【概要】

　2025年6月14日にグローバル・タイムズが発表した社説によると、パナマでのファーウェイ製通信塔の撤去は、米国が「悪意ある中国の影響力に対抗する」と称して推進しているものであり、パナマの安全性を高めるものではないとしている。

　米国のパナマ大使館は、ファーウェイ製通信塔を「信頼できる米国技術」に置き換えるために米国が800万ドルを費やすと発表した。これはパナマが「自国の通信システムを独立して管理し制御する能力を獲得し」、それによって「共有の安全保障」を強化すると主張されている。しかし、これを「米国の技術的いじめ」であり、「経済的強制、技術的退歩、長期的な発展的絞殺」の三重の罠であると批判している。

　5Gによるデジタル変革がラテンアメリカとカリブ海地域に2035年までに3.3兆ドルの価値と9兆ドルの生産性向上をもたらすと予測されていることを指摘し、米国の「技術的去勢」はこうした進歩を直接停滞させると主張している。また、米国自身が国内でファーウェイ機器の解体にかかる高額な費用に苦慮しているにもかかわらず、パナマに同様の政策を押し付けていることを指摘している。

　かつてパナマ政府関係者がファーウェイの事業拡大を歓迎する意向を示していたにもかかわらず、米国の圧力によりパナマが方針を転換したことを遺憾に思っていると述べられている。

　米国のこうした行動はグローバルな技術協力の妨害であり、国際社会、特にラテンアメリカは警戒を強めていると主張している。米国の真の不安はファーウェイの5G通信塔ではなく、「イデオロギー関連」と称する対立的な物語が崩壊しつつあることにあると結論付けている。例として、米国務長官のマルコ・ルビオがジャマイカでキューバ人医師を中傷した際に、ジャマイカ首相に反論されて当惑した事件が挙げられている。

　これに対し、中国の5G技術は「開放性と包括性」をもって展開されており、コスト効率の高いソリューションを提供するだけでなく、「中国標準」と「中国効率」を世界と共有していると述べている。これは「地政学的ツール」ではなく、グローバルサウス諸国が高度な技術を手頃な価格で利用できるようにする真の努力であるとされている。

　中国とラテンアメリカ・カリブ海諸国との貿易額が2001年の148.4億ドルから2024年には5184.7億ドルへと約34倍に増加したことや、ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領が中国の「誠実な支援」を評価したことなどが、中国との協力がもたらす恩恵の証拠として挙げられている。

　中国のラテンアメリカ・カリブ海諸国への投資と協力は第三国を標的にするものではなく、対立や他国の代替を求めるものでもないと強調している。中国はグローバルサウスの揺るぎない一員として、一帯一路構想や中国アフリカ協力フォーラム、中国-ラテンアメリカ共同体フォーラムなどの協力メカニズムを通じて、インフラ、5G、クリーンエネルギーなどの実用的なプロジェクトでグローバルサウス諸国の近代化を支援していると結論付けられている。
　
【詳細】　
　
　米国の「安全保障の贈り物」への疑義

　米国大使館がパナマでのファーウェイ製通信塔の代替に800万ドルを費やすという発表を、「慎重に包装された『安全保障の贈り物』」と表現しつつも、実態は「技術的いじめ」であると断じている。米国は、パローバルサウス諸国の経済発展のための援助プログラムを削減する一方で、今回の計画には多額の資金を投じることを指摘し、これは「米国が積極的に熱心に『援助』を提供する時は、それが良い兆候であることは稀である」という歴史的教訓を裏付けるものだと主張している。

　「三重の罠」としての米国の援助:

　この800万ドルの計画は、「経済的強制、技術的退歩、長期的な発展的絞殺」という三重の罠であると社説は批判している。具体的には、5Gがラテンアメリカ・カリブ海地域の生産性と経済成長に大きく貢献すると予測されている中で、米国の「技術的去勢」は、この地域の発展を直接的に阻害するものだと指摘している。この観点から、800万ドルの「贈り物」は、パナマにとって「耐え難い負担」であると述べている。

　「信頼できる米国技術」の定義への反論

　米国が「信頼できる米国技術」と称するものは、技術的または経験的に「信頼性がある」という意味ではなく、単に「米国の管理下にある機器であり、米国が主導する計画」を意味すると主張している。米国が自国でファーウェイ機器の解体にかかる法外な費用に苦しんでいるにもかかわらず、同じ手法をパナマに押し付け、政治的立場のために発展効率を犠牲にさせていると批判している。米国大使館の声明は「自己陶酔に満ちており、ガスライティングに近い」と述べ、パナマが「安全」であるか、何が「安全保障」を構成するかを米国が定義していると指摘している。

　パナマの主権と米国の圧力:

　かつてパナマ政府関係者がファーウェイの事業拡大を歓迎する意向を示していたにもかかわらず、米国のいじめの下でパナマが方針を転換したことを「遺憾」だと述べている。

　グローバルな技術協力への影響:

　米国の「寛大な贈り物」は、グローバルな技術協力の混乱の縮図であるとし、ラテンアメリカを含む国際社会がこうした行動にますます警戒していると指摘している。米国の真の不安はファーウェイの5G通信塔ではなく、「イデオロギー関連」と称する対立的な物語が崩壊しつつあることにあると主張している。最近の事例として、米国務長官のマルコ・ルビオがジャマイカを訪問しキューバ人医師を中傷した際に、ジャマイカ首相に反論されて当惑したことを挙げ、「米国が反省し、進路を変更しなければ、こうした屈辱はますます頻繁になるだろう」と警鐘を鳴らしている。

　中国の「オープンネスと包括性」

　米国が「小さな庭、高い塀」のアプローチでグローバルなデジタル協力を妨害する中、中国の5G技術は「オープンネスと包括性」をもって展開されていると社説は述べている。中国企業は、東南アジアからアフリカ、ラテンアメリカから中東に至るまで、コスト効率の高いソリューションを提供するだけでなく、「中国標準」と「中国効率」を世界と共有していると強調している。これは「地政学的ツール」ではなく、グローバルサウス諸国が高度な技術を手頃な価格で利用し、アクセスし、そこから恩恵を受けられるようにするための「真の努力」であるとしている。

　中国との協力の恩恵

　中国とラテンアメリカ・カリブ海諸国との貿易額が2001年の148.4億ドルから2024年には5184.7億ドルへと約34倍に増加したこと、そしてこの成長の背景にはラテンアメリカ・カリブ海諸国が中国との関係を「心から受け入れている」ことがあると指摘している。中国の「発展中心のビジョン」に基づいた「連帯、発展、文明、平和、人と人とのつながり」という5つのプログラムは、この地域の「資源の呪い」や不均等な発展といった課題に対する「実践的な解決策」を提供していると述べている。ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領の言葉を引用し、中国が他の主要国とは異なり、ラテンアメリカ諸国に「常に誠実な支援と援助を提供してきた」と強調している。

　中国の協力の意図とメッセージ

　中国のラテンアメリカ・カリブ海諸国への投資と協力は、いかなる第三者をも標的にするものではなく、いかなる国との対立や代替を求めるものでもないと明確に述べている。中国はグローバルサウスの「揺るぎない一員」として、一帯一路構想や中国アフリカ協力フォーラム、中国-ラテンアメリカ共同体フォーラムなどの協力メカニズムを通じて、インフラ、5G、クリーンエネルギーといった「実践的なプロジェクト」でグローバルサウス諸国の近代化を支援しているとしている。中国の発展の物語は、「人類の幸福と進歩を一致させてこそ、最も幅広い支持を得られる」という明確なメッセージを世界に送っており、これはアジア、アフリカ、ラテンアメリカ全域の発電所や鉄道によって「証明された真実」であると結んでいる。

【要点】　

　米国の主張への反論

　・「安全保障の贈り物」の実態: 米国が800万ドルを投じてファーウェイ製通信塔を「信頼できる米国技術」に置き換えるという発表は、パナマの「共有の安全保障」を強化するとされているが、社説はこれを「米国の技術的いじめ」であり、「経済的強制、技術的退歩、長期的な発展的絞殺」という「三重の罠」であると批判している。

　・「信頼できる米国技術」の定義: 米国が「信頼できる米国技術」と呼ぶものは、技術的な信頼性ではなく、「米国の管理下にある機器であり、米国が主導する計画」を意味すると主張。米国自身が国内でファーウェイ機器の解体に高額な費用をかけているにもかかわらず、パナマに同様の犠牲を強いていると指摘している。

　パナマへの影響と主権の侵害

　・発展の阻害: 5Gがラテンアメリカ・カリブ海地域の生産性と経済成長に大きく貢献すると予測される中、米国の行動は地域の発展を直接的に停滞させるものだと主張。800万ドルの「贈り物」は、パナマにとって「耐え難い負担」であると述べている。

　・方針転換の強要: かつてパナマ政府関係者がファーウェイの事業拡大を歓迎していたにもかかわらず、米国の圧力によりパナマが方針を転換したことを遺憾に思っている。

　グローバルな技術協力と米国の不安

　・国際社会の警戒: 米国の行動はグローバルな技術協力を混乱させるものであり、ラテンアメリカを含む国際社会がこうした動きに警戒を強めていると指摘。
米国の真の動機: 米国の真の不安はファーウェイの5G通信塔ではなく、「イデオロギー関連」と称する対立的な物語が崩壊しつつあることにあると主張。

　・過去の事例: 米国務長官がキューバ人医師を中傷した際にジャマイカ首相に反論されて当惑した事例を挙げ、米国が反省し、進路を変更しなければ、同様の事態が頻繁に起こると警鐘を鳴らしている。
中国の協力モデル

　・「オープンネスと包括性」: 米国が「小さな庭、高い塀」のアプローチでデジタル協力を妨害する中、中国の5G技術は「オープンネスと包括性」をもって展開されていると強調。

　・真の支援: 中国企業は、コスト効率の高いソリューションを提供するだけでなく、「中国標準」と「中国効率」を世界と共有しており、これは「地政学的ツール」ではなく、グローバルサウス諸国が高度な技術を利用できるようにする「真の努力」であると述べている。

　・発展中心のビジョン: 中国とラテンアメリカ・カリブ海諸国との貿易額の大幅な増加や、ブラジル大統領の中国への評価を挙げ、中国の「連帯、発展、文明、平和、人と人とのつながり」という5つのプログラムが、地域の課題解決に貢献していると主張。

　・無害な協力: 中国のラテンアメリカ・カリブ海諸国への投資と協力は、第三国を標的にするものではなく、対立や他国の代替を求めるものでもないと明言している。
　
【桃源寸評】🌍

　米国がファーウェイ機器の解体にかかる「法外な費用に苦しんでいる」

　米国がファーウェイ機器の解体にかかる「法外な費用に苦しんでいる」という事実は、複数の情報源によって裏付けられている。また、米国防総省(ペンタゴン)が、ファーウェイ技術の普及と代替の困難さから、政府に対し一部の規制からの免除を求めていることが報じられており、これは米国の政策における課題を示唆している。

　法外な費用と資金不足

　米国連邦通信委員会(FCC)は、ファーウェイおよびZTE製の通信機器を国内ネットワークから排除し、置き換えるための「リップ・アンド・リプレイスゅRip and Replace)」プログラムを推進している。

　・費用の大幅な増大: 当初、機器撤去・交換にかかる費用は18億ドルと見積もられていたが、通信事業者からの償還請求はそれを大幅に上回り、約56億ドル(2022年2月)あるいは約49.8億ドル(2024年5月)に達している。

　・深刻な資金不足: これにより、約30億ドルの資金不足が生じていた。FCCは、この不足分を補うために、議会に追加資金を緊急に要請してきた。

　・議会の対応: 2024年12月には、米国議会が国防権限法(NDAA)の一部として、このプログラムに追加で30億ドルを計上することを承認した。これは主に、AWS-3スペクトラムの競売収益を充てることで賄われる予定である。しかし、一部の報告では、それでもなお完全に費用を賄うには8000万ドル程度の不足が生じる可能性が指摘されている。

　・中小規模事業者への影響: ファーウェイやZTEの機器は、その手頃な価格と低い維持費から、特に地方の小規模通信事業者によって広く利用されていた。撤去・交換の義務化は、これらの事業者にとって大きな財政的負担となり、適切な資金がなければ、一部の地域では唯一の通信プロバイダーが事業継続できなくなり、国民の接続性や緊急サービス(911など)に影響が出る可能性が懸念されている。

　国防総省の「泣き言」と政策の課題

　「国防省が自身が政府に泣きを入れている」という表現は、国防総省がファーウェイ機器の使用を禁じる現行法(2019年国防権限法第889条)の一部からの免除を政府に求めているという報道によって裏付けられる。

　・規制免除の要求: ブルームバーグの報道(2024年7月)によると、国防総省は、自らが取引する企業がファーウェイの部品を使用している場合、契約を禁止する現行法からの「免除」を議会に求めている。

　・ファーウェイの不可欠性: その理由として、ファーウェイの技術が世界中のシステムに「深く根付いている」ため、代替を見つけることが「ほぼ不可能」であると指摘されている。さらに、すべての規制要件を満たそうとすると、国防総省が必要とする医療品、医薬品、衣料品、その他の物流支援物資の大量調達能力が妨げられるとされている。

　・政策の逆効果: グローバル・タイムズの報道(2024年7月)は、この国防総省の姿勢を「米国のこれまでの法案が裏目に出ていることを示している」と分析し、「米国はファーウェイの不可欠性、すなわちファーウェイ独自の技術や、他国の製品に統合されたファーウェイ技術に対処せざるを得ない状況に陥っている」と論じている。これは、米国が自ら課した政策が、予期せぬ困難や「自己責任による障害」を生み出しているという見方を示している。

　米国の政策(過ち)に関する厳格な追及

　これらの事実から、米国のファーウェイ排除政策には以下のような問題点があると厳しく論じることができる。

　・コストと効率の無視: 国家安全保障を最優先するあまり、経済的な合理性や効率性を軽視した結果、巨額のコストと資金不足という国内的な負担を生み出している。特に、財政的に脆弱な地方の通信事業者への影響は大きく、米国民の通信環境に悪影響を及ぼす可能性すらある。

　・実用性の欠如と自己矛盾: 防衛の中枢である国防総省ですら、その普遍的な普及と技術的統合度からファーウェイ製品の完全な排除が困難であると訴え、免除を求める状況は、政策の実行可能性と実用性に疑問を投げかける。これは、ファーウェイが単なる「セキュリティ上の脅威」に留まらず、世界的なサプライチェーンと技術エコシステムに深く組み込まれている現実を、米国が十分に認識していなかった、あるいは過小評価していたことを示唆する。

　・技術的優位性の過信または誤認: 国防総省が免除を求める背景には、「ファーウェイの技術を凌駕できず」という直接的な表現は見られないが、「不可欠性」や「代替がほぼ不可能」という言葉からは、米国の同盟国やビジネスパートナーのシステムにおいて、ファーウェイ製品が持つコスト効率や技術的統合における優位性を認めざるを得ない状況が垣間見える。これは、米国が自国の技術や代替ソリューションがファーウェイに比べて十分な競争力を持っていない領域があることを、暗に認めていると解釈することもできる。

　・他国への押し付けとダブルスタンダード: 国内でさえ「リップ・アンド・リプレイス」が困難な状況にあるにもかかわらず、パナマのような発展途上国に対して800万ドルという限定的な支援でファーウェイ機器の撤去を強いることは、その実現可能性と効果に大きな疑問符が付く。米国が自国で直面している困難を顧みず、他国にはより厳しい基準を押し付けているという批判は免れない。

　これらの点から、米国のファーウェイ排除政策は、その目的が国家安全保障であったとしても、計画性、現実認識、実行可能性において多くの課題を抱えており、国内的にも国際的にも大きな摩擦と非効率を生み出している「過ち」であると結論づけることができる。

　「ジャマイカ首相に反論されて当惑した」事実

　グローバル・タイムズの社説が言及している「ジャマイカ首相に反論されて当惑した」という事実は、実際に報道されている。

　2025年3月(社説の公開日である6月14日から約3ヶ月前)、米国務長官のマルコ・ルビオがジャマイカを訪問し、共同記者会見の場でキューバ人医師のプログラムについて言及した。米国は、キューバ政府が海外に派遣する医師のプログラムを「強制労働」と見なし、批判的な立場を取っていた。  

　これに対し、ジャマイカのアンドリュー・ホルネス首相は、ルビオ国務長官の主張に明確に反論した。ホルネス首相は、ジャマイカに派遣されているキューバ人医師が同国の医療システムにとって「信じられないほど役に立っている」と強調し、ジャマイカはキューバ人医師を「搾取しないよう非常に慎重」であり、国内の労働法に従って他の労働者と同じように扱われていると述べた。そして、「他者によるこのプログラムのいかなる特徴付けも、ジャマイカには適用されない」と明確に主張した。  

　このやり取りは、米国がキューバ人医師プログラムに対して圧力をかける中で、ジャマイカが自国の主権と医療ニーズを堅持する姿勢を示した事例として報じられた。社説が「ルビオが明らかに当惑した」と描写しているのは、このような共同記者会見での直接的な反論によるものと考えられる。

「US To Deepen Dialogue with Jamaica On Cuban Medical Programme」JIS 2025.03.27
https://jis.gov.jm/us-to-deepen-dialogue-with-jamaica-on-cuban-medical-programme/

　「リップ・アンド・リプレイス」は正に米国自身の事,"RIp(=やくざ者)・and Replace(=取り替える)"ではないのか

　「リップ・アンド・リプレイス(Rip and Replace)」という言葉は、文字通りには「引き裂いて(取り除いて9交換する」という意味を持つ。これは、既存の機器やシステムをネットワークから物理的に取り外し、新しいものに置き換えるプロセスを指す技術的な用語である。通信業界では、古い機器を新しい技術にアップグレードする際などにも使われる。

　「やくざ者」の含意について

　しかし、「Rip(やくざ者)・and Replace(取り替える)」という解釈は、この言葉の技術的な意味合いを超え、米国のファーウェイ排除政策に対する厳しい批判や、その政策の強制的な性質に対する憤りが込められていると理解できる。

　この政策が「やくざ者」のような振る舞いだと見なされる背景には、以下のような理由が考えられる。

　・一方的な強制: 米国政府が国家安全保障上の理由を一方的に主張し、国内外の通信事業者に対し、既に導入され機能しているファーウェイ機器の撤去を強制している点である。これは市場の選択や経済合理性を無視した「力による命令」と受け取られかねない。

　・不十分な補償と負担転嫁: 撤去・交換にかかる巨額の費用を、主に民間企業、特に財政基盤の弱い地方の通信事業者に転嫁している点である。政府からの補償が不十分であるため、事業者の経営を圧迫し、場合によっては破産に追い込む可能性すらある。

　・「信頼性」の押し付け: 米国が自国の技術を「信頼できる」と称し、他国にその採用を促す一方で、その裏には自国企業の利益確保や地政学的な影響力拡大の意図が見え隠れするという批判である。これは、真の技術的優位性や顧客ニーズよりも、政治的動機が優先されていると解釈されることがある。

　・国際的な反発と混乱: 米国のこの政策が、世界中の通信サプライチェーンに混乱をもたらし、各国に政治的選択を迫る形で国際協力を阻害していると見なされる点も、「やくざ者」的な行動と評価される要因となり得る。

　この政策が持つ強権的な側面や、それが引き起こす不公平感、そしてその背後にある(批判者から見た)不純な動機を非常に鋭く表現できると言える。言葉の表面的な意味を超え、その政策が持つ本質的な問題点を浮き彫りにする、風刺的な表現である。

　ガスライティング

　「ガスライティング」とは、心理的虐待の一種であり、相手に故意に誤った情報を提示したり、ささいな嫌がらせ行為を繰り返したりすることで、被害者が自身の記憶、知覚、正気、あるいは自身の認識を疑うように仕向ける手法を指す。

　これは、被害者の現実認識を歪め、自己疑念を植え付け、加害者への依存を高めることを目的とした操作的な行為である。ロマンチックな関係だけでなく、家族、職場、社会的な文脈など、さまざまな人間関係で起こりえる。

　1.ガスライティングの特徴的な行動

　・嘘をつく: 明らかに事実と異なることを主張し、相手が嘘だと知っていてもそれを否定し続ける。

　・現実を否定する: 相手の経験、感情、記憶を否定したり、軽視したりする。「そんなことはなかった」「あなたは間違っている」「考えすぎだ」などと繰り返すことで、相手に自分の感覚を疑わせる。

　・混乱させる: 意図的に情報を錯綜させたり、矛盾したことを言ったりして、相手を混乱させる。

　・非難する: 相手を「おかしい」「狂っている」「神経質だ」などと非難し、問題の原因が相手にあるかのように仕向ける。

　・孤立させる: 相手が友人や家族と連絡を取ることを妨害したり、彼らとの関係を悪化させたりして、孤立させようとする。これにより、相手は頼れる人がいなくなり、加害者への依存が深まる。

　・事実を忘れさせようとする: 「そんなこと言っていない」「あなたは覚えていないだけだ」などと、過去の出来事や約束を否定する。

　2.ガスライティングの目的

　・支配とコントロール: 被害者を精神的に弱らせ、加害者の意のままに操ろうとする。

　・責任逃れ: 加害者が自分の行動の責任から逃れるために、被害者のせいにしたり、被害者の認識を歪めたりする。

　・自己肯定感の低下: 被害者の自己肯定感を著しく低下させ、自信を失わせる。

　3.「ガスライティング」の語源

　この言葉は、1938年の舞台劇「Gas Light(邦題：ガス燈)」とその映画化作品に由来する。この物語では、夫が妻の精神を病ませるために、家のガス灯の明るさを徐々に変えたり、物が動いたりするような現象を起こしたりしながら、それらを妻の妄想だと主張し、妻自身に自分の正気を疑わせる様子が描かれている。

　社説で「米国大使館の声明は、自己陶酔に満ちており、ガスライティングに近い」と述べられているのは、米国がパナマに対して、パナマ自身の安全保障や発展に関する認識を歪め、米国の都合の良い「安全」の定義を押し付けている状況を、心理的虐待の手法であるガスライティングに喩えているものである。

【寸評　完】🌺

【引用・参照・底本】

Will removing Huawei telecommunication towers make Panama safer?: Global Times editorial GT 2025.06.14
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1336111.shtml

【概要】

　義烏の「サツマイモ経済」の活況

　義烏国際貿易市場の通路に立つと、アラブ人商人が流暢な中国語で業者と交渉し、アフリカ人バイヤーが新しい電子アクセサリーをライブストリーミングし、ヨーロッパの顧客がAI翻訳システムを通じて契約を確認している様子が見られる。世界最大の小商品卸売市場である義烏は、2024年に2,798億300万元(389億ドル)の取引量を達成し、1日の平均来客数は22万4,300人で、そのうち3,900人以上が外国人バイヤーであった。これは、中国の民間経済の回復力と経済のグローバル化における創意工夫を観察するための主要な窓となっている。

　義烏空港のガラスのカーテンウォールは、世界の貿易の進化する景観を映し出している。10年前、それは主に国内線のフィーダー空港であった。今日では、週に20機の貨物機がマニラや大阪などの目的地に向けて出発している。年間300万人以上の乗客を処理するこの空港は、義烏市場の「空中棚」として機能している。その背景には、義烏のグローバル化への30年間の参加方法がある。

　米国関税への対応と「サツマイモ経済」の戦略

　米国関税に対応し、義烏は3つの主要な対抗戦略を展開してきた。第一に、一帯一路諸国での調達ネットワークを活用することで、市場の「つる」を広げた。第二に、義烏の企業はサプライチェーンの柔軟性を高めた。第三に、義烏は新しい市場に到達するためにデジタル貿易を取り入れている。

　根元を地元に置き、つるを世界に伸ばすこの「サツマイモ経済」は、米中間の緊張の中で目覚ましい回復力を示している。2024年、義烏の越境電子商取引売上高は1,400億元を超え、26万の電子商取引事業体がグローバル化する体制により、前年比15.63パーセントの成長率を実現した。

　一方、義烏は低マージン・大量販売モデルから、高価値・精密販売モデルへと進化している。貿易市場の輸入パビリオンのゾーン5では、トルコのドライイチジクやマレーシアのツバメの巣製品が、義新欧(義烏-新疆-欧州)貨物列車を介してヨーロッパに逆輸入され、「世界で買い、世界で売る」という循環を完結させている。この双方向貿易エコシステムは、義烏税関のデジタル通関システムの円滑な機能を反映しており、税関検査の効率を大幅に向上させている。

　バリューチェーンの上流における変化と貿易ルールの再構築
それにもかかわらず、バリューチェーンの上流ではより深い変化が起きている。地方政府は10億元の産業基金を立ち上げ、市場は企業がグローバル展開を支援するために「3段階」モデル(展示会、倉庫、店舗)を構築し、中小企業がD2C(直接消費者向け)戦略を習得できるよう支援している。

　義烏は現在、3つの側面で貿易ルールを再構築している。第一に、制度的開放のパイロットゾーンとなっている。輸入品のポジティブリスト、越境決済システムである義烏ペイ、市場調達貿易モデルなどの革新により、義烏は1注文あたりの輸出額上限を15万ドルから50万ドルに引き上げ、中小企業の外国為替効率を70パーセント改善した。

　第二に、デジタル貿易の新しいインフラとなっている。グローバルデジタル貿易センターは、ARを活用した商品選択、ブロックチェーンベースの追跡可能性、スマートコントラクトなどの技術を従来の卸売ブースに導入している。ある業者によると、AI支援設計システムを統合した後、売れ筋の造花デザインの開発サイクルは45日からわずか7日に短縮された。

　第三に、グローバル化されたサービスネットワークを構築した。「市場プラス商人」のグローバル展開モデルの下で、1,380社がドバイの海外市場やポーランドの倉庫を通じてローカライズされたサービスネットワークを確立している。ローカライズされた事業運営により、中東における顧客のリピート率は83パーセントにまで上昇した。

　夜になると、貿易市場のLEDドームには世界の外国為替レートと海運指数がスクロール表示される。この40年の貿易伝説はまだ書き続けられている。一方的行動主義と保護主義が世界市場を分断しようとする中で、義烏の230万種類の商品からなるウェブは、真のグローバル化が決してゼロサムゲームではなく、無数の小企業が革新と回復力によって築き上げた共有の運命であることの証しとなっている。
　
【詳細】　
　
　義烏のグローバル市場としての特徴
　
　義烏は、世界最大の小商品卸売市場として際立っており、2024年には2,798億300万元(約389億ドル)という莫大な取引量を達成した。1日の平均来客数は22万4,300人に上り、そのうち3,900人以上が外国人バイヤーである。これは、中国の民間経済の回復力と経済のグローバル化における義烏の革新性を明確に示している。

　グローバル化への戦略と「サツマイモ経済」

　米国からの関税圧力に対し、義烏は「サツマイモ経済」というユニークな戦略を展開している。これは、根元を地元(義烏)に置きつつ、その「つる」をグローバルに広げるというもので、具体的には以下の3つの柱に基づいている。

　・市場の「つる」の拡張: 「一帯一路」参加国との調達ネットワークを強化し、市場の地理的範囲を拡大している。

　・サプライチェーンの柔軟性向上: 企業は供給網の柔軟性を高めることで、外部環境の変化に迅速に対応している。

　・デジタル貿易の推進: 新しい市場へのアクセスを目的として、デジタル貿易を積極的に導入している。

　・この戦略の結果、2024年には義烏の越境電子商取引売上高が1,400億元を超え、前年比15.63%の成長を記録した。これは、26万もの電子商取引事業体がグローバル市場に進出したことによるものである。

　価値連鎖の上昇と貿易ルールの再構築

　義烏は単なる低マージン・大量販売の拠点から、高価値・精密販売へとそのモデルを転換している。貿易市場の輸入パビリオンでは、トルコのドライイチジクやマレーシアのツバメの巣製品が、義新欧(義烏-新疆-欧州)貨物列車を利用してヨーロッパへと「逆輸出」されており、「世界で買い、世界で売る」という循環が実現している。この円滑な貿易は、義烏税関のデジタル通関システムによって支えられ、通関効率が大幅に向上している。

　さらに、義烏は貿易ルールを以下の3つの側面から再構築している。

　・制度的開放のパイロットゾーン: 輸入商品のポジティブリスト、越境決済システム「義烏ペイ」、市場調達貿易モデルなどの革新により、1注文あたりの輸出上限額を15万ドルから50万ドルに引き上げ、中小企業の外国為替効率を70%改善した。

　・デジタル貿易の新しいインフラ: グローバルデジタル貿易センターでは、ARを活用した商品選択、ブロックチェーンベースの追跡可能性、スマートコントラクトといった先進技術が導入されている。これにより、AI支援設計システムを導入したある業者では、売れ筋の造花デザインの開発サイクルが45日からわずか7日に短縮されたという。

　・グローバルなサービスネットワークの構築: 「市場プラス商人」というモデルの下、1,380社がドバイの海外市場やポーランドの倉庫を通じてローカライズされたサービスネットワークを確立している。これにより、中東における顧客のリピート率が83%にまで上昇した。

　義烏の未来とグローバル化への貢献

夜には、貿易市場のLEDドームが世界の外国為替レートや海運指数を映し出す。この40年にわたる貿易の歴史は今もなお進化を続けている。一方的な行動主義や保護主義が世界市場を分断しようとする中で、義烏が擁する230万種類もの製品のネットワークは、真のグローバル化がゼロサムゲームではなく、無数の小企業が革新と回復力によって築き上げる「共有された運命」であることを証明している。

【要点】　

　義烏の経済活動に関する詳細を箇条書きで説明する。

　義烏の市場規模と特徴

　・世界最大の小商品卸売市場: 2024年の取引量は2,798億300万元(約389億ドル)に達した。

　・活発な人の流れ: 1日の平均来客数は22万4,300人で、そのうち3,900人以上が外国人バイヤーである。

　・中国経済の窓: 中国の民間経済の回復力とグローバル化における創意工夫を示す場所となっている。

　「サツマイモ経済」とグローバル戦略

　・コンセプト: 根元を地元に置きながら、その「つる」を世界に広げる経済モデルである。

　・対米関税戦略

　　⇨ 市場ネットワークの拡大: 「一帯一路」諸国との調達網を強化。

　　⇨ サプライチェーンの柔軟性向上: 外部環境の変化に迅速に対応。

　　⇨ デジタル貿易の推進: 新しい市場へのアクセスを目指す。

　・越境電子商取引の成長: 2024年の売上高は1,400億元を超え、前年比15.63%の成長を記録。26万の電子商取引事業体がグローバル市場に進出。

　価値連鎖の向上と貿易ルールの再構築

　・ビジネスモデルの転換: 低マージン・大量販売から、高価値・精密販売へと移行。

　・「世界で買い、世界で売る」: トルコのドライイチジクやマレーシアのツバメの巣製品が、義新欧(義烏-新疆-欧州)貨物列車を利用してヨーロッパに逆輸出される事例が挙げられる。

　・デジタル通関システムの貢献: 義烏税関のデジタルシステムが通関効率を大幅に向上させている。

　・貿易ルールの再構築(3つの側面)

　(1)開放のパイロットゾーン化

　・輸入品のポジティブリスト、越境決済システム「義烏ペイ」などを導入。

　・1注文あたりの輸出上限額を15万ドルから50万ドルに引き上げ。

　・中小企業の外国為替効率を70%改善。

　(2)デジタル貿易のインフラ化

　・グローバルデジタル貿易センターでAR商品選択、ブロックチェーン追跡、スマートコントラクトを導入。

　・AI支援設計システムにより、造花デザインの開発サイクルを45日から7日に短縮。

　(3)グローバルサービスネットワークの構築

　・「市場プラス商人」モデルで、1,380社がドバイの海外市場やポーランドの倉庫を通じてローカルサービス網を確立。

　・中東における顧客のリピート率が83%に上昇。

　義烏の展望

　・継続的な発展: 貿易市場のLEDドームが世界の外国為替レートや海運指数を映し出すように、義烏の貿易の歴史は今もなお書き続けられている。

　・グローバル化の証: 230万種類もの製品のネットワークは、グローバル化がゼロサムゲームではなく、共有された運命であることを証明している。
　
【桃源寸評】🌍

　中国がビジネスにおいてその手腕を発揮している背景には、電子化の圧倒的な進展が大きく寄与している。このデジタル化は、ビジネスの効率化だけでなく、新たな市場機会の創出にも繋がっている。

　中国のビジネス巧者ぶりを支える電子化の要素

　1.世界をリードするEC市場

　・中国は世界最大のEC(電子商取引)市場であり、2023年には2兆9,875億ドルを記録し、世界シェアの5割以上を占めている。EC化率も48.0%と非常に高く、成熟市場でありながら、前年比11.4%の成長を遂げている。

　・越境ECも活発で、中国からの小口配送は2023年に前年比72.0%と大幅に増加している。

　・消費者はオンラインで多様な商品にアクセスでき、事業者は国内市場だけでなく世界市場を視野に入れたビジネス展開が可能である。

　2.モバイル決済の圧倒的普及

　・中国はキャッシュレス決済、特にモバイル決済の先進国であり、あらゆる決済がオンライン化されている。コンビニやスーパー、公共交通機関、さらにはPCR検査費用までモバイル決済で支払うことができる。

　・「支付宝(アリペイ)」や「微信支付(WeChat Pay)」といった決済アプリは、日常生活に深く浸透し、ビジネスにおける取引の迅速化、効率化を強力に推進している。

　・デジタル人民元の実証実験も進められており、その実用化が近づいている。

　3.デジタルインフラの整備と政府の後押し

　・中国政府はデジタル経済を経済社会発展の大きな原動力と位置づけ、デジタルインフラの整備を強力に推進している。5G基地局の構築数は世界の8割以上を占め、モバイル通信速度も日本の2倍以上となっている。

　・「インターネット＋」戦略や「デジタル中国」建設といった国家戦略の下、デジタル化が全産業にわたって加速されており、政府主導のファンドが先端テクノロジーへの投資を支援している。

　・データ資源の構築、データ流通の推進、データ利活用の加速を目的とした政策が次々と打ち出されている。

　4.ビジネス慣習とデジタル化の融合

　・中国の商習慣は常に変化しており、特に過去10年間のデジタル化による進化は劇的である。

　・オンラインショッピングでは、商品品質だけでなく、不良品の場合の交換保証や、購入前のチャット機能による「交渉」が重視されるなど、従来の商習慣がデジタル環境に合わせた形で融合している。

　・「盒馬鮮生（フーマーフレッシュ）」のようなニューリテール企業は、実店舗とオンラインアプリを連携させ、最短30分での自宅配送を実現するなど、顧客体験を向上させることで売上を伸ばしている。

　まとめ

　このように、中国はデジタルインフラの整備、モバイル決済の普及、政府による強力な政策支援を背景に、電子化を最大限に活用してビジネスのあり方を根本から変革している。これにより、効率的な取引、新たな市場開拓、そして消費者ニーズへの迅速な対応を可能にし、世界のビジネスシーンにおいてその存在感を一層強めていると言える。

【寸評　完】🌺

【引用・参照・底本】

Feeling the vibrancy of ‘sweet potato economy’ in Yiwu GT 2025.06.13
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1336087.shtml

【概要】

　カナダが中国との貿易関係を強化するための課題

　Global Timesが2025年6月12日に報じたところによると、米国政策の不確実性に対する懸念が高まる中、カナダでは中国との関係改善を求める声が強まっている。カナダが具体的な進展を遂げるためには、イデオロギー的な偏見を排除し、二国間関係の発展に実用的なアプローチを採用する必要がある。

　ブルームバーグの報道によると、元カナダ財務大臣のビル・モルノー氏は、香港で開催されたブルームバーグ・インベスト・カンファレンスで、米国のアプローチにおける不確実性に対するヘッジとして、カナダは中国との関係を強化すべきだと述べた。

　また、カナダのメディア「National Post」によると、BCフェリーズは火曜日のプレスリリースで、厳格な国際入札プロセスを経て、中国のChina Merchants Industry Weihai Shipyardsと4隻の新造船の建造契約を締結したと発表した。これは、中国とカナダの協力が実用的な利益をもたらすことを示している。  

　これらの出来事は、カナダ内に中国との関与に関して、広範な市場基盤を持つ実用的な考え方が依然として存在することを示唆している。モルノー氏の見解は、カナダ経済界の幹部の一部の例であり、彼らは複雑で変化の激しい国際情勢の中で、中国との協力強化によってより安定した有利な発展の場を見出したいと望んでいる。

　BCフェリーズの決定は、市場原理がどのようにカナダと中国の経済協力を自然に推進するかを示している。カナダ企業は、機会を客観的に評価する際、技術的な高度さからコスト効率、品質保証に至るまで、中国のパートナーが提供する競争優位性を常に認識している。この商業的現実は、両国間の相互に有益な経済協力の強固な基盤と広大な可能性を裏付けている。

　しかし、カナダと中国の経済貿易協力が近年、後退に直面していることは否定できない。その根本原因は、オタワが米国の戦略に盲目的に追随する傾向にあることだ。例えば、米国政府の足並みを揃える形で、カナダは2024年8月に中国製電気自動車に100パーセント、中国製鉄鋼・アルミニウムに25パーセントの関税を課す計画を発表した。  

　中国のWang Di駐カナダ大使は、カナダのメディア「The Global and Mail」とのインタビューで、2022年以降、カナダ側は国家安全保障を理由に、主要鉱物資源分野の中国企業3社に対し、カナダ支社の閉鎖と資産の売却を求めたと指摘し、これらの動きがカナダへの中国企業の投資意欲を著しく減退させたと述べた。

　一部のカナダ政治家による中国造船契約への批判は、このようなイデオロギー的偏見の表れである。米国戦略の枠組みに閉じこもることで、カナダは中国が関与する協力に対して、しばしばある種の疑念を抱く傾向がある。そのような疑念がある限り、中国と相互に利益のある関係を築くことはできない。したがって、カナダが本当に変化を望むのであれば、最も重要な一歩は実用的な姿勢に戻ることである。

　現在、中国との貿易関係を改善することは、カナダにとって非常に重要である。米国が追求する貿易保護主義政策は、世界経済に大きな不確実性とリスクをもたらしている。米国の隣国であり重要な貿易相手国であるカナダは、必然的に深刻な影響を受けている。

　このような状況において、カナダは経済貿易関係において、自国の圧力を軽減する正しい道を再評価する必要がある。世界第2位の経済大国である中国は、広大な市場と完全な産業チェーンを誇り、間違いなくカナダにとって理想的な貿易相手国の一つである。中国との経済貿易協力を強化することで、カナダは鉱物および農産物の輸出市場を見出し、産業競争力を高めることができる。

　Wang Di大使が最近のカナダ通信とのインタビューで述べたように、中国とカナダは資源賦存量と経済構造の点で高い補完性を有している。両国間には貿易を行う上で大きな潜在力があり、両国政府がすべきことは、両国の企業が貿易を行う上で公平で、差別がなく、予測可能なビジネス環境を提供することである。

　中国は前進する用意があり、二国間関係を正しい軌道に戻したいと願っているが、それには双方が正しい認識と相互尊重を持ち、共通点を見出し、相違点を棚上げすることが必要である。

　カナダがこの機会を捉え、イデオロギー的な偏見の束縛から解放され、中国との相互に有益な協力の新たな旅に乗り出すことが心から望まれる。
　
【詳細】　
　
　カナダが中国との貿易関係を強化するための課題
Global Timesが2025年6月12日に報じたところによると、米国政策の不確実性に対する懸念が高まる中、カナダでは中国との関係改善を求める声が強まっている。カナダが具体的な進展を遂げるためには、イデオロギー的な偏見を排除し、実用的なアプローチを採用する必要がある。

　中国との関係改善を求める声

　ブルームバーグの報道によると、元カナダ財務大臣のビル・モルノー氏は、香港で開催されたブルームバーグ・インベスト・カンファレンスで、米国のアプローチにおける不確実性に対するヘッジとして、カナダは中国との関係を強化すべきだと述べた。

　また、カナダのメディア「National Post」によると、BCフェリーズは火曜日のプレスリリースで、厳格な国際入札プロセスを経て、中国のChina Merchants Industry Weihai Shipyardsと4隻の新造船の建造契約を締結したと発表した。これは、中国とカナダの協力が実用的な利益をもたらすことを示している。

　これらの出来事は、カナダ内に中国との関与に関して、広範な市場基盤を持つ実用的な考え方が依然として存在することを示唆している。モルノー氏の見解は、カナダ経済界の幹部の一部の例であり、彼らは複雑で変化の激しい国際情勢の中で、中国との協力強化によってより安定した有利な発展の場を見出したいと望んでいる。

　BCフェリーズの決定は、市場原理がどのようにカナダと中国の経済協力を自然に推進するかを示している。カナダ企業は、機会を客観的に評価する際、技術的な高度さからコスト効率、品質保証に至るまで、中国のパートナーが提供する競争優位性を常に認識している。この商業的現実は、両国間の相互に有益な経済協力の強固な基盤と広大な可能性を裏付けている。

　経済貿易協力の障害

　しかし、カナダと中国の経済貿易協力が近年、後退に直面していることは否定できない。その根本原因は、オタワが米国の戦略に盲目的に追随する傾向にあることだ。例えば、米国政府の足並みを揃える形で、カナダは2024年8月に中国製電気自動車に100パーセント、中国製鉄鋼・アルミニウムに25パーセントの関税を課す計画を発表した。

　中国のWang Di駐カナダ大使は、カナダのメディア「The Global and Mail」とのインタビューで、2022年以降、カナダ側は国家安全保障を理由に、主要鉱物資源分野の中国企業3社に対し、カナダ支社の閉鎖と資産の売却を求めたと指摘し、これらの動きがカナダへの中国企業の投資意欲を著しく減退させたと述べた。

　一部のカナダ政治家による中国造船契約への批判は、このようなイデオロギー的偏見の表れである。米国戦略の枠組みに閉じこもることで、カナダは中国が関与する協力に対して、しばしばある種の疑念を抱く傾向がある。そのような疑念がある限り、中国と相互に利益のある関係を築くことはできない。したがって、カナダが本当に変化を望むのであれば、最も重要な一歩は実用的な姿勢に戻ることである。

　中国との貿易関係改善の重要性

　現在、中国との貿易関係を改善することは、カナダにとって非常に重要である。米国が追求する貿易保護主義政策は、世界経済に大きな不確実性とリスクをもたらしている。米国の隣国であり重要な貿易相手国であるカナダは、必然的に深刻な影響を受けている。

　このような状況において、カナダは経済貿易関係において、自国の圧力を軽減する正しい道を再評価する必要がある。世界第2位の経済大国である中国は、広大な市場と完全な産業チェーンを誇り、間違いなくカナダにとって理想的な貿易相手国の一つである。中国との経済貿易協力を強化することで、カナダは鉱物および農産物の輸出市場を見出し、産業競争力を高めることができる。

　Wang Di大使が最近のカナダ通信とのインタビューで述べたように、中国とカナダは資源賦存量と経済構造の点で高い補完性を有している。両国間には貿易を行う上で大きな潜在力があり、両国政府がすべきことは、両国の企業が貿易を行う上で公平で、差別がなく、予測可能なビジネス環境を提供することである。

　中国は前進する用意があり、二国間関係を正しい軌道に戻したいと願っているが、それには双方が正しい認識と相互尊重を持ち、共通点を見出し、相違点を棚上げすることが必要である。

カナダがこの機会を捉え、イデオロギー的な偏見の束縛から解放され、中国との相互に有益な協力の新たな旅に乗り出すことが心から望まれる。

【要点】　

　カナダが中国との貿易関係を強化するための課題

　1.中国との関係改善を求める声の台頭:

　・米国政策の不確実性への懸念から、カナダでは中国との関係改善を求める声が強まっている。

　・元カナダ財務大臣ビル・モルノー氏は、米国のアプローチにおける不確実性へのヘッジとして、中国との関係強化を提唱している。
BCフェリーズが厳格な国際入札プロセスを経て、中国のChina Merchants Industry Weihai Shipyardsに新造船4隻の建造契約を発注したことは、中国・カナダ協力の実用的な利益を示す事例である。

　・これは、カナダ国内に、広範な市場基盤を持つ中国との実用的な関与への考え方が依然として存在することを示している。
カナダ企業は、中国のパートナーが提供する技術的な高度さ、コスト効率、品質保証といった競争優位性を認識しており、これが経済協力の強固な基盤となっている。

　2.経済貿易協力の障害

　・近年、カナダと中国の経済貿易協力は後退に直面している。
主
　・な原因は、カナダ政府が米国の戦略に盲目的に追随する傾向にあることである。

　・例として、2024年8月にカナダは中国製電気自動車に100％、中国製鉄鋼・アルミニウムに25％の関税を課す計画を発表した。

　・中国のWang Di駐カナダ大使は、カナダが国家安全保障を理由に中国企業3社にカナダ支社の閉鎖と資産売却を求めたことが、中国企業のカナダへの投資意欲を著しく減退させたと指摘している。

　・一部のカナダ政治家による中国造船契約への批判は、このようなイデオロギー的偏見の表れであり、相互利益関係の発展を妨げている。

　・カナダが変化を望むのであれば、実用的な姿勢に戻ることが最も重要である。

　3.中国との貿易関係改善の重要性:

　・米国の貿易保護主義政策が世界経済に大きな不確実性をもたらす中、カナダは深刻な影響を受けている。

　・カナダは経済貿易関係において、自国の圧力を軽減する正しい道を再評価する必要がある。

　・世界第2位の経済大国である中国は、広大な市場と完全な産業チェーンを有しており、カナダにとって理想的な貿易相手国である。

　・中国との経済貿易協力を強化することで、カナダは鉱物や農産物の輸出市場を見出し、産業競争力を高めることができる。

　・中国とカナダは、資源賦存量と経済構造の点で高い補完性を持っており、貿易において大きな潜在力がある。

　・両国政府は、企業が貿易を行う上で公平で、差別がなく、予測可能なビジネス環境を提供すべきである。

　・中国は関係を正しい軌道に戻すことを望んでおり、そのためには双方が正しい認識、相互尊重、共通点の追求、相違点の棚上げが必要である。

　・カナダがイデオロギー的な偏見から解放され、相互に有益な協力へと踏み出すことが期待されている。
　
【桃源寸評】🌍

　米国の「金縛り」と西側諸国の現状

　「カナダだけでなく、西側諸国全体が米国の「金縛り」の夢から覚めるべきである」という視点から、米国と西側諸国の現状を批判的に論じる。

　米国中心主義への盲従

　長らく、多くの西側諸国は、国際政治・経済において米国の主導権に追随してきた。これは、冷戦終結後の「唯一の超大国」としての米国の地位、そして安全保障面での依存関係に起因するところが大きいからである。しかし、この米国中心主義への盲従は、西側諸国自身の国益を損ね、世界全体のバランスを歪める結果を招いている。

　具体的には、米国の外交政策や経済戦略が、必ずしも同盟国の国益と一致しない場面が多々見られる。例えば、貿易問題において、米国が自国産業保護を優先し、同盟国に不利益な関税措置を課すことがある。また、特定の国に対する制裁や対立姿勢に同盟国を巻き込むことで、それらの国の経済関係や外交的選択肢を狭めるケースも見受けられる。

　イデオロギー的偏見と実利の軽視

　米国は、自国の価値観やイデオロギーを国際社会に強く押し出す傾向がある。これ自体が悪いわけではないが、これが他国との関係構築において、実利よりもイデオロギー的な偏見を優先する原因となっている点は批判されるべきである。

　特定の国を「脅威」とみなし、その国との経済的・外交的交流を制限するよう同盟国に求めることは、同盟国にとって機会損失となり得る。例えば、経済成長著しい市場へのアクセスを失ったり、より効率的なサプライチェーンを構築する機会を逃したりする可能性がある。カナダの事例のように、市場原理に基づいて中国企業と契約を結ぶことが、政治的な理由で批判されるのはその典型である。これは、短期的な政治的思惑が、長期的な経済的利益や国民生活の向上という視点を軽視していると指摘できる。

　多極化する世界への適応の遅れ

　現代の世界は、もはや米国一極支配の時代ではない。中国の台頭、インドの存在感の増大、グローバルサウスの多角化など、国際社会は明らかに多極化している。にもかかわらず、西側諸国が米国主導の冷戦時代の枠組みに固執し続けることは、現実との乖離を生じさせている。

　例えば、気候変動、パンデミック、貧困といった地球規模の課題に対処するためには、特定の国家の主導権だけでなく、多様なアクター間の協力が不可欠である。米国との関係に過度に依存するあまり、他の主要な国際プレーヤーとの協力関係を十分に発展させられないことは、西側諸国がグローバルな課題解決に貢献する能力を低下させていると言える。

　自律的外交の必要性

　西側諸国は、米国の「金縛り」から覚め、より自律的な外交政策を追求すべきである。これは、米国との同盟関係を破棄するという意味ではない。むしろ、同盟関係を維持しつつも、自国の国益を最大限に追求し、国際情勢の変化に柔軟に対応できるような、より成熟した関係を築くことである。

　そのためには、特定の国の意向に左右されず、世界の多様な国々との関係を多角的に構築していく必要がある。経済協力、文化交流、人材育成など、多岐にわたる分野で国際的なパートナーシップを深化させることで、よりレジリエンスの高い国際環境を構築できる。

　結論

　西側諸国が米国の「金縛り」から覚めるということは、過去の成功体験や既成概念にとらわれず、変化する世界情勢を直視し、自国の国益に基づいた実用的な外交を展開することにほかならない。これは、単なる米国批判ではなく、西側諸国自身が国際社会における真の役割と責任を果たすための重要な一歩となる。
　
【寸評　完】🌺

【引用・参照・底本】

GT Voice: Canada needs to drop ideological bias to boost trade ties with China GT 2025.06.12
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1336006.shtml

【概要】

　「ラクダの道から貨物レーンへ：習近平の中国中央アジアの未来像」によると、中国の習近平国家主席は中央アジアを現代の「一帯一路」協力における重要なパートナーと見ている。

　「一帯一路」の構想と進展

　2013年9月、習近平国家主席はアスタナのナザルバエフ大学で「シルクロード経済ベルト」構想(「一帯一路」の主要な構成要素)を初めて提唱した。この中で習主席は、東アジア、西アジア、南アジアを結ぶ交通網の構築と、地域経済の発展と移動の促進に向けた越境交通インフラの改善について積極的に議論することを提案した。  

　多次元的な連結ネットワークの確立

　2024年7月、習近平国家主席とカザフスタンのカシム＝ジョマルト・トカエフ大統領はアスタナでの式典で、中国・ヨーロッパ横カスピ海エクスプレスルートを共同で開設した。これは、高速道路、鉄道、航空、パイプラインを統合した多次元的な連結ネットワークの正式な確立を意味し、カスピ海を経由してアジアとヨーロッパをより良く結びつけることを目指している。

　中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道プロジェクト

　昨年末には、キルギスの国境都市ジャララバードで中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道プロジェクトの起工式が開催された。習主席は祝賀書簡で、この鉄道を「一帯一路」協力における「新たな模範プロジェクト」として築き上げるよう呼びかけた。この路線は中国新疆ウイグル自治区のカシュガルから始まり、トルガルト峠を越えてキルギスに入り、ジャララバードを西に進み、ウズベキスタン東部のアンディジャンに到達する。キルギスのサディル・ジャパロフ大統領は、この鉄道が単なる輸送回廊ではなく、東洋と西洋の国々を結ぶ重要な戦略的架け橋となると述べた。

　地域貿易と交流の促進

　「一帯一路」協力は、地域における貿易、移動、交流を効果的に促進している。2024年には、中国と中央アジアの貿易額は過去最高の948億米ドルに達し、越境電子商取引部門の活況も寄与した。現在、中国は中央アジアにとって最大の貿易相手国であり、主要な投資元となっている。

　タジキスタンとの協力事例

　タジキスタンは2014年にシルクロード経済ベルトに関する覚書を中国と初めて締結した国である。以来、新しい高速道路、発電所、都市のランドマークなど、具体的な成果が生まれており、その多くは習主席が個人的に推進してきたものである。タジキスタンには中央アジア初の「Luban ワークショップ」(中国の職業訓練センター)も設立されており、これまでに1,500人以上の学生に工学、建築、水資源管理、環境保護などの実用的なスキルを習得させ、同国の将来の発展のための人材を育成している。2024年のタジキスタン訪問時、習主席はタジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領に対し、「より繁栄したタジキスタンを見た」と述べた。
　
【詳細】　
　
　中国が中央アジアとの連携を深め、「一帯一路」構想を具体化していく過程を詳述している。

　「シルクロード経済ベルト」構想の提唱

　習近平国家主席は、2013年9月にカザフスタンのナザルバエフ大学で「シルクロード経済ベルト」の構築を初めて提唱した。これは、中国、中央アジア、そしてさらに西方の国々を結ぶ広範な経済回廊を創出するという「一帯一路」イニシアチブの重要な要素である。習主席は当時、「越境交通インフラの改善と、東アジア、西アジア、南アジアを結ぶ交通網の構築に向け、最善の方法を積極的に議論し、地域の経済発展と移動を促進する」ことを呼びかけた。

　多様な交通ネットワークの確立

　2024年7月には、習近平国家主席とカザフスタンのカシム＝ジョマルト・トカエフ大統領が、中国・ヨーロッパ横カスピ海エクスプレスルートを共同で開設した。このルートは、高速道路、鉄道、航空、パイプラインを統合した多次元的な連結ネットワークとして機能し、カスピ海を介してアジアとヨーロッパを結びつけることを目指している。記事では、これが「一帯一路」イニシアチブの「活気ある動脈」となることが期待されていると述べられている。

　中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道プロジェクトの進展

　「一帯一路」構想の具体的な進展として、中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道プロジェクトが挙げられている。このプロジェクトの起工式は、2024年末にキルギスの国境都市ジャララバードで開催された。習主席は祝賀書簡で、この鉄道が「一帯一路」協力における「新たな模範プロジェクト」となるよう期待を表明した。

　この鉄道は、中国の新疆ウイグル自治区カシュガルを起点とし、トルガルト峠を越えてキルギスに入り、ジャララバードを通過してウズベキスタン東部のアンディジャンに到達する。キルギスのサディル・ジャパロフ大統領は、この鉄道が単なる輸送回廊ではなく、「東洋と西洋の国々を結ぶ重要な戦略的架け橋」であると評価している。このプロジェクトは、陸路による連結性を強化し、中央アジア地域の経済発展を促進する上で重要な役割を果たすものと見られている。 

　貿易と投資関係の強化

　「一帯一路」協力の成果として、中国と中央アジア間の貿易関係の大幅な強化が挙げられる。2024年には、両者間の貿易額は過去最高の948億米ドルに達した。この貿易増加は、越境電子商取引部門の急成長によっても牽引されている。現在、中国は中央アジアにとって最大の貿易相手国であり、主要な投資元となっている。

　タジキスタンとの協力と「Luban ワークショップ」

　タジキスタンは、2014年に「シルクロード経済ベルト」に関する覚書を中国と初めて締結した国である。以来、タジキスタンでは新しい高速道路、発電所、都市のランドマークの建設など、具体的な協力成果が生まれており、これらのプロジェクトの多くは習主席によって個人的に推進されてきた。

　特に注目されるのは、中央アジア初の「Luban ワークショップ」がタジキスタンに設立されたことである。「Luban ワークショップ」は、中国の職業訓練センターであり、これまでに1,500人以上の学生に、工学、建築、水資源管理、環境保護といった実践的なスキルを提供してきた。これは、タジキスタンの将来の発展に必要な人材育成に貢献している。2024年のタジキスタン訪問時、習主席はタジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領に対し、「より繁栄したタジキスタンを見た」と述べており、協力の成果に満足している様子が示されている。

【要点】　

　習近平の「一帯一路」構想

　・構想の提唱: 習近平国家主席は2013年9月、カザフスタンのナザルバエフ大学で「シルクロード経済ベルト」構想(「一帯一路」イニシアチブの主要な構成要素)を初めて提唱した。

　・目標: 東アジア、西アジア、南アジアを結ぶ交通網の構築と、地域経済の発展および移動の促進を目的としている。

　多様な連結ネットワークの構築

　・中国・ヨーロッパ横カスピ海エクスプレスルート: 2024年7月、習近平国家主席とカザフスタンのトカエフ大統領が共同でルートを開設した。

　・ネットワークの構成: 高速道路、鉄道、航空、パイプラインを統合した多次元的な連結ネットワークである。

　・役割: カスピ海を経由してアジアとヨーロッパを結びつけ、「一帯一路」イニシアチブの「活気ある動脈」となることが期待されている。

　主要なインフラプロジェクト

　・中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道プロジェクト: 2024年末にキルギスのジャララバードで起工式が開催された。

　・習主席の期待: この鉄道を「一帯一路」協力における「新たな模範プロジェクト」と位置づけている。

　・路線の概要: 中国新疆ウイグル自治区のカシュガルを起点とし、トルガルト峠を越えキルギスのジャララバードを通り、ウズベキスタンのアンディジャンに至る。

　・戦略的意義: キルギスのジャパロフ大統領は、この鉄道を「東洋と西洋の国々を結ぶ重要な戦略的架け橋」と評している。

　経済と人材育成の成果

　・貿易関係の強化: 2024年、中国と中央アジア間の貿易額は過去最高の948億米ドルに達し、越境電子商取引の活況が寄与している。

　・主要なパートナー: 中国は現在、中央アジアにとって最大の貿易相手国であり、主要な投資元である。

　・タジキスタンとの協力

　　⇨ 2014年に「シルクロード経済ベルト」に関する覚書を中国と初めて締結した。

　　⇨ 新しい高速道路、発電所、都市のランドマークなど、具体的な協力成果が生まれている。

　　⇨ Luban ワークショップ: 中央アジア初の「Luban ワークショップ」(中国の職業訓練センター)がタジキスタンに設立され、1,500人以上の学生に実践的なスキルを提供している。

　　⇨ 習主席の評価: 2024年のタジキスタン訪問時、習主席は「より繁栄したタジキスタンを見た」と述べている。
　
【桃源寸評】🌍

　悪い計画を良い行動で修正しようとすることは困難であり、良い計画と良い行動が揃って初めて、正しい考え方と言えるだろう。中国のアプローチは、この点で理にかなっているように見える。一方で、進化や発展を阻害する方向にしか考えられない国は衰退の道をたどるとも言える。

　中国のアプローチ：発展と連結性の重視

　中国は「一帯一路」構想を通じて、中央アジア諸国との間で具体的な経済的連結性を強化する計画を実行している。これは、インフラ整備、貿易促進、そして人材育成という明確な行動を伴っている。

　・インフラ整備: 中国は、中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道プロジェクトのような大規模な交通インフラを推進している。これは単なる輸送路としてだけでなく、地域間の戦略的な架け橋として位置づけられている。また、中国・ヨーロッパ横カスピ海エクスプレスルートの開設は、高速道路、鉄道、航空、パイプラインを統合した多次元的なネットワークを構築し、アジアとヨーロッパを結びつけることを目指している。これらのプロジェクトは、物理的な連結性を高め、貿易や人の移動を促進する具体的な計画に基づいている。

　・貿易の拡大: 「一帯一路」協力は、中国と中央アジア間の貿易額を2024年に過去最高の948億米ドルにまで押し上げた。これは、越境電子商取引の活況も相まって、経済的な相互依存関係を深める具体的な成果と言える。

　・人材育成: タジキスタンに設立された中央アジア初の「魯班ワークショップ」は、技術教育を通じて1,500人以上の学生に実践的なスキルを提供し、現地の発展に必要な人材を育成している。これは、持続的な発展を支えるための長期的な視点に基づく行動である。

　米国のアプローチ：戦略的対抗と中国の影響力抑制

　一方、米国のアプローチは、しばしば中国の台頭と影響力拡大への対抗という側面が強く見られる。

　・戦略的競争: 米国は、インド太平洋地域における「クアッド」や「AUKUS」などの枠組みを通じて、中国への戦略的な対抗姿勢を強めている。これらは、特定の同盟国との安全保障協力を強化し、中国の軍事的・経済的影響力を抑制することを目的としている。

　・経済的イニシアティブの相対的な不在: 米国も経済的イニシアティブを提唱しているが、中国の「一帯一路」のように広範かつ大規模なインフラ投資や開発プロジェクトを伴うものは多くない。例えば、「より良い世界を再構築する(Build Back Better World: B3W)」のようなイニシアティブは発表されたが、その具体的な進捗や投資規模は「一帯一路」と比較して限定的であると指摘されることがある。

　・同盟国への働きかけ: 米国は、同盟国に対して中国との経済関係を見直すよう働きかけたり、サプライチェーンの多様化を促したりしている。これは、中国への依存度を減らすという安全保障上の観点からのものであり、必ずしも発展や連結性の促進を主目的とするものではない。

　比較と考察

　中国のアプローチは、中央アジア諸国との間に具体的なインフラを構築し、貿易を拡大し、人材を育成することで、地域全体の発展と連結性を追求するという「良い計画と良い行動」が伴っていると言える。これは、新しい経済的機会を創出し、参加国の経済成長に直接的に貢献する可能性を秘めている。

　対照的に、米国のアプローチは、中国の行動に対する「対抗」や「抑制」という側面が強く、具体的な発展を促進する計画や行動の規模が相対的に小さい場合がある。もしある国の考え方が「遷移の発展を阻止する方向」に向かいがちであるならば、それは長期的な衰退の道を辿る可能性も否定できない。発展と協力を基盤とする中国のアプローチと、戦略的対抗に重きを置く米国のアプローチは、それぞれ異なる結果をもたらす可能性があると言える。
　
【寸評　完】🌺

【引用・参照・底本】

From camel trails to cargo lanes: Xi's vision for a China-Central Asia future GT 2025.06.15
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1336152.shtml

【概要】

　2025年上半期、中国と中央アジア5カ国間の貿易が著しい成長を遂げた。2025年1月から5月までの貿易総額は2,864億2,000万元(約399億3,000万ドル)に達し、前年同期比10.4%増加し、過去最高の記録を更新したことが、中国税関総署(GAC)が6月15日に発表したデータで明らかになった。  

　中央アジアは「一帯一路」イニシアティブが最初に提案された地であり、質の高い「一帯一路」協力の模範地域として、中国との経済連携は継続的に深化しており、二国間貿易の規模は着実に拡大している。

　GACの統計によると、中国と中央アジア5カ国間の輸出入総額は、2013年の3,120億4,000万元から2024年には6,741億5,000万元へと116%増加した。年平均成長率は7.3%に達し、これは同時期の中国の貿易総額の年平均成長率を2.3ポイント上回る。  
　
　中国は中央アジアとの農業協力の深化に積極的に取り組んでおり、同地域からの高品質な農産物が中国市場に流入している。2025年1月から5月までの期間、中国は中央アジア5カ国から43億6,000万元相当の農産物を輸入し、前年同期比26.9%増加した。このうち、カザフスタンからの亜麻仁輸入は202.1%、ウズベキスタンからのレーズンは153.7%、キルギスからの蜂蜜は10.9倍と大幅に増加した。  

　一方、高水準のインフラ接続ネットワークの発展により、周辺の陸上輸送ルートは継続的に最適化されている。中国と中央アジア5カ国間の貿易総額に占める道路輸送の割合は、2020年の19.9%から2024年には約51.8%に上昇した。2025年1月から5月までの期間、中国と中央アジア5カ国間の道路輸送関連の輸出入は1,436億5,000万元に達し、前年同期比10.9%増加し、その割合は引き続き50%を超えている。
　
【詳細】　
　
　貿易総額の推移と現状

　・2025年1月から5月までの貿易総額は2,864億2,000万元(約399億3,000万ドル)に達した。これは前年同期比で10.4%の増加であり、過去の同期間と比較して新記録を樹立した。

　・中国税関総署(GAC)の統計によれば、中国と中央アジア5カ国間の輸出入総額は、2013年の3,120億4,000万元から2024年には6,741億5,000万元へと、わずか11年間で116%もの大幅な増加を記録した。

　・この期間における年平均成長率は7.3%であり、これは同時期の中国の対外貿易全体の年平均成長率を2.3ポイント上回る水準である。このデータは、中央アジア地域が「一帯一路」イニシアティブの提案地であり、その協力の質の高さを示す好事例となっていることを裏付けている。

　農業分野における協力と輸入の拡大

　・中国は中央アジアとの農業協力の潜在力を積極的に引き出しており、その結果、同地域からの高品質な農産物が中国市場に数多く供給されている。

　・2025年1月から5月までの期間、中国は中央アジア5カ国から43億6,000万元相当の農産物を輸入した。これは前年同期比で26.9%の大幅な増加である。

　・具体的な品目としては、カザフスタンからの亜麻仁輸入が202.1%急増、ウズベキスタンからのレーズンが153.7%増加、そしてキルギスからの蜂蜜は実に10.9倍もの増加を記録した。

　交通インフラの改善と道路輸送の役割

　・高水準のインフラ接続ネットワークの発展により、中国と中央アジアを結ぶ陸上輸送ルートは継続的に最適化されている。

　・中国と中央アジア5カ国間の輸出入総額に占める道路輸送の割合は顕著に増加しており、2020年には19.9%であったが、2024年には約51.8%にまで上昇した。これは、陸路による貿易の重要性が飛躍的に高まっていることを示している。

　・2025年1月から5月までの期間、中国と中央アジア5カ国間の道路輸送関連の輸出入額は1,436億5,000万元に達し、前年同期比で10.9%増加した。この期間も道路輸送の割合は50%を超え、その優位性を維持している。

　これらのデータは、中国と中央アジア諸国間の経済連携が着実に深化し、特に貿易において記録的な成長を遂げていることを明確に示している。

【要点】　

　中国と中央アジア5カ国間の貿易は、2025年上半期に以下の通り著しい成長を見せている。

　貿易総額の記録的増加

　・2025年1月〜5月の貿易総額は2,864億2,000万元(約399億3,000万ドル)に達し、前年同期比で10.4%増加した。これは過去の同期間と比較して新記録である。

　・2013年から2024年にかけて、両地域間の輸出入総額は3,120億4,000万元から6,741億5,000万元へと116%増加した。

　・この期間の年平均成長率は7.3%で、中国の対外貿易全体の平均成長率を2.3ポイント上回る。

　農業協力の深化

　・中国は中央アジアとの農業協力を積極的に進め、質の高い農産物の輸入が増加している。

　・2025年1月〜5月には、中央アジア5カ国からの農産物輸入が43億6,000万元に達し、前年同期比で26.9%増加した。

　・特に、カザフスタンからの亜麻仁輸入は202.1%増、ウズベキスタンからのレーズンは153.7%増、キルギスからの蜂蜜は10.9倍増と、大幅な伸びを記録している。

　道路輸送の優位性

　・インフラ接続ネットワークの発展により、中国と中央アジア間の陸上輸送ルートが最適化された。

　・中国と中央アジア5カ国間の貿易総額に占める道路輸送の割合は、2020年の19.9%から2024年には**約51.8%**に上昇した。

　・2025年1月〜5月までの道路輸送による輸出入額は1,436億5,000万元で、前年同期比10.9%増加し、50%を超える割合を維持している。
　
【桃源寸評】🌍

　中国と中央アジアを結ぶ長距離貨物列車は、「中欧班列」(中国と欧州を結ぶ国際貨物列車網)の一部として運用されている。その運用方法にはいくつかの特徴がある。

　主要なルート

　中国と中央アジア・欧州を結ぶ国際貨物列車は、主に以下の3つのルートに大別される。

　・西ルート: 中国の西南部・西北部などから、アラシャンコウ(阿拉山口)やホルゴス(霍爾果斯)といった新疆ウイグル自治区の国境を越え、カザフスタンを経由して中央アジア各国や欧州へ向かう。このルートが最も運行本数が多い。

　・中ルート: 中国の華中・華北などからエレンホト(二連浩特)を経由してモンゴルを通り、ロシアへ向かう。

　・東ルート: 中国の華東・華南・東北などから満洲里(満州里)や綏芬河(スイフェンヘ)、同江(トンジャン)を経由してロシアへ向かう。

　中央アジア向けの貨物列車は、主に西ルートを利用する。

　軌間の問題と積み替え

　・中国の鉄道は標準軌(1,435mm)を採用しているが、中央アジア諸国やロシアの鉄道は広軌(1,520mm)を採用している。

　・この軌間の違いのため、国境駅(例：アラシャンコウ、ホルゴス)では、貨物の積み替えや台車の交換が必要となる。これにより、通過に時間がかかる場合がある。

　運行頻度と効率性

　・中欧班列全体の運行本数は年々増加傾向にあり、例えば2023年上半期には8,641本が運行された。中国と中央アジア間の路線も、需要に応じて運行頻度が高まっている。

　・鉄道輸送は、海上輸送に比べて時間が短く(海上輸送の30～40日に対し、鉄道は12～18日程度)、航空貨物よりもコストが低いという利点がある。これにより、時間とコストのバランスが取れた輸送手段として活用されている。

　・列車は通常、100個以上のコンテナを編成して走行し、貨物電子管理システムによって監視されている。

　通関と追跡

　・貨物のトレーシング(所在地の確認)は、中国・カザフスタン国境から最終仕向駅まで可能であることが報告されている。

　・通関手続きは、鉄道駅での貨物到着後に通知され、必要な書類を税関事務所で処理します。通関手続きの効率化は、遅延削減の重要な要素とされています。

　「一帯一路」との連携

　・長距離貨物列車網は、中国が提唱する「一帯一路」イニシアティブの重要な柱の一つであり、インフラ投資と貿易促進を目的としている。

　・これにより、中国の内陸部や中央アジア諸国との経済交流が活発化し、輸送インフラの整備が加速している。

　これらの運用方法により、中国と中央アジア間の貿易は効率的かつ迅速に行われ、経済連携の深化に貢献している。

　中国と中央アジアを結ぶ長距離貨物列車(中欧班列の一部)の平均時速は、様々な要因によって変動するが、おおよその目安としては以下のようになる。

　運行速度の目安

　・実際の走行速度: 貨物列車が実際に走行している間は、時速60kmから100km以上の速度が出ている区間もある。特に中国国内の幹線ルートでは、貨物専用線や改良された区間では比較的高い速度で運行される。

　・平均時速の算出: しかし、区間全体の「平均時速」として考えると、これは大幅に下がる。主な要因は以下の通り。

　　⇨ 国境での停車時間: 軌間（ゲージ）変更のための積み替えや台車交換、および通関手続きに数時間から数日を要する。これが平均速度を大きく押し下げる要因となる。

　　⇨ 途中駅での停車: 運転士の交替、燃料補給、車両点検、貨物の集荷・仕分けのために途中で停車する場合がある。

　　⇨ 待避やダイヤの調整: 旅客列車優先のダイヤや、他の貨物列車とのすれ違い、線路の混雑などにより、待避や速度制限がかかることがある。

　　⇨ 各国のインフラ状況: 中央アジア諸国やロシアの鉄道インフラは、中国国内と比較して、必ずしも高速運行に適していない区間もある。

　具体的な報告例

　・ある情報源によると、中欧班列全体の平均速度は時速30kmを下回るとされている。これは、全行程の約16日間のうち、国境での積み替えや通関などで4〜5日間が停車状態にあるためと説明されている。実際に走行しているのは11〜12日間程度となるため、平均するとこの程度の速度になると考えられる。

　・また、カザフスタン鉄道のデータでは、平均時速42kmという報告もある。これはあくまでカザフスタン国内での平均速度であり、全行程の平均とは異なる。

　輸送日数と効率性

　・全体として、中国から欧州・中央アジアまでの輸送日数は、海上輸送が30～40日かかるのに対し、鉄道輸送は12～18日程度と大幅に短縮されています。

　・この輸送時間の短縮が、平均時速は低くても、航空輸送よりコストが安く、海上輸送より速いという鉄道輸送の強みとなっている。

　結論として、中国と中央アジアを結ぶ貨物列車の「平均時速」は、純粋な走行速度よりも低く見積もられる傾向にある。これは、軌間変更や通関などの停止時間が含まれるためである。しかし、それでも輸送全体としての効率性や速達性には大きなメリットがある。

　中国と中央アジアを結ぶ鉄道網は、単線区間と複線区間が混在している。特に、国際的な物流回廊として重要性が高まるにつれて、主要路線の複線化が進められている。

　中国国内の状況

　・中国国内では、国際貨物列車が利用する主要な幹線ルート(特に蘭新線など)で複線化が進んでいる。例えば、新疆ウイグル自治区の精河県とアラシャンコウ国境区間は複線化され、輸送能力が大幅に拡大した。

　・主要な鉄道ハブや国際貨物列車の発着駅を持つ都市周辺の路線は、通常、複線化されている。

　中央アジアの状況

　・中央アジア諸国(カザフスタン、ウズベキスタンなど)の鉄道網は、旧ソ連時代からのインフラを基盤としており、多くの区間が単線となっている。

　・しかし、「一帯一路」イニシアティブのもと、中国からの投資や各国自身のインフラ近代化計画により、主要な国際輸送回廊として機能する一部区間では複線化や電化が進められている。例えば、カザフスタンでは東西トランジット輸送の要所である国境駅ドルジバ(Dostyk)周辺や主要幹線において、複線化や近代化が重視されている。

　・完全に複線化されているわけではなく、依然として単線区間が輸送能力のボトルネックとなることがある。

　重要性

　・複線化のメリット: 複線化は、列車の運行密度を高め、輸送能力を大幅に向上させる。これにより、列車の待避時間が減り、運行遅延が削減され、全体的な輸送効率が向上する。

　・「一帯一路」との関連: 中国と中央アジア間の貿易量増加に対応するため、特に国境を越える主要ルートにおける複線化は、今後の「一帯一路」の物流強化にとって不可欠な要素である。

　したがって、現在の中国・中央アジア間の鉄道網は、完全に複線化されているわけではなく、重要な区間で複線化が進められている状況である。

　中国と中央アジアを結ぶ鉄道網では、ディーゼル機関車と電気機関車の両方が使用されているが、中央アジア側では特にディーゼル機関車が依然として重要な役割を担っている。

　中国国内の状況

　・中国の鉄道網は、近年急速に電化が進んでいる。主要な幹線ルートや高速鉄道網では、電気機関車が主体となっている。

　・貨物輸送においても電化区間が増えており、効率的な電気機関車が広く利用されている。2017年のデータでは、中国の鉄道電化率は約54.9%でしたが、2020年までに70%を目指す計画が示されていた。

　中央アジア諸国の状況

　・カザフスタン: 鉄道網は広大であるが、電化率は約67.3%(2023年時点)と比較的高いものの、ディーゼル機関車も広く運用されている。特に、GEトランスポーテーション・システム(米国)が製造したTE33A形ディーゼル機関車などが導入されており、中国からも新型貨物ディーゼル機関車の輸出が行われている。

　・ウズベキスタン: 鉄道の電化は進められているが、2017年時点で電化区間は全体の約52%にとどまっている。このため、非電化区間ではディーゼル機関車が主力となる。

　・トルクメニスタン: 2012年時点で、全線非電化であり、ディーゼル機関車が唯一の動力源となっている。中国製のCKD9A型ディーゼル機関車なども運用されている。

　・キルギス、タジキスタン: これらの中央アジア諸国は、鉄道網が比較的短いか、山岳地帯を通過するため、電化が遅れている区間が多く、ディーゼル機関車が主体であると考えられる。電化計画は進められているものの、まだ多くの区間が非電化である。

　国際列車の運用

　・国境を越える国際貨物列車の場合、中国側の電気機関車が国境駅まで運行し、そこで中央アジア側の機関車に交換されることが一般的である。この交換は、軌間の違いだけでなく、電化方式の違いや非電化区間への乗り入れに対応するためでもある。

　・特に、中央アジアの非電化区間が多い現状を考慮すると、ディーゼル機関車は依然として不可欠な存在である。

　結論として、中国国内の主要な幹線では電気機関車が主体であるが、中央アジア側の多くの区間では電化が進んでおらず、ディーゼル機関車が輸送の主力を担っていると言える。電化は今後のインフラ投資の重要なテーマであるが、現状ではディーゼル機関車の存在が欠かせない。

　列車の運転士など交替など

　中国と中央アジアを結ぶ長距離貨物列車の運転士の交替や運用については、以下のような具体例が考えられる。

　運転士の交替体制

　長距離列車の運行では、運転士が連続して長時間運転することは不可能であり、必ず交替体制が組まれる。

　(1)国境での交替

　・最も一般的なのは、国境駅(例: ホルゴス、アラシャンコウ)で運転士が完全に交替するケースである。中国側から来た列車は、中国の運転士が国境駅まで運行し、そこで中央アジア側の運転士(カザフスタン、ウズベキスタンなどの鉄道会社の運転士)に引き継がれる。

　・この際、機関車自体も入れ替わる場合が多い。中国の機関車は中国国内の規格(電化方式や信号システムなど)に最適化されており、中央アジア側の機関車も同様である。また、軌間の問題もあるため、台車交換や貨物積み替え時に機関車も交換されるのが効率的である。

　・交替の際には、運行記録、車両の状態、貨物の状況など、必要な情報が引き継がれる。

　(2)国内における交替

　・中国国内の長距離運行においても、途中の主要な鉄道拠点や機関区で運転士が交替する。これは、労働時間規制や安全確保のためである。

　・例えば、天津からホルゴスまで直通で一人の運転士が運転することはなく、途中の駅で複数の運転士がリレー形式で運転を担当する。

　運行管理と連携

　・集中運行管理システム: 現代の鉄道では、集中運行管理システムが導入されており、列車全体の運行状況、速度、位置、燃料消費などがリアルタイムで監視されている。これにより、各区間の運転士が効率的に運行できるようサポートされる。

　・国際的な連携: 国境を越える国際貨物列車であるため、中国の鉄道会社(中国国家鉄路集団有限公司など)と中央アジア各国の鉄道会社(例: カザフスタン鉄道、ウズベキスタン鉄道)との間で、運行計画、スケジュール調整、安全プロトコルに関する緊密な連携が不可欠である。

　・通関・国境管理機関との調整: 運転士や運行管理者は、列車の国境通過に際して、税関、出入国管理、検疫といった関連機関とも連携し、必要な手続きを円滑に進める必要がある。

　列車の種類と機関車

　・ディーゼル機関車と電気機関車: 運行区間によって、電化された区間では電気機関車が、非電化区間ではディーゼル機関車が使用される。国境を越える際には、電化方式の変更などに対応するために機関車を交換することが一般的である。

　・牽引力と編成: 貨物列車は多くのコンテナを牽引するため、強力な機関車が使用される。また、場合によっては複数の機関車を連結して牽引力を高めることもある。

　これらの運用方法により、長距離の国際貨物輸送が効率的かつ安全に実現されている。

　運転士の乗務体制

　中国と中央アジアの長距離貨物列車では、通常、二人制で運転が行われる。これは、安全性と効率性を確保するための標準的な運用方法である。

　・安全確保: 運転士が一人では、長時間の集中力維持が困難になり、疲労による居眠りや判断ミスなどのリスクが高まる。二人制にすることで、一方が運転に集中し、もう一方が計器の監視、周囲の状況確認、無線交信、そして万が一の際の緊急対応をサポートできる。

　・労働時間規制: 鉄道員の労働時間には厳格な規制がある。長距離運行では、途中で運転士が交替する地点まで、二人で役割を分担しながら運転することで、無理のない勤務が可能である。

　・トラブル対応: 万が一、運転中に故障や異常が発生した場合、二人いれば迅速に状況を判断し、適切な対応を取るための協力体制が築ける。一人では難しい初期対応も、二人いればより円滑に行える。

　国境での交替

　・国境を越える際には、運転士の交替だけでなく、機関車自体も入れ替わることが一般的である。中国の運転士は中国側の国境駅まで運行し、そこで中央アジア各国の鉄道会社に所属する運転士が引き継ぐ。この際も、後任の運転士は通常、二人一組で乗務する。

　これにより、各国の運行ルールや信号システム、言語の違いにも対応しつつ、安全かつ効率的な国際貨物輸送が実現されている。
　
【寸評　完】🌺

【引用・参照・底本】

China, Central Asia seeing explosive growth of bilateral trade in first five months of 2025: official data GT 2025.06.15
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1336159.shtml