トランプ:ロシアに対して新たな制裁を示唆した背景2025年03月11日 14:39

Microsoft Designerで作成
【概要】 
 
 トランプ前大統領がロシアに対して新たな制裁を示唆した背景について、アンドリュー・コリブコの分析によると、現在進行中のロシアと米国の「新デタント(関係改善)」において、両国間の信頼が十分に確立されていないことが問題であると指摘されている。

 トランプは金曜日に「ロシアが現在ウクライナの戦場で攻勢を強めている事実に基づき、停戦と最終的な和平合意が成立するまで、ロシアに対する大規模な銀行制裁、制裁、関税の導入を強く検討している」と投稿した。この発言は、多くの人々にとって、ロシアが停戦に応じるよう制裁を強化するという戦略の効果について疑問を抱かせるものであった。

 米国のウクライナ・ロシア問題特使であるキース・ケロッグは、2月初旬により厳格な二次制裁の適用を示唆しており、この分析では、その結果インドがロシア産原油の輸入を大幅に削減し、ロシアの対外収入が中国への依存度を増す可能性を指摘していた。プーチン大統領が停戦に応じなければ、ロシアが中国の「ジュニア・パートナー」となるリスクが高まるという見方である。

 実際に、インドはバイデン政権下での新たな制裁発動を控えた先月、ロシア産原油の輸入を過去2年間で最低水準に減少させた。しかし、昨年12月にはロシアとの間で10年間の原油供給契約を結んでおり、仮に米国が二次制裁を厳格に適用した場合でも、インドがこれに従わない可能性もある。その理由は反米的な動機ではなく、ロシアの中国依存が進むことでインドの安全保障上のリスクが増大することへの懸念である。

 インドは依然としてロシアの軍事技術や部品供給に大きく依存しており、仮にロシアが中国の圧力を受けて対印軍事協力を制限すれば、中国との国境紛争においてインドが不利な立場に置かれることになりかねない。そのため、インドとしては、ロシアを中国の完全な従属国にするよりも、米国との関係悪化をある程度容認する可能性がある。

 こうした状況の中で、トランプがこの制裁を示唆したのは、ロシアとの「新デタント」における戦略的な誤解、あるいはプーチンが自らの優位性を確保するために独自の行動を取っている可能性があるためと考えられる。特に、トランプがウクライナへの軍事・情報支援を打ち切った直後に、ロシアがウクライナに対して大規模な攻撃を実施したことで、トランプに対する批判が強まったことが影響している。

 一部の論者は、ロシアが最大限の戦争目標を維持し続けている証拠だとして、トランプの和平努力を否定する主張を展開した。また、トランプがプーチンと密約を交わし、ウクライナの領土を譲歩する計画を進めているのではないかという憶測も飛び交った。こうした批判に対応するため、トランプはロシアに対する新たな制裁を示唆した可能性がある。

 ロシアの攻撃の目的については、フランスが提案した航空戦闘停止や、英国主導の部分的な飛行禁止区域の設定に対する牽制という解釈もある。米国のヘグセット国防長官が、ウクライナに展開するNATO諸国の軍隊に対して集団的自衛権(NATOの第5条)の適用を否定したことで、フランスや英国が実際に軍事介入する可能性は低いと見られる。しかし、ロシアとしては、これらの発言に対して軍事的なシグナルを発する必要があったと考えられる。

 トランプの視点からすれば、ロシアの大規模攻撃は、ウクライナへの軍事・情報支援停止の直接的な結果であると見なされた可能性が高い。このため、トランプは、ロシアが最大限の戦争目標を維持し続ける場合、より厳格な二次制裁の適用があり得ることを警告した。

 ただし、インドが米国の制裁圧力に屈する保証はなく、仮に制裁を実行した場合、米国とインドの関係が悪化するリスクもある。さらに、ロシアが制裁を受けて中国への依存度を高めることは、米国の国益にも反するため、慎重な対応が求められる。実際、ルビオ国務長官は最近のインタビューで、ロシアが中国の従属国となることは米国にとって望ましくないと明言している。

 トランプの狙いとしては、ロシアがウクライナに対する大規模攻撃を控え、停戦に向けた交渉を進めることを期待している。しかし、最悪のシナリオとしては、インドが米国の制裁圧力に屈し、ロシアがさらに中国に依存することになり、結果として「新デタント」が崩壊する可能性もある。

 以上のことから、トランプの投稿が単なる政治的パフォーマンスである可能性もあるが、今後の米露間の声明や行動によって、実際にどのような意図があるのかが明確になると考えられる。両国の信頼関係がまだ十分に確立されていない以上、プーチンとトランプの間で再度の電話会談が必要になるかもしれない。

【詳細】 

 ドナルド・トランプ前大統領がロシアに対して新たな制裁を示唆した背景と、それがロシア・ウクライナ戦争の和平交渉や米露関係にどのような影響を及ぼすかについて分析している。トランプは3月8日に「ロシアがウクライナ戦線で攻勢を強めていることを踏まえ、大規模な銀行制裁、関税の導入を検討している」と発言し、停戦と和平合意を促した。この発言は、米国とロシアの間で進行中とされる「新デタント(緊張緩和)」の文脈において意外性があった。

 1. トランプの制裁示唆の背景

 トランプは就任後、ウクライナへの軍事・情報支援を停止し、ゼレンスキー政権に停戦を強いる戦略を取った。しかし、その直後にロシアがウクライナへの大規模攻撃を行ったため、一部では「ロシアが譲歩する意思がない証拠」とされ、トランプがプーチンと密約を交わしたのではないかとの憶測も生まれた。このような批判を受け、トランプはロシアにも圧力をかける姿勢を示す必要に迫られたと考えられる。

 2. 制裁の具体的な内容と影響

 トランプの発言は「大規模な銀行制裁、関税、制裁の強化」に言及している。特に、米国のウクライナ・ロシア担当特使キース・ケロッグが2月に「二次制裁の厳格な適用」を示唆したことと関連していると考えられる。これが実行されれば、インドなどの第三国がロシア産石油の輸入を制限する可能性があり、ロシアの外貨収入がさらに中国に依存することになる。

 インドはすでに先月、ロシア産原油の輸入量を2年ぶりの低水準にまで削減しており、米国の圧力に屈する可能性もある。一方で、昨年12月にロシアとの間で10年間の長期石油契約を締結しており、ロシアを中国の「ジュニア・パートナー」にしないために対米圧力を無視する可能性もある。

 ロシアはインドにとって軍事装備の主要供給国であり、インドは中国との国境紛争においてロシアの軍事技術を必要としている。そのため、インドが対ロ制裁を完全に受け入れれば、ロシアが中国の影響下に入り、インドへの軍事支援を制限する可能性がある。その結果、インドが米国との関係を強化せざるを得なくなり、戦略的自律性を損なうというリスクが生じる。

 3. ロシアの攻勢と欧州の反応

 トランプのウクライナ支援停止後、ロシアは大規模攻撃を実施したが、これはフランスやイギリスがウクライナ領空の「部分的な飛行禁止区域(no-fly zone)」を提案したことへの対抗措置とも考えられる。ペテ・ヘグセス米国防長官は「NATO加盟国がウクライナに派兵しても米国はNATO条約第5条(集団的自衛権)を適用しない」と明言しており、フランスやイギリスの発言は主に政治的メッセージとみなされる。しかし、ロシアとしてはこれを無視すれば弱腰と見なされるため、軍事的圧力をかけた可能性が高い。

 4. トランプの真意と米露関係の行方

 トランプの発言の目的は、

 ・ロシアがウクライナで過度に戦果を拡大することを抑制し、停戦交渉に向かわせること。
 ・自身がロシアに甘いという批判をかわし、国内政治的な圧力を和らげること。
 ・ロシアの中国依存を防ぐため、インドに対する制裁圧力の可能性を示唆することでプーチンに警告を発すること。

 米国としても、ロシアが中国の完全な衛星国となることは望んでいない。マルコ・ルビオ国務長官は最近のインタビューで「ロシアが中国のジュニア・パートナーになるのは米国の国益に反する」と明言しており、トランプも同様の懸念を抱いているとみられる。

 5. 今後の展開

 トランプの発言が本当に制裁実施を意味するのか、それとも国内向けのポーズに過ぎないのかは今後の米露間の動向次第である。可能性としては、

 ・プーチンとトランプの直接交渉が再び行われ、停戦に向けた新たな条件が模索される。
 ・米国が実際にインドへの制裁圧力を強め、ロシアの資金調達能力を抑制する。
 ・ロシアがさらなる軍事行動を取り、欧州諸国の対ウクライナ介入を牽制する。

 トランプの制裁示唆が単なる政治的ジェスチャーなのか、それとも本格的な圧力戦略なのかは、今後数週間の米露の行動によって明確になるだろう。

【要点】

 トランプのロシア制裁示唆の背景と影響

 1. 背景

 ・トランプはウクライナ支援を停止し、ゼレンスキー政権に停戦を促していた。
 ・その後、ロシアが大規模攻撃を実施し、トランプの「ロシア寄り」批判が強まった。
 ・これを受け、トランプは「ロシアにも圧力をかける」という姿勢を示す必要に迫られた。

 2. 制裁の内容と影響

 ・制裁案: 「大規模な銀行制裁、関税、制裁の強化」
 ・影響

  ⇨ ロシア産石油の輸入国(インドなど)への二次制裁強化 → ロシアの外貨収入が減少。
  ⇨ ロシアの経済が中国依存を強める可能性。
  ⇨ インドの対米関係への影響 → ロシアへの軍事依存が問題化する可能性。

 3. ロシアの攻勢と欧州の反応

 ・ロシアの攻勢は、フランス・イギリスによる「ウクライナ領空の飛行禁止区域(No-Fly Zone)提案」に対する対抗措置と考えられる。
 ・NATO加盟国の派兵検討に対し、米国防長官は「NATO条約第5条は適用しない」と発言。
 ・ロシアは欧州諸国の介入を牽制しつつ、軍事的圧力を強化。

 4. トランプの狙い

 ・ロシアがウクライナで過度に戦果を拡大することを抑制し、停戦交渉へ向かわせる。
 ・ロシア寄りとの批判をかわし、国内政治的圧力を回避する。
 ・ロシアの中国依存を防ぐため、インドに制裁圧力をかける可能性を示唆し、プーチンに警告を発する。

 5. 今後の展開

 ・プーチンとトランプの交渉が再開され、停戦条件が模索される可能性。
 ・米国がインドへの制裁圧力を強め、ロシアの資金調達能力を抑制する動き。
 ・ロシアがさらなる軍事行動を実施し、欧州諸国の対ウクライナ介入を牽制する可能性。
 ・トランプの制裁示唆が本格的な圧力か、国内向けのジェスチャーか、数週間以内に明確になる。

【引用・参照・底本】

Analyzing Trump’s Latest Sanctions Threat Against Russia
Andrew Korybko's Newsletter 2025.03.10
https://korybko.substack.com/p/analyzing-trumps-latest-sanctions?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=158750252&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

コメント

トラックバック