績競争、教員の成果主義などにより、教育現場の疲弊が指摘される。
・自治体行政:「住民満足」よりも「予算達成」や「外注可能性」が優先され、住民との乖離が拡大。
・NPMは新自由主義の一形態であり、「公共性」より「効率性・市場性」を行政に持ち込む試みである。
・その結果として、福祉の「受益者」が「顧客」と見なされ、不当要求・カスハラの構造が制度的に助長される背景ともなっている。
「この時代の日本の首相」
NPMが日本で本格的に導入され始めた1990年代から2000年代初頭の時代、日本の首相は以下のとおり。
・NPMが導入・拡張された時期の日本の首相
在任期間 首相名 NPMとの関連
1991年11月〜1993年8月 宮澤喜一 行政改革の基本路線が示され始めた時期。
1993年8月〜1994年4月 細川護熙 「政治改革」が主軸。公共部門改革も議論に。
1994年4月〜1994年6月 羽田孜 短期間で大きな施策なし。
1994年6月〜1996年1月 村山富市 公共事業中心の財政政策。NPM的改革は進まず。
1996年1月〜1998年7月 橋本龍太郎 中央省庁再編、行政改革会議の設置など、NPM的
・手法の導入を本格化。
1998年7月〜2000年4月 小渕恵三 経済対策が中心だが、NPM的政策も継承。
2000年4月〜2001年4月 森喜朗 教育改革や行政の「民間化」方向を踏襲。
2001年4月〜2006年9月 小泉純一郎 NPMの象徴的存在。郵政民営化、特殊法人改革、市場原理の導入などを徹底。
・特に重要な人物:小泉純一郎
⇨「官から民へ」をスローガンに、行政コスト削減、成果主義、民営化を強力に推進。
⇨郵政民営化はその代表例であり、「市場原理による効率化」が行政の隅々まで適用された。
⇨この時期、自治体にもNPM的改革が波及(指定管理者制度、PFI(Private Finance Initiative導入など)。
・ PFI:公共施設の建設・維持管理・運営などを、民間の資金・経営能力・技術力を活用して行う手法であり、従来の「公共=行政主導」からの転換を象徴する新自由主義的手段である。
・資金調達を行政が直接行うのではなく、民間事業者が投資し、その対価を行政が分割で支払う。
・民間が設計・建設・運営・維持管理まで一体で行うことが多く、「DBO(Design-Build-Operate)」や「BOT(Build-Operate-Transfer)」方式に類似。
・契約期間が長期(15年〜30年)にわたる。
・日本における展開
⇨日本では1999年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(いわゆるPFI法)が制定され、制度が本格導入された。
⇨対象事業には、庁舎・学校・病院・刑務所・上下水道・高速道路などが含まれる。
・問題点と批判
⇨公共の責任があいまいになり、失敗時に責任の所在が不透明。
⇨「コスト削減」が先行し、公共サービスの質が劣化する場合がある。
⇨民間への依存が進み、行政の企画・監督能力が弱体化する懸念。
・このPFIもNPMの一形態であり、「公共を市場に委ねる」代表的なモデルである。関連するPFI事例(例えば学校や刑務所でのPFI)。
「中曽根政権とNPMの関係」
(1)NPMの本質
・公共部門に「民間企業的な手法(成果主義、競争原理、コスト意識)」を導入し、効率的な行政運営を目指す考え方。
・1980年代にサッチャー政権(英)やレーガン政権(米)で始まり、国際的潮流となった。
・中曽根政権がNPMに与えた影響
⇨三公社の民営化(1985年〜1987年)
⇨国鉄、電電公社、専売公社の分割・民営化。
・「公共=非効率」という前提で、市場メカニズム導入による効率化を志向。
・NPMの基本理念である「官から民へ」の象徴的実施。
(2)行政改革(臨調)
・行政管理庁を強化し、成果重視の行政評価制度を導入。
・政策評価とPDCAサイクルの萌芽的導入は、後のNPM的「成果志向行政」の基礎となる。
・総人件費抑制と定員削減
・自治体・官僚の肥大化批判の中で、職員数の削減と効率化を進めた。
・公的セクターの「企業型マネジメント」への圧力が強まる。
・自治体への財政圧力
・地方交付税の見直しなどで、地方自治体の裁量と責任を増大。
・自治体も「経営主体」として自律的な予算管理と成果責任を求められるように変化。
(3)政策目的の転換
・「行政サービスの受益者」としての国民に、「顧客」としての役割が仮託されるようになる。
・この思想は、現在の「カスハラ問題」の背景ともなる顧客至上主義的発想の萌芽といえる。
・中曽根政権は、日本におけるNPM導入の制度的・思想的な出発点である。とりわけ、公務の企業化・競争化・民営化を初めて大規模に試みた点で、日本型NPMの源流をなす。
・この流れはその後、橋本龍太郎政権の「行政改革会議」(1996〜)や小泉純一郎政権の「構造改革」へと連なる。
「自治体職員も被害者」
PFIやNPMの導入によって、本来、地方自治法が定める「住民の福祉の増進」を目的とした自治体業務が、徐々に市場論理や民間委託に置き換えられた結果、自治体職員もまた制度の被害者となっていると評価できる。
以下に、そうした構造的問題を整理する。
・自治体職員が「被害者」となる構図
(1)業務の外部化・民間委託の増加
・福祉・教育・都市計画など住民密着型の業務が、コスト削減や効率性の名のもとに民間に委ねられる。
・結果として、自治体職員の現場経験やスキルの蓄積が困難になり、本来の「公共行政の担い手」としての能力が削がれる。
(2)自治の理念との乖離
・地方自治法第1条の2にある「住民の福祉の増進を図ることを基本」とする理念が、「成果」「効率」「コスト重視」にすり替えられていく。
・これにより、本来の公益追求よりも、数値目標や業績評価が優先され、自治体職員はジレンマに置かれる。
(3)カスタマーハラスメントの増加
・住民を「顧客」とみなすNPM的用語・姿勢が普及し、市民側もサービス業的な応対を当然視するようになる。
・その結果、「丁寧すぎる対応を強要」「執拗な要求」「威圧的態度」などが横行し、職員の心理的負担や業務負担が増大している。
(4)自治体職員の自己効力感の低下
・公共性を感じる実務が減ることで、「自分たちの仕事が社会にどう貢献しているか」が見えにくくなり、モチベーションや使命感の低下につながる。
・自治体職員は、本来住民に直接寄り添い、地域の将来を支えるべき存在である。しかし、NPM導入以降の制度設計により、その役割が制度的・心理的・機能的に制限されており、住民との間に不必要な摩擦が生じる構造が生まれている。
・このように見れば、「カスタマーハラスメントの加害者は誰か」、「カスタマーハラスメントの被害者は誰か」、という問いは、市民と自治体職員の両方を巻き込む制度的課題に他ならない。
【寸評 完】
引用・参照・底本】
日本全国の自治体職員、35%がカスハラ受けた経験あり=総務省 sputnik 日本 2025.05.06
https://sputniknews.jp/20250506/5000-19863609.html?rcmd_alg=collaboration2