米国の対中戦争 ― 2025年04月13日 15:52
【概要】
「アメリカの対中戦争」著者:モジミール・ババチェク
掲載:2025年4月11日、Global Research
1997年、ジョージ・W・ブッシュ政権の将来のメンバーたちが「アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)」の中で声明を発表し、アメリカが国際秩序を維持・拡張する責任を負うべきであると主張した。以後、アメリカは中東でイラクに対して大量破壊兵器の存在を根拠に侵攻し、他国への攻撃も行った。
2023年、アメリカ共和党は「プロジェクト2025」と題した922ページに及ぶ政策綱領を公表した。その中では、中国がアメリカにとって最も重大な脅威であると位置づけられており、中国がアジアおよび世界的な支配を目指していることがアメリカの利益を根本から脅かすと記されている。これを阻止することがアメリカ外交・防衛政策の最重要課題であるとされている。
バイデン大統領は、中国の台頭を抑えるため、ロシアの提案したウクライナのNATO非加盟保証を拒否した。これにより、ロシアによるウクライナ侵攻が誘発され、米国および同盟国がウクライナを支援する形でロシアを弱体化させ、世界的影響力を低下させることを狙った。
米国は、ロシア・中国の連携が中東支配を妨げていると認識しており、ウクライナ戦争を通じてこの連携を断ち切る戦略を取っている。ロシアの敗北が中国の孤立をもたらし、最終的に中国の抑制につながるという見立てであった。
しかしながら、ロシアが戦局で優勢に立ちつつあり、米欧側の戦略の行き詰まりが見え始めた。これを受けて、2025年に米大統領に復帰したドナルド・トランプは、戦略を転換し、対中国戦略のためにロシアとの関係改善を図った。ウクライナのロシア語圏を譲歩し、NATOの東方拡大を停止させることで、ロシアとの同盟を成立させる意図であった。
ロシア側も、中国との関係において一定の負担を感じていた可能性があり、米国との交渉に応じた。しかし、中国が無条件で支援を強化する可能性も残っていたため、ロシアは両国の間でバランスを取る立場に立たされた。
2025年4月1日、プーチン大統領は、対独戦勝80周年の記念式典における最重要ゲストとして習近平国家主席を招待した。国際機関(国連、上海協力機構、BRICS)における協力も議題に含まれており、ロシアが再び中国との協調を強める可能性を示唆している。
4月8日には、ウクライナ軍がロシア軍に従軍していた中国兵2名を捕虜にしたとされており、中露同盟の存在が明確になった。このような状況下で、米国、EU、英国、豪州による連合は勝ち目がないとされており、通常戦争および核戦争のリスクが高まっている。
著者は、世界大戦を回避するためには、全国家の多数決によって軍事介入の可否を決定するような民主的な国際連合の創設が必要であり、NATOのような一国または一勢力による軍事組織は解体されるべきであると結論付けている。
【詳細】
1. 歴史的背景:アメリカの地政学戦略
1997年、ジョージ・W・ブッシュ政権に関与することになる人物らが「Project for the New American Century(新しいアメリカ世紀のためのプロジェクト)」を発表した。この文書は、アメリカが国際秩序の維持・拡大を担うべきであるとする理念を掲げていた。
その後、ブッシュ政権は中東において大量破壊兵器に関する虚偽の主張を根拠にイラクへ侵攻し、さらに他の中東諸国にも介入していった。
2. 「Project 2025」と対中戦略
2023年、アメリカ共和党は政策提言書『Project 2025』を発表した。この922ページの文書では「中国」という語が483回登場し、中国がアジア、そして最終的には世界支配を目指していると述べられている。
・アメリカの安全保障・自由・繁栄に対する最大の脅威は中国であると記されている。
・中国は情報・技術面でアメリカを凌駕する可能性があると警告されている。
。よって、アメリカの防衛政策において最優先課題として中国を位置付けるべきであると主張している。
3. ウクライナ戦争とバイデン政権の選択
バイデン大統領は、ロシアが求めたNATO非拡大に関する保証を拒否した。この行為により、ロシアはウクライナに対する軍事行動を開始し、アメリカとその同盟国がウクライナを支援する形でロシアとの間接戦争に突入した。
・ウクライナ国内にはロシアへの帰属意識を持ち、EUやNATOへの加盟を望まない地域もあるとされる。
・アメリカはこの戦争を通じてロシアの大国としての地位を弱体化させることを意図していたとされる。
4. ロシア・中国の同盟と中東支配の関係
ロシアと中国の同盟関係は、アメリカが中東の石油資源を支配するという長期的戦略の障害となっていた。石油を通じて産業国家を支配するためには、中東支配が重要であるとされる。
そのため、ロシアをウクライナ戦争で敗北させることで中露同盟を分断し、アメリカの覇権確立を図ろうとしたという構図が描かれている。
5. トランプ政権の戦略転換とロシアとの協力
2025年に再び政権を握ったトランプ大統領は、ロシアとの関係を再定義し、対中政策においてロシアを味方に引き入れるという戦略へと転換したとされる。
・ロシア語圏のウクライナ領土をロシアに譲ること、
・NATOの東方拡大を止めること、
・ロシアの核戦争リスクを排除すること、
これらの条件をもって、ロシアの大国としての地位を維持しつつ、中国との連携を切り崩す試みであるとされる。
6. ロシアの動向と中露関係の継続
プーチン大統領は2025年4月1日、対独戦勝80周年記念行事において、習近平国家主席を「最も重要な賓客」として招待することを発表した。
・上海協力機構(SCO)、BRICS、国連などの国際機関での協力強化も議題に含まれるとされた。
・これは、ロシアが中国との同盟関係を維持する意思をアメリカおよび中国双方に示す意図があると読み取られている。
7. 中国軍兵士の存在と対立の激化
2025年4月8日、ウクライナ軍は、ロシア軍と共に戦っていたとされる中国兵2名を拘束したと報告されている。これにより、実際の中露軍事協力が明確化し、欧米諸国にとっての脅威が増大した。
8. 世界大戦のリスクと提案された解決策
現在の対立構造(米・EU vs 中・露)が核戦争を含む全面戦争に発展する危険性があると指摘している。
その回避策として、以下のような制度的改革を提案している。
・国連を民主的機関とし、軍事介入の決定は国家の多数決によって決定すること
・一国または少数国家による覇権を目指す軍事同盟(NATOなど)の廃止
9. 著者略歴
モイミール・ババチェク(Mojmir Babacek)
・1947年、チェコスロバキア・プラハ生まれ
・カレル大学で哲学と政治経済を学ぶ(1972年卒)
・1978年、共産政権に対する人権擁護文書「憲章77」に署名
・1981〜1988年、米国に政治亡命
・1990年代以降、国際的オルタナティブメディアで執筆活動
・脳神経系への遠隔操作(ニューロテクノロジー)の国際的禁止を訴えている
【要点】
歴史的文脈とアメリカの対外戦略
・1997年、アメリカのネオコン勢力が「Project for the New American Century」を公表し、アメリカの単独覇権維持を提唱した。
・ブッシュ政権下では、この文書に基づき中東政策(イラク戦争など)が展開された。
・米国は中東の石油支配を通じ、産業国のエネルギー政策を間接的に制御する意図を有していた。
『Project 2025』と中国戦略の明文化
・2023年、共和党が発表した政策文書『Project 2025』(全922ページ)は、中国という語を483回使用し、同国を最大の脅威と位置づけた。
・文書内では、中国が覇権を目指しているとされ、対中戦略の強化が求められている。
・中国がAI、バイオ、量子、再生可能エネルギー等の分野で覇権を握れば、米国の地政学的優位が失われるとの危機感が示されている。
ウクライナ戦争の意図と構図
・2021年〜2022年、バイデン政権はロシアのNATO非拡大要求を拒否し、ロシアはウクライナへ軍事侵攻を開始した。
・米国は、ウクライナ支援を通じてロシアの国力を削ぐ意図を持っていたとされる。
・ロシアを弱体化させ、中国との連携を断ち切ることが最終的な狙いとされる。
中露関係と米国の困難
・ロシアと中国は、上海協力機構(SCO)やBRICSを通じて協力関係を維持しており、米国の包囲政策に対抗している。
・ロシアをウクライナ戦争で敗北させることで、中国を孤立させることが米国の目論見とされる。
・しかし、ロシアが中国との関係を重視し続けたため、アメリカの戦略は部分的に失敗しているとの見方がある。
トランプによる対中包囲再編
・トランプが、対中戦略においてロシアを味方に引き入れる方針へ転換すると想定される。
・ロシアに対し、以下のような譲歩を提供するとされる。
⇨ ウクライナ東部の支配権容認
⇨ NATO東方拡大の停止
⇨ 核戦争回避の保証
・このような合意を通じて、ロシアと中国の分断を図るとされる。
プーチンによる中国との連携継続表明
・2025年4月1日、プーチンは対独戦勝記念日に習近平を「最重要ゲスト」として招待する意向を発表。
・BRICSやSCOにおける中露の協力深化が議題とされており、米国への対抗姿勢を明確にした。
・これはロシアが中国との関係を維持するという戦略的意思の表明とされる。
中国軍兵士の関与疑惑
・2025年4月8日、ウクライナ軍は中国軍兵士2名を拘束したと発表。
・これは中露の軍事協力が表面化した事例として報告されている。
・中国は拘束の事実を否定しており、外交的緊張が高まっている。
提案する代替構想
・現在の国際秩序は第三次世界大戦を招く恐れがあるとし、以下の制度改革を提案
⇨ 国連を多数決による民主的機構へと改編
⇨ 地域的覇権を目的とする軍事同盟(例:NATO)の解体
・軍事的抑止ではなく、制度的信頼に基づく平和秩序の構築が必要とされる。
著者略歴
・モイミール・ババチェク:チェコ出身の哲学者・政治評論家
・共産体制批判活動により亡命し、後に帰国
・現在は神経科学的軍事技術(脳操作技術)に関する規制活動を推進
・米国・NATOの軍事的アプローチに批判的であり、非軍事的手段による国際秩序再建を提唱
【引用・参照・底本】
America’s War Against China Michel Chossudovsky 2025.04.06
https://michelchossudovsky.substack.com/p/america-war-against-china?utm_source=post-email-title&publication_id=1910355&post_id=161015262&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
「アメリカの対中戦争」著者:モジミール・ババチェク
掲載:2025年4月11日、Global Research
1997年、ジョージ・W・ブッシュ政権の将来のメンバーたちが「アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)」の中で声明を発表し、アメリカが国際秩序を維持・拡張する責任を負うべきであると主張した。以後、アメリカは中東でイラクに対して大量破壊兵器の存在を根拠に侵攻し、他国への攻撃も行った。
2023年、アメリカ共和党は「プロジェクト2025」と題した922ページに及ぶ政策綱領を公表した。その中では、中国がアメリカにとって最も重大な脅威であると位置づけられており、中国がアジアおよび世界的な支配を目指していることがアメリカの利益を根本から脅かすと記されている。これを阻止することがアメリカ外交・防衛政策の最重要課題であるとされている。
バイデン大統領は、中国の台頭を抑えるため、ロシアの提案したウクライナのNATO非加盟保証を拒否した。これにより、ロシアによるウクライナ侵攻が誘発され、米国および同盟国がウクライナを支援する形でロシアを弱体化させ、世界的影響力を低下させることを狙った。
米国は、ロシア・中国の連携が中東支配を妨げていると認識しており、ウクライナ戦争を通じてこの連携を断ち切る戦略を取っている。ロシアの敗北が中国の孤立をもたらし、最終的に中国の抑制につながるという見立てであった。
しかしながら、ロシアが戦局で優勢に立ちつつあり、米欧側の戦略の行き詰まりが見え始めた。これを受けて、2025年に米大統領に復帰したドナルド・トランプは、戦略を転換し、対中国戦略のためにロシアとの関係改善を図った。ウクライナのロシア語圏を譲歩し、NATOの東方拡大を停止させることで、ロシアとの同盟を成立させる意図であった。
ロシア側も、中国との関係において一定の負担を感じていた可能性があり、米国との交渉に応じた。しかし、中国が無条件で支援を強化する可能性も残っていたため、ロシアは両国の間でバランスを取る立場に立たされた。
2025年4月1日、プーチン大統領は、対独戦勝80周年の記念式典における最重要ゲストとして習近平国家主席を招待した。国際機関(国連、上海協力機構、BRICS)における協力も議題に含まれており、ロシアが再び中国との協調を強める可能性を示唆している。
4月8日には、ウクライナ軍がロシア軍に従軍していた中国兵2名を捕虜にしたとされており、中露同盟の存在が明確になった。このような状況下で、米国、EU、英国、豪州による連合は勝ち目がないとされており、通常戦争および核戦争のリスクが高まっている。
著者は、世界大戦を回避するためには、全国家の多数決によって軍事介入の可否を決定するような民主的な国際連合の創設が必要であり、NATOのような一国または一勢力による軍事組織は解体されるべきであると結論付けている。
【詳細】
1. 歴史的背景:アメリカの地政学戦略
1997年、ジョージ・W・ブッシュ政権に関与することになる人物らが「Project for the New American Century(新しいアメリカ世紀のためのプロジェクト)」を発表した。この文書は、アメリカが国際秩序の維持・拡大を担うべきであるとする理念を掲げていた。
その後、ブッシュ政権は中東において大量破壊兵器に関する虚偽の主張を根拠にイラクへ侵攻し、さらに他の中東諸国にも介入していった。
2. 「Project 2025」と対中戦略
2023年、アメリカ共和党は政策提言書『Project 2025』を発表した。この922ページの文書では「中国」という語が483回登場し、中国がアジア、そして最終的には世界支配を目指していると述べられている。
・アメリカの安全保障・自由・繁栄に対する最大の脅威は中国であると記されている。
・中国は情報・技術面でアメリカを凌駕する可能性があると警告されている。
。よって、アメリカの防衛政策において最優先課題として中国を位置付けるべきであると主張している。
3. ウクライナ戦争とバイデン政権の選択
バイデン大統領は、ロシアが求めたNATO非拡大に関する保証を拒否した。この行為により、ロシアはウクライナに対する軍事行動を開始し、アメリカとその同盟国がウクライナを支援する形でロシアとの間接戦争に突入した。
・ウクライナ国内にはロシアへの帰属意識を持ち、EUやNATOへの加盟を望まない地域もあるとされる。
・アメリカはこの戦争を通じてロシアの大国としての地位を弱体化させることを意図していたとされる。
4. ロシア・中国の同盟と中東支配の関係
ロシアと中国の同盟関係は、アメリカが中東の石油資源を支配するという長期的戦略の障害となっていた。石油を通じて産業国家を支配するためには、中東支配が重要であるとされる。
そのため、ロシアをウクライナ戦争で敗北させることで中露同盟を分断し、アメリカの覇権確立を図ろうとしたという構図が描かれている。
5. トランプ政権の戦略転換とロシアとの協力
2025年に再び政権を握ったトランプ大統領は、ロシアとの関係を再定義し、対中政策においてロシアを味方に引き入れるという戦略へと転換したとされる。
・ロシア語圏のウクライナ領土をロシアに譲ること、
・NATOの東方拡大を止めること、
・ロシアの核戦争リスクを排除すること、
これらの条件をもって、ロシアの大国としての地位を維持しつつ、中国との連携を切り崩す試みであるとされる。
6. ロシアの動向と中露関係の継続
プーチン大統領は2025年4月1日、対独戦勝80周年記念行事において、習近平国家主席を「最も重要な賓客」として招待することを発表した。
・上海協力機構(SCO)、BRICS、国連などの国際機関での協力強化も議題に含まれるとされた。
・これは、ロシアが中国との同盟関係を維持する意思をアメリカおよび中国双方に示す意図があると読み取られている。
7. 中国軍兵士の存在と対立の激化
2025年4月8日、ウクライナ軍は、ロシア軍と共に戦っていたとされる中国兵2名を拘束したと報告されている。これにより、実際の中露軍事協力が明確化し、欧米諸国にとっての脅威が増大した。
8. 世界大戦のリスクと提案された解決策
現在の対立構造(米・EU vs 中・露)が核戦争を含む全面戦争に発展する危険性があると指摘している。
その回避策として、以下のような制度的改革を提案している。
・国連を民主的機関とし、軍事介入の決定は国家の多数決によって決定すること
・一国または少数国家による覇権を目指す軍事同盟(NATOなど)の廃止
9. 著者略歴
モイミール・ババチェク(Mojmir Babacek)
・1947年、チェコスロバキア・プラハ生まれ
・カレル大学で哲学と政治経済を学ぶ(1972年卒)
・1978年、共産政権に対する人権擁護文書「憲章77」に署名
・1981〜1988年、米国に政治亡命
・1990年代以降、国際的オルタナティブメディアで執筆活動
・脳神経系への遠隔操作(ニューロテクノロジー)の国際的禁止を訴えている
【要点】
歴史的文脈とアメリカの対外戦略
・1997年、アメリカのネオコン勢力が「Project for the New American Century」を公表し、アメリカの単独覇権維持を提唱した。
・ブッシュ政権下では、この文書に基づき中東政策(イラク戦争など)が展開された。
・米国は中東の石油支配を通じ、産業国のエネルギー政策を間接的に制御する意図を有していた。
『Project 2025』と中国戦略の明文化
・2023年、共和党が発表した政策文書『Project 2025』(全922ページ)は、中国という語を483回使用し、同国を最大の脅威と位置づけた。
・文書内では、中国が覇権を目指しているとされ、対中戦略の強化が求められている。
・中国がAI、バイオ、量子、再生可能エネルギー等の分野で覇権を握れば、米国の地政学的優位が失われるとの危機感が示されている。
ウクライナ戦争の意図と構図
・2021年〜2022年、バイデン政権はロシアのNATO非拡大要求を拒否し、ロシアはウクライナへ軍事侵攻を開始した。
・米国は、ウクライナ支援を通じてロシアの国力を削ぐ意図を持っていたとされる。
・ロシアを弱体化させ、中国との連携を断ち切ることが最終的な狙いとされる。
中露関係と米国の困難
・ロシアと中国は、上海協力機構(SCO)やBRICSを通じて協力関係を維持しており、米国の包囲政策に対抗している。
・ロシアをウクライナ戦争で敗北させることで、中国を孤立させることが米国の目論見とされる。
・しかし、ロシアが中国との関係を重視し続けたため、アメリカの戦略は部分的に失敗しているとの見方がある。
トランプによる対中包囲再編
・トランプが、対中戦略においてロシアを味方に引き入れる方針へ転換すると想定される。
・ロシアに対し、以下のような譲歩を提供するとされる。
⇨ ウクライナ東部の支配権容認
⇨ NATO東方拡大の停止
⇨ 核戦争回避の保証
・このような合意を通じて、ロシアと中国の分断を図るとされる。
プーチンによる中国との連携継続表明
・2025年4月1日、プーチンは対独戦勝記念日に習近平を「最重要ゲスト」として招待する意向を発表。
・BRICSやSCOにおける中露の協力深化が議題とされており、米国への対抗姿勢を明確にした。
・これはロシアが中国との関係を維持するという戦略的意思の表明とされる。
中国軍兵士の関与疑惑
・2025年4月8日、ウクライナ軍は中国軍兵士2名を拘束したと発表。
・これは中露の軍事協力が表面化した事例として報告されている。
・中国は拘束の事実を否定しており、外交的緊張が高まっている。
提案する代替構想
・現在の国際秩序は第三次世界大戦を招く恐れがあるとし、以下の制度改革を提案
⇨ 国連を多数決による民主的機構へと改編
⇨ 地域的覇権を目的とする軍事同盟(例:NATO)の解体
・軍事的抑止ではなく、制度的信頼に基づく平和秩序の構築が必要とされる。
著者略歴
・モイミール・ババチェク:チェコ出身の哲学者・政治評論家
・共産体制批判活動により亡命し、後に帰国
・現在は神経科学的軍事技術(脳操作技術)に関する規制活動を推進
・米国・NATOの軍事的アプローチに批判的であり、非軍事的手段による国際秩序再建を提唱
【引用・参照・底本】
America’s War Against China Michel Chossudovsky 2025.04.06
https://michelchossudovsky.substack.com/p/america-war-against-china?utm_source=post-email-title&publication_id=1910355&post_id=161015262&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
アルジェリアとサヘル同盟間とロシア ― 2025年04月13日 16:59
【概要】
ロシアは、マリを中心とするサヘル同盟(マリ・ニジェール・ブルキナファソ)とアルジェリアという、互いに敵対的立場にある二者の間でバランスを取ろうとしたが、両者の根本的な立場の違い、特にトゥアレグ問題における相反する見解により、最終的には一方を選ばざるを得なくなった。
2024年、マリ政府はアルジェ合意(2015年締結)を反故にし、トゥアレグの反乱を抑え込む軍事行動を開始した。一方でアルジェリアは、この反乱を合意破棄に対する正当な反応と見なし、トゥアレグ側への共感を示していた。マリとその同盟国(およびロシア)は、トゥアレグを西側諸国、イスラム過激派、ウクライナと関係を持つ外国支援の反乱分子と見なしていたが、アルジェリアはこの主張に同調しなかった。
2025年初頭、マリの武装ドローンがアルジェリア領空に侵入したとされ、アルジェリア軍がこれを撃墜した事件が発生。これを契機に両国間で空域が閉鎖され、外交関係も悪化。ブルキナファソとニジェールもマリに同調してアルジェリアから大使を引き揚げた。こうした動きは、ロシアにとって戦略的なジレンマを生じさせた。
ロシアは近年、反仏クーデターを経たサヘル同盟諸国との関係を強化し、政治的・軍事的支援を通じて西アフリカにおける影響力を急速に拡大していた。一方、アルジェリアは伝統的な親ロシア国であり、両国の軍事関係は長年にわたり深く、ロシア製兵器への依存度も高かった。
しかし、アルジェリアは近年、ロシア依存の是正を目指してインドや米国などとの軍事関係を模索している。こうした中、トゥアレグ問題をめぐる立場の相違が明確化し、ロシアによるマリ支援はアルジェリアの安全保障上の懸念と衝突しつつある。
仮に緊張が更に悪化した場合、アルジェリアがマリ北部に「安全地帯」を設置するための軍事介入に踏み切る可能性もある。これは、トルコがシリア北部に設置した「安全地帯」と類似の構想であるとされる。こうした軍事行動にロシア製兵器がマリ側で使用されれば、ロシア・アルジェリア関係は一瞬で破綻しかねない。
仮にアルジェリアがマリ政権の転覆を狙って軍事行動を拡大すれば、ロシアの地域戦略は根本から脅かされる可能性がある。マリはサヘル同盟の中核であり、その政権が失われれば、同盟全体の存続すら危うくなる。これは、西側諸国、特にフランスにとっては望ましい展開であり、仏アルジェ関係の最近の改善は、この方向性に繋がる可能性を示唆している。
ロシアはこの状況の深刻化を避けたいと考えているが、それにはサヘル同盟を見限る必要があり、それは現在のところ検討されていない。したがって、今後もアルジェリアとサヘル同盟間の緊張は悪化する見通しであり、それに伴いロシアとアルジェリアの関係も厳しさを増す可能性がある。
ただし、双方ともこれを表立った対立にはせず、水面下で関係を維持しようとする可能性がある。表面化する場合、過去の前例に照らせば、それはアルジェリア側の情報開示によるものであると考えられる。
【詳細】
1. 対立の核心:トゥアレグ問題
ロシアが抱えるジレンマの中心には、トゥアレグ民族の武装反乱がある。マリ政府は2024年1月に2015年のアルジェ協定を破棄し、その後、武装勢力との衝突が再燃した。マリおよびサヘル同盟諸国は、トゥアレグ反乱を「外国勢力に支援されたテロ行為」と見なし、ロシアもこれを支持している。一方でアルジェリアは、トゥアレグ側の主張を一定程度「正当なもの」と捉えており、協定破棄に反対してきた。
このように、マリとアルジェリアの立場は根本的に対立しており、ロシアはその両者とそれぞれ戦略的関係を有していたが、バランスを保つことは事実上不可能であった。
2. 軍事的衝突と外交的断絶の始まり
2025年、アルジェリアは国境を越えたとしてマリの武装ドローンを撃墜し、これが外交的な激突を招いた。アルジェリアとサヘル同盟は互いに空域を閉鎖し、マリ、ニジェール、ブルキナファソはアルジェリアから大使を召還するに至った。
この事件は、アルジェリアが「事実上の当事者」として紛争に関与し始めたことを意味し、今後はマリ国内に**「安全地帯(safe zone)」を設ける可能性**も示唆されている。
3. ロシアの戦略的立場
ロシアは、旧宗主国フランスへの反発を背景にサヘル同盟と軍事的連携を強化しており、ワグネルを通じた軍事支援を行っている。一方で、冷戦期以来のパートナーであるアルジェリアとの関係も重視している。
しかし、以下のような点でロシアの立場は難しくなっている。
・トゥアレグ問題はゼロサムゲームであり、両者の立場を同時に尊重することは不可能
・ロシアの武器がアルジェリアに対して使用される可能性
・アルジェリアが米印など他国との軍事関係を模索していること
したがって、ロシアがサヘル同盟への支援を続ければ、アルジェリアとの関係悪化は不可避となる一方で、サヘル同盟を切ることは戦略上不可能である。
4. アルジェリアとフランスの再接近
かつては植民地宗主国であり関係が冷えていたフランスとアルジェリアが、戦略的利益の一致から再接近している可能性がある。特に、アルジェリアがマリ国内で軍事行動を取る場合、フランスは以下のような支援を提供する可能性がある。
・情報・諜報支援
・兵站支援
・武器提供
これは、フランスがロシアの影響力を西アフリカから後退させるための「間接的手段」としても機能しうる。
5. 将来的なリスク
この状況の進展には以下のようなリスクが含まれる。
・アルジェリアとマリ間の全面戦争
・ロシア・アルジェリア戦略的パートナーシップの断絶
・フランスの地政学的巻き返し
・トゥアレグ問題の地域全体への波及(ニジェールやアルジェリア領内)
現時点では戦争は不可避ではないが、「一手の誤り」や「誤算」により全面衝突に発展する危険性は日増しに高まっているとされる。
結論
ロシアはサヘル同盟とアルジェリアという両戦略的パートナー間の対立に挟まれ、選択を迫られている。現状では、サヘル同盟との関係維持を優先しており、これがロシア・アルジェリア関係の悪化を招く結果となっている。この問題は地政学的構造上の帰結であり、ロシアの思惑とは関係なく避けがたいものであったとされる。
【要点】
全体構図
・サヘル同盟(マリ、ニジェール、ブルキナファソ)とアルジェリアの関係が急速に悪化している。
・ロシアは双方と戦略的関係を持つが、対立が不可避となりジレンマに直面している。
対立の原因
・2015年のアルジェ協定をマリが一方的に破棄し、トゥアレグ武装勢力との戦闘が再燃。
・マリ政府は、トゥアレグ勢力がアルジェリアに支援されていると主張。
・アルジェリアは、トゥアレグ民族の政治的権利を一定程度擁護しており、協定の維持を主張してきた。
・ロシアはマリを支持しつつも、伝統的同盟国であるアルジェリアとの関係も維持したかった。
軍事的・外交的衝突
・2025年、マリのドローンがアルジェリア空域を侵犯し、撃墜された。
・サヘル同盟3カ国はアルジェリアとの外交関係を事実上断絶。
・空域封鎖が相互に実施され、国境地帯の緊張が高まる。
・アルジェリアはマリ国内に安全地帯を設ける可能性を示唆。
ロシアの戦略的ジレンマ
・ロシアはサヘル同盟に対してワグネルを通じた軍事支援を提供中。
・同時に、アルジェリアとは冷戦期以来の安保・軍事・経済パートナー関係にある。
・トゥアレグ問題はゼロサム構造であり、中立は現実的に不可能。
・ロシアの兵器がアルジェリアに対して使われる懸念が高まっている。
フランスの再浮上の可能性
・フランスはアルジェリアとの歴史的な確執があるが、今回の対立構造において戦略的協力の可能性が浮上。
・アルジェリアがマリに軍事介入した場合、フランスは以下の形で支援可能:
⇨ 諜報支援
⇨ 兵站支援
⇨ 武器提供
・これはロシアを西アフリカから排除する間接戦略にもなる。
将来的なリスク
・アルジェリアとマリとの間で戦争に発展する可能性。
・ロシア・アルジェリア関係の断絶。
・サヘル同盟内でのトゥアレグ問題の激化、地域全体への拡大。
・ロシアのアフリカ政策に深刻な打撃。
結論
・ロシアはアルジェリアとサヘル同盟の対立という構造的ジレンマにより、戦略的再調整を迫られている。
・現状ではサヘル同盟支持の姿勢が明確であり、アルジェリアとの対立は深まる傾向にある。
・状況がさらに悪化すれば、地域的戦争と国際勢力の代理対立に発展する危険性を孕む。
【参考】
☞ トゥアレグ反乱
1. トゥアレグ民族とは
・サハラ砂漠周辺に居住するベルベル系の遊牧民で、主にマリ、ニジェール、アルジェリア、リビアに分布。
・イスラム教徒ではあるが、独自の言語(タマシェク語)と文化を持つ。
・植民地時代以降の国家形成において、政治的疎外を受けてきた。
2. トゥアレグ反乱の概要
・トゥアレグ反乱は、民族的自治や独立を求める武装闘争であり、マリとニジェールを中心に複数回発生。
・主な要求は、自治拡大、政治的参加、社会経済的不平等の是正、安全保障の確保などである。
3. 主な反乱の経緯
(1)マリ
・1990年–1995年:第1次反乱。和平合意成立も履行されず不満が残る。
・2006年–2009年:第2次反乱。軍との戦闘激化、アルジェリアの仲介で和平。
・2012年反乱(MNLA):リビア崩壊後、武装帰還兵が流入し、反乱が再燃。
⇨ 独立国家「アザワド国」樹立を宣言(国際的には未承認)。
⇨ しかしイスラム過激派(AQIM、ムジャオなど)と衝突し、主導権を奪われる。
⇨ フランスの軍事介入(セルヴァル作戦)で制圧され、アザワドの独立は頓挫。
(2)ニジェール
・1991年–1995年:第1次反乱。和平合意により終息。
・2007年–2009年:第2次反乱。MNJ(ニジェールの正義運動)による武力闘争。政府軍と対立。
・現在も小規模な武装集団が残存し、断続的な衝突がある。
4. 主要勢力
・MNLA(アザワド民族解放運動):2012年の反乱時にアザワド独立を宣言した世俗的民族運動。
・HCUA(アザワド・統一高等評議会):元イスラム過激派との関係を持つ政治組織。
・Mouvement pour le Salut de l’Azawad(MSA):MNLAの分派、現政権との交渉に積極的。
・上記は2015年のアルジェ協定に署名したグループを中心に形成。
5. 2015年のアルジェ協定
・トゥアレグ系勢力とマリ政府との間で締結された和平合意。
・内容は以下の通り。
⇨ 地方自治の強化
⇨ 地域民兵の統合
⇨ 開発支援と武装解除
・アルジェリアが仲介し、国際社会(国連、EU、AU)が後押し。
・しかし、履行は不十分で、2024年以降に再び緊張が高まる。
6. 現在の緊張
・2023年以降、マリ政府はアルジェ協定を事実上放棄し、トゥアレグ勢力との戦闘が再燃。
・トゥアレグ勢力は和平交渉ではなく武力対決の構え。
・マリ政府はワグネルの支援を受けて軍事制圧を優先。
・トゥアレグ勢力はアルジェリアに後方支援を求めており、国家間対立に発展している。
7. 国際的含意
・サヘル地域の不安定化が進み、イスラム過激派の温床ともなっている。
・トゥアレグの反乱は民族自決の問題だけでなく、地政学的対立の震源地ともなっている。
・ロシア、フランス、アルジェリア、トルコ、アラブ首長国連邦などが複雑に関与している。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Worsening Tensions Between Algeria & The Sahelian Alliance Put Russia In A Predictable Dilemma Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.11
https://korybko.substack.com/p/worsening-tensions-between-algeria?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161218084&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシアは、マリを中心とするサヘル同盟(マリ・ニジェール・ブルキナファソ)とアルジェリアという、互いに敵対的立場にある二者の間でバランスを取ろうとしたが、両者の根本的な立場の違い、特にトゥアレグ問題における相反する見解により、最終的には一方を選ばざるを得なくなった。
2024年、マリ政府はアルジェ合意(2015年締結)を反故にし、トゥアレグの反乱を抑え込む軍事行動を開始した。一方でアルジェリアは、この反乱を合意破棄に対する正当な反応と見なし、トゥアレグ側への共感を示していた。マリとその同盟国(およびロシア)は、トゥアレグを西側諸国、イスラム過激派、ウクライナと関係を持つ外国支援の反乱分子と見なしていたが、アルジェリアはこの主張に同調しなかった。
2025年初頭、マリの武装ドローンがアルジェリア領空に侵入したとされ、アルジェリア軍がこれを撃墜した事件が発生。これを契機に両国間で空域が閉鎖され、外交関係も悪化。ブルキナファソとニジェールもマリに同調してアルジェリアから大使を引き揚げた。こうした動きは、ロシアにとって戦略的なジレンマを生じさせた。
ロシアは近年、反仏クーデターを経たサヘル同盟諸国との関係を強化し、政治的・軍事的支援を通じて西アフリカにおける影響力を急速に拡大していた。一方、アルジェリアは伝統的な親ロシア国であり、両国の軍事関係は長年にわたり深く、ロシア製兵器への依存度も高かった。
しかし、アルジェリアは近年、ロシア依存の是正を目指してインドや米国などとの軍事関係を模索している。こうした中、トゥアレグ問題をめぐる立場の相違が明確化し、ロシアによるマリ支援はアルジェリアの安全保障上の懸念と衝突しつつある。
仮に緊張が更に悪化した場合、アルジェリアがマリ北部に「安全地帯」を設置するための軍事介入に踏み切る可能性もある。これは、トルコがシリア北部に設置した「安全地帯」と類似の構想であるとされる。こうした軍事行動にロシア製兵器がマリ側で使用されれば、ロシア・アルジェリア関係は一瞬で破綻しかねない。
仮にアルジェリアがマリ政権の転覆を狙って軍事行動を拡大すれば、ロシアの地域戦略は根本から脅かされる可能性がある。マリはサヘル同盟の中核であり、その政権が失われれば、同盟全体の存続すら危うくなる。これは、西側諸国、特にフランスにとっては望ましい展開であり、仏アルジェ関係の最近の改善は、この方向性に繋がる可能性を示唆している。
ロシアはこの状況の深刻化を避けたいと考えているが、それにはサヘル同盟を見限る必要があり、それは現在のところ検討されていない。したがって、今後もアルジェリアとサヘル同盟間の緊張は悪化する見通しであり、それに伴いロシアとアルジェリアの関係も厳しさを増す可能性がある。
ただし、双方ともこれを表立った対立にはせず、水面下で関係を維持しようとする可能性がある。表面化する場合、過去の前例に照らせば、それはアルジェリア側の情報開示によるものであると考えられる。
【詳細】
1. 対立の核心:トゥアレグ問題
ロシアが抱えるジレンマの中心には、トゥアレグ民族の武装反乱がある。マリ政府は2024年1月に2015年のアルジェ協定を破棄し、その後、武装勢力との衝突が再燃した。マリおよびサヘル同盟諸国は、トゥアレグ反乱を「外国勢力に支援されたテロ行為」と見なし、ロシアもこれを支持している。一方でアルジェリアは、トゥアレグ側の主張を一定程度「正当なもの」と捉えており、協定破棄に反対してきた。
このように、マリとアルジェリアの立場は根本的に対立しており、ロシアはその両者とそれぞれ戦略的関係を有していたが、バランスを保つことは事実上不可能であった。
2. 軍事的衝突と外交的断絶の始まり
2025年、アルジェリアは国境を越えたとしてマリの武装ドローンを撃墜し、これが外交的な激突を招いた。アルジェリアとサヘル同盟は互いに空域を閉鎖し、マリ、ニジェール、ブルキナファソはアルジェリアから大使を召還するに至った。
この事件は、アルジェリアが「事実上の当事者」として紛争に関与し始めたことを意味し、今後はマリ国内に**「安全地帯(safe zone)」を設ける可能性**も示唆されている。
3. ロシアの戦略的立場
ロシアは、旧宗主国フランスへの反発を背景にサヘル同盟と軍事的連携を強化しており、ワグネルを通じた軍事支援を行っている。一方で、冷戦期以来のパートナーであるアルジェリアとの関係も重視している。
しかし、以下のような点でロシアの立場は難しくなっている。
・トゥアレグ問題はゼロサムゲームであり、両者の立場を同時に尊重することは不可能
・ロシアの武器がアルジェリアに対して使用される可能性
・アルジェリアが米印など他国との軍事関係を模索していること
したがって、ロシアがサヘル同盟への支援を続ければ、アルジェリアとの関係悪化は不可避となる一方で、サヘル同盟を切ることは戦略上不可能である。
4. アルジェリアとフランスの再接近
かつては植民地宗主国であり関係が冷えていたフランスとアルジェリアが、戦略的利益の一致から再接近している可能性がある。特に、アルジェリアがマリ国内で軍事行動を取る場合、フランスは以下のような支援を提供する可能性がある。
・情報・諜報支援
・兵站支援
・武器提供
これは、フランスがロシアの影響力を西アフリカから後退させるための「間接的手段」としても機能しうる。
5. 将来的なリスク
この状況の進展には以下のようなリスクが含まれる。
・アルジェリアとマリ間の全面戦争
・ロシア・アルジェリア戦略的パートナーシップの断絶
・フランスの地政学的巻き返し
・トゥアレグ問題の地域全体への波及(ニジェールやアルジェリア領内)
現時点では戦争は不可避ではないが、「一手の誤り」や「誤算」により全面衝突に発展する危険性は日増しに高まっているとされる。
結論
ロシアはサヘル同盟とアルジェリアという両戦略的パートナー間の対立に挟まれ、選択を迫られている。現状では、サヘル同盟との関係維持を優先しており、これがロシア・アルジェリア関係の悪化を招く結果となっている。この問題は地政学的構造上の帰結であり、ロシアの思惑とは関係なく避けがたいものであったとされる。
【要点】
全体構図
・サヘル同盟(マリ、ニジェール、ブルキナファソ)とアルジェリアの関係が急速に悪化している。
・ロシアは双方と戦略的関係を持つが、対立が不可避となりジレンマに直面している。
対立の原因
・2015年のアルジェ協定をマリが一方的に破棄し、トゥアレグ武装勢力との戦闘が再燃。
・マリ政府は、トゥアレグ勢力がアルジェリアに支援されていると主張。
・アルジェリアは、トゥアレグ民族の政治的権利を一定程度擁護しており、協定の維持を主張してきた。
・ロシアはマリを支持しつつも、伝統的同盟国であるアルジェリアとの関係も維持したかった。
軍事的・外交的衝突
・2025年、マリのドローンがアルジェリア空域を侵犯し、撃墜された。
・サヘル同盟3カ国はアルジェリアとの外交関係を事実上断絶。
・空域封鎖が相互に実施され、国境地帯の緊張が高まる。
・アルジェリアはマリ国内に安全地帯を設ける可能性を示唆。
ロシアの戦略的ジレンマ
・ロシアはサヘル同盟に対してワグネルを通じた軍事支援を提供中。
・同時に、アルジェリアとは冷戦期以来の安保・軍事・経済パートナー関係にある。
・トゥアレグ問題はゼロサム構造であり、中立は現実的に不可能。
・ロシアの兵器がアルジェリアに対して使われる懸念が高まっている。
フランスの再浮上の可能性
・フランスはアルジェリアとの歴史的な確執があるが、今回の対立構造において戦略的協力の可能性が浮上。
・アルジェリアがマリに軍事介入した場合、フランスは以下の形で支援可能:
⇨ 諜報支援
⇨ 兵站支援
⇨ 武器提供
・これはロシアを西アフリカから排除する間接戦略にもなる。
将来的なリスク
・アルジェリアとマリとの間で戦争に発展する可能性。
・ロシア・アルジェリア関係の断絶。
・サヘル同盟内でのトゥアレグ問題の激化、地域全体への拡大。
・ロシアのアフリカ政策に深刻な打撃。
結論
・ロシアはアルジェリアとサヘル同盟の対立という構造的ジレンマにより、戦略的再調整を迫られている。
・現状ではサヘル同盟支持の姿勢が明確であり、アルジェリアとの対立は深まる傾向にある。
・状況がさらに悪化すれば、地域的戦争と国際勢力の代理対立に発展する危険性を孕む。
【参考】
☞ トゥアレグ反乱
1. トゥアレグ民族とは
・サハラ砂漠周辺に居住するベルベル系の遊牧民で、主にマリ、ニジェール、アルジェリア、リビアに分布。
・イスラム教徒ではあるが、独自の言語(タマシェク語)と文化を持つ。
・植民地時代以降の国家形成において、政治的疎外を受けてきた。
2. トゥアレグ反乱の概要
・トゥアレグ反乱は、民族的自治や独立を求める武装闘争であり、マリとニジェールを中心に複数回発生。
・主な要求は、自治拡大、政治的参加、社会経済的不平等の是正、安全保障の確保などである。
3. 主な反乱の経緯
(1)マリ
・1990年–1995年:第1次反乱。和平合意成立も履行されず不満が残る。
・2006年–2009年:第2次反乱。軍との戦闘激化、アルジェリアの仲介で和平。
・2012年反乱(MNLA):リビア崩壊後、武装帰還兵が流入し、反乱が再燃。
⇨ 独立国家「アザワド国」樹立を宣言(国際的には未承認)。
⇨ しかしイスラム過激派(AQIM、ムジャオなど)と衝突し、主導権を奪われる。
⇨ フランスの軍事介入(セルヴァル作戦)で制圧され、アザワドの独立は頓挫。
(2)ニジェール
・1991年–1995年:第1次反乱。和平合意により終息。
・2007年–2009年:第2次反乱。MNJ(ニジェールの正義運動)による武力闘争。政府軍と対立。
・現在も小規模な武装集団が残存し、断続的な衝突がある。
4. 主要勢力
・MNLA(アザワド民族解放運動):2012年の反乱時にアザワド独立を宣言した世俗的民族運動。
・HCUA(アザワド・統一高等評議会):元イスラム過激派との関係を持つ政治組織。
・Mouvement pour le Salut de l’Azawad(MSA):MNLAの分派、現政権との交渉に積極的。
・上記は2015年のアルジェ協定に署名したグループを中心に形成。
5. 2015年のアルジェ協定
・トゥアレグ系勢力とマリ政府との間で締結された和平合意。
・内容は以下の通り。
⇨ 地方自治の強化
⇨ 地域民兵の統合
⇨ 開発支援と武装解除
・アルジェリアが仲介し、国際社会(国連、EU、AU)が後押し。
・しかし、履行は不十分で、2024年以降に再び緊張が高まる。
6. 現在の緊張
・2023年以降、マリ政府はアルジェ協定を事実上放棄し、トゥアレグ勢力との戦闘が再燃。
・トゥアレグ勢力は和平交渉ではなく武力対決の構え。
・マリ政府はワグネルの支援を受けて軍事制圧を優先。
・トゥアレグ勢力はアルジェリアに後方支援を求めており、国家間対立に発展している。
7. 国際的含意
・サヘル地域の不安定化が進み、イスラム過激派の温床ともなっている。
・トゥアレグの反乱は民族自決の問題だけでなく、地政学的対立の震源地ともなっている。
・ロシア、フランス、アルジェリア、トルコ、アラブ首長国連邦などが複雑に関与している。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Worsening Tensions Between Algeria & The Sahelian Alliance Put Russia In A Predictable Dilemma Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.11
https://korybko.substack.com/p/worsening-tensions-between-algeria?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161218084&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
大阪万博 ― 2025年04月13日 17:39
【概要】
2025年大阪万博が4月13日(日)に開幕し、160の国と地域が技術や文化、食を披露している。日本の石破茂首相は、分断が深まる世界において万博が「再び世界に一体感をもたらす」契機になると述べた。
会場の目玉には、火星隕石、iPS細胞から作られた人工心臓、藻類を模したハローキティのフィギュアなどがある。建築面では、世界最大の木造構造物「グランドリング」が会場を取り囲み、建築家・藤本壮介氏は「多様性と一体性を創出する貴重な機会」と評した。
ウクライナ館では「売り物ではない」との看板が掲げられ、戦時下の国のレジリエンス(回復力)をアピールしている。イスラエル館ではエルサレムの嘆きの壁の石を展示し、「平和のメッセージ」を伝えている。パレスチナ館も設置されている。
アメリカ館は「美しきアメリカ」をテーマに、風景、AI技術、宇宙開発などを紹介し、ドライアイスで演出されたロケット打ち上げの疑似体験ができる。
中国館は書道の巻物を模した外観で、環境技術や月探査機「嫦娥5号」「嫦娥6号」によるサンプル展示を行っている。
他にも、藻類としてのハローキティ像や心拍に反応する「人間洗濯機」、空飛ぶ車のデモンストレーションなど、ユニークな展示が多く見られる。人工心臓は「実際に脈を打っている」と担当者は説明している。
持続可能性も万博の主要テーマであり、スイス館では環境負荷を最小限に抑える設計が施されている。一方で、イベント終了後には会場の人工島がカジノリゾート建設のために整備され、「グランドリング」の再利用率は12.5%にとどまると日本の報道機関は伝えている。
万博は1851年のロンドン万博から続く国際博覧会の伝統を持ち、2020年ドバイ万博はパンデミックで延期された。今回の大阪万博は「つながりの再生」と「より良い未来の創造」を掲げている。
1970年の大阪万博は6400万人を動員し、当時の日本の技術力を象徴するものだった。しかし、現在は予算超過(27%)などにより国民の関心は限定的とされる。前売りチケットは870万枚で、目標の1400万枚を下回っている。
ただし、訪問者の間では好意的な声もあり、地元のEmiko Sakamoto氏は「混乱した時代において意味のあるイベント」であり「会場を訪れることで平和について考える人もいるだろう」と語っている。
【詳細】
開催概要と目的
2025年の国際博覧会(通称:大阪万博)は、2025年4月13日(日)に大阪市で開幕した。会期は同年10月中旬までを予定し、160の国と地域が参加している。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」であり、テクノロジー、文化、食などの分野における最新の成果を展示するものである。
日本政府および開催地である大阪は、この万博を通じて国際的な連携と調和の精神を呼びかけており、石破茂首相は「分断された社会の中で、一体感を取り戻す機会としたい」との意向を表明している。
建築と構造物の特徴
会場の象徴的構造物として「グランドリング(Grand Ring)」と呼ばれる世界最大級の木造建築が設置されている。これは建築家・藤本壮介氏によって設計されており、来場者が上部のスカイウォークを歩きながら景観と海風を楽しめる構造となっている。藤本氏はこの建築について「多様な文化や国家が一堂に会する場にふさわしく、共生と創造の象徴である」と述べている。
各国パビリオンの展示内容
日本館
日本館では、iPS細胞由来の人工心臓が初めて一般公開されている。この人工心臓は脈を打つ構造を持ち、生命の再生医療技術の象徴的存在とされる。また、「藻類」をテーマに、32種類の藻類に扮したハローキティの像が展示されており、藻類がもつ多様な利用可能性(食品、燃料、環境浄化など)を表現している。
アメリカ館
テーマは「美しきアメリカ(America the Beautiful)」であり、国内の自然風景や先進的AI技術、宇宙関連の展示が中心である。ロケット打ち上げを模したインスタレーションでは、ドライアイスによって打ち上げ演出が施され、来場者の頭上で「炎」が噴出する演出が施されている。政治的内容、特にドナルド・トランプ大統領の貿易政策に関する記述はない。
中国館
中国館は書道の巻物を模した外観で設計されており、環境技術および宇宙探査の成果を展示している。具体的には、月探査機「嫦娥(Chang’e)5号」「嫦娥6号」によって持ち帰られた月面サンプルなどが紹介されている。
ウクライナ館
ウクライナ館は「Not for sale(売り物ではない)」との標語を掲げており、国家の主権と抵抗の姿勢を象徴的に示している。ウクライナ副経済大臣タチアナ・ベレジナ氏は「我々は破壊するのではなく創造する国民である」と述べ、戦時下における国家の回復力と国民の意志を強調した。
イスラエル館およびパレスチナ館
イスラエル館はエルサレムの嘆きの壁から持ち込んだ石を展示し、「平和のメッセージ」を発信しているとされる。一方、パレスチナ館も設置されており、中東地域における両者の存在を象徴する場となっている。
エンターテインメントと技術展示
ユニークな展示として、来場者の心拍数に応じた映像演出がなされる「人間洗濯機」、長さ世界一を謳う回転寿司レーン、また複数の目を持つ公式キャラクター「ミャクミャク」との交流などが紹介されている。
また、ドローン型の空飛ぶ車や、食糧問題を意識した培養肉・昆虫食の展示も一部に含まれている可能性がある(原文記載に具体性なし)。
持続可能性と批判
スイス館では、最小限のエコロジカル・フットプリント(環境負荷)を目指した構造が採用されているが、全体として万博は「一時的なイベント」としての批判にも晒されている。
報道によれば、イベント終了後に会場となった夢洲(ゆめしま)の大部分はカジノリゾート開発に転用される予定であり、木造の「グランドリング」のうち再利用される部分は12.5%にとどまる見込みであるとされる。
チケット販売と観光需要
前売り券は870万枚が販売されたが、当初目標の1400万枚には達していない。また、コロナ禍後の訪日観光ブームにより、大阪および近郊都市(京都など)の宿泊施設は満室となる例が多く、宿泊料金は高騰している。
ただし、万博来場者の中には好意的な意見もあり、地元住民・Emiko Sakamoto氏は「この混沌とした時代において万博は意義深い。訪れた人々が平和について考える契機になる」と語っている。
以上が、2025年大阪万博に関する報道の忠実かつ詳細な内容である。さらに特定の展示、参加国、技術分野などについて深掘りを希望する場合は、個別に指示を受け付ける。
【要点】
基本情報
・開催期間:2025年4月13日から10月中旬まで
・開催地:日本・大阪(夢洲)
・参加国・地域数:約160
・テーマ:「いのち輝く未来社会のデザイン」
・主な目的:国際協調と未来社会の創造に向けた展示と交流
主催者・日本側の意図
・首相・石破茂の発言:「分断された社会において、調和と一体感を取り戻す機会にしたい」と強調
・会場全体:テクノロジー、文化、環境、未来社会を包括的に展示
建築・象徴的構造
・グランドリング(Grand Ring)
世界最大級の木造建築
建築家・藤本壮介による設計
スカイウォークとして来場者が歩行可能
主なパビリオンと展示内容
日本館
・展示:iPS細胞による人工心臓(鼓動あり)
・藻類の展示:ハローキティ32体で表現(食料・燃料・環境浄化の可能性)
アメリカ館
・テーマ:「America the Beautiful」
・内容:自然、AI、宇宙技術の紹介
・演出:ロケット発射を模したインスタレーション(頭上にドライアイスと炎)
中国館
・外観:書道の巻物を模したデザイン
・展示:月面探査(嫦娥5号・6号)関連の標本など
ウクライナ館
・スローガン:「Not for sale(売り物ではない)」
・副経済大臣の発言:「ウクライナは破壊せず、創造する国である」
イスラエル館
・展示:嘆きの壁の石を設置
・目的:「平和のメッセージ」を伝える
パレスチナ館
・存在:イスラエル館と並立して設置されている
スイス館
・特徴:最小限の環境負荷を目指した設計
エンターテインメント・技術展示
・人間洗濯機:心拍に連動した映像体験
・長さ世界一の回転寿司レーン
・公式キャラクター「ミャクミャク」:複数の目を持つ生物として展示
・空飛ぶ車:ドローン型のモビリティを展示
・未来食の展示:培養肉、昆虫食の可能性(報道には詳細不明)
課題・批判
・万博の一時性:終了後に会場は統合型リゾート(IR、カジノを含む)へ転用予定
・資源の再利用問題:「グランドリング」は12.5%のみ再利用見込み
・批判的視点:一部メディアや関係者は「持続可能性」に疑問
観光と経済
・チケット販売:870万枚(目標1400万枚に未達)
・宿泊状況:大阪・京都などは満室が多発、宿泊費も高騰中
・市民の声:万博に対して「混沌の時代に意義深い」とする意見もあり
【引用・参照・底本】
Japan's World Expo touts the importance of unity in turbulent times FRANCE24 2025.04.13
https://www.france24.com/en/live-news/20250413-world-expo-opens-in-japan-in-rocky-times?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250413&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D
2025年大阪万博が4月13日(日)に開幕し、160の国と地域が技術や文化、食を披露している。日本の石破茂首相は、分断が深まる世界において万博が「再び世界に一体感をもたらす」契機になると述べた。
会場の目玉には、火星隕石、iPS細胞から作られた人工心臓、藻類を模したハローキティのフィギュアなどがある。建築面では、世界最大の木造構造物「グランドリング」が会場を取り囲み、建築家・藤本壮介氏は「多様性と一体性を創出する貴重な機会」と評した。
ウクライナ館では「売り物ではない」との看板が掲げられ、戦時下の国のレジリエンス(回復力)をアピールしている。イスラエル館ではエルサレムの嘆きの壁の石を展示し、「平和のメッセージ」を伝えている。パレスチナ館も設置されている。
アメリカ館は「美しきアメリカ」をテーマに、風景、AI技術、宇宙開発などを紹介し、ドライアイスで演出されたロケット打ち上げの疑似体験ができる。
中国館は書道の巻物を模した外観で、環境技術や月探査機「嫦娥5号」「嫦娥6号」によるサンプル展示を行っている。
他にも、藻類としてのハローキティ像や心拍に反応する「人間洗濯機」、空飛ぶ車のデモンストレーションなど、ユニークな展示が多く見られる。人工心臓は「実際に脈を打っている」と担当者は説明している。
持続可能性も万博の主要テーマであり、スイス館では環境負荷を最小限に抑える設計が施されている。一方で、イベント終了後には会場の人工島がカジノリゾート建設のために整備され、「グランドリング」の再利用率は12.5%にとどまると日本の報道機関は伝えている。
万博は1851年のロンドン万博から続く国際博覧会の伝統を持ち、2020年ドバイ万博はパンデミックで延期された。今回の大阪万博は「つながりの再生」と「より良い未来の創造」を掲げている。
1970年の大阪万博は6400万人を動員し、当時の日本の技術力を象徴するものだった。しかし、現在は予算超過(27%)などにより国民の関心は限定的とされる。前売りチケットは870万枚で、目標の1400万枚を下回っている。
ただし、訪問者の間では好意的な声もあり、地元のEmiko Sakamoto氏は「混乱した時代において意味のあるイベント」であり「会場を訪れることで平和について考える人もいるだろう」と語っている。
【詳細】
開催概要と目的
2025年の国際博覧会(通称:大阪万博)は、2025年4月13日(日)に大阪市で開幕した。会期は同年10月中旬までを予定し、160の国と地域が参加している。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」であり、テクノロジー、文化、食などの分野における最新の成果を展示するものである。
日本政府および開催地である大阪は、この万博を通じて国際的な連携と調和の精神を呼びかけており、石破茂首相は「分断された社会の中で、一体感を取り戻す機会としたい」との意向を表明している。
建築と構造物の特徴
会場の象徴的構造物として「グランドリング(Grand Ring)」と呼ばれる世界最大級の木造建築が設置されている。これは建築家・藤本壮介氏によって設計されており、来場者が上部のスカイウォークを歩きながら景観と海風を楽しめる構造となっている。藤本氏はこの建築について「多様な文化や国家が一堂に会する場にふさわしく、共生と創造の象徴である」と述べている。
各国パビリオンの展示内容
日本館
日本館では、iPS細胞由来の人工心臓が初めて一般公開されている。この人工心臓は脈を打つ構造を持ち、生命の再生医療技術の象徴的存在とされる。また、「藻類」をテーマに、32種類の藻類に扮したハローキティの像が展示されており、藻類がもつ多様な利用可能性(食品、燃料、環境浄化など)を表現している。
アメリカ館
テーマは「美しきアメリカ(America the Beautiful)」であり、国内の自然風景や先進的AI技術、宇宙関連の展示が中心である。ロケット打ち上げを模したインスタレーションでは、ドライアイスによって打ち上げ演出が施され、来場者の頭上で「炎」が噴出する演出が施されている。政治的内容、特にドナルド・トランプ大統領の貿易政策に関する記述はない。
中国館
中国館は書道の巻物を模した外観で設計されており、環境技術および宇宙探査の成果を展示している。具体的には、月探査機「嫦娥(Chang’e)5号」「嫦娥6号」によって持ち帰られた月面サンプルなどが紹介されている。
ウクライナ館
ウクライナ館は「Not for sale(売り物ではない)」との標語を掲げており、国家の主権と抵抗の姿勢を象徴的に示している。ウクライナ副経済大臣タチアナ・ベレジナ氏は「我々は破壊するのではなく創造する国民である」と述べ、戦時下における国家の回復力と国民の意志を強調した。
イスラエル館およびパレスチナ館
イスラエル館はエルサレムの嘆きの壁から持ち込んだ石を展示し、「平和のメッセージ」を発信しているとされる。一方、パレスチナ館も設置されており、中東地域における両者の存在を象徴する場となっている。
エンターテインメントと技術展示
ユニークな展示として、来場者の心拍数に応じた映像演出がなされる「人間洗濯機」、長さ世界一を謳う回転寿司レーン、また複数の目を持つ公式キャラクター「ミャクミャク」との交流などが紹介されている。
また、ドローン型の空飛ぶ車や、食糧問題を意識した培養肉・昆虫食の展示も一部に含まれている可能性がある(原文記載に具体性なし)。
持続可能性と批判
スイス館では、最小限のエコロジカル・フットプリント(環境負荷)を目指した構造が採用されているが、全体として万博は「一時的なイベント」としての批判にも晒されている。
報道によれば、イベント終了後に会場となった夢洲(ゆめしま)の大部分はカジノリゾート開発に転用される予定であり、木造の「グランドリング」のうち再利用される部分は12.5%にとどまる見込みであるとされる。
チケット販売と観光需要
前売り券は870万枚が販売されたが、当初目標の1400万枚には達していない。また、コロナ禍後の訪日観光ブームにより、大阪および近郊都市(京都など)の宿泊施設は満室となる例が多く、宿泊料金は高騰している。
ただし、万博来場者の中には好意的な意見もあり、地元住民・Emiko Sakamoto氏は「この混沌とした時代において万博は意義深い。訪れた人々が平和について考える契機になる」と語っている。
以上が、2025年大阪万博に関する報道の忠実かつ詳細な内容である。さらに特定の展示、参加国、技術分野などについて深掘りを希望する場合は、個別に指示を受け付ける。
【要点】
基本情報
・開催期間:2025年4月13日から10月中旬まで
・開催地:日本・大阪(夢洲)
・参加国・地域数:約160
・テーマ:「いのち輝く未来社会のデザイン」
・主な目的:国際協調と未来社会の創造に向けた展示と交流
主催者・日本側の意図
・首相・石破茂の発言:「分断された社会において、調和と一体感を取り戻す機会にしたい」と強調
・会場全体:テクノロジー、文化、環境、未来社会を包括的に展示
建築・象徴的構造
・グランドリング(Grand Ring)
世界最大級の木造建築
建築家・藤本壮介による設計
スカイウォークとして来場者が歩行可能
主なパビリオンと展示内容
日本館
・展示:iPS細胞による人工心臓(鼓動あり)
・藻類の展示:ハローキティ32体で表現(食料・燃料・環境浄化の可能性)
アメリカ館
・テーマ:「America the Beautiful」
・内容:自然、AI、宇宙技術の紹介
・演出:ロケット発射を模したインスタレーション(頭上にドライアイスと炎)
中国館
・外観:書道の巻物を模したデザイン
・展示:月面探査(嫦娥5号・6号)関連の標本など
ウクライナ館
・スローガン:「Not for sale(売り物ではない)」
・副経済大臣の発言:「ウクライナは破壊せず、創造する国である」
イスラエル館
・展示:嘆きの壁の石を設置
・目的:「平和のメッセージ」を伝える
パレスチナ館
・存在:イスラエル館と並立して設置されている
スイス館
・特徴:最小限の環境負荷を目指した設計
エンターテインメント・技術展示
・人間洗濯機:心拍に連動した映像体験
・長さ世界一の回転寿司レーン
・公式キャラクター「ミャクミャク」:複数の目を持つ生物として展示
・空飛ぶ車:ドローン型のモビリティを展示
・未来食の展示:培養肉、昆虫食の可能性(報道には詳細不明)
課題・批判
・万博の一時性:終了後に会場は統合型リゾート(IR、カジノを含む)へ転用予定
・資源の再利用問題:「グランドリング」は12.5%のみ再利用見込み
・批判的視点:一部メディアや関係者は「持続可能性」に疑問
観光と経済
・チケット販売:870万枚(目標1400万枚に未達)
・宿泊状況:大阪・京都などは満室が多発、宿泊費も高騰中
・市民の声:万博に対して「混沌の時代に意義深い」とする意見もあり
【引用・参照・底本】
Japan's World Expo touts the importance of unity in turbulent times FRANCE24 2025.04.13
https://www.france24.com/en/live-news/20250413-world-expo-opens-in-japan-in-rocky-times?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250413&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D
アメリカの対パキスタン政策 ― 2025年04月13日 18:25
【概要】
アメリカの対パキスタン政策に関する米国内部の見解の相違と、それが国際情勢に与える影響について記述されている。焦点は、アメリカが今後もパキスタンの軍部支配層との関係を優先するのか、あるいはインドとの関係正常化を促進するために、民間主導の民主統治を支持するのかという点にある。
2025年4月初頭、「Drop Site News」は「国務省と国防総省がインドおよび中国の将来をめぐり陰の政府(Deep State)と対立している」という内容の報道を行った。同報告によると、国務省および国防総省は、パキスタンにおける軍の支配から民間による民主統治への転換を望んでいるが、CIAは依然として軍部と治安機構を信頼できるパートナーと見なしている。
この方針転換の背景には地政学的な理由がある。報告によれば、アメリカ・ファースト派の影響力が強まっており、パキスタンにおける民間統治の確立が、トランプ政権による対中戦略の実現を支援すると考えられている。民間政権がインドとの対立を解消すれば、インドは中国への対抗により集中できるというのがその論理である。
具体的な方策は示されていないものの、アメとムチの政策が取られる可能性に言及している。対象となる政策分野には、アフガニスタンにおけるパキスタンの政治的立場(タリバン支配の弱体化)、同地域における対テロ活動、兵器売却、関税、ロシアとの貿易および投資などがある。
パキスタンにとっての安全保障上の最大の脅威は、同国が指定したテロ組織がアフガニスタンに潜伏している疑いがあることである。したがって、パキスタンは隣国にこれら勢力の排除を要求し、拒否された場合には圧力をかける必要がある。アメリカからの政治的・軍事的支援がこの戦略には不可欠であり、それが得られなければ、アメリカがパキスタンを「ならず者国家」とみなす可能性がある。
兵器供与に関しては、パキスタンは主に中国から装備を調達しているが、F-16戦闘機も運用している。アメリカが予備部品の供給停止や新規兵器の売却停止を行えば、それは長距離ミサイル開発への抗議という名目の下、実際には政治的変化を促す手段として機能する可能性がある。
関税の面では、アメリカは年間約60億ドル(全輸出の18%)の輸出先であり、特に繊維産業がトランプ政権の貿易戦争によって大きな打撃を受けるとの見通しがある。これが新たな政治的不安につながる可能性がある。
輸出先をアメリカから中国へ切り替えることは、経済的影響を緩和する一方で、米中間の対立に巻き込まれることになり、対米関係が悪化する可能性もある。これが軍事的圧力の口実となり、アメリカのインド重視の転換を加速させることも想定される。
パキスタン側は、アメリカに見捨てられることを恐れており、それによる経済的混乱、大規模抗議、インドとの安全保障環境の悪化を懸念している。一方でアメリカも、核保有国であるパキスタンが中国の後ろ盾を得て“ならず者化”する事態を避けたいと考えており、双方の恐れが現状の均衡を維持している。
ただし、パキスタンが中国にインド洋へのアクセスを提供していることで、アメリカの「アジアへの回帰」戦略が妨げられている。アメリカが中国のマラッカ海峡封鎖を行っても、中国はパキスタン経由で代替ルートを確保できるためである。
このような中、パキスタンは中国から政治的・経済的・軍事的支援を受け、インドとの力の均衡を保っている。したがって、中国との関係を犠牲にしてアメリカとの関係改善を進めるには、安全保障上の代替策が必要である。
その一つがロシアとの貿易・投資の拡大であり、仮に米露間の関係改善が進めば、アメリカが制裁を緩和する可能性もある。これにより中国との経済関係の縮小をある程度補うことができる。
もう一つのシナリオは、カシミール問題の解決である。アメリカ・ファースト派は、パキスタンが民間主導の統治を実現すればインドとの和解が進むと考えており、それが経済的恩恵と安全保障上の安定につながるという見方がある。しかし、このシナリオはロシアとの経済協力拡大よりもさらに実現可能性が低いとされる。
アメリカ内部の二つの勢力(国務省・国防総省 vs CIA)のせめぎ合いの詳細は公には明らかでなく、具体的な展開は不透明である。ただし、それぞれの利害と、変革を目指す勢力がどのような手段をとる可能性があるかについては推察されている。
仮にCIAが主導権を握って現状維持が続く場合、トランプ政権は対中戦略の範囲縮小を迫られる可能性があり、アフガニスタンへの軍事関与も再燃しかねないという。2025年2月には、「パキスタン軍がトランプをアフガニスタンの戦争に引き戻そうとしている」との報道もあった。
一方、アメリカの支援を得ることなくパキスタンが独断でアフガニスタンに軍事介入すれば、報復的に“ならず者化”するリスクもあるため、米国側には対応のジレンマがある。
現在のパキスタンは軍部主導の体制を維持し、拘束中の前首相イムラン・カーン氏や野党への譲歩を拒んでおり、民主統治への移行は困難な状況である。したがって、CIAが米国内の政策競争に勝たない限り、米パキスタン関係の摩擦は今後も続く可能性が高い。
【詳細】
1. 米国の対パキスタン政策を巡る内部対立
アメリカでは、国務省および国防総省とCIAの間で、パキスタンとの将来的な関係性を巡る意見の相違が報じられている。
Drop Site Newsの報告によると、前者はパキスタンにおける民主的な文民支配の強化を志向しており、軍主導の体制からの転換を模索している。他方、CIAは引き続きパキスタン軍および治安機関を「より信頼できるパートナー」と見なしており、現状維持を望んでいる。
この対立は、アメリカの対中戦略の一環としての意味合いを持つ。すなわち、国務省と国防総省の立場は「アメリカ・ファースト派」とも関係し、パキスタンの民主化を通じてインドとの関係を正常化させ、中国を戦略的に封じ込める狙いがあるとされる。
2. 民主化推進のための手段(示唆される「飴と鞭」)
報告では具体的な方法こそ示されていないものの、米国がパキスタンに対して「飴と鞭(carrot-and-stick)」政策を展開する可能性があると暗示されている。以下の分野において圧力や誘因が用いられる可能性がある:
・アフガニスタン政策
パキスタンは、タリバン支配下のアフガニスタンが国内反政府勢力を匿っていると見なしており、それを排除させるための米国の軍事・政治的支援を必要としている。だが、米国の協力を得られないまま行動に出た場合、パキスタンは「ならず者国家」として非難されるおそれがある。
・武器供与
パキスタンは主に中国製兵器を装備しているが、F-16戦闘機など米国製兵器も運用している。米国が補修部品の供給を停止したり、新規売却を凍結したりする可能性があり、これが政治的圧力として機能しうる。
・貿易・関税
米国はパキスタンにとって最大の輸出先(年間約60億ドル、全体の18%)である。トランプ政権下の関税措置は繊維産業に大きな打撃を与えると予想されており、経済危機や政治不安を誘発する可能性がある。
・対ロシア関係
米国は、パキスタンとロシアの関係(貿易・投資)にも圧力をかけることで影響力を行使することができる。
3. パキスタンの戦略的ジレンマ
アメリカとの関係悪化が現実化すれば、パキスタンは次のような困難に直面する。
・経済・政治の連鎖崩壊
米国市場からの排除や投資減退は経済危機を招き、大規模な国内抗議運動につながる可能性がある。
・地域安全保障の悪化
米国の全面的支援を受けるインドとの軍事的緊張が高まる懸念がある。
しかし米国もまた、核保有国であるパキスタンが「報復的に暴走する」事態を恐れており、両国は互いの「最悪のシナリオ」を恐れることで現状維持に傾いている。
4. 中国とインドの地政学的連関
パキスタンは、中国にとってインド洋への重要な出口を提供している。これにより中国はマラッカ海峡封鎖の際にも欧州・アフリカとの経済連絡を確保できるため、アメリカの「対中包囲網」を一部無効化している。
パキスタンにとっても、中国からの支援(経済・軍事・政治)は、インドとのパワーバランスを保つ上で不可欠であり、米国との協調によって中国との関係が損なわれることには慎重にならざるを得ない。
5. 二つの「譲歩の見返り」シナリオ
・対ロ関係の強化
米国がロシアに対する制裁を一部解除(あるいは例外扱い)し、パキスタンの経済的補完を認める可能性。中国への依存を一部減らす効果が期待される。
・カシミール問題の解決
アメリカ・ファースト派は、パキスタンが文民政権に移行すればインドとの対話が進み、対立が緩和されると見ている。だが、これは実現可能性がより低いとされている。
6. 結末の不透明性と今後の影響
アメリカ内部のどの派閥が勝利するかは依然として不明である。CIAが主導権を維持すれば、現状が継続されるが、「アジアへの再転換(Pivot back to Asia)」戦略は頓挫し、アフガニスタンへの再関与のリスクも高まる。
一方で、国務省・国防総省の意向が通れば、パキスタンへの圧力は強まり、内政干渉的な形での変化が生じる可能性もある。その成否は、イムラン・カーン元首相への対応や、軍主導体制の今後にかかっている。
結論
本報告は、アメリカの対パキスタン政策が単なる二国間問題ではなく、米中対立、インド太平洋戦略、ロシアとの関係、アフガニスタン情勢など、複数のグローバルな文脈に交差していることを示している。
その意味で、アメリカの内部動向とパキスタンの政局は、今後の世界秩序に大きな影響を与え得る重要なファクターとなっている。
【要点】
米国の対パキスタン政策における内部対立
(1)アメリカ国内では、パキスタン政策をめぐって以下の対立があると報道されている
・国務省・国防総省:パキスタンの文民政権を支援し、軍主導の体制を改めさせたい(民主化志向)。
・CIA:パキスタン軍を引き続き主要パートナーとみなし、現体制との協力を優先(安定重視)。
(2)この対立は、対中戦略の文脈で意味を持つ。国務省側はインドとの関係改善を通じて、中国包囲網を強化しようとしている。
・米国による圧力手段(飴と鞭)
⇨ 文民政権移行を促すため、米国が以下の分野で圧力をかける可能性がある
⇨ アフガニスタン政策:パキスタンが米国の支援なくタリバン政権に強硬策を取れば、「ならず者国家」扱いされる恐れがある。
⇨ 兵器供与:F-16など米国製装備の整備支援を停止する可能性があり、軍の即応性に影響。
⇨ 貿易関係:米国はパキスタン最大の輸出先。関税措置や市場制限は経済危機を招き得る。
⇨ 対ロ関係への干渉:ロシアとのエネルギー・穀物貿易への圧力により、中国依存を強める結果も。
パキスタンのジレンマ
・アメリカとの関係悪化によって次のような問題が生じうる:
⇨ 経済危機・輸出減少・失業増加 → 国内での政情不安・抗議運動拡大。
⇨ 米国の支援を受けるインドとの軍事的緊張激化。
・ただし、米国側もパキスタンが核保有国であることから、圧力の限度をわきまえる必要がある。
中国・インド・パキスタンの地政学的関係
・パキスタンは中国にとってインド洋への戦略的出口であり、海上シーレーン確保の要。
・米国はパキスタンをインド側に引き寄せることで、中国の対外展開を阻止しようとしている。
・一方で、パキスタンにとっては中国との関係維持が、インドとの軍事的均衡に不可欠である。
パキスタンに対する譲歩の見返りシナリオ
(1)対ロシア関係容認
ロシアとの貿易を黙認することで、中国依存を相対的に緩和させる余地を与える。
(2)カシミール問題の平和的解決支援:
民主化を進めた暁に、インドとの関係改善を仲介する構想。ただし実現可能性は低いと見られている。
今後の展開と世界的影響
・CIAが影響力を維持すれば現状維持に留まり、「アジア重視戦略」が停滞する恐れ。
・国務省・国防総省が主導権を握れば、パキスタンへの圧力が増し、体制変化が生じる可能性。
・パキスタン政局(とりわけイムラン・カーン元首相の扱い)が今後の対米関係の焦点。
結論
・アメリカの対パキスタン政策は、単なる二国間問題にとどまらず、対中・対印・対露・対タリバン政策を含む複合的な戦略に深く関わっている。
・この問題の帰趨は、アジア全域における米国の影響力および新冷戦構造の今後に直接的な影響を及ぼし得る。
【引用・参照・底本】
The Future Of US-Pakistani Ties Is Uncertain Amidst Reported American Deep State Differences Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.10
https://korybko.substack.com/p/the-future-of-us-pakistani-ties-is?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161001603&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
アメリカの対パキスタン政策に関する米国内部の見解の相違と、それが国際情勢に与える影響について記述されている。焦点は、アメリカが今後もパキスタンの軍部支配層との関係を優先するのか、あるいはインドとの関係正常化を促進するために、民間主導の民主統治を支持するのかという点にある。
2025年4月初頭、「Drop Site News」は「国務省と国防総省がインドおよび中国の将来をめぐり陰の政府(Deep State)と対立している」という内容の報道を行った。同報告によると、国務省および国防総省は、パキスタンにおける軍の支配から民間による民主統治への転換を望んでいるが、CIAは依然として軍部と治安機構を信頼できるパートナーと見なしている。
この方針転換の背景には地政学的な理由がある。報告によれば、アメリカ・ファースト派の影響力が強まっており、パキスタンにおける民間統治の確立が、トランプ政権による対中戦略の実現を支援すると考えられている。民間政権がインドとの対立を解消すれば、インドは中国への対抗により集中できるというのがその論理である。
具体的な方策は示されていないものの、アメとムチの政策が取られる可能性に言及している。対象となる政策分野には、アフガニスタンにおけるパキスタンの政治的立場(タリバン支配の弱体化)、同地域における対テロ活動、兵器売却、関税、ロシアとの貿易および投資などがある。
パキスタンにとっての安全保障上の最大の脅威は、同国が指定したテロ組織がアフガニスタンに潜伏している疑いがあることである。したがって、パキスタンは隣国にこれら勢力の排除を要求し、拒否された場合には圧力をかける必要がある。アメリカからの政治的・軍事的支援がこの戦略には不可欠であり、それが得られなければ、アメリカがパキスタンを「ならず者国家」とみなす可能性がある。
兵器供与に関しては、パキスタンは主に中国から装備を調達しているが、F-16戦闘機も運用している。アメリカが予備部品の供給停止や新規兵器の売却停止を行えば、それは長距離ミサイル開発への抗議という名目の下、実際には政治的変化を促す手段として機能する可能性がある。
関税の面では、アメリカは年間約60億ドル(全輸出の18%)の輸出先であり、特に繊維産業がトランプ政権の貿易戦争によって大きな打撃を受けるとの見通しがある。これが新たな政治的不安につながる可能性がある。
輸出先をアメリカから中国へ切り替えることは、経済的影響を緩和する一方で、米中間の対立に巻き込まれることになり、対米関係が悪化する可能性もある。これが軍事的圧力の口実となり、アメリカのインド重視の転換を加速させることも想定される。
パキスタン側は、アメリカに見捨てられることを恐れており、それによる経済的混乱、大規模抗議、インドとの安全保障環境の悪化を懸念している。一方でアメリカも、核保有国であるパキスタンが中国の後ろ盾を得て“ならず者化”する事態を避けたいと考えており、双方の恐れが現状の均衡を維持している。
ただし、パキスタンが中国にインド洋へのアクセスを提供していることで、アメリカの「アジアへの回帰」戦略が妨げられている。アメリカが中国のマラッカ海峡封鎖を行っても、中国はパキスタン経由で代替ルートを確保できるためである。
このような中、パキスタンは中国から政治的・経済的・軍事的支援を受け、インドとの力の均衡を保っている。したがって、中国との関係を犠牲にしてアメリカとの関係改善を進めるには、安全保障上の代替策が必要である。
その一つがロシアとの貿易・投資の拡大であり、仮に米露間の関係改善が進めば、アメリカが制裁を緩和する可能性もある。これにより中国との経済関係の縮小をある程度補うことができる。
もう一つのシナリオは、カシミール問題の解決である。アメリカ・ファースト派は、パキスタンが民間主導の統治を実現すればインドとの和解が進むと考えており、それが経済的恩恵と安全保障上の安定につながるという見方がある。しかし、このシナリオはロシアとの経済協力拡大よりもさらに実現可能性が低いとされる。
アメリカ内部の二つの勢力(国務省・国防総省 vs CIA)のせめぎ合いの詳細は公には明らかでなく、具体的な展開は不透明である。ただし、それぞれの利害と、変革を目指す勢力がどのような手段をとる可能性があるかについては推察されている。
仮にCIAが主導権を握って現状維持が続く場合、トランプ政権は対中戦略の範囲縮小を迫られる可能性があり、アフガニスタンへの軍事関与も再燃しかねないという。2025年2月には、「パキスタン軍がトランプをアフガニスタンの戦争に引き戻そうとしている」との報道もあった。
一方、アメリカの支援を得ることなくパキスタンが独断でアフガニスタンに軍事介入すれば、報復的に“ならず者化”するリスクもあるため、米国側には対応のジレンマがある。
現在のパキスタンは軍部主導の体制を維持し、拘束中の前首相イムラン・カーン氏や野党への譲歩を拒んでおり、民主統治への移行は困難な状況である。したがって、CIAが米国内の政策競争に勝たない限り、米パキスタン関係の摩擦は今後も続く可能性が高い。
【詳細】
1. 米国の対パキスタン政策を巡る内部対立
アメリカでは、国務省および国防総省とCIAの間で、パキスタンとの将来的な関係性を巡る意見の相違が報じられている。
Drop Site Newsの報告によると、前者はパキスタンにおける民主的な文民支配の強化を志向しており、軍主導の体制からの転換を模索している。他方、CIAは引き続きパキスタン軍および治安機関を「より信頼できるパートナー」と見なしており、現状維持を望んでいる。
この対立は、アメリカの対中戦略の一環としての意味合いを持つ。すなわち、国務省と国防総省の立場は「アメリカ・ファースト派」とも関係し、パキスタンの民主化を通じてインドとの関係を正常化させ、中国を戦略的に封じ込める狙いがあるとされる。
2. 民主化推進のための手段(示唆される「飴と鞭」)
報告では具体的な方法こそ示されていないものの、米国がパキスタンに対して「飴と鞭(carrot-and-stick)」政策を展開する可能性があると暗示されている。以下の分野において圧力や誘因が用いられる可能性がある:
・アフガニスタン政策
パキスタンは、タリバン支配下のアフガニスタンが国内反政府勢力を匿っていると見なしており、それを排除させるための米国の軍事・政治的支援を必要としている。だが、米国の協力を得られないまま行動に出た場合、パキスタンは「ならず者国家」として非難されるおそれがある。
・武器供与
パキスタンは主に中国製兵器を装備しているが、F-16戦闘機など米国製兵器も運用している。米国が補修部品の供給を停止したり、新規売却を凍結したりする可能性があり、これが政治的圧力として機能しうる。
・貿易・関税
米国はパキスタンにとって最大の輸出先(年間約60億ドル、全体の18%)である。トランプ政権下の関税措置は繊維産業に大きな打撃を与えると予想されており、経済危機や政治不安を誘発する可能性がある。
・対ロシア関係
米国は、パキスタンとロシアの関係(貿易・投資)にも圧力をかけることで影響力を行使することができる。
3. パキスタンの戦略的ジレンマ
アメリカとの関係悪化が現実化すれば、パキスタンは次のような困難に直面する。
・経済・政治の連鎖崩壊
米国市場からの排除や投資減退は経済危機を招き、大規模な国内抗議運動につながる可能性がある。
・地域安全保障の悪化
米国の全面的支援を受けるインドとの軍事的緊張が高まる懸念がある。
しかし米国もまた、核保有国であるパキスタンが「報復的に暴走する」事態を恐れており、両国は互いの「最悪のシナリオ」を恐れることで現状維持に傾いている。
4. 中国とインドの地政学的連関
パキスタンは、中国にとってインド洋への重要な出口を提供している。これにより中国はマラッカ海峡封鎖の際にも欧州・アフリカとの経済連絡を確保できるため、アメリカの「対中包囲網」を一部無効化している。
パキスタンにとっても、中国からの支援(経済・軍事・政治)は、インドとのパワーバランスを保つ上で不可欠であり、米国との協調によって中国との関係が損なわれることには慎重にならざるを得ない。
5. 二つの「譲歩の見返り」シナリオ
・対ロ関係の強化
米国がロシアに対する制裁を一部解除(あるいは例外扱い)し、パキスタンの経済的補完を認める可能性。中国への依存を一部減らす効果が期待される。
・カシミール問題の解決
アメリカ・ファースト派は、パキスタンが文民政権に移行すればインドとの対話が進み、対立が緩和されると見ている。だが、これは実現可能性がより低いとされている。
6. 結末の不透明性と今後の影響
アメリカ内部のどの派閥が勝利するかは依然として不明である。CIAが主導権を維持すれば、現状が継続されるが、「アジアへの再転換(Pivot back to Asia)」戦略は頓挫し、アフガニスタンへの再関与のリスクも高まる。
一方で、国務省・国防総省の意向が通れば、パキスタンへの圧力は強まり、内政干渉的な形での変化が生じる可能性もある。その成否は、イムラン・カーン元首相への対応や、軍主導体制の今後にかかっている。
結論
本報告は、アメリカの対パキスタン政策が単なる二国間問題ではなく、米中対立、インド太平洋戦略、ロシアとの関係、アフガニスタン情勢など、複数のグローバルな文脈に交差していることを示している。
その意味で、アメリカの内部動向とパキスタンの政局は、今後の世界秩序に大きな影響を与え得る重要なファクターとなっている。
【要点】
米国の対パキスタン政策における内部対立
(1)アメリカ国内では、パキスタン政策をめぐって以下の対立があると報道されている
・国務省・国防総省:パキスタンの文民政権を支援し、軍主導の体制を改めさせたい(民主化志向)。
・CIA:パキスタン軍を引き続き主要パートナーとみなし、現体制との協力を優先(安定重視)。
(2)この対立は、対中戦略の文脈で意味を持つ。国務省側はインドとの関係改善を通じて、中国包囲網を強化しようとしている。
・米国による圧力手段(飴と鞭)
⇨ 文民政権移行を促すため、米国が以下の分野で圧力をかける可能性がある
⇨ アフガニスタン政策:パキスタンが米国の支援なくタリバン政権に強硬策を取れば、「ならず者国家」扱いされる恐れがある。
⇨ 兵器供与:F-16など米国製装備の整備支援を停止する可能性があり、軍の即応性に影響。
⇨ 貿易関係:米国はパキスタン最大の輸出先。関税措置や市場制限は経済危機を招き得る。
⇨ 対ロ関係への干渉:ロシアとのエネルギー・穀物貿易への圧力により、中国依存を強める結果も。
パキスタンのジレンマ
・アメリカとの関係悪化によって次のような問題が生じうる:
⇨ 経済危機・輸出減少・失業増加 → 国内での政情不安・抗議運動拡大。
⇨ 米国の支援を受けるインドとの軍事的緊張激化。
・ただし、米国側もパキスタンが核保有国であることから、圧力の限度をわきまえる必要がある。
中国・インド・パキスタンの地政学的関係
・パキスタンは中国にとってインド洋への戦略的出口であり、海上シーレーン確保の要。
・米国はパキスタンをインド側に引き寄せることで、中国の対外展開を阻止しようとしている。
・一方で、パキスタンにとっては中国との関係維持が、インドとの軍事的均衡に不可欠である。
パキスタンに対する譲歩の見返りシナリオ
(1)対ロシア関係容認
ロシアとの貿易を黙認することで、中国依存を相対的に緩和させる余地を与える。
(2)カシミール問題の平和的解決支援:
民主化を進めた暁に、インドとの関係改善を仲介する構想。ただし実現可能性は低いと見られている。
今後の展開と世界的影響
・CIAが影響力を維持すれば現状維持に留まり、「アジア重視戦略」が停滞する恐れ。
・国務省・国防総省が主導権を握れば、パキスタンへの圧力が増し、体制変化が生じる可能性。
・パキスタン政局(とりわけイムラン・カーン元首相の扱い)が今後の対米関係の焦点。
結論
・アメリカの対パキスタン政策は、単なる二国間問題にとどまらず、対中・対印・対露・対タリバン政策を含む複合的な戦略に深く関わっている。
・この問題の帰趨は、アジア全域における米国の影響力および新冷戦構造の今後に直接的な影響を及ぼし得る。
【引用・参照・底本】
The Future Of US-Pakistani Ties Is Uncertain Amidst Reported American Deep State Differences Andrew Korybko's Newsletter 2025.04.10
https://korybko.substack.com/p/the-future-of-us-pakistani-ties-is?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=161001603&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
トランプ政権の関税政策:「一歩進んで二歩下がる」状況 ― 2025年04月13日 19:20
【概要】
2025年4月10〜11日にかけて展開されたアメリカの通商政策、特にトランプ大統領による対中・対欧関税措置に関する報道のまとめである。
1. 対中関税の引き上げ
・トランプ大統領は中国からの輸入品に対し追加関税145%という過去最大級の措置を発動。
・これに対し中国も米国製品に対して84%の関税で応酬。
・中国はさらにハリウッド映画の輸入制限も発表、象徴的だが経済的影響は限定的とされる。
✅評価:1930年のスムート・ホーリー法以来最大規模の保護主義的転換と指摘される。グローバルな供給網の分断を招く恐れがある。
2. 対欧関税は一時停止
・トランプ政権は欧州に対する20%関税を90日間停止。
・EUも報復関税を90日間凍結。
・トランプは「EUは賢明だった(very smart)」と評価。
✅評価:中国に対する強硬姿勢と対欧州での交渉余地を分けることで、外交戦略の柔軟性を確保した形。ただし不確実性は残る。
3. 市場の反応と経済的懸念
・米株式市場は10日には歴史的急騰(S&P500で+9.5%)したが、11日には3%以上の下落。
・アジア市場(特に日経平均)は11日朝に5.4%の下落。
・ドルと原油価格も急落、金と円が上昇。
✅評価:市場は依然として関税政策の持続性や実効性に懐疑的。トランプが語る「transition cost(移行期の痛み)」が現実化している。
4. 政策に対する評価と批判
・元財務長官ジャネット・イエレン氏はこれを「経済的自傷行為」と評した
。
・米国債利回りの急上昇が金融不安を招き、トランプに方向転換を促したとの見解。
・自動車労組(UAW)のリーダーは一部の関税を「労働者保護のため有用」と支持する一方で、「政治的ゲームへの利用」には反対。
✅評価:政策の効果や正当性については経済界・労働界の間でも分裂が見られる。
5. 国際的波紋:アルゼンチンと中国の関係
・アルゼンチンは中国との通貨スワップ協定(50億ドル)を延長。
・米国はこの協定を「恐喝(extortion)」と非難。
✅評価:米中の通商戦争は、南米やアジアの新興国を含む地政学的影響にも波及している。
総評
トランプ政権の関税政策は、一時的な金融市場の混乱と中長期的な経済の不確実性を招いており、「一歩進んで二歩下がる」状況にある。
市場は大統領の言う「beautiful thing(美しい結末)」を信じ切れていない。今後90日間での交渉結果が重要な意味を持つが、トランプが再び強硬路線に戻る可能性も排除できない。
【詳細】
1.米中間の関税戦争の激化
トランプ政権は中国からの輸入品に対し追加関税を145%に引き上げた。これは2025年初頭の20%、そして新たに追加された125%の上乗せを合計したもの。
一方、中国は米国製品に84%の関税を課す報復措置を取っており、両国の貿易戦争はさらに激しさを増している。
この急激な関税の上昇は、1930年のスムート・ホーリー関税法以来最大とされ、過去の経済危機の再来を懸念する声も上がっている。
2.米国株式市場と世界市場の混乱
トランプが関税の一時停止(90日間)を発表したことにより、4月9日には米国市場が急騰したが、その後の中国への制裁強化の影響で、以下のような急落が起きた・
・S&P 500:前日の+9.5%から、-3.4%に転落
・ダウ平均:1048ポイント(-2.6%)下落
・ナスダック:-4.3%
・日本のNIKKEI:+9.1%から翌日には-5.4%へ暴落
・原油価格とドル:ともに大きく下落
・金価格と円:安全資産として急騰
これは市場が、トランプの「部分的譲歩」では不十分であると判断し、貿易戦争の長期化を警戒したためである。
3.トランプの「移行コスト(transition cost)」発言
トランプは内閣会議で、「大きな市場回復があったが、移行期には困難がつきものだ」と述べた。これは経済混乱が一時的であるという見解を強調するものであり、最終的には「美しい結果になる」と楽観的な見方を示している。
ただし、この発言は投資家や企業にとっては不透明さを助長しており、明確な経済計画の不足が批判されている。
4 EUとの関係と一時的な緊張緩和
EUはトランプの対欧20%関税の90日停止措置に歩調を合わせ、報復関税の適用を猶予。トランプはこれを「EUは非常に賢明だ」と評価し、対欧関係の改善の余地を残した。
この措置により、欧州市場は安堵感から急騰し、STOXX600(欧州全体指数)が3.7%上昇し、ドイツ・フランス・スペイン・英国など各国市場も2022年以来の急騰を見せた。
5.米国内の労働団体の反応
UAW(全米自動車労働組合)のショーン・フェイン会長は、自動車業界における「一部の関税」を支持。特に中国や他の低コスト国との不公正な競争に対抗する手段としては有効だと述べた。
しかし彼は同時に、移民問題や麻薬(フェンタニル)を口実にした関税適用には反対を表明し、政治的道具としての関税には懸念を示している。
6.アルゼンチンと中国の通貨スワップ延長
アルゼンチンは、50億ドル規模の人民元との通貨スワップ協定を1年間延長。これは同国が外貨準備を維持するための措置だが、米国の政権関係者はこれを「脅迫に等しい」と批判している。
一方でアルゼンチンはIMFから200億ドルの支援融資を得ようとしており、その中で中国との関係深化が地政学的にも注目されている。
7.米財務市場の緊張
前財務長官のジャネット・イエレンは、米国債の金利急騰と売り圧力が金融市場の安定性に影響を与えたと指摘。このプレッシャーがトランプに対して一部関税見直しを促す要因になったと述べている。
米国債市場は世界的な「安全資産」として機能してきたが、関税不安による投資家の信頼喪失は、ドルの地位にも影を落としかねない。
まとめ:情勢の評価
項目 状況
米中関係 事実上の経済冷戦状態。両国とも報復姿勢を強めている。
米欧関係 一時的に緩和。だが90日後の展開次第で再燃の可能性あり。
米国内の支持 労働組合の一部は支持。だが金融・産業界は反発。
市場の反応 株式、通貨、原油など、広範囲にわたる動揺。安全資産が買われている。
トランプの姿勢 一貫して強気だが、部分的に譲歩しており、軟化の兆しも見える。
【要点】
1.米中関税戦争の激化
・トランプ政権が中国からの輸入品に最大145%の関税を課すと発表。
・これは既存の20%に125%を追加したもの。
・中国は報復として米国製品に84%の関税を課す。
・両国の関税合戦は過去数十年で最大規模。
2.世界の金融市場の混乱
・トランプが一部関税の90日間停止を発表し、一時的に株式市場が急騰。
・だが、翌日に中国への追加関税を発表し、株価が急落。
S&P500:+9.5% → -3.4%
ダウ平均:-1048ポイント(-2.6%)
ナスダック:-4.3%
日本の日経平均:+9.1% → -5.4%
原油・ドル:下落
金・円:上昇(安全資産として買われる)
3.トランプの発言とスタンス
・「移行コストは一時的なもの。最終的に素晴らしい結果が得られる」と楽観視。
・経済混乱を一時的な副作用と位置づけ、強硬策を正当化。
4.対EU政策の一時緩和
・トランプはEUに対する関税(20%)を90日間停止。
・EUも報復関税の発動を見送る姿勢を示す。
・欧州市場は好感し、STOXX600が+3.7%上昇。
➡️独・仏・西・英なども軒並み上昇。
5.労働団体の反応(UAWなど)
・UAW会長ショーン・フェイン
➡️対中関税を一部支持(不公正な競争への対抗として)。
➡️だが政治目的の関税(移民や麻薬対策)には反対。
6.中国・アルゼンチンの通貨スワップ延長
・アルゼンチンが人民元との通貨スワップ(約50億ドル)を延長。
・米政府関係者はこれを「脅しに近い」と非難。
・IMFへの支援要請(200億ドル)と同時進行で、米中の影響力が衝突。
7.米国債市場の緊張
・前財務長官イエレンが「米国債の売り圧力が危機的」と警告。
・金利急騰により、金融安定性への懸念が高まる。
・トランプ政権にも一部見直しの圧力がかかる要因に。
【参考】
☞ アルゼンチンが中国と結んだ50億ドル規模の人民元との通貨スワップ協定を1年間延長したことに対して、米国の政権関係者が「脅迫に等しい」と批判した背景には、いくつかの要因が考えられる。
1.米国の地政学的懸念
アルゼンチンの様な経済的に困難な状況にある国々が、中国との通貨スワップ協定を結ぶことは、米国にとっての地政学的な脅威となり得る。中国はこれらの協定を通じて、影響力を拡大し、アメリカの経済的・金融的な影響力に対抗しようとしていると見なされている。米国は、こうした協定が「人民元の国際化」や「ドルの支配力に対する挑戦」を意味すると捉えており、これが脅威と感じられる。
2.アルゼンチンの経済依存
アルゼンチンは経済的に困難な状況にあり、外貨準備を維持するために中国とのスワップ協定を延長している。米国から見れば、このような経済的依存がアルゼンチンを中国に対して「弱い立場」に置かせ、結果として中国の影響力が強まることを懸念する理由である。特に、アルゼンチンは経済危機を抱えながら、中国と締結した協定に依存していることが、米国側から見て「圧力を受けた取引」に見える可能性がある。
3.金融的影響とドルの支配力
アメリカは、世界経済におけるドルの支配力を重視しており、ドル以外の通貨、特に人民元が国際金融システムで重要な役割を果たすことに強い反発を示している。アルゼンチンが人民元とのスワップ協定を延長することは、ドルの影響力を弱めることに繋がりかねないため、米国の政権関係者がこの動きを「脅迫に等しい」と批判する背景にある。
4.中国の戦略的アプローチ
中国は、特に経済危機に瀕している国々に対して、通貨スワップ協定を提案することで経済的な影響力を強化しようとしている。アルゼンチンはその一例であり、米国としては、こうした経済的圧力を通じて中国が他国を従わせようとしていると考え、その戦略に反発を示している。
これらの要因から、アルゼンチンの通貨スワップ延長が米国にとって「脅迫に等しい」と受け止められているのだろう。
☞ アルゼンチンが中国との通貨スワップ協定を通じて人民元を保有し、必要な時にそれをドルと交換するという仕組みである。通貨スワップ協定とは、2国間で一定の通貨を交換する契約であり、アルゼンチンはこの協定を利用して人民元を取得し、経済的に困難な状況下で外貨準備を維持している。
具体的には、アルゼンチンは人民元を手に入れることで、外貨準備の不足を補うことができる。必要な際には、その人民元をドルに交換することで、ドル建ての支払い義務を果たすことができる。このようなスワップ協定により、アルゼンチンは米ドルへの依存度を減らし、人民元を代替的な通貨として利用することが可能となる。
この仕組みは、特に米国からの経済制裁や国際的な金融システムにおけるドルの支配に対抗する手段として有効である。アルゼンチンは、経済危機の中でドルの不足に悩まされており、中国とのスワップ協定はその問題を解決する一つの方法となっている。
そのため、アルゼンチンが元を保持し、必要な時にドルに交換できるこのシステムは、外貨準備の安定を図るための重要な手段として機能しているのである。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Trump warns of 'transition cost' as uncertainty over tariffs lingers FRANCE24 2025.04.11
https://www.france24.com/en/economy/20250410-live-china-s-84-retaliatory-tariffs-take-effect-after-trump-s-tariff-rollback?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250410&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D
2025年4月10〜11日にかけて展開されたアメリカの通商政策、特にトランプ大統領による対中・対欧関税措置に関する報道のまとめである。
1. 対中関税の引き上げ
・トランプ大統領は中国からの輸入品に対し追加関税145%という過去最大級の措置を発動。
・これに対し中国も米国製品に対して84%の関税で応酬。
・中国はさらにハリウッド映画の輸入制限も発表、象徴的だが経済的影響は限定的とされる。
✅評価:1930年のスムート・ホーリー法以来最大規模の保護主義的転換と指摘される。グローバルな供給網の分断を招く恐れがある。
2. 対欧関税は一時停止
・トランプ政権は欧州に対する20%関税を90日間停止。
・EUも報復関税を90日間凍結。
・トランプは「EUは賢明だった(very smart)」と評価。
✅評価:中国に対する強硬姿勢と対欧州での交渉余地を分けることで、外交戦略の柔軟性を確保した形。ただし不確実性は残る。
3. 市場の反応と経済的懸念
・米株式市場は10日には歴史的急騰(S&P500で+9.5%)したが、11日には3%以上の下落。
・アジア市場(特に日経平均)は11日朝に5.4%の下落。
・ドルと原油価格も急落、金と円が上昇。
✅評価:市場は依然として関税政策の持続性や実効性に懐疑的。トランプが語る「transition cost(移行期の痛み)」が現実化している。
4. 政策に対する評価と批判
・元財務長官ジャネット・イエレン氏はこれを「経済的自傷行為」と評した
。
・米国債利回りの急上昇が金融不安を招き、トランプに方向転換を促したとの見解。
・自動車労組(UAW)のリーダーは一部の関税を「労働者保護のため有用」と支持する一方で、「政治的ゲームへの利用」には反対。
✅評価:政策の効果や正当性については経済界・労働界の間でも分裂が見られる。
5. 国際的波紋:アルゼンチンと中国の関係
・アルゼンチンは中国との通貨スワップ協定(50億ドル)を延長。
・米国はこの協定を「恐喝(extortion)」と非難。
✅評価:米中の通商戦争は、南米やアジアの新興国を含む地政学的影響にも波及している。
総評
トランプ政権の関税政策は、一時的な金融市場の混乱と中長期的な経済の不確実性を招いており、「一歩進んで二歩下がる」状況にある。
市場は大統領の言う「beautiful thing(美しい結末)」を信じ切れていない。今後90日間での交渉結果が重要な意味を持つが、トランプが再び強硬路線に戻る可能性も排除できない。
【詳細】
1.米中間の関税戦争の激化
トランプ政権は中国からの輸入品に対し追加関税を145%に引き上げた。これは2025年初頭の20%、そして新たに追加された125%の上乗せを合計したもの。
一方、中国は米国製品に84%の関税を課す報復措置を取っており、両国の貿易戦争はさらに激しさを増している。
この急激な関税の上昇は、1930年のスムート・ホーリー関税法以来最大とされ、過去の経済危機の再来を懸念する声も上がっている。
2.米国株式市場と世界市場の混乱
トランプが関税の一時停止(90日間)を発表したことにより、4月9日には米国市場が急騰したが、その後の中国への制裁強化の影響で、以下のような急落が起きた・
・S&P 500:前日の+9.5%から、-3.4%に転落
・ダウ平均:1048ポイント(-2.6%)下落
・ナスダック:-4.3%
・日本のNIKKEI:+9.1%から翌日には-5.4%へ暴落
・原油価格とドル:ともに大きく下落
・金価格と円:安全資産として急騰
これは市場が、トランプの「部分的譲歩」では不十分であると判断し、貿易戦争の長期化を警戒したためである。
3.トランプの「移行コスト(transition cost)」発言
トランプは内閣会議で、「大きな市場回復があったが、移行期には困難がつきものだ」と述べた。これは経済混乱が一時的であるという見解を強調するものであり、最終的には「美しい結果になる」と楽観的な見方を示している。
ただし、この発言は投資家や企業にとっては不透明さを助長しており、明確な経済計画の不足が批判されている。
4 EUとの関係と一時的な緊張緩和
EUはトランプの対欧20%関税の90日停止措置に歩調を合わせ、報復関税の適用を猶予。トランプはこれを「EUは非常に賢明だ」と評価し、対欧関係の改善の余地を残した。
この措置により、欧州市場は安堵感から急騰し、STOXX600(欧州全体指数)が3.7%上昇し、ドイツ・フランス・スペイン・英国など各国市場も2022年以来の急騰を見せた。
5.米国内の労働団体の反応
UAW(全米自動車労働組合)のショーン・フェイン会長は、自動車業界における「一部の関税」を支持。特に中国や他の低コスト国との不公正な競争に対抗する手段としては有効だと述べた。
しかし彼は同時に、移民問題や麻薬(フェンタニル)を口実にした関税適用には反対を表明し、政治的道具としての関税には懸念を示している。
6.アルゼンチンと中国の通貨スワップ延長
アルゼンチンは、50億ドル規模の人民元との通貨スワップ協定を1年間延長。これは同国が外貨準備を維持するための措置だが、米国の政権関係者はこれを「脅迫に等しい」と批判している。
一方でアルゼンチンはIMFから200億ドルの支援融資を得ようとしており、その中で中国との関係深化が地政学的にも注目されている。
7.米財務市場の緊張
前財務長官のジャネット・イエレンは、米国債の金利急騰と売り圧力が金融市場の安定性に影響を与えたと指摘。このプレッシャーがトランプに対して一部関税見直しを促す要因になったと述べている。
米国債市場は世界的な「安全資産」として機能してきたが、関税不安による投資家の信頼喪失は、ドルの地位にも影を落としかねない。
まとめ:情勢の評価
項目 状況
米中関係 事実上の経済冷戦状態。両国とも報復姿勢を強めている。
米欧関係 一時的に緩和。だが90日後の展開次第で再燃の可能性あり。
米国内の支持 労働組合の一部は支持。だが金融・産業界は反発。
市場の反応 株式、通貨、原油など、広範囲にわたる動揺。安全資産が買われている。
トランプの姿勢 一貫して強気だが、部分的に譲歩しており、軟化の兆しも見える。
【要点】
1.米中関税戦争の激化
・トランプ政権が中国からの輸入品に最大145%の関税を課すと発表。
・これは既存の20%に125%を追加したもの。
・中国は報復として米国製品に84%の関税を課す。
・両国の関税合戦は過去数十年で最大規模。
2.世界の金融市場の混乱
・トランプが一部関税の90日間停止を発表し、一時的に株式市場が急騰。
・だが、翌日に中国への追加関税を発表し、株価が急落。
S&P500:+9.5% → -3.4%
ダウ平均:-1048ポイント(-2.6%)
ナスダック:-4.3%
日本の日経平均:+9.1% → -5.4%
原油・ドル:下落
金・円:上昇(安全資産として買われる)
3.トランプの発言とスタンス
・「移行コストは一時的なもの。最終的に素晴らしい結果が得られる」と楽観視。
・経済混乱を一時的な副作用と位置づけ、強硬策を正当化。
4.対EU政策の一時緩和
・トランプはEUに対する関税(20%)を90日間停止。
・EUも報復関税の発動を見送る姿勢を示す。
・欧州市場は好感し、STOXX600が+3.7%上昇。
➡️独・仏・西・英なども軒並み上昇。
5.労働団体の反応(UAWなど)
・UAW会長ショーン・フェイン
➡️対中関税を一部支持(不公正な競争への対抗として)。
➡️だが政治目的の関税(移民や麻薬対策)には反対。
6.中国・アルゼンチンの通貨スワップ延長
・アルゼンチンが人民元との通貨スワップ(約50億ドル)を延長。
・米政府関係者はこれを「脅しに近い」と非難。
・IMFへの支援要請(200億ドル)と同時進行で、米中の影響力が衝突。
7.米国債市場の緊張
・前財務長官イエレンが「米国債の売り圧力が危機的」と警告。
・金利急騰により、金融安定性への懸念が高まる。
・トランプ政権にも一部見直しの圧力がかかる要因に。
【参考】
☞ アルゼンチンが中国と結んだ50億ドル規模の人民元との通貨スワップ協定を1年間延長したことに対して、米国の政権関係者が「脅迫に等しい」と批判した背景には、いくつかの要因が考えられる。
1.米国の地政学的懸念
アルゼンチンの様な経済的に困難な状況にある国々が、中国との通貨スワップ協定を結ぶことは、米国にとっての地政学的な脅威となり得る。中国はこれらの協定を通じて、影響力を拡大し、アメリカの経済的・金融的な影響力に対抗しようとしていると見なされている。米国は、こうした協定が「人民元の国際化」や「ドルの支配力に対する挑戦」を意味すると捉えており、これが脅威と感じられる。
2.アルゼンチンの経済依存
アルゼンチンは経済的に困難な状況にあり、外貨準備を維持するために中国とのスワップ協定を延長している。米国から見れば、このような経済的依存がアルゼンチンを中国に対して「弱い立場」に置かせ、結果として中国の影響力が強まることを懸念する理由である。特に、アルゼンチンは経済危機を抱えながら、中国と締結した協定に依存していることが、米国側から見て「圧力を受けた取引」に見える可能性がある。
3.金融的影響とドルの支配力
アメリカは、世界経済におけるドルの支配力を重視しており、ドル以外の通貨、特に人民元が国際金融システムで重要な役割を果たすことに強い反発を示している。アルゼンチンが人民元とのスワップ協定を延長することは、ドルの影響力を弱めることに繋がりかねないため、米国の政権関係者がこの動きを「脅迫に等しい」と批判する背景にある。
4.中国の戦略的アプローチ
中国は、特に経済危機に瀕している国々に対して、通貨スワップ協定を提案することで経済的な影響力を強化しようとしている。アルゼンチンはその一例であり、米国としては、こうした経済的圧力を通じて中国が他国を従わせようとしていると考え、その戦略に反発を示している。
これらの要因から、アルゼンチンの通貨スワップ延長が米国にとって「脅迫に等しい」と受け止められているのだろう。
☞ アルゼンチンが中国との通貨スワップ協定を通じて人民元を保有し、必要な時にそれをドルと交換するという仕組みである。通貨スワップ協定とは、2国間で一定の通貨を交換する契約であり、アルゼンチンはこの協定を利用して人民元を取得し、経済的に困難な状況下で外貨準備を維持している。
具体的には、アルゼンチンは人民元を手に入れることで、外貨準備の不足を補うことができる。必要な際には、その人民元をドルに交換することで、ドル建ての支払い義務を果たすことができる。このようなスワップ協定により、アルゼンチンは米ドルへの依存度を減らし、人民元を代替的な通貨として利用することが可能となる。
この仕組みは、特に米国からの経済制裁や国際的な金融システムにおけるドルの支配に対抗する手段として有効である。アルゼンチンは、経済危機の中でドルの不足に悩まされており、中国とのスワップ協定はその問題を解決する一つの方法となっている。
そのため、アルゼンチンが元を保持し、必要な時にドルに交換できるこのシステムは、外貨準備の安定を図るための重要な手段として機能しているのである。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Trump warns of 'transition cost' as uncertainty over tariffs lingers FRANCE24 2025.04.11
https://www.france24.com/en/economy/20250410-live-china-s-84-retaliatory-tariffs-take-effect-after-trump-s-tariff-rollback?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250410&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D