比の戯れ事 ― 2025年05月26日 10:02
【概要】
2025年5月23日午後4時2分に公開され、2025年5月24日午前1時40分に更新されたGTスタッフ記者による報道によると、中国外務省の毛寧報道官は、中国の度重なる警告にもかかわらず、フィリピンが中国の南沙諸島にあるTiexian Jiaoに繰り返し人員を不法上陸させ、中国の主権を著しく侵害し、南シナ海に関する関係国の行動宣言(DOC)に重大な違反を犯していると述べた。
毛寧報道官は、フィリピンと米国が中国海警局(CCG)のTiexian Jiao付近での法執行活動を誇張していることに対し、中国の対応は完全に必要かつ合法的であると述べた。
CCGの発表によると、水曜日にフィリピン政府の船舶3002と3003が中国政府の許可なく、中国の南沙諸島のズビ礁とTiexian Jiao付近の海域に不法侵入した。フィリピン側はまた、Tiexian Jiaoに人員を不法上陸させ、活動を行った。これに対し、CCGの法執行職員は法に基づき規制措置を実施し、礁上で検査を行い、不法活動の証拠を収集した。
しかし、メアリーケイ・カールソン駐フィリピン米国大使は木曜日、X(旧Twitter)に投稿し、中国海警局がフィリピンの「民間任務」に対し「攻撃的な行動」をとったと主張した。
これに対し、毛寧報道官は、CCGが声明と現場の動画を公開しており、事実がすべてを物語っていると述べた。
フィリピンは、中国の抑止にもかかわらず、中国の南沙諸島の一部であるTiexian Jiaoに繰り返し不法上陸しており、これは中国の主権を著しく侵害し、南シナ海に関する関係国の行動宣言に違反している。
中国の対応は完全に必要かつ合法的である。フィリピンは直ちに侵害活動と挑発を停止する必要がある。さもなければ、中国は断固とした対応をとるであろう。米国はフィリピンを利用して南シナ海で問題を起こすのをやめ、南シナ海の平和と静穏を損なうのをやめるべきであると毛寧報道官は述べた。
木曜日の夜にCCGが公開した関連動画証拠は、CCGの船舶がフィリピンの侵害行為に対し放水銃による警告を使用し、高速ボートを派遣してフィリピンの船舶を追跡および阻止したことを示している。CCG職員はまた、礁に上陸して証拠を収集し、主権を主張するために中国の国旗を掲示した。
動画証拠は、フィリピン船舶3002に対する放水銃による警告中、CCG船舶21559が主にそのメインマスト装置を狙っていたことを示している。
国際戦略学者のヤン・シャオはグローバル・タイムズに対し、フィリピン船舶のメインマストには主に電子機器が装備されていたと述べた。このアプローチは、フィリピン船舶の侵害行為を効果的に阻止し、同時にフィリピンの人員への追加的な被害を最小限に抑えることができる。この対応は、CCGが法に基づきフィリピン船舶に対して取った規制措置が合理的かつ穏健であることを示していると述べた。
【詳細】
南シナ海のTiexian Jiao(中国名:Tiexian Jiao、フィリピン名:サンディ・ケイ)を巡る中国とフィリピンの間の緊張が、2025年5月下旬に再び高まっている。中国は、フィリピンがこの地域で繰り返し主権侵害を行っていると主張し、それに対する中国海警局(CCG)の措置は「必要かつ合法的」であると強調している。
中国側の主張と対応の詳細:
・主権侵害の主張: 中国外務省の毛寧報道官は、フィリピンが中国の南沙諸島の一部であるTiexian Jiaoに、中国の度重なる警告にもかかわらず、繰り返し人員を不法に上陸させていると述べた。これは中国の主権を著しく侵害し、南シナ海に関する関係国の行動宣言(DOC)に重大に違反すると中国は主張している。
・CCGの法執行活動
➢CCGの発表によると、5月22日水曜日にフィリピン政府の船舶3002と3003が、中国政府の許可なく、中国の南沙諸島のズビ礁(中国名:朱庇礁)とTiexian Jiao付近の海域に不法侵入した。
➢フィリピン側はまた、Tiexian Jiaoに人員を不法上陸させ、活動を行った。
➢これに対し、CCGの法執行職員は法に基づき規制措置を実施し、礁上で検査を行い、不法活動の証拠を収集した。
➢CCGは、5月22日の午前9時13分から9時14分頃、フィリピン船舶3002が中国側の度重なる厳重な警告を無視してCCG船舶21559に危険なほど接近し、軽微な衝突が発生したと報告している。CCGは、この衝突の責任はフィリピン側にあるとしている。
・放水銃と高速ボートの使用: CCGが公開した動画証拠には、CCGの船舶がフィリピンの侵害行為に対し放水銃による警告を使用し、高速ボートを派遣してフィリピンの船舶を追跡・阻止する様子が映されている。
・放水銃の目的: CCG船舶21559は、フィリピン船舶3002のメインマスト装置(主に電子機器が装備されている部分)を狙って放水銃を使用した。中国側は、このアプローチがフィリピン船舶の侵害行為を効果的に阻止しつつ、フィリピン人員への追加的な被害を最小限に抑えるものであり、CCGの措置が「合理的かつ穏健」であることを示していると説明している。
・証拠収集と主権主張: CCG職員は礁に上陸し、証拠を収集し、中国の国旗を掲げて主権を主張した。
・米国の関与への警告: 毛寧報道官は、米国がフィリピンを利用して南シナ海で問題を引き起こすのをやめ、南シナ海の平和と静穏を損なうのをやめるべきであると強く求めた。
フィリピン側および米国の反応:
・米国の批判: メアリーケイ・カールソン駐フィリピン米国大使は、CCGの行動がフィリピンの「民間任務」に対し「攻撃的な行動」をとったものであり、「無謀に人命を危険にさらし、地域の安定を脅かしている」と批判した。米国は国際法と自由で開かれたインド太平洋を支持するフィリピンを支持すると表明している。
・フィリピンの主張: フィリピン側は、今回の任務は「定例の科学調査任務」であり、CCGの行動は「侵略的干渉、危険な操船、違法行為」に当たると非難している。また、放水銃による攻撃でフィリピン船舶「BRPダトゥ・サンデイ」の船首と煙突が損傷したと報告している。
背景と文脈:
・Tiexian Jiaoは、南シナ海における領有権問題の係争地の一つであり、中国とフィリピンがそれぞれ自国の領土であると主張している。
・今回の事件は、南シナ海における中国とフィリピンの間の緊張が継続的に高まっている状況の中で発生した。特に、フィリピンがアユンギン礁(中国名:仁愛礁)に座礁させた艦船への補給活動を巡る衝突が頻発している。
・中国は、フィリピンの活動がDOCに違反していると繰り返し主張している。DOCは、係争地における現状維持と、占拠されていない島嶼・礁・砂州への上陸を控えることを加盟国に求めている。
中国は、フィリピンが「侵害活動と挑発」を直ちに停止しなければ、さらに「断固とした対応」をとると警告している。この事件は、南シナ海の領有権問題を巡る地域の安定と、関係国の行動、特に米国の介入が今後の展開に大きな影響を与える可能性を示唆している。
【要点】
中国とフィリピンのTiexian Jiaoを巡る対立の要点
中国外務省の毛寧報道官は、フィリピンのTiexian Jiaoにおける行動に対し、中国の対応は「必要かつ合法的」であると主張している。
・中国の主張
➢フィリピンが、中国の警告にもかかわらず、南沙諸島の一部であるTiexian Jiao(サンディ・ケイ)に繰り返し不法上陸していると主張。
➢これは中国の主権を著しく侵害し、南シナ海に関する関係国の行動宣言(DOC)に重大に違反していると強調。
・中国海警局(CCG)の対応
➢5月22日、フィリピンの船舶3002と3003が、中国の許可なくズビ礁とTiexian Jiao付近の海域に侵入し、人員が不法上陸したと発表。
➢CCGはこれに対し、法に基づき規制措置を実施し、礁上で検査を行い、不法活動の証拠を収集した。
➢公開された動画証拠には、放水銃による警告や、高速ボートによる追跡・阻止、CCG職員による礁への上陸、証拠収集、中国国旗の掲揚が含まれる。
➢放水銃は、フィリピン船舶のメインマスト装置(電子機器装備部)を狙っており、これは侵入を阻止しつつ、人員への被害を最小限に抑える「合理的かつ穏健な」措置であると説明。
・米国の関与に対する中国の警告
➢毛寧報道官は、米国に対し、フィリピンを利用して南シナ海で問題を引き起こすことや、地域の平和と静穏を損なうことを止めるよう要求。
・フィリピンと米国の反応
➢米国はCCGの行動を「攻撃的」と批判し、フィリピンの「民間任務」に対するものだと主張。
➢フィリピンは今回の任務が「定例の科学調査任務」であり、CCGの行動が「侵略的干渉」にあたると非難。
【桃源寸評】💚
フィリピンが、短期的な戦術や、一過性の覇者である米国の力に過度に依存するならば、それは中国の深遠な戦略と歴史的視点の前に、結局は「愚行」として終わるだろう。真の解決は、中国の「論理」の深さを理解し、尊重した上で、長期的な対話を通じてのみ解決を見出すことができる、更に、国際政治の冷徹な現実を理解しなければ、その先の希望を失うことになる。
中国の「論理」の深層: 中国が持つ数千年の歴史と文明、そして「天下」という思想に裏打ちされた「論理」は、単なる近代国際法の解釈を超えた重みを持つ。彼らが自らの行動を「正当」と確信する根拠は、この深い歴史認識にあること。
力の政治の現実: 国際関係は、単なる条約や理想論で動くのではなく、国家の「力」(軍事力、経済力、そして「論理」に裏打ちされた力)と、それに基づく「国益」が常に優先されるということ。
同盟関係の「両刃の剣」: 米国のような大国との同盟は、小国にとって安全保障上の支えとなる一方で、大国の戦略的利益のために「代理」として利用されるリスクをはらんでいること。
「真の対話」の必要性: 表面的な外交対話では、根本的な問題解決には至らないこと。中国のように「言葉と論理の国」である相手と向き合うには、こちらも同様に、歴史と国際法(=理論)に基づいた説得力のある「論理」を構築し、粘り強く、真剣に対話を続けるしかない。
先ず、比よ、中国の門を訪れよ。さらば開かん。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
China's countermeasures against Philippines at Tiexian Jiao necessary, legitimate and lawful: FM GT 2025.05.23
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1334718.shtml
2025年5月23日午後4時2分に公開され、2025年5月24日午前1時40分に更新されたGTスタッフ記者による報道によると、中国外務省の毛寧報道官は、中国の度重なる警告にもかかわらず、フィリピンが中国の南沙諸島にあるTiexian Jiaoに繰り返し人員を不法上陸させ、中国の主権を著しく侵害し、南シナ海に関する関係国の行動宣言(DOC)に重大な違反を犯していると述べた。
毛寧報道官は、フィリピンと米国が中国海警局(CCG)のTiexian Jiao付近での法執行活動を誇張していることに対し、中国の対応は完全に必要かつ合法的であると述べた。
CCGの発表によると、水曜日にフィリピン政府の船舶3002と3003が中国政府の許可なく、中国の南沙諸島のズビ礁とTiexian Jiao付近の海域に不法侵入した。フィリピン側はまた、Tiexian Jiaoに人員を不法上陸させ、活動を行った。これに対し、CCGの法執行職員は法に基づき規制措置を実施し、礁上で検査を行い、不法活動の証拠を収集した。
しかし、メアリーケイ・カールソン駐フィリピン米国大使は木曜日、X(旧Twitter)に投稿し、中国海警局がフィリピンの「民間任務」に対し「攻撃的な行動」をとったと主張した。
これに対し、毛寧報道官は、CCGが声明と現場の動画を公開しており、事実がすべてを物語っていると述べた。
フィリピンは、中国の抑止にもかかわらず、中国の南沙諸島の一部であるTiexian Jiaoに繰り返し不法上陸しており、これは中国の主権を著しく侵害し、南シナ海に関する関係国の行動宣言に違反している。
中国の対応は完全に必要かつ合法的である。フィリピンは直ちに侵害活動と挑発を停止する必要がある。さもなければ、中国は断固とした対応をとるであろう。米国はフィリピンを利用して南シナ海で問題を起こすのをやめ、南シナ海の平和と静穏を損なうのをやめるべきであると毛寧報道官は述べた。
木曜日の夜にCCGが公開した関連動画証拠は、CCGの船舶がフィリピンの侵害行為に対し放水銃による警告を使用し、高速ボートを派遣してフィリピンの船舶を追跡および阻止したことを示している。CCG職員はまた、礁に上陸して証拠を収集し、主権を主張するために中国の国旗を掲示した。
動画証拠は、フィリピン船舶3002に対する放水銃による警告中、CCG船舶21559が主にそのメインマスト装置を狙っていたことを示している。
国際戦略学者のヤン・シャオはグローバル・タイムズに対し、フィリピン船舶のメインマストには主に電子機器が装備されていたと述べた。このアプローチは、フィリピン船舶の侵害行為を効果的に阻止し、同時にフィリピンの人員への追加的な被害を最小限に抑えることができる。この対応は、CCGが法に基づきフィリピン船舶に対して取った規制措置が合理的かつ穏健であることを示していると述べた。
【詳細】
南シナ海のTiexian Jiao(中国名:Tiexian Jiao、フィリピン名:サンディ・ケイ)を巡る中国とフィリピンの間の緊張が、2025年5月下旬に再び高まっている。中国は、フィリピンがこの地域で繰り返し主権侵害を行っていると主張し、それに対する中国海警局(CCG)の措置は「必要かつ合法的」であると強調している。
中国側の主張と対応の詳細:
・主権侵害の主張: 中国外務省の毛寧報道官は、フィリピンが中国の南沙諸島の一部であるTiexian Jiaoに、中国の度重なる警告にもかかわらず、繰り返し人員を不法に上陸させていると述べた。これは中国の主権を著しく侵害し、南シナ海に関する関係国の行動宣言(DOC)に重大に違反すると中国は主張している。
・CCGの法執行活動
➢CCGの発表によると、5月22日水曜日にフィリピン政府の船舶3002と3003が、中国政府の許可なく、中国の南沙諸島のズビ礁(中国名:朱庇礁)とTiexian Jiao付近の海域に不法侵入した。
➢フィリピン側はまた、Tiexian Jiaoに人員を不法上陸させ、活動を行った。
➢これに対し、CCGの法執行職員は法に基づき規制措置を実施し、礁上で検査を行い、不法活動の証拠を収集した。
➢CCGは、5月22日の午前9時13分から9時14分頃、フィリピン船舶3002が中国側の度重なる厳重な警告を無視してCCG船舶21559に危険なほど接近し、軽微な衝突が発生したと報告している。CCGは、この衝突の責任はフィリピン側にあるとしている。
・放水銃と高速ボートの使用: CCGが公開した動画証拠には、CCGの船舶がフィリピンの侵害行為に対し放水銃による警告を使用し、高速ボートを派遣してフィリピンの船舶を追跡・阻止する様子が映されている。
・放水銃の目的: CCG船舶21559は、フィリピン船舶3002のメインマスト装置(主に電子機器が装備されている部分)を狙って放水銃を使用した。中国側は、このアプローチがフィリピン船舶の侵害行為を効果的に阻止しつつ、フィリピン人員への追加的な被害を最小限に抑えるものであり、CCGの措置が「合理的かつ穏健」であることを示していると説明している。
・証拠収集と主権主張: CCG職員は礁に上陸し、証拠を収集し、中国の国旗を掲げて主権を主張した。
・米国の関与への警告: 毛寧報道官は、米国がフィリピンを利用して南シナ海で問題を引き起こすのをやめ、南シナ海の平和と静穏を損なうのをやめるべきであると強く求めた。
フィリピン側および米国の反応:
・米国の批判: メアリーケイ・カールソン駐フィリピン米国大使は、CCGの行動がフィリピンの「民間任務」に対し「攻撃的な行動」をとったものであり、「無謀に人命を危険にさらし、地域の安定を脅かしている」と批判した。米国は国際法と自由で開かれたインド太平洋を支持するフィリピンを支持すると表明している。
・フィリピンの主張: フィリピン側は、今回の任務は「定例の科学調査任務」であり、CCGの行動は「侵略的干渉、危険な操船、違法行為」に当たると非難している。また、放水銃による攻撃でフィリピン船舶「BRPダトゥ・サンデイ」の船首と煙突が損傷したと報告している。
背景と文脈:
・Tiexian Jiaoは、南シナ海における領有権問題の係争地の一つであり、中国とフィリピンがそれぞれ自国の領土であると主張している。
・今回の事件は、南シナ海における中国とフィリピンの間の緊張が継続的に高まっている状況の中で発生した。特に、フィリピンがアユンギン礁(中国名:仁愛礁)に座礁させた艦船への補給活動を巡る衝突が頻発している。
・中国は、フィリピンの活動がDOCに違反していると繰り返し主張している。DOCは、係争地における現状維持と、占拠されていない島嶼・礁・砂州への上陸を控えることを加盟国に求めている。
中国は、フィリピンが「侵害活動と挑発」を直ちに停止しなければ、さらに「断固とした対応」をとると警告している。この事件は、南シナ海の領有権問題を巡る地域の安定と、関係国の行動、特に米国の介入が今後の展開に大きな影響を与える可能性を示唆している。
【要点】
中国とフィリピンのTiexian Jiaoを巡る対立の要点
中国外務省の毛寧報道官は、フィリピンのTiexian Jiaoにおける行動に対し、中国の対応は「必要かつ合法的」であると主張している。
・中国の主張
➢フィリピンが、中国の警告にもかかわらず、南沙諸島の一部であるTiexian Jiao(サンディ・ケイ)に繰り返し不法上陸していると主張。
➢これは中国の主権を著しく侵害し、南シナ海に関する関係国の行動宣言(DOC)に重大に違反していると強調。
・中国海警局(CCG)の対応
➢5月22日、フィリピンの船舶3002と3003が、中国の許可なくズビ礁とTiexian Jiao付近の海域に侵入し、人員が不法上陸したと発表。
➢CCGはこれに対し、法に基づき規制措置を実施し、礁上で検査を行い、不法活動の証拠を収集した。
➢公開された動画証拠には、放水銃による警告や、高速ボートによる追跡・阻止、CCG職員による礁への上陸、証拠収集、中国国旗の掲揚が含まれる。
➢放水銃は、フィリピン船舶のメインマスト装置(電子機器装備部)を狙っており、これは侵入を阻止しつつ、人員への被害を最小限に抑える「合理的かつ穏健な」措置であると説明。
・米国の関与に対する中国の警告
➢毛寧報道官は、米国に対し、フィリピンを利用して南シナ海で問題を引き起こすことや、地域の平和と静穏を損なうことを止めるよう要求。
・フィリピンと米国の反応
➢米国はCCGの行動を「攻撃的」と批判し、フィリピンの「民間任務」に対するものだと主張。
➢フィリピンは今回の任務が「定例の科学調査任務」であり、CCGの行動が「侵略的干渉」にあたると非難。
【桃源寸評】💚
フィリピンが、短期的な戦術や、一過性の覇者である米国の力に過度に依存するならば、それは中国の深遠な戦略と歴史的視点の前に、結局は「愚行」として終わるだろう。真の解決は、中国の「論理」の深さを理解し、尊重した上で、長期的な対話を通じてのみ解決を見出すことができる、更に、国際政治の冷徹な現実を理解しなければ、その先の希望を失うことになる。
中国の「論理」の深層: 中国が持つ数千年の歴史と文明、そして「天下」という思想に裏打ちされた「論理」は、単なる近代国際法の解釈を超えた重みを持つ。彼らが自らの行動を「正当」と確信する根拠は、この深い歴史認識にあること。
力の政治の現実: 国際関係は、単なる条約や理想論で動くのではなく、国家の「力」(軍事力、経済力、そして「論理」に裏打ちされた力)と、それに基づく「国益」が常に優先されるということ。
同盟関係の「両刃の剣」: 米国のような大国との同盟は、小国にとって安全保障上の支えとなる一方で、大国の戦略的利益のために「代理」として利用されるリスクをはらんでいること。
「真の対話」の必要性: 表面的な外交対話では、根本的な問題解決には至らないこと。中国のように「言葉と論理の国」である相手と向き合うには、こちらも同様に、歴史と国際法(=理論)に基づいた説得力のある「論理」を構築し、粘り強く、真剣に対話を続けるしかない。
先ず、比よ、中国の門を訪れよ。さらば開かん。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
China's countermeasures against Philippines at Tiexian Jiao necessary, legitimate and lawful: FM GT 2025.05.23
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1334718.shtml
北朝鮮:先進的な中距離空対空ミサイル(AAM)の公式デビュー ― 2025年05月26日 16:06
【概要】
2025年5月15日、北朝鮮の金正恩総書記が平壌のエリート戦闘機部隊による実弾演習を視察し、新型の空対空ミサイル(AAM)と対地攻撃兵器を検証した。これらの兵器の一部は非作動サンプルであるものの、金正恩総書記の空軍近代化への意欲を示すものであった。この取り組みは、朝鮮人民軍(KPA)空軍の包括的かつ系統的な劣位を克服するものではないが、5月15日の演習で披露された技術は、北朝鮮の陸上防空能力をさらに向上させる可能性がある。高強度戦争においては、陸上防空が平壌の戦闘機よりも、北朝鮮の核兵器破壊を遅らせる上でより重要な役割を果たすと予想されるため、この可能性は見過ごせない。
先進的な空対空ミサイル(AAM)は未完成
2021年の平壌自己防衛展でKCTVの報道に短時間登場した可能性はあるが、5月15日の空軍演習は北朝鮮の先進的な中距離空対空ミサイル(AAM)の公式デビューとなった。このミサイルは、米国のAIM-120や中国のPL-12のような第4世代のレーダー誘導AAMと類似した形状を持つ。以前の世代とは異なり、第4世代レーダー誘導AAMはアクティブレーダーシーカーを備えており、ミサイルのシーカーが目標を捕捉するとすぐに発射機が離脱できるため、戦術的柔軟性と発射機にとっての優位性が大幅に向上する。
しかし、5月15日の演習に関するKCNAの写真の1枚では、金正恩総書記がMiG-29戦闘機の前に立っており、その右舷翼の下に先進的なAAMが装着されている。このミサイルは写真が加工されている(図2)ため、1)北朝鮮がミサイルが完成間近であるか、すでに現役であるかのような印象を与えようとしている、または2)このAAMがまだ比較的初期の開発段階にある可能性が示唆される。
「スズメ」の半島への帰還か?
5月15日の演習中、MiG-29が以前には見られなかった、おそらくより性能の低い中距離AAMを発射した。このAAMもレーダー誘導型と見られ、ミサイル胴体の中央部に大きな三角形の操縦翼を備えており、米国のAIM-7スパローに視覚的に類似している(図3)。
スパローミサイルは、レーダー誘導技術の2世代にわたる開発を経て、1980年代に成熟した。第3世代スパロー、すなわちAIM-7M/P派生型とその外国派生型は、1990年代から2000年代にかけて、AIM-120のような第4世代レーダー誘導ミサイルに徐々に置き換えられるまで、西側空軍の主要な中距離AAMであり続けた。スパローは終始セミアクティブレーダーホーミングミサイルである。この誘導モードでは、発射機のレーダーが発射から命中まで継続的に目標を「照射」し、ミサイルが目標から反射されたレーダー波を追尾する。アクティブレーダーホーミングミサイルと比較して、セミアクティブ型は戦術的優位性が限定的である。
関連するKCNA写真(図3)の信憑性はまだ独自に検証できないが、北朝鮮にとって、より性能の低いレーダー誘導AAMの開発は、そのエンジニアリングと製造要件の相対的な単純さを考慮すると論理的である(図4)。戦術的な制約があるにもかかわらず、第3世代スパローは強力な空対空兵器であることが証明され、1991年の湾岸戦争では50パーセントを超える命中率を達成した。韓国のAIM-7Mミサイルがその発射プラットフォームであるF-4ファントムとともに2024年6月に退役したことを考えると、この「チュチェ・スパロー」が導入される可能性は、AIM-7の血統が半島に興味深い形で帰還することとなる。
中国人民解放軍もスパローの逆設計版であるPL-11 AAMを運用しているため、中国がこの場合の拡散源である可能性もある。しかし、第3世代AIM-7を支える中核技術は40年以上前のものとなり、この「チュチェ・スパロー」が大部分において国産開発である可能性は十分に考えられる。これは特に、北朝鮮のMiG-29がもともとソ連のR-27 AAMを装備しており、そのシーカー技術が第3世代AIM-7とほぼ同等であったことを考えると、より可能性が高い。
展示ホールからの精密滑空爆弾
2種類の国産レーダー誘導AAMに加え、金正恩総書記は2つの誘導滑空爆弾も視察した。1つは衛星測位キットを搭載しているように見え、もう1つは光学終末誘導シーカーを搭載している。衛星誘導爆弾は固定目標への使用を意図している可能性が高いが、終末光学シーカーを搭載した派生型は、精度が向上するだけでなく、発射機からの途中修正コマンドの助けを借りて移動目標(船舶など)を攻撃することも可能かもしれない。
しかし、2つの爆弾に記されたシリアルナンバーは、2024年5月に国防科学院の展示ホールで金正恩総書記に以前に展示されたものと同一のサンプルである可能性が非常に高いことを示唆している(図5)。これは、これらの空中発射対地攻撃弾薬がまだ作動可能ではないことを示しているが、5月15日の演習では、KCNAが「適用試験」と表現した形で、北朝鮮のサエビョル-9ドローンによって空輸された可能性がある。
これらの非作動サンプルがAIM-120/PL-12型AAMと並べて配置されていたことは、展示された先進的なAAMもまだ配備準備ができていないという評価をさらに裏付ける。
技術的含意と将来の可能性
5月15日の演習は、北朝鮮の金正恩総書記が老朽化した陳腐な空軍を可能な限り近代化しようとする意欲を改めて示した。これらの近代化の取り組み(最近の空中早期警戒機や大型監視ドローンの開発も含む)は、平時の北朝鮮の防空および監視能力を潜在的に向上させる可能性がある。
西側諸国から供給された誘導爆弾により、ウクライナ軍のMiG-29は最前線沿いのロシア目標に対する攻撃を効果的に実行してきた。しかし、ウクライナでの戦争は主にほぼ同等の戦力を持つ紛争である。半島における従来の軍事能力の差を考慮すると、北朝鮮のMiGが国産誘導爆弾でそのような攻撃を効果的に実行できるかについては疑問が残る。
第3世代のセミアクティブレーダーホーミングAAMの発射は、北朝鮮が並行開発アプローチを採用しており、より先進的なプロジェクトのフェイルセーフとして、低性能のプロジェクトが機能していることを示唆している。国産のセミアクティブレーダーホーミングミサイルは、MiG-29の老朽化したR-27 AAMを置き換え、潜在的に信頼性を向上させる可能性もある。
セミアクティブレーダーホーミングAAMは、韓国(ROK)と在韓米軍(USFK)空軍が広く使用しているAIM-120には劣るものの、セミアクティブレーダーホーミングAAMで武装したMiGは、要求の低い防空任務を依然として遂行できる可能性がある。実際、5月15日の演習の大部分は、「異なる方向から攻撃してくる敵の巡航ミサイルや自爆ドローンを探知、追尾、破壊する対空任務」に重点が置かれていた。この比較的現実的な設定は、平壌の軍事指導部が戦闘機部隊の深刻な不備を認識していることを示唆している。
北朝鮮のアクティブレーダーシーカーAAMが近い将来に運用開始されたとしても、また平壌がロシアから先進的な戦闘機やその他の軍事援助を受けたとしても、韓国と在韓米軍空軍は依然として包括的かつ系統的な優位性を享受するだろう。平壌が韓国と同盟軍の空軍を圧倒する唯一の方法は、地上の敵資産を破壊する核攻撃であることに変わりはない。
セミアクティブレーダーホーミング誘導に関連する欠点は、地対空ミサイル(SAM)や艦対空ミサイル(SAM)でははるかに重要性が低い。AIM-7の技術は、大成功を収めたRIM-7シースパローやRIM-162 ESSM(進化したシースパローミサイル)の基礎を形成した一方、中国は同様の技術を利用して、重要地点や施設を保護するためのHQ-6Aミサイル銃短距離防空複合体を構築した(図6)。一方、AIM-120は、高評価を得ているNASAMS(国家先進地対空ミサイルシステム)の主要ミサイルとして機能する。理論的には、北朝鮮は同様の経路をたどって、すでにいくつかの顕著な技術的進歩が見られた陸上防空全体を強化できるかもしれない。高強度戦争においては、陸上防空が北朝鮮の戦闘機よりも、核資産の破壊を遅らせる上ではるかに重要な役割を果たすだろう。
【詳細】
2025年5月15日の北朝鮮の航空演習に関する報道は、同国の兵器開発、特に空軍と防空能力の近代化に向けた具体的な動きを浮き彫りにした。ここでは、その詳細を項目別に深掘りする。
先進的な空対空ミサイル(AAM)の現状と課題
北朝鮮が「先進的な」と称する中距離空対空ミサイルは、その外見から米国のAIM-120 AMRAAMや中国のPL-12に似ていると指摘されている。これらのミサイルは「アクティブレーダーシーカー」を搭載している点で、それ以前の世代とは一線を画す。アクティブレーダーシーカーとは、ミサイル自体が目標探知用のレーダーを備えているため、発射母機はミサイル発射後に目標へのレーダー照射を継続する必要がなく、すぐに他の任務に移行したり、危険空域から離脱したりできるという戦術的な利点がある。これを「発射後忘却(fire-and-forget)」能力と呼ぶ。
しかし、公開された写真では、このミサイルがMiG-29に搭載された画像がフォトショップで加工されている点が注目される。これは、北朝鮮がこのミサイルの開発状況を誇張している可能性を示唆している。具体的には、ミサイルがまだ開発の初期段階にあるか、あるいは技術的な課題に直面しており、実戦配備には至っていないことを示唆している。写真加工の試みは、内部向けには「完成間近」の印象を与え、外部向けには技術力を誇示する目的があると考えられる。
「チュチェ・スパロー」の登場とその意味
今回、MiG-29から発射されたとされる別の中距離AAMは、米国のAIM-7スパローに視覚的に類似していることから、「チュチェ・スパロー」と非公式に呼ばれている。スパローは「セミアクティブレーダーホーミング(SARH)」方式を採用している。これは、発射母機が目標をレーダーで継続的に照射し続け、ミサイルはその目標から反射されたレーダー波を追尾して飛翔する方式である。この方式は、アクティブレーダーシーカー方式に比べて、発射母機が目標のレーダー照射を維持する必要があるため、戦術的柔軟性に劣る。しかし、スパローの設計はAIM-120のような最新のAAMに比べて比較的単純であるため、北朝鮮が自力で開発する上での技術的ハードルは低いと考えられる。
過去に中国がスパローの逆設計版であるPL-11を運用していた事実から、中国からの技術移転の可能性も指摘されている。しかし、スパローの核となる技術は40年以上前のものであり、北朝鮮のMiG-29がもともと装備していたソ連製のR-27 AAMのシーカー技術がスパローの第3世代とほぼ同等である点を考慮すると、この「チュチェ・スパロー」が大部分において北朝鮮の独自開発である可能性も十分に考えられる。韓国が2024年6月にF-4ファントムと共にAIM-7Mミサイルを退役させたことを考えると、この「チュチェ・スパロー」の登場は、半島におけるAIM-7系列ミサイルの「帰還」という興味深い状況を招く。
戦術的な制約があるとはいえ、第3世代のスパローは1991年の湾岸戦争で50%以上の命中率を達成しており、依然として有効な空対空兵器である。北朝鮮のMiG-29に搭載されれば、老朽化したR-27 AAMを置き換え、信頼性の向上に寄与する可能性がある。
精密誘導滑空爆弾のデモンストレーション
金正恩総書記が視察した精密誘導滑空爆弾は2種類あり、1つは衛星測位システム(GPSなど)を搭載した型、もう1つは光学終末誘導シーカーを備えた型であった。衛星誘導型は固定目標への攻撃に適しており、光学シーカー型はより高い精度を提供し、発射機からの途中修正コマンドがあれば移動目標(船舶など)も攻撃できる可能性がある。
しかし、これらの爆弾にはシリアルナンバーが記されており、それが2024年5月に国防科学院の展示ホールで披露されたサンプルと同一であることが判明した。この事実は、これらの空中発射対地攻撃兵器がまだ作戦能力を有していないことを示唆している。ただし、KCNAの報道によれば、5月15日の演習では北朝鮮のSaetbyol-9ドローンによって「適用試験」として空中輸送された可能性が示唆されており、これは開発の進捗を示唆するものではある。
技術的含意と北朝鮮空軍の限界
今回の演習で披露された一連の兵器は、北朝鮮が老朽化した空軍の近代化を追求する意思を明確に示している。これには、最近開発が報じられた空中早期警戒機や大型監視ドローンも含まれる。これらの近代化努力は、平時の航空警察活動や監視能力を向上させる可能性を秘めている。
しかし、ウクライナでの戦争ではウクライナ軍のMiG-29が西側供与の誘導爆弾でロシア軍目標を攻撃したが、これはほぼ同等の軍事力を持つ紛争である。朝鮮半島における圧倒的な通常戦力差を考慮すると、北朝鮮のMiGが国産誘導爆弾で同様の攻撃を効果的に実行できるかは疑問視される。
北朝鮮がセミアクティブレーダーホーミングAAMを開発していることは、より高度な(アクティブレーダーホーミング)プロジェクトに対する代替案として、比較的リスクの低い並行開発アプローチを採用していることを示唆している。北朝鮮の軍事指導部は、自国の戦闘機部隊が抱える深刻な限界を認識しているようで、5月15日の演習の大部分が「異なる方向から攻撃してくる敵の巡航ミサイルや自爆ドローンを探知、追尾、破壊する対空任務」に重点を置いていたことからも、その現実的な認識がうかがえる。
たとえ北朝鮮のアクティブレーダーシーカーAAMが近い将来に実戦配備されたとしても、また北朝鮮がロシアから高度な戦闘機や軍事支援を受けたとしても、韓国と在韓米軍の空軍は依然として包括的かつ系統的な優位性を享受するだろう。平壌が韓国と同盟軍の空軍を圧倒する唯一の方法は、地上の敵資産を破壊する核攻撃であるという見方は変わらない。
地対空ミサイル(SAM)への応用と防空の重要性
セミアクティブレーダーホーミング誘導の欠点は、**地対空ミサイル(SAM)や艦対空ミサイル(SAM)**においては、戦闘機搭載AAMほど重大ではない。AIM-7スパローの技術は、RIM-7シースパローやRIM-162 ESSM(進化したシースパローミサイル)のような成功したミサイルの基礎となり、中国も同様の技術でHQ-6Aミサイル銃短距離防空複合体を構築している。一方、AIM-120は、有名なNASAMSの主ミサイルとして機能する。
理論的には、北朝鮮は同様の経路をたどって、その陸上防空能力を強化できる可能性がある。この分野は、すでにいくつかの注目すべき技術的進歩が見られる。高強度戦争において、北朝鮮の核資産の破壊を遅らせる上で、陸上防空は戦闘機よりもはるかに重要な役割を果たすと予想されるため、この分野の動向は極めて重要である。
【要点】
北朝鮮の2025年5月15日の航空演習における主な観察事項と含意は以下の通りである。
空軍近代化への意欲
・金正恩総書記の視察: 北朝鮮の金正恩総書記が直接視察したことで、老朽化した空軍の近代化に対する強い意思が示された。
・新兵器の披露: 新型の空対空ミサイル(AAM)や対地攻撃兵器が公開され、開発への注力がうかがえる。
先進的な空対空ミサイル(AAM)
・「先進的な中距離AAM」のデビュー: 米国のAIM-120や中国のPL-12に類似した外見を持つミサイルが公式に登場した。
・アクティブレーダーシーカー: ミサイル自体がレーダーを持つことで、発射後忘却(fire-and-forget)能力を持つと見られる。
・写真加工の可能性: MiG-29に搭載された画像が加工されていることから、開発が初期段階であるか、実戦配備には至っていない可能性が示唆される。
「チュチェ・スパロー」の登場
・AIM-7スパロー類似のAAM: より性能の低い中距離AAMが発射され、米国のAIM-7スパローに視覚的に類似している。
・セミアクティブレーダーホーミング(SARH): 発射母機が目標を継続的にレーダー照射する必要がある方式。
・国産開発の可能性: 技術的単純さや旧ソ連製R-27 AAMの技術水準から、大部分が北朝鮮の独自開発である可能性が高い。
・戦術的意義: 戦術的制約はあるが、既存の老朽化したR-27 AAMを置き換え、信頼性向上に寄与する可能性がある。
精密誘導滑空爆弾
・2種類の披露: 衛星測位システム搭載型と光学終末誘導シーカー搭載型が公開された。
・非作戦能力: 爆弾のシリアルナンバーから、2024年5月の展示品と同一と見られ、まだ作戦能力を有していない可能性が高い。
・適用試験: KCNAの報道によれば、Saetbyol-9ドローンによって「適用試験」が行われたとされる。
技術的含意と限界
・並行開発アプローチ: 高度なAAMと並行して、比較的技術的ハードルの低いセミアクティブレーダーホーミングミサイルを開発している。
・空軍の劣位: 米韓連合空軍に対する北朝鮮空軍の包括的・系統的な劣位は依然として大きく、ミグ機による対地攻撃の効果は限定的と見られる。
・現実的な認識: 5月15日の演習が「巡航ミサイルや自爆ドローンに対する対空任務」に重点を置いていたことから、北朝鮮が自国の戦闘機部隊の限界を認識していることが示唆される。
・核攻撃への依存: 陸上防空の強化は進んでいるものの、米韓連合空軍を圧倒する唯一の方法は、地上の敵資産を破壊する核攻撃であるという見方は変わらない。
防空能力への応用
・SAMへの応用: セミアクティブレーダーホーミング技術は、地対空ミサイル(SAM)や艦対空ミサイル(SAM)においてより有効に活用できる。
・陸上防空の重要性: 高強度戦争においては、北朝鮮の戦闘機よりも陸上防空が核資産の破壊を遅らせる上でより重要な役割を果たすと予想される。
【桃源寸評】💚
北朝鮮が本質的に核兵器の使用を辞さないという見方は、彼らの軍事ドクトリンとこれまでの行動から強く示唆される。北朝鮮にとって核兵器は、まさに「蜂の一刺し」・「窮鼠猫を噛む」という比喩が当てはまる、体制存続のための究極の抑止力であり、最後の手段と位置づけられていると考えられる。
核兵器が持つ意味
北朝鮮は、通常戦力において韓国と米国の同盟軍に圧倒的な劣位に立っていることを認識している。この非対称性を是正し、自国の安全保障を確保するために、核兵器開発を最優先事項として追求してきた。彼らにとって核兵器は以下の意味を持つ。
・体制の保証: 外部からの攻撃、特に体制転換を目的とした攻撃を阻止するための最終的な保険。
・抑止力: 圧倒的な通常戦力を持つ敵対勢力に対して、侵攻や全面戦争を思いとどまらせるための最も強力な手段。
・交渉の切り札: 国際社会との交渉において、優位な立場を築くための強力なカード。
・核兵器使用の可能性
前述の分析でも触れられているように、「平壌が韓国と同盟軍の空軍を圧倒する唯一の方法は、地上の敵資産を破壊する核攻撃である」という認識は、北朝鮮の戦略的思考を反映している可能性が高い。これは、通常兵器では勝ち目のない状況において、核兵器の使用が選択肢として排除されていないことを示唆する。
ただし、核兵器の使用は、北朝鮮自身にとっても壊滅的な結果を招く「相互確証破壊(MAD)」のリスクを伴う。そのため、実際の使用は極めて切迫した状況、例えば体制が崩壊の危機に瀕した場合や、大規模な侵攻を受けた場合などに限定されると見られている。核兵器の存在自体が、彼らの安全保障上の「レッドライン」を守るためのものであるという解釈もできるだろう。
このように、北朝鮮の核兵器は、彼らの生存戦略の中核をなすものであり、その使用を排除しないという姿勢は、彼らの防衛ドクトリンの根幹にあると考えられる。
北朝鮮の視点から見た核放棄の困難さ
(1)北朝鮮が核兵器を手放すことに強く抵抗する理由は、以下の点に集約される。
・非対称な通常戦力: 前述の通り、北朝鮮は通常兵器の面で韓国と米国の同盟軍に圧倒的な劣位にある。もし核兵器がなければ、彼らはこの軍事的なギャップを埋める手段を失い、米韓からの潜在的な脅威に対して脆弱になると考えている。
・体制保証の欠如: 北朝鮮は、リビアのカダフィ政権やイラクのフセイン政権など、核兵器を放棄したり開発を中断したりした後に国際社会からの圧力を受け、最終的に政権が崩壊した例を強く意識しているとされる。彼らは、核兵器こそが自国の体制存続を保証する唯一の手段だと信じている。
・「敵対政策」の認識: 北朝鮮は、米国が自国に対して「敵対政策」を維持していると主張しており、核兵器はその「敵対政策」から身を守るための正当な自衛手段であると主張している。核放棄は、この「敵対政策」に対して自らを無防備にすることに等しいと捉えている。
・交渉力の喪失: 核兵器は、北朝鮮が国際社会、特に米国との交渉において、限られた資源の中で最大限の影響力を行使するための唯一の切り札である。これを放棄すれば、彼らの交渉力は著しく低下し、一方的に要求を突きつけられる立場になると懸念している。
(2)「丸裸」という認識
・この「丸裸」という表現は、北朝鮮が核兵器を単なる兵器としてではなく、自国の生存と主権を守るための究極の盾として捉えていることを端的に表している。彼らにとって、核兵器は単なる軍事力の一部ではなく、国家のアイデンティティと安全保障の根幹をなすものと化している。
・このような認識がある限り、国際社会が北朝鮮に核放棄を求めることは、彼らにとっては自らの「命綱」を差し出すことを要求されるに等しく、極めて困難な課題であると言える。核放棄を促すためには、北朝鮮が核兵器なしでも体制の安全が保証されるという明確で信頼できる保証を、国際社会、特に米国が提供する必要がある。しかし、その保証がどのような形であれば北朝鮮が納得するのか、また、その保証を米国がどこまで提供できるのか、という点で大きな隔たりがあるのが現状である。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Sparrow Returns to the Peninsula: Observations on North Korea’s May 15 Air Drills GT 2025.05.22
https://www.38north.org/2025/05/sparrow-returns-to-the-peninsula-observations-on-north-koreas-may-15-air-drills/
2025年5月15日、北朝鮮の金正恩総書記が平壌のエリート戦闘機部隊による実弾演習を視察し、新型の空対空ミサイル(AAM)と対地攻撃兵器を検証した。これらの兵器の一部は非作動サンプルであるものの、金正恩総書記の空軍近代化への意欲を示すものであった。この取り組みは、朝鮮人民軍(KPA)空軍の包括的かつ系統的な劣位を克服するものではないが、5月15日の演習で披露された技術は、北朝鮮の陸上防空能力をさらに向上させる可能性がある。高強度戦争においては、陸上防空が平壌の戦闘機よりも、北朝鮮の核兵器破壊を遅らせる上でより重要な役割を果たすと予想されるため、この可能性は見過ごせない。
先進的な空対空ミサイル(AAM)は未完成
2021年の平壌自己防衛展でKCTVの報道に短時間登場した可能性はあるが、5月15日の空軍演習は北朝鮮の先進的な中距離空対空ミサイル(AAM)の公式デビューとなった。このミサイルは、米国のAIM-120や中国のPL-12のような第4世代のレーダー誘導AAMと類似した形状を持つ。以前の世代とは異なり、第4世代レーダー誘導AAMはアクティブレーダーシーカーを備えており、ミサイルのシーカーが目標を捕捉するとすぐに発射機が離脱できるため、戦術的柔軟性と発射機にとっての優位性が大幅に向上する。
しかし、5月15日の演習に関するKCNAの写真の1枚では、金正恩総書記がMiG-29戦闘機の前に立っており、その右舷翼の下に先進的なAAMが装着されている。このミサイルは写真が加工されている(図2)ため、1)北朝鮮がミサイルが完成間近であるか、すでに現役であるかのような印象を与えようとしている、または2)このAAMがまだ比較的初期の開発段階にある可能性が示唆される。
「スズメ」の半島への帰還か?
5月15日の演習中、MiG-29が以前には見られなかった、おそらくより性能の低い中距離AAMを発射した。このAAMもレーダー誘導型と見られ、ミサイル胴体の中央部に大きな三角形の操縦翼を備えており、米国のAIM-7スパローに視覚的に類似している(図3)。
スパローミサイルは、レーダー誘導技術の2世代にわたる開発を経て、1980年代に成熟した。第3世代スパロー、すなわちAIM-7M/P派生型とその外国派生型は、1990年代から2000年代にかけて、AIM-120のような第4世代レーダー誘導ミサイルに徐々に置き換えられるまで、西側空軍の主要な中距離AAMであり続けた。スパローは終始セミアクティブレーダーホーミングミサイルである。この誘導モードでは、発射機のレーダーが発射から命中まで継続的に目標を「照射」し、ミサイルが目標から反射されたレーダー波を追尾する。アクティブレーダーホーミングミサイルと比較して、セミアクティブ型は戦術的優位性が限定的である。
関連するKCNA写真(図3)の信憑性はまだ独自に検証できないが、北朝鮮にとって、より性能の低いレーダー誘導AAMの開発は、そのエンジニアリングと製造要件の相対的な単純さを考慮すると論理的である(図4)。戦術的な制約があるにもかかわらず、第3世代スパローは強力な空対空兵器であることが証明され、1991年の湾岸戦争では50パーセントを超える命中率を達成した。韓国のAIM-7Mミサイルがその発射プラットフォームであるF-4ファントムとともに2024年6月に退役したことを考えると、この「チュチェ・スパロー」が導入される可能性は、AIM-7の血統が半島に興味深い形で帰還することとなる。
中国人民解放軍もスパローの逆設計版であるPL-11 AAMを運用しているため、中国がこの場合の拡散源である可能性もある。しかし、第3世代AIM-7を支える中核技術は40年以上前のものとなり、この「チュチェ・スパロー」が大部分において国産開発である可能性は十分に考えられる。これは特に、北朝鮮のMiG-29がもともとソ連のR-27 AAMを装備しており、そのシーカー技術が第3世代AIM-7とほぼ同等であったことを考えると、より可能性が高い。
展示ホールからの精密滑空爆弾
2種類の国産レーダー誘導AAMに加え、金正恩総書記は2つの誘導滑空爆弾も視察した。1つは衛星測位キットを搭載しているように見え、もう1つは光学終末誘導シーカーを搭載している。衛星誘導爆弾は固定目標への使用を意図している可能性が高いが、終末光学シーカーを搭載した派生型は、精度が向上するだけでなく、発射機からの途中修正コマンドの助けを借りて移動目標(船舶など)を攻撃することも可能かもしれない。
しかし、2つの爆弾に記されたシリアルナンバーは、2024年5月に国防科学院の展示ホールで金正恩総書記に以前に展示されたものと同一のサンプルである可能性が非常に高いことを示唆している(図5)。これは、これらの空中発射対地攻撃弾薬がまだ作動可能ではないことを示しているが、5月15日の演習では、KCNAが「適用試験」と表現した形で、北朝鮮のサエビョル-9ドローンによって空輸された可能性がある。
これらの非作動サンプルがAIM-120/PL-12型AAMと並べて配置されていたことは、展示された先進的なAAMもまだ配備準備ができていないという評価をさらに裏付ける。
技術的含意と将来の可能性
5月15日の演習は、北朝鮮の金正恩総書記が老朽化した陳腐な空軍を可能な限り近代化しようとする意欲を改めて示した。これらの近代化の取り組み(最近の空中早期警戒機や大型監視ドローンの開発も含む)は、平時の北朝鮮の防空および監視能力を潜在的に向上させる可能性がある。
西側諸国から供給された誘導爆弾により、ウクライナ軍のMiG-29は最前線沿いのロシア目標に対する攻撃を効果的に実行してきた。しかし、ウクライナでの戦争は主にほぼ同等の戦力を持つ紛争である。半島における従来の軍事能力の差を考慮すると、北朝鮮のMiGが国産誘導爆弾でそのような攻撃を効果的に実行できるかについては疑問が残る。
第3世代のセミアクティブレーダーホーミングAAMの発射は、北朝鮮が並行開発アプローチを採用しており、より先進的なプロジェクトのフェイルセーフとして、低性能のプロジェクトが機能していることを示唆している。国産のセミアクティブレーダーホーミングミサイルは、MiG-29の老朽化したR-27 AAMを置き換え、潜在的に信頼性を向上させる可能性もある。
セミアクティブレーダーホーミングAAMは、韓国(ROK)と在韓米軍(USFK)空軍が広く使用しているAIM-120には劣るものの、セミアクティブレーダーホーミングAAMで武装したMiGは、要求の低い防空任務を依然として遂行できる可能性がある。実際、5月15日の演習の大部分は、「異なる方向から攻撃してくる敵の巡航ミサイルや自爆ドローンを探知、追尾、破壊する対空任務」に重点が置かれていた。この比較的現実的な設定は、平壌の軍事指導部が戦闘機部隊の深刻な不備を認識していることを示唆している。
北朝鮮のアクティブレーダーシーカーAAMが近い将来に運用開始されたとしても、また平壌がロシアから先進的な戦闘機やその他の軍事援助を受けたとしても、韓国と在韓米軍空軍は依然として包括的かつ系統的な優位性を享受するだろう。平壌が韓国と同盟軍の空軍を圧倒する唯一の方法は、地上の敵資産を破壊する核攻撃であることに変わりはない。
セミアクティブレーダーホーミング誘導に関連する欠点は、地対空ミサイル(SAM)や艦対空ミサイル(SAM)でははるかに重要性が低い。AIM-7の技術は、大成功を収めたRIM-7シースパローやRIM-162 ESSM(進化したシースパローミサイル)の基礎を形成した一方、中国は同様の技術を利用して、重要地点や施設を保護するためのHQ-6Aミサイル銃短距離防空複合体を構築した(図6)。一方、AIM-120は、高評価を得ているNASAMS(国家先進地対空ミサイルシステム)の主要ミサイルとして機能する。理論的には、北朝鮮は同様の経路をたどって、すでにいくつかの顕著な技術的進歩が見られた陸上防空全体を強化できるかもしれない。高強度戦争においては、陸上防空が北朝鮮の戦闘機よりも、核資産の破壊を遅らせる上ではるかに重要な役割を果たすだろう。
【詳細】
2025年5月15日の北朝鮮の航空演習に関する報道は、同国の兵器開発、特に空軍と防空能力の近代化に向けた具体的な動きを浮き彫りにした。ここでは、その詳細を項目別に深掘りする。
先進的な空対空ミサイル(AAM)の現状と課題
北朝鮮が「先進的な」と称する中距離空対空ミサイルは、その外見から米国のAIM-120 AMRAAMや中国のPL-12に似ていると指摘されている。これらのミサイルは「アクティブレーダーシーカー」を搭載している点で、それ以前の世代とは一線を画す。アクティブレーダーシーカーとは、ミサイル自体が目標探知用のレーダーを備えているため、発射母機はミサイル発射後に目標へのレーダー照射を継続する必要がなく、すぐに他の任務に移行したり、危険空域から離脱したりできるという戦術的な利点がある。これを「発射後忘却(fire-and-forget)」能力と呼ぶ。
しかし、公開された写真では、このミサイルがMiG-29に搭載された画像がフォトショップで加工されている点が注目される。これは、北朝鮮がこのミサイルの開発状況を誇張している可能性を示唆している。具体的には、ミサイルがまだ開発の初期段階にあるか、あるいは技術的な課題に直面しており、実戦配備には至っていないことを示唆している。写真加工の試みは、内部向けには「完成間近」の印象を与え、外部向けには技術力を誇示する目的があると考えられる。
「チュチェ・スパロー」の登場とその意味
今回、MiG-29から発射されたとされる別の中距離AAMは、米国のAIM-7スパローに視覚的に類似していることから、「チュチェ・スパロー」と非公式に呼ばれている。スパローは「セミアクティブレーダーホーミング(SARH)」方式を採用している。これは、発射母機が目標をレーダーで継続的に照射し続け、ミサイルはその目標から反射されたレーダー波を追尾して飛翔する方式である。この方式は、アクティブレーダーシーカー方式に比べて、発射母機が目標のレーダー照射を維持する必要があるため、戦術的柔軟性に劣る。しかし、スパローの設計はAIM-120のような最新のAAMに比べて比較的単純であるため、北朝鮮が自力で開発する上での技術的ハードルは低いと考えられる。
過去に中国がスパローの逆設計版であるPL-11を運用していた事実から、中国からの技術移転の可能性も指摘されている。しかし、スパローの核となる技術は40年以上前のものであり、北朝鮮のMiG-29がもともと装備していたソ連製のR-27 AAMのシーカー技術がスパローの第3世代とほぼ同等である点を考慮すると、この「チュチェ・スパロー」が大部分において北朝鮮の独自開発である可能性も十分に考えられる。韓国が2024年6月にF-4ファントムと共にAIM-7Mミサイルを退役させたことを考えると、この「チュチェ・スパロー」の登場は、半島におけるAIM-7系列ミサイルの「帰還」という興味深い状況を招く。
戦術的な制約があるとはいえ、第3世代のスパローは1991年の湾岸戦争で50%以上の命中率を達成しており、依然として有効な空対空兵器である。北朝鮮のMiG-29に搭載されれば、老朽化したR-27 AAMを置き換え、信頼性の向上に寄与する可能性がある。
精密誘導滑空爆弾のデモンストレーション
金正恩総書記が視察した精密誘導滑空爆弾は2種類あり、1つは衛星測位システム(GPSなど)を搭載した型、もう1つは光学終末誘導シーカーを備えた型であった。衛星誘導型は固定目標への攻撃に適しており、光学シーカー型はより高い精度を提供し、発射機からの途中修正コマンドがあれば移動目標(船舶など)も攻撃できる可能性がある。
しかし、これらの爆弾にはシリアルナンバーが記されており、それが2024年5月に国防科学院の展示ホールで披露されたサンプルと同一であることが判明した。この事実は、これらの空中発射対地攻撃兵器がまだ作戦能力を有していないことを示唆している。ただし、KCNAの報道によれば、5月15日の演習では北朝鮮のSaetbyol-9ドローンによって「適用試験」として空中輸送された可能性が示唆されており、これは開発の進捗を示唆するものではある。
技術的含意と北朝鮮空軍の限界
今回の演習で披露された一連の兵器は、北朝鮮が老朽化した空軍の近代化を追求する意思を明確に示している。これには、最近開発が報じられた空中早期警戒機や大型監視ドローンも含まれる。これらの近代化努力は、平時の航空警察活動や監視能力を向上させる可能性を秘めている。
しかし、ウクライナでの戦争ではウクライナ軍のMiG-29が西側供与の誘導爆弾でロシア軍目標を攻撃したが、これはほぼ同等の軍事力を持つ紛争である。朝鮮半島における圧倒的な通常戦力差を考慮すると、北朝鮮のMiGが国産誘導爆弾で同様の攻撃を効果的に実行できるかは疑問視される。
北朝鮮がセミアクティブレーダーホーミングAAMを開発していることは、より高度な(アクティブレーダーホーミング)プロジェクトに対する代替案として、比較的リスクの低い並行開発アプローチを採用していることを示唆している。北朝鮮の軍事指導部は、自国の戦闘機部隊が抱える深刻な限界を認識しているようで、5月15日の演習の大部分が「異なる方向から攻撃してくる敵の巡航ミサイルや自爆ドローンを探知、追尾、破壊する対空任務」に重点を置いていたことからも、その現実的な認識がうかがえる。
たとえ北朝鮮のアクティブレーダーシーカーAAMが近い将来に実戦配備されたとしても、また北朝鮮がロシアから高度な戦闘機や軍事支援を受けたとしても、韓国と在韓米軍の空軍は依然として包括的かつ系統的な優位性を享受するだろう。平壌が韓国と同盟軍の空軍を圧倒する唯一の方法は、地上の敵資産を破壊する核攻撃であるという見方は変わらない。
地対空ミサイル(SAM)への応用と防空の重要性
セミアクティブレーダーホーミング誘導の欠点は、**地対空ミサイル(SAM)や艦対空ミサイル(SAM)**においては、戦闘機搭載AAMほど重大ではない。AIM-7スパローの技術は、RIM-7シースパローやRIM-162 ESSM(進化したシースパローミサイル)のような成功したミサイルの基礎となり、中国も同様の技術でHQ-6Aミサイル銃短距離防空複合体を構築している。一方、AIM-120は、有名なNASAMSの主ミサイルとして機能する。
理論的には、北朝鮮は同様の経路をたどって、その陸上防空能力を強化できる可能性がある。この分野は、すでにいくつかの注目すべき技術的進歩が見られる。高強度戦争において、北朝鮮の核資産の破壊を遅らせる上で、陸上防空は戦闘機よりもはるかに重要な役割を果たすと予想されるため、この分野の動向は極めて重要である。
【要点】
北朝鮮の2025年5月15日の航空演習における主な観察事項と含意は以下の通りである。
空軍近代化への意欲
・金正恩総書記の視察: 北朝鮮の金正恩総書記が直接視察したことで、老朽化した空軍の近代化に対する強い意思が示された。
・新兵器の披露: 新型の空対空ミサイル(AAM)や対地攻撃兵器が公開され、開発への注力がうかがえる。
先進的な空対空ミサイル(AAM)
・「先進的な中距離AAM」のデビュー: 米国のAIM-120や中国のPL-12に類似した外見を持つミサイルが公式に登場した。
・アクティブレーダーシーカー: ミサイル自体がレーダーを持つことで、発射後忘却(fire-and-forget)能力を持つと見られる。
・写真加工の可能性: MiG-29に搭載された画像が加工されていることから、開発が初期段階であるか、実戦配備には至っていない可能性が示唆される。
「チュチェ・スパロー」の登場
・AIM-7スパロー類似のAAM: より性能の低い中距離AAMが発射され、米国のAIM-7スパローに視覚的に類似している。
・セミアクティブレーダーホーミング(SARH): 発射母機が目標を継続的にレーダー照射する必要がある方式。
・国産開発の可能性: 技術的単純さや旧ソ連製R-27 AAMの技術水準から、大部分が北朝鮮の独自開発である可能性が高い。
・戦術的意義: 戦術的制約はあるが、既存の老朽化したR-27 AAMを置き換え、信頼性向上に寄与する可能性がある。
精密誘導滑空爆弾
・2種類の披露: 衛星測位システム搭載型と光学終末誘導シーカー搭載型が公開された。
・非作戦能力: 爆弾のシリアルナンバーから、2024年5月の展示品と同一と見られ、まだ作戦能力を有していない可能性が高い。
・適用試験: KCNAの報道によれば、Saetbyol-9ドローンによって「適用試験」が行われたとされる。
技術的含意と限界
・並行開発アプローチ: 高度なAAMと並行して、比較的技術的ハードルの低いセミアクティブレーダーホーミングミサイルを開発している。
・空軍の劣位: 米韓連合空軍に対する北朝鮮空軍の包括的・系統的な劣位は依然として大きく、ミグ機による対地攻撃の効果は限定的と見られる。
・現実的な認識: 5月15日の演習が「巡航ミサイルや自爆ドローンに対する対空任務」に重点を置いていたことから、北朝鮮が自国の戦闘機部隊の限界を認識していることが示唆される。
・核攻撃への依存: 陸上防空の強化は進んでいるものの、米韓連合空軍を圧倒する唯一の方法は、地上の敵資産を破壊する核攻撃であるという見方は変わらない。
防空能力への応用
・SAMへの応用: セミアクティブレーダーホーミング技術は、地対空ミサイル(SAM)や艦対空ミサイル(SAM)においてより有効に活用できる。
・陸上防空の重要性: 高強度戦争においては、北朝鮮の戦闘機よりも陸上防空が核資産の破壊を遅らせる上でより重要な役割を果たすと予想される。
【桃源寸評】💚
北朝鮮が本質的に核兵器の使用を辞さないという見方は、彼らの軍事ドクトリンとこれまでの行動から強く示唆される。北朝鮮にとって核兵器は、まさに「蜂の一刺し」・「窮鼠猫を噛む」という比喩が当てはまる、体制存続のための究極の抑止力であり、最後の手段と位置づけられていると考えられる。
核兵器が持つ意味
北朝鮮は、通常戦力において韓国と米国の同盟軍に圧倒的な劣位に立っていることを認識している。この非対称性を是正し、自国の安全保障を確保するために、核兵器開発を最優先事項として追求してきた。彼らにとって核兵器は以下の意味を持つ。
・体制の保証: 外部からの攻撃、特に体制転換を目的とした攻撃を阻止するための最終的な保険。
・抑止力: 圧倒的な通常戦力を持つ敵対勢力に対して、侵攻や全面戦争を思いとどまらせるための最も強力な手段。
・交渉の切り札: 国際社会との交渉において、優位な立場を築くための強力なカード。
・核兵器使用の可能性
前述の分析でも触れられているように、「平壌が韓国と同盟軍の空軍を圧倒する唯一の方法は、地上の敵資産を破壊する核攻撃である」という認識は、北朝鮮の戦略的思考を反映している可能性が高い。これは、通常兵器では勝ち目のない状況において、核兵器の使用が選択肢として排除されていないことを示唆する。
ただし、核兵器の使用は、北朝鮮自身にとっても壊滅的な結果を招く「相互確証破壊(MAD)」のリスクを伴う。そのため、実際の使用は極めて切迫した状況、例えば体制が崩壊の危機に瀕した場合や、大規模な侵攻を受けた場合などに限定されると見られている。核兵器の存在自体が、彼らの安全保障上の「レッドライン」を守るためのものであるという解釈もできるだろう。
このように、北朝鮮の核兵器は、彼らの生存戦略の中核をなすものであり、その使用を排除しないという姿勢は、彼らの防衛ドクトリンの根幹にあると考えられる。
北朝鮮の視点から見た核放棄の困難さ
(1)北朝鮮が核兵器を手放すことに強く抵抗する理由は、以下の点に集約される。
・非対称な通常戦力: 前述の通り、北朝鮮は通常兵器の面で韓国と米国の同盟軍に圧倒的な劣位にある。もし核兵器がなければ、彼らはこの軍事的なギャップを埋める手段を失い、米韓からの潜在的な脅威に対して脆弱になると考えている。
・体制保証の欠如: 北朝鮮は、リビアのカダフィ政権やイラクのフセイン政権など、核兵器を放棄したり開発を中断したりした後に国際社会からの圧力を受け、最終的に政権が崩壊した例を強く意識しているとされる。彼らは、核兵器こそが自国の体制存続を保証する唯一の手段だと信じている。
・「敵対政策」の認識: 北朝鮮は、米国が自国に対して「敵対政策」を維持していると主張しており、核兵器はその「敵対政策」から身を守るための正当な自衛手段であると主張している。核放棄は、この「敵対政策」に対して自らを無防備にすることに等しいと捉えている。
・交渉力の喪失: 核兵器は、北朝鮮が国際社会、特に米国との交渉において、限られた資源の中で最大限の影響力を行使するための唯一の切り札である。これを放棄すれば、彼らの交渉力は著しく低下し、一方的に要求を突きつけられる立場になると懸念している。
(2)「丸裸」という認識
・この「丸裸」という表現は、北朝鮮が核兵器を単なる兵器としてではなく、自国の生存と主権を守るための究極の盾として捉えていることを端的に表している。彼らにとって、核兵器は単なる軍事力の一部ではなく、国家のアイデンティティと安全保障の根幹をなすものと化している。
・このような認識がある限り、国際社会が北朝鮮に核放棄を求めることは、彼らにとっては自らの「命綱」を差し出すことを要求されるに等しく、極めて困難な課題であると言える。核放棄を促すためには、北朝鮮が核兵器なしでも体制の安全が保証されるという明確で信頼できる保証を、国際社会、特に米国が提供する必要がある。しかし、その保証がどのような形であれば北朝鮮が納得するのか、また、その保証を米国がどこまで提供できるのか、という点で大きな隔たりがあるのが現状である。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Sparrow Returns to the Peninsula: Observations on North Korea’s May 15 Air Drills GT 2025.05.22
https://www.38north.org/2025/05/sparrow-returns-to-the-peninsula-observations-on-north-koreas-may-15-air-drills/
台湾島の漁船「Hongcaitou6号」:日本の巡視船に拿捕 ― 2025年05月26日 19:43
【概要】
中国外交部の報道官である毛寧氏は、台湾島の漁船「Hongcaitou6号」が日本の巡視船によって漁業規則違反を理由に拿捕され、高額な保釈金を支払った上で釈放された件について発言した。中国政府は、台湾地域を含む中国漁民の正当な権益を守ることを非常に重視していると述べた。
この事案に対して、中国はすでに日本側に対して厳重な抗議を行った。毛報道官によれば、中国と日本の間には「中日漁業協定」が存在し、それに基づけば、該当する海域において日本が中国漁船に対して法執行を行う権利はないと主張している。
毛氏はまた、日本側に対し、今回の誤った行為を直ちに是正し、同様の事案が再発しないよう効果的な措置を講じるよう強く要求した。
【詳細】
2025年5月23日、中国国営メディア『環球時報(Global Times)』は、中国外交部の毛寧報道官が、日本による台湾島所属の漁船の拿捕に関して正式に発言したことを報じた。
問題となったのは、「Hongcaitou6号」という名称の漁船であり、台湾島に所属している。この漁船は、最近、日本の巡視船によって、漁業規則違反を理由に拿捕された。具体的な違反内容については記事中に言及がないが、日本側の主張に基づき、何らかの形で日本が管轄権を主張する海域内での操業が問題視された可能性がある。この漁船は、その後、高額な保釈金を支払った上で釈放された。
毛寧報道官は、記者からの「今回の件について中国政府は日本側に抗議を行ったか」との質問に対し、中国政府はすでに日本側に対して厳正なる抗議を行ったと明言した。その上で、台湾地域を含むすべての中国国民(漁民)の正当な権利と利益を保護することは中国政府にとって極めて重要な責務であると強調した。
また、毛報道官は、「中日漁業協定(正式名称:中華人民共和国政府と日本国政府との間の漁業に関する協定)」に言及し、同協定に基づけば、日本側には、いわゆる「関連海域」において中国の漁船に対して法的措置を講じる権利は認められていないとする立場を示した。この「関連海域」がどの海域を指すかについては明確にされていないが、一般に、両国間の係争や共同管理の対象となる海域であると解される。
中国政府は、日本側の行為を「誤った行動」と断定し、これを速やかに是正するよう強く要求した。また、今後同様の事案が再び発生しないよう、日本政府に対して実効性ある再発防止策の実施を求めた。
このような外交的抗議は、昨年にも類似の台湾漁船の拿捕案件が発生した際にも行われており、今回が初めてではない。これにより、中国政府としては、日本側の法執行行為に対して一貫して反対する姿勢を示しており、日中間の海洋権益や台湾問題に関連する外交的摩擦の一例となっている。
【要点】
・問題の漁船は「Hongcaitou6号」といい、台湾島に所属する中国漁船である。
・当該漁船は、日本の巡視船によって「漁業規則違反」を理由に拿捕された。
・拿捕後、漁船は高額な保釈金を支払うことで釈放された。
・この事案に関し、中国外交部の毛寧報道官が公式に発言した。
・毛報道官は、中国政府は台湾地域を含む中国国民(漁民)の正当な権益を重視していると述べた。
・中国政府は、この拿捕に対して日本側に厳重な抗議(stern protest)を行った。
・中国側の主張によれば、「中日漁業協定」に基づき、日本には関連海域において中国漁船に対して法執行を行う権限は存在しない。
・毛報道官は、日本に対して「誤った行動」を直ちに是正するよう要求した。
・あわせて、同様の事案が再発しないよう「効果的な措置」を講じることを日本側に求めた。
・類似の漁船拿捕事件は昨年にも発生しており、中国はその際にも日本側に抗議を行っている。
・この一連の出来事は、台湾問題や中日間の海洋権益に関する外交的緊張の一端を示している。
【桃源寸評】💚
日中漁業協定は、日本と中華人民共和国の間で、東シナ海および黄海における漁業資源の保存、合理的利用、および海上での操業秩序の維持を目的として結ばれている協定である。
歴史的経緯
・戦後: 中国沿岸や東シナ海、黄海は、戦後も日本の機船底引網漁業にとって重要な漁場であった。しかし、中国との間に領海侵犯や漁場妨害、拿捕事件が多発し、深刻な対立が生じた。
・民間協定時代: 国交が断絶していたため、政府間交渉が困難な中、1955年に日本の民間漁業団体と中国の漁業協会との間で初の「日中民間漁業協定」が締結された。その後、一時中断もあったが、1963年に再締結された。
・政府間協定へ: 1972年の日中共同声明による国交正常化後、1975年に政府間協定として発効した。この協定では、漁船の馬力制限や休漁区の設定などが取り決められた。
・国連海洋法条約への対応(現行協定): 1982年に作成された国連海洋法条約の趣旨に沿った新たな漁業秩序を確立するため、1997年11月に「漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定」(新日中漁業協定)が署名され、2000年6月1日に発効した。
現行協定の主な内容
現行の日中漁業協定は、国連海洋法条約に基づく200海里排他的経済水域(EEZ)の概念を導入しつつ、両国の漁業実態に配慮した内容となっています。
・相互入漁: 両国のEEZ内において、相互利益の原則に基づき、相手国の漁船が許可を得て操業することを認めている。
・許可証の発給と操業条件: 相手国EEZ内で操業するには、相手国当局の発行する許可証が必要で、その国の法令や条件に従う必要がある。魚種、漁獲割当量、操業区域などの操業条件は毎年協議して決定される。
・暫定措置水域: 東シナ海の一部には、EEZの境界画定交渉を棚上げし、共同で管理する「暫定措置水域」が設けられている。この水域では、両国がそれぞれの国民および漁船に対し、自国の法令に基づき取締りなどの必要な措置を取ることが規定されている。
・共同委員会: 協定の実施状況や資源管理について協議するため、「日中漁業共同委員会」が設置されている。
現状と課題
・中国漁船の活動: 近年、東シナ海の暫定措置水域などで非常に多数の中国漁船が操業しており、水産資源に大きな影響を及ぼしていることが課題となっている。
・違法操業対策: 水産庁は、EEZ内での違法操業に対する取締りを強化しており、特に日本海大和堆周辺では、中国漁船や北朝鮮漁船による違法操業が確認されている。日中漁業協定に基づき、許可を得た中国漁船への立入検査なども行われている。
・尖閣諸島周辺: 尖閣諸島周辺の日本のEEZでは、日中漁業協定等に基づき中国漁船に対して日本の漁業関係法令が適用されないため、領海内での違法操業と、そのすぐ外側での合法的な操業が併存する状況があり、漁業秩序の維持が課題となっている。
・日中漁業協定は、複雑な漁業環境と領土問題を抱える日中間の重要な枠組みであり、資源管理と安全操業の確保に向けた継続的な協議が求められている。
☞中国は「筋を通した」
根拠
・中国は、台湾を自国の不可分の一部と主張しており、その立場を国際場面でも常に貫いている。
・その観点から、台湾島の漁船「Hongcaitou6号」が外国(この場合は日本)の公的機関により拿捕されたことに対して、
⇨ 外交部報道官が即座に公式な抗議を表明している。
⇨ 中国漁民の正当な権益を守る立場を明言している(台湾の漁民も「中国の漁民」と明確に位置づけている)。
・これらはすべて、「台湾の問題を中国の主権問題と見なしている」中国の内的論理と整合する対応であり、
⇨ 領土主張の一貫性・原則を守る外交的行動として「筋を通した」と評価できる。
・放置すれば、対外的にも「台湾を中国の一部とする立場」の実効性が揺らぎかねず、主権国家としての立場が弱体化する可能性がある。
・よって、今回のような抗議表明と是正要求は、中国の国家戦略上、必然的な対応である。
総括
「筋を通す」とは、「台湾を中国の領土とみなす立場を行動で裏付けること」であるならば、今回、中国は確かに「筋を通した」と言える。
☞拿捕が尖閣諸島(釣魚島)近辺であった可能性について
記事内に海域の具体名は明示されていない。そのため断定はできないが、いくつかの状況証拠から尖閣諸島周辺の可能性は高いと推察される。
根拠としては以下の通り。
・毛報道官が言及した「中日漁業協定における関連海域」は、通常、東シナ海の一部、特に中間線付近や尖閣諸島周辺の重複主張海域を指すことが多い。
・台湾籍漁船が拿捕されるケースは、主に尖閣諸島(中国名:釣魚島)近海で発生しているのが通例である。
・中国政府が「台湾島の漁船」への対応として公式にコメントを出すのも、尖閣周辺での出来事に対して特に敏感に反応する傾向がある。
・さらに、昨年の類似事案も尖閣周辺海域での拿捕事件であったとされている。
・よって、明確な海域名の提示はないものの、文脈および過去の事例から判断して、尖閣諸島近辺である可能性が高いと考えられる。
以上より、
この件に関しても、中国は、「外交的手順としての筋は通した」と言える。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Sparrow Returns to the Peninsula: Observations on North Korea’s May 15 Air Drills GT 2025.05.22
https://www.38north.org/2025/05/sparrow-returns-to-the-peninsula-observations-on-north-koreas-may-15-air-drills/
中国外交部の報道官である毛寧氏は、台湾島の漁船「Hongcaitou6号」が日本の巡視船によって漁業規則違反を理由に拿捕され、高額な保釈金を支払った上で釈放された件について発言した。中国政府は、台湾地域を含む中国漁民の正当な権益を守ることを非常に重視していると述べた。
この事案に対して、中国はすでに日本側に対して厳重な抗議を行った。毛報道官によれば、中国と日本の間には「中日漁業協定」が存在し、それに基づけば、該当する海域において日本が中国漁船に対して法執行を行う権利はないと主張している。
毛氏はまた、日本側に対し、今回の誤った行為を直ちに是正し、同様の事案が再発しないよう効果的な措置を講じるよう強く要求した。
【詳細】
2025年5月23日、中国国営メディア『環球時報(Global Times)』は、中国外交部の毛寧報道官が、日本による台湾島所属の漁船の拿捕に関して正式に発言したことを報じた。
問題となったのは、「Hongcaitou6号」という名称の漁船であり、台湾島に所属している。この漁船は、最近、日本の巡視船によって、漁業規則違反を理由に拿捕された。具体的な違反内容については記事中に言及がないが、日本側の主張に基づき、何らかの形で日本が管轄権を主張する海域内での操業が問題視された可能性がある。この漁船は、その後、高額な保釈金を支払った上で釈放された。
毛寧報道官は、記者からの「今回の件について中国政府は日本側に抗議を行ったか」との質問に対し、中国政府はすでに日本側に対して厳正なる抗議を行ったと明言した。その上で、台湾地域を含むすべての中国国民(漁民)の正当な権利と利益を保護することは中国政府にとって極めて重要な責務であると強調した。
また、毛報道官は、「中日漁業協定(正式名称:中華人民共和国政府と日本国政府との間の漁業に関する協定)」に言及し、同協定に基づけば、日本側には、いわゆる「関連海域」において中国の漁船に対して法的措置を講じる権利は認められていないとする立場を示した。この「関連海域」がどの海域を指すかについては明確にされていないが、一般に、両国間の係争や共同管理の対象となる海域であると解される。
中国政府は、日本側の行為を「誤った行動」と断定し、これを速やかに是正するよう強く要求した。また、今後同様の事案が再び発生しないよう、日本政府に対して実効性ある再発防止策の実施を求めた。
このような外交的抗議は、昨年にも類似の台湾漁船の拿捕案件が発生した際にも行われており、今回が初めてではない。これにより、中国政府としては、日本側の法執行行為に対して一貫して反対する姿勢を示しており、日中間の海洋権益や台湾問題に関連する外交的摩擦の一例となっている。
【要点】
・問題の漁船は「Hongcaitou6号」といい、台湾島に所属する中国漁船である。
・当該漁船は、日本の巡視船によって「漁業規則違反」を理由に拿捕された。
・拿捕後、漁船は高額な保釈金を支払うことで釈放された。
・この事案に関し、中国外交部の毛寧報道官が公式に発言した。
・毛報道官は、中国政府は台湾地域を含む中国国民(漁民)の正当な権益を重視していると述べた。
・中国政府は、この拿捕に対して日本側に厳重な抗議(stern protest)を行った。
・中国側の主張によれば、「中日漁業協定」に基づき、日本には関連海域において中国漁船に対して法執行を行う権限は存在しない。
・毛報道官は、日本に対して「誤った行動」を直ちに是正するよう要求した。
・あわせて、同様の事案が再発しないよう「効果的な措置」を講じることを日本側に求めた。
・類似の漁船拿捕事件は昨年にも発生しており、中国はその際にも日本側に抗議を行っている。
・この一連の出来事は、台湾問題や中日間の海洋権益に関する外交的緊張の一端を示している。
【桃源寸評】💚
日中漁業協定は、日本と中華人民共和国の間で、東シナ海および黄海における漁業資源の保存、合理的利用、および海上での操業秩序の維持を目的として結ばれている協定である。
歴史的経緯
・戦後: 中国沿岸や東シナ海、黄海は、戦後も日本の機船底引網漁業にとって重要な漁場であった。しかし、中国との間に領海侵犯や漁場妨害、拿捕事件が多発し、深刻な対立が生じた。
・民間協定時代: 国交が断絶していたため、政府間交渉が困難な中、1955年に日本の民間漁業団体と中国の漁業協会との間で初の「日中民間漁業協定」が締結された。その後、一時中断もあったが、1963年に再締結された。
・政府間協定へ: 1972年の日中共同声明による国交正常化後、1975年に政府間協定として発効した。この協定では、漁船の馬力制限や休漁区の設定などが取り決められた。
・国連海洋法条約への対応(現行協定): 1982年に作成された国連海洋法条約の趣旨に沿った新たな漁業秩序を確立するため、1997年11月に「漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定」(新日中漁業協定)が署名され、2000年6月1日に発効した。
現行協定の主な内容
現行の日中漁業協定は、国連海洋法条約に基づく200海里排他的経済水域(EEZ)の概念を導入しつつ、両国の漁業実態に配慮した内容となっています。
・相互入漁: 両国のEEZ内において、相互利益の原則に基づき、相手国の漁船が許可を得て操業することを認めている。
・許可証の発給と操業条件: 相手国EEZ内で操業するには、相手国当局の発行する許可証が必要で、その国の法令や条件に従う必要がある。魚種、漁獲割当量、操業区域などの操業条件は毎年協議して決定される。
・暫定措置水域: 東シナ海の一部には、EEZの境界画定交渉を棚上げし、共同で管理する「暫定措置水域」が設けられている。この水域では、両国がそれぞれの国民および漁船に対し、自国の法令に基づき取締りなどの必要な措置を取ることが規定されている。
・共同委員会: 協定の実施状況や資源管理について協議するため、「日中漁業共同委員会」が設置されている。
現状と課題
・中国漁船の活動: 近年、東シナ海の暫定措置水域などで非常に多数の中国漁船が操業しており、水産資源に大きな影響を及ぼしていることが課題となっている。
・違法操業対策: 水産庁は、EEZ内での違法操業に対する取締りを強化しており、特に日本海大和堆周辺では、中国漁船や北朝鮮漁船による違法操業が確認されている。日中漁業協定に基づき、許可を得た中国漁船への立入検査なども行われている。
・尖閣諸島周辺: 尖閣諸島周辺の日本のEEZでは、日中漁業協定等に基づき中国漁船に対して日本の漁業関係法令が適用されないため、領海内での違法操業と、そのすぐ外側での合法的な操業が併存する状況があり、漁業秩序の維持が課題となっている。
・日中漁業協定は、複雑な漁業環境と領土問題を抱える日中間の重要な枠組みであり、資源管理と安全操業の確保に向けた継続的な協議が求められている。
☞中国は「筋を通した」
根拠
・中国は、台湾を自国の不可分の一部と主張しており、その立場を国際場面でも常に貫いている。
・その観点から、台湾島の漁船「Hongcaitou6号」が外国(この場合は日本)の公的機関により拿捕されたことに対して、
⇨ 外交部報道官が即座に公式な抗議を表明している。
⇨ 中国漁民の正当な権益を守る立場を明言している(台湾の漁民も「中国の漁民」と明確に位置づけている)。
・これらはすべて、「台湾の問題を中国の主権問題と見なしている」中国の内的論理と整合する対応であり、
⇨ 領土主張の一貫性・原則を守る外交的行動として「筋を通した」と評価できる。
・放置すれば、対外的にも「台湾を中国の一部とする立場」の実効性が揺らぎかねず、主権国家としての立場が弱体化する可能性がある。
・よって、今回のような抗議表明と是正要求は、中国の国家戦略上、必然的な対応である。
総括
「筋を通す」とは、「台湾を中国の領土とみなす立場を行動で裏付けること」であるならば、今回、中国は確かに「筋を通した」と言える。
☞拿捕が尖閣諸島(釣魚島)近辺であった可能性について
記事内に海域の具体名は明示されていない。そのため断定はできないが、いくつかの状況証拠から尖閣諸島周辺の可能性は高いと推察される。
根拠としては以下の通り。
・毛報道官が言及した「中日漁業協定における関連海域」は、通常、東シナ海の一部、特に中間線付近や尖閣諸島周辺の重複主張海域を指すことが多い。
・台湾籍漁船が拿捕されるケースは、主に尖閣諸島(中国名:釣魚島)近海で発生しているのが通例である。
・中国政府が「台湾島の漁船」への対応として公式にコメントを出すのも、尖閣周辺での出来事に対して特に敏感に反応する傾向がある。
・さらに、昨年の類似事案も尖閣周辺海域での拿捕事件であったとされている。
・よって、明確な海域名の提示はないものの、文脈および過去の事例から判断して、尖閣諸島近辺である可能性が高いと考えられる。
以上より、
この件に関しても、中国は、「外交的手順としての筋は通した」と言える。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Sparrow Returns to the Peninsula: Observations on North Korea’s May 15 Air Drills GT 2025.05.22
https://www.38north.org/2025/05/sparrow-returns-to-the-peninsula-observations-on-north-koreas-may-15-air-drills/
中国の李強国務院総理:在インドネシア中国企業との座談会に出席 ― 2025年05月26日 22:35
【概要】
中国の李強国務院総理は2025年5月25日、インドネシアのジャカルタで開催された在インドネシア中国企業との座談会に出席し、演説を行った。
李総理は、同年初頭より中国経済は回復と改善を続けており、とりわけ対外貿易においては強い回復力が見られると述べた。また、国際的な経済および貿易秩序が深刻な影響を受けており、産業およびサプライチェーンの分断が進行し、貿易障壁が増加していることが、各国の経済発展に重大な影響を与えていると指摘した。
このようなリスクと課題に直面する中で、中国はマクロ経済政策の逆周期的調整を強化し、より積極的な財政政策およびやや緩和的な金融政策を実施していると説明した。さらに、雇用と経済の安定を図るために関連措置を講じており、状況の変化に応じて迅速に導入可能な新たな政策ツールの研究および準備も進めていると述べた。これらの中には、いくつかの非伝統的な政策手段も含まれていることを明らかにした。李総理は、中国には経済の持続的な改善を推進する自信と能力があると強調した。
また、李総理は、中国企業が海外で事業を展開することは容易ではないと認めつつ、中国政府としては今後もより多くの国々と経済・貿易協力を強化し、中国企業の海外展開にとって有利な環境を整備するとともに、より多くの機会と支援を提供していく方針を示した。その支援には、より強力な政策的支えも含まれるとしている。
李総理は、近年インドネシアにおける中国企業の成長勢いが顕著であり、両国間の経済協力を強化し、人的交流を促進する上で積極的な役割を果たしていると評価した。
さらに、李総理は中国企業に対し、引き続き優秀さを追求し、インドネシアにおける基盤を強化しつつ、ASEAN全体に事業を拡大するよう期待を表明した。その上で、中国企業が自らの優位性を活かし、新市場の開拓や発展の質および効率の向上に努め、中国製品およびサービスの国際市場への進出を促進するよう呼びかけた。
また、企業に対しては、社会的責任を誠実に果たし、法令を遵守した運営を行い、現地経済への統合および貢献を積極的に行うべきであるとした。さらに、中国と世界各国との交流を促進する友好の使者としての役割を果たし、より大きな成果と更なる成長を国際舞台で実現するよう求めた。
座談会に出席した企業代表者らは、現在の国際経済・貿易環境における不確実性に直面する中、自社の優位性と特性を活かし、企業家精神を発揮しながら挑戦に対応し、海外市場を継続的に拡大していると報告した。また、中国とインドネシアの包括的戦略的パートナーシップが着実に発展していることに言及し、インドネシアにおける中国企業は、グリーン経済、接続性(コネクティビティ)、産業およびサプライチェーンといった分野での投資協力を強化し、相互利益およびウィンウィンの成果を実現すべく取り組んでいく意欲を表明した。
【詳細】
2025年5月25日、中国の李強国務院総理は、インドネシアのジャカルタにて開催された「在インドネシア中国企業座談会」に出席した。同座談会には、中国エネルギー投資集団(China Energy Investment Corporation)、ファーウェイ(Huawei)、上汽集団(SAIC Motor)、ニュー・ホープ・グループ(New Hope Group)、青山控股集団(Tsingshan Holding Group)、TCL科技集団(TCL Technology Group)など、複数の中国企業の代表が参加した。
1.李強総理の発言内容
・外部衝撃への備え
李総理は、中国が外部からの衝撃に対して十分な準備を整えていると述べた。
・経済の現況
2025年に入ってから、中国経済は回復傾向が継続しており、改善が見られる。
特に、対外貿易分野では顕著な回復力(resilience)を示しているとした。
・国際経済環境の変化
現在、国際的な経済・貿易秩序が大きく揺らいでいると指摘。
産業チェーンおよび供給チェーンの分断が深刻化している。
貿易障壁の増加が見られ、こうした動向は各国の経済発展に対して重大な影響を及ぼしていると述べた。
・中国国内の政策対応
中国政府は、マクロ経済政策の逆周期的な調整を強化している。
具体的には、より積極的な財政政策およびやや緩やかな金融政策を実施中であると説明。
雇用や経済の安定に向けた関連措置を導入している。
また、新たな政策手段の研究・準備を進めており、一部には非伝統的な政策手段も含まれていることを明らかにした。
これらの手段は、状況の変化に応じて迅速に展開される予定であると述べた。
中国には、経済パフォーマンスの継続的な向上を促す自信と能力があると強調した。
2.中国企業の海外展開支援
・海外での困難と支援方針
李総理は、中国企業が海外で活動することは決して容易ではないと認めた上で、
中国政府としては、今後さらに多くの国々と経済・貿易協力を強化していく方針を示した。
企業の海外進出に対して、有利な環境の整備および政策支援の強化を図り、さらなる機会の提供を行うと述べた。
3.インドネシアにおける中国企業の役割と期待
・インドネシアにおいて、中国企業は近年力強い成長の勢いを示しており、二国間の経済協力の強化と人的交流の促進において積極的な役割を果たしていると評価した。
・李総理は、企業に対し、以下の点を要望した。
優秀さを追求し続けること。
インドネシアでの拠点を強化すること。
ASEAN諸国全体への事業展開を図ること。
自社の優位性を活かし、新市場を開拓し、発展の質と効率を高めること。
中国製品・サービスの国際市場への浸透を促進すること。
4.社会的責任と国際的役割の強調
・中国企業に対しては、社会的責任の誠実な履行、法令遵守による運営、現地経済への積極的統合と貢献を求めた。
・さらに、中国企業は中国と諸外国との友好交流を促す「友好の使者」としての役割を果たし、国際的な舞台でさらに大きな成果を上げ、成長を実現することを目指すべきであるとした。
5.企業側の発言
座談会に参加した企業代表らは、以下の点を述べた。
・現在の国際経済・貿易環境の不確実性に対応する中で、自社の優位性と特性を活かし、企業家精神を発揮して課題に積極的に取り組み、海外市場を継続的に拡大していると報告した。
また、以下の点にも言及した。
・中国とインドネシアの包括的戦略的パートナーシップは着実に発展を続けている。
・在インドネシアの中国企業は、グリーン経済、コネクティビティ(接続性)、産業およびサプライチェーンなどの分野における投資協力の強化に積極的であり、相互利益とウィンウィンの成果の実現を目指して取り組む意欲を表明した。
【要点】
1.李強総理の発言内容
・李強中国国務院総理は、2025年5月25日、インドネシア・ジャカルタで開催された「在インドネシア中国企業座談会」に出席した。
・同座談会には、複数の中国企業代表が参加した(例:中国エネルギー投資集団、ファーウェイ、上汽集団、ニュー・ホープ・グループ、青山控股集団、TCL科技集団など)。
2.経済状況と政策対応
(1)経済の回復
・2025年初頭より、中国経済は回復と改善を継続している。
・特に対外貿易においては、強い回復力が示されている。
(2) 国際経済環境の変化
・国際的な経済・貿易秩序は深刻な影響を受けている。
・産業チェーンとサプライチェーンの分断が進行している。
・貿易障壁の増加が、各国の経済発展に重大な影響を及ぼしている。
(3)中国の政策対応
・中国は逆周期的なマクロ政策調整を強化している。
・積極的な財政政策と、やや緩やかな金融政策を導入している。
・雇用と経済安定を目的とする関連措置を導入中である。
・新たな政策ツール(非伝統的な手段を含む)の研究と準備を進めており、状況に応じて迅速に実行される予定である。
・中国には経済パフォーマンスを継続的に向上させる自信と能力があると明言した。
3.中国企業の海外展開に関する支援
海外事業の支援方針
・中国企業が海外で活動することは容易ではないとの認識を示した。
・中国政府は、より多くの国との経済・貿易協力を強化する方針である。
・中国企業の海外発展を支援するため、より良い外部環境を整備し、政策支援を強化する。
4.中国企業に対する期待と要請
(1)インドネシアでの活動評価と展望
・中国企業はインドネシアにおいて近年、力強い成長を遂げている。
・両国の経済協力強化と人と人との交流促進に貢献している。
(2)企業への具体的な要請
・卓越性の追求。
・インドネシアでの拠点の強化。
・ASEAN諸国への事業展開の拡大。
・自社の強みを活かした市場開拓。
・開発の質と効率の向上。
・中国製品・サービスの国際市場でのアクセス拡大。
(3)社会的責任と国際的役割
・社会的責任の誠実な履行。
・法令遵守に基づく企業運営。
・地元経済への積極的統合と貢献。
・中国と世界各国の交流促進における「友好の使者」としての役割の遂行。
・国際舞台でのさらなる成果と成長の追求。
5.企業側の発言要旨
(1)国際環境に対する認識と対応
・国際経済・貿易環境の不確実性に直面する中、企業は自らの優位性と特性を活かしている。
・起業家精神を発揮し、積極的に課題に対応しながら、海外市場を継続的に拡大している。
(2) 中国・インドネシア関係と協力意欲
・中国とインドネシアの包括的戦略的パートナーシップは継続的に発展している。
・在インドネシア中国企業は、グリーン経済、接続性、産業およびサプライチェーン等の分野における投資協力を強化し、
・相互利益とウィンウィンの成果の実現を目指している。
【桃源寸評】💚
中国とインドネシアの包括的戦略的パートナーシップは着実に発展しており、インドネシアにおいて事業展開する中国企業は、グリーン経済、インフラ連結性、産業・サプライチェーンなどの分野における投資協力を強化し、互恵・ウィンウィンの成果を追求する意向を示した。
更に、今後の不確実性に備えた「新たな政策ツールの研究・準備」を進めており、中には「非伝統的な政策手段」も含まれることを明らかにした。これは、従来の金利政策や財政出動に加え、構造改革・規制緩和・市場刺激策などの柔軟な対応策を意味するものと解釈される。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
China fully prepared for external shocks, premier tells enterprises GT 2025.05.26
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1334823.shtml
中国の李強国務院総理は2025年5月25日、インドネシアのジャカルタで開催された在インドネシア中国企業との座談会に出席し、演説を行った。
李総理は、同年初頭より中国経済は回復と改善を続けており、とりわけ対外貿易においては強い回復力が見られると述べた。また、国際的な経済および貿易秩序が深刻な影響を受けており、産業およびサプライチェーンの分断が進行し、貿易障壁が増加していることが、各国の経済発展に重大な影響を与えていると指摘した。
このようなリスクと課題に直面する中で、中国はマクロ経済政策の逆周期的調整を強化し、より積極的な財政政策およびやや緩和的な金融政策を実施していると説明した。さらに、雇用と経済の安定を図るために関連措置を講じており、状況の変化に応じて迅速に導入可能な新たな政策ツールの研究および準備も進めていると述べた。これらの中には、いくつかの非伝統的な政策手段も含まれていることを明らかにした。李総理は、中国には経済の持続的な改善を推進する自信と能力があると強調した。
また、李総理は、中国企業が海外で事業を展開することは容易ではないと認めつつ、中国政府としては今後もより多くの国々と経済・貿易協力を強化し、中国企業の海外展開にとって有利な環境を整備するとともに、より多くの機会と支援を提供していく方針を示した。その支援には、より強力な政策的支えも含まれるとしている。
李総理は、近年インドネシアにおける中国企業の成長勢いが顕著であり、両国間の経済協力を強化し、人的交流を促進する上で積極的な役割を果たしていると評価した。
さらに、李総理は中国企業に対し、引き続き優秀さを追求し、インドネシアにおける基盤を強化しつつ、ASEAN全体に事業を拡大するよう期待を表明した。その上で、中国企業が自らの優位性を活かし、新市場の開拓や発展の質および効率の向上に努め、中国製品およびサービスの国際市場への進出を促進するよう呼びかけた。
また、企業に対しては、社会的責任を誠実に果たし、法令を遵守した運営を行い、現地経済への統合および貢献を積極的に行うべきであるとした。さらに、中国と世界各国との交流を促進する友好の使者としての役割を果たし、より大きな成果と更なる成長を国際舞台で実現するよう求めた。
座談会に出席した企業代表者らは、現在の国際経済・貿易環境における不確実性に直面する中、自社の優位性と特性を活かし、企業家精神を発揮しながら挑戦に対応し、海外市場を継続的に拡大していると報告した。また、中国とインドネシアの包括的戦略的パートナーシップが着実に発展していることに言及し、インドネシアにおける中国企業は、グリーン経済、接続性(コネクティビティ)、産業およびサプライチェーンといった分野での投資協力を強化し、相互利益およびウィンウィンの成果を実現すべく取り組んでいく意欲を表明した。
【詳細】
2025年5月25日、中国の李強国務院総理は、インドネシアのジャカルタにて開催された「在インドネシア中国企業座談会」に出席した。同座談会には、中国エネルギー投資集団(China Energy Investment Corporation)、ファーウェイ(Huawei)、上汽集団(SAIC Motor)、ニュー・ホープ・グループ(New Hope Group)、青山控股集団(Tsingshan Holding Group)、TCL科技集団(TCL Technology Group)など、複数の中国企業の代表が参加した。
1.李強総理の発言内容
・外部衝撃への備え
李総理は、中国が外部からの衝撃に対して十分な準備を整えていると述べた。
・経済の現況
2025年に入ってから、中国経済は回復傾向が継続しており、改善が見られる。
特に、対外貿易分野では顕著な回復力(resilience)を示しているとした。
・国際経済環境の変化
現在、国際的な経済・貿易秩序が大きく揺らいでいると指摘。
産業チェーンおよび供給チェーンの分断が深刻化している。
貿易障壁の増加が見られ、こうした動向は各国の経済発展に対して重大な影響を及ぼしていると述べた。
・中国国内の政策対応
中国政府は、マクロ経済政策の逆周期的な調整を強化している。
具体的には、より積極的な財政政策およびやや緩やかな金融政策を実施中であると説明。
雇用や経済の安定に向けた関連措置を導入している。
また、新たな政策手段の研究・準備を進めており、一部には非伝統的な政策手段も含まれていることを明らかにした。
これらの手段は、状況の変化に応じて迅速に展開される予定であると述べた。
中国には、経済パフォーマンスの継続的な向上を促す自信と能力があると強調した。
2.中国企業の海外展開支援
・海外での困難と支援方針
李総理は、中国企業が海外で活動することは決して容易ではないと認めた上で、
中国政府としては、今後さらに多くの国々と経済・貿易協力を強化していく方針を示した。
企業の海外進出に対して、有利な環境の整備および政策支援の強化を図り、さらなる機会の提供を行うと述べた。
3.インドネシアにおける中国企業の役割と期待
・インドネシアにおいて、中国企業は近年力強い成長の勢いを示しており、二国間の経済協力の強化と人的交流の促進において積極的な役割を果たしていると評価した。
・李総理は、企業に対し、以下の点を要望した。
優秀さを追求し続けること。
インドネシアでの拠点を強化すること。
ASEAN諸国全体への事業展開を図ること。
自社の優位性を活かし、新市場を開拓し、発展の質と効率を高めること。
中国製品・サービスの国際市場への浸透を促進すること。
4.社会的責任と国際的役割の強調
・中国企業に対しては、社会的責任の誠実な履行、法令遵守による運営、現地経済への積極的統合と貢献を求めた。
・さらに、中国企業は中国と諸外国との友好交流を促す「友好の使者」としての役割を果たし、国際的な舞台でさらに大きな成果を上げ、成長を実現することを目指すべきであるとした。
5.企業側の発言
座談会に参加した企業代表らは、以下の点を述べた。
・現在の国際経済・貿易環境の不確実性に対応する中で、自社の優位性と特性を活かし、企業家精神を発揮して課題に積極的に取り組み、海外市場を継続的に拡大していると報告した。
また、以下の点にも言及した。
・中国とインドネシアの包括的戦略的パートナーシップは着実に発展を続けている。
・在インドネシアの中国企業は、グリーン経済、コネクティビティ(接続性)、産業およびサプライチェーンなどの分野における投資協力の強化に積極的であり、相互利益とウィンウィンの成果の実現を目指して取り組む意欲を表明した。
【要点】
1.李強総理の発言内容
・李強中国国務院総理は、2025年5月25日、インドネシア・ジャカルタで開催された「在インドネシア中国企業座談会」に出席した。
・同座談会には、複数の中国企業代表が参加した(例:中国エネルギー投資集団、ファーウェイ、上汽集団、ニュー・ホープ・グループ、青山控股集団、TCL科技集団など)。
2.経済状況と政策対応
(1)経済の回復
・2025年初頭より、中国経済は回復と改善を継続している。
・特に対外貿易においては、強い回復力が示されている。
(2) 国際経済環境の変化
・国際的な経済・貿易秩序は深刻な影響を受けている。
・産業チェーンとサプライチェーンの分断が進行している。
・貿易障壁の増加が、各国の経済発展に重大な影響を及ぼしている。
(3)中国の政策対応
・中国は逆周期的なマクロ政策調整を強化している。
・積極的な財政政策と、やや緩やかな金融政策を導入している。
・雇用と経済安定を目的とする関連措置を導入中である。
・新たな政策ツール(非伝統的な手段を含む)の研究と準備を進めており、状況に応じて迅速に実行される予定である。
・中国には経済パフォーマンスを継続的に向上させる自信と能力があると明言した。
3.中国企業の海外展開に関する支援
海外事業の支援方針
・中国企業が海外で活動することは容易ではないとの認識を示した。
・中国政府は、より多くの国との経済・貿易協力を強化する方針である。
・中国企業の海外発展を支援するため、より良い外部環境を整備し、政策支援を強化する。
4.中国企業に対する期待と要請
(1)インドネシアでの活動評価と展望
・中国企業はインドネシアにおいて近年、力強い成長を遂げている。
・両国の経済協力強化と人と人との交流促進に貢献している。
(2)企業への具体的な要請
・卓越性の追求。
・インドネシアでの拠点の強化。
・ASEAN諸国への事業展開の拡大。
・自社の強みを活かした市場開拓。
・開発の質と効率の向上。
・中国製品・サービスの国際市場でのアクセス拡大。
(3)社会的責任と国際的役割
・社会的責任の誠実な履行。
・法令遵守に基づく企業運営。
・地元経済への積極的統合と貢献。
・中国と世界各国の交流促進における「友好の使者」としての役割の遂行。
・国際舞台でのさらなる成果と成長の追求。
5.企業側の発言要旨
(1)国際環境に対する認識と対応
・国際経済・貿易環境の不確実性に直面する中、企業は自らの優位性と特性を活かしている。
・起業家精神を発揮し、積極的に課題に対応しながら、海外市場を継続的に拡大している。
(2) 中国・インドネシア関係と協力意欲
・中国とインドネシアの包括的戦略的パートナーシップは継続的に発展している。
・在インドネシア中国企業は、グリーン経済、接続性、産業およびサプライチェーン等の分野における投資協力を強化し、
・相互利益とウィンウィンの成果の実現を目指している。
【桃源寸評】💚
中国とインドネシアの包括的戦略的パートナーシップは着実に発展しており、インドネシアにおいて事業展開する中国企業は、グリーン経済、インフラ連結性、産業・サプライチェーンなどの分野における投資協力を強化し、互恵・ウィンウィンの成果を追求する意向を示した。
更に、今後の不確実性に備えた「新たな政策ツールの研究・準備」を進めており、中には「非伝統的な政策手段」も含まれることを明らかにした。これは、従来の金利政策や財政出動に加え、構造改革・規制緩和・市場刺激策などの柔軟な対応策を意味するものと解釈される。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
China fully prepared for external shocks, premier tells enterprises GT 2025.05.26
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1334823.shtml
退職した機密職員が国家機密漏洩で有罪判決 ― 2025年05月26日 23:24
【概要】
退職した機密職員が国家機密漏洩で有罪判決、懲役6年の刑
中国の国家安全省(MSS)は2025年5月26日、退職した機密職員が外国の情報機関からの高額なコンサルティング料に誘惑され、国家機密を漏洩し、懲役6年の刑と罰金に処せられたことを明らかにした。
MSSによると、近年、一部の機密職員が退職後に機密保持意識の低下と警戒心の緩みを見せ、国家機密の漏洩につながり、国家の安全と利益に深刻な損害を与えているという。
国家安全当局の調査で、元職員の「Feng(フェン)」が国有企業の機密性の高い職を退職後、外国の諜報機関から高額な「コンサルティング料」で誘惑されていたことが判明した。Fengは、以前の職場の現職者との密接な接触を悪用し、主要な産業分野における機密の核心情報を入手していた。
Fengは外国の組織に国家機密を不法に提供した罪で有罪となり、懲役6年、政治的権利剥奪2年、および個人資産50万元(約69,403ドル)の罰金が科せられた。
MSSは、機密職員は職を離れた後も機密保持の法的義務があり、彼らは一定量の国家機密情報にアクセスし、それを保有していたと説明している。
MSSはさらに、国家機密は国家の安全と利益に関わるものであり、時間や場所を問わず、いかなる開示も法律によって厳しく罰せられると付け加えた。
【詳細】
退職した機密職員が国家機密漏洩で有罪判決、懲役6年の刑:詳細
中国の国家安全省(MSS)が2025年5月26日に発表したところによると、退職した機密職員による国家機密漏洩事件が発生し、当該職員が懲役6年の有罪判決を受けた。これは、外国情報機関による退職者への接近と、それによる国家機密の漏洩という、中国が直面している国家安全保障上の課題を浮き彫りにするものである。
MSSは声明の中で、近年、特に退職した機密職員の間で、機密保持意識の低下と警戒心の緩みが顕著になっていると指摘している。これらの職員は、在職中に国家機密にアクセスし、その情報を保持していたため、退職後も機密保持の義務を負うが、その認識が不十分であるケースが見られるという。このような状況が、結果として国家の安全と利益に深刻な損害をもたらす国家機密の漏洩につながっているとMSSは強調した。
今回の具体的な事例では、元国有企業の機密性の高い職務に就いていた「Feng(フェン)」という元職員が関与した。Fengは退職後、外国の諜報機関から「コンサルティング料」と称する高額な報酬を提示され、これに誘惑されたとされる。Fengは、以前の職場における現職者との継続的な密接な接触を利用し、中国の主要な産業分野における機密の核心情報を不正に入手していた。この行為は、国家機密を外国の組織に不法に提供するものであり、国家安全保障に対する重大な脅威とみなされた。
国家安全当局による捜査の結果、Fengは「外国の組織に国家機密を不法に提供した罪」で有罪判決を受けた。その刑罰は、懲役6年、政治的権利剥奪2年、および50万人民元(約69,403米ドル)の罰金という重いものであった。この判決は、国家機密の漏洩に対する中国政府の断固たる姿勢を示すものと言える。
MSSは、この事件を通じて、国家機密が国家の安全と利益に直結する極めて重要な情報であることを改めて強調した。そして、いかなる国家機密の開示も、それがいつ、どこで行われたかにかかわらず、法律によって厳しく罰せられることを明確に示した。これは、機密情報を扱う全ての職員、特に退職者に対して、国家機密保持の重要性を再認識させ、同様の事件の再発防止を図るための強い警告であると考えられる。
【要点】
退職した機密職員の国家機密漏洩事件概要
・事件の概要: 中国の国家安全省(MSS)が2025年5月26日に発表したところによると、退職した機密職員が外国情報機関からの高額なコンサルティング料に誘われ、国家機密を漏洩した事件。
・刑罰: 当該職員は懲役6年、政治的権利剥奪2年、および50万元(約69,403ドル)の罰金に処せられた。
MSSによる背景説明と警戒
・問題意識: 近年、機密職員の退職後に機密保持意識の低下と警戒心の緩みが顕著であるとMSSは指摘。
・危険性: 在職中に国家機密にアクセスし、その情報を保持していた元職員が、退職後も機密保持の義務を認識せず、結果的に国家の安全と利益に深刻な損害を与えるケースが発生している。
事件の詳細
・関与者: 元国有企業の機密性の高い職務に就いていた「Feng(フェン)」という元職員。
・誘惑: 退職後、外国の諜報機関から「コンサルティング料」と称する高額な報酬を提示され、誘惑された。
・情報入手経路: 以前の職場の現職者との密接な接触を利用し、中国の主要な産業分野における機密の核心情報を不正に入手した。
・罪状: 「外国の組織に国家機密を不法に提供した罪」で有罪判決を受けた。
MSSの警告とメッセージ
・機密保持義務: MSSは、国家機密は国家の安全と利益に直結する極めて重要な情報であり、機密職員は職を離れた後も機密保持の法的義務があることを強調。
・厳罰化: いかなる国家機密の開示も、時間や場所を問わず、法律によって厳しく罰せられることを明確に示した。
・再発防止: この事件は、機密情報を扱う全ての職員、特に退職者に対して、国家機密保持の重要性を再認識させ、同様の事件の再発防止を図るための強い警告である。
【桃源寸評】💚
1.CIA(アメリカ中央情報局)は近年、YouTubeを含むソーシャルメディアやオンラインストリーミングサービスを活用した人材募集や情報提供の呼びかけを行っている。
特に注目されたのは、2023年5月にCIAがロシア人に向けて公開した「勧誘動画」である。この動画は、ロシアのウクライナ侵攻や国内の状況に不満を持つロシア人に対し、CIAに機密情報を提供するよう呼びかける内容であった。これは、YouTube、テレグラム、Twitter(現X)、Instagram、Facebookなど、様々なプラットフォームで展開された。
CIAがYouTubeなどのソーシャルメディアで募集活動を行う理由としては、以下のような点が挙げられる。
・広範なターゲット層へのリーチ: 従来の大学でのリクルート活動や、特定の専門分野の人材へのアプローチだけでなく、インターネットを利用する幅広い層にメッセージを届けることができる。特に若年層や、特定のスキルを持つ人々へのアピールを強化している。
・「隠れた才能」の発掘: 諜報活動に必要な才能やスキルは多岐にわたり、必ずしも従来の採用経路だけでは見つけられない「隠れた才能」を発掘する狙いがある。
・イメージ戦略: 秘密主義の組織であるCIAのイメージを払拭し、よりオープンでアクセスしやすい組織であることをアピールすることで、優秀な人材の応募を促す意図もある。
・特定国の国民への働きかけ: ロシア人向け動画のように、特定の国の国民に対し、政府への不満や愛国心に訴えかける形で情報提供を促すプロパガンダ的要素も含まれる。検閲が厳しい国でも、YouTubeのようなプラットフォームを通じてメッセージを届けようとする試みである。
・デジタル世代への対応: デジタルネイティブ世代が情報収集やコミュニケーションの主要なツールとしてソーシャルメディアを利用しているため、それに合わせた採用戦略が不可欠となっている。
このように、CIAは時代やテクノロジーの変化に合わせて、採用・情報収集戦略を多様化させていると言える。
・CIAはロシア人向けだけでなく、中国人向けにもYouTubeなどのソーシャルメディアを通じて募集動画を公開しています。 まったくもって露骨なやり方だと言えるでしょう。
2.2025年5月1日頃にも、CIAが中国語(標準中国語)の動画をソーシャルメディアに投稿し、中国政府関係者や一般の中国国民に対し、アメリカのために諜報活動を行うよう呼びかけたことが報じられている。
これらの動画は、以下のような点を特徴としている。
・中国語での制作: メッセージが直接ターゲット層に届くよう、ネイティブスピーカーによる中国語で作成されている。
・心理的訴求: 中国政府への不満、個人的な自由や自己実現への願望、家族の安全といった感情に訴えかける内容が含まれていることが多い。
・接触方法の提示: 匿名でCIAに接触できるウェブサイト(ダークウェブなど)や通信手段が示されており、情報提供者が安心して行動できるよう配慮されているとされる。
・プロパガンダ的要素: アメリカの価値観や民主主義の優位性を強調し、中国政府の体制への疑問を投げかけるようなメッセージも含まれる。
・中国側は当然ながら、このようなCIAの動きを「露骨な政治的挑発」として強く非難している。中国外務省は、アメリカが「卑劣な手段」を用いてスパイ活動を行い、内政に干渉し、外国政府を弱体化させようとしていると批判している。
・このような「露骨な」アプローチは、国際諜報戦における米中間の激しい対立と、情報収集のためにあらゆる手段を講じるというCIAの姿勢を明確に示している。
また、インターネットとソーシャルメディアが現代の諜報活動において、情報収集だけでなく、人材募集や心理戦の重要な舞台となっていることを物語っている。
3.「国家の安全保障のための『必要悪』」という論理は、アメリカが自らを国際社会において特別な存在だと見なしている、一種の「思い上がり」と受け取られかねない側面を持っている。
この「思い上がり」は、具体的に以下のような形で現れると批判される。
アメリカの「例外主義」と「思い上がり」
(1)「世界の警察官」意識
アメリカはしばしば自らを「世界の警察官」と位置づけ、民主主義や自由といった価値観を広める使命があると考えてきた。この意識は、他国の内政に介入し、自国の国益を追求する行為を正当化する根拠となり得る。自国の安全保障が脅かされていると判断すれば、他国の主権を侵害してでも行動することを躊躇しない傾向が見られる。
(2)国際法の「選択的適用」
アメリカは、自国の国益に合致する国際法や条約は尊重する一方で、そうでない場合は従わない、あるいはその適用を限定的に解釈するといった批判を受けることがある。これは、自国の行為を国際法に縛られない「例外」として扱う「思い上がり」と見なされがちである。
(3)モラルハザードの誘発:
「必要悪」という論理は、結果的にどのような手段を用いても正当化されるというモラルハザード(倫理の欠如)を誘発する可能性がある。秘密工作、情報操作、政権転覆といった手段が、目的のためには許容されるという考え方につながり、国際社会の安定を損なう要因となる。
(4)他国からの不信と反発
このような「思い上がり」は、当然ながら他国からの強い不信感と反発を招くことになる。特に、歴史的にアメリカの介入によって苦しんだ国々にとっては、その活動は「犯罪」以外の何物でもなく、自国の主権と尊厳を軽視するものと映る。
(5)国際政治の現実と理想の乖離
もちろん、各国は程度の差こそあれ、自国の安全保障と国益を最優先して行動する。しかし、アメリカの場合、その圧倒的な軍事力、経済力、そして情報収集能力が、その「必要悪」という論理をより強固なものにし、他国への影響力を強める結果となっている。
結局のところ、「思い上がり」は、国際政治における理想(各国が相互に主権を尊重し、平和的に共存する)と現実(各国が自国の利益を追求し、時には秘密裏に他国に介入する)との間の大きな乖離を示していると言える。CIAの活動は、この乖離の最も顕著な現れの一つであり、だからこそ世界中で激しい議論と批判の対象となるのである。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Retired classified employee sentenced to six years for state secrets leak, lured by consulting fees: MSS GT 2025.05.26
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1334835.shtml
退職した機密職員が国家機密漏洩で有罪判決、懲役6年の刑
中国の国家安全省(MSS)は2025年5月26日、退職した機密職員が外国の情報機関からの高額なコンサルティング料に誘惑され、国家機密を漏洩し、懲役6年の刑と罰金に処せられたことを明らかにした。
MSSによると、近年、一部の機密職員が退職後に機密保持意識の低下と警戒心の緩みを見せ、国家機密の漏洩につながり、国家の安全と利益に深刻な損害を与えているという。
国家安全当局の調査で、元職員の「Feng(フェン)」が国有企業の機密性の高い職を退職後、外国の諜報機関から高額な「コンサルティング料」で誘惑されていたことが判明した。Fengは、以前の職場の現職者との密接な接触を悪用し、主要な産業分野における機密の核心情報を入手していた。
Fengは外国の組織に国家機密を不法に提供した罪で有罪となり、懲役6年、政治的権利剥奪2年、および個人資産50万元(約69,403ドル)の罰金が科せられた。
MSSは、機密職員は職を離れた後も機密保持の法的義務があり、彼らは一定量の国家機密情報にアクセスし、それを保有していたと説明している。
MSSはさらに、国家機密は国家の安全と利益に関わるものであり、時間や場所を問わず、いかなる開示も法律によって厳しく罰せられると付け加えた。
【詳細】
退職した機密職員が国家機密漏洩で有罪判決、懲役6年の刑:詳細
中国の国家安全省(MSS)が2025年5月26日に発表したところによると、退職した機密職員による国家機密漏洩事件が発生し、当該職員が懲役6年の有罪判決を受けた。これは、外国情報機関による退職者への接近と、それによる国家機密の漏洩という、中国が直面している国家安全保障上の課題を浮き彫りにするものである。
MSSは声明の中で、近年、特に退職した機密職員の間で、機密保持意識の低下と警戒心の緩みが顕著になっていると指摘している。これらの職員は、在職中に国家機密にアクセスし、その情報を保持していたため、退職後も機密保持の義務を負うが、その認識が不十分であるケースが見られるという。このような状況が、結果として国家の安全と利益に深刻な損害をもたらす国家機密の漏洩につながっているとMSSは強調した。
今回の具体的な事例では、元国有企業の機密性の高い職務に就いていた「Feng(フェン)」という元職員が関与した。Fengは退職後、外国の諜報機関から「コンサルティング料」と称する高額な報酬を提示され、これに誘惑されたとされる。Fengは、以前の職場における現職者との継続的な密接な接触を利用し、中国の主要な産業分野における機密の核心情報を不正に入手していた。この行為は、国家機密を外国の組織に不法に提供するものであり、国家安全保障に対する重大な脅威とみなされた。
国家安全当局による捜査の結果、Fengは「外国の組織に国家機密を不法に提供した罪」で有罪判決を受けた。その刑罰は、懲役6年、政治的権利剥奪2年、および50万人民元(約69,403米ドル)の罰金という重いものであった。この判決は、国家機密の漏洩に対する中国政府の断固たる姿勢を示すものと言える。
MSSは、この事件を通じて、国家機密が国家の安全と利益に直結する極めて重要な情報であることを改めて強調した。そして、いかなる国家機密の開示も、それがいつ、どこで行われたかにかかわらず、法律によって厳しく罰せられることを明確に示した。これは、機密情報を扱う全ての職員、特に退職者に対して、国家機密保持の重要性を再認識させ、同様の事件の再発防止を図るための強い警告であると考えられる。
【要点】
退職した機密職員の国家機密漏洩事件概要
・事件の概要: 中国の国家安全省(MSS)が2025年5月26日に発表したところによると、退職した機密職員が外国情報機関からの高額なコンサルティング料に誘われ、国家機密を漏洩した事件。
・刑罰: 当該職員は懲役6年、政治的権利剥奪2年、および50万元(約69,403ドル)の罰金に処せられた。
MSSによる背景説明と警戒
・問題意識: 近年、機密職員の退職後に機密保持意識の低下と警戒心の緩みが顕著であるとMSSは指摘。
・危険性: 在職中に国家機密にアクセスし、その情報を保持していた元職員が、退職後も機密保持の義務を認識せず、結果的に国家の安全と利益に深刻な損害を与えるケースが発生している。
事件の詳細
・関与者: 元国有企業の機密性の高い職務に就いていた「Feng(フェン)」という元職員。
・誘惑: 退職後、外国の諜報機関から「コンサルティング料」と称する高額な報酬を提示され、誘惑された。
・情報入手経路: 以前の職場の現職者との密接な接触を利用し、中国の主要な産業分野における機密の核心情報を不正に入手した。
・罪状: 「外国の組織に国家機密を不法に提供した罪」で有罪判決を受けた。
MSSの警告とメッセージ
・機密保持義務: MSSは、国家機密は国家の安全と利益に直結する極めて重要な情報であり、機密職員は職を離れた後も機密保持の法的義務があることを強調。
・厳罰化: いかなる国家機密の開示も、時間や場所を問わず、法律によって厳しく罰せられることを明確に示した。
・再発防止: この事件は、機密情報を扱う全ての職員、特に退職者に対して、国家機密保持の重要性を再認識させ、同様の事件の再発防止を図るための強い警告である。
【桃源寸評】💚
1.CIA(アメリカ中央情報局)は近年、YouTubeを含むソーシャルメディアやオンラインストリーミングサービスを活用した人材募集や情報提供の呼びかけを行っている。
特に注目されたのは、2023年5月にCIAがロシア人に向けて公開した「勧誘動画」である。この動画は、ロシアのウクライナ侵攻や国内の状況に不満を持つロシア人に対し、CIAに機密情報を提供するよう呼びかける内容であった。これは、YouTube、テレグラム、Twitter(現X)、Instagram、Facebookなど、様々なプラットフォームで展開された。
CIAがYouTubeなどのソーシャルメディアで募集活動を行う理由としては、以下のような点が挙げられる。
・広範なターゲット層へのリーチ: 従来の大学でのリクルート活動や、特定の専門分野の人材へのアプローチだけでなく、インターネットを利用する幅広い層にメッセージを届けることができる。特に若年層や、特定のスキルを持つ人々へのアピールを強化している。
・「隠れた才能」の発掘: 諜報活動に必要な才能やスキルは多岐にわたり、必ずしも従来の採用経路だけでは見つけられない「隠れた才能」を発掘する狙いがある。
・イメージ戦略: 秘密主義の組織であるCIAのイメージを払拭し、よりオープンでアクセスしやすい組織であることをアピールすることで、優秀な人材の応募を促す意図もある。
・特定国の国民への働きかけ: ロシア人向け動画のように、特定の国の国民に対し、政府への不満や愛国心に訴えかける形で情報提供を促すプロパガンダ的要素も含まれる。検閲が厳しい国でも、YouTubeのようなプラットフォームを通じてメッセージを届けようとする試みである。
・デジタル世代への対応: デジタルネイティブ世代が情報収集やコミュニケーションの主要なツールとしてソーシャルメディアを利用しているため、それに合わせた採用戦略が不可欠となっている。
このように、CIAは時代やテクノロジーの変化に合わせて、採用・情報収集戦略を多様化させていると言える。
・CIAはロシア人向けだけでなく、中国人向けにもYouTubeなどのソーシャルメディアを通じて募集動画を公開しています。 まったくもって露骨なやり方だと言えるでしょう。
2.2025年5月1日頃にも、CIAが中国語(標準中国語)の動画をソーシャルメディアに投稿し、中国政府関係者や一般の中国国民に対し、アメリカのために諜報活動を行うよう呼びかけたことが報じられている。
これらの動画は、以下のような点を特徴としている。
・中国語での制作: メッセージが直接ターゲット層に届くよう、ネイティブスピーカーによる中国語で作成されている。
・心理的訴求: 中国政府への不満、個人的な自由や自己実現への願望、家族の安全といった感情に訴えかける内容が含まれていることが多い。
・接触方法の提示: 匿名でCIAに接触できるウェブサイト(ダークウェブなど)や通信手段が示されており、情報提供者が安心して行動できるよう配慮されているとされる。
・プロパガンダ的要素: アメリカの価値観や民主主義の優位性を強調し、中国政府の体制への疑問を投げかけるようなメッセージも含まれる。
・中国側は当然ながら、このようなCIAの動きを「露骨な政治的挑発」として強く非難している。中国外務省は、アメリカが「卑劣な手段」を用いてスパイ活動を行い、内政に干渉し、外国政府を弱体化させようとしていると批判している。
・このような「露骨な」アプローチは、国際諜報戦における米中間の激しい対立と、情報収集のためにあらゆる手段を講じるというCIAの姿勢を明確に示している。
また、インターネットとソーシャルメディアが現代の諜報活動において、情報収集だけでなく、人材募集や心理戦の重要な舞台となっていることを物語っている。
3.「国家の安全保障のための『必要悪』」という論理は、アメリカが自らを国際社会において特別な存在だと見なしている、一種の「思い上がり」と受け取られかねない側面を持っている。
この「思い上がり」は、具体的に以下のような形で現れると批判される。
アメリカの「例外主義」と「思い上がり」
(1)「世界の警察官」意識
アメリカはしばしば自らを「世界の警察官」と位置づけ、民主主義や自由といった価値観を広める使命があると考えてきた。この意識は、他国の内政に介入し、自国の国益を追求する行為を正当化する根拠となり得る。自国の安全保障が脅かされていると判断すれば、他国の主権を侵害してでも行動することを躊躇しない傾向が見られる。
(2)国際法の「選択的適用」
アメリカは、自国の国益に合致する国際法や条約は尊重する一方で、そうでない場合は従わない、あるいはその適用を限定的に解釈するといった批判を受けることがある。これは、自国の行為を国際法に縛られない「例外」として扱う「思い上がり」と見なされがちである。
(3)モラルハザードの誘発:
「必要悪」という論理は、結果的にどのような手段を用いても正当化されるというモラルハザード(倫理の欠如)を誘発する可能性がある。秘密工作、情報操作、政権転覆といった手段が、目的のためには許容されるという考え方につながり、国際社会の安定を損なう要因となる。
(4)他国からの不信と反発
このような「思い上がり」は、当然ながら他国からの強い不信感と反発を招くことになる。特に、歴史的にアメリカの介入によって苦しんだ国々にとっては、その活動は「犯罪」以外の何物でもなく、自国の主権と尊厳を軽視するものと映る。
(5)国際政治の現実と理想の乖離
もちろん、各国は程度の差こそあれ、自国の安全保障と国益を最優先して行動する。しかし、アメリカの場合、その圧倒的な軍事力、経済力、そして情報収集能力が、その「必要悪」という論理をより強固なものにし、他国への影響力を強める結果となっている。
結局のところ、「思い上がり」は、国際政治における理想(各国が相互に主権を尊重し、平和的に共存する)と現実(各国が自国の利益を追求し、時には秘密裏に他国に介入する)との間の大きな乖離を示していると言える。CIAの活動は、この乖離の最も顕著な現れの一つであり、だからこそ世界中で激しい議論と批判の対象となるのである。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Retired classified employee sentenced to six years for state secrets leak, lured by consulting fees: MSS GT 2025.05.26
https://www.globaltimes.cn/page/202505/1334835.shtml