米国の「アユンギン任務部隊」公表2024年11月24日 22:56

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【概要】

 アメリカは、南シナ海におけるフィリピン軍の活動を支援するために設置された「アユンギン任務部隊(Task Force Ayungin)」の存在を初めて公に認めた。この任務部隊の名称は、中国側が「仁愛礁(Ren'ai Jiao)」と呼ぶ南シナ海の礁に関連しており、フィリピン側の名称に基づいている。

 アメリカ国防長官ロイド・オースティンは、フィリピン西部のパラワン州にある指揮統制センターを訪問した際、自身のSNS投稿で「アメリカ軍のアユンギン任務部隊に配属された兵士と会った」と述べ、同部隊の存在を公に認めたとされている。さらに、在フィリピン米国大使館の報道官カニシュカ・ガンゴパディアイ氏は、この部隊が米比同盟の調整と相互運用性を強化する役割を果たしていると述べた。

 フィリピン軍は、アメリカ軍が技術支援を通じてフィリピンの海洋状況認識能力を向上させていることを明らかにしている。

 中国の南シナ海研究専門家であるChen Xiangmiao氏は、中国はこの任務部隊の存在を以前から認識しており、アメリカ軍がフィリピン海軍や沿岸警備隊の訓練を行い、海上作戦における計画や指導を提供していると指摘している。また、このタイミングで部隊の存在を公にした理由の一つとして、米比関係を強化し、アメリカ政権交代による影響を軽減する意図があると述べている。

 オースティン長官の訪問は、フィリピン側により積極的な行動を促す可能性があり、これにより緊張が高まる懸念がある。また、任務部隊の存在を公表することで、アメリカがフィリピンを通じて中国をけん制しようとする「グレーゾーン戦術」がより顕在化していると評価される。

 しかし、Chen氏は、アメリカ軍が直接的に中国と対峙する可能性は低いとの見解を示している。直接対立はコストが高く、制御不能な事態に発展するリスクがあるため、アメリカは引き続きフィリピンを利用して間接的に中国に圧力をかける戦略を取ると考えられる。

 中国は、仁愛礁における権利と地域の安定を守る能力と意志を有しており、これはアメリカやフィリピンによって変えられるものではないと主張している。中国は国内法および国際法に基づき、領土主権と海洋権益を守るための必要な措置を引き続き講じるとしている。

【詳細】

 アメリカが南シナ海において「アユンギン任務部隊(Task Force Ayungin)」の存在を初めて公に認めた背景とその影響について、以下により詳細な説明を行う。

 1. 任務部隊の名称と役割

 この任務部隊は、フィリピンが中国の「仁愛礁(Ren'ai Jiao)」と呼ぶ南シナ海の礁を「アユンギン礁(Ayungin Shoal)」と命名していることに基づき、その名称が付けられている。部隊の役割としては、以下の点が挙げられる:

 ・米比同盟の調整と相互運用性の強化:フィリピン軍との協力を深めることで、両国の連携を促進。
 ・フィリピンの海洋状況認識能力の向上:アメリカ軍が技術支援を提供し、フィリピンが周辺海域における監視能力を高めることを目的としている。
 ・フィリピン軍の訓練と支援:フィリピン海軍および沿岸警備隊の能力向上を目指し、アメリカ軍が訓練や作戦計画の助言を行っている。
これにより、フィリピン側は中国との領有権争いにおいて、戦術的優位を得ることを期待している。

 2. アメリカが存在を公表した理由

 アメリカ国防長官ロイド・オースティンがパラワン州を訪問し、指揮統制センターで任務部隊の存在に言及したことは、以下の意図が考えられる:

 ・米比同盟の強化:南シナ海を巡る戦略的パートナーとして、フィリピンとの結束を強調し、中国に対する圧力を強化する意図。
 ・政権交代の影響軽減:アメリカ国内での政権交代による政策変動が同盟関係に与える影響を最小限に抑えるため。
 ・戦略的透明性の向上:これまで「グレーゾーン戦術」として非公開だった支援を公表することで、地域内のプレイヤーに対して存在感を示す狙い。

 3. 中国側の反応と見解

 中国はこの動きを事前に認識していたとみられ、以下の点を強調している:

 ・領土主権の防衛能力と意志:中国は、仁愛礁を含む南シナ海での権益を守るための十分な能力と決意を持っており、アメリカやフィリピンの行動によってこれが揺らぐことはないとしている。
 ・国内法および国際法に基づく対応:中国政府は、領有権を主張しつつ、国際法を根拠に必要な措置を講じる姿勢を示している。
 ・対立激化の抑制:アメリカ軍と直接対峙する事態には発展しないと見込んでおり、慎重かつ計画的に対応する構えである。

 4. フィリピンへの影響と懸念

 アメリカの支援によりフィリピンは南シナ海での活動を強化する可能性が高い。これには以下のような影響がある:

 ・大胆な行動への後押し:フィリピンがアメリカの技術的・戦術的支援を受けて、中国との摩擦を深める可能性がある。
 ・緊張のエスカレーション:アメリカの公然とした支援により、中国との対立が激化し、地域の安定に影響を及ぼす恐れ。
 ・自主性の損失:アメリカの影響力が強まる中で、フィリピンが自主的な外交政策を展開する余地が縮小する懸念。

 5. 地域的な戦略的影響

 この公表は、南シナ海におけるパワーバランスにも影響を与える可能性がある。具体的には以下の点が考えられる:

 ・アメリカのプレゼンス強化:南シナ海でのアメリカ軍の活動がより顕著になり、地域内のプレイヤーに対する影響力が増大。
 ・中国の対抗措置:中国が南シナ海での軍事的存在を強化し、さらなる緊張を引き起こす可能性。
 ・地域諸国への波及効果:ベトナムやマレーシアなど、南シナ海で中国と対立する他の国々が、フィリピンとアメリカの動きを参考に自国の戦略を調整する可能性。

 6. 結論

 今回のアメリカによる「アユンギン任務部隊」の公表は、米比同盟を強化しつつ、南シナ海での戦略的影響力を拡大する意図があるとみられる。しかし、この動きは中国との摩擦をさらに激化させるリスクを伴い、地域の安定に大きな試練をもたらす可能性がある。一方で、中国はその権益を守る決意を強調しており、状況は膠着状態に陥る可能性が高い。

【要点】 
 
 アメリカの「アユンギン任務部隊」公表の背景と影響

 1. 任務部隊の概要

 ・「アユンギン任務部隊」は、南シナ海の仁愛礁(中国名:Ren'ai Jiao、フィリピン名:Ayungin Shoal)に関連して設立。

 ・主な役割

  ⇨ 米比同盟の調整・相互運用性の強化。
  ⇨ フィリピン軍への技術支援と訓練提供。
  ⇨ フィリピンの海洋状況認識能力向上を支援。

 2. アメリカが公表した理由

 ・米比関係の強化を目的とし、中国に対する牽制を意図。
 ・政権交代による影響を軽減し、政策の一貫性を示すため。
 ・グレーゾーン戦術からより透明な戦略への転換を狙う。

 3. フィリピンへの影響

 ・アメリカの支援により、フィリピンがより大胆な行動を取る可能性。
 ・アメリカ依存が強まる一方で外交的自主性が制約される懸念。
 ・中国との摩擦を深め、緊張がエスカレーションするリスク。

 4. 中国の対応と見解

 ・中国はこの任務部隊の存在を事前に認識していたと主張。
 ・領土主権と海洋権益を守る能力と意志を強調。
 ・国内法および国際法に基づき、必要な対抗措置を講じる姿勢。
 ・アメリカとの直接対立を回避しつつ、フィリピンに対して圧力を強化する可能性。

 5. 地域的な戦略的影響

 ・アメリカの南シナ海での存在感が拡大。
 ・中国が軍事的措置を強化する可能性があり、緊張がさらに高まる懸念。
 ・ベトナムやマレーシアなど他の地域諸国への影響。

 6. 結論

 ・アメリカの公表は、南シナ海でのプレゼンス強化と米比同盟の強化を目的としているが、地域の緊張を高めるリスクがある。
 ・中国は冷静に対抗策を模索しつつ、領有権の主張を強化する構えであり、膠着状態が続く可能性が高い。

【引用・参照・底本】

US acknowledges task force named after China's reef in SCS; move won't change China's ability, determination in safeguarding maritime rights: expert GT 2024.11.21
https://www.globaltimes.cn/page/202411/1323538.shtml

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