西側の官僚層:衰退する覇権を維持しようと執着2024年11月24日 19:19

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【概要】

 ロシア連邦対外情報庁(SVR)の長官であるセルゲイ・ナルイシキンは、『ナショナル・ディフェンス』誌のインタビューで、彼がどのように世界を見ているかについての見解を示した。彼の主張によれば、西側諸国は弱体化しているものの、ドルは依然として普遍的な通貨である。グローバルサウス(発展途上国)は、西側からの技術や投資を受け取ることに慎重であり、その理由は主権を犠牲にする代償を望まないためである。また、西側の接触やグローバル改革の約束に対して懐疑的な態度を取っているという。

 ナルイシキンは、ユーラシアというマクロ地域の歴史的な台頭が西側諸国の衰退と並行して進んでいると指摘した。多極化の進展はユーラシアで特に顕著であり、そのため西側は「分割統治」の策略を通じてこの地域を狙っていると述べた。しかし、このような策略は最終的に、ユーラシア大陸に安定をもたらす安全保障構造の形成を促進すると見られている。現時点で最大の脅威は、ウクライナを通じたNATOによるロシアへの代理戦争であるが、ロシアの核ドクトリンの更新により、戦略的な敗北は不可能とされている。

 ナルイシキンは、西側の官僚層の専門性の低下が、ウクライナを通じてロシアを戦略的に敗北させるという誤算を招いたと非難した。これらの官僚は、自国の人々の生活水準を犠牲にしてでも、西側の衰退する覇権を維持しようと執着しているという。また、「そのようなシニカルな政治的茶番に参加できるのは無知な者か卑劣な者だけだ」と述べ、ウクライナを支援することが国益にかなうと人々を誤解させたことを批判した。

 さらに、2023年9月にアメリカとイギリスの諜報機関トップが共同で『フィナンシャル・タイムズ』に発表した記事についても言及し、それを「現代西洋文明の問題点の証拠」とした。もし計画が順調であるならば、公的な場で組織の活動を正当化する必要はないはずだ、と指摘している。その後の発言では、SVRの歴史、業務、および未来の応募者へのアドバイスに触れた。

 SVRは、世界の不可逆的なトレンド、すなわち西側諸国の衰退とユーラシアの台頭を認識しているが、どちらのトレンドもまだ頂点に達しておらず、予期せぬ展開があり得ると見ている。そのため、こうしたトレンドに関する特権的な情報を収集し、分析に組み込み、政策立案者に情報を提供することがSVRの重要な役割である。

 ユーラシア安全保障構造の創設という目標は野心的であるが、それがロシアの公式な長期目標である点に意味がある。この目標の実現には多くの課題があり、特に中国とインド間の信頼不足やインドとパキスタン、さらにはインドとバングラデシュ間の問題が挙げられる。また、南シナ海における中国とベトナムの海洋紛争や、イランとサウジアラビア間の疑念なども解決が必要である。これらの問題を解消するにはロシアの調停能力が重要であり、各国に提案を行うことが期待されている。

 ロシアは、NATOとのウクライナ戦争を軍事的に克服する手段と、アメリカの策略に関する諜報情報を各国に提供する秘密活動を通じて、ユーラシアのマクロ地域としての統合における重要な役割を果たしている。経済的手段はこれらのプロセスを加速させるために必要だが、それだけでは限界があるため、ロシアの軍事的・秘密活動の役割と中国やインドなどの経済的手段との連携がさらに求められる。

 最後に、ロシア・インド・中国(RIC)枠組みが今後の多極化の進展において最も重要であるとし、それに次ぐ枠組みとしてBRICSや上海協力機構(SCO)を挙げている。特に、中国とインド間の関係改善が成功すれば、世界は大きく変化すると予想されているが、ロシアはそれを奨励しつつも介入は控える方針である。

【詳細】

 セルゲイ・ナルイシキンによる発言は、ロシアが現在の国際情勢をどのように評価し、未来を見据えてどのような戦略を構築しているかを示す重要な内容である。以下に、彼の発言内容とその背景をさらに詳細に説明する。

 西側諸国の現状評価

 ナルイシキンは、西側諸国が弱体化していると明言したが、その一方でドルが未だ普遍的な通貨としての地位を保っている点を指摘した。これは、アメリカとその同盟国が依然として経済的影響力を維持していることを示すが、同時にその支配力がかつてほど強固ではないことも意味している。特にグローバルサウス諸国が、西側から技術や投資を受け取る際に、主権の喪失を代償として求められる状況に不満を持ち、警戒感を強めているという指摘は、西側諸国の「援助外交」の信頼性が低下している現実を反映している。

 加えて、西側の「改革」提案や外交的アプローチに対する懐疑心も高まっている。これには、アフリカやアジア、中南米の国々が、西側諸国がこれまでに提示した国際的な約束や協定が実現されなかった過去の経験が背景にある。ナルイシキンの言葉は、ロシアがこうした状況を利用して、これらの国々とより深い協力関係を構築しようとしていることを示唆している。

 ユーラシア台頭と安全保障構造
 
 ナルイシキンは、ユーラシアというマクロ地域の台頭が歴史的で不可逆的なものであると述べた。この地域は多極化の中心地となっており、西側の衰退と対照的に新たな国際秩序の形成を牽引していると評価される。特に、ロシアはこの地域において「ユーラシア安全保障構造」を形成するという長期目標を掲げており、この構造が安定と繁栄をもたらす基盤になると期待されている。

 しかし、この目標の実現には多くの課題が存在する。例えば、インドと中国の間には国境紛争や地政学的競争による長年の不信感があり、インドとパキスタンの対立は依然として根深い。さらに、最近ではインドとバングラデシュの間にも緊張が見られ、これがアメリカの後押しによる政権交代工作に関連している可能性が指摘されている。また、南シナ海における中国とベトナムの領有権争いや、イランとサウジアラビア間の根強い疑念など、多くの複雑な問題が未解決のままである。

 これらの課題に対して、ロシアは両者に良好な関係を持つ国家として、調停役を果たす可能性がある。ロシアが直接的な仲介に乗り出すか、またはアドバイザー的な立場で支援するかは状況によるが、ユーラシアの安全保障構造の構築において重要な役割を果たすであろう。

 NATOとの対立と諜報活動

 ナルイシキンは、NATOによるウクライナを通じた代理戦争を「現在最大の脅威」と位置づけたが、ロシアの核ドクトリンの更新によって「戦略的敗北は不可能」であると述べている。この核ドクトリンの更新は、ロシアが自国の生存を確保するための明確なラインを引いたものであり、いかなる国であれこれを越えることはロシア側からの断固たる反撃を招くとされる。

 また、西側諸国の官僚層における専門性の低下が、ウクライナでの戦争を通じてロシアを戦略的に敗北させるという誤算を引き起こしたと批判した。この失策は、単なる戦略的ミスではなく、西側の政治家や官僚が自国民の生活水準を犠牲にしてでも覇権を維持しようとする「無責任な執着」に起因すると指摘されている。

 さらに、諜報活動の公開による正当化が必要になっていることを「西洋文明の問題点」とし、これが西側の政策が失敗しつつある証拠であると主張した。

 多極化と国際協力の未来
 
 ナルイシキンの発言から、ロシアが国際秩序の多極化をどのように加速させようとしているかが読み取れる。特に、ロシア・インド・中国(RIC)の枠組みが、多極化の進展を促進する鍵であるとされている。この枠組みが円滑に機能すれば、ユーラシア全体の統合が進むと予想される。さらに、このRIC枠組みは、BRICSや上海協力機構(SCO)の中核を成す軸として位置づけられている。

 中国とインドの関係改善が特に重要であり、これが成功すればユーラシア全体、さらには世界の政治経済情勢に大きな変化をもたらすと見られている。ロシアはこの改善を奨励するが、過度に介入することは避ける方針を取っている。この姿勢は、ロシアが調停役や仲介者としての信頼性を高めるための戦略でもある。

 総じて、ロシアは軍事的手段と秘密活動を組み合わせ、さらに経済的手段を担う中国やインドと連携することで、ユーラシアの統合を進め、多極化を加速させることを目指している。その過程で、アメリカの分割統治政策を妨害し、信頼醸成を通じて地域紛争の解決を支援する役割を果たす見込みである。

【要点】 
 
 1.西側諸国の現状と課題

 ・西側諸国は弱体化しているが、ドルは依然として普遍的な通貨としての地位を維持している。
 ・グローバルサウス諸国は、西側からの技術や投資に対し、主権を代償にすることを警戒し、不信感を強めている。
 ・西側の「改革」提案や外交アプローチへの懐疑心が高まり、過去の未履行の約束が背景にある。

 2.ユーラシアの台頭とロシアの戦略

 ・ユーラシア地域は多極化の中心地であり、歴史的な台頭を遂げている。
ロシアは「ユーラシア安全保障構造」の構築を目指しており、これが地域の安定と繁栄を支える基盤になると期待。
 ・中国・インド、インド・パキスタン、中国・ベトナム、イラン・サウジアラビアなど、ユーラシア内には未解決の対立や不信感が多く存在。
 ・ロシアはこれらの対立において、良好な関係を持つ国々の間で調停役や助言者としての役割を果たす立場にある。

 3.NATOとの対立と核ドクトリン

 ・NATOによるウクライナを通じた代理戦争が、ロシアにとって最大の脅威と位置づけられている。
 ・ロシアの核ドクトリンの更新により、ロシアの「戦略的敗北は不可能」とナルイシキンは主張。
 ・西側の官僚層の専門性の低下が、ウクライナ戦争を通じたロシアの敗北という誤算を引き起こしたと批判。
・西側の政治家は、国民の生活水準を犠牲にしてでも覇権を維持しようとしていると非難。

 4.多極化と国際協力

 ・ロシア・インド・中国(RIC)の枠組みが多極化推進の鍵となる。
 ・RICはBRICSや上海協力機構(SCO)の中核を形成する重要な枠組みと位置づけられている。
 ・中国とインドの関係改善が成功すれば、ユーラシア全体の統合が進み、世界に大きな変化をもたらす。
 ・ロシアはこの関係改善を奨励するが、直接介入は避ける方針を取る。

 5.経済的・軍事的連携の重要性

 ・ロシアは軍事力と秘密活動を活用し、ユーラシアの統合を推進。
 ・経済的手段を担う中国やインドと連携することで、多極化を加速。
 ・アメリカの分割統治政策を妨害し、信頼醸成を通じて地域紛争の解決を支援。

【引用・参照・底本】

Russia’s Foreign Spy Chief Briefly Explained How He Sees The World Andrew Korybko's Newsletter 2024.11.24
https://korybko.substack.com/p/russias-foreign-spy-chief-briefly

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