モディ首相とトランプ大統領の会談2025年02月18日 16:36

Microsoft Designerで作成
【概要】

 モディ首相とトランプ大統領は先週ワシントンD.C.で会談を行ったが、その直前にトランプ氏がプーチン大統領と電話会談を行い、ウクライナに関する和平交渉を開始したことが大きく報じられたため、今回の米印首脳会談はメディアの注目をあまり集めなかった。しかし、この会談はインドの「多極的連携(マルチ・アライメント)戦略」を示すものとなった。

 会談の共同声明では、米印両国が貿易、軍事、エネルギー分野での協力を強化する方針が示された。この合意は、国際秩序が多極化に向かう中でなされたものであり、米国は引き続き世界における最重要プレイヤーの地位を維持しようとする一方、インドはその人口規模と経済力に見合う影響力の拡大を目指している。両国のこうした戦略目標は相互に矛盾するものではなく、協力によって達成可能であるとの認識が共同声明から読み取れる。

 バイデン政権はインドを地政学的に封じ込めようとし、国内問題にも干渉する姿勢を見せていたが、トランプ政権はこうした政策が米印関係に与えた悪影響を修復し、インドを対中国戦略の一環として位置付けようとしている。その見返りとして、米国はインドに対し、米国製品に対する関税の引き下げを求めている。ただし、軍事・エネルギー分野での協力強化を通じて、そのインセンティブを提供する姿勢を示している。

 具体的には、米国はインドに対し、F-35戦闘機の供与や、化石燃料の主要供給国となる可能性を示唆している。しかし、これらの分野ではロシアが現在インドの主要なパートナーであり、米国の提案はロシアの影響力と競合することになる。ただし、インドがこれらの提案を受け入れたとしても、それは必ずしも対ロシア政策の転換を意味するものではなく、むしろインドの多極的連携戦略の一環と捉えるべきである。インドは常に選択肢を確保することで、各国からより有利な条件を引き出し、自国の国益に最も適う提案を選択する方針を取っている。

 今回の会談で合意されたのは、あくまで「この方向に進む意図」であり、インドが米国の提案を不可逆的に受け入れたわけではない。そのため、この会談をもって米印関係の決定的な変化と見るのは時期尚早である。

 米印関係には依然として課題も残されている。特に、トランプ氏が求めるインドの高関税政策の大幅な見直しや、ロシア産原油に対する制裁の継続、さらにはイランのチャーバハール港に関する制裁免除の撤回の可能性などがある。これらの要因は、トランプ氏が目指す米印関係の修復を阻害する要因となり得る。場合によっては、インドがこれに反発し、ロシアからの原油輸入を拡大し、イランとの貿易を強化する可能性もある。

 さらに、米国がロシアのインド向け軍事・エネルギー供給を代替しようとすれば、ロシアは中国との経済的依存度を高めることになり、それが結果として中露関係の強化を促す可能性がある。その場合、中国がロシアの軍事協力を通じてインドとの国境問題で有利な立場を得ようとする動きが出ることも考えられる。このような事態は、インドの戦略的自立を損なうことにつながりかねず、インドはこれを回避しようとするだろう。

 そのため、インドはトランプ氏に対し、ロシア産原油の輸入および投資に関する制裁の免除や、チャーバハール港の制裁免除措置の維持を求める可能性がある。トランプ政権は、中露関係の強化を防ぐという観点からも、こうしたインドの要請を受け入れることで、インドを中国の影響力拡大に対する牽制役として維持する選択肢を模索する可能性がある。

 ロシアと米国の間で始まったウクライナ和平交渉において、インドの役割を強化する形で米国がインドに対する制裁免除を提供することも考えられる。具体的には、インドによるロシア産原油の継続購入や、ロシアのLNG産業への投資を認めることで、ロシアの対中依存度を低下させ、米国の戦略的利益と合致させる方法があり得る。しかし、トランプ政権がそのような柔軟な対応を取るかは不透明であり、今後の動向次第である。

 いずれにせよ、今回の米印首脳会談の結果が直ちにインド・ロシア関係に影響を及ぼすと断定するのは尚早である。インドはこれまでロシアの利益を損なう形で他国との関係を構築したことはなく、今回の合意もその延長線上にある。仮にトランプ政権の一部がインドとロシアの分断を画策した場合、インドが反発し、結果としてバイデン政権時以上に米印関係が悪化する可能性もある。このため、今後の動向には慎重な分析が必要である。

【詳細】

 この論考は、2025年2月18日にアンドリュー・コリブコが発表したものであり、モディ首相とトランプ大統領の最新の首脳会談がインドの「多極的外交戦略(マルチアライメント・ストラテジー)」を改めて示したことを論じている。インドは、複数の大国と同時に関係を深めつつ、最も有利な条件を引き出すために戦略的選択肢を常に確保し続けているという前提が示されている。

 首脳会談の背景

 モディ首相とトランプ大統領の会談はワシントンD.C.で行われたが、その報道は限定的であった。その理由として、直前にトランプ氏とプーチン大統領が会談し、ウクライナ和平交渉の開始が決定されたことが大きく報道されたためである。しかし、この会談ではインドと米国の関係強化が議論され、特に貿易、防衛、エネルギー分野での協力が主要なテーマとなった。

 インドの外交戦略と米国の意図

 世界の国際秩序は多極化が不可避となりつつあるが、その最終的な形はまだ定まっていない。米国は依然として世界の主導的地位を維持したいと考えており、インドは人口規模や経済力に見合った影響力を高めようとしている。両国の目標は競合するものではなく、相互に利益をもたらす形で協力することで合意したとされる。

 バイデン政権とは異なり、トランプ政権はインドを地政学的に封じ込めたり、その内政に干渉したりするのではなく、関係修復を優先している。これは、中国をけん制するためにインドを重要なパートナーとする意図があるからである。ただし、その見返りとして、米国はインドに対し、関税の大幅な引き下げを要求している。インドにとって、これは負担となる可能性があるが、代わりに軍事協力やエネルギー供給の強化というインセンティブが提示されている。

 軍事・エネルギー分野での米国の提案とロシアとの関係

 米国は、インドにF-35戦闘機の供与や、米国を主要な化石燃料供給国とすることを提案している。しかし、これらの提案はロシアの利害と競合するものである。ロシアは現在、インドにとって最も重要な武器供給国であり、エネルギー分野でも主要なパートナーである。したがって、インドが米国の提案を受け入れたからといって、即座に対ロシア関係が悪化するわけではない。

 インドは、どの国の提案も拒絶することなく、すべての選択肢をテーブルに載せ、最も有利な条件を引き出す方針をとっている。そのため、米国との合意も「方向性の確認」に過ぎず、実際にどのような協力が進められるかは今後の交渉次第である。

 米国の要求とインドの対応

 インドと米国の関係には依然として課題が存在する。主な問題点は以下のとおりである。

 1.関税の問題

 トランプ氏は、インドに対し、輸入品にかかる高関税の大幅な引き下げを求めている。これはインド国内の産業に影響を与えるため、モディ政権としては慎重な対応が求められる。

 2.ロシア産エネルギーの輸入

 トランプ政権はロシア産石油への制裁を継続しており、インドのロシア産原油の輸入増加に圧力をかける可能性がある。しかし、インドがロシア産原油の輸入を減らせば、ロシアはその損失を補うために中国との関係を強化することになりかねない。インドにとっては、ロシアが過度に中国に依存する事態を避けることが重要である。

 3.イランとの関係(チャバハール港)

 トランプ氏は、インドによるイランのチャバハール港開発に対する制裁免除を見直す可能性がある。これはインドにとって戦略的に重要な港であり、対アフガニスタン・中央アジア貿易の要衝でもあるため、制裁が強化されればインドの戦略に影響を与える。

 インドの交渉戦略と見通し

 インドが米国の提案を受け入れた場合、ロシアとの関係に影響を与える可能性があるが、インドが外交的に柔軟な姿勢を維持し続ける限り、一方的な譲歩にはならないと考えられる。

 モディ政権は、米国と交渉しつつも、ロシアとの関係を維持するために、以下のような対応策を取る可能性がある。

 ・ロシア産原油輸入の制裁免除を要求する
 ・インドの対ロシア投資(特にLNG)を認めさせる
 ・チャバハール港への制裁免除を維持するよう求める

 トランプ政権としては、中国とロシアの結びつきを弱めることが重要であり、ロシアが中国の「従属的なパートナー」にならないようにする必要がある。インドがロシアとの経済関係を維持し、米国もこれを認める形になれば、結果として米国の戦略目標にも合致することになる。

 結論

 今回のモディ・トランプ会談が、直ちにインド・ロシア関係に影響を与えるとは断定できない。インドは過去にも巧妙な外交戦略を駆使し、いかなる国とも一方的な関係に陥ることなく、自国の利益を最優先してきた。米国側には、インドを利用してロシアと中国の関係を引き離す意図があるが、それが実現するかは不透明である。

 もしトランプ政権がインドとの関係強化を優先するならば、インドに対する制裁免除などの譲歩を行う可能性がある。一方で、インドがこれらの要求を受け入れなければ、米印関係の進展が停滞する可能性もある。

 最終的に、今回の会談は「米印関係を前進させる意図の確認」にとどまり、具体的な成果がどのような形で実現するかは今後の交渉次第である。

【要点】

 モディ・トランプ会談の要点

 1. 会談の背景

 ・モディ首相とトランプ大統領がワシントンD.C.で会談。
 ・直前のトランプ・プーチン会談でウクライナ和平交渉が決定され、報道は限定的。
 ・会談の主要議題は貿易、防衛、エネルギー分野の協力。

 2. インドの外交戦略(マルチアライメント)

 ・インドは米国、ロシア、中国、EUなど複数国と関係を維持し、最も有利な条件を引き出す方針。
 ・米国とは戦略的パートナーシップを強化しつつも、ロシアとの関係も維持。

 3. 米国の意図

 ・インドを対中国戦略の要とし、関係を強化したい。
 ・トランプ政権はバイデン政権よりも内政干渉を抑え、関係修復を重視。
 ・代償として、インドに対し関税引き下げやエネルギー調達の転換を要求。

 4. 軍事・エネルギー分野の提案とインドの対応

 ・米国の提案

  ⇨ F-35戦闘機の供与。
  ⇨ 米国産エネルギー(LNG・石油)の供給強化。
  ⇨ 防衛産業協力の深化。

 ・インドの懸念

  ⇨ ロシアからの武器調達(S-400など)を継続したい。
  ⇨ ロシア産原油の輸入を維持したい。
  ⇨ イランのチャバハール港開発を継続したい。

 5. 米国の要求とインドの課題

 ・関税の引き下げ

  ⇨ トランプ氏はインドの高関税政策を批判し、大幅な緩和を要求。
  ⇨ インド国内産業への影響が懸念される。

 ・ロシア産エネルギーの制限

  ⇨ 米国はロシア産石油輸入を削減するよう圧力。
  ⇨ しかし、インドが輸入を減らせばロシアが中国に接近する可能性があり、戦略的リスク。

 ・イランとの関係(チャバハール港)

  ⇨ トランプ政権はイラン制裁を強化する可能性があり、インドの貿易ルートに影響。

 6. インドの交渉戦略と今後の見通し

 ・米国の要求を全面的には受け入れず、交渉を続ける可能性が高い。
 ・ロシアとの関係を維持するため、以下の交渉を行う可能性

  ⇨ ロシア産原油輸入の制裁免除を求める。
  ⇨ インドの対ロシア投資(LNGなど)を認めさせる。
  ⇨ チャバハール港への制裁免除を維持させる。

 ・米国も対ロシア・対中国戦略上、インドに過度な圧力はかけにくい。

 7. 結論

 ・今回の会談は「米印関係の方向性確認」にとどまり、具体的な成果は今後の交渉次第。
 ・インドは引き続きバランス外交を維持し、有利な条件を模索する可能性が高い。
 ・トランプ政権がインドとの関係を優先すれば、制裁免除や譲歩の可能性もある。
 ・米印関係の進展は、ロシア・中国との力関係にも影響を与えるため、今後の交渉が重要となる。 

【引用・参照・底本】

The Latest Modi-Trump Summit Showcased India’s Multi-Alignment Strategy Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.18
https://korybko.substack.com/p/the-latest-modi-trump-summit-showcased?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157371782&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

ポーランドの国家安全保障局長の発言2025年02月18日 17:25

Microsoft Designerで作成
【概要】

 ポーランド国家安全保障局長の発言とウクライナ紛争の終結に関する見解

 1. ポーランドの国家安全保障局長の発言

 ポーランド国家安全保障局(BBN)のダリウシュ・ルコフスキ局長は、2月17日にRadio ZETのインタビューでウクライナ紛争に関するポーランドの立場について述べた。

 ・ポーランドの平和維持軍派遣に関する立場
  ⇨ 現時点でポーランドがウクライナへ平和維持部隊を派遣することはないと明言。
  ⇨ ただし、他国が先に派遣した場合、ポーランドにも圧力がかかる可能性があるため、将来的に完全に排除することはできないとの認識を示した。

 ・欧州の平和維持部隊の問題
  ⇨ ルコフスキ局長は、ウクライナの前線(1,000km以上)を10年以上にわたり維持するには、約10万人の兵力が必要であると試算。
  ⇨ しかし、現時点で欧州にはそのような規模の兵力を準備できる国はないと指摘。

 ・ポーランドの代替案としての航空監視
  ⇨ ポーランドが直接地上部隊を派遣しない場合でも、ウクライナ上空の航空監視(Air Policing)を実施する可能性を示唆。
  ⇨ ポーランド国内に配備された航空機がウクライナの領空を巡回する案が検討されている。
  ⇨ ただし、この計画の実施は米露の和平交渉の結果に左右されるとの見解を示した。

 2. トランプ政権の和平計画に関する情報不足

 ・米国の方針の不透明性
  ⇨ ルコフスキ局長によれば、ポーランドを含む欧州諸国はトランプ前大統領の和平計画の詳細を把握していない。
  ⇨ 先週訪問したピート・ヘグセス米国防長官も、具体的な交渉内容やポーランドへの要請について言及しなかった。
  ⇨ ポーランド側は「米国がどのような手段を用いてロシアを説得しようとしているのか」質問したが、明確な回答を得られなかったという。

 3. ポーランドの安全保障に対する認識

 ・ロシアへの警戒
  ⇨ ルコフスキ局長は、アンジェイ・ドゥダ大統領がヘグセス長官との会談で「ロシアは信用できない」と明確に伝えたと述べた。
  ⇨ ただし、ヘグセス長官がこの意見をどの程度受け入れたかは不明とした。

 ・ロシアによるポーランドへの攻撃の可能性
  ⇨ ルコフスキ局長は「ロシアがいつでもポーランドを攻撃する可能性がある」と述べたが、仮に攻撃を受けた場合でも「米国はポーランドを見捨てることはない」との認識を示した。
  ⇨ 一方で、ポーランドの防衛能力については「完全な抑止力を持つには3年必要」とし、それまでは準備段階にあるとした。
  ⇨ 現在、ポーランドはカリーニングラードやベラルーシとの国境沿いに「欧州防衛ライン(European Defense Line)」の一環として「東の盾(East Shield)」を建設中である。

 ・ATO支援の遅延への懸念

  ⇨ ルコフスキ局長は、ポーランドの計画として「2~3週間持ちこたえれば同盟国からの支援が到着する」と述べた。
  ⇨ これは、一般的に想定されているNATOの即時対応よりも遅い対応を前提としている可能性がある。

 4. ポーランドの軍需生産の課題

 ・弾薬生産の遅れ
  ⇨ ルコフスキ局長は、ポーランドの弾薬生産計画が失敗していることを認め、「状況は悪い」と述べた。
  ⇨ 「ウクライナでも見られる典型的な事例だが、軍需物資の独立性がなければ、戦争の進行速度や方法を他国に左右されることになる」と指摘。
  これに対し、ポーランドが十分な軍需生産能力を確保できない理由については「理⇨ 解できない」と述べ、早急な改善が必要であると警鐘を鳴らした。

 5. 今後の展望

 ・ポーランドの対ロシア政策
  ⇨ ポーランド政府は、ロシアに対する強硬な立場を維持しており、米国との協力を継続する方針である。
  ⇨ しかし、米国の和平計画の詳細が不明であるため、ポーランドの対応は流動的である。

 ・ウクライナへの軍事関与の慎重な姿勢
  ⇨ ポーランドはウクライナへの平和維持軍派遣に慎重であり、現時点では参加を否定している。
  ⇨ ただし、他国が派遣した場合、圧力が高まる可能性がある。

 ・NATO・欧州の軍事力の課題
  ⇨ 欧州全体として10万人規模の平和維持軍を準備することは困難であり、今後の対応が課題となる。
  ⇨ NATOの即応体制に対する懸念があり、ポーランドは「2~3週間の防衛」を想定した準備を進めている。

 ・ポーランドの軍事生産の自立性強化
  ⇨ 国内での弾薬生産の遅れが深刻な課題であり、ポーランド政府は早急に対策を講じる必要がある。

 6. 結論

 ・ポーランドはウクライナ紛争に関して慎重な立場を維持しており、現時点では平和維持軍を派遣する計画はない。
 ・ただし、欧州の圧力次第では将来的に関与する可能性が残されている。
 ・トランプ政権の和平計画に関する情報はほとんどなく、ポーランドを含む欧州諸国は具体的な方針を把握できていない。
 ・ポーランドの安全保障戦略は「2~3週間持ちこたえる防衛計画」に基づいており、NATOの即応能力に対する懸念がある。
 ・軍需産業の自立性強化が急務であり、弾薬生産能力の不足が安全保障上の重大な課題となっている。

 このように、ポーランドは現時点では慎重な立場を取っており、米国・ロシア間の和平交渉の進展を見極めつつ対応を決定する方針である。

【詳細】

 ポーランド国家安全保障局(BBN)の長官であるダリウシュ・ウコフスキ(Dariusz Łukowski)は、2月18日にポーランドのラジオ局「Radio ZET」のインタビューに応じ、ウクライナ紛争に対するポーランドの立場について説明した。彼の発言から、ポーランド政府がウクライナへの平和維持部隊の派遣に慎重な姿勢を取っていること、また欧州全体がそのための準備を整えていないことが明らかとなった。

 1. ウクライナへの平和維持部隊派遣に対するポーランドの立場

 ウコフスキ長官は、ポーランドが現時点ではウクライナへの平和維持部隊を送るべきではないとの見解を示した。ただし、これは絶対的な方針ではなく、将来的には変更される可能性があるとも述べている。これは、他国がウクライナへ平和維持部隊を派遣した場合、ポーランドにも同様の圧力がかかることを考慮しての発言である。しかし、ポーランドのドナルド・トゥスク(Donald Tusk)首相は改めて「平和維持部隊を派遣しない」と明言しており、政府の公式な立場としては消極的であることが確認された。

 ウコフスキ長官は、ウクライナ国内の停戦監視や治安維持には約10万人規模の部隊が必要であり、欧州全体としてもこの規模の部隊を派遣する準備ができていないと指摘した。ウクライナの最前線は約1,000キロメートルに及ぶため、長期的な平和維持活動には膨大な人的資源が求められるという認識を示した。

 また、ポーランドが地上部隊を派遣しない場合でも、ウクライナの防空支援に関与する可能性があるとも述べた。具体的には、ポーランド国内に配備された航空機を用いて「ウクライナの空域を警戒・監視する」という形での関与が考えられる。ただし、こうした措置の実施は、現在進行中の米露間の交渉結果に大きく左右されると述べた。

 2. 米国の対露交渉についての不透明性

 ウコフスキ長官は、ポーランド側が米国の交渉戦略について詳細な情報を得られていないことも明らかにした。特に、先週ポーランドを訪問した米国のピート・ヘグセス(Pete Hegseth)国防長官は、トランプ政権が想定する和平プランの具体的な内容を説明せず、ポーランドに対して平和維持部隊の派遣を要請することもなかったという。

 また、ポーランド側は米国に対し「どのような手段を用いてプーチンを特定の解決策へ誘導するのか」といった質問をしたが、具体的な回答は得られなかったと明かしている。これは、ポーランドが米国の交渉方針を十分に把握できていないことを意味し、同国が戦略的決定を下す上での不確実性を高めている。

 3. ポーランドの安全保障に対する懸念

 ウコフスキ長官は、ロシアがポーランドを攻撃する可能性があると考えているが、仮にそのような事態が発生しても米国がポーランドを見捨てることはないと確信していると述べた。しかしながら、ポーランドの防衛力はまだ十分ではなく、敵対国の攻撃を効果的に抑止・対処できる体制を整えるには「あと3年の準備期間が必要」とも警告した。この発言は、ポーランドが現在建設中の「東の盾(East Shield)」と呼ばれる防衛ラインに関連している可能性がある。

 加えて、ポーランドの戦略は「2~3週間耐え抜く」ことに基づいており、その間にNATOや他の同盟国からの支援が到着することを想定している。しかし、この「2~3週間」という時間は、多くの専門家が想定するNATOの即応体制よりも長いものであり、実際の防衛計画において支援の遅延が発生する可能性を示唆している。

 4. ポーランドの弾薬生産計画の失敗

 ウコフスキ長官は、ポーランドの軍需生産体制が不十分であることも認めた。彼は「状況は悪い。多くの分野で独立性を確保できていない」と述べ、国内の弾薬生産が計画通りに進んでいない現状を問題視した。彼は「ウクライナの例が示すように、自国で十分な軍需品を生産できなければ、戦争の進行速度や方法は他国に左右される」と警告し、ポーランドの軍需産業の強化が急務であると強調した。しかし、この問題がなぜ未解決のままなのかについては理解できないとも発言し、政府の対応に対する疑念を示した。

 5. ポーランドの慎重な立場と今後の展望

 ウコフスキ長官の発言は、ポーランドがウクライナ紛争への直接的な関与を避けようとしていることを再確認する内容であった。昨年11月、ポーランドの副首相であるクシシュトフ・ガウコフスキ(Krzysztof Gawkowski)も、ゼレンスキー大統領が「ポーランドとロシアの戦争を引き起こそうとしている」と警告しており、ポーランド政府の慎重な姿勢が一貫していることが示された。

 また、米国のヘグセス国防長官がポーランドを「模範的な同盟国」と評価しながらも、米露交渉の詳細を共有しなかったことは、ポーランドが戦略的意思決定の場から一定程度排除されている可能性を示唆するものである。

 これらの点を踏まえると、ポーランドは現時点でウクライナへの直接的な軍事介入を避ける方向で動いており、大きな方針転換を行う兆候はない。ただし、戦況や国際的な圧力によっては、将来的に立場を変更する可能性があることも示唆されている。

【要点】

 ポーランド国家安全保障局(BBN)長官ダリウシュ・ウコフスキの発言要点

 1. ウクライナへの平和維持部隊派遣に対するポーランドの立場

 ・現時点でポーランドはウクライナへ平和維持部隊を派遣すべきでないと判断。
 ・ただし、将来的に他国が派遣した場合、ポーランドも対応を迫られる可能性あり。
 ・トゥスク首相は「ポーランドは平和維持部隊を送らない」と明言。
 ・ウクライナ国内での平和維持には約10万人規模の部隊が必要であり、欧州全体として準備が整っていない。
 ・地上部隊派遣を避ける一方で、ポーランド国内の航空機によるウクライナ防空支援の可能性を示唆。

 2. 米国の対露交渉についての不透明性

 ・米国の交渉戦略についてポーランド側には詳細な情報が提供されていない。
 ・先週ポーランドを訪問した米国のピート・ヘグセス国防長官も、和平プランの具体的内容を説明せず。
 ・ポーランド政府は「どのような手段でプーチンを交渉に引き込むのか」などの質問をしたが、明確な回答は得られず。
 ・米国がポーランドに平和維持部隊派遣を要請することはなかった。

 3. ポーランドの安全保障に対する懸念

 ・ロシアがポーランドを攻撃する可能性はあるが、米国がポーランドを見捨てることはないと確信。
 ・しかし、ポーランドの防衛力はまだ十分でなく、「あと3年の準備期間が必要」と警告。
 ・現在進めている「東の盾(East Shield)」防衛ラインの完成が重要。
 ・ポーランドの戦略は「2~3週間耐え抜く」ことを前提としており、その間にNATOや同盟国からの支援が到着することを想定。
 ・ただし、NATOの即応体制よりも時間がかかるため、支援の遅延リスクがある。

 4. ポーランドの弾薬生産計画の失敗

 ・国内の弾薬生産が計画通り進んでおらず、軍需産業の強化が急務。
 ・「状況は悪い。多くの分野で独立性を確保できていない」と懸念を表明。
 ・ウクライナの事例を挙げ、「自国で十分な軍需品を生産できなければ、戦争の主導権を失う」と警告。
 ・生産計画がなぜ失敗しているのか、政府の対応に疑問を抱いている。

 5. ポーランドの慎重な立場と今後の展望

 ・昨年11月、副首相ガウコフスキが「ゼレンスキーはポーランドとロシアの戦争を引き起こそうとしている」と警告。
 ・これを踏まえ、ポーランド政府はウクライナ戦争への直接的な関与を避ける方針を維持。
 ・ヘグセス国防長官はポーランドを「模範的な同盟国」と評価したが、米露交渉の詳細は共有せず。
 ・ポーランドは現在の方針を維持する見込みだが、戦況や国際圧力によっては将来的に立場を変更する可能性あり。 

【引用・参照・底本】

The Polish Security Chief Shared Some Interesting Insight About The Ukrainian Conflict’s Endgame Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.18
https://korybko.substack.com/p/the-latest-modi-trump-summit-showcased?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157371782&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

ウクライナ:ポンプ場を大規模な無人機攻撃2025年02月18日 19:10

Microsoft Designerで作成
【概要】

 ウクライナが2月18日にロシアのクラスノダール地方にあるカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)のポンプ場を大規模な無人機攻撃で標的にした。CPCは部分的に米国の資本が入っている石油輸送インフラであり、この攻撃は米国の重要な地域投資の一つに損害を与えた。また、このパイプラインを経由するカザフスタン産原油に依存するイスラエルのエネルギー安全保障にも影響を及ぼす可能性がある。

 ロシアのドミトリー・メドベージェフ安全保障会議副議長(元大統領)は19日にTelegram上で声明を発表し、ゼレンスキー大統領がCPCに米国の関与があることを知りながら攻撃を実行したと指摘した。メドベージェフは、この攻撃の目的は「米国企業、石油市場、トランプ個人」に対する「三重の打撃」を与えることであり、ウクライナに和平を強要しようとするトランプ氏への反発が背景にあると分析した。

 英「テレグラフ」によれば、ゼレンスキー大統領はトランプ氏の提案する戦後復興計画に強く反発しており、それを「ヴェルサイユ条約の賠償よりもウクライナのGDPに対する負担が重い」と評している。また、ロシアの国会議員ドミトリー・ベリク氏は、米国の「ディープステート」に属する勢力と英国がトランプ氏を刺激するためにこの攻撃を仕組んだ可能性も示唆している。

 加えて、CPCはイスラエルのエネルギー供給においても重要な役割を果たしており、特にイラン主導の「抵抗軸」との地域紛争が続く中で、イスラエルはこのパイプラインからの原油供給を受けていた。現在、イスラエルはハマスやヒズボラとの停戦状態にあるが、再び紛争が激化する可能性があるため、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はCPCの安全確保を求めてトランプ氏に働きかけると予想される。

 この状況を踏まえ、トランプ氏はウクライナに対して財政・軍事支援の停止をちらつかせ、ロシアの石油インフラへの攻撃をやめるよう圧力をかける可能性がある。また、米ロ間で進行中の和平交渉の一環として、ロシア側も報復的なウクライナのエネルギーインフラ攻撃を控えることで、停戦に向けた環境を整える可能性がある。

 トランプ氏がこの攻撃を見過ごす可能性は極めて低く、特にイスラエルへの間接的な影響も考慮すれば、何らかの形でウクライナに対する対応措置を講じることが予想される。この攻撃がウクライナにとって戦略的に得策だったのかは疑問であり、関与した者が責任を問われる可能性もある。

【詳細】

 ウクライナが2025年2月18日にロシアのクラスノダール地方にあるカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)のポンプ場を無人機攻撃で標的にしたことは、単なる戦術的な攻撃以上の意味を持つ。このパイプラインは、カザフスタンからロシアのノヴォロシースク港へと石油を輸送する国際的なプロジェクトであり、部分的に米国のエネルギー企業が出資している。このため、ウクライナの攻撃は、ロシアの石油インフラを狙ったものではあるが、結果として米国の投資に直接的な損害を与えることになった。

 CPCの戦略的重要性

 CPCは1990年代後半に建設が開始され、2001年に操業を開始した。出資企業にはロシアの「トランスネフチ」や「ルクオイル」、カザフスタンの「カズムナイガス」、そして米国の「シェブロン」や「エクソンモービル」などが含まれている。このプロジェクトの目的は、カザフスタンの油田で採掘された原油をロシアの黒海沿岸にあるノヴォロシースク港まで輸送し、そこから世界市場へ供給することである。

 CPCは、特にカザフスタンの「テンギス油田」や「カシャガン油田」から産出される原油の主要輸送ルートであり、カザフスタンの輸出原油の大半を占めている。これは、米国にとっても重要な投資対象であり、欧米諸国や中国、イスラエルなど、多くの国々にとって戦略的に不可欠な供給源となっている。

 ウクライナによる攻撃の背景

 ウクライナはこれまでにもロシアのエネルギーインフラに対する攻撃を繰り返してきたが、今回のCPC攻撃には特に注目が集まっている。その理由は以下の点にある。

 1.米国の利益を直接損なう

 CPCには米国企業が出資しており、そのパイプラインが損傷すれば、米国の石油会社も経済的損失を被ることになる。ウクライナはこれまで欧米からの支援に依存してきたが、今回の攻撃は支援国である米国の経済的利益と対立するものとなっている。

 2.イスラエルのエネルギー安全保障への影響

 イスラエルはカザフスタンからの原油供給を受けており、CPC経由で輸送された石油はイスラエルのエネルギー安全保障にとって不可欠であった。特に、2023年から2024年にかけてのガザ紛争およびイランとの緊張が高まる中で、CPCの安定した運用はイスラエルにとって重要な要素となっていた。

 3.トランプ政権との軋轢を生む可能性

 トランプ前大統領が再び政権を握る可能性が高まる中で、ウクライナのゼレンスキー政権はトランプ氏のウクライナ政策に強い警戒感を持っている。特に、トランプ氏がウクライナに対して和平交渉を強要しようとしているとの見方があり、ゼレンスキー大統領はこれに対抗するために米国の影響力を試す行動に出た可能性がある。

 4.ロシアの反応と戦略的影響

 ロシアのドミトリー・メドベージェフ安全保障会議副議長は、今回の攻撃について「米国企業、石油市場、トランプ個人に対する三重の打撃」だと評価しており、ウクライナが米国との関係を意図的に悪化させようとしていると指摘した。また、ロシアの国会議員ドミトリー・ベリク氏は、米国の「ディープステート」と英国がこの攻撃を扇動し、トランプ氏を挑発しようとした可能性があるとも述べた。

 今後の展開と影響

 この攻撃がもたらす影響は多方面に及ぶ。

 1.米国の対応

 トランプ氏がこの攻撃を見過ごす可能性は低く、ウクライナに対する軍事・財政支援の削減を示唆する可能性がある。特に、イスラエルのエネルギー安全保障に影響を及ぼすことを考えれば、トランプ政権がウクライナに対して強い圧力をかける可能性が高い。

 2.ウクライナの立場の悪化
ウクライナはこれまで欧米の支援に依存してきたが、今回の攻撃によって米国との関係が悪化すれば、今後の軍事・財政支援が削減されるリスクが高まる。特に、米ロ間の和平交渉が進展する中で、ウクライナが孤立する可能性がある。

 3.ロシアの対応

 米ロ間の和平交渉が進行する中で、ロシア側も報復としてウクライナのエネルギーインフラに対する攻撃を強化する可能性がある。しかし、和平プロセスを進めるためにロシア側がウクライナのインフラ攻撃を控えるという選択肢も考えられる。

 4.CPCの安全確保と国際的影響

 イスラエル政府はCPCの安定稼働を確保するためにトランプ政権に働きかけると考えられる。これは、米国がウクライナに対してエネルギーインフラ攻撃をやめるよう圧力をかける要因となる。

 結論

 ウクライナのCPC攻撃は、米国の利益を直接的に損なうだけでなく、イスラエルのエネルギー安全保障にも悪影響を与える可能性が高い。この行動が意図的だったのか、あるいは誤算だったのかは不明だが、結果としてウクライナにとって不利な状況を生む可能性が高い。米国の対応次第では、ウクライナの戦略が大きく揺らぐことになり、今後の和平交渉や軍事支援の動向にも影響を及ぼすと考えられる。

【要点】

 ウクライナのCPC攻撃の概要と影響

 1. 攻撃の概要

 ・攻撃対象:カスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)のポンプ場(ロシア・クラスノダール地方)
 ・攻撃手段:ウクライナの無人機(ドローン)
 ・影響:ロシアの石油輸出インフラが被害を受け、国際市場にも影響

 2. CPCの戦略的重要性

 ・主要な原油輸送ルート:カザフスタンからロシア・ノヴォロシースク港経由で世界市場へ供給

 ・出資企業
  ⇨ ロシア:トランスネフチ、ルクオイル
  ⇨ カザフスタン:カズムナイガス
  ⇨ 米国:シェブロン、エクソンモービル

 ・カザフスタンの石油輸出の大半を占める
 ・イスラエルのエネルギー安全保障にも関与

 3. ウクライナの攻撃の背景と意図

 ・ロシアの石油輸出能力を削減する狙い
 ・ロシアの戦争資金を断つ戦略の一環
 ・ロシア国内への攻撃を拡大し、経済的ダメージを与える

 4. 問題点と国際的影響

 ・米国の投資を直接損なう:シェブロンやエクソンモービルが損害を受ける
 ・イスラエルのエネルギー供給に悪影響
 ・トランプ氏の外交姿勢と対立する可能性(支援削減リスク)
 ・ロシアの報復攻撃を招く可能性

 5. 米国・国際社会の対応予測

 ・トランプ政権がウクライナへの圧力を強める可能性
 ・米国のウクライナ支援が縮小する可能性
 ・イスラエルがCPCの安全確保を要求し、ウクライナへの攻撃中止を求める可能性
 ・ロシアがウクライナのエネルギーインフラを報復攻撃する可能性

 6. 結論

 ・ウクライナの戦略的誤算の可能性
 ・米国・イスラエルとの関係悪化のリスク
 ・ロシアの対応次第で戦局や外交関係が変化する可能性

【引用・参照・底本】

Ukraine Risks Trump’s Wrath After Bombing Partially US-Owned Oil Infrastructure In Russia Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.18
https://korybko.substack.com/p/ukraine-risks-trumps-wrath-after?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157376440&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

米国とロシアの会談「ウクライナは認めない」2025年02月18日 19:19

Ainovaで作成
【概要】

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2月17日、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問中に記者団に対し、米国とロシアがサウジアラビアで開催する予定の会談について、「ウクライナは認めない」と述べた。ゼレンスキー大統領は、この会談にウクライナが招待されていないと主張し、「ウクライナ抜きで行われるウクライナに関する交渉は、いかなる結果も持たない」との見解を示した。

 ロシア政府は、2月18日にサウジアラビアで米ロ間の和平交渉が行われることを確認しており、ロシア側からはセルゲイ・ラブロフ外相やウラジーミル・プーチン大統領の補佐官であるユーリー・ウシャコフ氏が出席する。米国側からは、マルコ・ルビオ国務長官、マイク・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官、ドナルド・トランプ大統領の中東特使であるスティーブ・ウィトコフ氏が参加する予定である。

 ゼレンスキー大統領は、米国の当局者がウクライナも招待されたと主張していることを否定し、「ウクライナは交渉に参加しない。ウクライナはその計画を知らなかった。そして、私の中東訪問は、米国がロシアと会談を決定する前から予定されていた」と述べた。

 ゼレンスキー大統領は、欧州諸国も会談に加わるべきだと主張しているが、米ロ双方ともこの提案を受け入れていない。ラブロフ外相は、「欧州の指導者のほとんどは和平に関心を持っていない」と発言し、「彼らの目的が、密かに戦争を継続するために一時的な休戦を引き出すことならば、彼らを交渉の場に招く理由はない」と述べた。

 トランプ政権の対ロシア政策は、バイデン政権時代の方針とは大きく異なっている。バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻後、高官レベルでの接触をほぼ断絶していたが、トランプ政権は米ロ間の交渉を進める姿勢を示している。

【詳細】

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、2025年2月17日にアラブ首長国連邦(UAE)を訪問していた際、米国とロシアの間で行われる予定の会談について、ウクライナはその会談に参加することはないと明言した。この会談は、サウジアラビアで開催される予定で、米ロ両国の高官が参加する重要な交渉の場として注目されている。

 ゼレンスキー大統領は記者団に対して、「ウクライナはこの会談について全く知らされていなかった」と述べ、ウクライナが関与しない形で行われるウクライナに関する交渉には意味がないとの立場を強調した。ゼレンスキーは、「ウクライナ抜きで行われる交渉は、結果を持たない」とし、ウクライナが自国に関する決定に参加しない限り、その交渉は実質的な成果を生まないだろうと断言した。この発言は、ウクライナが自国の未来を他国の手に委ねることを拒否しているという姿勢を示している。

 ロシア政府は、米国とロシアの高官がサウジアラビアで会談を行うことを確認しており、ロシア側からは、セルゲイ・ラブロフ外相やユーリー・ウシャコフ氏が出席することが明らかになっている。また、米国側からは、マルコ・ルビオ国務長官、マイク・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官、トランプ政権時代の中東特使であるスティーブ・ウィトコフ氏が出席する予定となっている。ウィトコフ氏は、ロシアとの外交交渉に関与してきた人物であり、その参加は交渉における重要な影響を与えると考えられている。

 ゼレンスキー大統領は、米国政府が「ウクライナは交渉に招待された」と主張している点に対して否定的な立場を取った。「ウクライナは交渉に参加しない」「ウクライナはこの交渉が計画されていたことを知らなかった」と述べ、米国側がウクライナの関与を示唆していることに反論した。さらに、ゼレンスキーは自らの中東訪問が、米国がロシアと会談を決定する前から計画されていたことを強調し、これを米国の意図的な準備不足の証拠とした。

 ゼレンスキーはまた、欧州諸国も交渉に加わるべきだと述べているが、米国とロシアはこの提案を拒否している。ロシアのラブロフ外相は、欧州諸国の指導者が和平にあまり関心を示していないとの見解を示し、「彼らが交渉の席に座る意義は少ない」と述べている。ラブロフは、欧州が「偽の休戦を巧妙に引き出し、裏で戦争を続ける準備をしているのであれば、なぜ彼らを交渉に招くのか」と批判的な立場を取った。

 この状況の背景には、米国とロシアの外交政策の変化がある。バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアとの高官レベルの接触をほぼ断絶しており、ウクライナ戦争に対する強硬な姿勢を貫いてきた。一方、トランプ政権は、米ロ間の対話を再開し、ロシアとの関係改善を目指している。この違いは、米国の対ロシア外交政策における大きな転換点を示しており、特にウクライナ戦争の終息に向けたアプローチに影響を与えていると考えられる。

 ゼレンスキーのコメントは、ウクライナ政府が今後も自国の戦争の終結に関する議論に積極的に関与し、自国の意見を無視した外交交渉には参加しないという強い姿勢を示しており、ウクライナの国家主権と戦争終結に向けた方向性を守るために、独自の外交戦略を取る意志を明確にしている。

【要点】

 ・ゼレンスキー大統領の発言: 2025年2月17日、UAE訪問中にウクライナは米ロ間のサウジアラビアでの会談に「参加しない」と明言。ウクライナ抜きで行われる交渉には意味がないと主張。
 ・ウクライナの立場: 「ウクライナは交渉に招待されていない」とし、米国がウクライナの関与を示唆することに反論。
 ・交渉の参加者: 米国側からマルコ・ルビオ国務長官、マイク・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官、トランプ政権の中東特使スティーブ・ウィトコフ氏が参加予定。ロシア側からはラブロフ外相、ユーリー・ウシャコフ氏が参加予定。
 ・ゼレンスキー大統領の説明: ゼレンスキーは、自身の中東訪問が米国の会談決定より前に計画されていたことを強調し、米国の準備不足を指摘。
 ・欧州諸国の関与: ゼレンスキーは、欧州諸国も交渉に加わるべきだと提案したが、米国とロシアはこの提案を拒否。
 ・ラブロフ外相の発言: 欧州諸国の指導者は和平に興味がないとし、彼らが交渉に参加しても結果は期待できないとの見解を示す。
 ・米ロ外交政策の違い: バイデン政権はロシアとの高官レベルの接触を断絶しており、強硬な対ロシア姿勢を取っている。トランプ政権は米ロ対話を再開し、関係改善を目指している。
 ・ゼレンスキーの外交戦略: ウクライナは自国に関する交渉に積極的に関与し、独自の戦争終結戦略を維持する意志を強調。

【引用・参照・底本】

Zelensky Says Ukraine Will ‘Not Recognize’ Upcoming US-Russia Talks ANTIWAR.com 2025.02.17
https://korybko.substack.com/p/ukraine-risks-trumps-wrath-after?https://news.antiwar.com/2025/02/17/zelensky-says-ukraine-will-not-recognize-upcoming-us-russia-talks/

米国企業:ロシア市場での利益や地位を失い、その損失は約50兆円2025年02月18日 19:42

Microsoft Designerで作成
【概要】

 ロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は2025年2月18日、サウジアラビアのリヤドで、米国代表団とロシアとアメリカの経済関係修復に関する協議を行ったことを明らかにした。この協議では、米国がロシアの立場を理解し、話を聞く準備があることが伝えられた。

 ドミトリエフ総裁は、対露制裁がロシアに与える影響よりも、米国自身に与えた影響の方が大きかったと指摘した。特に、アメリカの多くの企業がロシア市場での利益や地位を失い、その損失は約3240億ドル(約50兆円)に達するとされている。また、バイデン政権が制裁がロシアに効果的であるという誤った認識を米国社会に広めたと批判した。制裁によってドルの価値が損なわれ、逆にロシアの独立性が強化されたと述べている。

 さらに、ロシアとアメリカが共同で行うプロジェクトが両国経済にとって成功をもたらすとし、特に北極圏での協力強化の重要性を強調した。

【詳細】

 ドミトリエフ総裁が発表した内容についてさらに詳しく説明すると、まず、米国がロシアに対して行った経済制裁が両国経済に与えた影響についての見解が示されている。ドミトリエフ総裁は、米国がロシアに対して課した経済制裁が、ロシア経済に対して予想されたほどの大きな影響を及ぼさなかったことを強調している。一方で、制裁はアメリカ自身の経済に対して大きな打撃を与え、特に米国企業がロシア市場から撤退することによって、失われた利益は推計で約3240億ドル(約50兆円)にのぼるという。

 このような状況を受けて、ドミトリエフ総裁は、米国社会の中で「制裁がロシアに効果をもたらす」という誤った認識が広まったことに対して批判的な立場を取っている。彼は、米国がロシアへの制裁を強化することで、ロシアの独立性が逆に強化され、またドルの価値が毀損されたと指摘している。制裁によって、ロシアは経済的な自立性を高め、ドルに対する依存度を減少させる方向に進んだとされる。

 また、ドミトリエフ総裁は、ロシアとアメリカの間で行われる共同プロジェクトが、両国経済の発展にとって有益であるという見解を示している。特に、北極圏での協力が重要であり、両国が協力して北極圏の資源開発やその他のプロジェクトを進めるべきだと強調している。北極圏は世界的に戦略的に重要な地域であり、エネルギー資源や航路の開発において、ロシアとアメリカが協力することで、双方にとって利益をもたらす可能性がある。

 このように、ドミトリエフ総裁は、ロシアとアメリカの経済関係の修復に向けた協議の重要性を強調し、経済制裁がもたらした影響を再評価し、双方が協力することによる利益を主張している。

【要点】

 ・協議の開催: ロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は、2025年2月18日にサウジアラビア・リヤドで、米国代表団とロシアとアメリカの経済関係修復に関する協議を行った。
 ・米国の姿勢: 米国はロシアの立場を理解し、話を聞く準備があると伝えられた。
 ・対露制裁の影響: 対露制裁がロシア経済に与える影響よりも、米国の経済に与えた影響の方が大きいと指摘。
  ⇨ 米企業はロシア市場での利益や地位を失い、損失額は推計3240億ドル(約50兆円)。
 ・制裁に対する批判: バイデン政権が「制裁はロシアに効く」とする誤った認識を米社会に広めたと批判。
  ⇨ 制裁はドルの価値を毀損し、ロシアの独立性を強化する結果となった。
 ・共同プロジェクトの重要性: ロシアとアメリカが共同で行うプロジェクトが両国経済にとって成功をもたらすと強調。
  ⇨ 特に北極圏での協力強化が重要とされている。

【引用・参照・底本】

米企業、対露制裁の損失50兆円 金融経済でも露米協議 sputnik日本 2025.02.18
https://sputniknews.jp/20250218/19584343.html