EUに必要なのは「壁を作る」ことではなく、技術と協力の「橋を架ける」こと2025年03月23日 20:31

Microsoft Designerで作成
【概要】 
 
 多くのEU加盟国が中国の通信機器メーカー、HuaweiやZTEを5Gネットワークから排除することに消極的である理由にはいくつかの要因がある。

 まず、EU加盟国の中で17か国が、EU委員会の「5Gツールボックス」に従って中国の企業を排除する措置を完全には実施していないことが報告されている。具体的には、14か国が「高リスク供給者」とされる中国の企業に対して、何らかの制限を課していない。これにより、EU内部で、外部からの圧力や安全性に関する警告にもかかわらず、中国との5G協力を続ける理由について再考が促されるべきだという指摘がなされている。

 中国の5G技術を排除しない理由の一つとして、欧州諸国が5Gの建設において中国製の機器を使うことにより、コスト削減や実務的な便益を得ていることが挙げられる。例えば、欧州の通信業界は中国の技術が提供する低コストで高効率なソリューションを活用しており、これを排除することで建設コストが大幅に上昇し、その負担を誰が引き受けるかという問題が生じる。また、中国の技術を撤去しても、それに見合う実際的な利益や補償が得られないことも、排除に消極的な理由となっている。

 EUは2020年にHuaweiなどの「高リスク供給者」を排除するか制限することを推奨したが、その後5年が経過しても、EUの5Gネットワークは他地域に比べて遅れを取っている。例えば、2024年末にはEU内のモバイル接続の約30%が5Gに移行する予定だが、これは北米の60%や東アジアの50%以上の割合と比べて遅れを取っている。さらに、2024年末には中国は410万基以上の5G基地局を設置しているのに対し、EUの27カ国は合計で46万基にとどまっている。これにより、EUは5G技術において世界的に遅れを取っていると指摘されている。

 また、EU内で5G技術の「リスク軽減」を進めるため、欧州議会はEU法として5Gのサイバーセキュリティ対策を義務化することを検討している。しかし、現時点では、中国企業の機器がセキュリティ上の脅威を引き起こす証拠はない。むしろ、無根拠な不安から中国の技術を排除することは、EU自体の強みを損なう結果になりかねない。

 欧州が直面している課題は、競争相手との対立ではなく、協力によって解決すべきである。中国のHuaweiやZTEは、数十年にわたり欧州で運用されており、欧州の通信セクターの成長に貢献し、かなりの社会経済的利益を生み出している。中国は5G技術において競争力を持ち、これがEUがデジタル化の停滞を克服するために重要な役割を果たす可能性がある。

 これまでの中国とEUの協力は、東洋の知恵と欧州の経験が融合することで革新的な解決策が生まれることを示している。EUは「リスク軽減」の迷路に迷い込むのではなく、疑念の壁を取り払うべきである。5G技術はゼロサムゲームではなく、協力の場であるべきだという視点が必要である。

【詳細】 
 
 EU加盟国が中国の通信機器メーカー、特にHuaweiやZTEを5Gネットワークから排除することに消極的な理由は、複数の要因が絡み合っている。

 1. コストと実務的な影響

 多くの欧州諸国が中国製の通信機器を使用している理由の一つは、コスト面での利点である。中国企業が提供する5G技術は、非常に競争力があり、安価であるため、欧州諸国が迅速に5Gインフラを展開する際に重要な役割を果たしてきた。特に、HuaweiやZTEは高品質の通信機器を低コストで提供しており、そのおかげで、欧州諸国は5Gの構築を進めることができた。

 もし中国企業の機器を排除するとなると、代替として使用する機器の価格は高騰する可能性が高く、これにより通信インフラの整備費用が大幅に増加することになる。実際、欧州では予算の限られた中で通信インフラを構築する必要があり、このようなコストの上昇は政治的な問題にもなる。また、既に中国製の機器が設置されている場合、その撤去にも巨額の費用がかかるが、それに見合う具体的な利益は得られないため、撤去の決断が難しくなる。

 2. 5Gの展開における遅れ

 EUが中国製の機器を排除または制限する方針を取って以来、実際には5Gの展開が遅れ続けている。例えば、2024年末時点で、EU内のモバイル接続に占める5Gの割合は約30%にとどまり、これは北米や東アジアの国々に比べて遅れを取っている。これに対して、世界の他地域では5Gの展開が順調に進んでおり、特に中国はその優れた技術と膨大な数の基地局を有している。中国ではすでに4.1百万基以上の5G基地局が設置されており、インフラの展開が急速に進んでいるが、EUはその規模に達するには時間がかかる見込みである。

 5Gの遅れは、欧州経済においても大きな影響を与える可能性がある。デジタル経済の発展には、迅速な5Gの展開が不可欠であり、5Gを用いた新しいサービスや産業の発展を支えるためには、インフラの整備が急務である。しかし、中国企業を排除することが一因となって、5Gの展開が停滞している。

 3. セキュリティ懸念とその影響

 EUが中国の通信機器に対してセキュリティ上の懸念を示してきた背景には、特に中国政府との関係に対する警戒がある。中国企業が提供する5G機器が中国政府の監視や情報収集に利用される可能性があるという懸念が存在する。このため、EU内の一部では、HuaweiやZTEを「高リスク供給者」として扱い、その機器の使用を制限すべきだという声が上がっている。

 しかし、これまでのところ、中国製機器が欧州のセキュリティに対して実際に危害を加えた証拠はない。むしろ、セキュリティ上の懸念に基づく排除が、欧州の通信業界に無用な混乱や追加的なコストを引き起こしているという意見もある。中国製の通信機器を排除することで、代替機器を高額で購入することになり、その結果として、セキュリティリスクを回避するためのコストと、実際に得られるセキュリティの改善のバランスが取れていないという指摘がなされている。

 4. 政治的および経済的圧力

 EU加盟国が中国製通信機器を使用し続ける背景には、政治的および経済的な要因もある。中国は、欧州にとって重要な貿易相手国であり、経済的な利益を考慮すると、中国との協力を継続することが賢明だという立場を取る国々も多い。中国はまた、5G技術の分野において強力な競争力を持っており、その技術とインフラを利用することで、欧州はグローバル競争において優位性を保つことができるという考え方がある。

 一方で、アメリカをはじめとする一部の国々からの圧力もあり、EU内で中国製機器の排除を進めるように求められる場面もある。しかし、EU内部で一枚岩ではなく、国々によっては経済的利益や技術的な要因から中国製機器を排除しない選択をすることが多い。

 5. 協力と対話の重要性

 記事で述べられているように、EUにとって必要なのは「壁を作る」ことではなく、技術と協力の「橋を架ける」ことである。中国のHuaweiやZTEは、長年にわたり欧州で運営されており、その技術は欧州の通信インフラの発展に貢献してきた。また、中国は5G技術において競争力があり、これを活用することは、欧州がデジタル化の停滞を克服し、より効率的なインフラを築くために重要である。

 欧州が中国製技術に依存し続ける理由は、単なる経済的な要素だけでなく、両者の協力によって新しい技術的な解決策が生まれる可能性があるからである。東洋の知恵と欧州の経験を融合させることで、革新的なソリューションを生み出すことができるという視点が、今後の5G技術の発展において重要であるとされている。

 結論

 EUが中国製通信機器を排除することに消極的な理由は、主にコスト、技術的な競争力、そして経済的な利益に関する現実的な問題が絡んでいる。しかし、セキュリティ懸念や政治的な圧力も影響を与えており、最終的な決定は複雑なバランスの上に成り立っている。EUが今後、どのように中国との協力を維持しつつ、安全性を確保するかが、5G技術の進展とその社会的、経済的な影響において重要な課題となる。

【要点】

 EU加盟国が中国の通信機器メーカー(特にHuaweiやZTE)を5Gネットワークから排除することに消極的な理由は以下の通りである。

 1.コスト面の問題

 ・中国製通信機器は安価で、EU諸国の5Gインフラ構築において重要な役割を果たしている。

 ・中国製を排除すると、代替機器のコストが高騰し、通信インフラの整備が遅れ、予算の増加を招く。

 2.5Gの展開遅れ

 ・EUは他の地域に比べて5Gの展開が遅れており、特に中国の技術が重要である。

 ・2024年末の時点で、EU内の5G接続は約30%で、他の地域に比べて大きな遅れが見られる。

 3.セキュリティ懸念の不確実性

 ・中国製機器がセキュリティリスクをもたらす証拠はなく、排除による実際のセキュリティ向上が確認されていない。

 ・排除によって新たに発生するコストや問題が、セキュリティ上の懸念を上回る場合がある。

 4.政治的および経済的圧力

 ・中国はEUの重要な貿易相手国であり、経済的利益を考慮した場合、中国との協力を継続する方が賢明だという立場を取る国々がある。

 ・アメリカをはじめとする国々からの圧力があるが、EU内では経済的要因や技術的な要素から中国製機器を排除しない選択をする国が多い。

 5.協力の重要性

 ・HuaweiやZTEは長年欧州で運営されており、欧州の通信インフラの発展に貢献してきた。

 ・中国の5G技術は競争力があり、欧州がデジタル化の停滞を克服するために重要である。

 ・中国とEUの協力によって、新しい技術的解決策や革新的なソリューションが生まれる可能性がある。

【引用・参照・底本】

Why many EU member states hesitant to enforce 5G ban on Chinese telecom suppliers GT 2025.03.20
https://www.globaltimes.cn/page/202503/1330524.shtml

コメント

トラックバック