発展途上国が先進国からの廃棄物輸入を拒否2024年11月02日 09:42

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【概要】

 発展途上国が先進国からの廃棄物輸入を拒否し始め、いわゆる「廃棄物植民地主義」に対する抵抗が強まっている。発展途上国がこうした廃棄物輸入の拒否を始めた背景と、その背後にある構造的な問題が詳細に説明されている。

 1. 廃棄物輸入の背景 過去には、多くの先進国がリサイクル費用を抑えるため、自国の廃棄物を発展途上国に輸出してきた。廃棄物の輸出入は利益が出やすく、リスクも低いため、コスト削減を図る企業にとって魅力的な手法となっている。これに対し、中国や東南アジア諸国は、輸入される廃棄物による健康や環境への悪影響を受けて、規制を強化してきた。

 2. 低リスクで利益が出る廃棄物輸出 記事内で引用されている北京の環境団体代表であるMa Jun氏によれば、先進国はコストを削減するため、「廃棄物植民地主義」という手法を用い、発展途上国にプラスチックなどの低価値の廃棄物を輸出している。これらの廃棄物には、重金属や有害物質が含まれていることが多く、発展途上国における環境汚染や公衆衛生へのリスクが高まっている。

 3. 廃棄物輸入に関する規制と対策 2021年のEU議会の報告によれば、EUは1600万トンのプラスチック廃棄物を排出しており、その約半分が非EU諸国に輸出された。このような廃棄物輸出はしばしば、廃棄物処理のための資源が限られている発展途上国に向けられる。2022年、米国は約950万トンのプラスチック廃棄物を輸出し、その多くが東南アジアに向かった。また、UNデータによれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)は世界人口の約9%を占める一方で、2017年から2021年までの期間で世界のプラスチック廃棄物輸入の約17%を受け入れていた。

 4. 廃棄物管理の国際的な取り組み 国際社会も、プラスチック廃棄物の問題に対処するために動き始めている。2022年3月に行われた国連環境総会(UNEA-5)では、プラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある協定の制定を決議した。こうした国際的な取り組みが進む中、タイは2025年からプラスチック廃棄物輸入を全面禁止することを発表している。

 5. 持続可能な廃棄物管理の必要性 清華大学のLiu Jianguo教授は、発展途上国が廃棄物管理を効果的に行うためには、経済的・規制的能力の向上が必要だと指摘している。 
 
【詳細】

 廃棄物輸入の拒否にはいくつかの要因が重なっている。以下の項目に分けて解説する。

 1. 廃棄物植民地主義と輸出の実態

 「廃棄物植民地主義」という言葉は、先進国が環境負荷の高い廃棄物を発展途上国に押し付け、経済的・環境的コストを回避する構造を指している。この問題は特にプラスチックや医療廃棄物などのリサイクルが難しい廃棄物に関して顕著である。多くの発展途上国は自国の廃棄物管理に対するリソースが不足しているため、輸入廃棄物の処理が難しくなり、結果的に環境汚染や健康被害が深刻化する。

 例えば、EUが2021年に排出したプラスチック廃棄物は約1600万トンで、そのうちの半分近くが非EU諸国へと輸出された。この廃棄物の輸出は、労働コストが安く環境規制が緩い発展途上国へと向かうことが多く、特にトルコやインド、エジプトなどが新たな輸出先として注目されている。

 2. 発展途上国における廃棄物の影響

 発展途上国での廃棄物処理には多くの課題がある。廃棄物にはプラスチックや金属、化学物質など様々な種類が含まれているが、これらの廃棄物が不適切に処理されると、有害な重金属や化学物質が環境中に漏れ出すことになる。このような環境汚染は地下水や土壌を汚染し、近隣住民の健康に大きなリスクをもたらす。

 記事内で取り上げられている例として、タイの当局が2023年9月に、アルバニアから輸送されてきた102個のコンテナに入った廃棄物を受け入れ拒否した事例がある。この廃棄物には有毒な物質が含まれているとの報告があり、タイ当局は環境と健康へのリスクを考慮して入港を拒否した。

 3. 廃棄物輸出の背景と経済的な構造

 発展途上国への廃棄物輸出が継続される理由の一つに、先進国と発展途上国の産業構造の違いがある。先進国は製造や研究開発などの高付加価値産業に注力しており、低付加価値のリサイクル産業は発展途上国に押し付けられがちである。これは発展途上国にとって、ある種の産業分業とも見なされるが、結果として環境負荷の高い産業を押し付けられているという側面もある。

 清華大学のLiu Jianguo教授は、このような状況が「世界的な産業分業の格差によるもので、現在のグローバル化が引き起こした問題」であると指摘している。先進国の企業は環境に対する規制が厳しい国内での処理を避け、規制の緩い発展途上国へと廃棄物を輸出することで、自国での処理コストを削減している。

 4. 国際社会の取り組みと規制の強化

 国際的な対策として、2022年の国連環境総会(UNEA-5)では、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際協定を制定することが決議された。この協定の目的は、特に海洋プラスチック汚染などの地球規模での環境問題に対応することである。

 また、中国は国内での廃棄物輸入を2020年に全面禁止した。これは世界的な廃棄物貿易に大きな影響を与え、その他の発展途上国も追随する動きが広がっている。たとえばタイも、2025年からプラスチック廃棄物輸入を全面禁止する方針を発表しており、環境汚染の抑制に向けた取り組みを強化している。

 5. 将来への展望と国内廃棄物管理システムの強化

 今後、発展途上国は自国で発生する廃棄物量の増加に対応するため、より効率的な廃棄物管理システムを整備する必要がある。生活水準の向上に伴い、発展途上国でも国内の廃棄物量が増加しているため、他国からの廃棄物を処理する余裕が減少している。中国では、廃棄物焼却施設にオンライン監視システムを導入し、排出データを公表するなど、厳格な規制を敷いている。このような取り組みは他の発展途上国にも参考とされており、規制の強化と透明性向上が求められている。

 6. まとめ

 廃棄物の輸出入に関する問題は、先進国と発展途上国の経済的な格差や産業構造の違いによって生じている「廃棄物植民地主義」の一形態であり、発展途上国の環境や公衆衛生に大きな影響を与えている。これを解決するためには、各国が国内でのリサイクルシステムを確立し、規制の強化と国際的な協力を通じて廃棄物貿易を適正に管理することが重要である。
 
【要点】

 ・廃棄物植民地主義の定義: 先進国が処理の難しい廃棄物を発展途上国に押し付け、環境・健康リスクを発展途上国に負担させる構造のこと。

 ・先進国からの輸出実態: EUは2021年に1600万トンのプラスチック廃棄物を排出し、その約半数が発展途上国へ輸出され、アジア諸国(トルコ、インド、エジプトなど)が主要な輸出先となっている。

 ・発展途上国への影響: 有害な化学物質が環境中に漏れ出し、地下水や土壌を汚染し、住民の健康リスクが高まっている。

 ・産業構造の違い: 先進国は高付加価値の産業(製造、R&D)に集中し、低付加価値のリサイクル産業は発展途上国に押し付けられがちで、これが廃棄物輸出の背景にある。

 ・国際的な対策の進展: 2022年の国連環境総会で、プラスチック汚染に関する国際協定が制定され、廃棄物輸出の規制強化が求められている。

 ・各国の対応強化: 中国は2020年に廃棄物輸入を禁止し、タイも2025年にプラスチック廃棄物の全面禁止を予定するなど、他国も輸入制限を進めている。

 ・国内廃棄物管理の強化: 発展途上国では、生活水準向上による自国内廃棄物量の増加に対応するため、効率的な廃棄物管理システムの整備が必要とされている。

 ・中国の取り組み: 廃棄物焼却施設にオンライン監視システムを導入し、排出データの公表を義務化するなど、厳格な規制と透明性向上を進めている。

 ・問題解決に必要な要素: 先進国が国内リサイクルシステムを確立し、国際的な規制強化や協力を通じて、廃棄物貿易を適正に管理することが重要とされている。
 
【引用・参照・底本】

Developing countries begin to say no to waste colonialism from developed nations GT 2024.11.01
https://www.globaltimes.cn/page/202411/1322294.shtml

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