中国がチリのアタカマ砂漠に建設計画の天文台 ― 2025年03月17日 10:46
【桃源寸評】
さてチリ、どうしますか。チリの先行きを占うか。
<朋有り、遠方より来る、また楽しからずや>
【寸評 完】
【概要】
中国がチリのアタカマ砂漠に建設を計画していた天文台が、米国政府の懸念により中止の可能性が生じている。米国当局は、この天文台が軍事目的に利用される可能性を指摘しており、チリ政府は現在、計画の再検討を進めている。チリ国内の大学と中国国家天文台(NAOC)との間で合意されたこのプロジェクトについて、チリ政府は阻止する可能性を排除していない。
この天文台は、チリ北部のアンフォファガスタ州にある天文学研究に適したセロ・ベンタロネスに建設される予定であり、推定建設費は約8,000万米ドルとされている。プロジェクトはチリの北カトリック大学との協力のもとで進められ、中国の宇宙開発戦略の一環として位置付けられていた。類似の取り組みとして、中国はアルゼンチンやベネズエラでも宇宙関連施設を設置している。
計画によれば、天文台には約100基の望遠鏡が設置され、深宇宙の天文現象や小惑星・彗星などの地球近傍天体の観測を行う予定であった。チリの科学者は施設へのアクセスが限定されるものの、中国の研究者と共同研究を行う機会が与えられるとされていた。
チリは、標高の高い乾燥した環境と澄んだ空が特徴であり、天文学研究に最適な立地とされている。そのため、米国、欧州、日本などの国際的な天文台が多数設置されている。
中国の天文台設置に関する議論は、科学技術分野における中国の影響力が南米地域で拡大する可能性があるという観点からも注目されている。
【詳細】
中国国家天文台(NAOC)がチリのアタカマ砂漠に建設を計画していた天文台は、米国政府の懸念により、中止の可能性が生じている。米国当局は、この施設が軍事目的に利用される可能性を指摘しており、チリ政府は現在、計画の再検討を進めている。具体的には、チリの北カトリック大学(Universidad Católica del Norte)とNAOCとの間で締結された協定が見直される可能性がある。
計画の概要
この天文台は、チリ北部アンフォファガスタ州のセロ・ベンタロネス(Cerro Ventarrones)に建設される予定であった。この地域は標高が高く、乾燥した気候と澄んだ大気を持つため、天体観測に適した環境とされている。推定建設費は約8,000万米ドルであり、中国にとっては南米における宇宙研究・天文学の拠点の一つとなる計画であった。
施設には約100基の望遠鏡が設置される予定で、深宇宙の天文現象や、小惑星・彗星などの地球近傍天体(Near-Earth Objects, NEO)の観測を目的としていた。NAOCが主導する形で運営され、チリの科学者は施設へのアクセスが限定されるものの、中国の研究者と共同研究を行う機会が与えられる計画であった。
背景:チリにおける国際的な天文学研究
チリは、世界有数の天文観測拠点として知られている。アタカマ砂漠には、以下のような国際的な天文台が存在する。
・ヨーロッパ南天天文台(ESO):16カ国が加盟するヨーロッパの研究機関で、パラナル天文台やALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)などの施設を運営。
・カーネギー科学研究所(米国):ラス・カンパナス天文台を運営し、大型望遠鏡を使用した観測を行っている。
・日本の国立天文台:すばる望遠鏡の共同研究など、日本の科学機関もチリでの観測に関与している。
チリの地理的条件と政治的安定性により、世界各国の宇宙関連機関が天文台を設置している。中国がこの地域に独自の天文台を設置することで、科学技術面でのプレゼンスを強化するとともに、南米地域における影響力を拡大する可能性がある。
米国の懸念と地政学的背景
米国政府は、今回の計画に関して複数の懸念を提起している。主な論点は以下の通りである。
1.低軌道衛星(LEO)との関連性
・望遠鏡の主な目的は天文学研究とされているが、地球低軌道(LEO)を通過する人工衛星の監視やデブリ(宇宙ゴミ)の追跡にも応用可能である。
・米国当局は、この施設が中国の軍事衛星運用や宇宙監視活動に利用される可能性があると警戒している。
2.中国の宇宙戦略との関連
・中国は、南米において宇宙開発に関する複数のプロジェクトを推進している。特に、アルゼンチンのパタゴニア地方にある深宇宙探査基地(CLTC-CONAE Deep Space Station)は、軍事的な用途を兼ね備えているとの指摘もある。
・ベネズエラとも宇宙技術協力を進めており、通信衛星の打ち上げ支援などを行っている。
・これらのプロジェクトと同様に、チリの天文台が軍民両用の施設として活用される可能性があると米国は懸念している。
3.南米における影響力の拡大
・中国は近年、ラテンアメリカでインフラ投資を拡大しており、天文学研究の分野でも関与を強めている。
・米国は、これが科学技術分野のみならず、地政学的影響力の拡大につながることを警戒している。
チリ政府の対応
現在、チリ政府はこのプロジェクトに関する再検討を進めている。チリ国内には、以下のような意見がある。
1.米国の懸念に配慮し、計画を中止すべきとの立場
・チリは米国との経済・安全保障協力を重視しており、対米関係を悪化させるリスクを避けるべきとする意見。
・他の国際的な天文学機関との協力を優先すべきとの見方もある。
2.中国との協力を継続すべきとの立場
・天文学研究の分野で中国との協力を進めることは、科学技術の発展に資するとの意見。
・欧米の天文学研究機関がチリで活動している以上、中国の施設を排除するのは公平ではないとの主張もある。
今後の展望
この問題は、単なる天文学研究の枠を超え、米中の地政学的対立が南米に及ぶ形となっている。チリ政府は慎重に対応を進めるとみられるが、最終的に中国の計画が中止される場合、米国の圧力が影響した可能性が高い。一方で、中国がこの地域での科学技術投資を強化し続ける限り、今後も同様の問題が発生することが予想される。
【要点】
中国のチリ天文台計画と米国の懸念
1. 計画の概要
・中国国家天文台(NAOC)が、チリ・アタカマ砂漠に天文台を建設予定。
建設予定地はアンフォファガスタ州のセロ・ベンタロネス(Cerro Ventarrones)。
・推定建設費:約8,000万米ドル。
・望遠鏡約100基を設置し、**深宇宙現象や地球近傍天体(NEO)**を観測予定。
・チリの北カトリック大学(Universidad Católica del Norte)**との協力プロジェクト。
・チリの科学者は限定的なアクセスを持ち、中国の研究者と共同研究の機会がある。
2. チリにおける国際的な天文学研究
・アタカマ砂漠は、世界有数の天文観測地であり、多くの国際機関が観測施設を設置。
・代表的な天文台
⇨ ヨーロッパ南天天文台(ESO)(16カ国加盟、パラナル天文台・ALMAを運営)
⇨ カーネギー科学研究所(米国)(ラス・カンパナス天文台を運営)
⇨ 日本の国立天文台(すばる望遠鏡の共同研究などを実施)
3. 米国の懸念
(1)軍事利用の可能性
・望遠鏡が低軌道衛星(LEO)監視や宇宙デブリ追跡に利用される可能性。
・中国軍の宇宙監視活動に関与するリスクを警戒。
(2)中国の宇宙戦略との関連
・アルゼンチンの深宇宙探査基地(CLTC-CONAE Deep Space Station)と同様に、軍民両用の施設となる可能性。
・ベネズエラとの宇宙技術協力(通信衛星の打ち上げ支援など)とも関連。
・中国の南米での宇宙インフラ拡大を警戒。
(3)南米における影響力拡大
・中国の投資が科学技術のみならず、地政学的影響力拡大につながることを懸念。
・米国の伝統的な影響圏である南米への中国の進出を抑制したい狙い。
4.チリ政府の対応
・計画の再検討を進めており、協定の見直しも視野に。
・米国の懸念を考慮し、計画を中止する可能性がある。
・国内の意見
(1)米国との関係を重視し、計画中止を支持
⇨ 対米関係を悪化させるリスクを避けるべきとの立場。
⇨ 欧米の天文学機関との協力を優先すべきとの意見。
(2)中国との科学協力を継続すべき
⇨ 中国との共同研究が科学技術の発展に貢献する可能性。
⇨ 欧米の施設は認められているのに、中国だけ排除するのは不公平との主張。
5. 今後の展望
・チリ政府が最終決定を下すまで、慎重な検討が続く見込み。
・計画が中止された場合、米国の圧力が影響した可能性が高い。
・今後も中国の南米における科学技術投資は拡大が見込まれ、類似の問題が発生する可能性。
【引用・参照・底本】
China’s observatory in Chile in doubt as US raises concerns about potential military use SCMP 2025.03.15
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3302489/chinas-observatory-chile-doubt-us-raises-concerns-about-potential-military-use?module=bottom_card_2&pgtype=article
さてチリ、どうしますか。チリの先行きを占うか。
<朋有り、遠方より来る、また楽しからずや>
【寸評 完】
【概要】
中国がチリのアタカマ砂漠に建設を計画していた天文台が、米国政府の懸念により中止の可能性が生じている。米国当局は、この天文台が軍事目的に利用される可能性を指摘しており、チリ政府は現在、計画の再検討を進めている。チリ国内の大学と中国国家天文台(NAOC)との間で合意されたこのプロジェクトについて、チリ政府は阻止する可能性を排除していない。
この天文台は、チリ北部のアンフォファガスタ州にある天文学研究に適したセロ・ベンタロネスに建設される予定であり、推定建設費は約8,000万米ドルとされている。プロジェクトはチリの北カトリック大学との協力のもとで進められ、中国の宇宙開発戦略の一環として位置付けられていた。類似の取り組みとして、中国はアルゼンチンやベネズエラでも宇宙関連施設を設置している。
計画によれば、天文台には約100基の望遠鏡が設置され、深宇宙の天文現象や小惑星・彗星などの地球近傍天体の観測を行う予定であった。チリの科学者は施設へのアクセスが限定されるものの、中国の研究者と共同研究を行う機会が与えられるとされていた。
チリは、標高の高い乾燥した環境と澄んだ空が特徴であり、天文学研究に最適な立地とされている。そのため、米国、欧州、日本などの国際的な天文台が多数設置されている。
中国の天文台設置に関する議論は、科学技術分野における中国の影響力が南米地域で拡大する可能性があるという観点からも注目されている。
【詳細】
中国国家天文台(NAOC)がチリのアタカマ砂漠に建設を計画していた天文台は、米国政府の懸念により、中止の可能性が生じている。米国当局は、この施設が軍事目的に利用される可能性を指摘しており、チリ政府は現在、計画の再検討を進めている。具体的には、チリの北カトリック大学(Universidad Católica del Norte)とNAOCとの間で締結された協定が見直される可能性がある。
計画の概要
この天文台は、チリ北部アンフォファガスタ州のセロ・ベンタロネス(Cerro Ventarrones)に建設される予定であった。この地域は標高が高く、乾燥した気候と澄んだ大気を持つため、天体観測に適した環境とされている。推定建設費は約8,000万米ドルであり、中国にとっては南米における宇宙研究・天文学の拠点の一つとなる計画であった。
施設には約100基の望遠鏡が設置される予定で、深宇宙の天文現象や、小惑星・彗星などの地球近傍天体(Near-Earth Objects, NEO)の観測を目的としていた。NAOCが主導する形で運営され、チリの科学者は施設へのアクセスが限定されるものの、中国の研究者と共同研究を行う機会が与えられる計画であった。
背景:チリにおける国際的な天文学研究
チリは、世界有数の天文観測拠点として知られている。アタカマ砂漠には、以下のような国際的な天文台が存在する。
・ヨーロッパ南天天文台(ESO):16カ国が加盟するヨーロッパの研究機関で、パラナル天文台やALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)などの施設を運営。
・カーネギー科学研究所(米国):ラス・カンパナス天文台を運営し、大型望遠鏡を使用した観測を行っている。
・日本の国立天文台:すばる望遠鏡の共同研究など、日本の科学機関もチリでの観測に関与している。
チリの地理的条件と政治的安定性により、世界各国の宇宙関連機関が天文台を設置している。中国がこの地域に独自の天文台を設置することで、科学技術面でのプレゼンスを強化するとともに、南米地域における影響力を拡大する可能性がある。
米国の懸念と地政学的背景
米国政府は、今回の計画に関して複数の懸念を提起している。主な論点は以下の通りである。
1.低軌道衛星(LEO)との関連性
・望遠鏡の主な目的は天文学研究とされているが、地球低軌道(LEO)を通過する人工衛星の監視やデブリ(宇宙ゴミ)の追跡にも応用可能である。
・米国当局は、この施設が中国の軍事衛星運用や宇宙監視活動に利用される可能性があると警戒している。
2.中国の宇宙戦略との関連
・中国は、南米において宇宙開発に関する複数のプロジェクトを推進している。特に、アルゼンチンのパタゴニア地方にある深宇宙探査基地(CLTC-CONAE Deep Space Station)は、軍事的な用途を兼ね備えているとの指摘もある。
・ベネズエラとも宇宙技術協力を進めており、通信衛星の打ち上げ支援などを行っている。
・これらのプロジェクトと同様に、チリの天文台が軍民両用の施設として活用される可能性があると米国は懸念している。
3.南米における影響力の拡大
・中国は近年、ラテンアメリカでインフラ投資を拡大しており、天文学研究の分野でも関与を強めている。
・米国は、これが科学技術分野のみならず、地政学的影響力の拡大につながることを警戒している。
チリ政府の対応
現在、チリ政府はこのプロジェクトに関する再検討を進めている。チリ国内には、以下のような意見がある。
1.米国の懸念に配慮し、計画を中止すべきとの立場
・チリは米国との経済・安全保障協力を重視しており、対米関係を悪化させるリスクを避けるべきとする意見。
・他の国際的な天文学機関との協力を優先すべきとの見方もある。
2.中国との協力を継続すべきとの立場
・天文学研究の分野で中国との協力を進めることは、科学技術の発展に資するとの意見。
・欧米の天文学研究機関がチリで活動している以上、中国の施設を排除するのは公平ではないとの主張もある。
今後の展望
この問題は、単なる天文学研究の枠を超え、米中の地政学的対立が南米に及ぶ形となっている。チリ政府は慎重に対応を進めるとみられるが、最終的に中国の計画が中止される場合、米国の圧力が影響した可能性が高い。一方で、中国がこの地域での科学技術投資を強化し続ける限り、今後も同様の問題が発生することが予想される。
【要点】
中国のチリ天文台計画と米国の懸念
1. 計画の概要
・中国国家天文台(NAOC)が、チリ・アタカマ砂漠に天文台を建設予定。
建設予定地はアンフォファガスタ州のセロ・ベンタロネス(Cerro Ventarrones)。
・推定建設費:約8,000万米ドル。
・望遠鏡約100基を設置し、**深宇宙現象や地球近傍天体(NEO)**を観測予定。
・チリの北カトリック大学(Universidad Católica del Norte)**との協力プロジェクト。
・チリの科学者は限定的なアクセスを持ち、中国の研究者と共同研究の機会がある。
2. チリにおける国際的な天文学研究
・アタカマ砂漠は、世界有数の天文観測地であり、多くの国際機関が観測施設を設置。
・代表的な天文台
⇨ ヨーロッパ南天天文台(ESO)(16カ国加盟、パラナル天文台・ALMAを運営)
⇨ カーネギー科学研究所(米国)(ラス・カンパナス天文台を運営)
⇨ 日本の国立天文台(すばる望遠鏡の共同研究などを実施)
3. 米国の懸念
(1)軍事利用の可能性
・望遠鏡が低軌道衛星(LEO)監視や宇宙デブリ追跡に利用される可能性。
・中国軍の宇宙監視活動に関与するリスクを警戒。
(2)中国の宇宙戦略との関連
・アルゼンチンの深宇宙探査基地(CLTC-CONAE Deep Space Station)と同様に、軍民両用の施設となる可能性。
・ベネズエラとの宇宙技術協力(通信衛星の打ち上げ支援など)とも関連。
・中国の南米での宇宙インフラ拡大を警戒。
(3)南米における影響力拡大
・中国の投資が科学技術のみならず、地政学的影響力拡大につながることを懸念。
・米国の伝統的な影響圏である南米への中国の進出を抑制したい狙い。
4.チリ政府の対応
・計画の再検討を進めており、協定の見直しも視野に。
・米国の懸念を考慮し、計画を中止する可能性がある。
・国内の意見
(1)米国との関係を重視し、計画中止を支持
⇨ 対米関係を悪化させるリスクを避けるべきとの立場。
⇨ 欧米の天文学機関との協力を優先すべきとの意見。
(2)中国との科学協力を継続すべき
⇨ 中国との共同研究が科学技術の発展に貢献する可能性。
⇨ 欧米の施設は認められているのに、中国だけ排除するのは不公平との主張。
5. 今後の展望
・チリ政府が最終決定を下すまで、慎重な検討が続く見込み。
・計画が中止された場合、米国の圧力が影響した可能性が高い。
・今後も中国の南米における科学技術投資は拡大が見込まれ、類似の問題が発生する可能性。
【引用・参照・底本】
China’s observatory in Chile in doubt as US raises concerns about potential military use SCMP 2025.03.15
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3302489/chinas-observatory-chile-doubt-us-raises-concerns-about-potential-military-use?module=bottom_card_2&pgtype=article