中国の宇宙開発を脅威として強調→軍拡を正当化 ― 2025年03月23日 18:51
【概要】
アメリカ宇宙軍の高官が、中国の衛星が低軌道で「ドッグファイト」戦術を実施していると主張したが、この発言はアメリカ国内の専門家からも疑問視されている。専門家は、この発言が「敵対的意図」を示唆しているものの、アメリカも同様の行動を取っていることを指摘し、宇宙軍の予算確保のための戦略の一環ではないかとの見方を示している。
アメリカ宇宙軍高官の発言
アメリカの軍事専門メディア「Defense News」によると、アメリカ宇宙軍のマイケル・A・ゲトライン副宇宙作戦部長は、現地時間の3月19日に開催された防衛関連の会議で「宇宙空間で5つの異なる物体が同期的かつ制御された形で互いに出入りし、周囲を移動する様子を確認した」と述べ、「これは宇宙におけるドッグファイトと呼ばれるものであり、衛星間で軌道上作戦の戦術、技術、手順を実践している」と主張した。
その後、アメリカ軍の報道官がこの発言を補足し、2024年に行われた作戦が関係していると説明した。具体的には、中国の試験衛星「試験24C」3機と、「実践6号05」A・Bの計5機が関与していたという。
中国の衛星とその目的
中国国営通信の新華社によると、「試験24C」衛星は2023年12月に打ち上げられ、宇宙科学技術実験を目的としている。一方、「実践6号05」衛星は2021年12月に打ち上げられ、宇宙探査や新技術試験に使用されるとしている。
専門家の見解
CNNは、「ドッグファイト」という用語は本来、戦闘機による近距離空中戦を指すものであり、宇宙での軌道上の動きには適用しにくいと指摘した。宇宙では大気の影響を受けないため、衛星の機動は航空機とは異なり、推進剤を用いた軌道変更により他の衛星の周囲を移動する形になる。
ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)の航空宇宙安全保障プロジェクト副所長であるクレイトン・スウォープ氏は、「衛星が他の衛星の周囲を移動する動作は、対宇宙兵器の開発を示唆する可能性もあるが、宇宙サービスや燃料補給、他の衛星の撮影といった目的も考えられる」と述べた。
また、アメリカの宇宙安全保障と安定性に関する非営利団体「Secure World Foundation」のビクトリア・サムソン氏は、「中国の技術がアメリカにないとは言い切れない。なぜなら、この情報はアメリカの商業宇宙状況認識(SSA)企業からのものであり、彼らは通常アメリカの衛星活動については語りたがらない」と述べた。さらに、「宇宙での動きを『ドッグファイト』と表現するのは適切ではない。これは、アメリカも行っている活動に対し自動的に敵対的な意図を割り当てることになる」と指摘した。
アメリカ宇宙軍の戦略と予算問題
ゲトライン氏は、中国の衛星活動のほか、ロシアの「ネスティング・ドール(入れ子)」技術を用いた2019年の実験についても言及した。この実験では、1つの衛星がより小さな衛星を放出し、その後アメリカの衛星の近くで追尾行動をとったとされる。
彼は、「かつては我々(アメリカ)の技術優位性は圧倒的だったが、この状況を見直さなければ、優位性が逆転する可能性がある」と述べ、宇宙軍の「優勢確保」を強調した。宇宙軍は現在、防御的および攻撃的な作戦の両面で宇宙支配を目指している。
ゲトライン氏の発言が出たタイミングは、アメリカ議会が宇宙軍の予算として287億ドルを承認した直後であり、これは宇宙軍が求めた額よりも8億ドル少ないものである。軍事専門メディア「SpaceNews」は、この背景を指摘している。
中国側の見解
中国の軍事専門家であるSong Zhongping氏は、「ゲトライン氏の発言は、軍事予算の増額を正当化し、中国・ロシア脅威論を煽るためのものだ」と分析した。また、「新政権(トランプ政権)が軍事費の削減を進める中で、各軍種は予算を確保するために脅威を誇張している」と述べた。
実際、アメリカ国防総省は2025年度以降、毎年8%の軍事予算削減を指示されており、2025年2月19日にロバート・サレッセス国防次官代理がこの方針を発表している。
Song氏は、中国の宇宙技術の目的は平和的であり、人類の宇宙開発に貢献するものであると強調した。衛星の制御された機動には、回収ミッションや宇宙ゴミの除去といった目的が考えられる。これらの活動は、地球軌道の持続可能性を確保し、将来の宇宙探査に不可欠な技術を発展させるものである。
彼は、「将来の宇宙開発では、宇宙ゴミの回避や機能停止した衛星の回収といった課題が伴う。衛星の高度な機動能力は、こうした課題を解決するための重要な技術であり、平和的な宇宙利用の一環である」と述べた。
【詳細】
アメリカ宇宙軍(US Space Force)の副作戦責任者であるマイケル・A・ゲトライン(Michael A. Guetlein)中将が、中国の衛星が低軌道上で「ドッグファイト」戦術を実施したと主張したが、この発言はアメリカ国内の専門家からも疑問視されている。これに対し、中国側の専門家は、アメリカの軍事予算増額を目的とした政治的な戦略の一環であるとの見方を示している。
1. ゲトライン中将の主張
ゲトライン中将は、アメリカの防衛関連会議での発言において、「5つの異なる物体(衛星)が互いに同期しながら制御された状態で接近・離脱を繰り返している」とし、「これこそが宇宙でのドッグファイトであり、衛星間での軌道上作戦の戦術・技術・手順(TTP)を訓練している」と述べた。この発言は、Defense Newsが商業ベースの宇宙監視(SSA)データを引用して報じたものである。
また、アメリカ軍の広報担当者によると、問題の衛星は2024年に活動していたとされるもので、具体的には以下の中国の衛星が関与していたとされる。
・実験衛星「試験(Shiyan)-24C」(2023年12月に打ち上げ)
・実践衛星「実践(Shijian)-6 05 A/B」(2021年12月に打ち上げ)
これらの衛星は、公式には宇宙科学および技術試験に使用されるとされており、**新華社通信(Xinhua)**もその目的を報じていた。
2. 専門家の見解と「ドッグファイト」という表現への疑問
アメリカ国内でも、ゲトライン中将の「ドッグファイト」という表現に対して疑問の声が上がっている。
・CNNは、「ドッグファイト」という用語は通常、戦闘機同士の空中戦に用いられるものであり、宇宙空間での衛星の動きに適用するのは不適切であると指摘。
・戦略国際問題研究所(CSIS)の宇宙安全保障プロジェクト副ディレクター、クレイトン・スウォープ(Clayton Swope)は、「衛星同士の接近や機動は、対衛星兵器(ASAT)の開発を示唆する可能性もあるが、宇宙サービス、燃料補給、あるいは単なる監視目的での撮影の可能性もある」と述べた。
・アメリカの非営利宇宙安全保障団体「Secure World Foundation」のスペース・セキュリティ担当ディレクター、ビクトリア・サムソン(Victoria Samson)は、「アメリカも同様の活動を行っており、中国の行動だけを問題視するのは公平ではない」との立場を示した。
3. アメリカの宇宙軍事戦略と「脅威」強調の背景
ゲトライン中将は、中国以外にもロシアの衛星活動を例に挙げ、2019年にロシアの衛星がアメリカの衛星に接近・監視を行った事例(「ネスティング・ドール」作戦)を警戒すべき事象として言及した。
このような発言が出る背景には、アメリカ宇宙軍が進める「宇宙優勢(Space Superiority)」戦略がある。この戦略は、宇宙空間におけるアメリカの軍事的優位を確立することを目的としており、防衛的・攻撃的な宇宙作戦の強化が含まれている。
また、これらの発言は、アメリカ議会が宇宙軍の2025年度予算として**287億ドル(約4兆3000億円)を承認した直後に出ており、これは宇宙軍が要求した額よりも8億ドル少ない。軍事専門家のSong Zhongping(Song Zhongping)**は、今回のゲトライン中将の発言を「宇宙軍の予算増額を正当化するための政治的なレトリック」と分析している。
4. 中国側の反応と宇宙開発の目的
中国の専門家は、アメリカが「中国脅威論」を利用して、自国の宇宙軍拡を正当化しようとしていると指摘している。
・Song Zhongping氏は、「アメリカは、中国やロシアの宇宙開発を『脅威』として強調することで、より多くの軍事予算を確保しようとしている」と述べた。
・中国の宇宙技術開発は「平和目的」であり、もし衛星の機動が行われたとしても、それは宇宙ごみ(デブリ)の回収や老朽化した衛星の撤去など、宇宙空間の持続可能性を確保するための技術実証の一環である可能性が高いと主張している。
実際、将来的な宇宙探査では、宇宙ごみの回避や故障した衛星の回収・修理が不可欠であり、そのための技術開発は重要である。このような技術は「平和的な宇宙利用」の一環であると、中国側は強調している。
5. まとめ
今回の「宇宙でのドッグファイト」という発言は、アメリカ宇宙軍が軍事予算を確保するための戦略の一環であり、中国の宇宙開発を脅威として強調することで、軍拡を正当化しようとする意図があると見られている。一方で、アメリカ国内の専門家からもこの表現への疑問や、中国を特別視することへの批判が出ており、今回の議論は単なる軍事的脅威の問題ではなく、宇宙開発競争における政治的・戦略的な側面を含んでいると言える。
【要点】
アメリカ宇宙軍の「ドッグファイト」発言に関する詳細
1. ゲトライン中将の主張
・アメリカ宇宙軍のマイケル・A・ゲトライン中将が、中国の衛星が低軌道上で「ドッグファイト」戦術を実施したと主張。
・「5つの異なる衛星が同期しながら接近・離脱を繰り返している」と述べ、戦術・技術・手順(TTP)を訓練していると指摘。
・商業ベースの宇宙監視データを元に発言。
2. 対象とされた中国の衛星
・試験(Shiyan)-24C(2023年12月打ち上げ)
・実践(Shijian)-6 05 A/B(2021年12月打ち上げ)
・公式には「宇宙科学および技術試験用」とされている。
3. 「ドッグファイト」表現への疑問(アメリカ国内の専門家の反応)
・CNN:「ドッグファイト」は空中戦の用語であり、宇宙空間での衛星の動きに適用するのは不適切。
・CSISのクレイトン・スウォープ副ディレクター:「対衛星兵器(ASAT)の開発の可能性はあるが、宇宙サービスや監視目的の可能性もある」。
・Secure World Foundationのビクトリア・サムソン:「アメリカも同様の活動を行っており、中国だけを問題視するのは公平でない」。
4. アメリカの宇宙軍事戦略と発言の背景
・アメリカ宇宙軍は「宇宙優勢(Space Superiority)」戦略を推進。
・2019年のロシアの衛星の接近監視(「ネスティング・ドール」作戦)を引き合いに出して警戒感を強調。
・2025年度予算287億ドル(約4兆3000億円)が承認されたが、宇宙軍の要求額より8億ドル少なかった。
・軍事専門家・Song Zhongping:「予算増額を正当化するための政治的レトリック」と指摘。
5. 中国側の反応と主張
・アメリカが「中国脅威論」を利用し、自国の軍拡を正当化していると批判。
・衛星の機動は、宇宙ごみ(デブリ)回収や老朽化衛星の撤去など、宇宙空間の持続可能性確保のための技術実証の一環と主張。
・平和的な宇宙利用を強調。
6. まとめ
・「宇宙でのドッグファイト」という発言は、アメリカ宇宙軍が軍事予算を確保するための戦略の一環。
・アメリカ国内でも表現に疑問の声があり、中国だけを特別視することへの批判もある。
・宇宙開発競争は単なる軍事的脅威ではなく、政治的・戦略的な要素を含む問題。
【引用・参照・底本】
US Space Force general's dogfighting claim against Chinese satellites disputed by US experts, viewed as budget ploy GT 2025.03.23
https://www.globaltimes.cn/page/202503/1330667.shtml
アメリカ宇宙軍の高官が、中国の衛星が低軌道で「ドッグファイト」戦術を実施していると主張したが、この発言はアメリカ国内の専門家からも疑問視されている。専門家は、この発言が「敵対的意図」を示唆しているものの、アメリカも同様の行動を取っていることを指摘し、宇宙軍の予算確保のための戦略の一環ではないかとの見方を示している。
アメリカ宇宙軍高官の発言
アメリカの軍事専門メディア「Defense News」によると、アメリカ宇宙軍のマイケル・A・ゲトライン副宇宙作戦部長は、現地時間の3月19日に開催された防衛関連の会議で「宇宙空間で5つの異なる物体が同期的かつ制御された形で互いに出入りし、周囲を移動する様子を確認した」と述べ、「これは宇宙におけるドッグファイトと呼ばれるものであり、衛星間で軌道上作戦の戦術、技術、手順を実践している」と主張した。
その後、アメリカ軍の報道官がこの発言を補足し、2024年に行われた作戦が関係していると説明した。具体的には、中国の試験衛星「試験24C」3機と、「実践6号05」A・Bの計5機が関与していたという。
中国の衛星とその目的
中国国営通信の新華社によると、「試験24C」衛星は2023年12月に打ち上げられ、宇宙科学技術実験を目的としている。一方、「実践6号05」衛星は2021年12月に打ち上げられ、宇宙探査や新技術試験に使用されるとしている。
専門家の見解
CNNは、「ドッグファイト」という用語は本来、戦闘機による近距離空中戦を指すものであり、宇宙での軌道上の動きには適用しにくいと指摘した。宇宙では大気の影響を受けないため、衛星の機動は航空機とは異なり、推進剤を用いた軌道変更により他の衛星の周囲を移動する形になる。
ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)の航空宇宙安全保障プロジェクト副所長であるクレイトン・スウォープ氏は、「衛星が他の衛星の周囲を移動する動作は、対宇宙兵器の開発を示唆する可能性もあるが、宇宙サービスや燃料補給、他の衛星の撮影といった目的も考えられる」と述べた。
また、アメリカの宇宙安全保障と安定性に関する非営利団体「Secure World Foundation」のビクトリア・サムソン氏は、「中国の技術がアメリカにないとは言い切れない。なぜなら、この情報はアメリカの商業宇宙状況認識(SSA)企業からのものであり、彼らは通常アメリカの衛星活動については語りたがらない」と述べた。さらに、「宇宙での動きを『ドッグファイト』と表現するのは適切ではない。これは、アメリカも行っている活動に対し自動的に敵対的な意図を割り当てることになる」と指摘した。
アメリカ宇宙軍の戦略と予算問題
ゲトライン氏は、中国の衛星活動のほか、ロシアの「ネスティング・ドール(入れ子)」技術を用いた2019年の実験についても言及した。この実験では、1つの衛星がより小さな衛星を放出し、その後アメリカの衛星の近くで追尾行動をとったとされる。
彼は、「かつては我々(アメリカ)の技術優位性は圧倒的だったが、この状況を見直さなければ、優位性が逆転する可能性がある」と述べ、宇宙軍の「優勢確保」を強調した。宇宙軍は現在、防御的および攻撃的な作戦の両面で宇宙支配を目指している。
ゲトライン氏の発言が出たタイミングは、アメリカ議会が宇宙軍の予算として287億ドルを承認した直後であり、これは宇宙軍が求めた額よりも8億ドル少ないものである。軍事専門メディア「SpaceNews」は、この背景を指摘している。
中国側の見解
中国の軍事専門家であるSong Zhongping氏は、「ゲトライン氏の発言は、軍事予算の増額を正当化し、中国・ロシア脅威論を煽るためのものだ」と分析した。また、「新政権(トランプ政権)が軍事費の削減を進める中で、各軍種は予算を確保するために脅威を誇張している」と述べた。
実際、アメリカ国防総省は2025年度以降、毎年8%の軍事予算削減を指示されており、2025年2月19日にロバート・サレッセス国防次官代理がこの方針を発表している。
Song氏は、中国の宇宙技術の目的は平和的であり、人類の宇宙開発に貢献するものであると強調した。衛星の制御された機動には、回収ミッションや宇宙ゴミの除去といった目的が考えられる。これらの活動は、地球軌道の持続可能性を確保し、将来の宇宙探査に不可欠な技術を発展させるものである。
彼は、「将来の宇宙開発では、宇宙ゴミの回避や機能停止した衛星の回収といった課題が伴う。衛星の高度な機動能力は、こうした課題を解決するための重要な技術であり、平和的な宇宙利用の一環である」と述べた。
【詳細】
アメリカ宇宙軍(US Space Force)の副作戦責任者であるマイケル・A・ゲトライン(Michael A. Guetlein)中将が、中国の衛星が低軌道上で「ドッグファイト」戦術を実施したと主張したが、この発言はアメリカ国内の専門家からも疑問視されている。これに対し、中国側の専門家は、アメリカの軍事予算増額を目的とした政治的な戦略の一環であるとの見方を示している。
1. ゲトライン中将の主張
ゲトライン中将は、アメリカの防衛関連会議での発言において、「5つの異なる物体(衛星)が互いに同期しながら制御された状態で接近・離脱を繰り返している」とし、「これこそが宇宙でのドッグファイトであり、衛星間での軌道上作戦の戦術・技術・手順(TTP)を訓練している」と述べた。この発言は、Defense Newsが商業ベースの宇宙監視(SSA)データを引用して報じたものである。
また、アメリカ軍の広報担当者によると、問題の衛星は2024年に活動していたとされるもので、具体的には以下の中国の衛星が関与していたとされる。
・実験衛星「試験(Shiyan)-24C」(2023年12月に打ち上げ)
・実践衛星「実践(Shijian)-6 05 A/B」(2021年12月に打ち上げ)
これらの衛星は、公式には宇宙科学および技術試験に使用されるとされており、**新華社通信(Xinhua)**もその目的を報じていた。
2. 専門家の見解と「ドッグファイト」という表現への疑問
アメリカ国内でも、ゲトライン中将の「ドッグファイト」という表現に対して疑問の声が上がっている。
・CNNは、「ドッグファイト」という用語は通常、戦闘機同士の空中戦に用いられるものであり、宇宙空間での衛星の動きに適用するのは不適切であると指摘。
・戦略国際問題研究所(CSIS)の宇宙安全保障プロジェクト副ディレクター、クレイトン・スウォープ(Clayton Swope)は、「衛星同士の接近や機動は、対衛星兵器(ASAT)の開発を示唆する可能性もあるが、宇宙サービス、燃料補給、あるいは単なる監視目的での撮影の可能性もある」と述べた。
・アメリカの非営利宇宙安全保障団体「Secure World Foundation」のスペース・セキュリティ担当ディレクター、ビクトリア・サムソン(Victoria Samson)は、「アメリカも同様の活動を行っており、中国の行動だけを問題視するのは公平ではない」との立場を示した。
3. アメリカの宇宙軍事戦略と「脅威」強調の背景
ゲトライン中将は、中国以外にもロシアの衛星活動を例に挙げ、2019年にロシアの衛星がアメリカの衛星に接近・監視を行った事例(「ネスティング・ドール」作戦)を警戒すべき事象として言及した。
このような発言が出る背景には、アメリカ宇宙軍が進める「宇宙優勢(Space Superiority)」戦略がある。この戦略は、宇宙空間におけるアメリカの軍事的優位を確立することを目的としており、防衛的・攻撃的な宇宙作戦の強化が含まれている。
また、これらの発言は、アメリカ議会が宇宙軍の2025年度予算として**287億ドル(約4兆3000億円)を承認した直後に出ており、これは宇宙軍が要求した額よりも8億ドル少ない。軍事専門家のSong Zhongping(Song Zhongping)**は、今回のゲトライン中将の発言を「宇宙軍の予算増額を正当化するための政治的なレトリック」と分析している。
4. 中国側の反応と宇宙開発の目的
中国の専門家は、アメリカが「中国脅威論」を利用して、自国の宇宙軍拡を正当化しようとしていると指摘している。
・Song Zhongping氏は、「アメリカは、中国やロシアの宇宙開発を『脅威』として強調することで、より多くの軍事予算を確保しようとしている」と述べた。
・中国の宇宙技術開発は「平和目的」であり、もし衛星の機動が行われたとしても、それは宇宙ごみ(デブリ)の回収や老朽化した衛星の撤去など、宇宙空間の持続可能性を確保するための技術実証の一環である可能性が高いと主張している。
実際、将来的な宇宙探査では、宇宙ごみの回避や故障した衛星の回収・修理が不可欠であり、そのための技術開発は重要である。このような技術は「平和的な宇宙利用」の一環であると、中国側は強調している。
5. まとめ
今回の「宇宙でのドッグファイト」という発言は、アメリカ宇宙軍が軍事予算を確保するための戦略の一環であり、中国の宇宙開発を脅威として強調することで、軍拡を正当化しようとする意図があると見られている。一方で、アメリカ国内の専門家からもこの表現への疑問や、中国を特別視することへの批判が出ており、今回の議論は単なる軍事的脅威の問題ではなく、宇宙開発競争における政治的・戦略的な側面を含んでいると言える。
【要点】
アメリカ宇宙軍の「ドッグファイト」発言に関する詳細
1. ゲトライン中将の主張
・アメリカ宇宙軍のマイケル・A・ゲトライン中将が、中国の衛星が低軌道上で「ドッグファイト」戦術を実施したと主張。
・「5つの異なる衛星が同期しながら接近・離脱を繰り返している」と述べ、戦術・技術・手順(TTP)を訓練していると指摘。
・商業ベースの宇宙監視データを元に発言。
2. 対象とされた中国の衛星
・試験(Shiyan)-24C(2023年12月打ち上げ)
・実践(Shijian)-6 05 A/B(2021年12月打ち上げ)
・公式には「宇宙科学および技術試験用」とされている。
3. 「ドッグファイト」表現への疑問(アメリカ国内の専門家の反応)
・CNN:「ドッグファイト」は空中戦の用語であり、宇宙空間での衛星の動きに適用するのは不適切。
・CSISのクレイトン・スウォープ副ディレクター:「対衛星兵器(ASAT)の開発の可能性はあるが、宇宙サービスや監視目的の可能性もある」。
・Secure World Foundationのビクトリア・サムソン:「アメリカも同様の活動を行っており、中国だけを問題視するのは公平でない」。
4. アメリカの宇宙軍事戦略と発言の背景
・アメリカ宇宙軍は「宇宙優勢(Space Superiority)」戦略を推進。
・2019年のロシアの衛星の接近監視(「ネスティング・ドール」作戦)を引き合いに出して警戒感を強調。
・2025年度予算287億ドル(約4兆3000億円)が承認されたが、宇宙軍の要求額より8億ドル少なかった。
・軍事専門家・Song Zhongping:「予算増額を正当化するための政治的レトリック」と指摘。
5. 中国側の反応と主張
・アメリカが「中国脅威論」を利用し、自国の軍拡を正当化していると批判。
・衛星の機動は、宇宙ごみ(デブリ)回収や老朽化衛星の撤去など、宇宙空間の持続可能性確保のための技術実証の一環と主張。
・平和的な宇宙利用を強調。
6. まとめ
・「宇宙でのドッグファイト」という発言は、アメリカ宇宙軍が軍事予算を確保するための戦略の一環。
・アメリカ国内でも表現に疑問の声があり、中国だけを特別視することへの批判もある。
・宇宙開発競争は単なる軍事的脅威ではなく、政治的・戦略的な要素を含む問題。
【引用・参照・底本】
US Space Force general's dogfighting claim against Chinese satellites disputed by US experts, viewed as budget ploy GT 2025.03.23
https://www.globaltimes.cn/page/202503/1330667.shtml