人工知能(AI)による処方箋生成を明示的に禁止2025年03月02日 12:17

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【概要】
 
 湖南省の保健当局は最近、人工知能(AI)による処方箋生成を明示的に禁止する通知を発表した。この通知はAIによる処方箋の使用禁止について熱い議論を呼び起こした。グローバルタイムズが取材した医療専門家によると、医師の専門的な判断と臨床経験は医療診断において代替できないものであり、AIに処方箋を生成させることを禁じることは「保守的」に見えるかもしれないが、これは人々の健康を守るための措置であるという。

 湖南省医療保険セキュリティ管理局が発表した通知によると、すべての指定医療機関は省の電子処方流通プラットフォームと完全に統合する必要があり、インターネット病院はAIによる処方箋を使用することができない。また、インターネット病院は省の医療保険電子処方センターとシステムを統合し、処方箋の転送を容易にする必要がある。医師は処方箋を発行する前に、患者またはその家族と十分に相談しなければならないとされている。

 グローバルタイムズの調査によると、湖南省はAIによる処方箋生成を禁止した最初の地域ではなく、2022年以降、北京、上海、福建省などでも関連する禁止措置が順次発表されている。

 中国人民解放軍総医院第3医療センターの元救急科長であり、医療専門家であるWang Lixiang氏は、AIが人間の病気診断や治療において重要な価値を持っており、良い支援となり得ることは否定できないが、処方権には法的な意味があると述べた。また、AIによる処方箋生成を禁止する政策は、医療安全を確保するための重要な措置であると強調した。

 Wang氏は、医療は非常に複雑な分野であり、専門的な訓練を受けていない非医療従事者が病気を専門的かつ正確に記述することはできないため、AIが自律的に診断と治療を行う際に適切性が欠ける可能性が高いと指摘した。

 Wang氏は「医療業界の核心は患者の命と健康であり、AIにはデータ処理において利点があるが、医療診断においては医師の専門的な判断と臨床経験は代替できない」と述べた。処方薬は通常、特定の薬理効果を持ち、人体に重大な副作用や依存を引き起こす可能性があるため、使用方法、用量、タイミングには特定の要求があり、医師の指導の下で使用されるべきである。したがって、AIによる処方箋生成を禁止することは「保守的」に見えるかもしれないが、公共の健康を守るための措置であるとWang氏は述べた。

 元中国病院協会の事務局長で、現在広州愛力比病院管理センターで勤務しているZhuang Yiqiang氏は、処方箋を出すことは単に「処方箋を生成する」こと以上に複雑であり、「責任主体」や「専門的権威」など、複数の要因が関わることを指摘した。

 Zhuang氏は、「AI医師」はまず第一に機械であり、人間ではないため、処方する権利を持つことは不可能であると述べた。また、AIに処方箋を生成させることを許可すれば、医療事故が発生した場合に誰が責任を負うのかを決定することが難しくなると考えた。AIによる処方箋生成を禁止することで、責任が明確になり、医師がより慎重で責任感を持って医療行為を行うことが求められ、患者の合法的な権利と利益を守ることができるとZhuang氏は述べた。

【詳細】
 
 湖南省の保健当局が最近発表した通知は、人工知能(AI)による処方箋生成の禁止を明確に示している。この動きは、AIを利用した処方箋の生成が医療における重要な判断を人間の医師に任せるべきだという立場に立っており、特に人々の健康を守るための重要な措置とされている。通知は、AIが生成した処方箋をインターネット病院で使用することを禁止し、医療機関には省の電子処方流通プラットフォームとの完全な統合を求めている。

 1. AIによる処方箋生成の禁止とその背景

 湖南省の通知では、AIが生成する処方箋の使用を禁止するとともに、インターネット病院に対しては、患者との十分な相談を行った上で処方箋を発行することを求めている。また、医師は処方箋を発行する際に、患者やその家族との面談を通じて、診断内容を慎重に確認しなければならないとされている。このような措置は、AIがどれほど優れたデータ処理能力を持っていたとしても、臨床現場での判断においては限界があり、医師の専門的な知識と経験が不可欠であるという考えに基づいている。

 2. 他の地域での同様の措置

 湖南省が発表した禁止措置は、初めてではない。2022年以降、北京、上海、福建省などでも、AIによる処方箋生成を禁止する関連の規制が次々と導入されている。これらの地域も、AIの利用が医療診断の補助にはなり得るが、処方に関しては医師の専門的な判断が必要だと考えている。

 3. 専門家の見解

 Wang Lixiang氏(元中国人民解放軍総医院第3医療センターの救急科長)は、AIはデータ処理において優れた能力を発揮するものの、医療診断や処方においては医師の専門的な判断と臨床経験が不可欠であると強調している。Wang氏は、医療が非常に複雑な分野であり、非医療従事者が病気の正確な記述や診断を行うことは難しいと指摘している。AIが自律的に診断や治療を行う場合、診断が必ずしも的確でない可能性が高く、その結果として患者の健康を害する恐れがある。

 Wang氏は、処方薬が持つ薬理学的な効果が副作用や依存症を引き起こす可能性があることを指摘し、処方箋の使用方法、用量、タイミングなどには専門的なガイドラインが必要だと述べている。したがって、AIに処方箋を生成させることは医療安全を損なうリスクがあり、そのため禁止することは健康を守るために重要であると主張している。

 Zhuang Yiqiang氏(元中国病院協会の事務局長)は、処方箋を出すことは単に「生成する」こと以上に複雑であると指摘し、処方には「責任主体」や「専門的権威」など、さまざまな要因が関わると説明している。AIはあくまで機械であり、人間ではないため、法的な責任を負うことができない。もしAIに処方箋を生成させると、医療事故が発生した際に誰が責任を取るのかが不明確になるため、AIによる処方箋生成を禁止することによって責任が明確になり、医師がより慎重に、かつ責任感を持って治療を行うことが求められると述べている。

 4. AIによる処方箋生成を禁止する理由

 AIによる処方箋生成を禁止する理由は、主に次の3点に集約される。

 1.医師の専門的判断の必要性

 医療において、特に処方箋は患者の健康に直結する重要なものであり、医師が行う専門的な判断が不可欠である。AIはデータ処理に優れるが、患者一人ひとりの状況に応じた判断を行うためには、医師の臨床経験と判断力が必要だとされる。

 2.医療事故の責任の明確化

 AIが生成した処方箋に基づいて医療が行われ、万が一医療事故が発生した場合、責任の所在が不明確になる恐れがある。医師による処方は、患者の健康を守るために責任を持って行われるべきであり、AIがその責任を担うことは不可能である。

 3.患者の安全の確保

 AIは多くの医療データを処理できるが、薬剤の副作用や患者の体調の微細な変化など、臨床的な観察に基づく判断が必要な場合には限界がある。誤った処方が患者に重大な影響を与えるリスクを避けるため、AIによる処方箋生成は禁止されるべきである。

 まとめ

 AIによる処方箋生成を禁止する措置は、医療安全を確保するために重要なものであり、医師の専門的判断と責任を重視する立場に立ったものである。AIは診断補助やデータ処理において価値を発揮するが、処方に関しては依然として医師の判断と臨床経験が必要不可欠であり、これを確保するためにAIによる処方箋生成を禁止することが支持されている。

【要点】

 1.湖南省の通知内容

 ・AIによる処方箋生成を禁止。
 ・医療機関は省の電子処方流通プラットフォームと統合。
 ・インターネット病院ではAI生成処方箋の使用を禁止。
 ・医師は患者または家族と十分に相談した上で処方箋を発行。

 2.他の地域での禁止措置

 ・2022年以降、北京、上海、福建省などでもAIによる処方箋生成を禁止。

 3.専門家の見解

 (1)Wang Lixiang氏(元中国人民解放軍総医院第3医療センター救急科長)
 
 ・AIはデータ処理に優れるが、医師の専門的判断と臨床経験が必要。
 ・薬剤は副作用や依存症のリスクがあり、専門的指導が不可欠。
 ・AIによる処方箋生成の禁止は医療安全を守るために重要。

 (2)Zhuang Yiqiang氏(元中国病院協会事務局長)

 ・処方箋は単なる「生成」ではなく、責任主体や専門的権威が関わる複雑なプロセス。
 ・AIは機械であり、法的責任を負えないため、事故発生時の責任が不明確になる。
 ・医師が責任を持って処方を行うことが、患者の権利保護に繋がる。

 4.禁止理由

 (1)医師の専門的判断の必要性

 ・処方箋は患者の健康に直結し、医師の判断が不可欠。

 (2)医療事故時の責任の明確化

 ・AIによる処方箋生成では、事故発生時に誰が責任を負うのか不明確になる。

 (3)患者の安全確保

 ・AIには患者個別の状況を考慮した臨床的判断が難しく、誤った処方が患者に重大な影響を与えるリスクがある。

 まちめ

 ・AIによる処方箋生成は禁止されるべきであり、医師の専門的判断と責任を重視した医療が必要。

【参考】

 ☞ インターネット病院とは、主にインターネットを通じて医療サービスを提供する施設のことを指す。具体的には、オンラインでの診察、医師によるアドバイス、診断、処方箋の発行などが行われる病院形態である。以下にその特徴を説明する。

 1.サービス提供の形態

 ・患者はインターネットを通じて医師とオンラインで相談できる。
 ・患者は直接病院に足を運ばず、自宅から医療サービスを受けることができる。

 2.診察内容

 ・病歴や症状についての問診、画像診断の結果確認、治療法の提案などがオンラインで行われる。
 ・診察を受けた後、必要に応じて処方箋をオンラインで受け取ることができる。

 3.利便性と対象

 ・地方や遠隔地に住む人々にとって、アクセスが簡便で便利なサービスとなる。
 ・特に、軽度な病気や定期的なフォローアップが必要な患者にとって有益である。

 4.規制と課題

 ・インターネット病院の規制は地域や国によって異なるが、処方箋の発行や薬の管理については厳格な規制が存在することが多い。
 ・医師と患者とのオンライン診察では、対面診察と比較して診断の精度に限界がある場合があり、そのため規制が強化されることがある。

 5.中国の規制例

 ・中国ではインターネット病院が増加しているが、AIを用いた処方箋の発行については禁止されるケースが増えている。
 ・これは、医師の判断が不可欠であるという立場に基づくもので、AIが行う処方箋発行が医療事故や不正確な診断を引き起こす可能性があるためである。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Banning AI from prescribing medicines aims to safeguard people's health: Chinese experts GT 2025.03.01
https://www.globaltimes.cn/page/202503/1329304.shtml

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