ルッテ事務総長:脅威の多国間連携2024年11月24日 18:01

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【桃源寸評】

 しかし、NATO、前任のNATO事務総長は イェンス・ストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)も非常に好戦的な言辞を弄していたが、どうやら後継者も同様であるようだ。

 前任者は、2014年10月1日にNATO事務総長に就任し、数回の任期延長を経て約10年間その職を務めた。彼の任期中、NATOは以下のような重要な課題に直面したのである。

 ・ロシアによるクリミア併合(2014年)

 ストルテンベルグは、ロシアのウクライナへの侵攻に対するNATOの対応を主導し、東ヨーロッパ諸国への防衛強化策を進めた。

 ・ウクライナ戦争(2022年~)

 NATOとしての団結を促進し、加盟国にウクライナへの軍事・人道支援の提供を求めた。

 ・防衛費増額の推進

 NATO加盟国にGDPの2%以上を防衛予算に割り当てる目標を支持し、同盟国間の公平な負担分担を強調。

 ・中国の台頭に対する戦略

 初めて中国を「安全保障上の課題」として取り上げ、インド太平洋地域のパートナーとの協力を強化。

 ストルテンベルグの任期は当初2022年9月に終了する予定であったが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて2023年10月まで延長され、その後さらに延長された。彼の後任として、2024年にマーク・ルッテが事務総長に就任した。

【寸評 完】

【概要】

 アメリカのドナルド・トランプ次期大統領が2024年11月22日(金)にフロリダ州パームビーチでNATO事務総長のマーク・ルッテと初会談を行った。この会談では、NATOが直面する「グローバルな安全保障上の課題」について議論が行われたと、NATOの広報担当ファラー・ダクラーラが23日(土)に声明を発表した。

 トランプ氏は初めての大統領任期中、ヨーロッパ諸国に対して防衛費の増額を強く求め、NATOのトランスアトランティック(大西洋横断)同盟の公平性について疑問を投げかけた経緯がある。

 ルッテ事務総長は、トランプ氏が11月5日の選挙で当選した2日後、会談を希望しており、ロシアと北朝鮮の関係がさらに深まる可能性について話し合いたい意向を示していた。

トランプ氏が大差で再びアメリカ大統領に選出されたことは、ヨーロッパ諸国にとって神経を尖らせる出来事となっており、トランプ氏がウクライナへの重要な軍事援助を打ち切る可能性が懸念されている。

 NATOの同盟国は、モスクワとの戦いにおいてウクライナを支援し続けることがヨーロッパおよびアメリカの安全保障にとって重要であると主張している。

 ルッテ事務総長は最近ブダペストで開催されたヨーロッパの首脳会議で、「北朝鮮、イラン、中国、そしてもちろんロシアがウクライナに対抗するために協力しているのをますます目にする」と述べた。また、「ロシアはその代償を支払う必要があるが、その一つが北朝鮮に技術を提供することであり、それがアメリカ本土およびヨーロッパ大陸にとって脅威となっている」と警告している。

 ルッテ事務総長は「ドナルド・トランプ氏と協力してこれらの脅威にどのように対応できるかを話し合うことを楽しみにしている」と述べている。

【詳細】

 2024年11月22日、アメリカの次期大統領ドナルド・トランプとNATO事務総長マーク・ルッテがフロリダ州パームビーチで初めて公式に会談を行った。この会談のテーマは、NATOが直面している「グローバルな安全保障上の課題」であり、NATOの広報担当者であるファラー・ダクラーラ氏によれば、同盟の将来に関わる重要な議題が話し合われたとされている。

 トランプ氏のこれまでのNATOへの姿勢

 トランプ氏は以前の大統領任期中、NATO加盟国に対して防衛予算をGDPの2%以上に増額するよう強く求めたことで知られている。また、NATOが掲げる集団防衛の原則に対して疑念を表明し、同盟関係の公平性を再評価する必要性を主張した。このため、ヨーロッパ諸国ではトランプ氏が再び大統領に選出されたことが懸念材料となっており、特にウクライナへの軍事支援の継続が不透明になる可能性が警戒されている。

 会談の背景と議題

 NATO事務総長のマーク・ルッテは、11月5日にトランプ氏が選挙で当選した直後、早期の会談を希望していた。彼は、特にロシアと北朝鮮の関係強化がもたらす地政学的なリスクについて話し合いたいとの意向を示していた。この背景には、ウクライナ戦争が続く中で、ロシアが北朝鮮との技術協力を通じて軍事力を強化しているという懸念がある。

 ルッテ氏は最近のブダペストでのヨーロッパ首脳会議において、次のように述べている。

 1.脅威の多国間連携: 「北朝鮮、イラン、中国、そしてもちろんロシアが、ウクライナに対抗するために協力を強めている。」
ロシアの行動とその影響: 「ロシアはその代償を支払う必要がある。北朝鮮に技術を提供することで、結果としてアメリカ本土やヨーロッパ大陸への脅威が増大している。」
 2.NATOの役割: ウクライナ支援を継続し、ヨーロッパおよびアメリカの安全保障を確保することが同盟全体にとって不可欠であると強調。

 トランプ氏との会談の意図

 ルッテ氏はトランプ氏との会談を通じて、次期政権がNATOとの協力を維持し、特にウクライナ戦争への支援を継続する方針を確認することを目指している。また、北朝鮮やロシアとの関係が深化する中で、同盟国がどのように連携してこれらの脅威に対処するかを議論する場となると期待されている。

 ヨーロッパ諸国の懸念

 トランプ氏の再選は、ウクライナへの支援が弱体化する可能性を含んでいる。トランプ氏が過去に示した孤立主義的政策は、ヨーロッパ諸国に不安を与えており、ウクライナ戦争におけるアメリカの軍事的役割が縮小する場合、NATO全体の安全保障に影響が及ぶことが懸念されている。

 トランプ氏の新たな政権がどのようにNATOとの協力を再定義し、世界的な安全保障課題に対応していくかが、今後の焦点となっている。

【要点】 
 
 1.会談の日時と場所

 ・2024年11月22日(金)にフロリダ州パームビーチで実施。

 2.参加者

 ・アメリカ次期大統領ドナルド・トランプとNATO事務総長マーク・ルッテ。

 3.会談の目的

 ・NATOが直面する「グローバルな安全保障上の課題」について議論。

 4.背景

 ・トランプ氏は大統領1期目にNATO加盟国へ防衛費の増額を要求し、同盟の公平性に疑問を呈した経緯がある。
 ・トランプ氏の再選はウクライナへの軍事支援の継続に対する懸念を生んでいる。

 5.議題の具体的内容

 ・北朝鮮・ロシアの関係深化
  
  ロシアが北朝鮮に技術を提供している可能性がアメリカ本土やヨーロッパへの脅威になるとルッテ氏が指摘。

 ・多国間連携の課題

 北朝鮮、イラン、中国、ロシアが連携してウクライナや西側諸国に対抗している現状を共有。

 ・ウクライナ支援の継続

 ウクライナ戦争への支援を維持する必要性を確認し、NATO同盟の結束強化を模索。

 6.ヨーロッパ諸国の懸念

 ・トランプ氏がウクライナへの軍事支援を縮小する可能性がNATOの安全保障体制に影響を及ぼすと懸念。

 7.ルッテ氏の発言

 「ロシアの行動が北朝鮮を通じて新たな脅威を生んでいる」
「これらの脅威にNATOとアメリカがどのように対応するかを話し合う必要がある。」

 8.今後の焦点

 トランプ氏の新政権がNATOとの協力をどのように維持・発展させるか。
ウクライナ戦争や北朝鮮・ロシア問題に対するアメリカの姿勢が注目されている。

【引用・参照・底本】

Trump holds first meeting with NATO chief Rutte since election, talks focused on ‘global security’FRANCE24 2024.11.23
https://www.france24.com/en/americas/20241123-trump-holds-first-meeting-with-nato-chief-rutte-since-election-talks-focused-on-global-security?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-info-en&utm_email_send_date=%2020241123&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D

COP29最終草案:「豊かな国々による人々と地球への裏切り」2024年11月24日 18:50

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【概要】

 COP29の最終草案では、2035年までに少なくとも年間3000億ドルを開発途上国に供与することが提案されている。これは、化石燃料依存からの脱却と気候変動への適応を支援する目的で、バクー(アゼルバイジャン)で開催されている国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)で発表されたものである。しかし、いくつかの開発途上国は、この額では十分でないとし、より大きな支援を求めている。

 現在の年間1000億ドルの支援と、開発途上国が求めている年間1.3兆ドルとの間を埋める妥協案として、この「少なくとも3000億ドル」という提案が練られた。最貧国グループ(Least Developed Countries)の交渉代表であるエバンズ・ンジェワ氏は、この金額について具体的なコメントを避けつつも「価値のある提案であり、さらに改善を望む」と述べている。フィジーの代表団長ビマン・プラサド氏も「すべての関係者が合意を望んでいる」としつつも、完全に満足しているわけではないとした。

 自然資源保護協議会(NRDC)の会長、マニッシュ・バプタ氏は「この金額は最低限の基準であり、上限ではない。資金増額の圧力は今後さらに高まるだろう」と述べ、道徳的責任だけでなく人類の存続と繁栄にとっても重要であると強調した。

 一方で、批判の声も大きい。インド・ニューデリーを拠点とする科学環境センター(CSE)のアヴァンティカ・ゴスワミ氏は「グローバル・ノースはグローバル・サウスを見捨てた」と指摘し、このプロセスへの信頼回復の機会を逃したと非難した。アフリカのシンクタンク「Power Shift Africa」のモハメド・アドウ氏も「豊かな国々による人々と地球への裏切り」と批判している。パナマのフアン・カルロス・モンテレイ氏は、X(旧Twitter)に「この提案は我々の未来にとって容認できない」と投稿し、目標額が依然として低すぎると訴えた。

 交渉過程では、各国が一堂に会して議論する場から、紛争のある国々が個別に集まる形へと進展した。土曜日の午後にはアゼルバイジャンの議長が3000億ドルを提案する草案を非公式に提示したが、アフリカ諸国や小島嶼国に却下された。その後、最貧国グループや小島嶼国連合(AOSIS)の代表団が会場を去る場面も見られた。

 COP29議長のムフタル・ババイェフ氏は、土曜日遅くに争点の少ない項目を次々と可決し、その中には排出権取引を含む「第6条」も含まれていた。しかし、同条項は「排出削減の実効性を欠き、目標達成を妨げる」として批判も強かった。

 開発途上国の交渉担当者は、豊かな国々が交渉の終盤で時間切れを狙った消耗戦術を取っていると非難した。パナマ代表のモンテレイ氏は「このプロセスが失敗すれば、それは地球と人類にとって致命的な打撃となる」と述べ、交渉の重要性を強調した。

【詳細】

 COP29の最終草案では、2035年までに少なくとも年間3000億ドルを開発途上国に供与することが提案されている。この資金は、化石燃料への依存を減らし、気候変動の影響に適応するための取り組みを支援する目的で、気候変動に対して最も脆弱な国々に対する援助として位置づけられている。今回の提案は、これまでの年間1000億ドルの支援目標と、開発途上国が求める年間1.3兆ドルの目標の間を埋める妥協案とみなされている。

 開発途上国の反応

 この提案に対し、最貧国グループ(Least Developed Countries, LDC)の代表であるエバンズ・ンジェワ氏は、金額について具体的なコメントは避けたものの、「この提案は一定の価値があり、さらに良い結果を期待する」と述べた。また、フィジーの代表団長ビマン・プラサド氏は「すべての関係者が合意を目指している」と前向きな姿勢を示した。しかし、同時に「満足しているわけではない」とし、現状の提案は完全に理想的ではないことを示唆した。

 自然資源保護協議会(Natural Resources Defense Council, NRDC)の会長、マニッシュ・バプタ氏は「この金額は最低限の基準であり、決して上限ではない」と述べ、今後さらに資金提供の増額が求められるだろうと予測した。彼はまた、「この支援は道徳的責任であると同時に、人類の存続と繁栄に不可欠である」と強調している。

 批判と不満

 一方で、批判的な意見も多く聞かれる。ニューデリーを拠点とする科学環境センター(Centre for Science and Environment, CSE)のアヴァンティカ・ゴスワミ氏は、「グローバル・ノースはグローバル・サウスを見捨てた」と厳しく非難し、今回の提案を「多国間プロセスへの信頼を回復する最後のチャンスを逃したもの」と位置づけた。また、アフリカのシンクタンク「Power Shift Africa」のモハメド・アドウ氏は、今回の提案を「豊かな国々による人々と地球への裏切り」と述べている。

 さらに、パナマ代表のフアン・カルロス・モンテレイ氏は、X(旧Twitter)で「この提案は未来にとって受け入れがたい」と述べ、目標額が依然として低すぎる点を強調した。

 交渉過程の詳細

 土曜日、交渉は多国間会合から、対立する国々が個別に集まる形へと進行した。土曜日午後には、COP29議長であるアゼルバイジャンのムフタル・ババイェフ氏が3000億ドルという草案を非公式に提示したが、アフリカ諸国や小島嶼国(Small Island Developing States, SIDS)により即座に却下された。これに対し、最貧国グループや小島嶼国連合(Alliance of Small Island States, AOSIS)の代表団は会場を去るなど、不満が表面化した。

 コロンビアの環境大臣スサナ・モハメド氏は、この出来事について「抗議というよりも強い不満の表明だ」と述べた。最終的に、各国代表が合意に至るためには、多くの課題が残されている。

 第6条の採択とその問題

 また、議論の余地が少ないとされた項目については、土曜日遅くに次々と可決された。その中には、排出権取引を規定する「第6条」が含まれていた。この条項は、汚染者が排出量削減のために炭素クレジットを購入できる市場メカニズムを提供するものだが、多くの批判を集めている。先住民環境ネットワーク(Indigenous Environmental Network)のタマラ・ギルバートソン氏は「このメカニズムは排出削減を実現できず、1.5度目標を妨げている」と指摘した。

 政策専門家であるイサ・ムルダー氏も「第6条の欠陥は残ったままであり、予防措置を講じる代わりに不十分なルールを受け入れる形となった」と述べ、各国がその後の影響を軽視した結果だと批判している。

 議長国の視点と疲弊する交渉者たち

 アゼルバイジャン議長は、今回の交渉を成功と位置づけ、第6条の採択により「排出削減のための重要なツールが解放された」と主張した。一方で、開発途上国の代表者たちは、交渉が長引く中で次第に疲弊していった。パナマのモンテレイ氏は「豊かな国々は、交渉を引き延ばすことで私たちを弱らせる。彼らには大規模な代表団があるが、私たちは限られたリソースしかない」と語った。

 彼はまた「合意が得られなければ、このプロセス、地球、人類にとって致命的な打撃となるだろう」と述べ、交渉の重要性を強調した。

 今後の展望

 最終的な合意案が採択されるかどうかは不透明である。3000億ドルの提案が進展の一歩となるのか、それとも開発途上国のさらなる不満を呼び起こすのか、引き続き注視が必要である。気候変動という地球規模の課題に対し、各国がどのように妥協と協力を進めるのかが試されている。

【要点】 
 
 COP29最終草案のポイント(箇条書き)

 1.資金提案の概要

 ・2035年までに先進国が年間3000億ドルを開発途上国に供与することを提案。
 ・現行の年間1000億ドルからの増額だが、途上国が求める1.3兆ドルには遠く及ばない。

 2.開発途上国の反応

 ・LDC(最貧国グループ)のエバンズ・ンジェワ氏:「金額は一定の価値があるが、さらに良い結果を期待する」とコメント。
 ・フィジー代表団:「完全には満足していないが、合意を目指す姿勢は共有している」と表明。
 ・自然資源保護協議会(NRDC)の会長:「最低限の基準であり、将来的に増額が求められる」。

 3.批判と不満

 ・CSE(科学環境センター)のアヴァンティカ・ゴスワミ氏:「グローバル・ノース(先進国)はグローバル・サウス(途上国)を見捨てた」と非難。
 ・アフリカのシンクタンク「Power Shift Africa」のモハメド・アドウ氏:「豊かな国々による人々と地球への裏切り」。
 ・パナマ代表のフアン・カルロス・モンテレイ氏:「この提案は受け入れがたく、目標額が低すぎる」と批判。

 4.交渉過程の詳細

 ・土曜日には大規模会合から個別会議へ移行。
 ・アゼルバイジャン議長が「3000億ドル」の草案を非公式に提示するも、アフリカ諸国や小島嶼国から拒絶される。
 ・最貧国グループや小島嶼国連合が一時的に会場を離れる事態も発生。

 5.第6条の採択

 ・排出権取引に関するメカニズムを含む第6条が採択されたが、多くの批判が寄せられる。
 ・批判例:排出権取引が実効性を欠き、1.5度目標を妨げるとの指摘(先住民環境ネットワーク、政策専門家など)。

 6.議長国の主張と交渉の困難

 ・アゼルバイジャン議長は第6条の採択を「排出削減のための重要なツール」と評価。
 ・パナマ代表が「先進国は交渉を引き延ばし、途上国を弱らせる」と批判。

 7.今後の展望

 ・最終草案が採択されるかは不透明。
 ・3000億ドルの提案が進展の一歩となるか、さらなる不満を招くかが注目されている。

【引用・参照・底本】

COP29 final draft proposes 'at least' $300 billion for developing countries FRANCE24 2024.11.23
https://www.france24.com/en/asia-pacific/20241123-rich-nations-raise-cop29-climate-finance-offer-in-bid-to-rescue-stalled-talks?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020241124&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D

西側の官僚層:衰退する覇権を維持しようと執着2024年11月24日 19:19

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【概要】

 ロシア連邦対外情報庁(SVR)の長官であるセルゲイ・ナルイシキンは、『ナショナル・ディフェンス』誌のインタビューで、彼がどのように世界を見ているかについての見解を示した。彼の主張によれば、西側諸国は弱体化しているものの、ドルは依然として普遍的な通貨である。グローバルサウス(発展途上国)は、西側からの技術や投資を受け取ることに慎重であり、その理由は主権を犠牲にする代償を望まないためである。また、西側の接触やグローバル改革の約束に対して懐疑的な態度を取っているという。

 ナルイシキンは、ユーラシアというマクロ地域の歴史的な台頭が西側諸国の衰退と並行して進んでいると指摘した。多極化の進展はユーラシアで特に顕著であり、そのため西側は「分割統治」の策略を通じてこの地域を狙っていると述べた。しかし、このような策略は最終的に、ユーラシア大陸に安定をもたらす安全保障構造の形成を促進すると見られている。現時点で最大の脅威は、ウクライナを通じたNATOによるロシアへの代理戦争であるが、ロシアの核ドクトリンの更新により、戦略的な敗北は不可能とされている。

 ナルイシキンは、西側の官僚層の専門性の低下が、ウクライナを通じてロシアを戦略的に敗北させるという誤算を招いたと非難した。これらの官僚は、自国の人々の生活水準を犠牲にしてでも、西側の衰退する覇権を維持しようと執着しているという。また、「そのようなシニカルな政治的茶番に参加できるのは無知な者か卑劣な者だけだ」と述べ、ウクライナを支援することが国益にかなうと人々を誤解させたことを批判した。

 さらに、2023年9月にアメリカとイギリスの諜報機関トップが共同で『フィナンシャル・タイムズ』に発表した記事についても言及し、それを「現代西洋文明の問題点の証拠」とした。もし計画が順調であるならば、公的な場で組織の活動を正当化する必要はないはずだ、と指摘している。その後の発言では、SVRの歴史、業務、および未来の応募者へのアドバイスに触れた。

 SVRは、世界の不可逆的なトレンド、すなわち西側諸国の衰退とユーラシアの台頭を認識しているが、どちらのトレンドもまだ頂点に達しておらず、予期せぬ展開があり得ると見ている。そのため、こうしたトレンドに関する特権的な情報を収集し、分析に組み込み、政策立案者に情報を提供することがSVRの重要な役割である。

 ユーラシア安全保障構造の創設という目標は野心的であるが、それがロシアの公式な長期目標である点に意味がある。この目標の実現には多くの課題があり、特に中国とインド間の信頼不足やインドとパキスタン、さらにはインドとバングラデシュ間の問題が挙げられる。また、南シナ海における中国とベトナムの海洋紛争や、イランとサウジアラビア間の疑念なども解決が必要である。これらの問題を解消するにはロシアの調停能力が重要であり、各国に提案を行うことが期待されている。

 ロシアは、NATOとのウクライナ戦争を軍事的に克服する手段と、アメリカの策略に関する諜報情報を各国に提供する秘密活動を通じて、ユーラシアのマクロ地域としての統合における重要な役割を果たしている。経済的手段はこれらのプロセスを加速させるために必要だが、それだけでは限界があるため、ロシアの軍事的・秘密活動の役割と中国やインドなどの経済的手段との連携がさらに求められる。

 最後に、ロシア・インド・中国(RIC)枠組みが今後の多極化の進展において最も重要であるとし、それに次ぐ枠組みとしてBRICSや上海協力機構(SCO)を挙げている。特に、中国とインド間の関係改善が成功すれば、世界は大きく変化すると予想されているが、ロシアはそれを奨励しつつも介入は控える方針である。

【詳細】

 セルゲイ・ナルイシキンによる発言は、ロシアが現在の国際情勢をどのように評価し、未来を見据えてどのような戦略を構築しているかを示す重要な内容である。以下に、彼の発言内容とその背景をさらに詳細に説明する。

 西側諸国の現状評価

 ナルイシキンは、西側諸国が弱体化していると明言したが、その一方でドルが未だ普遍的な通貨としての地位を保っている点を指摘した。これは、アメリカとその同盟国が依然として経済的影響力を維持していることを示すが、同時にその支配力がかつてほど強固ではないことも意味している。特にグローバルサウス諸国が、西側から技術や投資を受け取る際に、主権の喪失を代償として求められる状況に不満を持ち、警戒感を強めているという指摘は、西側諸国の「援助外交」の信頼性が低下している現実を反映している。

 加えて、西側の「改革」提案や外交的アプローチに対する懐疑心も高まっている。これには、アフリカやアジア、中南米の国々が、西側諸国がこれまでに提示した国際的な約束や協定が実現されなかった過去の経験が背景にある。ナルイシキンの言葉は、ロシアがこうした状況を利用して、これらの国々とより深い協力関係を構築しようとしていることを示唆している。

 ユーラシア台頭と安全保障構造
 
 ナルイシキンは、ユーラシアというマクロ地域の台頭が歴史的で不可逆的なものであると述べた。この地域は多極化の中心地となっており、西側の衰退と対照的に新たな国際秩序の形成を牽引していると評価される。特に、ロシアはこの地域において「ユーラシア安全保障構造」を形成するという長期目標を掲げており、この構造が安定と繁栄をもたらす基盤になると期待されている。

 しかし、この目標の実現には多くの課題が存在する。例えば、インドと中国の間には国境紛争や地政学的競争による長年の不信感があり、インドとパキスタンの対立は依然として根深い。さらに、最近ではインドとバングラデシュの間にも緊張が見られ、これがアメリカの後押しによる政権交代工作に関連している可能性が指摘されている。また、南シナ海における中国とベトナムの領有権争いや、イランとサウジアラビア間の根強い疑念など、多くの複雑な問題が未解決のままである。

 これらの課題に対して、ロシアは両者に良好な関係を持つ国家として、調停役を果たす可能性がある。ロシアが直接的な仲介に乗り出すか、またはアドバイザー的な立場で支援するかは状況によるが、ユーラシアの安全保障構造の構築において重要な役割を果たすであろう。

 NATOとの対立と諜報活動

 ナルイシキンは、NATOによるウクライナを通じた代理戦争を「現在最大の脅威」と位置づけたが、ロシアの核ドクトリンの更新によって「戦略的敗北は不可能」であると述べている。この核ドクトリンの更新は、ロシアが自国の生存を確保するための明確なラインを引いたものであり、いかなる国であれこれを越えることはロシア側からの断固たる反撃を招くとされる。

 また、西側諸国の官僚層における専門性の低下が、ウクライナでの戦争を通じてロシアを戦略的に敗北させるという誤算を引き起こしたと批判した。この失策は、単なる戦略的ミスではなく、西側の政治家や官僚が自国民の生活水準を犠牲にしてでも覇権を維持しようとする「無責任な執着」に起因すると指摘されている。

 さらに、諜報活動の公開による正当化が必要になっていることを「西洋文明の問題点」とし、これが西側の政策が失敗しつつある証拠であると主張した。

 多極化と国際協力の未来
 
 ナルイシキンの発言から、ロシアが国際秩序の多極化をどのように加速させようとしているかが読み取れる。特に、ロシア・インド・中国(RIC)の枠組みが、多極化の進展を促進する鍵であるとされている。この枠組みが円滑に機能すれば、ユーラシア全体の統合が進むと予想される。さらに、このRIC枠組みは、BRICSや上海協力機構(SCO)の中核を成す軸として位置づけられている。

 中国とインドの関係改善が特に重要であり、これが成功すればユーラシア全体、さらには世界の政治経済情勢に大きな変化をもたらすと見られている。ロシアはこの改善を奨励するが、過度に介入することは避ける方針を取っている。この姿勢は、ロシアが調停役や仲介者としての信頼性を高めるための戦略でもある。

 総じて、ロシアは軍事的手段と秘密活動を組み合わせ、さらに経済的手段を担う中国やインドと連携することで、ユーラシアの統合を進め、多極化を加速させることを目指している。その過程で、アメリカの分割統治政策を妨害し、信頼醸成を通じて地域紛争の解決を支援する役割を果たす見込みである。

【要点】 
 
 1.西側諸国の現状と課題

 ・西側諸国は弱体化しているが、ドルは依然として普遍的な通貨としての地位を維持している。
 ・グローバルサウス諸国は、西側からの技術や投資に対し、主権を代償にすることを警戒し、不信感を強めている。
 ・西側の「改革」提案や外交アプローチへの懐疑心が高まり、過去の未履行の約束が背景にある。

 2.ユーラシアの台頭とロシアの戦略

 ・ユーラシア地域は多極化の中心地であり、歴史的な台頭を遂げている。
ロシアは「ユーラシア安全保障構造」の構築を目指しており、これが地域の安定と繁栄を支える基盤になると期待。
 ・中国・インド、インド・パキスタン、中国・ベトナム、イラン・サウジアラビアなど、ユーラシア内には未解決の対立や不信感が多く存在。
 ・ロシアはこれらの対立において、良好な関係を持つ国々の間で調停役や助言者としての役割を果たす立場にある。

 3.NATOとの対立と核ドクトリン

 ・NATOによるウクライナを通じた代理戦争が、ロシアにとって最大の脅威と位置づけられている。
 ・ロシアの核ドクトリンの更新により、ロシアの「戦略的敗北は不可能」とナルイシキンは主張。
 ・西側の官僚層の専門性の低下が、ウクライナ戦争を通じたロシアの敗北という誤算を引き起こしたと批判。
・西側の政治家は、国民の生活水準を犠牲にしてでも覇権を維持しようとしていると非難。

 4.多極化と国際協力

 ・ロシア・インド・中国(RIC)の枠組みが多極化推進の鍵となる。
 ・RICはBRICSや上海協力機構(SCO)の中核を形成する重要な枠組みと位置づけられている。
 ・中国とインドの関係改善が成功すれば、ユーラシア全体の統合が進み、世界に大きな変化をもたらす。
 ・ロシアはこの関係改善を奨励するが、直接介入は避ける方針を取る。

 5.経済的・軍事的連携の重要性

 ・ロシアは軍事力と秘密活動を活用し、ユーラシアの統合を推進。
 ・経済的手段を担う中国やインドと連携することで、多極化を加速。
 ・アメリカの分割統治政策を妨害し、信頼醸成を通じて地域紛争の解決を支援。

【引用・参照・底本】

Russia’s Foreign Spy Chief Briefly Explained How He Sees The World Andrew Korybko's Newsletter 2024.11.24
https://korybko.substack.com/p/russias-foreign-spy-chief-briefly

ハイパーグラビティ2024年11月24日 21:17

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【概要】

 中国の「遠心加重(ハイパーグラビティ)および学際実験施設(CHIEF)」は、地球の表面重力の数千倍の重力を発生させることができる、世界最先端の加重機械であり、科学者たちはこれを利用して、山岳の形成やダム崩壊などの自然現象を再現するための研究を進めている。この施設は、さまざまな工学的課題を解決するための学際的な科学プラットフォームを提供することが期待されている。

 CHIEFの計画は、2018年に中国の国家発展改革委員会(NDRC)によって承認され、2020年に建設が開始された。施設は中国・浙江省杭州市に所在し、浙江大学の科学者たちが監修している。施設には主に3つの大規模な加重遠心機と18の搭載ユニットがあり、最初の遠心機の主要エンジンがすでに設置されている。残りの2つの遠心機と10の搭載ユニットは現在製作中である。

 地球の重力(1g)を超える重力は「ハイパーグラビティ」と呼ばれ、例えば宇宙飛行士が宇宙船から地球に戻る際には4gの重力を受け、体重の4倍の力がかかる。このような過酷な条件を再現するハイパーグラビティ遠心機は、日常の環境では存在しない極端な物理的条件を作り出すため、革新的な研究ツールとされている。

 CHIEFの目的は、時間と空間を「圧縮」し、複雑な物理学の問題に関する研究を行うことだ。例えば、科学者は自然界では何万年もかかるような汚染物質の移動を観察することができる。また、深海や深地球工学など、多岐にわたる分野での研究が進められており、特に深海工学においては、天然ガスハイドレートの実用化に向けた研究が期待されている。天然ガスハイドレートは、海底や永久凍土に存在する可燃性の氷で、将来のクリーンエネルギー源として有望視されている。

 CHIEFは、2016年から2020年の間に中国の13次5カ年計画の一環として、20億元(約276億円)以上の予算で建設され、10大国家科学技術インフラプロジェクトの一つとして位置づけられている。

【詳細】

 中国の「遠心加重(ハイパーグラビティ)および学際実験施設(CHIEF)」は、重力が地球の表面重力の数千倍に達する「ハイパーグラビティ」の環境を作り出すことができる施設であり、これにより、自然現象や工学的問題の解決に向けた研究が進められている。この施設は、浙江省杭州市に位置し、浙江大学の科学者たちの監修の下で開発されている。施設の主要な目的は、極限的な物理的条件を再現し、さまざまな分野での実験を通じて、科学的な発見や技術革新を加速させることだ。

 CHIEFの概要と設計

 CHIEFは、ハイパーグラビティの環境を作り出すために、3つの大規模な遠心機(加重遠心機)を中心に構成されている。これらの遠心機は、非常に高速で回転させることによって、実験容器内に強い重力場を発生させる仕組みだ。実験容器は、遠心機の回転によって、内側から外側へと遠心力が働き、これにより液体や固体が容器の外側または底部に集まる。これにより、地球上では実現できないような「人工重力環境」を再現できる。

 施設内の最初の遠心機はすでに設置されており、残りの2つの遠心機と10の搭載ユニットは現在建設中である。これらのユニットには、物質の挙動を観察するための各種実験装置が搭載される予定だ。

 ハイパーグラビティの特徴と応用

 ハイパーグラビティとは、地球の通常の重力(1g)を超える重力のことを指し、例えば宇宙飛行士が宇宙から地球に戻る際に受ける重力は約4g(自分の体重の4倍)である。ハイパーグラビティの環境は、さまざまな物理現象を加速したり、通常の環境では観察できない現象を再現するため、非常に有用であるとされている。特に、時間を圧縮して自然現象を早送りするかのように観察することができ、数万年かかる現象を数週間で確認することが可能になる。

 研究分野と具体的な応用

 CHIEFでは、以下のような複数の研究分野に対応した実験が行われる予定である。

 斜面およびダム工学: ハイパーグラビティを用いて、斜面の崩壊やダムの安全性に関する研究が進められる。例えば、加重によって斜面やダム内部の応力をシミュレートし、破壊や崩壊のメカニズムを明らかにすることができる。

 地震工学および土木技術: 強い重力環境下で、地震波の影響を再現し、地震発生時の地盤や建物の挙動を模擬実験することで、地震に強い構造物の設計に貢献する。

 深海工学: 深海における天然ガスハイドレート(可燃性の氷)の採掘技術の開発が期待されている。ハイパーグラビティを使って、深海環境に近い条件を再現し、ガスハイドレートの取り出し方法を模擬することで、より安全で効率的な採掘技術を確立する。

 深地球工学: 地球内部の過酷な環境を模倣し、鉱物やエネルギー資源の採掘に関連する技術開発が進められる。

 環境および地質学的プロセス: 土壌の変化や大気中の汚染物質の移動など、地球規模で長い時間をかけて進行する現象を加速させて観察する。これにより、環境問題への迅速な対応が可能となる。

 材料加工: 強い重力環境が、さまざまな素材の加工や特性の変化を加速させるため、新しい素材の開発や効率的な製造方法の研究が行われる。

 エネルギー関連の研究

 CHIEFでは、特に未来のエネルギー源として注目されている天然ガスハイドレートの研究が重要なテーマとなっている。天然ガスハイドレートは、海底や永久凍土に存在する、メタンガスと水が氷状になった物質で、クリーンで豊富なエネルギー源として注目されている。しかし、その採掘は技術的に非常に難しく、深海での実験が不可欠である。CHIEFのハイパーグラビティ実験により、深海での採掘方法をシミュレートし、最適な技術を開発することが期待されている。

 経済的影響と予算

 CHIEFの建設には、2016年から2020年の中国の13次5カ年計画に基づき、20億元(約276億円)が投じられ、これは中国政府の科学技術インフラとして重要なプロジェクトの一環である。プロジェクトは、中国の科学技術の発展を促進し、今後の研究や技術革新に大きく貢献することが期待されている。

 このように、CHIEFは、物理学、工学、環境科学、エネルギー開発など、多岐にわたる分野において、革新的な成果を生み出すための重要な施設として、今後の科学技術の発展に寄与することが見込まれている。

【要点】 
 
 ・施設名:遠心加重(ハイパーグラビティ)および学際実験施設(CHIEF)
 ・場所:浙江省杭州市、浙江大学の監修
 ・目的:極限的な重力環境を再現し、さまざまな科学的・工学的問題の解決を目指す
 ・主な機能

  ⇨ 3つの大規模な遠心機を使用して、非常に高い重力(ハイパーグラビティ)を発生させる
  ⇨ 物質の挙動を加速して観察、数万年かかる自然現象を数週間で確認可能にする

 ・特徴

  ⇨ 最大で地球重力の数千倍の重力を再現
  ⇨ 宇宙飛行士が受ける4gの重力環境を超える(最大1900g-t)

 ・研究分野:

  1.斜面・ダム工学:土壌やダムの崩壊メカニズムを模擬し、安全性向上
  2.地震工学:地震時の構造物の挙動をシミュレーション
  3.深海工学:天然ガスハイドレート(可燃性氷)の採掘技術を研究
  4.深地球工学:鉱物・エネルギー資源の採掘技術を模擬
  5.環境科学:汚染物質の移動や土壌変化を加速して観察
  6.材料加工:新しい素材の特性や製造方法を研究

 ・エネルギー研究

  ⇨ 天然ガスハイドレート:深海での採掘シミュレーションと技術開発

 ・予算・規模:

  ⇨ 2016-2020年の中国13次5カ年計画に基づき、20億元(約276億円)が投じられた
  ⇨ 中国の科学技術インフラの重要な一環として位置づけられる

 ・目指す成果:科学技術の発展と革新的技術の創出、特にエネルギー開発や環境保護分野での貢献

【引用・参照・底本】

China turns on hypergravity machine to ‘compress’ time and space SCMP 2024.11.17
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3286791/china-turns-hypergravity-machine-compress-time-and-space?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-focus_sea_ru&utm_content=20241121&tpcc=enlz-focus_sea&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&tc=15

習近平の米国政権への警告2024年11月24日 22:01

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【概要】

 2024年11月19日、中国の習近平国家主席はペルーの首都リマで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)において、アメリカのバイデン大統領と会談し、中国とアメリカの関係における「レッドライン(越えてはならない一線)」を明確にした。習主席は、この発言がバイデン大統領のみならず、次期大統領に就任するトランプ氏の政権をも意識したものであるとみられる。

 習主席は「民主主義と人権」や「中国の道と制度」が中国の核心的利益に該当し、これらを侵害するいかなる行為も許容しないと述べた。さらに、アメリカ側に対し、中国共産党の権力基盤を揺るがそうとする試みや、体制変更を狙う行動は許さないと警告した。習主席の発言は、トランプ次期政権が計画する対中政策の厳しさを見越した対応であるとされる。

 専門家の分析

 中国共産党中央党校の元副編集長であるDeng Yuwen氏は、習主席の発言はトランプ政権に対し、中国を民主化へ誘導したり共産党の統治を弱体化させるような行動を避けるべきだという明確なメッセージであると指摘している。また、南京大学国際関係学院のZhu Feng執行院長は、異なる政治制度を根拠として中国を抑圧するべきではないとの警告を発したものと解釈している。

 トランプ政権の対応

 トランプ次期大統領は、中国に批判的な立場を持つ人物を政権中枢に据える予定である。たとえば、マルコ・ルビオ氏を国務長官に、マイク・ウォルトツ氏を国家安全保障顧問に指名する計画が進んでいる。このような人事は、中国との対立が再燃する可能性を示唆している。トランプ氏の前回の政権では、2018年に開始された貿易戦争や、新型コロナウイルスのパンデミックを巡る対立が両国関係を悪化させた経緯がある。

 さらに、前回政権では、共産党員の米国永住権取得を困難にする移民政策や、ビザの制限強化といった措置が取られた。これに対し、中国政府は強く反発し、これらの政策を「カラー革命」すなわち体制転換を狙ったものと非難している。

 レッドラインの背景と国際的な意図

 中国は冷戦時代の「平和的進化」理論に対し警戒感を強めており、習主席の発言もこの延長線上にある。中国はこれまでにも、民主主義と人権に関する米国の主張が中国の内政干渉であると主張してきた。バイデン政権も表向きには中国の政治体制を変革しようとしていないとしつつも、「民主主義的価値観」を外交の柱に据え、中国の影響力を抑制するための国際的な枠組みを推進している。

 ナショナル・ユニバーシティ・オブ・シンガポールのチョン・ジャ・イアン准教授は、トランプ次期政権はこのような中国側の警告を脅威とみなし、対中関係の初期段階で摩擦が生じる可能性が高いと指摘している。また、ワシントンのシンクタンク「スティムソン・センター」の雲孫氏は、中国が主張するレッドラインが米国の国家利益に触れる部分がある限り、双方が一方的にルールを定めることはできないと述べた。

 台湾問題とさらなる懸念

 会談では、台湾問題や中国の発展権についても触れられた。中国は台湾を自国の一部とみなし、必要に応じて武力による統一を辞さない姿勢を示している。一方、米国は台湾を独立国家と認めていないものの、武器供与を通じて台湾の防衛能力を支援する立場を取っている。この点においても両国間の緊張が続いている。

 以上のように、習主席の発言はトランプ次期政権に対する明確な警告とされ、中国とアメリカの関係が引き続き厳しい状況に置かれることを示唆している。

【詳細】

 習近平の発言の背景と目的

 習近平国家主席が示した「レッドライン」については、単なる外交上の警告にとどまらず、中国の根幹的な体制維持と国際的な位置づけを守るための戦略的メッセージと見るべきである。その目的は、アメリカ側に中国の政治的核心利益を侵害しないよう釘を刺すことであると同時に、国際社会に対して中国の立場を改めて強調する点にもある。

 具体的には、習主席は以下の3つの重要なテーマについて言及している。

 1.「民主主義と人権」を口実とした干渉への拒否

 習主席は、米国がしばしば掲げる「民主主義の価値観」や「人権問題」を理由に、中国の政治体制を変革させようとする動きを断固として受け入れないとの立場を明確にした。これには、アメリカが中国の体制に対し変革を促すことを目指して進めてきた過去の政策への強い不信感が含まれている。例えば、トランプ前政権時に採られた共産党員へのビザ制限や移民政策は、中国側から「カラー革命」の試みとして認識された。

 2.「中国の道と制度」の防衛

 中国政府は「中国式社会主義」および「中国式民主主義」を掲げており、これを外部から干渉される余地がないと主張している。習主席は、中国の選択した発展モデルが正当であり、アメリカ的な価値観と同等の価値を持つと主張している。この論点は特に2022年、バリ島でのバイデン大統領との会談時に強調された。「アメリカにはアメリカ式民主主義があり、中国には中国式民主主義がある」という習主席の発言は、中国が独自の政治・経済モデルを世界に受け入れさせようとする意図を示している。

 3.台湾問題と「発展権」

 台湾問題は中国の主権に直結する最重要課題であり、「統一」を目指す中国政府にとって、アメリカの軍事支援や台湾独立支持は越えてはならない一線である。習主席は、台湾問題についてアメリカが「一つの中国政策」の枠組みを逸脱しないよう求めた。また、「発展権」という用語は、中国が経済的な成長と技術革新を阻害されない権利を指し、これを安全保障や対立の名目で妨害されるべきではないという主張である。

 トランプ政権の対中政策との関係

 トランプ次期政権に向けた警告としての側面が強い。前回のトランプ政権下では、中国に対する制裁と敵対的な政策が多数実行された。以下はその主な例である。

 ・貿易戦争

 2018年に開始された貿易戦争では、中国製品に高関税を課し、中国の輸出経済に大きな打撃を与えた。この影響で、両国間の経済関係が悪化し、世界経済全体への影響も懸念された。

 ・「平和的進化」政策への対抗

 冷戦時代に由来する「平和的進化」の理論は、アメリカが共産主義体制を非暴力的に転覆させる方法として提唱したものである。この理念が、トランプ政権で復活したと中国側はみなしている。具体的には、アメリカ政府が中国共産党員へのビザ制限を強化し、中国市民に対して「政府の行動を変革せよ」と呼びかけた行動などが含まれる。

 ・安全保障政策の転換

 トランプ政権下での南シナ海問題や台湾問題への対応は、中国にとって一層の脅威となった。特にアメリカが台湾に対する武器売却を強化したことや、南シナ海での航行の自由作戦(FONOPs)を強化したことは、中国の軍事的圧力に直接的に対抗するものであった。

 米中関係における今後の課題

 専門家の間では、トランプ次期政権が習近平の「レッドライン」をどの程度無視するかによって、米中関係が早期に再び緊張状態に入る可能性が高いと考えられている。特に次の点が注目される。

 1.政治体制の違いに起因する対立

 トランプ政権の主要メンバーに選ばれた「対中強硬派」は、中国との価値観や体制の違いを基盤とした対立を煽る傾向がある。これに対し、中国はアメリカの干渉を主権の侵害とみなし、報復措置を講じる可能性が高い。

 2.台湾問題の悪化

 トランプ氏が再び台湾への軍事支援を強化する場合、中国がそれに軍事行動で応じるリスクが増大する。台湾問題は、軍事衝突の引き金となる可能性がある。

 3.経済と技術分野での競争

 中国の発展権をめぐる摩擦は、半導体技術やAIなどの先端分野における競争を通じてさらに深まる可能性がある。

 総括

 習近平の警告は、単なる外交上の声明ではなく、米中関係の新たな段階における戦略的な発言である。これにより、両国間の緊張緩和の道が閉ざされる可能性があると同時に、中国側が対外的に防衛線を築こうとしている意図が浮き彫りになった。一方で、アメリカ側がこれにどのように応じるかによって、今後の国際情勢は大きく変わる可能性がある。

【要点】 
 
 習近平の警告内容と背景

 1.民主主義と人権の問題

 ・アメリカが「民主主義」や「人権」を口実に中国の政治体制を攻撃することを拒否。
 ・過去のトランプ政権の政策を「カラー革命」の試みと見なす中国の不信感が背景。

 2.中国の道と制度の防衛

 ・中国式社会主義と「中国式民主主義」を尊重するよう要求。
 ・アメリカ的価値観と対等な独自モデルを国際社会に主張。

 3.台湾問題と発展権の強調

 ・台湾統一への目標は揺るがず、アメリカの軍事支援や干渉を越えてはならない「レッドライン」と宣言。
 ・中国が経済的成長を阻害されない「発展権」も重要視。

 トランプ政権への警告

 1.対中強硬政策の影響

 ・貿易戦争、共産党員のビザ制限など、トランプ政権の政策が中国側に深い不信を与えた。
 ・過去の「平和的進化」理論が復活したとの認識。

 2.次期政権の「対中強硬派」へのメッセージ

 ・トランプ次期政権の閣僚候補が中国に対し厳しい姿勢を示す中、それが米中対立をさらに激化させる可能性。
 ・「レッドライン」を無視すれば中国側の報復が予想される。

 3.台湾と南シナ海問題

 ・台湾への武器売却や南シナ海でのアメリカの活動が中国の反発を招く。
 ・軍事的衝突のリスクが高まる懸念。

 米中関係の今後の課題

 1.政治体制の違い

 ・アメリカの「価値観外交」が中国の主権侵害と見なされ、緊張を生む可能性。

 2.台湾問題の悪化

 ・アメリカの台湾支援強化が中国との衝突の引き金となる恐れ。

 3.経済・技術分野での競争

 ・半導体やAI分野での覇権争いが激化。
 ・「発展権」をめぐる摩擦が続く。

 総括

 ・習近平は米中間の対立を避けるための「防衛線」を明確化。
 ・トランプ政権が警告を無視する場合、米中関係が早期に緊張状態へ進む可能性。
 ・両国間の協調と競争が今後の国際秩序を左右する。

【引用・参照・底本】

Xi’s warning to Biden contains message for Trump: don’t seek regime change in China SCMP 2024.11.19
https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3287278/xis-warning-biden-contains-message-trump-dont-seek-regime-change-china?utm_medium=email&utm_source=cm&utm_campaign=enlz-focus_sea_ru&utm_content=20241121&tpcc=enlz-focus_sea&UUID=5147fda4-c483-4061-b936-ccd0eb7929aa&tc=18