インドとロシアの間にはUNSC改革に関する見解の違いが存在2025年05月04日 20:19

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【概要】

 内容は、インドとロシアが国連安全保障理事会(UNSC)改革に関して見解の違いを抱えながらも、それを責任ある形で管理していくことが期待されているという主張である。

 インドは、G4と呼ばれるブラジル、ドイツ、日本と共に、国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指している。2025年4月中旬、インドの国連常駐代表であるパルヴァタネニ・ハリシュ大使は、国連の「政府間交渉(IGN)」枠組みの会合において、UNSC改革の必要性を強く訴えた。同大使は、「改革は、国連が現代のグローバルな課題に対応するために必要不可欠であり、現実を反映しない改革を否定する者は歴史の誤った側に立つことになる」と述べた。

 IGNには、G4の他に、常任理事国の拡大に反対し非常任理事国のみの増加を主張する「コンセンサスのための結集(Uniting for Consensus)」、アフリカ連合(AU)、開発途上国で構成されるL69グループ、アラブ連盟、カリブ共同体(CARICOM)などが含まれており、G4の主張は国際社会全体に向けられたものである。

 インドにとってG4との協調は国益にかなっているが、ロシアはドイツと日本の常任理事国入りに反対しており、この点でインドとの立場に違いがある。ロシアは、これら二国が常任理事国となれば、UNSCにおける西側の影響力が強まり、東西のバランスがさらに崩れると主張している。また、ロシアと日本は、北方領土(クリル諸島)問題のために平和条約を締結しておらず、この点も反対の一因となっている。

 客観的に見て、UNSCはすでに東西分裂の影響で機能不全に陥っているとの見方がある。そのため、新たに親西側の常任理事国を加えることは、この不均衡をさらに悪化させる可能性がある。しかしながら、常任理事国の地位は国際的な大国としての認知とみなされることが多く、インドがその地位を望むのは理解できる。特に、2022年以降のロシアの特別軍事作戦を契機に世界秩序が多極化へと急速に移行した中で、インドは「グローバル・サウスの声」としての地位を確立し、新冷戦において中立的立場を維持してきた。こうした背景を踏まえ、インドが常任理事国入りを求めるのは、当然の流れとされる。

 ロシアは、インドおよびブラジルの常任理事国入りには支持を表明しているが、G4の枠組みを壊してまでドイツ・日本抜きでの承認を求める意向はない。また、中国はインドとの国境問題を理由に、インドの常任理事国入りに反対する可能性がある。

 このように、インドとロシアの間にはUNSC改革に関する見解の違いが存在するが、両国は相手の立場を公に批判することなく、対話を通じてその違いを調整していくと予想されている。

 さらに、両国の立場のすり合わせ策として、ロシアはインドに対して、すでに機能不全に陥っているUNSCの常任理事国入りよりも、「I2U2(インド・イスラエル・UAE・米国の枠組み)」のような地域・小規模多国間連携(ミニラテラル)や、BIMSTEC(ベンガル湾イニシアティブ)などの地域機構の強化の方が、現実的かつ効果的に世界秩序の再編に寄与すると説得する可能性がある。このような枠組みの方が、常任理事国入りの長期的な停滞を補う効果があると考えられている。

【詳細】

 1. インドの立場とG4の役割

 インドは国連安全保障理事会(UNSC)の常任理事国入りを強く求めており、その実現に向けてG4(ブラジル、ドイツ、日本、インド)と連携している。G4は、お互いの常任理事国入りを支持する戦略的枠組みであり、国連改革の文脈において最も積極的な立場を取るグループの一つである。

 2025年4月、インドの国連常駐代表であるパルヴァタネニ・ハリシュ大使は、「政府間交渉(Intergovernmental Negotiations, IGN)」の会合において、G4を代表して発言し、UNSC改革の必要性を強調した。彼は、「改革は国連を現代的な役割にふさわしくするものであり、それに反対する者は歴史の誤った側に立つことになる」と述べ、改革を拒否する立場を間接的に批判した。

 2. UNSC改革をめぐる対立する立場

 IGNの場には、以下の主要グループが存在している。

 ・G4(常任理事国の拡大を支持)

 ・Uniting for Consensus(UFC)グループ(非常任理事国の拡大のみを支持。主な国はイタリア、パキスタン、韓国など)

 ・アフリカ連合(AU)

 ・L69(開発途上国の連合)

 ・アラブ連盟

 ・カリブ共同体(CARICOM)

 これらのグループの間で、改革案の方向性は大きく異なっており、合意形成は困難を極めている。

 3. ロシアの立場と懸念

 ロシアは、インドおよびブラジルの常任理事国入りには前向きであるが、ドイツおよび日本の加入については明確に反対の立場を取っている。主な理由は以下の通りである。

 ・西側諸国の影響力の増大への懸念:ドイツと日本は共にアメリカ主導の秩序に深く組み込まれており、常任理事国入りすればUNSCの西側偏重が一層強まる。

 ・ロシア-日本関係の未解決問題:クリル諸島(北方領土)をめぐる領土問題のため、ロシアと日本は依然として第二次世界大戦の講和条約を締結していない。この点からもロシアは日本の常任理事国入りを容認しがたい。

 4. UNSCの機能不全と多極化の現実

 UNSCは、冷戦時代から続く「東西の二極構造」によって、すでに機能不全に陥っていると広く指摘されている。拒否権の行使による決議の停滞や、特定国の国益が議論を支配する構造は、国際社会全体の合意形成を著しく阻害している。

 こうした状況下で、仮に親米・親西側の国を常任理事国に加えれば、構造的な不均衡がさらに拡大し、機能不全は悪化する可能性が高い。この見解はロシアおよび中国の立場と一致しており、とりわけ中国はインドの常任理事国入りにも否定的である。中国とインドの間には国境紛争(ガルワン渓谷を含む)があり、中国は安保理改革を通じてインドの国際的地位を強化することに慎重である。

 5. インドの国際的地位と改革要求の正当性

 それにもかかわらず、インドは多極化が進行する新世界秩序の中で、明確に「グローバル・サウスの声」として台頭している。インドは次のような要素を背景に、常任理事国入りの正当性を主張している。

 ・世界人口の大国(14億人超)

 ・急成長する経済(世界第5位)

 ・中立的な外交(米中両陣営と対話可能なプレイヤー)

 ・国連PKOへの積極的貢献

 ・BRICSやG20での主導的役割

 このような実績を持つインドが常任理事国の地位を得られない現状は、不公正かつ非現実的であると多くの開発途上国も認識している。

 6. ロシアとインドの協調的対話の可能性

 インドとロシアの間には立場の違いがあるものの、両国は直接的な批判を避け、外交的対話を通じて相違点を管理していく姿勢を見せている。このような「相違の管理(managing differences)」は、信頼に基づいた戦略的パートナーシップの一環である。

 7. 代替案としてのミニラテラル外交の強化

 ロシアは、インドが常任理事国入りを果たせない現状に対し、次のような代替的道筋を示す可能性がある:

 ・I2U2(インド・イスラエル・UAE・米国)などの小規模多国間枠組み(ミニラテラル)の強化

 ・BIMSTEC(ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ)やSCO(上海協力機構)など、地域機構の実効性向上

 ・グローバル・サウスとの南南協力の深化

 これらの枠組みは、実際の政策協調や経済統合を通じて世界秩序を再構築する実効的手段であり、形骸化したUNSCよりも現実的な影響力を持ちつつある。

 結論

 インドとロシアは、UNSC改革をめぐって異なる立場に立っているが、相互の国益を尊重しながら、対立を先鋭化させずに対話によって問題を管理する意向を持っている。ロシアは、インドに対し、より柔軟な多国間協調の枠組みに目を向けることを提案する可能性があり、それによってインドの大国としての影響力は、常任理事国入りを待たずとも実質的に拡大し得ると考えられている。
 
【要点】

 1.インドの主張と立場

 ・G4(インド、日本、ドイツ、ブラジル)と共に、UNSC常任理事国入りを目指している。

 ・インドの主張:UNSCは時代遅れであり、現代世界の多極化を反映すべき。

 ・インドは国連PKOへの貢献、人口、経済規模、G20やBRICSでの役割を根拠に改革の正当性を主張。

 ・国連の政府間交渉(IGN)で、「改革に反対する国は歴史の誤った側に立つ」と強く訴えた。

 2.ロシアの立場

 ・インドとブラジルの常任理事国入りには前向きだが、日本とドイツには反対。

 ・反対理由

  ⇨日本・ドイツは米国主導の秩序に組み込まれており、西側偏重の拡大につながる。

  ⇨日本とは領土問題(北方領土)を抱え、信頼関係に欠ける。

 ・UNSC改革には消極的で、既存の勢力均衡を維持したいとの意図がある。

 3.UNSC改革をめぐる主な立場の対立

 ・G4:常任理事国の拡大を支持。

 ・UFC(イタリア、パキスタンなど):常任理事国の拡大に反対、非常任理事国のみ拡大を主張。

 ・アフリカ連合:アフリカからの常任理事国入りを求めるが、G4とはアプローチが異なる。

 ・意見の収束が難しく、改革は停滞している。

 4.ロシアの懸念と戦略的計算

 ・UNSCに西側諸国(特に米国の同盟国)が増えると、対ロ圧力が強まると懸念。

 ・中国もインドの常任理事国入りに消極的で、ロシアと共に現状維持を望む姿勢。

 ・多極化が進む中で、UNSCの形骸化を認識しつつも、自国の拒否権を守りたい意図が強い。

 5.インドの対応と外交姿勢

 ・ロシアを名指しで非難せず、相違点を「管理(managing differences)」する姿勢。

 ・ロシアとの戦略的パートナー関係を維持しつつ、G4やグローバル・サウスとの連携を継続。

 ・改革実現が難しい現状を見据え、他の多国間協力枠組みにも活路を見出している。

 6.代替的な多国間協調の道筋(ミニラテラル外交)

 ・ロシアはインドに対し、次のような枠組み強化を示唆する可能性。

  ⇨I2U2(インド・イスラエル・UAE・米国)

  ⇨SCO(上海協力機構)

  ⇨BIMSTEC(ベンガル湾協力)

 ・UNSCに代わる実効性ある国際協調体制を重視する流れが強まりつつある。

【桃源寸評】

 インドなどG4諸国が主張するように国連安全保障理事会(UNSC)の常任理事国を拡大する場合、最大の制度的・政治的障害は「拒否権(veto power)」の扱いである。

 以下に、その問題の構造と改正論の概要を説明する。

 1.現行制度における拒否権の位置づけ

 ・常任理事国(P5:米・英・仏・中・露)のみに付与される特権。

 ・拒否権を行使すれば、理事会の決議は成立しない(手続き事項を除く)。

 ・冷戦期から現在まで、安保理の機能不全の主因とされる。

 2.G4の主張と拒否権に関する基本的立場

 ・インド・ブラジルなどは、将来的な拒否権付与を求める立場を取りつつも、
「当面は拒否権なしでの常任理事国入りを受け入れる」柔軟姿勢を示している。

 ・実際、2005年のG4提案でも「新常任理事国には拒否権を当面付与しない」としていた。

 3.拒否権の拡大に関する現実的な問題点

 ・P5のいずれか1国でも反対すれば、UN憲章改正自体が成立しない(第108条)。

 ・特に中国・ロシア・米国は、新規常任理事国への拒否権付与に強く反対。

 ・拒否権を6〜10か国に拡大すれば、安保理の意思決定がさらに困難になる懸念がある。

 4.代替案・妥協案の例

 (1)段階的導入案

 ・新常任理事国はまず拒否権なしで任命。

 ・一定期間後に見直し機構を設け、拒否権の付与を検討。

 (2)二重多数制案(Double Majority)

 ・拒否権行使を有効にするには、他の常任理事国の一定数の同意が必要とする案。

 ・例:2か国以上が反対しなければ拒否権は成立しない。

 (3)制限付き拒否権案

 ・大量虐殺、人道危機、国連憲章違反への制裁に関する案件では拒否権を制限。

 ・フランスやメキシコが提唱する「自制コード(veto restraint)」案と近い。

5.インドにとっての実利的選択肢

 ・短期的には拒否権を求めない方向で合意を形成し、まず常任理事国入りを果たす。

 ・長期的には拒否権制度の全体的見直しを提唱する多国間外交戦略を展開する。

 ・同時に、他の多国間枠組(G20、BRICS、SCOなど)における影響力拡大を並行して進める。

 フランスとメキシコが提唱している「拒否権自制コード(veto restraint initiative)」は、常任理事国による拒否権の行使を制限することを目的とした自主的な枠組みである。以下にその概要を箇条書きで詳述する。

1.概要

・正式名称

 「拒否権の自制に関する共同提案(Code of Conduct regarding Security Council action against genocide, crimes against humanity or war crimes)」

 ・発案国

 フランスとメキシコ(2013年以降、特に2015年の国連創設70周年を機に強く主張)

 ・対象行為

  国際人道法上の重大犯罪(ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪)

 2.主な提案内容

 ・常任理事国は、重大な大量虐殺などの案件では拒否権を行使しないよう「自制」すべきである。

 ・これは国連憲章の改正を伴わない「自主的な政治的誓約(soft law)」とする。

 ・人道危機下における国際社会の対応の麻痺を防ぐための予防的措置。

 ・拒否権行使の際には、その理由と根拠の透明性を求める。

 3.支持国・現状

 ・2025年現在、100か国以上が支持を表明しているが、安保理常任理事国の中で明確に支持しているのはフランスのみ。

 ・アメリカ、ロシア、中国、イギリスは正式には賛同していない(あるいは沈黙)。

 ・拒否権の正統性や権限の侵害になると懸念されている。

 4.実効性と課題

 ・法的拘束力がないため、実際の拒否権行使を制限するものではない。

 ・道義的圧力や世論形成の効果に期待が寄せられている。

 ・実際にはシリア内戦、ミャンマー問題などで繰り返し拒否権が行使されており、機能していないとの批判も多い。

 5.関連イニシアティブとの違い

 ・ACTグループ(Accountability, Coherence and Transparency)による別案では、拒否権行使に先立ち、国連事務総長または国際調査委員会の意見を求める手続きを推奨している。

 このように、フランス・メキシコ案は制度的改正ではなく、政治的合意と自制に基づく「現実的な妥協策」として位置付けられている。

【寸評 完】

引用・参照・底本】

India & Russia Are Expected To Responsibly Manage Their Differences Over UNSC Reform Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.04
https://korybko.substack.com/p/india-and-russia-are-expected-to?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=162800492&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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