米国:核兵器を「政治的な武器」として位置づけ ― 2024年11月21日 21:49
【桃源寸評】
「世界のリーダーであり続ける」というフレーズは、単に核兵器を持つだけでなく、国際社会における「正義」としての立場を維持することを含意している。この文脈では、以下のような意図が考えられる。
「大義名分を作る」戦略の背景
・道徳的優位性の確保
米国が核兵器を使用する場合、それが国際社会から非難されることを避けるために「正当な理由」が必要である。そのため、相手に先に核を使用させる、またはその使用意図を明確にすることで、米国側が「防衛的措置」として核を用いる状況を演出する可能性がある。
・国際社会の支持を得る
核兵器使用がやむを得ないと見なされる状況を作り出せば、他国からの支持や同情を得やすくなる。これは、国際的な非難を回避し、逆に相手国を孤立させる効果が期待できる。
・抑止力の効果を最大化
相手に核を使用させる可能性を煽りつつ、実際には相手を抑止する戦略を維持することで、自国のリーダーシップを強化する。この「抑止力のゲーム」において、先に核を使うリスクを負わせることで、米国は最終的な主導権を握ろうとする。
「世界のリーダーであり続ける」の具体的な意味
・正義と秩序の擁護者としての演出
核使用の際には、米国が「国際法」や「人道的理由」を強調し、他国と連携して「秩序を回復する」ために動く姿勢を示すことが想定される。
・敵国の孤立化
相手国を「核兵器を乱用する脅威」と位置づけ、国際社会で非難を集中させる。これにより、米国は「責任あるリーダー」としての地位をさらに強固にする。
・冷戦時代の教訓の活用
冷戦期における米ソ間の核抑止理論を踏襲し、戦略的に相手の失敗を待つ形で「勝利」を収めることを目指す。この文脈での「勝利」とは、実際の核戦争ではなく、政治的・外交的に相手を封じ込めることを指す。
「世界のリーダーであり続ける」とは、核兵器を用いる正当性を確保し、国際社会における道徳的優位性を維持することを意味している。このため、相手に先に核を使用させるよう仕向けることが戦略の一環である可能性が高い。ただし、このような計画は非常に危険であり、予測不能な結果を招くリスクを伴う。したがって、ブキャナン少将の発言は、米国が核戦争を避けたいとする一方で、必要に応じて「勝つ準備」を進めているという二面性を明確に示している。
米国の「いやらしさ」の特徴
・道徳的優位性の強調
米国は常に「自由」や「民主主義」の名の下で軍事行動を正当化する傾向がある。このような価値観を盾に、「自分たちは正義の側にいる」と主張しながら、実際には自国の利益を最優先している。
・相手を悪役化する戦略
米国は相手国を挑発し、危険な行動を取らせることで、国際社会においてその国を孤立化させる手法を多用する。このような状況を作り出した後、自らの行動を「やむを得ない対応」として説明する。
・力の裏にある計算
米国の核政策や軍事戦略は「使用する力」だけではなく、「その使用を正当化するための状況づくり」に大きな重点を置いている。このような計算は、力そのものよりも、その使い方と国際的なイメージを重視していることを示している。
・結果としてのリーダーシップ維持
核抑止力を活用して、実際の戦争を避けつつも、相手を政治的に追い詰めるのが狙いである。相手を完全に壊滅させるのではなく、コントロール可能な範囲で弱体化させることに重点を置いている。
このアプローチの倫理的問題
・選択的道徳観
米国は「核兵器の使用を避けるべき」と主張しつつ、実際にはその使用を前提とした計画を立てている。このような矛盾は、他国に対しても信頼を損なう可能性がある。
・グローバルなリスクの無視
自国の利益やリーダーシップ維持のために、他国や地球規模のリスクを軽視している点が問題視される。核戦争のリスクは全人類に影響を与えるにもかかわらず、これを政治的道具として利用する態度は冷酷とも言える。
米国の核政策は、リーダーシップを維持するための高度な戦略に基づいているが、その中には明らかに計算高く、時に倫理的問題を伴う側面がある。「いやらしさ」という感覚は、このような自己中心的な姿勢から生じていると言える。ただし、これらは冷戦以来の「抑止力を優先する」という考え方に基づいており、他の核保有国にも共通する部分もある。
核戦争が実際に勃発すれば、どの国も「無傷」では済まないというのは重要な現実である。米国であれ、他の核保有国であれ、核戦争は全人類にとって壊滅的な結果をもたらす可能性が高い。
核戦争がもたらす危険性
・大規模な人的被害
核兵器が使用されると、即座に膨大な数の死傷者が出るだけでなく、その後の放射線被害、医療インフラの崩壊、社会的混乱などが続く。米国もその影響を避けることはできず、多くの都市やインフラが破壊される可能性が高い。
・世界規模の環境破壊
核戦争によって生じる「核冬期」や放射能の拡散は、地球規模での環境崩壊を引き起こし、農業や水供給、自然環境に甚大な影響を及ぼす。これにより、米国国内だけでなく、他の国々とともに食糧不足や社会不安が広がり、結果として世界の秩序が崩壊する可能性がある。
・経済的崩壊
米国をはじめとする核保有国が核戦争を展開すれば、世界経済は壊滅的な影響を受ける。貿易の停滞、資本の流出、物資の不足が加速し、経済活動が長期間にわたり停止する恐れがある。米国の経済力もこの影響を免れることは難しく、全ての国が経済的に打撃を受けるだろう。
・国際的な非難と孤立
米国が核兵器を使用した場合、その使用の正当性を訴え続けることは非常に困難になる。国際社会は当然、米国に対する非難の声を強め、政治的孤立を招く可能性が高い。特に、戦争の悲惨な結果が明らかになれば、米国の「正義」の主張はほとんど通用しなくなるだろう。
・国家のリーダーシップの失墜
米国が核戦争に突入すれば、その国際的リーダーシップは深刻な打撃を受ける。正当性や道義的立場が大きく揺らぎ、同盟国や友好国の信頼を失うことになる。この結果、米国が長年にわたり築いてきた影響力が崩れ、世界の秩序が変動する可能性がある。
核戦争が勃発すれば、どの国も「勝者」となることはない。米国も例外ではなく、最も強力な軍事力を持っていても、致命的なダメージを受ける可能性が高い。正当性や「世界のリーダー」としての地位を訴えたとしても、戦争の悲惨な結果により、それは意味をなさなくなるだろう。核戦争の最も危険な点は、すべての国と人々に広範囲で壊滅的な影響を与えることにある。
核兵器の使用を避けるための最も重要な前提は、相手国を核兵器を使用せざるを得ない状況に追い込まないことである。核抑止理論(nuclear deterrence)においても、この考え方が基盤となっており、核兵器を使用しないためには、相手に核を使わせないようにするための戦略が不可欠である。
核不使用の大前提としての「相手を追い込まない」
・核兵器使用の脅威を回避する
核兵器の使用は非常に深刻な結果を伴い、ほとんどの国家はそれを最終手段として利用したくないと考えている。そのため、相手国が自国を核兵器を使用しなければならないような状況に追い込まれないようにすることが、核戦争を防ぐための基本的な原則となる。
・外交と対話の重要性
核兵器の使用を避けるためには、対話と外交によって緊張を和らげ、相手に「核を使う理由」を与えないことが重要である。適切な交渉と意思疎通により、誤解や過剰反応を避けることが可能であり、これが核戦争を防ぐ鍵となる。
・核抑止理論の限界
核抑止の理論は、相手が核兵器を使わないようにするための圧力をかけることに重点を置いているが、それが破綻すると核兵器が実際に使われるリスクが高まる。抑止が効かない場合、外交的手段や威圧戦術を使ってでも核兵器使用を避けるための状況作りが求められる。
・「限界点」を越えさせない
相手が核を使うという決断に至るのは、限界的な状況、すなわち戦争が全面的に拡大し、他に選択肢がないと感じるときである。この「限界点」を越えさせないためには、十分な抑止力と同時に、戦争を長期化させないような戦略を取ることが必要である。
・誤解や誤算の回避
核兵器の使用は、しばしば誤解や誤算から起こる危険を伴う。したがって、相手が自国に対して核攻撃を行う動機を持たないようにすることが、核不使用の大前提となる。過剰な軍事行動や挑発的な言動は、相手に核使用の選択肢を現実的に考えさせることにつながる。
核兵器はその性質上、非常に破壊的であり、使用することが極めて危険であるため、相手に核兵器を使用させる状況を作らないことが、核不使用を維持するための基本である。このため、国際社会は外交的手段、信頼醸成措置、軍事的抑止力を活用し、相手が核を使用するという選択肢を現実的なものにしないよう努めている。核戦争を防ぐためには、相手に「核を使う理由」を与えないことが最も重要な戦略となる。
【寸評 完】
【概要】
米国戦略軍(STRATCOM)の広報担当官であるトーマス・ブキャナン海軍少将は、米国が必要に応じて核兵器を使用する準備があるが、その使用は米国およびその利益にとって「受け入れ可能」な条件の下で行われるべきであると述べた。彼は、核兵器の使用に関して米国が「世界のリーダーとしての地位を維持し続ける」という条件を前提としていると強調した。
ブキャナン少将は、ワシントンD.C.の戦略国際問題研究所(CSIS)で開催された「プロジェクト・アトム2024」のイベントにおいて、核兵器を巡る潜在的な状況に言及し、「交換(核攻撃を含む状況)を行う場合、米国にとって最も受け入れ可能な条件で行いたい。それはつまり、米国が世界のリーダーとして認識される立場を維持することである」と述べた。
また、核兵器の潜在的な使用に際して、米国は抑止力を維持するために兵器の一部を残す必要があると指摘した。「勝利を得るために全ての資源を使い果たすわけにはいかない。なぜなら、その時点で抑止力を失うことになるからだ」と述べた。
同時に、ブキャナン少将は「核攻撃が行われた後の環境に身を置きたくはない」とし、そのようなシナリオを避ける努力を続けるべきだと強調した。彼は、ロシア、中国、北朝鮮との対話を継続し、核紛争のリスクを低減する必要性を訴え、「核兵器は政治的な武器である」と指摘した。
これらの発言は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が新たな国家核ドクトリンに署名した直後に行われた。このドクトリンでは、ロシアまたはベラルーシが通常兵器による攻撃を受け、その攻撃が主権や領土の一体性に「重大な脅威」をもたらす場合に、核兵器の使用を検討する権利をロシアが有すると明記されている。
政治専門家たちは、この新たなドクトリンが、米国や他の西側諸国によるウクライナへの軍事支援の再考を促す可能性があると指摘している。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、新ドクトリンについて、西側諸国が供給する非核ミサイルをウクライナがロシア領内で使用した場合、ロシアが核兵器による対応を検討する権利を事実上認めるものであると説明した。
【詳細】
米国戦略軍(STRATCOM)のトーマス・ブキャナン海軍少将が発表した内容は、米国の核政策および戦略的抑止力の維持に関する重要な側面を明確に示している。以下にその発言内容をさらに詳しく説明する。
1. 核兵器使用の「受け入れ可能な条件」
ブキャナン少将によれば、米国は核兵器を使用する場合、その行動が米国の利益と一致し、国際的な文脈において「受け入れ可能」な条件でなければならない。この「受け入れ可能な条件」とは、米国が「世界のリーダー」として認識され続けることを指しており、単なる軍事的勝利ではなく、政治的・国際的な影響力の維持を重視している。
この発言は、核兵器の使用が単純な軍事行為ではなく、国際的な地位や政治的影響力を考慮した包括的な戦略の一部であることを示唆している。
2. 抑止力の維持と「予備能力」の確保
ブキャナン少将は、核兵器の使用において全ての兵器を消耗することは避けなければならないと強調した。その理由として、核兵器は「抑止力」としての役割が非常に重要であり、使用後にも残存兵力を確保しておく必要があると述べている。具体的には、以下のような考えが示された:
・全面的な勝利を目指して全ての資源を使い果たすことは、戦略的な失敗につながる。
・使用後に残存する核兵器は、引き続き他国に対する抑止力として機能する。
これにより、核兵器の使用が「最終手段」であるだけでなく、使用後の状況も考慮した長期的な戦略の一環であることが理解できる。
3. 核戦争後の環境への懸念
ブキャナン少将は、「核攻撃が行われた後の環境」に米国が身を置くことを望まないと明言した。この発言は、核戦争がもたらす破滅的な影響を認識していることを示している。核攻撃後の状況は、単に人道的な被害だけでなく、以下のような広範な問題を引き起こす可能性がある:
・環境の汚染と破壊(放射性物質の拡散など)。
・世界経済の崩壊。
・米国自身を含む国際的な秩序の不安定化。
そのため、米国は核戦争そのものを回避するための外交的努力を続けるべきであると述べた。
4. 他国との対話の重要性
少将は、ロシア、中国、北朝鮮との対話を通じて核紛争のリスクを低減する必要性を訴えた。「核兵器は政治的な武器である」との指摘は、核兵器が軍事的な使用目的以上に、外交や抑止のための象徴的な存在として機能していることを示唆している。この点は特に重要であり、米国が他国と協力して核軍縮や危機管理のメカニズムを構築する必要性を浮き彫りにしている。
5. ロシアの新核ドクトリンとの関連性
ブキャナン少将の発言は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が署名した新たな核ドクトリンの発表と密接に関連している。ロシアの新ドクトリンの主要な内容は以下の通りである:
・ロシアまたはベラルーシが通常兵器による攻撃を受け、その攻撃が主権や領土の一体性に「重大な脅威」をもたらす場合、核兵器の使用を検討する権利をロシアが有する。
・特に、西側諸国が供給する非核ミサイルをウクライナがロシア領内で使用した場合、ロシアは核兵器による対応を検討する可能性があると明記されている。
この新ドクトリンは、西側諸国、特に米国にとって、ウクライナへの軍事支援が核エスカレーションのリスクを高める可能性を示唆しており、軍事支援の見直しを促す議論が出ている。
6. 米国の核政策の全体像
今回の発言を通じて、米国の核政策の核心にある以下の点が明確になった:
・核兵器は最終的な抑止力として維持され、使用は極限の条件下でのみ検討される。
・核兵器の使用においては、米国の国益と国際的地位が最優先される。
・核戦争のリスクを低減するために外交的対話が不可欠であり、抑止力と外交のバランスを取る政策が求められる。
結論
ブキャナン少将の発言は、米国が核兵器を「政治的な武器」として位置づけ、抑止力と外交を重視する姿勢を明確に示している。同時に、ロシアの新たな核ドクトリンが米国や西側諸国の軍事政策に与える影響も浮き彫りになった。このような状況下で、核兵器の使用を巡るリスク管理と国際的な対話の重要性が一層増していると言える。
【要点】
米国の核政策に関するブキャナン少将の発言の要点
1.核兵器使用の条件
・核兵器の使用は、米国およびその利益にとって「受け入れ可能」な条件の下でのみ行う。
・「受け入れ可能な条件」とは、米国が「世界のリーダー」としての地位を維持することを前提とする。
2.核兵器使用後の抑止力維持
・核兵器使用後も一部の兵器を残し、抑止力を維持する必要がある。
・全資源を使い果たすことは、抑止力を失い、戦略的失敗につながる。
3.核戦争後の環境への懸念
・核戦争後の環境は避けるべき状況であり、その被害(環境破壊、国際秩序の崩壊など)を懸念。
・核兵器使用は極力回避し、外交的努力によるリスク低減が重要。
4.他国との対話の重要性
・ロシア、中国、北朝鮮との対話を通じて核紛争リスクを低減する必要性を訴える。
・核兵器を「政治的な武器」と位置づけ、外交的な駆け引きの一部として活用。
5.ロシアの新核ドクトリンとの関係
・ロシアの新核ドクトリンでは、ロシアまたはベラルーシが通常兵器による攻撃を受け、主権や領土の一体性に「重大な脅威」が生じた場合、核兵器使用を検討すると明記。
・西側諸国が供給する非核ミサイルをウクライナがロシア領内で使用した場合、ロシアが核報復を検討する可能性がある。
・このドクトリンにより、米国や西側諸国のウクライナ支援政策が再考を迫られる可能性。
6.米国の核政策の全体像
・核兵器は最終的な抑止力として維持される。
・使用は極限の条件下でのみ検討され、外交的努力とのバランスを重視する。
・核戦争を回避しつつ、抑止力と国際的地位を両立させる戦略を採用。
【引用・参照・底本】
US military prepared for nuclear strikes – spokesman RT 2024.11.21
https://www.rt.com/news/607969-us-nuclear-strike-exchange/
「世界のリーダーであり続ける」というフレーズは、単に核兵器を持つだけでなく、国際社会における「正義」としての立場を維持することを含意している。この文脈では、以下のような意図が考えられる。
「大義名分を作る」戦略の背景
・道徳的優位性の確保
米国が核兵器を使用する場合、それが国際社会から非難されることを避けるために「正当な理由」が必要である。そのため、相手に先に核を使用させる、またはその使用意図を明確にすることで、米国側が「防衛的措置」として核を用いる状況を演出する可能性がある。
・国際社会の支持を得る
核兵器使用がやむを得ないと見なされる状況を作り出せば、他国からの支持や同情を得やすくなる。これは、国際的な非難を回避し、逆に相手国を孤立させる効果が期待できる。
・抑止力の効果を最大化
相手に核を使用させる可能性を煽りつつ、実際には相手を抑止する戦略を維持することで、自国のリーダーシップを強化する。この「抑止力のゲーム」において、先に核を使うリスクを負わせることで、米国は最終的な主導権を握ろうとする。
「世界のリーダーであり続ける」の具体的な意味
・正義と秩序の擁護者としての演出
核使用の際には、米国が「国際法」や「人道的理由」を強調し、他国と連携して「秩序を回復する」ために動く姿勢を示すことが想定される。
・敵国の孤立化
相手国を「核兵器を乱用する脅威」と位置づけ、国際社会で非難を集中させる。これにより、米国は「責任あるリーダー」としての地位をさらに強固にする。
・冷戦時代の教訓の活用
冷戦期における米ソ間の核抑止理論を踏襲し、戦略的に相手の失敗を待つ形で「勝利」を収めることを目指す。この文脈での「勝利」とは、実際の核戦争ではなく、政治的・外交的に相手を封じ込めることを指す。
「世界のリーダーであり続ける」とは、核兵器を用いる正当性を確保し、国際社会における道徳的優位性を維持することを意味している。このため、相手に先に核を使用させるよう仕向けることが戦略の一環である可能性が高い。ただし、このような計画は非常に危険であり、予測不能な結果を招くリスクを伴う。したがって、ブキャナン少将の発言は、米国が核戦争を避けたいとする一方で、必要に応じて「勝つ準備」を進めているという二面性を明確に示している。
米国の「いやらしさ」の特徴
・道徳的優位性の強調
米国は常に「自由」や「民主主義」の名の下で軍事行動を正当化する傾向がある。このような価値観を盾に、「自分たちは正義の側にいる」と主張しながら、実際には自国の利益を最優先している。
・相手を悪役化する戦略
米国は相手国を挑発し、危険な行動を取らせることで、国際社会においてその国を孤立化させる手法を多用する。このような状況を作り出した後、自らの行動を「やむを得ない対応」として説明する。
・力の裏にある計算
米国の核政策や軍事戦略は「使用する力」だけではなく、「その使用を正当化するための状況づくり」に大きな重点を置いている。このような計算は、力そのものよりも、その使い方と国際的なイメージを重視していることを示している。
・結果としてのリーダーシップ維持
核抑止力を活用して、実際の戦争を避けつつも、相手を政治的に追い詰めるのが狙いである。相手を完全に壊滅させるのではなく、コントロール可能な範囲で弱体化させることに重点を置いている。
このアプローチの倫理的問題
・選択的道徳観
米国は「核兵器の使用を避けるべき」と主張しつつ、実際にはその使用を前提とした計画を立てている。このような矛盾は、他国に対しても信頼を損なう可能性がある。
・グローバルなリスクの無視
自国の利益やリーダーシップ維持のために、他国や地球規模のリスクを軽視している点が問題視される。核戦争のリスクは全人類に影響を与えるにもかかわらず、これを政治的道具として利用する態度は冷酷とも言える。
米国の核政策は、リーダーシップを維持するための高度な戦略に基づいているが、その中には明らかに計算高く、時に倫理的問題を伴う側面がある。「いやらしさ」という感覚は、このような自己中心的な姿勢から生じていると言える。ただし、これらは冷戦以来の「抑止力を優先する」という考え方に基づいており、他の核保有国にも共通する部分もある。
核戦争が実際に勃発すれば、どの国も「無傷」では済まないというのは重要な現実である。米国であれ、他の核保有国であれ、核戦争は全人類にとって壊滅的な結果をもたらす可能性が高い。
核戦争がもたらす危険性
・大規模な人的被害
核兵器が使用されると、即座に膨大な数の死傷者が出るだけでなく、その後の放射線被害、医療インフラの崩壊、社会的混乱などが続く。米国もその影響を避けることはできず、多くの都市やインフラが破壊される可能性が高い。
・世界規模の環境破壊
核戦争によって生じる「核冬期」や放射能の拡散は、地球規模での環境崩壊を引き起こし、農業や水供給、自然環境に甚大な影響を及ぼす。これにより、米国国内だけでなく、他の国々とともに食糧不足や社会不安が広がり、結果として世界の秩序が崩壊する可能性がある。
・経済的崩壊
米国をはじめとする核保有国が核戦争を展開すれば、世界経済は壊滅的な影響を受ける。貿易の停滞、資本の流出、物資の不足が加速し、経済活動が長期間にわたり停止する恐れがある。米国の経済力もこの影響を免れることは難しく、全ての国が経済的に打撃を受けるだろう。
・国際的な非難と孤立
米国が核兵器を使用した場合、その使用の正当性を訴え続けることは非常に困難になる。国際社会は当然、米国に対する非難の声を強め、政治的孤立を招く可能性が高い。特に、戦争の悲惨な結果が明らかになれば、米国の「正義」の主張はほとんど通用しなくなるだろう。
・国家のリーダーシップの失墜
米国が核戦争に突入すれば、その国際的リーダーシップは深刻な打撃を受ける。正当性や道義的立場が大きく揺らぎ、同盟国や友好国の信頼を失うことになる。この結果、米国が長年にわたり築いてきた影響力が崩れ、世界の秩序が変動する可能性がある。
核戦争が勃発すれば、どの国も「勝者」となることはない。米国も例外ではなく、最も強力な軍事力を持っていても、致命的なダメージを受ける可能性が高い。正当性や「世界のリーダー」としての地位を訴えたとしても、戦争の悲惨な結果により、それは意味をなさなくなるだろう。核戦争の最も危険な点は、すべての国と人々に広範囲で壊滅的な影響を与えることにある。
核兵器の使用を避けるための最も重要な前提は、相手国を核兵器を使用せざるを得ない状況に追い込まないことである。核抑止理論(nuclear deterrence)においても、この考え方が基盤となっており、核兵器を使用しないためには、相手に核を使わせないようにするための戦略が不可欠である。
核不使用の大前提としての「相手を追い込まない」
・核兵器使用の脅威を回避する
核兵器の使用は非常に深刻な結果を伴い、ほとんどの国家はそれを最終手段として利用したくないと考えている。そのため、相手国が自国を核兵器を使用しなければならないような状況に追い込まれないようにすることが、核戦争を防ぐための基本的な原則となる。
・外交と対話の重要性
核兵器の使用を避けるためには、対話と外交によって緊張を和らげ、相手に「核を使う理由」を与えないことが重要である。適切な交渉と意思疎通により、誤解や過剰反応を避けることが可能であり、これが核戦争を防ぐ鍵となる。
・核抑止理論の限界
核抑止の理論は、相手が核兵器を使わないようにするための圧力をかけることに重点を置いているが、それが破綻すると核兵器が実際に使われるリスクが高まる。抑止が効かない場合、外交的手段や威圧戦術を使ってでも核兵器使用を避けるための状況作りが求められる。
・「限界点」を越えさせない
相手が核を使うという決断に至るのは、限界的な状況、すなわち戦争が全面的に拡大し、他に選択肢がないと感じるときである。この「限界点」を越えさせないためには、十分な抑止力と同時に、戦争を長期化させないような戦略を取ることが必要である。
・誤解や誤算の回避
核兵器の使用は、しばしば誤解や誤算から起こる危険を伴う。したがって、相手が自国に対して核攻撃を行う動機を持たないようにすることが、核不使用の大前提となる。過剰な軍事行動や挑発的な言動は、相手に核使用の選択肢を現実的に考えさせることにつながる。
核兵器はその性質上、非常に破壊的であり、使用することが極めて危険であるため、相手に核兵器を使用させる状況を作らないことが、核不使用を維持するための基本である。このため、国際社会は外交的手段、信頼醸成措置、軍事的抑止力を活用し、相手が核を使用するという選択肢を現実的なものにしないよう努めている。核戦争を防ぐためには、相手に「核を使う理由」を与えないことが最も重要な戦略となる。
【寸評 完】
【概要】
米国戦略軍(STRATCOM)の広報担当官であるトーマス・ブキャナン海軍少将は、米国が必要に応じて核兵器を使用する準備があるが、その使用は米国およびその利益にとって「受け入れ可能」な条件の下で行われるべきであると述べた。彼は、核兵器の使用に関して米国が「世界のリーダーとしての地位を維持し続ける」という条件を前提としていると強調した。
ブキャナン少将は、ワシントンD.C.の戦略国際問題研究所(CSIS)で開催された「プロジェクト・アトム2024」のイベントにおいて、核兵器を巡る潜在的な状況に言及し、「交換(核攻撃を含む状況)を行う場合、米国にとって最も受け入れ可能な条件で行いたい。それはつまり、米国が世界のリーダーとして認識される立場を維持することである」と述べた。
また、核兵器の潜在的な使用に際して、米国は抑止力を維持するために兵器の一部を残す必要があると指摘した。「勝利を得るために全ての資源を使い果たすわけにはいかない。なぜなら、その時点で抑止力を失うことになるからだ」と述べた。
同時に、ブキャナン少将は「核攻撃が行われた後の環境に身を置きたくはない」とし、そのようなシナリオを避ける努力を続けるべきだと強調した。彼は、ロシア、中国、北朝鮮との対話を継続し、核紛争のリスクを低減する必要性を訴え、「核兵器は政治的な武器である」と指摘した。
これらの発言は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が新たな国家核ドクトリンに署名した直後に行われた。このドクトリンでは、ロシアまたはベラルーシが通常兵器による攻撃を受け、その攻撃が主権や領土の一体性に「重大な脅威」をもたらす場合に、核兵器の使用を検討する権利をロシアが有すると明記されている。
政治専門家たちは、この新たなドクトリンが、米国や他の西側諸国によるウクライナへの軍事支援の再考を促す可能性があると指摘している。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、新ドクトリンについて、西側諸国が供給する非核ミサイルをウクライナがロシア領内で使用した場合、ロシアが核兵器による対応を検討する権利を事実上認めるものであると説明した。
【詳細】
米国戦略軍(STRATCOM)のトーマス・ブキャナン海軍少将が発表した内容は、米国の核政策および戦略的抑止力の維持に関する重要な側面を明確に示している。以下にその発言内容をさらに詳しく説明する。
1. 核兵器使用の「受け入れ可能な条件」
ブキャナン少将によれば、米国は核兵器を使用する場合、その行動が米国の利益と一致し、国際的な文脈において「受け入れ可能」な条件でなければならない。この「受け入れ可能な条件」とは、米国が「世界のリーダー」として認識され続けることを指しており、単なる軍事的勝利ではなく、政治的・国際的な影響力の維持を重視している。
この発言は、核兵器の使用が単純な軍事行為ではなく、国際的な地位や政治的影響力を考慮した包括的な戦略の一部であることを示唆している。
2. 抑止力の維持と「予備能力」の確保
ブキャナン少将は、核兵器の使用において全ての兵器を消耗することは避けなければならないと強調した。その理由として、核兵器は「抑止力」としての役割が非常に重要であり、使用後にも残存兵力を確保しておく必要があると述べている。具体的には、以下のような考えが示された:
・全面的な勝利を目指して全ての資源を使い果たすことは、戦略的な失敗につながる。
・使用後に残存する核兵器は、引き続き他国に対する抑止力として機能する。
これにより、核兵器の使用が「最終手段」であるだけでなく、使用後の状況も考慮した長期的な戦略の一環であることが理解できる。
3. 核戦争後の環境への懸念
ブキャナン少将は、「核攻撃が行われた後の環境」に米国が身を置くことを望まないと明言した。この発言は、核戦争がもたらす破滅的な影響を認識していることを示している。核攻撃後の状況は、単に人道的な被害だけでなく、以下のような広範な問題を引き起こす可能性がある:
・環境の汚染と破壊(放射性物質の拡散など)。
・世界経済の崩壊。
・米国自身を含む国際的な秩序の不安定化。
そのため、米国は核戦争そのものを回避するための外交的努力を続けるべきであると述べた。
4. 他国との対話の重要性
少将は、ロシア、中国、北朝鮮との対話を通じて核紛争のリスクを低減する必要性を訴えた。「核兵器は政治的な武器である」との指摘は、核兵器が軍事的な使用目的以上に、外交や抑止のための象徴的な存在として機能していることを示唆している。この点は特に重要であり、米国が他国と協力して核軍縮や危機管理のメカニズムを構築する必要性を浮き彫りにしている。
5. ロシアの新核ドクトリンとの関連性
ブキャナン少将の発言は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が署名した新たな核ドクトリンの発表と密接に関連している。ロシアの新ドクトリンの主要な内容は以下の通りである:
・ロシアまたはベラルーシが通常兵器による攻撃を受け、その攻撃が主権や領土の一体性に「重大な脅威」をもたらす場合、核兵器の使用を検討する権利をロシアが有する。
・特に、西側諸国が供給する非核ミサイルをウクライナがロシア領内で使用した場合、ロシアは核兵器による対応を検討する可能性があると明記されている。
この新ドクトリンは、西側諸国、特に米国にとって、ウクライナへの軍事支援が核エスカレーションのリスクを高める可能性を示唆しており、軍事支援の見直しを促す議論が出ている。
6. 米国の核政策の全体像
今回の発言を通じて、米国の核政策の核心にある以下の点が明確になった:
・核兵器は最終的な抑止力として維持され、使用は極限の条件下でのみ検討される。
・核兵器の使用においては、米国の国益と国際的地位が最優先される。
・核戦争のリスクを低減するために外交的対話が不可欠であり、抑止力と外交のバランスを取る政策が求められる。
結論
ブキャナン少将の発言は、米国が核兵器を「政治的な武器」として位置づけ、抑止力と外交を重視する姿勢を明確に示している。同時に、ロシアの新たな核ドクトリンが米国や西側諸国の軍事政策に与える影響も浮き彫りになった。このような状況下で、核兵器の使用を巡るリスク管理と国際的な対話の重要性が一層増していると言える。
【要点】
米国の核政策に関するブキャナン少将の発言の要点
1.核兵器使用の条件
・核兵器の使用は、米国およびその利益にとって「受け入れ可能」な条件の下でのみ行う。
・「受け入れ可能な条件」とは、米国が「世界のリーダー」としての地位を維持することを前提とする。
2.核兵器使用後の抑止力維持
・核兵器使用後も一部の兵器を残し、抑止力を維持する必要がある。
・全資源を使い果たすことは、抑止力を失い、戦略的失敗につながる。
3.核戦争後の環境への懸念
・核戦争後の環境は避けるべき状況であり、その被害(環境破壊、国際秩序の崩壊など)を懸念。
・核兵器使用は極力回避し、外交的努力によるリスク低減が重要。
4.他国との対話の重要性
・ロシア、中国、北朝鮮との対話を通じて核紛争リスクを低減する必要性を訴える。
・核兵器を「政治的な武器」と位置づけ、外交的な駆け引きの一部として活用。
5.ロシアの新核ドクトリンとの関係
・ロシアの新核ドクトリンでは、ロシアまたはベラルーシが通常兵器による攻撃を受け、主権や領土の一体性に「重大な脅威」が生じた場合、核兵器使用を検討すると明記。
・西側諸国が供給する非核ミサイルをウクライナがロシア領内で使用した場合、ロシアが核報復を検討する可能性がある。
・このドクトリンにより、米国や西側諸国のウクライナ支援政策が再考を迫られる可能性。
6.米国の核政策の全体像
・核兵器は最終的な抑止力として維持される。
・使用は極限の条件下でのみ検討され、外交的努力とのバランスを重視する。
・核戦争を回避しつつ、抑止力と国際的地位を両立させる戦略を採用。
【引用・参照・底本】
US military prepared for nuclear strikes – spokesman RT 2024.11.21
https://www.rt.com/news/607969-us-nuclear-strike-exchange/