緊張が高まる印パ情勢 ― 2025年05月07日 19:37
【概要】
緊張が高まる印パ情勢において留意すべき十の要点
インドとパキスタン間の緊張が高まっており、その根底にはカシミール紛争が存在する。こうした情勢に対しては、個々人が独自に判断を下す自由を持つべきであるが、一般的な認識が必ずしも全体像を反映しているとは限らない。以下は、現在の印パ情勢に関する理解を深めるための十の視点である。
1. 英国の関与は過去の遺物である
印パ分離の歴史的背景にはイギリスの影響があったが、その本質はヒンドゥー教徒とムスリムの一部が独立運動の段階で分裂し、ムスリム側が自らの利益を優先する道を選んだ点にある。イギリスがこれを利用したのは事実であるが、現在のパキスタンは過去ほどイギリスの影響を受けておらず、より自立した国家である。
2. パキスタンのカシミール主張には戦略的・宗教的・政治的要素がある
パキスタンがカシミール全域を主張する理由には、水資源の戦略的重要性、イスラム教徒多数という人口構成、そして軍が国民統合の旗印として利用できるという国内政治上の利益がある。こうした観点は、民主主義や人道主義といった観点を強調する運動の中でしばしば無視されている。
3. 組織的なパレスチナ支持運動はパキスタンを支持している
パレスチナ支援運動の多くは、パキスタンの人道主義的言説と宗教的連帯に共鳴し、パキスタン支持の立場を取っている。この宗教的側面は、政治的なイメージ低下を避けるためにあまり語られないが、結果として印に対する否定的な言説が多くなる傾向にある。
4. イスラエルはこの紛争と無関係である
代替メディア(Alt-Media Community)の一部は、印とイスラエルの関係を過大に関連づけているが、イスラエルがインドを操作している証拠は存在しない。印とイスラエルの関係が近いことは事実であるが、それはロシアとイスラエルの関係に比べれば限定的である。
5. BRICSに関する陰謀論も事実無根である
BRICSを巡る主張―すなわち、今回の印パ緊張がBRICSの弱体化を目的とするものという見方―は根拠を欠いている。BRICSは実体のある同盟ではなく、多極的金融体制について話し合う会合に過ぎない。
6. 印パ双方がテロの加害者として互いを非難するが対応が異なる
インドは先月のテロ事件への報復として軍事行動を実施したが、パキスタンは以前インドをテロ攻撃の背後にあると非難しながらも、軍事的報復には踏み切っていない。この差は、パキスタンの主張が国内向けの政治的方便であるか、あるいは軍事的自信の欠如を示唆している可能性がある。
7. 2024年1月のイラン・パキスタン間の空爆応酬を思い起こすべきである
両国は互いの主張するテロリスト拠点を攻撃し合ったが、その後は関係を修復している。パキスタン西部ではその後もテロが続いているが、イランを再度非難することはない。このことから、パキスタンが主張を政治的に利用しているか、あるいは意図的に黙認している可能性が示唆される。
8. パキスタンは印との二国間問題を多国間問題化しようとしている
1972年のシムラ協定に反して、パキスタンは一貫して問題の国際化を図ってきた。これはパワーバランスの是正を意図しているが、その代償として他国の戦略的思惑に利用されやすくなっている。
9. パキスタンの核による威嚇に対する国際的二重基準
ロシアが核を示唆した際には国際社会から広範な批判があった一方、パキスタンの政府高官が同様の発言をしてもほとんど非難されていない。この二重基準は、印元駐露大使カンワル・シバルによる「西側はパキスタンの主張をインドに聞かせたいがために黙認している」との見方を裏付けるものである。
10. インドを大国競争から排除しようとする勢力の存在
インドの台頭は、米国リベラル派、欧州諸国、中国、トルコ、カタール、イラン革命防衛隊の一部にとって脅威と映っている。西側がウクライナを通じてロシアに戦略的打撃を与えようとしたように、これらの勢力がパキスタンを用いてインドを抑制しようとしている可能性がある。
【詳細】
1. インド・パキスタン間の緊張におけるイギリスの役割は過去の遺物である
英領インドの分割(1947年)によって引き起こされた印パ分断が現在の対立の出発点ではあるものの、それは完全に過去のものであり、現在のパキスタンはイギリスの影響下にないという指摘である。宗教を基盤とした分離独立運動(イスラム教徒の政治的自立志向)が先行し、これを英植民地政権が自らの「分割統治」政策の延長で利用した歴史的経緯はある。しかし現在のパキスタンは独立した行動主体であり、旧宗主国の影響を受ける状況にはないとされる。
2. パキスタンのカシミール領有主張は、戦略・宗教・政治的要因によって構成されている
パキスタンはカシミール全域の領有を主張しており、それには以下の3つの要因があるとされる。
①水資源(インダス川流域)の支配という戦略的要素、
②同地域の多数派がムスリムであるという宗教的要素、
③軍部が国民の結束を維持するための政治的ツールとして用いているという国内的要素である。
しかし国際的な支持を得るために、パキスタンは人道・民主主義の観点からの訴求を強調する傾向があり、これによって実際の地政学的・軍事的動機が隠蔽されているとされる。
3. 組織化された親パレスチナ運動は、主としてパキスタンを支持している
親パレスチナ運動がパキスタンの立場に同調していることを指摘している。その理由は、民主主義と人道主義の訴えという共通の言説構造だけでなく、宗教的連帯感(ムスリム同胞意識)に基づいているとされる。ただしこの宗教的側面は表面化しづらく、運動の正当性が問われることを回避するため、あえて明示されていないとされている。
4. イスラエルはこの対立に無関係である
Alt-Media Community(代替メディア圏、以下AMC)は、しばしば世界の地政学的事件を「シオニスト陰謀論」に帰着させる傾向があるが、本件については不適当であるとコリブコは断言している。インドとイスラエルの関係は確かに強化されているが、それがイコールでイスラエルによるインド支配を意味するものではない。実際、イスラエルとより親密な関係にあるロシアですら、イスラエルの操り人形とはされていないという反証も提示されている。
5. BRICSを巡る陰謀論も無意味である
AMCではBRICS(新興国連合)もまた、重要な地政学的枠組みとして過大評価されがちである。だがコリブコによれば、BRICSは実体的な同盟ではなく、年に一度共同声明を出す程度の「おしゃべりクラブ」に過ぎず、今回の印パ緊張とは直接関係がない。したがって「BRICS潰し」を意図した陰謀論的な主張も説得力を持たないとされる。
6. 印パ双方はテロ支援を非難し合っているが、対応は異なる
インドは、ヒンドゥー教徒を狙った2025年4月のパハルガーム事件への報復として「シンドゥール作戦」を実施し、軍事的行動を取った。対してパキスタンも、インドが2024年3月のジャファール急行爆破事件の背後にいると主張しているが、軍事的報復には出ていない。この非対称性は、①パキスタン側の主張が国内政治用の虚構であるか、②インドへの軍事的自信がない、という可能性を示唆している。
7. 2024年1月のイラン・パキスタン相互攻撃も参照されるべきである
2024年初頭、イランとパキスタンは互いに相手国内のテロリストを標的として空爆を実施した。しかしその後、両国は外交関係を修復し、以後はバロチスタン地域におけるテロ行為についてもイランの関与を黙殺するようになっている。この事例は、パキスタンがテロ問題を政治的に利用している可能性を示すものであり、インドに対するテロ支援の非難にも疑問を抱かせる要素となっている。
8. パキスタンは一貫して印パ問題の多国間化を追求している
本来は1972年のシムラ協定によって印パ間の二国間協議が規定されているが、パキスタンはこれを無視して国際化を進めている。これはインドとの実力差を埋めるための戦略的選択であり、一部の同盟国がパキスタンを利用してインドに圧力をかける構図も見られる。このような対外依存型の姿勢は、パキスタンの「部分的従属国家」としての性格を浮き彫りにしている。
9. パキスタンの核による威嚇に対する国際社会の態度は二重基準である
ウクライナ戦争においては、ロシアの核使用示唆に対して国際的非難が集中したが、近年パキスタンが核威嚇を行っている事実(在ロシア大使や国防相の発言)にはほとんど反応がない。これは、国際社会、特に西側がインドに対してメッセージを送るために、意図的にパキスタンを免責している可能性を示唆しており、インド側にとっては不公正な国際秩序の現れと受け止められている。
10. インドを「大国競争」から排除しようとする勢力が存在する可能性
インドの台頭を警戒する諸勢力(米国のリベラルグローバリスト層、EU、中国、トルコのエルドアン政権、カタール、イラン革命防衛隊など)が、パキスタンを代理として用い、インドの成長を抑えようとしている可能性を指摘する。これは、ウクライナを通じてロシアを弱体化させた西側の戦略と類似した構図と見なされている。
【要点】
1.イギリスの影響は現在には及ばない
印パ分離は英国植民地政策の帰結であったが、現代のパキスタンは英主導の操り人形ではなく、独自の国家意思に基づいて行動している。
2. パキスタンのカシミール主張は複合的動機に基づく
戦略的(水資源)、宗教的(ムスリム多数)、政治的(軍部の国民統合ツール)理由が背景にあり、外向けには人道的・民主主義的主張で包み隠している。
3.親パレスチナ運動はパキスタンを支持しがちである
ムスリム同胞としての宗教的連帯が根底にありながら、それを明言せずに人道主義・反帝国主義の枠組みで支援が行われている。
4.イスラエルは今回の緊張とは無関係である
インドとイスラエルの軍事協力は存在するが、イスラエルがインドを支配しているという主張は陰謀論に過ぎず、事実に基づかない。
5.BRICSに絡めた陰謀論は根拠を欠く
BRICSは緩やかな経済協議体に過ぎず、印パ衝突が同枠組への打撃を意図したものという説は、過度な妄想的解釈である。
6.両国はテロ支援を非難し合うが、行動に差がある
インドは武装報復(シンドゥール作戦)を実行したが、パキスタンは報復行動を控えており、政治的虚構または実力不足の可能性が示唆される。
7.イラン・パキスタンの空爆応酬に類似の構図がある
両国は一時的に報復攻撃を行ったが、以降は相互黙認状態に入り、テロ問題が戦略的に利用されている様子がうかがえる。
8.パキスタンは印パ問題の国際化を目指している
本来はシムラ協定で二国間協議が原則だが、パキスタンは第三国や国際機関の介入を求め続け、部分的に従属的な姿勢を見せている。
9.パキスタンの核威嚇は国際的に黙認されている
ロシアの核発言は非難される一方で、パキスタンの類似行為は看過されており、インドへの圧力の一環とみなされる二重基準が存在する。
10.印台頭に対する国際的牽制の一環と見なせる
米国リベラル勢、EU、中国、トルコ、カタール、イランなどがパキスタンを「代理勢力」として用い、インドの台頭を妨げようとしている可能性がある。
引用・参照・底本】
Ten Points To Keep In Mind Amidst Escalating Indo-Pak Tensions Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.07
https://korybko.substack.com/p/ten-points-to-keep-in-mind-amidst?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163040420&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
緊張が高まる印パ情勢において留意すべき十の要点
インドとパキスタン間の緊張が高まっており、その根底にはカシミール紛争が存在する。こうした情勢に対しては、個々人が独自に判断を下す自由を持つべきであるが、一般的な認識が必ずしも全体像を反映しているとは限らない。以下は、現在の印パ情勢に関する理解を深めるための十の視点である。
1. 英国の関与は過去の遺物である
印パ分離の歴史的背景にはイギリスの影響があったが、その本質はヒンドゥー教徒とムスリムの一部が独立運動の段階で分裂し、ムスリム側が自らの利益を優先する道を選んだ点にある。イギリスがこれを利用したのは事実であるが、現在のパキスタンは過去ほどイギリスの影響を受けておらず、より自立した国家である。
2. パキスタンのカシミール主張には戦略的・宗教的・政治的要素がある
パキスタンがカシミール全域を主張する理由には、水資源の戦略的重要性、イスラム教徒多数という人口構成、そして軍が国民統合の旗印として利用できるという国内政治上の利益がある。こうした観点は、民主主義や人道主義といった観点を強調する運動の中でしばしば無視されている。
3. 組織的なパレスチナ支持運動はパキスタンを支持している
パレスチナ支援運動の多くは、パキスタンの人道主義的言説と宗教的連帯に共鳴し、パキスタン支持の立場を取っている。この宗教的側面は、政治的なイメージ低下を避けるためにあまり語られないが、結果として印に対する否定的な言説が多くなる傾向にある。
4. イスラエルはこの紛争と無関係である
代替メディア(Alt-Media Community)の一部は、印とイスラエルの関係を過大に関連づけているが、イスラエルがインドを操作している証拠は存在しない。印とイスラエルの関係が近いことは事実であるが、それはロシアとイスラエルの関係に比べれば限定的である。
5. BRICSに関する陰謀論も事実無根である
BRICSを巡る主張―すなわち、今回の印パ緊張がBRICSの弱体化を目的とするものという見方―は根拠を欠いている。BRICSは実体のある同盟ではなく、多極的金融体制について話し合う会合に過ぎない。
6. 印パ双方がテロの加害者として互いを非難するが対応が異なる
インドは先月のテロ事件への報復として軍事行動を実施したが、パキスタンは以前インドをテロ攻撃の背後にあると非難しながらも、軍事的報復には踏み切っていない。この差は、パキスタンの主張が国内向けの政治的方便であるか、あるいは軍事的自信の欠如を示唆している可能性がある。
7. 2024年1月のイラン・パキスタン間の空爆応酬を思い起こすべきである
両国は互いの主張するテロリスト拠点を攻撃し合ったが、その後は関係を修復している。パキスタン西部ではその後もテロが続いているが、イランを再度非難することはない。このことから、パキスタンが主張を政治的に利用しているか、あるいは意図的に黙認している可能性が示唆される。
8. パキスタンは印との二国間問題を多国間問題化しようとしている
1972年のシムラ協定に反して、パキスタンは一貫して問題の国際化を図ってきた。これはパワーバランスの是正を意図しているが、その代償として他国の戦略的思惑に利用されやすくなっている。
9. パキスタンの核による威嚇に対する国際的二重基準
ロシアが核を示唆した際には国際社会から広範な批判があった一方、パキスタンの政府高官が同様の発言をしてもほとんど非難されていない。この二重基準は、印元駐露大使カンワル・シバルによる「西側はパキスタンの主張をインドに聞かせたいがために黙認している」との見方を裏付けるものである。
10. インドを大国競争から排除しようとする勢力の存在
インドの台頭は、米国リベラル派、欧州諸国、中国、トルコ、カタール、イラン革命防衛隊の一部にとって脅威と映っている。西側がウクライナを通じてロシアに戦略的打撃を与えようとしたように、これらの勢力がパキスタンを用いてインドを抑制しようとしている可能性がある。
【詳細】
1. インド・パキスタン間の緊張におけるイギリスの役割は過去の遺物である
英領インドの分割(1947年)によって引き起こされた印パ分断が現在の対立の出発点ではあるものの、それは完全に過去のものであり、現在のパキスタンはイギリスの影響下にないという指摘である。宗教を基盤とした分離独立運動(イスラム教徒の政治的自立志向)が先行し、これを英植民地政権が自らの「分割統治」政策の延長で利用した歴史的経緯はある。しかし現在のパキスタンは独立した行動主体であり、旧宗主国の影響を受ける状況にはないとされる。
2. パキスタンのカシミール領有主張は、戦略・宗教・政治的要因によって構成されている
パキスタンはカシミール全域の領有を主張しており、それには以下の3つの要因があるとされる。
①水資源(インダス川流域)の支配という戦略的要素、
②同地域の多数派がムスリムであるという宗教的要素、
③軍部が国民の結束を維持するための政治的ツールとして用いているという国内的要素である。
しかし国際的な支持を得るために、パキスタンは人道・民主主義の観点からの訴求を強調する傾向があり、これによって実際の地政学的・軍事的動機が隠蔽されているとされる。
3. 組織化された親パレスチナ運動は、主としてパキスタンを支持している
親パレスチナ運動がパキスタンの立場に同調していることを指摘している。その理由は、民主主義と人道主義の訴えという共通の言説構造だけでなく、宗教的連帯感(ムスリム同胞意識)に基づいているとされる。ただしこの宗教的側面は表面化しづらく、運動の正当性が問われることを回避するため、あえて明示されていないとされている。
4. イスラエルはこの対立に無関係である
Alt-Media Community(代替メディア圏、以下AMC)は、しばしば世界の地政学的事件を「シオニスト陰謀論」に帰着させる傾向があるが、本件については不適当であるとコリブコは断言している。インドとイスラエルの関係は確かに強化されているが、それがイコールでイスラエルによるインド支配を意味するものではない。実際、イスラエルとより親密な関係にあるロシアですら、イスラエルの操り人形とはされていないという反証も提示されている。
5. BRICSを巡る陰謀論も無意味である
AMCではBRICS(新興国連合)もまた、重要な地政学的枠組みとして過大評価されがちである。だがコリブコによれば、BRICSは実体的な同盟ではなく、年に一度共同声明を出す程度の「おしゃべりクラブ」に過ぎず、今回の印パ緊張とは直接関係がない。したがって「BRICS潰し」を意図した陰謀論的な主張も説得力を持たないとされる。
6. 印パ双方はテロ支援を非難し合っているが、対応は異なる
インドは、ヒンドゥー教徒を狙った2025年4月のパハルガーム事件への報復として「シンドゥール作戦」を実施し、軍事的行動を取った。対してパキスタンも、インドが2024年3月のジャファール急行爆破事件の背後にいると主張しているが、軍事的報復には出ていない。この非対称性は、①パキスタン側の主張が国内政治用の虚構であるか、②インドへの軍事的自信がない、という可能性を示唆している。
7. 2024年1月のイラン・パキスタン相互攻撃も参照されるべきである
2024年初頭、イランとパキスタンは互いに相手国内のテロリストを標的として空爆を実施した。しかしその後、両国は外交関係を修復し、以後はバロチスタン地域におけるテロ行為についてもイランの関与を黙殺するようになっている。この事例は、パキスタンがテロ問題を政治的に利用している可能性を示すものであり、インドに対するテロ支援の非難にも疑問を抱かせる要素となっている。
8. パキスタンは一貫して印パ問題の多国間化を追求している
本来は1972年のシムラ協定によって印パ間の二国間協議が規定されているが、パキスタンはこれを無視して国際化を進めている。これはインドとの実力差を埋めるための戦略的選択であり、一部の同盟国がパキスタンを利用してインドに圧力をかける構図も見られる。このような対外依存型の姿勢は、パキスタンの「部分的従属国家」としての性格を浮き彫りにしている。
9. パキスタンの核による威嚇に対する国際社会の態度は二重基準である
ウクライナ戦争においては、ロシアの核使用示唆に対して国際的非難が集中したが、近年パキスタンが核威嚇を行っている事実(在ロシア大使や国防相の発言)にはほとんど反応がない。これは、国際社会、特に西側がインドに対してメッセージを送るために、意図的にパキスタンを免責している可能性を示唆しており、インド側にとっては不公正な国際秩序の現れと受け止められている。
10. インドを「大国競争」から排除しようとする勢力が存在する可能性
インドの台頭を警戒する諸勢力(米国のリベラルグローバリスト層、EU、中国、トルコのエルドアン政権、カタール、イラン革命防衛隊など)が、パキスタンを代理として用い、インドの成長を抑えようとしている可能性を指摘する。これは、ウクライナを通じてロシアを弱体化させた西側の戦略と類似した構図と見なされている。
【要点】
1.イギリスの影響は現在には及ばない
印パ分離は英国植民地政策の帰結であったが、現代のパキスタンは英主導の操り人形ではなく、独自の国家意思に基づいて行動している。
2. パキスタンのカシミール主張は複合的動機に基づく
戦略的(水資源)、宗教的(ムスリム多数)、政治的(軍部の国民統合ツール)理由が背景にあり、外向けには人道的・民主主義的主張で包み隠している。
3.親パレスチナ運動はパキスタンを支持しがちである
ムスリム同胞としての宗教的連帯が根底にありながら、それを明言せずに人道主義・反帝国主義の枠組みで支援が行われている。
4.イスラエルは今回の緊張とは無関係である
インドとイスラエルの軍事協力は存在するが、イスラエルがインドを支配しているという主張は陰謀論に過ぎず、事実に基づかない。
5.BRICSに絡めた陰謀論は根拠を欠く
BRICSは緩やかな経済協議体に過ぎず、印パ衝突が同枠組への打撃を意図したものという説は、過度な妄想的解釈である。
6.両国はテロ支援を非難し合うが、行動に差がある
インドは武装報復(シンドゥール作戦)を実行したが、パキスタンは報復行動を控えており、政治的虚構または実力不足の可能性が示唆される。
7.イラン・パキスタンの空爆応酬に類似の構図がある
両国は一時的に報復攻撃を行ったが、以降は相互黙認状態に入り、テロ問題が戦略的に利用されている様子がうかがえる。
8.パキスタンは印パ問題の国際化を目指している
本来はシムラ協定で二国間協議が原則だが、パキスタンは第三国や国際機関の介入を求め続け、部分的に従属的な姿勢を見せている。
9.パキスタンの核威嚇は国際的に黙認されている
ロシアの核発言は非難される一方で、パキスタンの類似行為は看過されており、インドへの圧力の一環とみなされる二重基準が存在する。
10.印台頭に対する国際的牽制の一環と見なせる
米国リベラル勢、EU、中国、トルコ、カタール、イランなどがパキスタンを「代理勢力」として用い、インドの台頭を妨げようとしている可能性がある。
引用・参照・底本】
Ten Points To Keep In Mind Amidst Escalating Indo-Pak Tensions Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.07
https://korybko.substack.com/p/ten-points-to-keep-in-mind-amidst?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163040420&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email