中国:釣魚島(日本名:尖閣諸島)領空へ日本の民間航空機違法侵入2025年05月04日 13:41

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【概要】

 2025年5月3日、中国海警局(CCG)が日本の民間航空機の中国領空への侵入に対応したと報じた。

 報道によれば、5月3日土曜日、中国海警局の艦船は法律に基づき、釣魚島(日本名:尖閣諸島)周辺海域で定例の巡視を実施していた。その際、日本の民間航空機が午前11時19分に中国の領空へ違法に侵入し、午前11時24分に離脱した。この事案を受け、中国海警局は直ちに必要な管理措置を実施し、艦載ヘリコプターを派遣して警告を発し、同航空機を退去させたと、中国海警局の報道官であるLiu Dejun氏が声明の中で述べた。

 Liu報道官は「釣魚島およびその附属島嶼は中国固有の領土である。日本側は直ちにすべての違法行為を停止すべきだ」と強く主張した。また、「中国海警局は釣魚島の海域および空域において、権益保護および法執行活動を継続し、中国の領土主権と海洋権益を断固として守る」との方針を明示した。

 さらに、同日、中国駐日本大使のWu Jianghao氏は、日本の外務副大臣であるTakehiro Funakoshi 氏に対し、日本の民間航空機による釣魚島空域への侵入について厳重な申し入れを行った。Wu大使は、日本政府が民間航空機の中国領空への違法侵入を許可したことは、中国の主権を深刻に侵害する行為であると非難した。この申し入れについては、中国駐日本大使館が公式声明を発表している。

 中国側は、この行為に対して強い不満と断固たる反対を表明し、法に基づく必要な管理措置を実施して当該航空機を警告し退去させたことを説明している。また、中国側は、日本政府に対し、この問題の深刻さを認識し、同様の事案が再発しないように実際的な対策を講じることを求めた。声明では、「釣魚島およびその附属島嶼は中国固有の領土である。日本側が新たな挑発行動を取った場合、中国は断固とした対抗措置を実施し、国家主権および海洋権益を揺るぎなく守る」と明記された。

【詳細】

 2025年5月3日、中国海警局(CCG)が日本の民間航空機による中国領空への侵入に対応したと報じた。

 報道によれば、5月3日土曜日、中国海警局の艦船は法律に基づき、釣魚島(日本名:尖閣諸島)周辺海域で定例の巡視を行っていた。その際、日本の民間航空機が午前11時19分に中国の領空へ違法に侵入し、午前11時24分に離脱した。この事案を受け、中国海警局は直ちに必要な管理措置を実施し、艦載ヘリコプターを派遣して警告を発し、当該航空機を退去させた。中国海警局の報道官であるLiu Dejun氏は声明の中で、「釣魚島およびその附属島嶼は中国固有の領土である。日本側は直ちにすべての違法行為を停止すべきである」と強く主張した。また、「中国海警局は釣魚島の海域および空域において、権益保護および法執行活動を継続し、中国の領土主権と海洋権益を断固として守る」との方針を示した。

 さらに、同日、中国駐日本大使のWu Jianghao氏は、日本の外務副大臣であるTakehiro Funakoshi 氏に対し、日本の民間航空機による釣魚島空域への侵入について厳重な申し入れを行った。Wu大使は、日本政府が民間航空機の中国領空への違法侵入を許可したことは、中国の主権を深刻に侵害する行為であると非難した。この申し入れについては、中国駐日本大使館が公式声明を発表している。

 中国側は、この行為に対して強い不満と断固たる反対を表明し、法に基づく必要な管理措置を実施して当該航空機を警告し退去させたことを説明している。また、中国側は、日本政府に対し、この問題の深刻さを認識し、同様の事案が再発しないように実際的な対策を講じることを求めた。声明では、「釣魚島およびその附属島嶼は中国固有の領土である。日本側が新たな挑発行動を取った場合、中国は断固とした対抗措置を実施し、国家主権および海洋権益を揺るぎなく守る」と明記された。

 今回の事案に関し、中国側は日本政府に対して強い警戒を示しており、外交ルートを通じて厳しい抗議を行った。中国海警局は今後も釣魚島周辺の権益保護および法執行活動を続ける意向を示しており、類似の事案が発生した場合にはさらなる対応策を講じる構えを見せている。この事案を巡る中国と日本の立場の違いが、今後の外交関係にも影響を及ぼす可能性がある。
 
【要点】

 ・事案の発生: 2025年5月3日、釣魚島(尖閣諸島)周辺海域で中国海警局(CCG)が定例の巡視を実施中、日本の民間航空機が午前11時19分に中国の領空へ侵入し、午前11時24分に離脱。

 ・中国海警局の対応: 侵入を受け、中国海警局は直ちに必要な管理措置を実施し、艦載ヘリコプターを派遣して警告を発し、日本の民間航空機を退去させた。

 ・中国政府の立場: 中国海警局報道官のLiu Dejun氏は、「釣魚島およびその附属島嶼は中国固有の領土である。日本側は直ちにすべての違法行為を停止すべきである」と声明を発表。

 ・外交的対応: 同日、中国駐日本大使のWu Jianghao氏は、日本の外務副大臣であるTakehiro Funakoshi 氏に対し、日本の民間航空機による釣魚島空域への侵入について厳重な申し入れを行い、これが中国の主権を深刻に侵害する行為であると強く非難。

 ・日本政府への要求: 中国政府は日本側に対し、この問題の深刻さを認識し、同様の事案が再発しないよう実際的な対策を講じるよう求めた。

 ・今後の対応: 中国海警局は引き続き釣魚島周辺の権益保護および法執行活動を続ける方針を明示。また、日本側が新たな挑発行動を取った場合、中国は断固とした対抗措置を実施すると警告。

 ・国際関係への影響: 今回の事案を巡る中国と日本の立場の違いが今後の外交関係にも影響を及ぼす可能性がある。

【桃源寸評】

 村田忠禧、松井芳郎、井上清といった学者による研究を踏まえると、日本政府の尖閣諸島に関する所有権の主張は学術的検証に耐える十分な根拠を持っていないことが明らかになる。

 以下、それぞれの著作の視点を整理しつつ、なぜ日本の公式見解が「雲散霧消」となるのかを論じる。

 1. 村田忠禧『史料徹底検証尖閣領有』

 村田は、1895年の尖閣諸島編入が実際には日清戦争の過程と不可分であり、戦勝を既定とした日本が密かに編入を決定した事実を一次史料で明示している。特に、政府内部文書の「秘密裏に処理する」という記述が、日本の主張する「平和裏の編入」論を崩す決定的証拠として機能している。

 また、当時の清国側が抗議しなかったのは、日清戦争下で抗議能力を失っていたからであり、「異議なし=無主地ではなかった」という日本の論理も通用しないとする。

 2. 松井芳郎『国際法学者が読む尖閣問題』

 松井は、国際法の観点から、尖閣諸島の領有権問題は以下の点で日本に不利であると指摘している:

 「先占」要件の不成立:有効な行政支配(effective occupation)が1895年以前に存在したとは言えず、国際法上の「先占」の成立要件を満たしていない。

 戦後処理の不明確さ:ポツダム宣言に基づき「中国から奪った領土の返還」が求められた中で、尖閣の地位があいまいであったことは、日本の主張に不利である。

 国際司法裁判所(ICJ)への非提訴:日本が本件をICJに付託しようとしないのは、勝算が低いことを自覚しているからだと解釈可能である。

 3. 井上清『「尖閣」列島-釣魚諸島の史的解明』

 井上は、尖閣諸島が明清時代の中国海防・航路網の中に位置していたという歴史的実態を詳細に示し、「明確な中国の帰属意識があった」とする。また、日本の編入が清の崩壊と列強の侵略的行動の一環であったことを明確に指摘し、帝国主義的領土拡張の一局面に過ぎないと論じている。

 彼の指摘は、「近代的主権国家による有効支配」という概念の前に、歴史的に無視された被害国側の認識や実態を浮かび上がらせるものとして、歴史学的に重要である。

 4. 総合評価

 上記の学術研究は共通して、日本の「固有の領土」論が政治的スローガンであり、歴史的にも法的にも根拠薄弱であることを示している。特に以下の点は致命的である。

 ・編入の時期と動機が不透明かつ戦争と連動

 ・無主地論の根拠が国際法の基準を満たさない

 ・戦後国際秩序における曖昧な地位(米軍施政権の限界)

 ・一貫して問題の存在を否認する日本政府の非建設的態度

 したがって、学問的な検証においては、日本の主張が「雲散霧消」するというご指摘は妥当ではないのか。むしろ現在の日本の立場は、歴史や国際法に立脚するものではなく、政治的都合と対外発信戦略に基づいたものと評価される。

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  https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/index.html
  外務省HP

 尖閣諸島について
 
 尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配しています。したがって、尖閣諸島をめぐって解決し なければならない領有権の問題はそもそも存在しません。

日本は領土を保全するために毅然としてかつ冷静に対応していきます。

日本は国際法の遵守を通じた地域の平和と安定の確立を求めています。
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 2010年当時、中国外交部の姜瑜報道官が井上清氏の著書『「尖閣」列島-釣魚諸島の史的解明』を推薦したことは、日中間の尖閣諸島(釣魚島)を巡る領有権問題において注目すべき出来事であった。

 井上清氏は、日本の歴史学者であり、京都大学名誉教授として知られている。彼は、尖閣諸島が歴史的に中国の領土であると主張し、その根拠として明清時代の海防文書や航海記録、地図などを挙げている。特に、明代の『籌海図編』や清代の『琉球国志略』などの史料を用いて、尖閣諸島が中国の海防区域に含まれていたと論じている。

 中国政府やメディアは、井上氏の研究を自国の主張の裏付けとして積極的に引用している。例えば、2013年には、米国に留学中の中国人学生がニューヨーク・タイムズ紙に意見広告を掲載し、井上氏の著書を引用して尖閣諸島が中国領であると主張した。

 一方、日本国内では、井上氏の主張に対して批判的な意見もある。一部の研究者は、彼の史料の選定や解釈に偏りがあると指摘し、近代国際法の観点からは日本の領有権が正当であると主張している。

 日本の政治家や政府関係者が井上氏の著書をどの程度読んでいるかについては明確な情報はないが、政府は一貫して「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領有権を巡る問題は存在しない」との立場を取っており、井上氏の主張を政策に反映させる動きは見られないん。

 このように、井上清氏の研究は中国側の主張を支える一方で、日本国内では賛否が分かれており、尖閣諸島を巡る領有権問題の複雑さを象徴している。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

CCG deploys helicopter to expel Japanese aircraft illegally entering China’s airspace over Diaoyu Dao GT 2025.05.03
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1333300.shtml

朝鮮半島の信頼醸成の可能性2025年05月04日 16:51

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【概要】

 SIPRI平和・安全保障インサイト No. 2025/05 2025年4月

 本論文は、広島県と広島グローバル平和推進機構の資金援助により作成された。地域・世界の安全保障政策における核兵器の代替策を探るプロジェクトの一環である。

 「核軍縮への道を開く:朝鮮半島における信頼醸成」を要約等まとめたものである。 

 1. はじめに

 本論文は、朝鮮半島の過度な軍事化を引き起こす紛争構造に対処するための信頼醸成の可能性を探る。朝鮮戦争(1950–1953)に起因するこの構造は、双方が抑止力に過度に依存する中で危険性を増している。韓国(ROK)は米国と共に世界最大規模の軍事演習を定期的に実施し、米国は韓国に「拡張抑止」(核の傘)を提供する。一方、北朝鮮(DPRK)は推定50発の核兵器を保有し、頻繁にミサイル発射実験を通じて核運搬能力を誇示する。過去70年以上大きな衝突はないが、両国の軍事衝突は相対的に頻発しており、先制攻撃を志向する軍事ドクトリンが軍拡競争を加速し、核使用の閾値を低下させている。

 醸成措置(CBMs)は、対話・透明性・自制を通じた緊張緩和策として過去の南北和解努力の中心に位置づけられてきた。2018年9月の「包括的軍事合意(CMA)」は、南北境界の安定化を目指す画期的な軍事CBMsを含んでいた。しかし、2019年の米朝核交渉の失敗とCMAの崩壊により、このアプローチは近年信用を失った。現在、国際社会は制裁圧力と軍事的抑止に依存する一方、北朝鮮は核・ミサイル開発を継続している。

 本論文は、北朝鮮の即時核廃棄を求める強圧的なアプローチが非現実的であるだけでなく、長期的な軍縮を阻害していると指摘する。段階的な軍備管理と制裁緩和を組み合わせた持続可能な外交の必要性を強調し、戦略的CBMsを通じた危機安定性の向上を提言する。

 2. 過去の対北朝鮮核外交の欠点

 朝鮮半島の「非核化」は長年、国際社会の主要目標であった。1990年代の「合意枠組み(1994年)」や六者会合(2003–2009)では、北朝鮮の核凍結と引き換えに軽水炉供与などの措置が取られたが、米国の政権交代や北朝鮮のウラン濃縮問題により頓挫した。2018年の米朝首脳会談(シンガポール)では「相互信頼醸成」が謳われたが、2019年のハノイ会談で米国が「完全な非核化先行」を要求したため交渉は決裂。米国が北朝鮮の核凍結措置(寧辺5MW原子炉停止等)に見合う制裁緩和を提示しなかったことが大きな要因と分析される。

 現在の外交膠着状態は、米バイデン政権の「漸進的アプローチ」にもかかわらず、北朝鮮が対話を拒否する状況を生んでいる。根本的問題は、北朝鮮の安全保障懸念を軽視し、制裁緩和を軍縮完了に紐付けたまま部分的な譲歩を報償しない国際社会の姿勢にある。

 3.朝鮮半島の不安定要因

 (1)先制攻撃ドクトリンの危険性

 韓国・米国の「キルチェーン戦略」(北朝鮮の核・ミサイル施設先制攻撃構想)と北朝鮮の「先制核使用方針」が相互に危機不安定性を増幅。双方が相手の攻撃を恐れて先制行動を誘発する「use-it-or-lose-it」のジレンマが、核使用リスクを高めている。この軍拡競争は北朝鮮の核戦力近代化(潜水艦発射弾道ミサイル等)と韓国内の「自主核武装論」を刺激する悪循環を生んでいる。

 (2) 南北軍事合意の崩壊

 2018年のCMAが規定した非武装地帯(DMZ)の非軍事化措置(共同警備区域設置、砲撃訓練禁止等)は、2020年以降の緊張再燃により事実上機能停止。2024年6月、韓国政府がCMA完全停止を宣言し、熱線通信も途絶した状態が続く。2024年10月の北朝鮮領空への韓国ドローン侵入事件は、危機管理メカニズム欠如が偶発衝突リスクを高める実例となった。

 4.協調的リスク削減と地域軍備管理への道

 (1) 核抑制措置の段階的アプローチ

 即時的非核化要求を見直し、現実的な軍備管理プロセスを提案

 ・第1段階(短期): 寧辺核施設の検証可能な凍結(5MW原子炉・ウラン濃縮工場停止)と核・長距離ミサイル実験モラトリアム

 ・第2段階(中期): 未申告核施設の査察受け入れと戦術核削減

 ・最終段階(長期): 完全検証可能な核廃棄

 (2) 制裁緩和の比例性

 ・第1段階の履行に対し、国連安保理制裁(石炭・繊維輸出禁止等)の一時停止

 ・最終段階達成時にはイラン核合意(JCPOA)モデルに準じた制裁全面解除を提示

 (3) 戦略的CBMs

 ・米韓の先制攻撃ドクトリン見直し(NC2施設攻撃自制)

 ・戦略爆撃機示威飛行の中止 

 ・地域多国間安全保障枠組み構想(中国・ロシアを含む安全保障保証)

 (4) 南北軍事CBMs再構築

 ・軍事ホットライン再開

 ・CMA再評価委員会設置

 ・ウィーン文書式軍備透明性措置の導入

 ・在韓米軍削減の長期的検討

 (5) 地域枠組みの拡大

 ・六者会合フォーマット活用

 ・日朝拉致問題を含む地域和解プロセス推進

 5. 結論

 朝鮮半島の危険な現状は、現実的なリスク管理アプローチを必要とする。完全非核化は長期的目標と位置づけつつ、核凍結と制裁緩和の交換プロセスを通じた緊張緩和が急務である。戦略的CBMsと持続的対話により抑止関係の安定化を図りつつ、地域の安全保障構造変革を目指すことが、究極的な軍縮への道程となる。このプロセスは、核保有国の軍縮に向けた国際的モデルとなり得る可能性を秘めている。

 略語表

 CBM:信頼醸成措置
 CMA:包括的軍事合意
 DPRK:朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)
 HEU:高濃縮ウラン
 MW(e):メガワット(電気出力)
 NC2:核指揮統制
 NPT:核不拡散条約
 ROK:大韓民国(韓国)

【詳細】

 1. はじめに:問題の根源と分析視点

 朝鮮半島の安全保障環境は、以下の3つの要因が複雑に絡み合う:

 (1)歴史的経緯:朝鮮戦争(1950–53)の未終戦状態(休戦協定のみ)が継続する「凍結された紛争」。

(2)非対称な軍事バランス:

 ・北朝鮮:推定50発の核兵器、固体燃料ICBM「火星-18」、SLBM発射能力を保有(2024年SIPRI年鑑)。

 ・韓国・米国:在韓米軍28,500人、年次合同演習「ウルチ・フリーダムガーディアン」(参加兵力30万人規模)。

 ・エスカレーションリスク:2020年以降、南北間で年平均15件以上の軍事衝突(DMZ越境ドローン事件、西海NLL銃撃戦等)。

 (2)核心課題

 ・米韓の「拡張抑止」vs. 北朝鮮の「先制核使用」ドクトリンが「相互確信的破壊(MAD)」ならぬ「相互不信的破綻」を招く。

 ・国連安保理制裁(決議2375など11本)が民生経済を圧迫し、北朝鮮の核開発を逆に正当化する悪循環。

 2.過去の核外交失敗の構造分析

 (1)1994年「合意枠組み」の教訓

 ・成果:黒鉛減速炉の凍結、IAEA査察受け入れ。

 ・崩壊要因

  ⇨米議会の軽水炉建設資金拠出遅延(共和党反対)

  ⇨北朝鮮の秘密ウラン濃縮計画(HEU疑惑)発覚

  ⇨根本問題:体制保証の欠如(クリントン政権が「核の傘」提供を拒否)。

 (2)2005年六者会合「9.19共同声明」

 ・画期的要素:初めて「朝鮮半島非核化」を多国間合意化。

 ・限界

  ⇨「行動対行動」原則の曖昧さ(CVID〈完全・検証可能・不可逆的廃棄〉vs. 段階的補償)

  ⇨米財務省のマカオ銀行制裁(2005年9月)が北朝鮮の不信感を増幅。

 (3)2018–19年トランプ外交の失敗

 ・シンガポール合意(2018.6):

  ⇨北朝鮮:寧辺5MW原子炉停止、東倉里ミサイルエンジン試験場解体。

  ⇨米国:大規模合同演習「ウルチ」中止。

 ・ハノイ決裂(2019.2)の真因

  ⇨米側要求:寧辺+α(未申告ウラン施設を含む全核施設凍結)

  ⇨北朝鮮要求:国連制裁5決議(2016–17年)の即時解除

  ⇨認識ギャップ:米国務省の「最大限圧力」派(ポンペオ長官)vs. ホワイトハウスの妥協派。

 3.危機深化のメカニズム

 (1)先制攻撃ドクトリンの危険性

 ・韓国「三軸体系」(2023年国防白書):

  ⇨キルチェーン(先制攻撃)

  ⇨韓国型ミサイル防衛(KAMD)

  ⇨大規模懲罰報復(KMPR:平壌攻撃計画)

 ・北朝鮮「核武力政策法」(2022.9):

  ⇨第4条:政権存立危機時に先制核使用を明文化。

  ⇨第7条:自動核報復システム「核トリガー」の構築を宣言。

 (2)CMA崩壊のプロセス

 ・2018年CMA主要条項

  ⇨DMZ内共同警備区域(JSA)非武装化

  ⇨西海・東海緩衝水域設定(艦艇출입禁止)

  ⇨地上ホットライン11ヶ所設置

 ・崩壊の転換点

  ⇨2020.6 開城連絡事務所爆破(北朝鮮の対米不満の転嫁)

  ⇨2023.11 韓国によるCMA一部停止(北朝鮮の軍事衛星発射反発)

  ⇨結果:2024年6月、韓国がCMA完全廃棄を宣言。現在、西海NLLで2024年だけで7回の銃撃戦発生。

 4.協調的リスク管理の具体策

 (1)核軍備管理の3段階モデル

 ・第1段階(1–3年)

  ⇨北朝鮮:寧辺核施設のIAEA査察受け入れ、ICBM発射モラトリアム継続。

  ⇨国際社会:国連制裁決議2371(石炭禁輸)・2397(石油制限)の一時解除。

 ・第2段階(3–5年)

  ⇨北朝鮮:高濃縮ウラン(HEU)生産凍結、核弾頭20発の検証可能保管。

  ⇨米韓:戦略爆撃機B-52の朝鮮半島周辺飛行中止。

 ・最終段階(10年+)

  ⇨北朝鮮:NPT再加盟、CTBT批准。

  ⇨米国:在韓戦術核再配備禁止の法的拘束力化。

 (2)戦略的CBMsの具体例

 ・「非先制使用」共同宣言:

  ⇨米韓がNC2(核指揮系統)攻撃をドクトリンから削除。

  ⇨北朝鮮が「核武力政策法」第4条改正。

 ・多国間監視メカニズム:

  ⇨中立国(スイス・スウェーデン)によるDMZ監視団再編。

  ⇨中露を含む「六者会合検証チーム」の寧辺査察受け入れ。

 (3)制裁緩和の具体案

 ・人道支援チャンネル:

  ⇨国連制裁例外枠を年間5億ドルに拡大(現行2,000万ドル)。

  ⇨コメ・医薬品輸入の関税免除。

 ・経済協力プロジェクト

  ⇨ロシア・中国経由の鉄道接続(シベリア鉄道-韓国釜山ルート)。

  ⇨開城工業団地再開(従業員の現金給与からデジタル通貨決済へ移行)。

 5.実現可能性と課題

 (1)国内政治の壁

 ・米国:大統領選挙サイクル(2024/2028)ごとの政策変動リスク。

 ・韓国:保守(国民の力)vs. 進歩(共に民主党)の政権交代ごとの姿勢変化。

 ・北朝鮮:金正恩体制の「核・経済並進路線」の本音(核を経済交渉の切り札と位置づけ)。

 (2)地域力学

 ・中国のジレンマ:北朝鮮の「戦略的資産」化 vs. 米中対立緩和の必要性。

 ・ロシアの関与:ウクライナ戦争以降、北朝鮮への兵器供与と技術援助が急増(2024年、T-14戦車技術提供疑惑)。

 (3)国際法の制約

 ・国連安保理決議の「完全非核化先行」原則との整合性:

  ⇨安保理常任理事国による「暫定合意」解釈が必要。

  ⇨日本・フランスなど「強硬派」の説得が鍵。

 結論:現実主義に基づく漸進的アプローチ

 朝鮮半島の非核化は「ビッグバン」的解決ではなく、以下の3段階を経たプロセスが必要:

 ・敵対管理(2025–30):核凍結と制裁部分解除で偶発衝突防止。

 ・緊張緩和(2030–40):通常戦力の均衡削減と多国間安保枠組み構築。

 ・体制転換(2040–):北朝鮮の経済開放と非核化の連動。

 最終目標は「核なき平和」ではなく「核が不要な安全保障環境」の創出。このプロセス自体が、中東・南アジアの核問題に対する新しいモデルとなり得る。

【要点】

 1. 問題背景

 ・歴史的要因:朝鮮戦争(1950–53)の未終戦状態が継続。

 ・軍事対立構造

  ⇨北朝鮮:推定50発の核兵器、ICBM・SLBM開発を推進。

  ⇨韓国・米国:年次大規模合同演習、拡張抑止(核の傘)を展開。

 ・エスカレーションリスク:

  ⇨双方の先制攻撃ドクトリン(韓国「キルチェーン」、北朝鮮「核先制使用」)が危機を誘発。

  ⇨2018年南北軍事合意(CMA)崩壊後、DMZ紛争が多発(2024年10月ドローン事件など)。

 2. 過去の核外交の失敗要因

 ・1994年合意枠組み

  ⇨北朝鮮の核凍結 vs. 米国の軽水炉供与遅延→崩壊。

 ・2005年六者会合

  ⇨共同声明も、米金融制裁で信頼喪失。

 ・2018–19年米朝交渉

  ⇨シンガポール合意で寧辺原子炉停止実施も、ハノイ会談で「完全非核化先行」要求が決裂点に。

  ⇨北朝鮮の部分措置(東倉里解体等)に対し、米国が制裁緩和を提示せず。

 3. 現在の危機要因

 ・軍拡競争:

  ⇨北朝鮮:固体燃料ミサイル・戦術核開発加速。

  ⇨韓国:三軸防衛体系(先制攻撃・ミサイル防衛・報復攻撃)強化。

 ・CBMsの崩壊:

  ⇨CMA廃止(2024年6月)後、軍事ホットライン停止、西海NLLで銃撃戦頻発。

 ・制裁の逆効果

  ⇨国連制裁(石炭・石油禁輸等)が北朝鮮民生を圧迫→核開発正当化の口実に。

 4. 提言される解決策

 ・段階的核軍備管理

  ⇨短期:寧辺核施設のIAEA査察受け入れとICBM発射停止。

  ⇨中期:高濃縮ウラン生産凍結、核弾頭20発の検証可能保管。

  ⇨長期:NPT再加盟・CTBT批准。

 ・制裁緩和の比例性:

  ⇨第1段階履行で国連制裁(石炭・石油)一時解除、最終段階で全面解除。

 ・戦略的CBMs

  ⇨米韓の「非先制使用」宣言、戦略爆撃機示威飛行中止。

  ⇨多国間監視(中立国+六者会合チーム)によるDMZ監視再開。

 ・南北CBMs再構築

  ⇨軍事ホットライン復旧、ウィーン文書式軍備透明性措置導入。

  ⇨開城工業団地再開(デジタル通貨決済導入で資金流用防止)。

 5.課題と展望

 ・政治的要因

  ⇨米大統領選挙サイクル、韓国政権の保守/進歩対立。

  ⇨北朝鮮の「核・経済並進路線」維持の意思。

 ・地域力学

  ⇨中国:北朝鮮を「戦略的資産」としつつ米中対立緩和を模索。

  ⇨ロシア:ウクライナ戦争受け、北朝鮮へ兵器技術供与強化。

 ・国際法整合性

  ・国連安保理決議「完全非核化先行」原則との調整必要。

  ・日本・フランスなど強硬派の説得が鍵。

 6. 結論

 ・3段階プロセス

  ⇨敵対管理(2025–30):核凍結と制裁部分解除で偶発衝突防止。

  ⇨緊張緩和(2030–40):通常戦力削減と多国間安保枠組み構築。

  ⇨体制転換(2040–):北朝鮮の経済開放と非核化連動。

 ・最終目標:

  ⇨「核なき平和」ではなく「核が不要な安全保障環境」の創出。中東・南アジアのモデル化を視野。

【桃源寸評】

 恐らく実行されたとしても、紆余曲折の中に<画餅に帰す>の落ちである。

 訊ねる。米国は朝鮮半島を去るか、韓国は米国の庇護廃止可能か。

 もし、上記の質問が"NO"ならば、話は簡単、無駄である。

 では、どうすればよいのか?もう答えは出した。が、これも全く無理筋である。

 現在維持、既に北も南も気が付いている、周囲は無駄骨を折るな、である。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

CLEARING THE PATH FOR NUCLEAR DISARMAMENT: CONFIDENCE-BUILDING IN THE KOREAN ENINSULA SIPRI Insights on Peace and Security 2025.04
https://www.sipri.org/publications/2025/sipri-insights-peace-and-security/clearing-path-nuclear-disarmament-confidence-building-korean-peninsula

ルーマニアで昨年の大統領選挙の無効化を受けた再選挙実施2025年05月04日 18:02

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【概要】

 2025年5月4日、ルーマニアで昨年の大統領選挙の無効化を受けた再選挙が実施された。憲法裁判所は、2024年11月に行われた大統領選挙を無効と判断し、当選したとされるNATO批判で知られるカリン・ジョルジェスク(Calin Georgescu)氏を再選挙から排除した。これにより、同じく極右の政治家であるジョルジェ・シミオン(George Simion)氏が最有力候補とみなされている。

 投票は現地時間午前7時(協定世界時04時)に開始され、午後9時に終了予定であり、終了後まもなく出口調査の結果が発表される見込みである。

 ジョルジェスク氏は、TikTokを中心とした大規模なキャンペーンやロシアの干渉疑惑を受けて排除され、その結果として一部では暴力を伴う抗議行動も発生した。彼に代わる形でシミオン氏が注目を集めており、今回の選挙では11名の候補者が立候補している。

 世論調査によると、ナショナリスト政党「AUR(ルーマニア統一同盟)」を率いる38歳のシミオン氏が第1回投票で首位に立つ見込みである。彼は、昨年の選挙を「盗まれた選挙」と呼び、今回の選挙でそれを「取り返す」としている。また、50%超の得票を目指して第1回投票での当選を狙っている。

 シミオン氏は主にオンラインを通じて選挙運動を展開しており、国外在住のルーマニア人有権者にも訴えかけている。彼はジョルジェスク氏に比べて「より穏健」であると自称しているが、EU官僚への批判的姿勢は共有しており、「ブリュッセルの選挙で選ばれていない官僚たちがルーマニアの内政に干渉している」としてEU内での「ルーマニアの尊厳の回復」を掲げている。

 ロシアをたびたび非難しているものの、ウクライナへの軍事支援には反対しており、ウクライナ難民への支援縮小も主張している。ドナルド・トランプ前米大統領の支持者であり、「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」と書かれた帽子をかぶる姿も目撃されている。彼は自らを「ルーマニアのMAGA(マガ)大統領」と称している。

 一方で、他の有力候補者としては以下の3名が挙げられる。

 クリン・アントネスク(Crin Antonescu)氏:現与党の親欧州連合(EU)連合から支持を受け、安定を訴える選挙戦を展開。

 ニクショル・ダン(Nicusor Dan)氏:ブカレスト市長であり、「腐敗した」および「傲慢な」政治エリートとの闘いを掲げる。

 ヴィクトル・ポンタ(Victor Ponta)氏:元社会民主党首相で、「ルーマニア・ファースト」の路線を打ち出している。

 調査会社INSCOP Researchのステフレアク代表によれば、「どの候補も大統領になる可能性がある」とされており、多くの浮動票の存在が選挙結果を大きく左右するとしている。

 2024年の選挙無効はEU加盟国では異例の措置であり、今回の選挙は国内外から厳しい監視の下で実施されている。ルーマニア各地では、昨年の選挙無効に抗議するデモが続いており、一部では「クーデター」との非難の声も上がっている。

 アメリカ合衆国のJD・ヴァンス副大統領もこの件に言及し、「国民の声が尊重されるべきだ」として選挙無効化を非難している。選挙当局は、再び混乱が生じることを防ぐため、TikTokとの協力や監視体制の強化を進めており、「公正かつ透明な選挙」を行うと表明している。

【詳細】

 2025年5月4日(日)、ルーマニアで昨年11月の大統領選挙が憲法裁判所により無効とされたことを受け、その再選挙が実施された。世論調査では、極右政党「ルーマニア統一連盟(AUR)」の指導者ジョルジェ・シミオン(George Simion)氏が第一回投票で最多票を獲得すると見込まれている。

 昨年の選挙では、NATO批判で知られるカリン・ジョルジェスク(Calin Georgescu)氏が勝利していたが、TikTok上でのキャンペーンとロシアの干渉疑惑を背景に選挙結果が取り消され、同氏は再選挙への出馬が認められなかった。この決定に対しては、暴力的な抗議活動が発生している。

 シミオン氏は、「盗まれた」選挙を「奪い返す」と述べており、今回の再選挙において50%超の得票を目指し、第一回投票での決着を狙っている。彼はジョルジェスク氏より「穏健」と自称しているが、EUにおける「ブリュッセルの非選出官僚」に対して強い反感を示しており、EU内でのルーマニアの「尊厳回復」を訴えている。ロシア批判の立場をとりつつも、ウクライナへの軍事支援やウクライナ避難民への支援には反対している。

 シミオン氏は、ドナルド・トランプ前米大統領の支持者を自認し、「Make America Great Again(MAGA)」の帽子を頻繁に着用しており、自らを「ルーマニアのMAGA大統領」と称している。インターネット、とりわけ国外在住の有権者を意識したSNSでの選挙戦を展開している。

 ルーマニア南部の町アレクサンドリアに住む67歳のステラ・イヴァン氏は、共産主義崩壊以後変わらない政党支配に不満を表明し、極右大統領の登場による変革を「心から」望んでいると語っている。また、首都ブカレスト在住で物価上昇に苦しむ65歳の年金生活者エウジェニア・ニクレスク氏は、「EUの中でルーマニア国民のために発言できる有能な人物」を求めていると述べている。

 今回の選挙では、シミオン氏のほかに主要候補として以下の人物がいる。

 ・クリン・アントネスク(Crin Antonescu):現与党の親欧州連合(EU)連合からの支持を受け、「安定の提供」を公約としている。

 ・ニクショル・ダン(Nicusor Dan):ブカレスト市長であり、「腐敗し傲慢な政治エリート」との対決を訴えている。

 ・ヴィクトル・ポンタ(Victor Ponta):元社会民主党の首相で、「ルーマニア・ファースト」というスローガンを掲げている。

 世論調査会社INSCOPリサーチのステフレアク代表によると、「主要4候補のうち誰が勝ってもおかしくない接戦」であり、「未定の有権者の動向が結果を大きく左右する可能性がある」とされている。

 昨年の選挙無効化はEU域内でも稀な事例であり、今回の再選挙は内外から厳重な監視の下で行われている。過去数ヶ月にわたり、選挙取り消しに抗議するデモが数千人規模で発生しており、「クーデター」だと批判する声も存在する。アメリカ合衆国のJD・ヴァンス副大統領もこの件に言及し、「国民の声を尊重するように」とルーマニア政府に呼びかけた。

 選挙管理当局は再び混乱が生じないよう、TikTok社と協力体制を強化し、公正かつ透明な選挙の実施を誓っている。
 
【要点】

 選挙実施の背景

 ・昨年11月の大統領選挙は憲法裁判所により無効とされた
  
  ⇨ TikTokでのキャンペーンとロシアの干渉疑惑が原因
  ⇨ 勝利していたカリン・ジョルジェスク氏は今回出馬できず
  ⇨ 国内では選挙無効化に抗議する暴力的なデモが発生

 主要候補

 ・ジョルジェ・シミオン(George Simion)
  ⇨ 極右政党「ルーマニア統一連盟(AUR)」党首
  ⇨ 今回の有力候補で、第一回投票での過半数獲得を狙う
  ⇨ 「盗まれた選挙を奪い返す」と主張
  ⇨ EU官僚に反感を示し、「ルーマニアの尊厳回復」を訴える
  ⇨ ロシア批判だが、ウクライナ支援には反対
  ⇨ トランプ支持者で、自らを「ルーマニアのMAGA大統領」と呼ぶ

 ・クリン・アントネスク(Crin Antonescu)
 
  ⇨ 与党系候補
  ⇨ 親EU派
  ⇨ 「安定の提供」が公約

 ・ニクショル・ダン(Nicusor Dan)

  ⇨ ブカレスト市長
  ⇨ 反体制を掲げ、「腐敗エリート」との対決を訴える

 ・ヴィクトル・ポンタ(Victor Ponta)

  ⇨ 元首相
  ⇨ スローガンは「ルーマニア・ファースト」

 世論と有権者の動向

 ・世論調査では「4候補が接戦」
  
  ⇨ 多くの有権者がまだ未定で、結果を左右する可能性が高い

 ・有権者の声

  ⇨ 67歳女性「30年間何も変わらなかった。極右に期待」
  ⇨ 65歳女性「EU内でルーマニア国民のために発言できる人物を望む」

 外部の反応・体制

 ・昨年の選挙無効化はEUでも極めて稀

 ・アメリカ副大統領JD・ヴァンスが「国民の声を尊重せよ」と発言

 ・選挙当局はTikTok社と連携し、不正防止体制を強化

【引用・参照・底本】

Polls open in Romania for critical presidential election rerun FRANCE24 2025.05.04
https://www.france24.com/en/live⇨news/20250504⇨romania⇨returns⇨to⇨polls⇨after⇨annulled⇨presidential⇨vote?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24⇨nl⇨quot⇨en&utm_email_send_date=%2020250504&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D

ロシアの提案:米国の得られる5つのメリット2025年05月04日 20:03

Microsoft Designerで作成
【概要】

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が最近、ウクライナ戦争に関する自国の目標を再確認したことにより、ロシアは米国が最終決定したとされる和平案を受け入れ不可能と見なしていることが示された。ロシアが停戦に応じる条件としては、ウクライナによる係争地域からの全面撤退、少なくとも部分的な非軍事化および非ナチ化、そして西側諸国の軍隊がウクライナに駐留しないことが求められている。本記事では、米国がウクライナにこれらおよびその他の譲歩を強要した場合に得られる5つの利益が挙げられている。

 1. ウクライナ戦争の迅速かつ持続的な終結

 ウクライナ戦争を迅速に終結させることで、新たな「永遠の戦争」やアフガニスタンのような失敗が回避される。このような形での戦争終結は、ロシアの安全保障上の利益を満たすため、持続的な平和につながるとされる。これにより、トランプ政権は和平交渉の破綻による泥沼化や敗北による評判の低下を回避できる。米国にとって、ウクライナに必要な譲歩を強要することは、効果的かつ体面を保った形での戦争終結手段とされている。

 2. NATOに対し防衛費5%支出を促す衝撃を与える

 NATO加盟国のうち西ヨーロッパ諸国は、トランプが求めるGDP比5%の防衛費支出に対して先延ばしを続けると予想されるが、ウクライナへの譲歩を米国が強要するという事態は、彼らに対してロシアの侵攻を過度に恐れる心理的衝撃を与える。その結果、西ヨーロッパ諸国も防衛への優先順位を引き上げ、中央ヨーロッパ諸国がすでに行っている安全保障負担の共有に追随する形となる。

 3. 中央ヨーロッパをEUの重心へと変える

 このようなシナリオでは、中央ヨーロッパ諸国がNATOの最前線国家としての役割を強化され、それによってEUにおける重心としての地位を得る可能性がある。米国がポーランド主導の「スリーシーズ・イニシアティブ(Three Seas Initiative)」を通じて軍事・経済統合を支援することで、対ロシア的な性格を持つこれら諸国は戦後も米国に密着する姿勢を強める。このことは、西ヨーロッパとロシアの間に楔を打ち込み、EUに対する米国の影響力を維持する効果をもたらす。

 4. ロシアとの「無制限の資源パートナーシップ」への移行

 戦後の米露間における新たな「デタント(緊張緩和)」関係が、「無制限の資源パートナーシップ」へと発展すれば、両国が世界の石油・ガス市場を共同管理する可能性が生まれる。さらに、米国がロシアのノルド・ストリーム(Nord Stream)やウクライナを通過するガスパイプラインに対して所有権を持つことにより、EUに対する影響力の恒常化や、ロシアによる和平合意違反の抑止につながる。この経済的・戦略的利益は前例のないものであるとされる。

 5. 対中戦略への「アジア回帰」の加速

 ウクライナ戦争によって生じている財政的・軍事的負担から迅速に解放されることにより、米国は対中封じ込めのための「アジア回帰(Pivot to Asia)」を加速できる。これはトランプ政権による世界的な貿易戦争や「経済革命」の一環として、中国に対する圧力を強化するものであり、台頭する多極世界秩序を米国の望む方向に再構築するという戦略的目標の実現に寄与する。

 これら5つの利益は、米国が速やかにウクライナに対する譲歩の強要を行わなかった場合には得られない。戦争はそのまま長期化し、米国がウクライナを見捨ててEUへの影響力を放棄するか、あるいはロシアに対して「エスカレートしてディエスカレート(拡大による抑止)」戦略を採用して第三次世界大戦の危機を招くかのいずれかとなる可能性がある。いずれも望ましくないため、トランプが「バイデンの戦争」と評したこの戦争を終結させるには、上述の手段が最適であると論じられている。

【詳細】

 背景

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、ウクライナ紛争におけるロシアの戦略的目標を再確認した。ラブロフ外相は、米国が最終化したとされる和平案をロシアが受け入れられないと明言し、ロシアが停戦に応じる条件として以下の要素を挙げている。

 ・ウクライナが係争地(ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンなど)から完全に撤退すること

 ・軍事的に部分的な非武装化および「非ナチ化」を実施すること

 ・紛争後に西側軍がウクライナに駐留しないこと

 このような状況下で、米国がウクライナに対してロシアへの更なる譲歩を強制することで得られるとされる5つの利益が以下に示されている。

 1. ウクライナ紛争の迅速かつ持続的な終結

 ウクライナ紛争を迅速に終結させることで、「終わりなき戦争」やアフガニスタンのような泥沼状態を回避することが可能になる。これはロシアの安全保障上の利益を確保する形で和平を構築するものであり、トランプ政権が和平交渉の失敗や軍事的敗北による reputational damage(評判の損失)を避けることができる。つまり、ウクライナに譲歩を強制することは、紛争を終息させるための効果的かつ体面を保つ手段とされる。

 2. NATO諸国に国防費GDP比5%支出を促す

 米国が主導してウクライナに譲歩を強制することで、欧州のNATO加盟国、特に西欧諸国はロシアに対する恐怖心から安全保障への緊張感を高め、トランプ政権が求める「GDP比5%の国防費支出」への対応を加速することが期待されている。これにより、西欧諸国も中東欧諸国と同様に防衛負担を担うようになり、欧州全体の軍事的自立性が高まる可能性がある。

 3. 中東欧をEUの重心に据える

 中東欧諸国(例:ポーランド、バルト三国など)はNATOの前線国家としての役割を強化される見込みである。米国が支援する「三海洋イニシアティブ(Three Seas Initiative)」を通じて、これらの国々が軍事的・経済的に統合されれば、EU内部での中東欧諸国の影響力が増大し、EUの重心が西欧から中東欧へと移行する可能性がある。この動きは、米国にとって対ロシア牽制のための影響力維持に資する。

 4. ロシアとの「無制限の資源パートナーシップ」の構築

 戦後に米露関係が「新デタント(緊張緩和)」から「無制限の資源パートナーシップ」へと発展すれば、両国が世界の石油・ガス市場を共同で管理することが可能となる。また、レアアース資源の開発や、米国によるノルドストリームやウクライナ経由のガスパイプラインの所有権取得により、米国はEUへの影響力をさらに強化することができる。これらの経済的・戦略的利益は前例のないものであるとされている。

 5. 対中戦略「アジア回帰」の加速

 ウクライナ紛争に費やしている財政・軍事資源を削減することで、米国は対中国戦略である「アジア回帰(Pivot to Asia)」を加速させることが可能となる。トランプ政権が掲げる経済的対中圧力、すなわち貿易戦争や「経済革命」の推進を強化するうえで、欧州での軍事的関与からの早期撤退は戦略的に有利である。これにより、米国は多極化する世界秩序を自国に有利な方向に再編することを目指す。

 総括

 上記の五つの利益は、米国がウクライナに対しロシアへの譲歩を強制しなければ失われる可能性がある。逆に言えば、譲歩を拒むことでウクライナ紛争が長期化し、米国は影響力を失うか、あるいはロシアへの対抗措置としてエスカレーションを選び、第三次世界大戦のリスクを招く恐れもあるとされている。よって、著者は「バイデンの戦争」とトランプが称するこの紛争を終結させる最善の方法は、ロシアが受け入れ可能な譲歩をウクライナに強いることであると結論づけている。
 
【要点】

 米国がウクライナに譲歩を強制することで得られる5つの利益(要約)

 1.紛争の迅速かつ持続的な終結

 ・ロシアの要求に沿って譲歩を行うことで、戦争をアフガン型の長期泥沼化から防ぎ、体面を保った形で終結させることができる。

 2.NATO諸国に防衛費の大幅増を促進

 ・ロシアが勝利に近づいた現実を見せることで、西欧諸国に安全保障の危機感を植え付け、防衛費をGDP比5%にまで引き上げさせる圧力が生じる。

 3.中東欧の地位向上とEU内部重心の移動

 ・三海洋イニシアティブなどを通じて中東欧諸国の軍事・経済的役割を強化し、EUにおける地政学的重心を西欧から中東欧にシフトさせることが可能になる。

 4.米露による資源パートナーシップの構築

 ・ロシアとの関係を修復することで、石油・ガス市場およびレアアース分野における戦略的協力が実現し、米国の対EU影響力がさらに強化される。

 5.対中戦略(アジア回帰)の加速

 ・ウクライナ戦争への関与を縮小することで、人的・財政的リソースを中国封じ込め戦略に再配分でき、インド太平洋地域における主導権を確保できる。

【桃源寸評】

 「対中戦略(アジア回帰)の加速」が米国のメリットとして挙げられているにもかかわらず、ロシアがその条件を受け入れることを前提にしている点には矛盾があると考えられる。

 以下の様な観点からその不自然さを指摘できる。

 ・米中対立の激化はロシアにとって両刃の剣

 ロシアは一方で中国と「戦略的パートナーシップ」を深化させており、米国の対中包囲網が強化されることは基本的に望ましくない。仮に米国がウクライナ問題から手を引き、アジアに集中できるようになれば、中国に対する圧力は増し、それは間接的にロシアにも外交的・経済的負担をもたらす可能性がある。

 ロシアにとって米国の「アジア回帰」は脅威の再分配

 米国が欧州からアジアに戦略的リソースを再配置する場合、ロシアにとっては欧州での圧力が減る一方、中国との関係においてはより複雑な対応を迫られる。特に中国が米国との対立のなかでロシアへの影響力を強めると、ロシアは「対等な戦略パートナーシップ」の維持に困難を感じる恐れがある。

 「必死」とも言える妥協路線

 こうした矛盾をあえて黙認してでも和平を望むとすれば、それはロシアが現在の戦争のコストやリスクを抑えることに強く迫られている状況を示唆する。「必死」との表現は過激だが、少なくとも「国家的余裕が乏しい中での現実的妥協の模索」と言い換えることは可能である。

 要するに、「米国のアジア回帰」をロシアが黙認することを前提にした和平案には、ロシアの戦略的利益と整合しない側面があるため、著者の見解にはやや一方的・アメリカ中心の論理が含まれていると評価できる。

 この視点を踏まえ、著者の分析は米国の立場を優先的に描いていることが明らかであり、ロシアの真の利害とは完全には一致しない可能性がある。

 ロシアの戦略的思惑(2025年時点)

 1. 戦争の早期終結と戦果の確定

 ・ロシアは2022年の侵攻以来、軍事的・経済的・外交的な大きなコストを抱えている。

 ・現在の占領地(クリミア、ドンバス、ザポリージャ州・ヘルソン州の一部など)を「既得権益」として固定化し、国際的に認められなくとも事実上の支配を確立したいという意図がある。

 ・長期戦を避け、これらの「戦果」を国境線として固定することが、ロシアの主たる短期的目標である。

 2. ウクライナの「非NATO化」と「非武装化」

 ・ロシアはウクライナが今後NATOやEUに接近することを強く警戒しており、最低限「中立国」としての位置づけを確保する必要がある。

 ・ウクライナ領内に西側軍の基地が置かれず、再軍備能力にも制限がかけられるような和平条項を望んでいる。

 3. 西側の制裁体制の分断と緩和

 ・戦争終結後、ロシアは欧州やグローバル・サウスとの経済関係の正常化を図りたい意向がある。

 ・特にドイツやフランスの対露ビジネス層との関係再構築を視野に入れており、和平を通じて制裁解除の道筋を模索している。

 4. 米国の対中シフトを容認する“取引”の可能性

 ・表向きには中露連携を強調しているが、現実にはロシアは中国への過度な依存に対する懸念も抱えている。

 ・米中対立の激化をロシアの戦略的余地と見ることもでき、米国が対中に軸足を移すならば、その隙に欧州や旧ソ連圏における自国の影響力を再構築できると判断している可能性がある。

 ・言い換えれば、「アジア回帰を許容する代わりに、欧州では米国が手を引け」という暗黙のバーター(取引)関係である。

 5. 中国との戦略バランスの維持

 ・ロシアにとって中国は重要な経済的・外交的パートナーである一方、人口規模・経済力・技術水準のいずれにおいても圧倒されている。

 ・ウクライナ戦争後、中国に「従属国」として扱われる事態は避けたい。

 ・したがって、西側との一定の関係修復や戦略的選択肢の保持は、対中関係における交渉力維持にもつながる。
 
 ロシアは、短期的にはウクライナ戦争の「名誉ある終結」を目指し、長期的には欧州における影響力の再確立と対中関係のバランス維持を志向している。米国がアジア重視に転じることを完全に歓迎しているわけではないが、それを欧州からの“撤退”と結びつけるなら、戦略的に容認する余地もある。

 要するに、ロシアは“時間を買い”、戦後体制を有利に構築するために、矛盾を抱えた和平でも実利があると判断すれば呑む可能性がある。それほどまでに現状の消耗戦が重いとも言える。

 さて、米国がヨーロッパから体よく厄介払いされ、東アジアでは中国の思考力に敗れ、結果として世界の孤児になる、という見方は、一見過激であるが、近年の国際構造の流動化を映す象徴的な表現として興味深くはないだろうか。

 1. ヨーロッパによる“米国の厄介払い”

 ・NATO諸国、とりわけ西ヨーロッパ(ドイツ・フランスなど)は、米国のリーダーシップに対する疲弊感と、自主性回復への欲求を長年抱えてきた。

 ・トランプ政権が要求する「防衛費5%」といった負担増は、むしろ欧州側の「戦略的自立」(Strategic Autonomy)への動機を高める。

 ・ロシアとの関係も、「ウクライナ切り捨て」=停戦によって、欧州にとっては“痛み分け”の形で早期終結を望む層が増加している。これは米国の影響力を弱める契機となる。

 2. 東アジアでの米国の“戦術的限界”

 ・米軍は依然として世界最強の軍事力を保有するが、それはグローバル展開によるものであり、限定戦場(たとえば台湾有事)における即時優位性は保証されていない。

 ・中国は量・質ともに進化したA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略を構築しており、米軍の接近・上陸を強く制限する能力を有している。

 ・台湾を支援すること自体が「戦略」ではなく「戦術」に留まり、長期的な安全保障枠組みに繋がっていないという批判も成立する。

 ・同盟国(韓国、日本、フィリピン等)も、米中間で板挟みになっており、米国に全面的に依存する姿勢は薄れてきている。

 3. 中国の「思考力」と戦略優位

 ・中国は軍事的挑発を多用する一方で、経済的包摂と外交的分散戦術を使い分けて地域全体を取り込もうとしている(例:ASEAN、BRI、RCEP)。

 ・台湾に関しても「武力統一」より「心理的包囲」に重きを置くなど、時間を味方につけた長期戦略を実行中であり、米国の即時対応型の介入戦略とは対照的である。

 ・米国はこの“構想力の差”において後手に回ることが多く、戦術的勝利(爆撃・海上封鎖)を得ても、戦略的敗北(地域信頼の喪失)に陥る可能性がある。

 4. “世界の孤児”化という帰結

 ・米国が欧州からの影響力を失い、東アジアでも信頼を確保できない場合、真の意味での“同盟ネットワーク”が機能不全に陥る。

 ・中東でもトルコやサウジ、イスラエルとの距離が複雑化しており、グローバルな信頼網が部分的に瓦解している。

 ・経済面では、グローバル・サウスが中国主導の通貨・貿易圏に接近し、米ドル支配体制が揺らぎ始めている。

 ・「孤児」という表現は比喩的であるが、リーダーでも覇権国でもない“中途半端な大国**としての米国像は、戦後初めて現実味を帯びてきている。

 では、ポスト米国的世界秩序は如何なることになるのか。

 1. ロシア:多極秩序の共同管理者

 ・理念:米国単独覇権の否定と文明圏の共存

 ・手段:中露戦略的連携+グローバルサウス外交

 ・重点:ユーラシアの再統合(CSTO、EAEU)、エネルギー覇権の維持

 ・ロシアはNATOの拡大を「存在的脅威」とみなし、それへの対抗手段として中国と戦略的パートナーシップを深化。

 ・ヨーロッパに対しては、ウクライナ戦争後に「西側との冷戦ではなく、東側との結束による新秩序構築」を目指す。

 ・南アジア、中東、アフリカにおいても、安価な武器輸出・エネルギー外交により影響力を拡大。

 2. 中国:秩序構築の経済覇権者

 ・理念:西側中心のルールベース秩序の再設計

 ・手段:「一帯一路」+地域貿易協定(RCEP・BRICS拡張)+人民元国際化

 ・重点:アジア太平洋とユーラシアの結節点支配

 ・米国の「覇権的リーダーシップ」に対し、「調和的秩序の調整者」を自任。

 ・東南アジア、アフリカ、中南米へのインフラ投資を通じ、経済的な依存構造を拡大。

 ・インド太平洋では米国との「ハイリスク・ローリワード(high-risk, low-reward)」型の局所対立を戦術的に管理しつつ、長期的には米軍の漸次排除を目指す。

 3. EU(特に独仏):自立的中間勢力

 ・理念:米中露いずれにも従属しない「戦略的自律」

 ・手段:防衛・産業統合+外交中立性の強化

 ・重点:環境技術・人権規範によるソフトパワー外交


 ・ドイツ・フランスは、米国への軍事的依存からの脱却と、NATOを補完する欧州防衛力の確立を模索。

 ・経済では、中国との貿易維持を前提としつつ、サプライチェーンの再構築による安全保障の確立を志向。

 ・対ロシア政策は分裂傾向にあり、ウクライナ戦争終結後は「現実主義外交」への揺り戻しが予想される。

 4. インド:非同盟型大国としての自立

 ・理念:自主独立と「グローバル・サウス代表」

 ・手段:多国間外交+防衛技術開発+経済圏競争

 ・重点:南アジアからアフリカまでの影響圏拡大

 ・米国とはQUADで連携しつつも、ロシアからの武器調達や中国との経済関係を完全には切断しない。

 ・BRICSでは中国と競合しつつ、リーダーシップ争いを演じている。

 ・「第三の道」として、中小国の代表を自任することで、戦略的柔軟性を維持。

 5. グローバルサウス:秩序の再交渉者

 ・理念:脱植民地主義的国際秩序の再構築

 ・手段:国連改革・BRICS拡張・通貨多極化

 ・重点:食糧・エネルギー・医薬の安定供給と自主的開発モデルの模索

 ・多くのアフリカ諸国や中南米諸国は、「西側vs非西側」の構図から一歩離れた立場をとる。

 ・IMF・世銀依存を脱却し、中国・ロシアなど非西側国との協力体制を模索。

 ・通貨の多極化(人民元・ルーブル・インドルピーなど)を支持し、ドル支配の打破に寄与。

 総括

 ・米国不在の世界秩序はどのような姿か

 ・米国の「単独リーダー」時代は終焉しつつあり、各国が地域覇権とグローバル主張を併存させる多層秩序に移行しつつある。

 ・対立は「善悪」や「自由vs専制」ではなく、主権・影響圏・発展モデルをめぐる現実的競争に移行している。

 ・米国がこの秩序にどう位置づけられるか——協調的パートナー、競争的監視者、それとも孤立した旧覇権国——は、今後の選択にかかっている。

 さらに、「米国がone of themになる」ことの構造的意味

 1.軍事:世界の警察官から“単なる地域プレイヤー”へ

 ・ウクライナ戦争・台湾有事に「決定的軍事介入」を行えない事実が、抑止力の限界を露呈。

 ・他国(中国・ロシア・イランなど)も、米軍がもはや“絶対的威圧力”ではないことを理解し始めている。

2.経済:ドル支配の相対化

 ・グローバルサウス諸国が人民元・ルーブル・ディルハム等を使い始める。

 ・制裁手段としてのドル排除(SWIFT)も、中国・ロシアが「耐性」をつけつつあり、もはや万能ではない。

 3.規範:自由・民主主義の普遍性に疑義

 ・グローバルサウスでは「自由主義的国際秩序」は旧宗主国の論理と見なされがちで、権威主義的ガバナンスの方が安定を提供しているとみなす国も増えている。

 ・米国自身も国内の分断(政治・人種・経済)により、かつてのモデル国家とは見られていない。

 4.同盟:NATOやインド太平洋の同盟国も“選択”し始めている

 ・欧州は「米国依存からの戦略的自律」を進め、中国・ロシアとの経済関係も維持。

 ・アジアのパートナー(韓国、インド、ASEAN諸国)も、米中の狭間で「全方位外交」を模索。

つまり、もはや米国は「不可欠な唯一の国」ではなく、「多数の重要国の一つ」にすぎない。今後は、米国も他の大国と同様に、相互依存とパワーバランスの論理に従って動かざるを得ない。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Five Benefits That The US Would Reap From Coercing Ukraine Into More Concessions To Russia Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.03
https://korybko.substack.com/p/five-benefits-that-the-us-would-reap?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=162740767&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

インドとロシアの間にはUNSC改革に関する見解の違いが存在2025年05月04日 20:19

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【概要】

 内容は、インドとロシアが国連安全保障理事会(UNSC)改革に関して見解の違いを抱えながらも、それを責任ある形で管理していくことが期待されているという主張である。

 インドは、G4と呼ばれるブラジル、ドイツ、日本と共に、国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指している。2025年4月中旬、インドの国連常駐代表であるパルヴァタネニ・ハリシュ大使は、国連の「政府間交渉(IGN)」枠組みの会合において、UNSC改革の必要性を強く訴えた。同大使は、「改革は、国連が現代のグローバルな課題に対応するために必要不可欠であり、現実を反映しない改革を否定する者は歴史の誤った側に立つことになる」と述べた。

 IGNには、G4の他に、常任理事国の拡大に反対し非常任理事国のみの増加を主張する「コンセンサスのための結集(Uniting for Consensus)」、アフリカ連合(AU)、開発途上国で構成されるL69グループ、アラブ連盟、カリブ共同体(CARICOM)などが含まれており、G4の主張は国際社会全体に向けられたものである。

 インドにとってG4との協調は国益にかなっているが、ロシアはドイツと日本の常任理事国入りに反対しており、この点でインドとの立場に違いがある。ロシアは、これら二国が常任理事国となれば、UNSCにおける西側の影響力が強まり、東西のバランスがさらに崩れると主張している。また、ロシアと日本は、北方領土(クリル諸島)問題のために平和条約を締結しておらず、この点も反対の一因となっている。

 客観的に見て、UNSCはすでに東西分裂の影響で機能不全に陥っているとの見方がある。そのため、新たに親西側の常任理事国を加えることは、この不均衡をさらに悪化させる可能性がある。しかしながら、常任理事国の地位は国際的な大国としての認知とみなされることが多く、インドがその地位を望むのは理解できる。特に、2022年以降のロシアの特別軍事作戦を契機に世界秩序が多極化へと急速に移行した中で、インドは「グローバル・サウスの声」としての地位を確立し、新冷戦において中立的立場を維持してきた。こうした背景を踏まえ、インドが常任理事国入りを求めるのは、当然の流れとされる。

 ロシアは、インドおよびブラジルの常任理事国入りには支持を表明しているが、G4の枠組みを壊してまでドイツ・日本抜きでの承認を求める意向はない。また、中国はインドとの国境問題を理由に、インドの常任理事国入りに反対する可能性がある。

 このように、インドとロシアの間にはUNSC改革に関する見解の違いが存在するが、両国は相手の立場を公に批判することなく、対話を通じてその違いを調整していくと予想されている。

 さらに、両国の立場のすり合わせ策として、ロシアはインドに対して、すでに機能不全に陥っているUNSCの常任理事国入りよりも、「I2U2(インド・イスラエル・UAE・米国の枠組み)」のような地域・小規模多国間連携(ミニラテラル)や、BIMSTEC(ベンガル湾イニシアティブ)などの地域機構の強化の方が、現実的かつ効果的に世界秩序の再編に寄与すると説得する可能性がある。このような枠組みの方が、常任理事国入りの長期的な停滞を補う効果があると考えられている。

【詳細】

 1. インドの立場とG4の役割

 インドは国連安全保障理事会(UNSC)の常任理事国入りを強く求めており、その実現に向けてG4(ブラジル、ドイツ、日本、インド)と連携している。G4は、お互いの常任理事国入りを支持する戦略的枠組みであり、国連改革の文脈において最も積極的な立場を取るグループの一つである。

 2025年4月、インドの国連常駐代表であるパルヴァタネニ・ハリシュ大使は、「政府間交渉(Intergovernmental Negotiations, IGN)」の会合において、G4を代表して発言し、UNSC改革の必要性を強調した。彼は、「改革は国連を現代的な役割にふさわしくするものであり、それに反対する者は歴史の誤った側に立つことになる」と述べ、改革を拒否する立場を間接的に批判した。

 2. UNSC改革をめぐる対立する立場

 IGNの場には、以下の主要グループが存在している。

 ・G4(常任理事国の拡大を支持)

 ・Uniting for Consensus(UFC)グループ(非常任理事国の拡大のみを支持。主な国はイタリア、パキスタン、韓国など)

 ・アフリカ連合(AU)

 ・L69(開発途上国の連合)

 ・アラブ連盟

 ・カリブ共同体(CARICOM)

 これらのグループの間で、改革案の方向性は大きく異なっており、合意形成は困難を極めている。

 3. ロシアの立場と懸念

 ロシアは、インドおよびブラジルの常任理事国入りには前向きであるが、ドイツおよび日本の加入については明確に反対の立場を取っている。主な理由は以下の通りである。

 ・西側諸国の影響力の増大への懸念:ドイツと日本は共にアメリカ主導の秩序に深く組み込まれており、常任理事国入りすればUNSCの西側偏重が一層強まる。

 ・ロシア-日本関係の未解決問題:クリル諸島(北方領土)をめぐる領土問題のため、ロシアと日本は依然として第二次世界大戦の講和条約を締結していない。この点からもロシアは日本の常任理事国入りを容認しがたい。

 4. UNSCの機能不全と多極化の現実

 UNSCは、冷戦時代から続く「東西の二極構造」によって、すでに機能不全に陥っていると広く指摘されている。拒否権の行使による決議の停滞や、特定国の国益が議論を支配する構造は、国際社会全体の合意形成を著しく阻害している。

 こうした状況下で、仮に親米・親西側の国を常任理事国に加えれば、構造的な不均衡がさらに拡大し、機能不全は悪化する可能性が高い。この見解はロシアおよび中国の立場と一致しており、とりわけ中国はインドの常任理事国入りにも否定的である。中国とインドの間には国境紛争(ガルワン渓谷を含む)があり、中国は安保理改革を通じてインドの国際的地位を強化することに慎重である。

 5. インドの国際的地位と改革要求の正当性

 それにもかかわらず、インドは多極化が進行する新世界秩序の中で、明確に「グローバル・サウスの声」として台頭している。インドは次のような要素を背景に、常任理事国入りの正当性を主張している。

 ・世界人口の大国(14億人超)

 ・急成長する経済(世界第5位)

 ・中立的な外交(米中両陣営と対話可能なプレイヤー)

 ・国連PKOへの積極的貢献

 ・BRICSやG20での主導的役割

 このような実績を持つインドが常任理事国の地位を得られない現状は、不公正かつ非現実的であると多くの開発途上国も認識している。

 6. ロシアとインドの協調的対話の可能性

 インドとロシアの間には立場の違いがあるものの、両国は直接的な批判を避け、外交的対話を通じて相違点を管理していく姿勢を見せている。このような「相違の管理(managing differences)」は、信頼に基づいた戦略的パートナーシップの一環である。

 7. 代替案としてのミニラテラル外交の強化

 ロシアは、インドが常任理事国入りを果たせない現状に対し、次のような代替的道筋を示す可能性がある:

 ・I2U2(インド・イスラエル・UAE・米国)などの小規模多国間枠組み(ミニラテラル)の強化

 ・BIMSTEC(ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ)やSCO(上海協力機構)など、地域機構の実効性向上

 ・グローバル・サウスとの南南協力の深化

 これらの枠組みは、実際の政策協調や経済統合を通じて世界秩序を再構築する実効的手段であり、形骸化したUNSCよりも現実的な影響力を持ちつつある。

 結論

 インドとロシアは、UNSC改革をめぐって異なる立場に立っているが、相互の国益を尊重しながら、対立を先鋭化させずに対話によって問題を管理する意向を持っている。ロシアは、インドに対し、より柔軟な多国間協調の枠組みに目を向けることを提案する可能性があり、それによってインドの大国としての影響力は、常任理事国入りを待たずとも実質的に拡大し得ると考えられている。
 
【要点】

 1.インドの主張と立場

 ・G4(インド、日本、ドイツ、ブラジル)と共に、UNSC常任理事国入りを目指している。

 ・インドの主張:UNSCは時代遅れであり、現代世界の多極化を反映すべき。

 ・インドは国連PKOへの貢献、人口、経済規模、G20やBRICSでの役割を根拠に改革の正当性を主張。

 ・国連の政府間交渉(IGN)で、「改革に反対する国は歴史の誤った側に立つ」と強く訴えた。

 2.ロシアの立場

 ・インドとブラジルの常任理事国入りには前向きだが、日本とドイツには反対。

 ・反対理由

  ⇨日本・ドイツは米国主導の秩序に組み込まれており、西側偏重の拡大につながる。

  ⇨日本とは領土問題(北方領土)を抱え、信頼関係に欠ける。

 ・UNSC改革には消極的で、既存の勢力均衡を維持したいとの意図がある。

 3.UNSC改革をめぐる主な立場の対立

 ・G4:常任理事国の拡大を支持。

 ・UFC(イタリア、パキスタンなど):常任理事国の拡大に反対、非常任理事国のみ拡大を主張。

 ・アフリカ連合:アフリカからの常任理事国入りを求めるが、G4とはアプローチが異なる。

 ・意見の収束が難しく、改革は停滞している。

 4.ロシアの懸念と戦略的計算

 ・UNSCに西側諸国(特に米国の同盟国)が増えると、対ロ圧力が強まると懸念。

 ・中国もインドの常任理事国入りに消極的で、ロシアと共に現状維持を望む姿勢。

 ・多極化が進む中で、UNSCの形骸化を認識しつつも、自国の拒否権を守りたい意図が強い。

 5.インドの対応と外交姿勢

 ・ロシアを名指しで非難せず、相違点を「管理(managing differences)」する姿勢。

 ・ロシアとの戦略的パートナー関係を維持しつつ、G4やグローバル・サウスとの連携を継続。

 ・改革実現が難しい現状を見据え、他の多国間協力枠組みにも活路を見出している。

 6.代替的な多国間協調の道筋(ミニラテラル外交)

 ・ロシアはインドに対し、次のような枠組み強化を示唆する可能性。

  ⇨I2U2(インド・イスラエル・UAE・米国)

  ⇨SCO(上海協力機構)

  ⇨BIMSTEC(ベンガル湾協力)

 ・UNSCに代わる実効性ある国際協調体制を重視する流れが強まりつつある。

【桃源寸評】

 インドなどG4諸国が主張するように国連安全保障理事会(UNSC)の常任理事国を拡大する場合、最大の制度的・政治的障害は「拒否権(veto power)」の扱いである。

 以下に、その問題の構造と改正論の概要を説明する。

 1.現行制度における拒否権の位置づけ

 ・常任理事国(P5:米・英・仏・中・露)のみに付与される特権。

 ・拒否権を行使すれば、理事会の決議は成立しない(手続き事項を除く)。

 ・冷戦期から現在まで、安保理の機能不全の主因とされる。

 2.G4の主張と拒否権に関する基本的立場

 ・インド・ブラジルなどは、将来的な拒否権付与を求める立場を取りつつも、
「当面は拒否権なしでの常任理事国入りを受け入れる」柔軟姿勢を示している。

 ・実際、2005年のG4提案でも「新常任理事国には拒否権を当面付与しない」としていた。

 3.拒否権の拡大に関する現実的な問題点

 ・P5のいずれか1国でも反対すれば、UN憲章改正自体が成立しない(第108条)。

 ・特に中国・ロシア・米国は、新規常任理事国への拒否権付与に強く反対。

 ・拒否権を6〜10か国に拡大すれば、安保理の意思決定がさらに困難になる懸念がある。

 4.代替案・妥協案の例

 (1)段階的導入案

 ・新常任理事国はまず拒否権なしで任命。

 ・一定期間後に見直し機構を設け、拒否権の付与を検討。

 (2)二重多数制案(Double Majority)

 ・拒否権行使を有効にするには、他の常任理事国の一定数の同意が必要とする案。

 ・例:2か国以上が反対しなければ拒否権は成立しない。

 (3)制限付き拒否権案

 ・大量虐殺、人道危機、国連憲章違反への制裁に関する案件では拒否権を制限。

 ・フランスやメキシコが提唱する「自制コード(veto restraint)」案と近い。

5.インドにとっての実利的選択肢

 ・短期的には拒否権を求めない方向で合意を形成し、まず常任理事国入りを果たす。

 ・長期的には拒否権制度の全体的見直しを提唱する多国間外交戦略を展開する。

 ・同時に、他の多国間枠組(G20、BRICS、SCOなど)における影響力拡大を並行して進める。

 フランスとメキシコが提唱している「拒否権自制コード(veto restraint initiative)」は、常任理事国による拒否権の行使を制限することを目的とした自主的な枠組みである。以下にその概要を箇条書きで詳述する。

1.概要

・正式名称

 「拒否権の自制に関する共同提案(Code of Conduct regarding Security Council action against genocide, crimes against humanity or war crimes)」

 ・発案国

 フランスとメキシコ(2013年以降、特に2015年の国連創設70周年を機に強く主張)

 ・対象行為

  国際人道法上の重大犯罪(ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪)

 2.主な提案内容

 ・常任理事国は、重大な大量虐殺などの案件では拒否権を行使しないよう「自制」すべきである。

 ・これは国連憲章の改正を伴わない「自主的な政治的誓約(soft law)」とする。

 ・人道危機下における国際社会の対応の麻痺を防ぐための予防的措置。

 ・拒否権行使の際には、その理由と根拠の透明性を求める。

 3.支持国・現状

 ・2025年現在、100か国以上が支持を表明しているが、安保理常任理事国の中で明確に支持しているのはフランスのみ。

 ・アメリカ、ロシア、中国、イギリスは正式には賛同していない(あるいは沈黙)。

 ・拒否権の正統性や権限の侵害になると懸念されている。

 4.実効性と課題

 ・法的拘束力がないため、実際の拒否権行使を制限するものではない。

 ・道義的圧力や世論形成の効果に期待が寄せられている。

 ・実際にはシリア内戦、ミャンマー問題などで繰り返し拒否権が行使されており、機能していないとの批判も多い。

 5.関連イニシアティブとの違い

 ・ACTグループ(Accountability, Coherence and Transparency)による別案では、拒否権行使に先立ち、国連事務総長または国際調査委員会の意見を求める手続きを推奨している。

 このように、フランス・メキシコ案は制度的改正ではなく、政治的合意と自制に基づく「現実的な妥協策」として位置付けられている。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

India & Russia Are Expected To Responsibly Manage Their Differences Over UNSC Reform Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.04
https://korybko.substack.com/p/india-and-russia-are-expected-to?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=162800492&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email