北朝鮮:事実上の核武装国に向けて2025年03月18日 22:52

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【概要】 

 北朝鮮の事実上の核武装国状態獲得に向けた努力と、韓国・米国の対応戦略

 本稿では、北朝鮮が事実上の核武装国(DNWS)としての地位を獲得しようとする動きと、それに対する韓国・米国の戦略について考察する。

背景

事実上の核武装国(DNWS)は、核兵器を保有しているが、国際的な核不拡散体制(NPT)の下で正式に認められていない国を指す。この国は、核能力、生存可能性、制裁の回避に関して、権威ある核保有国(P5諸国)から外交的に認知を受けている状態であり、事実上、正式に認められた核武装国(de jure NWS)とほぼ同等の法的権利と義務を享受する。

核兵器を保有する正式な核保有国(de jure NWS)は、1970年にNPT体制が確立される前に核実験を完了した国々である。NPTは遡及的に適用されないため、1970年以降に核兵器を開発した国々は、国際法上、正式に核武装国として認められない。しかし、インド、パキスタン、イスラエルは、NPT枠外で核兵器を開発しながらも、事実上の核武装国として認められている。北朝鮮も、NPT内で正式に核武装国として認められることはできないと理解しており、インドやパキスタンと同様に、事実上の核武装国としての地位を確立しようとしている。

 北朝鮮の事実上の核武装国認知に向けた課題

 北朝鮮は、核兵器開発の技術的な進展を達成しているものの、国際的な認知を得るためにはいくつかの大きな障壁を乗り越えなければならない。主な課題は、第二撃能力の生存性、制裁の回避、外交関係の確立に関する問題である。

 第一に、北朝鮮の核戦力の生存性はまだ明確に証明されていない。北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に成功しているとされるが、核弾頭をミサイルに搭載できるかどうか、また大気圏再突入技術を習得しているかは不確かである。

 第二に、北朝鮮は、核兵器技術の追求のために課せられた国際的および二国間制裁からの回避に成功していない。特に、2016年の国連安全保障理事会決議2270以降、北朝鮮に対する制裁は強化されており、その経済に大きな影響を与えている。

 第三に、北朝鮮は、米国からの外交認知を得ていない。これまでの核実験以降、米国との二国間および多国間の交渉が行われてきたが、米国は北朝鮮に対して実質的な外交的道を開くことはなく、交渉は部分的な核放棄の見返りに譲歩を引き出す形で進んでいるにすぎない。

 北朝鮮の戦略的アプローチ

 北朝鮮は、インドやパキスタンとは異なる経路で事実上の核武装国認知を目指している。インドやパキスタンは、地域的抑止力を重視し、米国との協力的な外交関係を維持してきたが、北朝鮮は米国への直接的な脅威として、また敵対的な関係にあり、その戦略的価値が限定的であるため、認知を得るためには非常に困難な道を歩んでいる。北朝鮮は、米国本土を攻撃する能力を高め、恐怖を煽り、米国を核軍縮交渉に引き込むことで、事実上の核武装国としての地位を確立しようとしている。

 北朝鮮が事実上の核武装国の地位を確立するために追求する主な目標は以下の3つである。

 1.核戦力の生存性の強化
 2.制裁の回避
 3.核武装国としての外交的認知を得るための交渉

 これを実現するため、北朝鮮は以下の三層戦略を採ると予想される。

 1.ロシアとの同盟を強化し、外交的孤立と制裁から逃れるために支援を得る。
 2.米国との交渉条件を整え、完全な非核化ではなく部分的な核開発制限や制裁緩和を引き出す。
 3.朝鮮半島での軍事的緊張をエスカレートさせ、米国に対して交渉の前提条件を変える。

 米国・韓国の戦略的対応

 米国と韓国は、北朝鮮の核兵器国としての地位確立を阻止するために、以下の原則に基づいて対応する必要がある。

 1.完全な非核化の維持

 北朝鮮を核保有国として認めることは、国際的な核不拡散体制を崩壊させ、北東アジアの安全を不安定化させるため、米国と韓国は完全な非核化を目指すべきである。

 2.外交認知と経済的援助の拒否

 北朝鮮が核保有国としての地位を確立することを防ぐためには、厳格な制裁と外交的な正常化の阻止が不可欠である。

 3.抑止力と戦略的安定の強化

 北朝鮮の核・ミサイル技術の進展とロシアとの軍事的協力が深まる中、米国と韓国は強固な抑止力を維持し、延長抑止を強化する必要がある。

 結論

 北朝鮮が事実上の核武装国の地位を確立しようとする動きに対処するためには、米国と韓国が堅固な同盟関係を維持し、核兵器を放棄させるための一貫した戦略を取ることが不可欠である。北朝鮮の核開発が進む中、韓国の安全保障利益を守るためには、核不拡散の原則を遵守し、地域の安定を保つことが重要である。

【詳細】 

 北朝鮮が「事実上の核武装国家(DNWS)」の地位を確立しようとする努力と、それに対する韓国(ROK)およびアメリカ(US)の対応戦略について詳述している。
 
 1. 事実上の核武装国家(DNWS)の定義

 事実上の核武装国家(DNWS)は、国際的な非核拡散体制(NPT)に基づき正式に認められていないものの、核保有を公然と行い、影響力のある核保有国(P5諸国)から核能力の認知を受けた国家を指す。このような国家は、正式に認められた核保有国(de jure NWS)とほぼ同等の法的権利と義務を享受することができる。

 2. DNWSの達成に必要な要素

 事実上の核武装国家として認められるためには、単に核兵器を持つだけでは不十分であり、以下の四つの重要な段階をクリアする必要がある。

 ・核兵器の開発と信頼性のある配備システムの統合:核兵器を開発し、それを実際に使用可能な兵器システムと統合する技術を確保する。
 ・第二撃能力の確保:先制攻撃を受けても反撃できる能力、すなわち生存可能な第二撃能力を持つことが必要である。これには、地下ミサイル基地や移動式発射装置、潜水艦発射型核ミサイル(SSBN)などが含まれる。
 ・制裁に耐える能力:国際的な制裁や圧力を乗り越える能力。インドやパキスタンは、1998年の核実験後に強い国際的反発を受けたが、それを耐え抜いた。
 ・外交的承認の獲得:核保有国としての認知を得るためには、時間をかけて外交的な承認を得る必要がある。インドは、米印民間原子力協定に署名したことで、事実上の核保有国としての認知を受けることができた。

 3. 北朝鮮の課題

 北朝鮮は、核兵器の開発において一定の成果を上げているが、以下の三つの主要な障害に直面している。

 ・第二撃能力の確立:北朝鮮が持つ核兵器の生存性は証明されていない。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発には成功しているが、実際に大気圏再突入技術を証明した試験は行われていない。
 ・国際的孤立:北朝鮮は、核開発の進展により国際社会から孤立しており、制裁が依然として強力に機能している。ロシアや中国との関係を利用して制裁を緩和しようとしているが、米国主導の制裁網は依然として効果的である。
 ・外交的認知の欠如:米国は、北朝鮮の核武装を認めることなく、外交的な交渉を続けてきたが、今までに北朝鮮に正式な外交関係を結んでいない。
 
 4. 北朝鮮の戦略的アプローチ

 北朝鮮は、インドやパキスタンとは異なる道を歩んでおり、米国との関係が敵対的であり、戦略的価値も限られている。北朝鮮は、米国本土への核攻撃能力を高め、恐怖を煽り、米国に対して核軍縮交渉を促進し、事実上の核保有国としての地位を確立しようとしている。

 北朝鮮は以下の三つの主要な目標を追求する可能性が高い。

 ・核兵器の生存性を向上させる:大気圏再突入技術を開発し、ICBMの運用信頼性を高める。
 ・制裁を回避する:地政学的な緊張やサイバー技術を活用して制裁逃れの能力を高める。
 ・外交的交渉を通じて事実上の核保有国として認知を得る:米国との交渉を通じて、核兵器の完全廃棄ではなく、制限された核開発を求める。

 5. 米韓の戦略的対応

 北朝鮮が事実上の核武装国家を目指す中で、米国と韓国は以下の戦略を採るべきである。

 ・完全な非核化の継続的なコミットメント:北朝鮮を核保有国として認めることは、世界の非核拡散体制を崩壊させ、東アジアの安全保障を不安定にする。米国と韓国は、北朝鮮の完全な非核化を目指して引き続き努力する必要がある。
 ・外交的認知と経済的救済の否定:北朝鮮に対する外交的認知や経済的な援助を拒否し、国際的な非核拡散体制を維持するために、厳格な制裁を維持することが重要である。
 ・抑止力と戦略的安定性の優先:米国、韓国、日本は、北朝鮮の核開発に対応するために、信頼性の高い抑止力を強化し、統合的な抑止戦略を進める必要がある。米韓日三国間の協力を強化し、北朝鮮の核認知を防ぐための外交的圧力を強化することが求められる。

 6. 結論

 北朝鮮が事実上の核武装国家の地位を目指す過程に対して、米韓同盟は強固な結束を保ち、北朝鮮の核武装を認めない立場を堅持し続ける必要がある。米国と韓国は、核兵器の完全廃棄を目指す戦略を強化し、北朝鮮との交渉においても慎重に進めるべきである。

【要点】

 1.事実上の核武装国家(DNWS)

 ・核拡散防止条約(NPT)に基づき正式に認められていないが、核保有国と見なされる状態。
 ・核兵器の開発と配備、第二撃能力の確保、制裁耐性、外交的承認が必要。

 2.DNWS達成に必要な要素

 ・核兵器を開発し、信頼性のある兵器システムに統合する。
 ・第二撃能力(核攻撃後の反撃能力)を確保する。
 ・制裁を耐え抜く能力を持つ。
 ・核保有国としての外交的認知を得る。

 3.北朝鮮の課題

 ・第二撃能力の確立が未達成(大気圏再突入技術未確認)。
 ・強力な国際制裁を受けており、孤立している。
 ・核保有国としての外交的認知を得ていない。

 4.北朝鮮の戦略的アプローチ

 ・米国本土への核攻撃能力を高め、恐怖を利用して外交交渉を有利に進めようとする。
 ・核兵器の生存性向上、制裁回避、外交的認知を目指す。

 5.米韓の戦略的対応

 ・完全な非核化のコミットメントを継続。
 ・北朝鮮に対する外交的認知や経済援助を拒否。
 ・信頼性の高い抑止力を強化し、三国間協力を強化する。

 6.結論

 ・米韓同盟は北朝鮮の核武装を認めず、核兵器の完全廃棄を目指す戦略を強化すべき。

【引用・参照・底本】

North Korea’s Efforts to Attain De Facto Nuclear Weapon State Status and ROK-US Response Strategy 38NORTH 2025.03.14
https://www.38north.org/2025/03/north-koreas-efforts-to-attain-de-facto-nuclear-weapon-state-status-and-rok-us-response-strategy/

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