露・宇への米国の交渉戦略 ― 2025年02月28日 14:21
【概要】
ウクライナが今後のロシアとの交渉で有利な立場を確保するために、米国がどのような戦略を取るべきかを論じている。著者のトーマス・ライトは、ウクライナの交渉力は米国の支援によって大きく左右されるとし、適切な戦略があればロシアにとって厳しい選択を迫ることができると主張している。
主要なポイント
1.ウクライナの交渉力と米国の役割
・ウクライナは、米国の支援があればロシアに対し強い交渉力を持つ。
・しかし、トランプ政権下での米国の姿勢は不透明であり、ウクライナの不安を高めている。
2.ロシアへの圧力
・バイデン政権はウクライナの防衛力強化を支援し、ロシアにとって長期戦を困難にする「3つの戦略」を推進してきた。
(1)非対称消耗戦略:ロシア軍の人的損害を増やし、徴兵を強いる状況を作る。
(2)ウクライナの長距離攻撃能力の向上:ドローンやATACMS(長距離弾道ミサイル)の供与。
(3)強化:ロシアの銀行やエネルギー産業への制裁を強め、財政的圧力をかける。
3.ウクライナ支援の重要性
・米国の国益の観点からも、ロシアの勝利は容認できない。
(1)ロシア・中国・イラン・北朝鮮の結束強化を招き、米国の安全保障を脅かす。
(2)ウクライナの軍事力や技術は米国の防衛産業にとって有益。
(3)ポーランドやバルト諸国の安全保障にも関わる問題であり、NATO全体の安定に直結する。
・欧州の安全が米国経済にも影響し、不安定化は避けるべき。
4.交渉における「レッドライン」
・ロシアはウクライナの中立化・非武装化を要求し、ドネツク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャの完全支配を主張。
・一方、ウクライナはNATO加盟を含む強固な安全保障を求めている。
・ウクライナ側は、ロシアの占領地域の法的承認をしない形での停戦や、長期的な西側との統合を模索する可能性もある。
まとめ
ライトは、米国が明確な戦略を持ち、ウクライナの優位性を生かせば、ロシアに厳しい選択を迫ることができると主張する。逆に米国が支援を怠れば、ロシアに巻き返しの機会を与え、欧州の安全保障と米国の国益に大きな損害をもたらすと警告している。
トランプ政権の対ロシア・対ウクライナ政策が今後の交渉に及ぼす影響を考える上で重要な視点を提供している。
【詳細】
トーマス・ライト氏の論考「The Right U.S. Strategy for Russia-Ukraine Negotiations」は、ウクライナとロシアの交渉における米国の戦略的役割を詳細に分析している。ライト氏は、米国が明確な戦略を持ち、ウクライナへの支援を継続することで、ロシアに対して効果的な圧力をかけ、戦争を有利に終結させることが可能であると主張している。
ロシアへの圧力強化
バイデン政権下では、ウクライナがロシアとの交渉で有利な立場を得るために、以下の3つの主要な戦略が採用されました:
1.非対称的消耗戦略:ウクライナへの軍事支援を強化し、ロシア軍に大きな人的損失を与えることで、ロシアの戦争継続能力を低下させる。具体的には、2025年2月時点でロシアの戦死者数は70万人を超え、1日あたり1,500人の損失が報告されている。さらに、北朝鮮からの兵士派遣も高い損失率のため減少している。
2.ウクライナの長距離攻撃能力の向上:ウクライナのドローンプログラムを支援し、ATACMSなどの長距離ミサイルを供与することで、ロシアの重要拠点への攻撃能力を高めている。
3.経済制裁の強化:ロシアの銀行やエネルギー部門に対する制裁を強化し、ロシア経済に圧力をかけている。その結果、2024年末時点でロシアのインフレ率は9.5%を超え、金利は21%以上に達している。
米国の国益とウクライナ支援の重要性
ライト氏は、ウクライナ支援が米国の国益に直結すると指摘している。
・敵対国間の連携強化の阻止:ロシアがウクライナで勝利すれば、中国、北朝鮮、イランとの協力関係がさらに深まり、米国の安全保障に脅威をもたらす可能性がある。
・ウクライナの軍事的価値:ウクライナ軍は、ドローン戦術やAIの活用など先進的な軍事技術を持ち、米国や他の同盟国にとって有益なパートナーとなり得る。
・欧州の安全保障:ロシアの勝利は、リトアニアやポーランドなどの親米的な欧州諸国への脅威を高め、NATO全体の安定性を損なう可能性がある。
・経済的影響:欧州の不安定化は、米国の最大の輸出市場である欧州経済に悪影響を及ぼし、ひいては米国経済にも波及す。
交渉における戦略的選択肢
交渉に向けて、米国とその同盟国は以下の3つの主要な選択肢を検討している。
1.NATO加盟(ノルウェーモデル):ウクライナがNATOに加盟し、同盟の防衛義務(第5条)の適用を受ける。ただし、ウクライナ領内に外国軍基地を置かないなどの制限を設ける。
2.イスラエルモデル:米国がウクライナに対し、直接的な軍事介入なしで自国防衛を可能とする十分な軍事・情報支援を提供する。
3.欧州による安全保障保証:欧州諸国がウクライナに安全保障保証を提供し、必要に応じて部隊を派遣する。ただし、米国の保証がない場合、ロシアが欧州と米国の間に楔を打ち込む可能性があるとの懸念もある。
まとめ
ライト氏は、米国がウクライナへの支援を継続し、明確な戦略を持つことで、ロシアに対して効果的な圧力をかけ、交渉を有利に進めることができると述べている。特に、イスラエルモデルは現実的な選択肢として、ウクライナの独立と防衛能力を確保する手段となり得る。一方で、米国が支援を怠れば、ロシアに巻き返しの機会を与え、米国の国益やグローバルな安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
【要点】
・ウクライナ支援の継続: 米国はウクライナへの軍事・経済支援を維持し、ロシアに対する圧力を強めるべきである。
・交渉の主導権確保: 米国が戦略的に関与することで、ロシアが有利な条件で戦争を終結させるのを防ぐ。
・ロシアの戦略を見極める: ロシアは時間稼ぎを狙っている可能性があり、その意図を見極める必要がある。
・西側の結束強化: NATOやEU諸国と連携し、ウクライナへの支援を一貫して続ける。
・経済制裁の強化: ロシアの戦争遂行能力を低下させるため、制裁を維持・強化する。
・交渉の条件設定: ウクライナの主権と領土保全を尊重し、ロシアに譲歩しない姿勢を貫く。
・長期的な視点: 交渉を急がず、ロシアが戦争のコストをより重く感じる状況を作る。
【引用・参照・底本】
The Right U.S. Strategy for Russia-Ukraine Negotiations FOREIGN AFFAIRS 2025.02.24
https://www.foreignaffairs.com/russia/ukraine-war-strategy-negotiations-thomas-wright?utm_medium=newsletters&utm_source=twofa&utm_campaign=The%20World%20Trump%20Wants&utm_content=20250228&utm_term=EWZZZ003ZX
ウクライナが今後のロシアとの交渉で有利な立場を確保するために、米国がどのような戦略を取るべきかを論じている。著者のトーマス・ライトは、ウクライナの交渉力は米国の支援によって大きく左右されるとし、適切な戦略があればロシアにとって厳しい選択を迫ることができると主張している。
主要なポイント
1.ウクライナの交渉力と米国の役割
・ウクライナは、米国の支援があればロシアに対し強い交渉力を持つ。
・しかし、トランプ政権下での米国の姿勢は不透明であり、ウクライナの不安を高めている。
2.ロシアへの圧力
・バイデン政権はウクライナの防衛力強化を支援し、ロシアにとって長期戦を困難にする「3つの戦略」を推進してきた。
(1)非対称消耗戦略:ロシア軍の人的損害を増やし、徴兵を強いる状況を作る。
(2)ウクライナの長距離攻撃能力の向上:ドローンやATACMS(長距離弾道ミサイル)の供与。
(3)強化:ロシアの銀行やエネルギー産業への制裁を強め、財政的圧力をかける。
3.ウクライナ支援の重要性
・米国の国益の観点からも、ロシアの勝利は容認できない。
(1)ロシア・中国・イラン・北朝鮮の結束強化を招き、米国の安全保障を脅かす。
(2)ウクライナの軍事力や技術は米国の防衛産業にとって有益。
(3)ポーランドやバルト諸国の安全保障にも関わる問題であり、NATO全体の安定に直結する。
・欧州の安全が米国経済にも影響し、不安定化は避けるべき。
4.交渉における「レッドライン」
・ロシアはウクライナの中立化・非武装化を要求し、ドネツク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャの完全支配を主張。
・一方、ウクライナはNATO加盟を含む強固な安全保障を求めている。
・ウクライナ側は、ロシアの占領地域の法的承認をしない形での停戦や、長期的な西側との統合を模索する可能性もある。
まとめ
ライトは、米国が明確な戦略を持ち、ウクライナの優位性を生かせば、ロシアに厳しい選択を迫ることができると主張する。逆に米国が支援を怠れば、ロシアに巻き返しの機会を与え、欧州の安全保障と米国の国益に大きな損害をもたらすと警告している。
トランプ政権の対ロシア・対ウクライナ政策が今後の交渉に及ぼす影響を考える上で重要な視点を提供している。
【詳細】
トーマス・ライト氏の論考「The Right U.S. Strategy for Russia-Ukraine Negotiations」は、ウクライナとロシアの交渉における米国の戦略的役割を詳細に分析している。ライト氏は、米国が明確な戦略を持ち、ウクライナへの支援を継続することで、ロシアに対して効果的な圧力をかけ、戦争を有利に終結させることが可能であると主張している。
ロシアへの圧力強化
バイデン政権下では、ウクライナがロシアとの交渉で有利な立場を得るために、以下の3つの主要な戦略が採用されました:
1.非対称的消耗戦略:ウクライナへの軍事支援を強化し、ロシア軍に大きな人的損失を与えることで、ロシアの戦争継続能力を低下させる。具体的には、2025年2月時点でロシアの戦死者数は70万人を超え、1日あたり1,500人の損失が報告されている。さらに、北朝鮮からの兵士派遣も高い損失率のため減少している。
2.ウクライナの長距離攻撃能力の向上:ウクライナのドローンプログラムを支援し、ATACMSなどの長距離ミサイルを供与することで、ロシアの重要拠点への攻撃能力を高めている。
3.経済制裁の強化:ロシアの銀行やエネルギー部門に対する制裁を強化し、ロシア経済に圧力をかけている。その結果、2024年末時点でロシアのインフレ率は9.5%を超え、金利は21%以上に達している。
米国の国益とウクライナ支援の重要性
ライト氏は、ウクライナ支援が米国の国益に直結すると指摘している。
・敵対国間の連携強化の阻止:ロシアがウクライナで勝利すれば、中国、北朝鮮、イランとの協力関係がさらに深まり、米国の安全保障に脅威をもたらす可能性がある。
・ウクライナの軍事的価値:ウクライナ軍は、ドローン戦術やAIの活用など先進的な軍事技術を持ち、米国や他の同盟国にとって有益なパートナーとなり得る。
・欧州の安全保障:ロシアの勝利は、リトアニアやポーランドなどの親米的な欧州諸国への脅威を高め、NATO全体の安定性を損なう可能性がある。
・経済的影響:欧州の不安定化は、米国の最大の輸出市場である欧州経済に悪影響を及ぼし、ひいては米国経済にも波及す。
交渉における戦略的選択肢
交渉に向けて、米国とその同盟国は以下の3つの主要な選択肢を検討している。
1.NATO加盟(ノルウェーモデル):ウクライナがNATOに加盟し、同盟の防衛義務(第5条)の適用を受ける。ただし、ウクライナ領内に外国軍基地を置かないなどの制限を設ける。
2.イスラエルモデル:米国がウクライナに対し、直接的な軍事介入なしで自国防衛を可能とする十分な軍事・情報支援を提供する。
3.欧州による安全保障保証:欧州諸国がウクライナに安全保障保証を提供し、必要に応じて部隊を派遣する。ただし、米国の保証がない場合、ロシアが欧州と米国の間に楔を打ち込む可能性があるとの懸念もある。
まとめ
ライト氏は、米国がウクライナへの支援を継続し、明確な戦略を持つことで、ロシアに対して効果的な圧力をかけ、交渉を有利に進めることができると述べている。特に、イスラエルモデルは現実的な選択肢として、ウクライナの独立と防衛能力を確保する手段となり得る。一方で、米国が支援を怠れば、ロシアに巻き返しの機会を与え、米国の国益やグローバルな安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
【要点】
・ウクライナ支援の継続: 米国はウクライナへの軍事・経済支援を維持し、ロシアに対する圧力を強めるべきである。
・交渉の主導権確保: 米国が戦略的に関与することで、ロシアが有利な条件で戦争を終結させるのを防ぐ。
・ロシアの戦略を見極める: ロシアは時間稼ぎを狙っている可能性があり、その意図を見極める必要がある。
・西側の結束強化: NATOやEU諸国と連携し、ウクライナへの支援を一貫して続ける。
・経済制裁の強化: ロシアの戦争遂行能力を低下させるため、制裁を維持・強化する。
・交渉の条件設定: ウクライナの主権と領土保全を尊重し、ロシアに譲歩しない姿勢を貫く。
・長期的な視点: 交渉を急がず、ロシアが戦争のコストをより重く感じる状況を作る。
【引用・参照・底本】
The Right U.S. Strategy for Russia-Ukraine Negotiations FOREIGN AFFAIRS 2025.02.24
https://www.foreignaffairs.com/russia/ukraine-war-strategy-negotiations-thomas-wright?utm_medium=newsletters&utm_source=twofa&utm_campaign=The%20World%20Trump%20Wants&utm_content=20250228&utm_term=EWZZZ003ZX
ポーランドとウクライナの関係に新たな問題 ― 2025年02月28日 16:52
【概要】
ポーランドとウクライナの関係において、新たな問題が発生している。今回の争点は、穀物輸出やボルィーニャ虐殺(ヴォルィーニ虐殺)の歴史認識、あるいはウクライナへの平和維持部隊派遣の是非ではなく、過去にポーランドが資金提供していたウクライナのブロガーに関するものである。
クライナのジョージア系ブロガー、ヴァフティアング・キピアーニは、ポーランドの大統領候補であるスワヴォミル・メンツェンに対し、フェイスブック上で殺害を示唆する発言を行った。これは、メンツェンがリヴィウを訪問した際、ステパーン・バンデーラの像の前で彼を「テロリスト」と非難したことに起因している。キピアーニは、1934年にバンデーラの指示を受けた「ウクライナ民族主義者組織(OUN)」が暗殺したポーランドの閣僚と同じ運命をメンツェンがたどると示唆した。
これを受け、メンツェンはキピアーニの発言を非難し、彼がステパーン・バンデーラ勲章や、グダニスクの欧州連帯センターから感謝メダルを受章していることを指摘した。また、ポーランドのラデク・シコルスキ外相に対し、この脅迫に対する対応と、ウクライナにおけるバンデーラ崇拝の問題について見解を示すよう求めた。
ポーランドの情報サイト「Kresy.pl」は、2014年の時点でキピアーニが2011年から2013年にかけてポーランド外務省から資金提供を受けていたことを明らかにしていた。この支援は歴史研究のためとされていたが、キピアーニはボルィーニャ虐殺に関する歴史観においてポーランド政府の立場と相反する見解を持ち、虐殺の正当化とも取れる主張を行っていた。この事実が改めて注目され、ポーランド政府がウクライナのブロガーを支援することの是非が問われている。
この問題は、ポーランドの対ウクライナ政策が自国の国益に反する結果を招いている可能性を浮き彫りにしている。国家の資金を投入してきた人物が、大統領候補に対する殺害の示唆を行う事態に発展したことで、ポーランドの対外情報・影響力行使政策が再考を迫られる可能性がある。また、こうした事例が他にも存在するのではないかという疑念も生じている。
今回の問題は、ポーランドの大統領選挙戦にも影響を与える可能性がある。ウクライナに対する姿勢が選挙の争点となりつつある中、リベラル派・国際主義的な与党連合は、候補者であるラファウ・トシャスコフスキ(ツァスコフスキ)を勝たせるために、ウクライナに対してより厳しい態度を取るよう求められる可能性がある。もし彼らがこの問題を黙殺すれば、右派・保守派の対立候補であるカロル・ナヴロツキを支持する有権者が増える可能性がある。
さらに、メンツェンが決選投票でナヴロツキ支持に回るかどうかが焦点となる。これによって、次期ポーランド大統領がウクライナに対する平和維持部隊派遣を推進するのか、それとも反対の立場を貫くのかが決まる可能性がある。
リベラル派・国際主義派の与党連合は、今回の問題に対して二つの選択肢を迫られている。一つは、キピアーニを非難し、ポーランドがウクライナで展開してきた「USAID型」の影響力行使ネットワークの見直しを表明すること。これにより国内世論の支持を得ることができるが、ウクライナ政府との関係がさらに悪化する可能性がある。もう一つは、現状を維持することだが、これは国内の反発を招き、5月の大統領選挙での与党連合の支持率低下につながる恐れがある。
この問題は、単なる個別の事件ではなく、ポーランドとウクライナの関係全体に影響を及ぼす可能性がある。両国の間では、これまでに穀物輸出問題、ボルィーニャ虐殺の歴史認識、平和維持部隊の派遣の是非といった問題が存在していたが、今回の件がさらなる不信感を生む可能性がある。このため、EU、ロシア、アメリカといった国際的なプレーヤーもこの問題の行方を注視していると考えられる。
【詳細】
ポーランドが過去に資金提供していたウクライナ人ブロガーが、ポーランドの大統領候補に対して暗殺を示唆する発言をしたことが大きな政治問題となっている。この問題の中心にいるのは、ジョージア系ウクライナ人のヴァフティアン・キピアーニ(Vakhtiang Kipiani)であり、彼は第二次世界大戦中にポーランド人を虐殺したウクライナ民族主義者を称賛する過去を持つ。
キピアーニは、ポーランドのポピュリスト・ナショナリスト系の大統領候補スワヴォミル・メンツェン(Slawomir Mentzen)が、ウクライナのリヴィウ(旧称:ルヴフ)にあるステパン・バンデラの像の前で、バンデラを「テロリスト」と非難したことに反発し、Facebook上でメンツェンを暗殺された戦間期のポーランドの閣僚になぞらえて「同じ運命をたどる」と示唆する投稿を行った。バンデラはウクライナ民族主義者組織(OUN)の指導者であり、ポーランドやユダヤ人に対する残虐行為で悪名高い。
メンツェンは、この脅迫に対して、キピアーニがステパン・バンデラ勲章を受章し、さらにポーランド・グダニスクの欧州連帯センターから「感謝のメダル」を授与されていたことを指摘した。また、ポーランドのラデク・シコルスキー(Radek Sikorski)外相に対し、この脅迫およびウクライナのバンデラ崇拝への対応を求めた。
さらに、ポーランドの情報サイト「Kresy.pl」は、キピアーニが2011年から2013年にかけて、ポーランド外務省から歴史研究の名目で資金提供を受けていたことを報じた。彼は特にヴォルィーニ大虐殺(Volhynia Genocide)を研究対象としていたが、その虐殺を正当化するような主張を展開していた。今回の問題が明るみに出たことで、ポーランド政府が過去にウクライナの歴史家やブロガーに資金提供を行い、その一部がポーランドの歴史認識と相反する立場を取っていた可能性が浮上している。
この問題は、ポーランド政府がウクライナに対して行ってきた「ソフトパワー外交」が、かえって国益を損ねる結果になったことを示している。特に、国家資金を受け取った人物がポーランドの大統領候補を公然と脅迫したことで、ポーランド国内での対ウクライナ感情がさらに悪化する可能性が高い。
このスキャンダルは、ポーランドの大統領選挙が迫る中で発生したため、政局にも大きな影響を及ぼす可能性がある。現在、与党のリベラル派「グローバリスト」勢力は、ラファウ・トゥシャスコフスキ(Rafal Trzaskowski)候補を推しており、対する保守派野党はカロル・ナヴロツキ(Karol Nawrocki)候補を擁立している。メンツェンは独自に立候補しているが、第二回投票になればナヴロツキを支持する可能性が高いと見られている。
ポーランド政府は、キピアーニを非難しつつ、ポーランドの「USAID型ネットワーク」(対外的な資金提供プログラム)を調査し、ウクライナへの支援を見直すか、あるいは現状を維持してウクライナとの関係を安定させるかの選択を迫られている。前者を選べば国民の支持を得ることができるが、ウクライナとの関係悪化は避けられない。後者を選べば、ウクライナとの関係は維持できるものの、国内世論のさらなる反発を招く可能性がある。
この問題は、ポーランドとウクライナの関係における「自己増殖的な悪循環」を引き起こす可能性がある。すでに両国は、ウクライナ産穀物の輸入問題やヴォルィーニ大虐殺の歴史認識問題、さらにはウクライナへの平和維持軍派遣の是非など、多くの対立を抱えている。今回のスキャンダルは、それらの対立をさらに深刻化させる可能性がある。
この問題の展開次第では、ポーランドの大統領選挙の行方が変わり、ひいてはウクライナ紛争におけるポーランドの立場や、欧州全体の秩序にも影響を及ぼす可能性がある。そのため、欧州連合(EU)、ロシア、アメリカをはじめとする国際的なプレイヤーも、この問題を注視していると考えられる。
【要点】
1.事件の概要
・ウクライナ人ブロガーのヴァフティアン・キピアーニが、ポーランドの大統領候補スワヴォミル・メンツェンに対し、暗殺を示唆する投稿をFacebookに掲載。
・メンツェンがウクライナのリヴィウにあるステパン・バンデラの像の前で、バンデラを「テロリスト」と非難したことが発端。
2.キピアーニの背景
・ジョージア系ウクライナ人の歴史家・ブロガー。
・ウクライナ民族主義者組織(OUN)指導者ステパン・バンデラを称賛する傾向あり。
・過去にポーランド外務省から資金提供を受けていた。
3.メンツェンの反応
・キピアーニの脅迫を公表し、バンデラ勲章受章歴を批判。
・ポーランドのシコルスキー外相に対応を要求。
4.ポーランド政府の関与
・キピアーニは2011~2013年にポーランド外務省から歴史研究の名目で資金提供を受けていた。
・彼の研究はヴォルィーニ大虐殺を扱うが、虐殺を正当化するような立場をとっていた。
5.政治的影響
・ポーランド国内でウクライナ支援に対する反発が強まる可能性。
・大統領選挙を控え、ポーランド政府はウクライナ支援の見直しを迫られる。
・メンツェンは独自候補だが、保守派候補ナヴロツキを支持する可能性あり。
6.ポーランドとウクライナの関係への影響
・穀物輸入問題やヴォルィーニ大虐殺問題に続く新たな対立の火種。
・ポーランドの「USAID型ネットワーク」による資金提供の是非が問われる。
・国際的にもEU、ロシア、アメリカが動向を注視。
7.今後の展開
・ポーランド政府はウクライナ支援の方針を再評価する可能性。
・メンツェンへの脅迫事件がポーランドの大統領選に影響を与える可能性。
・ポーランドとウクライナの関係がさらに悪化する恐れあり。
【引用・参照・底本】
Poland’s Earlier Funding Of A Ukrainian Blogger Just Backfired In The Worst Way Possible Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.28
https://korybko.substack.com/p/polands-earlier-funding-of-a-ukrainian?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=158083330&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ポーランドとウクライナの関係において、新たな問題が発生している。今回の争点は、穀物輸出やボルィーニャ虐殺(ヴォルィーニ虐殺)の歴史認識、あるいはウクライナへの平和維持部隊派遣の是非ではなく、過去にポーランドが資金提供していたウクライナのブロガーに関するものである。
クライナのジョージア系ブロガー、ヴァフティアング・キピアーニは、ポーランドの大統領候補であるスワヴォミル・メンツェンに対し、フェイスブック上で殺害を示唆する発言を行った。これは、メンツェンがリヴィウを訪問した際、ステパーン・バンデーラの像の前で彼を「テロリスト」と非難したことに起因している。キピアーニは、1934年にバンデーラの指示を受けた「ウクライナ民族主義者組織(OUN)」が暗殺したポーランドの閣僚と同じ運命をメンツェンがたどると示唆した。
これを受け、メンツェンはキピアーニの発言を非難し、彼がステパーン・バンデーラ勲章や、グダニスクの欧州連帯センターから感謝メダルを受章していることを指摘した。また、ポーランドのラデク・シコルスキ外相に対し、この脅迫に対する対応と、ウクライナにおけるバンデーラ崇拝の問題について見解を示すよう求めた。
ポーランドの情報サイト「Kresy.pl」は、2014年の時点でキピアーニが2011年から2013年にかけてポーランド外務省から資金提供を受けていたことを明らかにしていた。この支援は歴史研究のためとされていたが、キピアーニはボルィーニャ虐殺に関する歴史観においてポーランド政府の立場と相反する見解を持ち、虐殺の正当化とも取れる主張を行っていた。この事実が改めて注目され、ポーランド政府がウクライナのブロガーを支援することの是非が問われている。
この問題は、ポーランドの対ウクライナ政策が自国の国益に反する結果を招いている可能性を浮き彫りにしている。国家の資金を投入してきた人物が、大統領候補に対する殺害の示唆を行う事態に発展したことで、ポーランドの対外情報・影響力行使政策が再考を迫られる可能性がある。また、こうした事例が他にも存在するのではないかという疑念も生じている。
今回の問題は、ポーランドの大統領選挙戦にも影響を与える可能性がある。ウクライナに対する姿勢が選挙の争点となりつつある中、リベラル派・国際主義的な与党連合は、候補者であるラファウ・トシャスコフスキ(ツァスコフスキ)を勝たせるために、ウクライナに対してより厳しい態度を取るよう求められる可能性がある。もし彼らがこの問題を黙殺すれば、右派・保守派の対立候補であるカロル・ナヴロツキを支持する有権者が増える可能性がある。
さらに、メンツェンが決選投票でナヴロツキ支持に回るかどうかが焦点となる。これによって、次期ポーランド大統領がウクライナに対する平和維持部隊派遣を推進するのか、それとも反対の立場を貫くのかが決まる可能性がある。
リベラル派・国際主義派の与党連合は、今回の問題に対して二つの選択肢を迫られている。一つは、キピアーニを非難し、ポーランドがウクライナで展開してきた「USAID型」の影響力行使ネットワークの見直しを表明すること。これにより国内世論の支持を得ることができるが、ウクライナ政府との関係がさらに悪化する可能性がある。もう一つは、現状を維持することだが、これは国内の反発を招き、5月の大統領選挙での与党連合の支持率低下につながる恐れがある。
この問題は、単なる個別の事件ではなく、ポーランドとウクライナの関係全体に影響を及ぼす可能性がある。両国の間では、これまでに穀物輸出問題、ボルィーニャ虐殺の歴史認識、平和維持部隊の派遣の是非といった問題が存在していたが、今回の件がさらなる不信感を生む可能性がある。このため、EU、ロシア、アメリカといった国際的なプレーヤーもこの問題の行方を注視していると考えられる。
【詳細】
ポーランドが過去に資金提供していたウクライナ人ブロガーが、ポーランドの大統領候補に対して暗殺を示唆する発言をしたことが大きな政治問題となっている。この問題の中心にいるのは、ジョージア系ウクライナ人のヴァフティアン・キピアーニ(Vakhtiang Kipiani)であり、彼は第二次世界大戦中にポーランド人を虐殺したウクライナ民族主義者を称賛する過去を持つ。
キピアーニは、ポーランドのポピュリスト・ナショナリスト系の大統領候補スワヴォミル・メンツェン(Slawomir Mentzen)が、ウクライナのリヴィウ(旧称:ルヴフ)にあるステパン・バンデラの像の前で、バンデラを「テロリスト」と非難したことに反発し、Facebook上でメンツェンを暗殺された戦間期のポーランドの閣僚になぞらえて「同じ運命をたどる」と示唆する投稿を行った。バンデラはウクライナ民族主義者組織(OUN)の指導者であり、ポーランドやユダヤ人に対する残虐行為で悪名高い。
メンツェンは、この脅迫に対して、キピアーニがステパン・バンデラ勲章を受章し、さらにポーランド・グダニスクの欧州連帯センターから「感謝のメダル」を授与されていたことを指摘した。また、ポーランドのラデク・シコルスキー(Radek Sikorski)外相に対し、この脅迫およびウクライナのバンデラ崇拝への対応を求めた。
さらに、ポーランドの情報サイト「Kresy.pl」は、キピアーニが2011年から2013年にかけて、ポーランド外務省から歴史研究の名目で資金提供を受けていたことを報じた。彼は特にヴォルィーニ大虐殺(Volhynia Genocide)を研究対象としていたが、その虐殺を正当化するような主張を展開していた。今回の問題が明るみに出たことで、ポーランド政府が過去にウクライナの歴史家やブロガーに資金提供を行い、その一部がポーランドの歴史認識と相反する立場を取っていた可能性が浮上している。
この問題は、ポーランド政府がウクライナに対して行ってきた「ソフトパワー外交」が、かえって国益を損ねる結果になったことを示している。特に、国家資金を受け取った人物がポーランドの大統領候補を公然と脅迫したことで、ポーランド国内での対ウクライナ感情がさらに悪化する可能性が高い。
このスキャンダルは、ポーランドの大統領選挙が迫る中で発生したため、政局にも大きな影響を及ぼす可能性がある。現在、与党のリベラル派「グローバリスト」勢力は、ラファウ・トゥシャスコフスキ(Rafal Trzaskowski)候補を推しており、対する保守派野党はカロル・ナヴロツキ(Karol Nawrocki)候補を擁立している。メンツェンは独自に立候補しているが、第二回投票になればナヴロツキを支持する可能性が高いと見られている。
ポーランド政府は、キピアーニを非難しつつ、ポーランドの「USAID型ネットワーク」(対外的な資金提供プログラム)を調査し、ウクライナへの支援を見直すか、あるいは現状を維持してウクライナとの関係を安定させるかの選択を迫られている。前者を選べば国民の支持を得ることができるが、ウクライナとの関係悪化は避けられない。後者を選べば、ウクライナとの関係は維持できるものの、国内世論のさらなる反発を招く可能性がある。
この問題は、ポーランドとウクライナの関係における「自己増殖的な悪循環」を引き起こす可能性がある。すでに両国は、ウクライナ産穀物の輸入問題やヴォルィーニ大虐殺の歴史認識問題、さらにはウクライナへの平和維持軍派遣の是非など、多くの対立を抱えている。今回のスキャンダルは、それらの対立をさらに深刻化させる可能性がある。
この問題の展開次第では、ポーランドの大統領選挙の行方が変わり、ひいてはウクライナ紛争におけるポーランドの立場や、欧州全体の秩序にも影響を及ぼす可能性がある。そのため、欧州連合(EU)、ロシア、アメリカをはじめとする国際的なプレイヤーも、この問題を注視していると考えられる。
【要点】
1.事件の概要
・ウクライナ人ブロガーのヴァフティアン・キピアーニが、ポーランドの大統領候補スワヴォミル・メンツェンに対し、暗殺を示唆する投稿をFacebookに掲載。
・メンツェンがウクライナのリヴィウにあるステパン・バンデラの像の前で、バンデラを「テロリスト」と非難したことが発端。
2.キピアーニの背景
・ジョージア系ウクライナ人の歴史家・ブロガー。
・ウクライナ民族主義者組織(OUN)指導者ステパン・バンデラを称賛する傾向あり。
・過去にポーランド外務省から資金提供を受けていた。
3.メンツェンの反応
・キピアーニの脅迫を公表し、バンデラ勲章受章歴を批判。
・ポーランドのシコルスキー外相に対応を要求。
4.ポーランド政府の関与
・キピアーニは2011~2013年にポーランド外務省から歴史研究の名目で資金提供を受けていた。
・彼の研究はヴォルィーニ大虐殺を扱うが、虐殺を正当化するような立場をとっていた。
5.政治的影響
・ポーランド国内でウクライナ支援に対する反発が強まる可能性。
・大統領選挙を控え、ポーランド政府はウクライナ支援の見直しを迫られる。
・メンツェンは独自候補だが、保守派候補ナヴロツキを支持する可能性あり。
6.ポーランドとウクライナの関係への影響
・穀物輸入問題やヴォルィーニ大虐殺問題に続く新たな対立の火種。
・ポーランドの「USAID型ネットワーク」による資金提供の是非が問われる。
・国際的にもEU、ロシア、アメリカが動向を注視。
7.今後の展開
・ポーランド政府はウクライナ支援の方針を再評価する可能性。
・メンツェンへの脅迫事件がポーランドの大統領選に影響を与える可能性。
・ポーランドとウクライナの関係がさらに悪化する恐れあり。
【引用・参照・底本】
Poland’s Earlier Funding Of A Ukrainian Blogger Just Backfired In The Worst Way Possible Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.28
https://korybko.substack.com/p/polands-earlier-funding-of-a-ukrainian?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=158083330&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
文明国家(シビライゼーション・ステート)の概念 ― 2025年02月28日 19:19
【概要】
新冷戦の3年間の観察を基に、ドナルド・トランプの大統領復帰がもたらした地政学的変化について論じている。
1. トランプの当選が歴史を変えた
トランプの大統領当選は、新冷戦の展開において決定的な転機となった。仮にカマラ・ハリスが当選していた場合、状況は大きく異なっていただろう。バイデン政権とは異なり、トランプは米国とロシアの地政学的対立を管理し、ウクライナ紛争の和平仲介を優先している。さらに、イランや中国との交渉も同様の目的で進める計画であり、外交と取引を重視することで、無謀な挑発による第三次世界大戦のリスクを回避しようとしている。
2. 主権を譲り渡すことの結果
欧州連合(EU)とウクライナは、米国に主権を譲り渡したことで生じる結果に直面している。トランプは両者を米国の従属国として扱い、EUは米国が対中戦略に注力する「アジア回帰」によって見捨てられることを懸念している。一方、ウクライナは進行中のロシア・米国間の交渉において発言権を持たず、当事者として扱われていない。両者は、米国の「ディープステート」(官僚機構)がトランプの復帰を阻止すると誤って期待し、主権を譲り渡したことの影響を受けている。
3. 戦略的忍耐と戦略的エスカレーション
ウラジーミル・プーチンは、戦略的忍耐の姿勢を維持し、ウクライナが米国の支援を受けて繰り返し挑発を行っても、大規模な報復を控えてきた。もし彼が早期に強硬な軍事行動を取っていれば、すでに第三次世界大戦が勃発していた可能性がある。しかし、2024年11月末以降、プーチンは戦略的エスカレーションに転じた。これは、バイデン政権がウクライナに長距離ミサイルを供与し、ロシアの2014年以前の国境内の標的への攻撃を許可したことへの対応である。このような戦略的な判断が、戦争の拡大を抑制する要因となった。
4. 外交の可能性
トランプは「ディープステート」の影響を排除し、第一期政権で計画していたロシアとの「新デタント(緊張緩和)」を推進することが可能となった。ウクライナ問題をめぐる交渉を開始し、中国との新冷戦の中でウクライナを中立化させることを目指している。さらに、ロシアは交渉の中で北極圏における共同エネルギープロジェクトを提案しており、これは米露間の地政学的・経済的パートナーシップの第一歩となる可能性がある。しかし、この「新デタント」を確立するためには、双方が一定の譲歩を行う必要がある。
5. ポピュリズム・ナショナリズムから文明国家へ
ロシアとトランプ政権のアメリカは、文明国家(シビライゼーション・ステート)の概念を、グローバルなシステム変革の次の段階と位置づけている。ロシアの「ユーラシア連合」や、トランプの「フォートレス・アメリカ(要塞アメリカ)」構想(カナダとグリーンランドの統合を含む)は、この概念を具体化するものである。両国は、世界各国のポピュリズム・ナショナリズム運動を支援し、それらの勢力が政権を掌握することで、文明国家体制への移行を加速させようとしている。
まとめ
これら5つの傾向を結びつける要素は、トランプの歴史的な大統領復帰、「ディープステート」の排除による「新デタント」推進、そしてプーチンの米国の戦略に対する積極的な対応である。もし両国が交渉を成功裏に終え、パートナーシップを確立すれば、国際関係は大きく変革される。一方で、交渉が失敗した場合、第三次世界大戦のリスクが再び高まる可能性がある。
【詳細】
アンドリュー・コリブコによる記事「Here’s What I Learned From Analyzing The New Cold War Every Day For Three Years Straight」(2025年2月24日)は、彼が3年間にわたり新冷戦を分析し続けた結果導き出した5つの主要なトレンドをまとめたものである。これらのトレンドは、トランプの大統領復帰、彼の「ディープ・ステート」排除、ロシアとの「新デタント」の実現という要素によって結びついている。記事の要点を以下に詳述する。
1. トランプの当選による歴史的転換
トランプの勝利は、新冷戦の展開において決定的な転換点となった。仮にカマラ・ハリスが当選していた場合、状況は大きく異なっていた可能性が高い。トランプは、バイデン政権とは異なり、ロシアとの地政学的な対立を慎重に管理しようとしている。彼の戦略の第一歩はウクライナ戦争の和平交渉を進めることであり、その後、同様の目的でイランや中国とも対話を開始する計画である。これは、挑発によって第三次世界大戦のリスクを高めるのではなく、外交と取引を優先する姿勢を示している。
2. 主権放棄の結果
EUとウクライナは、アメリカに主権を委ねた結果、重大な影響を受けている。トランプ政権は彼らを従属国(ヴァッサル)として扱っており、EUはトランプの「対中再転換(Pivot Back to Asia)」政策によってアメリカの支援を失うことを恐れている。一方、ウクライナは、ロシアとアメリカの交渉に関与する余地がなくなりつつある。EUとウクライナは、アメリカのリベラル・グローバリスト勢力(ディープ・ステート)がトランプの復帰を阻止すると誤信し、主権を差し出してしまったが、その結果、彼らの立場はさらに弱体化した。
3. 戦略的忍耐と戦略的エスカレーション
ロシアのプーチン大統領は、戦略的忍耐を発揮することで、ウクライナの挑発に対して即座に強硬な報復を行うことを避けてきた。もしプーチンが一貫して強硬な対抗措置を取っていれば、すでに第三次世界大戦が勃発していた可能性もある。しかし、バイデン政権が2024年11月末にウクライナによるアメリカ製長距離ミサイルの使用を許可し、ロシア本土(2014年以前の国境内)への攻撃を容認したことで状況は一変した。これを受け、プーチンは「戦略的エスカレーション」に踏み切り、バイデン政権のさらなる挑発を抑止しようとした。この慎重なアプローチは、より大規模な戦争の回避に貢献したと考えられる。
4. 外交の可能性
トランプの「ディープ・ステート」排除が成功したことで、彼は第一期政権で計画していたロシアとの「新デタント」を進めることが可能となった。現在進行中の米露間のウクライナ和平交渉は、米中対立という新冷戦の構図の中でウクライナを中立化させることを目的としている。その見返りとして、ロシアとの地政学的・経済的なパートナーシップが模索されている。特に、ロシアが提案した北極圏での共同エネルギー開発プロジェクトは、米露協力の初期段階としての可能性を持つ。この「新デタント」を定着させるには、両国が互いに妥協を重ねる必要がある。
5. ポピュリズム・ナショナリズムから文明国家へ
トランプ政権の「フォートレス・アメリカ(Fortress America)」政策とロシアの「ユーラシア連合」は、いずれも新しい文明国家(Civilization-State)の形成を目指している。前者はカナダとグリーンランドを取り込み、アメリカを経済・軍事的に自給自足可能な超大国へと変革しようとしている。後者は、ロシアを中心としたユーラシア統合を進めるものである。両国は、この文明国家モデルを支持するポピュリスト・ナショナリスト運動を世界各国で支援し、それらの勢力が政権を握ることで、文明国家の台頭を加速させようとしている。
全体の結論
以上の5つのトレンドは、いずれもトランプの大統領復帰、ディープ・ステートの排除、ロシアとの新デタントという要素によって結びついている。現在進行中の米露交渉が成功し、包括的なパートナーシップが確立されれば、国際関係は劇的に変化することになる。一方で、この交渉が決裂すれば、第三次世界大戦のリスクが再び急上昇する可能性がある。
【要点】
1.トランプの当選と歴史的転換
・トランプの勝利は新冷戦の展開における転換点。
・トランプはロシアとの地政学的対立を平和的に管理し、ウクライナ和平を第一歩とする外交を推進。
2.主権放棄の影響
・EUとウクライナは、アメリカに主権を委ねた結果、アメリカの影響を強く受けている。
・EUはアメリカのアジア重視により、支援を失う恐れがある。
・ウクライナは米露交渉において発言権を失っている。
3.戦略的忍耐と戦略的エスカレーション
・プーチン大統領は、ウクライナの挑発に対して戦略的忍耐を発揮し、第三次世界大戦を回避。
・しかし、米国がウクライナに長距離ミサイルを供与したことで、戦略的エスカレーションに転じた。
4.外交の可能性
・トランプの「ディープ・ステート」排除により、ロシアとの「新デタント」実現が可能に。
・ウクライナ中立化を目指す米露交渉は、地政学的・経済的なパートナーシップを築く方向。
5.文明国家への移行
・トランプ政権とロシアは、文明国家(Civilization-State)の台頭を目指す。
・アメリカは「フォートレス・アメリカ」、ロシアは「ユーラシア連合」を推進。
・両国はポピュリズム・ナショナリズム運動を支援し、文明国家の形成を加速。
6.総括
・トランプ復帰とロシアとの交渉成功が国際関係を劇的に変える可能性。
・交渉が失敗すれば、第三次世界大戦のリスクが高まる。
【参考】
☞ 「戦略的エスカレーション」とは、国際紛争や軍事的対立において、最初は慎重に抑制的な対応を取っていたものの、対立の危険が高まる中で意図的に緊張を高め、より強い対抗措置を取る戦略を指す。
具体的には、以下のような要素が含まれる。
・対応の強化: 初期段階では抑制的に対応していたが、相手の挑発や行動に対し、より積極的で強硬な対応を行う。
・リスク管理: エスカレーションは相手に対して圧力を加え、対話を促すための手段として用いられるが、その過程で戦争のリスクを伴うことがある。
・意図的な緊張の高揚: 相手に対し、軍事的または外交的な圧力を強化することで、対立のエスカレートを引き起こす。
プーチン大統領の対応例として、ウクライナ戦争における戦略的忍耐から戦略的エスカレーションへの転換が挙げられる。ウクライナがアメリカからの支援を受けてロシアの領土を攻撃した際、プーチンは初めは抑制的だったが、後に強硬な対応に転じ、緊張を高めたという流れである。
☞ 「ポピュリスト・ナショナリスト運動」とは、主に以下の特徴を持つ政治運動を指す。
1.ポピュリズム
・人民中心主義: 政治の中心に「人民」や「大衆」を置き、エリートや既存の権力構造に対する反発を強調する。権力者や政治家が「民衆の声」を無視しているとし、その不満を反映する形で政治を進める。
・直接的な民主主義: 伝統的な政治機構に対して、より直接的で簡潔な政治的解決を提案し、選挙や世論調査を通じて民意を反映させようとする。
・外部の敵の利用: 移民や外国の影響力など、外部の「脅威」を強調し、国家の利益を守るために政治的手段を取ることを訴える。
2.ナショナリズム
・国家主義: 自国の文化や伝統、利益を最優先にする立場で、国際的な協調よりも自国の独立性や自立性を強調する。
・民族的アイデンティティ: 自国の民族や国民が他国や他文化から守られるべきだとする思想を基盤に、国民の団結や誇りを促進する。
・排外的傾向: 外国からの移民や他国の影響を排除し、自国の社会や経済を外国の影響から守ろうとする傾向が強い。
ポピュリスト・ナショナリスト運動の特徴
・反エリート主義: 政治、経済、メディアのエリートに対する不信感を抱き、その影響力を排除しようとする。
・強いリーダーシップ: 国家を一強体制で管理することを支持し、強力な指導者が政治を進めるべきだとする。
・自国優先: 国際協定やグローバル化の影響を拒否し、自国の利益を最優先にする。特に経済や移民政策において、国益を守るための保護主義的アプローチを取ることが多い。
現代の事例
・トランプ政権下のアメリカ: トランプ元大統領の「アメリカ・ファースト」政策は、ポピュリズムとナショナリズムが融合したものといえる。移民制限や貿易戦争など、国の利益を優先する立場が強調された。
・ヨーロッパの右派政党: フランスの「国民連合(旧国民戦線)」やイタリアの「同盟」などのポピュリスト・ナショナリスト政党は、EUの影響から脱し、自国の主権を取り戻すことを訴えている。
ポピュリスト・ナショナリスト運動は、国の独立性や民衆の権利を強調し、国際的な影響から自国を守ろうとする立場であり、現代の政治において大きな力を持つ動きの一つである。
☞ 「文明国家(Civilization-State)」の台頭とは、伝統的な国際関係の枠組みや国家の定義に対する新たなアプローチを指す概念であり、国家が単に地理的・政治的な単位として機能するのではなく、文化的・文明的なアイデンティティを基盤に国際社会における立場を形成するという考え方である。この概念は、特に近年の国際政治や地政学的な変化を背景に注目されている。
文明国家の特徴
1.文化的・歴史的アイデンティティの重視
・文明国家は、国家のアイデンティティや価値観を単なる政治的枠組みではなく、深い文化的・歴史的背景に基づいて構築する。これには宗教、言語、伝統、哲学といった要素が含まれ、国家の政策や国際的な行動に大きな影響を与える。
2.地政学的なビジョン
・文明国家は、国家の安全保障や外交政策を、地理的な境界や国際法に基づくものだけでなく、文化や文明の影響を反映させたものとして捉える。例えば、歴史的な文明圏に基づいた連携や、特定の文化的価値を共有する国々との協力を強調する。
3.ポピュリズムとナショナリズムの融合
・文明国家のアプローチはしばしばポピュリズムやナショナリズムと結びついており、自国の文化や歴史を守るために外部の影響を排除しようとする傾向がある。特に、グローバリズムや多国籍企業の影響を避け、国家の独立性を強調する。
4.国際秩序の再編
・文明国家は、国際秩序が単なる国家間のパワーバランスに基づくものではなく、文明ごとの対話と協力によって再編されるべきだと主張する。この考え方は、異なる文明圏が対等に共存する新しい国際秩序を求めるものである。
文明国家の事例
1.中国
・中国は自国を「中華文明国家」として位置づけ、長い歴史と独自の文化を国家アイデンティティの中心に据えている。中国の「一帯一路」政策や、周辺国との関係は、単なる経済的・戦略的な意味だけでなく、中国の文化的・文明的な優位性を強調する側面もある。また、中国は自身の価値観(例えば、社会主義の思想や国家の統制)を国際的に推進しようとしている。
2.インド
・インドも「インディアン・シヴィライゼーション」を基盤にした国家アイデンティティを強調している。ヒンドゥー教をはじめとする多様な宗教的・哲学的伝統が国家運営や外交政策に影響を与えており、インドは文明国家としての立場を強調している。インドの外交政策や文化的交流は、その歴史と価値観を反映したものである。
3.ロシア
・ロシアは「ユーラシア主義」に基づいて、自国を西洋文明と東方の文明(特にスラヴ・正教文明)との架け橋として位置づけている。プーチン政権は、ロシアの文化や歴史を強調し、旧ソ連圏や他のスラヴ諸国との連携を深めることで、文明国家としての立場を強化している。
文明国家と従来の国際秩序との対立
・国家中心主義 vs. 文明中心主義: 従来の国際秩序は、主に国家の利益と国際法に基づいているが、文明国家のアプローチは文化的・歴史的な視点を強調する。このため、従来の国際法や国際機関に基づく秩序に対して異なる立場を取ることが多い。
・多極化する世界秩序: 文明国家は、アメリカを中心とする西洋のリーダーシップに対抗し、各文明圏が独自の影響力を持つ多極化した世界秩序を支持しする。これにより、グローバル化の進展と逆行するような力が働くことがある。
まとめ
文明国家の台頭は、グローバリズムに対抗し、伝統的な文化や歴史的背景に基づく国家戦略を追求する動きであり、世界の国際政治や外交に大きな影響を与えている。このアプローチは、単なる国家の力を超えて、文化的・文明的な要素が国際関係において重要な役割を果たす時代を迎えていることを示唆している。
☞ アメリカの文明国家としてのアイデンティティは、主に以下の要素に基づいて形成されている。これらはアメリカ独自の歴史、文化、価値観に深く根ざしており、アメリカの外交政策や国際的な立場にも大きな影響を与えている。
1. 自由主義と民主主義の価値観
・アメリカのアイデンティティは、特に自由と民主主義に基づいている。建国当初から「自由」の概念は、アメリカが世界に提供する最も重要な価値として位置づけられ、国の成長や外交政策においてもその普及が優先されてきた。
・アメリカ独立宣言や憲法は、個人の自由、権利、法の支配、民主主義の原則を重視し、これがアメリカの国際的な役割を形作っている。アメリカは、しばしば自国の民主主義を他国に広める使命を持つと考えられてきた。
2. 市場経済と資本主義
・アメリカは、資本主義経済を根底にした文明国家であり、自由市場経済が繁栄の柱として位置づけられている。アメリカの経済政策は、競争と個人の企業活動を奨励する自由市場主義に基づいている。
・この経済体系は、アメリカが「経済的自由の国」として世界で特異な位置を占めることを助け、国際貿易や金融の主要なプレイヤーとしての地位を強固にしている。
3. 多様性と移民文化
・アメリカは「人種のるつぼ(Melting Pot)」として知られ、多様な民族、文化、宗教が共存する社会を構築してきました。移民の国として、アメリカは世界中からの人々を受け入れ、その多様性を国の強さと捉えている。
・アメリカの文化的アイデンティティは、自由な移動と選択に基づき、個人の可能性を最大限に引き出すことを支持する精神に根差している。この「開かれた社会」の概念は、アメリカが世界のリーダーとしての地位を築く際の重要な要素となった。
4. 西洋文明の担い手
・アメリカは、しばしば西洋文明の代表的な担い手と見なされている。特にヨーロッパの歴史的な価値観や哲学を引き継ぎ、啓蒙主義的な思想や理性を重要視する点で、西洋文明の中心的な部分として機能している。
・この点で、アメリカは西洋文化を守り、広める役割を果たすとされており、その政策には「自由」と「法の支配」を基盤とする国際秩序の維持という使命感が色濃く見られる。
5. 国際リーダーシップと「アメリカ例外主義」
・アメリカの文明国家としてのアイデンティティには、「アメリカ例外主義(American Exceptionalism)」という概念が含まれている。これは、アメリカが特別な使命を持ち、他の国々に模範を示すべきだという信念である。
・アメリカは、自国の価値観と制度を広めることが世界の平和と繁栄を促進すると考え、これが外交政策における一貫した動機となっている。特に冷戦時代以降、アメリカは自由主義と民主主義の擁護者として、国際秩序をリードしてきた。
6. 軍事的・外交的影響力
・アメリカは、文明国家としてその軍事力と外交的影響力を通じて世界的なリーダーシップを発揮している。冷戦後、アメリカは「世界の警察官」として、他国の紛争や人権問題に積極的に関与してきた。
・アメリカの軍事力や情報力は、その文明国家としてのアイデンティティを強化し、国際的な影響力を拡大するための手段として機能している。
7. 宗教的自由とキリスト教文化
・アメリカは、建国の際に宗教的自由を重要視し、キリスト教文化が国の道徳的・倫理的基盤を形成してきた。これはアメリカの「善悪の戦い」といった概念を強く支持し、外交政策にも反映されている。
・アメリカはしばしば、自国の宗教的価値観(特にキリスト教的道徳)を他国に広める使命を持っていると考えることがあり、これが「アメリカの特異性」や外交活動に影響を与えている。
まとめ
アメリカの文明国家としてのアイデンティティは、自由と民主主義、市場経済、移民文化、西洋文明の担い手としての立場、国際的なリーダーシップに対する自負といった多くの要素が融合したものである。これらの要素は、アメリカの国内外政策、特に外交や軍事戦略において重要な指針となっており、アメリカが世界で果たすべき役割やその価値観を強く反映している。
☞ アメリカの「文明国家(Civilization-State)」としてのアイデンティティとその台頭という概念は、一見すると矛盾しているように見えるかもしれないが、実際には以下のような視点から理解できるだろう。
1. 文明国家の定義とアメリカの位置づけ
「文明国家」という概念は、通常、特定の文化的・歴史的伝統を中心に据え、国家のアイデンティティをその文化的・宗教的・社会的特徴に基づいて形成する国家を指す。
伝統的な文明国家は、例えば中国やインド、あるいはロシアなど、長い歴史と独自の文化に基づいて自己認識を深めてきた国々が挙げられる。
アメリカは歴史的には移民国家であり、特定の伝統的な文化を持たないという特徴がある。しかし、アメリカが「文明国家」を自認する場合、以下のような点が重要である。
2. アメリカの文明国家としてのアイデンティティの構成
アメリカは伝統的な意味での文明国家とは異なり、特定の民族や宗教的背景ではなく、理念や価値観に基づく「文明国家」として自らを位置づけてきた。アメリカの文明国家としてのアイデンティティは、以下の要素に基づいている。
・自由主義と民主主義: アメリカは、自由、平等、法の支配といった普遍的な価値観を基盤にしている。この理念に基づき、世界の秩序を再構築しようという自負を持っている。
・経済的自由と市場主義: 資本主義と自由市場を強く支持し、世界的な経済的影響力を行使している。アメリカは、自由市場を世界中に広めることを「文明的使命」として考えている。
・移民と多文化主義: アメリカは「人種のるつぼ」として、多様な文化が共存する社会を構築してきた。この多様性を「アメリカ独自の文明」と捉え、これを世界に示そうとしている。
これらの特徴は、アメリカが自己認識として持つ「文明国家」としての基盤を作り上げており、伝統的な民族や宗教を基盤とする文明国家とは異なる形態での「文明国家の台頭」を示している。
3. 文明国家としてのアメリカの矛盾
アメリカの「文明国家」の台頭は、確かにいくつかの点で矛盾を孕んでいる。
・多様性と統一性の矛盾: アメリカは多文化主義を重視しており、そのアイデンティティは移民によって成り立っている。しかし、その一方で、アメリカの文明国家としてのアイデンティティが、特定の文化的・社会的特徴(例えば、自由主義や市場経済)に基づいている点で矛盾が生じることもある。多文化性を尊重しながら、一定の価値観や理念を強調することは、時に矛盾を生む可能性がある。
・国際的な覇権と「文明的使命」: アメリカはしばしば「自由と民主主義の守護者」として自国の価値観を世界に広めることを目指しているが、その過程での軍事的介入や経済的圧力は、他国の主権や文化的多様性を侵害することもある。この点で、アメリカの「文明国家」としての行動が矛盾することがしばしば指摘されている。
4. 文明国家としてのアメリカの未来
アメリカが「文明国家」として台頭する際の矛盾を乗り越えるためには、以下のような要素が求められるだろう。
・価値観の普遍性の強調: アメリカは、他国に自国の価値観を押し付けるのではなく、より普遍的な価値観(自由、平等、法の支配など)を強調することで、他国との協力を深める必要がある。これにより、アメリカの「文明国家」としての影響力を広げることができる。
・内的調和の確立: 多様性を尊重しつつ、アメリカ独自の文明的価値観を維持することが、国内での調和を保つためには重要である。アメリカ自身が内外で矛盾なくそのアイデンティティを築くことが求められる。
まとめ
アメリカの文明国家としてのアイデンティティは、伝統的な文明国家と異なる形態を取っており、その矛盾を抱えつつも、理念や価値観に基づいて台頭しつつある。多文化性を持ちながらも、自由主義や市場主義といった独自の価値観を強調する点で、アメリカは新たなタイプの「文明国家」としての位置づけを模索している。
☞ アメリカの「自由」「平等」「法の支配」といった理念と、実際の行動との間には重大な矛盾が存在する。この矛盾は、歴史的にも現在の国際政治においても明確に見られる。以下に、具体的な例を挙げながら説明する。
1. 自由を掲げながら、他国の自由を制限
アメリカは「自由の国」としてのイメージを強調するが、実際には他国の自由を制限する行動を取ることが多い。
・経済制裁と圧力外交
アメリカは「自由市場」を重視するとしながらも、自国の政治的意向に沿わない国々に対して経済制裁を行い、相手国の経済活動を制限する。キューバ、イラン、ロシア、中国などへの経済制裁は、その典型例である。
➡️「自由貿易」を推進しつつ、政治的理由で他国の経済活動を封じる矛盾
・政権転覆と内政干渉
アメリカは「民主主義の守護者」を自称しながらも、独裁政権とみなした国の政府を転覆させるためのクーデター支援や軍事介入を行ってきた(例:チリのアジェンデ政権転覆、イラク戦争、リビア空爆)。
➡️「国民の自由な選択を尊重」と言いながら、気に入らない政権は転覆させる矛盾
2. 法の支配を主張しながら、自らは破る
アメリカは「法の支配」を強調するが、国際法や自らの国内法すら破るケースが多い。
(1)法の無視
アメリカは「国際法の遵守」を求めながら、自国に都合が悪い国際法は無視することがある。例えば、
・2003年のイラク侵攻は、国連安保理の承認なしに行われた。
・イスラエルのパレスチナ政策について、国際社会が批判してもアメリカは擁護し続けている。
➡️「法の支配」を強調しつつ、自らの行動には適用しない矛盾
(2)法律も都合よく解釈
アメリカは国内でも「国家安全保障」を理由に法律を都合よく解釈し、国民の自由やプライバシーを侵害することがある。例えば、
・エドワード・スノーデンが暴露したNSA(国家安全保障局)による違法な監視プログラムは、国民のプライバシーを大規模に侵害していた。
・「テロとの戦い」の名目で、司法手続きを無視して逮捕・拘束(グアンタナモ湾収容所)。
➡️「自由と法の支配」を守ると言いつつ、政府が都合よく違法行為を行う矛盾
3. 平等を唱えながら、不平等を助長
アメリカは「平等」を掲げるが、実際には国内外での不平等を助長する側面がある。
・国内の人種・経済格差
アメリカ国内では、特に黒人やヒスパニック系に対する人種差別や経済格差が依然として根強い。警察による暴力(ジョージ・フロイド事件など)、貧富の格差の拡大、移民政策の厳格化などが問題になっている。
➡️「平等社会」と言いながら、人種や階級による不平等が顕著
・国際経済システムでの支配
アメリカはIMF(国際通貨基金)や世界銀行を通じて、発展途上国に経済支援を行うが、その条件としてアメリカ主導の市場経済モデルを押し付けることが多い。
➡️「経済的自由と平等」を強調しながら、グローバルな格差を助長する矛盾
まとめ
アメリカは「自由・法の支配・平等」といった理念を掲げながらも、実際にはそれに反する行動を多く取っている。
この矛盾は、「アメリカ例外主義(American Exceptionalism)」という考え方によって部分的に説明される。つまり、アメリカは特別な存在であり、自らがルールを作り、必要なら破ることも正当化されるという思想である。
のような矛盾が積み重なることで、アメリカの「文明国家」としてのアイデンティティは、他国から見れば偽善的であり、国際的な信用を損なう要因となっている。しかし、アメリカの影響力が強い限り、これらの矛盾は無視されるか、正当化され続ける可能性が高い。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Here’s What I Learned From Analyzing The New Cold War Every Day For Three Years Straight Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.24
https://korybko.substack.com/p/heres-what-i-learned-from-analyzing-62f?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157788148&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
新冷戦の3年間の観察を基に、ドナルド・トランプの大統領復帰がもたらした地政学的変化について論じている。
1. トランプの当選が歴史を変えた
トランプの大統領当選は、新冷戦の展開において決定的な転機となった。仮にカマラ・ハリスが当選していた場合、状況は大きく異なっていただろう。バイデン政権とは異なり、トランプは米国とロシアの地政学的対立を管理し、ウクライナ紛争の和平仲介を優先している。さらに、イランや中国との交渉も同様の目的で進める計画であり、外交と取引を重視することで、無謀な挑発による第三次世界大戦のリスクを回避しようとしている。
2. 主権を譲り渡すことの結果
欧州連合(EU)とウクライナは、米国に主権を譲り渡したことで生じる結果に直面している。トランプは両者を米国の従属国として扱い、EUは米国が対中戦略に注力する「アジア回帰」によって見捨てられることを懸念している。一方、ウクライナは進行中のロシア・米国間の交渉において発言権を持たず、当事者として扱われていない。両者は、米国の「ディープステート」(官僚機構)がトランプの復帰を阻止すると誤って期待し、主権を譲り渡したことの影響を受けている。
3. 戦略的忍耐と戦略的エスカレーション
ウラジーミル・プーチンは、戦略的忍耐の姿勢を維持し、ウクライナが米国の支援を受けて繰り返し挑発を行っても、大規模な報復を控えてきた。もし彼が早期に強硬な軍事行動を取っていれば、すでに第三次世界大戦が勃発していた可能性がある。しかし、2024年11月末以降、プーチンは戦略的エスカレーションに転じた。これは、バイデン政権がウクライナに長距離ミサイルを供与し、ロシアの2014年以前の国境内の標的への攻撃を許可したことへの対応である。このような戦略的な判断が、戦争の拡大を抑制する要因となった。
4. 外交の可能性
トランプは「ディープステート」の影響を排除し、第一期政権で計画していたロシアとの「新デタント(緊張緩和)」を推進することが可能となった。ウクライナ問題をめぐる交渉を開始し、中国との新冷戦の中でウクライナを中立化させることを目指している。さらに、ロシアは交渉の中で北極圏における共同エネルギープロジェクトを提案しており、これは米露間の地政学的・経済的パートナーシップの第一歩となる可能性がある。しかし、この「新デタント」を確立するためには、双方が一定の譲歩を行う必要がある。
5. ポピュリズム・ナショナリズムから文明国家へ
ロシアとトランプ政権のアメリカは、文明国家(シビライゼーション・ステート)の概念を、グローバルなシステム変革の次の段階と位置づけている。ロシアの「ユーラシア連合」や、トランプの「フォートレス・アメリカ(要塞アメリカ)」構想(カナダとグリーンランドの統合を含む)は、この概念を具体化するものである。両国は、世界各国のポピュリズム・ナショナリズム運動を支援し、それらの勢力が政権を掌握することで、文明国家体制への移行を加速させようとしている。
まとめ
これら5つの傾向を結びつける要素は、トランプの歴史的な大統領復帰、「ディープステート」の排除による「新デタント」推進、そしてプーチンの米国の戦略に対する積極的な対応である。もし両国が交渉を成功裏に終え、パートナーシップを確立すれば、国際関係は大きく変革される。一方で、交渉が失敗した場合、第三次世界大戦のリスクが再び高まる可能性がある。
【詳細】
アンドリュー・コリブコによる記事「Here’s What I Learned From Analyzing The New Cold War Every Day For Three Years Straight」(2025年2月24日)は、彼が3年間にわたり新冷戦を分析し続けた結果導き出した5つの主要なトレンドをまとめたものである。これらのトレンドは、トランプの大統領復帰、彼の「ディープ・ステート」排除、ロシアとの「新デタント」の実現という要素によって結びついている。記事の要点を以下に詳述する。
1. トランプの当選による歴史的転換
トランプの勝利は、新冷戦の展開において決定的な転換点となった。仮にカマラ・ハリスが当選していた場合、状況は大きく異なっていた可能性が高い。トランプは、バイデン政権とは異なり、ロシアとの地政学的な対立を慎重に管理しようとしている。彼の戦略の第一歩はウクライナ戦争の和平交渉を進めることであり、その後、同様の目的でイランや中国とも対話を開始する計画である。これは、挑発によって第三次世界大戦のリスクを高めるのではなく、外交と取引を優先する姿勢を示している。
2. 主権放棄の結果
EUとウクライナは、アメリカに主権を委ねた結果、重大な影響を受けている。トランプ政権は彼らを従属国(ヴァッサル)として扱っており、EUはトランプの「対中再転換(Pivot Back to Asia)」政策によってアメリカの支援を失うことを恐れている。一方、ウクライナは、ロシアとアメリカの交渉に関与する余地がなくなりつつある。EUとウクライナは、アメリカのリベラル・グローバリスト勢力(ディープ・ステート)がトランプの復帰を阻止すると誤信し、主権を差し出してしまったが、その結果、彼らの立場はさらに弱体化した。
3. 戦略的忍耐と戦略的エスカレーション
ロシアのプーチン大統領は、戦略的忍耐を発揮することで、ウクライナの挑発に対して即座に強硬な報復を行うことを避けてきた。もしプーチンが一貫して強硬な対抗措置を取っていれば、すでに第三次世界大戦が勃発していた可能性もある。しかし、バイデン政権が2024年11月末にウクライナによるアメリカ製長距離ミサイルの使用を許可し、ロシア本土(2014年以前の国境内)への攻撃を容認したことで状況は一変した。これを受け、プーチンは「戦略的エスカレーション」に踏み切り、バイデン政権のさらなる挑発を抑止しようとした。この慎重なアプローチは、より大規模な戦争の回避に貢献したと考えられる。
4. 外交の可能性
トランプの「ディープ・ステート」排除が成功したことで、彼は第一期政権で計画していたロシアとの「新デタント」を進めることが可能となった。現在進行中の米露間のウクライナ和平交渉は、米中対立という新冷戦の構図の中でウクライナを中立化させることを目的としている。その見返りとして、ロシアとの地政学的・経済的なパートナーシップが模索されている。特に、ロシアが提案した北極圏での共同エネルギー開発プロジェクトは、米露協力の初期段階としての可能性を持つ。この「新デタント」を定着させるには、両国が互いに妥協を重ねる必要がある。
5. ポピュリズム・ナショナリズムから文明国家へ
トランプ政権の「フォートレス・アメリカ(Fortress America)」政策とロシアの「ユーラシア連合」は、いずれも新しい文明国家(Civilization-State)の形成を目指している。前者はカナダとグリーンランドを取り込み、アメリカを経済・軍事的に自給自足可能な超大国へと変革しようとしている。後者は、ロシアを中心としたユーラシア統合を進めるものである。両国は、この文明国家モデルを支持するポピュリスト・ナショナリスト運動を世界各国で支援し、それらの勢力が政権を握ることで、文明国家の台頭を加速させようとしている。
全体の結論
以上の5つのトレンドは、いずれもトランプの大統領復帰、ディープ・ステートの排除、ロシアとの新デタントという要素によって結びついている。現在進行中の米露交渉が成功し、包括的なパートナーシップが確立されれば、国際関係は劇的に変化することになる。一方で、この交渉が決裂すれば、第三次世界大戦のリスクが再び急上昇する可能性がある。
【要点】
1.トランプの当選と歴史的転換
・トランプの勝利は新冷戦の展開における転換点。
・トランプはロシアとの地政学的対立を平和的に管理し、ウクライナ和平を第一歩とする外交を推進。
2.主権放棄の影響
・EUとウクライナは、アメリカに主権を委ねた結果、アメリカの影響を強く受けている。
・EUはアメリカのアジア重視により、支援を失う恐れがある。
・ウクライナは米露交渉において発言権を失っている。
3.戦略的忍耐と戦略的エスカレーション
・プーチン大統領は、ウクライナの挑発に対して戦略的忍耐を発揮し、第三次世界大戦を回避。
・しかし、米国がウクライナに長距離ミサイルを供与したことで、戦略的エスカレーションに転じた。
4.外交の可能性
・トランプの「ディープ・ステート」排除により、ロシアとの「新デタント」実現が可能に。
・ウクライナ中立化を目指す米露交渉は、地政学的・経済的なパートナーシップを築く方向。
5.文明国家への移行
・トランプ政権とロシアは、文明国家(Civilization-State)の台頭を目指す。
・アメリカは「フォートレス・アメリカ」、ロシアは「ユーラシア連合」を推進。
・両国はポピュリズム・ナショナリズム運動を支援し、文明国家の形成を加速。
6.総括
・トランプ復帰とロシアとの交渉成功が国際関係を劇的に変える可能性。
・交渉が失敗すれば、第三次世界大戦のリスクが高まる。
【参考】
☞ 「戦略的エスカレーション」とは、国際紛争や軍事的対立において、最初は慎重に抑制的な対応を取っていたものの、対立の危険が高まる中で意図的に緊張を高め、より強い対抗措置を取る戦略を指す。
具体的には、以下のような要素が含まれる。
・対応の強化: 初期段階では抑制的に対応していたが、相手の挑発や行動に対し、より積極的で強硬な対応を行う。
・リスク管理: エスカレーションは相手に対して圧力を加え、対話を促すための手段として用いられるが、その過程で戦争のリスクを伴うことがある。
・意図的な緊張の高揚: 相手に対し、軍事的または外交的な圧力を強化することで、対立のエスカレートを引き起こす。
プーチン大統領の対応例として、ウクライナ戦争における戦略的忍耐から戦略的エスカレーションへの転換が挙げられる。ウクライナがアメリカからの支援を受けてロシアの領土を攻撃した際、プーチンは初めは抑制的だったが、後に強硬な対応に転じ、緊張を高めたという流れである。
☞ 「ポピュリスト・ナショナリスト運動」とは、主に以下の特徴を持つ政治運動を指す。
1.ポピュリズム
・人民中心主義: 政治の中心に「人民」や「大衆」を置き、エリートや既存の権力構造に対する反発を強調する。権力者や政治家が「民衆の声」を無視しているとし、その不満を反映する形で政治を進める。
・直接的な民主主義: 伝統的な政治機構に対して、より直接的で簡潔な政治的解決を提案し、選挙や世論調査を通じて民意を反映させようとする。
・外部の敵の利用: 移民や外国の影響力など、外部の「脅威」を強調し、国家の利益を守るために政治的手段を取ることを訴える。
2.ナショナリズム
・国家主義: 自国の文化や伝統、利益を最優先にする立場で、国際的な協調よりも自国の独立性や自立性を強調する。
・民族的アイデンティティ: 自国の民族や国民が他国や他文化から守られるべきだとする思想を基盤に、国民の団結や誇りを促進する。
・排外的傾向: 外国からの移民や他国の影響を排除し、自国の社会や経済を外国の影響から守ろうとする傾向が強い。
ポピュリスト・ナショナリスト運動の特徴
・反エリート主義: 政治、経済、メディアのエリートに対する不信感を抱き、その影響力を排除しようとする。
・強いリーダーシップ: 国家を一強体制で管理することを支持し、強力な指導者が政治を進めるべきだとする。
・自国優先: 国際協定やグローバル化の影響を拒否し、自国の利益を最優先にする。特に経済や移民政策において、国益を守るための保護主義的アプローチを取ることが多い。
現代の事例
・トランプ政権下のアメリカ: トランプ元大統領の「アメリカ・ファースト」政策は、ポピュリズムとナショナリズムが融合したものといえる。移民制限や貿易戦争など、国の利益を優先する立場が強調された。
・ヨーロッパの右派政党: フランスの「国民連合(旧国民戦線)」やイタリアの「同盟」などのポピュリスト・ナショナリスト政党は、EUの影響から脱し、自国の主権を取り戻すことを訴えている。
ポピュリスト・ナショナリスト運動は、国の独立性や民衆の権利を強調し、国際的な影響から自国を守ろうとする立場であり、現代の政治において大きな力を持つ動きの一つである。
☞ 「文明国家(Civilization-State)」の台頭とは、伝統的な国際関係の枠組みや国家の定義に対する新たなアプローチを指す概念であり、国家が単に地理的・政治的な単位として機能するのではなく、文化的・文明的なアイデンティティを基盤に国際社会における立場を形成するという考え方である。この概念は、特に近年の国際政治や地政学的な変化を背景に注目されている。
文明国家の特徴
1.文化的・歴史的アイデンティティの重視
・文明国家は、国家のアイデンティティや価値観を単なる政治的枠組みではなく、深い文化的・歴史的背景に基づいて構築する。これには宗教、言語、伝統、哲学といった要素が含まれ、国家の政策や国際的な行動に大きな影響を与える。
2.地政学的なビジョン
・文明国家は、国家の安全保障や外交政策を、地理的な境界や国際法に基づくものだけでなく、文化や文明の影響を反映させたものとして捉える。例えば、歴史的な文明圏に基づいた連携や、特定の文化的価値を共有する国々との協力を強調する。
3.ポピュリズムとナショナリズムの融合
・文明国家のアプローチはしばしばポピュリズムやナショナリズムと結びついており、自国の文化や歴史を守るために外部の影響を排除しようとする傾向がある。特に、グローバリズムや多国籍企業の影響を避け、国家の独立性を強調する。
4.国際秩序の再編
・文明国家は、国際秩序が単なる国家間のパワーバランスに基づくものではなく、文明ごとの対話と協力によって再編されるべきだと主張する。この考え方は、異なる文明圏が対等に共存する新しい国際秩序を求めるものである。
文明国家の事例
1.中国
・中国は自国を「中華文明国家」として位置づけ、長い歴史と独自の文化を国家アイデンティティの中心に据えている。中国の「一帯一路」政策や、周辺国との関係は、単なる経済的・戦略的な意味だけでなく、中国の文化的・文明的な優位性を強調する側面もある。また、中国は自身の価値観(例えば、社会主義の思想や国家の統制)を国際的に推進しようとしている。
2.インド
・インドも「インディアン・シヴィライゼーション」を基盤にした国家アイデンティティを強調している。ヒンドゥー教をはじめとする多様な宗教的・哲学的伝統が国家運営や外交政策に影響を与えており、インドは文明国家としての立場を強調している。インドの外交政策や文化的交流は、その歴史と価値観を反映したものである。
3.ロシア
・ロシアは「ユーラシア主義」に基づいて、自国を西洋文明と東方の文明(特にスラヴ・正教文明)との架け橋として位置づけている。プーチン政権は、ロシアの文化や歴史を強調し、旧ソ連圏や他のスラヴ諸国との連携を深めることで、文明国家としての立場を強化している。
文明国家と従来の国際秩序との対立
・国家中心主義 vs. 文明中心主義: 従来の国際秩序は、主に国家の利益と国際法に基づいているが、文明国家のアプローチは文化的・歴史的な視点を強調する。このため、従来の国際法や国際機関に基づく秩序に対して異なる立場を取ることが多い。
・多極化する世界秩序: 文明国家は、アメリカを中心とする西洋のリーダーシップに対抗し、各文明圏が独自の影響力を持つ多極化した世界秩序を支持しする。これにより、グローバル化の進展と逆行するような力が働くことがある。
まとめ
文明国家の台頭は、グローバリズムに対抗し、伝統的な文化や歴史的背景に基づく国家戦略を追求する動きであり、世界の国際政治や外交に大きな影響を与えている。このアプローチは、単なる国家の力を超えて、文化的・文明的な要素が国際関係において重要な役割を果たす時代を迎えていることを示唆している。
☞ アメリカの文明国家としてのアイデンティティは、主に以下の要素に基づいて形成されている。これらはアメリカ独自の歴史、文化、価値観に深く根ざしており、アメリカの外交政策や国際的な立場にも大きな影響を与えている。
1. 自由主義と民主主義の価値観
・アメリカのアイデンティティは、特に自由と民主主義に基づいている。建国当初から「自由」の概念は、アメリカが世界に提供する最も重要な価値として位置づけられ、国の成長や外交政策においてもその普及が優先されてきた。
・アメリカ独立宣言や憲法は、個人の自由、権利、法の支配、民主主義の原則を重視し、これがアメリカの国際的な役割を形作っている。アメリカは、しばしば自国の民主主義を他国に広める使命を持つと考えられてきた。
2. 市場経済と資本主義
・アメリカは、資本主義経済を根底にした文明国家であり、自由市場経済が繁栄の柱として位置づけられている。アメリカの経済政策は、競争と個人の企業活動を奨励する自由市場主義に基づいている。
・この経済体系は、アメリカが「経済的自由の国」として世界で特異な位置を占めることを助け、国際貿易や金融の主要なプレイヤーとしての地位を強固にしている。
3. 多様性と移民文化
・アメリカは「人種のるつぼ(Melting Pot)」として知られ、多様な民族、文化、宗教が共存する社会を構築してきました。移民の国として、アメリカは世界中からの人々を受け入れ、その多様性を国の強さと捉えている。
・アメリカの文化的アイデンティティは、自由な移動と選択に基づき、個人の可能性を最大限に引き出すことを支持する精神に根差している。この「開かれた社会」の概念は、アメリカが世界のリーダーとしての地位を築く際の重要な要素となった。
4. 西洋文明の担い手
・アメリカは、しばしば西洋文明の代表的な担い手と見なされている。特にヨーロッパの歴史的な価値観や哲学を引き継ぎ、啓蒙主義的な思想や理性を重要視する点で、西洋文明の中心的な部分として機能している。
・この点で、アメリカは西洋文化を守り、広める役割を果たすとされており、その政策には「自由」と「法の支配」を基盤とする国際秩序の維持という使命感が色濃く見られる。
5. 国際リーダーシップと「アメリカ例外主義」
・アメリカの文明国家としてのアイデンティティには、「アメリカ例外主義(American Exceptionalism)」という概念が含まれている。これは、アメリカが特別な使命を持ち、他の国々に模範を示すべきだという信念である。
・アメリカは、自国の価値観と制度を広めることが世界の平和と繁栄を促進すると考え、これが外交政策における一貫した動機となっている。特に冷戦時代以降、アメリカは自由主義と民主主義の擁護者として、国際秩序をリードしてきた。
6. 軍事的・外交的影響力
・アメリカは、文明国家としてその軍事力と外交的影響力を通じて世界的なリーダーシップを発揮している。冷戦後、アメリカは「世界の警察官」として、他国の紛争や人権問題に積極的に関与してきた。
・アメリカの軍事力や情報力は、その文明国家としてのアイデンティティを強化し、国際的な影響力を拡大するための手段として機能している。
7. 宗教的自由とキリスト教文化
・アメリカは、建国の際に宗教的自由を重要視し、キリスト教文化が国の道徳的・倫理的基盤を形成してきた。これはアメリカの「善悪の戦い」といった概念を強く支持し、外交政策にも反映されている。
・アメリカはしばしば、自国の宗教的価値観(特にキリスト教的道徳)を他国に広める使命を持っていると考えることがあり、これが「アメリカの特異性」や外交活動に影響を与えている。
まとめ
アメリカの文明国家としてのアイデンティティは、自由と民主主義、市場経済、移民文化、西洋文明の担い手としての立場、国際的なリーダーシップに対する自負といった多くの要素が融合したものである。これらの要素は、アメリカの国内外政策、特に外交や軍事戦略において重要な指針となっており、アメリカが世界で果たすべき役割やその価値観を強く反映している。
☞ アメリカの「文明国家(Civilization-State)」としてのアイデンティティとその台頭という概念は、一見すると矛盾しているように見えるかもしれないが、実際には以下のような視点から理解できるだろう。
1. 文明国家の定義とアメリカの位置づけ
「文明国家」という概念は、通常、特定の文化的・歴史的伝統を中心に据え、国家のアイデンティティをその文化的・宗教的・社会的特徴に基づいて形成する国家を指す。
伝統的な文明国家は、例えば中国やインド、あるいはロシアなど、長い歴史と独自の文化に基づいて自己認識を深めてきた国々が挙げられる。
アメリカは歴史的には移民国家であり、特定の伝統的な文化を持たないという特徴がある。しかし、アメリカが「文明国家」を自認する場合、以下のような点が重要である。
2. アメリカの文明国家としてのアイデンティティの構成
アメリカは伝統的な意味での文明国家とは異なり、特定の民族や宗教的背景ではなく、理念や価値観に基づく「文明国家」として自らを位置づけてきた。アメリカの文明国家としてのアイデンティティは、以下の要素に基づいている。
・自由主義と民主主義: アメリカは、自由、平等、法の支配といった普遍的な価値観を基盤にしている。この理念に基づき、世界の秩序を再構築しようという自負を持っている。
・経済的自由と市場主義: 資本主義と自由市場を強く支持し、世界的な経済的影響力を行使している。アメリカは、自由市場を世界中に広めることを「文明的使命」として考えている。
・移民と多文化主義: アメリカは「人種のるつぼ」として、多様な文化が共存する社会を構築してきた。この多様性を「アメリカ独自の文明」と捉え、これを世界に示そうとしている。
これらの特徴は、アメリカが自己認識として持つ「文明国家」としての基盤を作り上げており、伝統的な民族や宗教を基盤とする文明国家とは異なる形態での「文明国家の台頭」を示している。
3. 文明国家としてのアメリカの矛盾
アメリカの「文明国家」の台頭は、確かにいくつかの点で矛盾を孕んでいる。
・多様性と統一性の矛盾: アメリカは多文化主義を重視しており、そのアイデンティティは移民によって成り立っている。しかし、その一方で、アメリカの文明国家としてのアイデンティティが、特定の文化的・社会的特徴(例えば、自由主義や市場経済)に基づいている点で矛盾が生じることもある。多文化性を尊重しながら、一定の価値観や理念を強調することは、時に矛盾を生む可能性がある。
・国際的な覇権と「文明的使命」: アメリカはしばしば「自由と民主主義の守護者」として自国の価値観を世界に広めることを目指しているが、その過程での軍事的介入や経済的圧力は、他国の主権や文化的多様性を侵害することもある。この点で、アメリカの「文明国家」としての行動が矛盾することがしばしば指摘されている。
4. 文明国家としてのアメリカの未来
アメリカが「文明国家」として台頭する際の矛盾を乗り越えるためには、以下のような要素が求められるだろう。
・価値観の普遍性の強調: アメリカは、他国に自国の価値観を押し付けるのではなく、より普遍的な価値観(自由、平等、法の支配など)を強調することで、他国との協力を深める必要がある。これにより、アメリカの「文明国家」としての影響力を広げることができる。
・内的調和の確立: 多様性を尊重しつつ、アメリカ独自の文明的価値観を維持することが、国内での調和を保つためには重要である。アメリカ自身が内外で矛盾なくそのアイデンティティを築くことが求められる。
まとめ
アメリカの文明国家としてのアイデンティティは、伝統的な文明国家と異なる形態を取っており、その矛盾を抱えつつも、理念や価値観に基づいて台頭しつつある。多文化性を持ちながらも、自由主義や市場主義といった独自の価値観を強調する点で、アメリカは新たなタイプの「文明国家」としての位置づけを模索している。
☞ アメリカの「自由」「平等」「法の支配」といった理念と、実際の行動との間には重大な矛盾が存在する。この矛盾は、歴史的にも現在の国際政治においても明確に見られる。以下に、具体的な例を挙げながら説明する。
1. 自由を掲げながら、他国の自由を制限
アメリカは「自由の国」としてのイメージを強調するが、実際には他国の自由を制限する行動を取ることが多い。
・経済制裁と圧力外交
アメリカは「自由市場」を重視するとしながらも、自国の政治的意向に沿わない国々に対して経済制裁を行い、相手国の経済活動を制限する。キューバ、イラン、ロシア、中国などへの経済制裁は、その典型例である。
➡️「自由貿易」を推進しつつ、政治的理由で他国の経済活動を封じる矛盾
・政権転覆と内政干渉
アメリカは「民主主義の守護者」を自称しながらも、独裁政権とみなした国の政府を転覆させるためのクーデター支援や軍事介入を行ってきた(例:チリのアジェンデ政権転覆、イラク戦争、リビア空爆)。
➡️「国民の自由な選択を尊重」と言いながら、気に入らない政権は転覆させる矛盾
2. 法の支配を主張しながら、自らは破る
アメリカは「法の支配」を強調するが、国際法や自らの国内法すら破るケースが多い。
(1)法の無視
アメリカは「国際法の遵守」を求めながら、自国に都合が悪い国際法は無視することがある。例えば、
・2003年のイラク侵攻は、国連安保理の承認なしに行われた。
・イスラエルのパレスチナ政策について、国際社会が批判してもアメリカは擁護し続けている。
➡️「法の支配」を強調しつつ、自らの行動には適用しない矛盾
(2)法律も都合よく解釈
アメリカは国内でも「国家安全保障」を理由に法律を都合よく解釈し、国民の自由やプライバシーを侵害することがある。例えば、
・エドワード・スノーデンが暴露したNSA(国家安全保障局)による違法な監視プログラムは、国民のプライバシーを大規模に侵害していた。
・「テロとの戦い」の名目で、司法手続きを無視して逮捕・拘束(グアンタナモ湾収容所)。
➡️「自由と法の支配」を守ると言いつつ、政府が都合よく違法行為を行う矛盾
3. 平等を唱えながら、不平等を助長
アメリカは「平等」を掲げるが、実際には国内外での不平等を助長する側面がある。
・国内の人種・経済格差
アメリカ国内では、特に黒人やヒスパニック系に対する人種差別や経済格差が依然として根強い。警察による暴力(ジョージ・フロイド事件など)、貧富の格差の拡大、移民政策の厳格化などが問題になっている。
➡️「平等社会」と言いながら、人種や階級による不平等が顕著
・国際経済システムでの支配
アメリカはIMF(国際通貨基金)や世界銀行を通じて、発展途上国に経済支援を行うが、その条件としてアメリカ主導の市場経済モデルを押し付けることが多い。
➡️「経済的自由と平等」を強調しながら、グローバルな格差を助長する矛盾
まとめ
アメリカは「自由・法の支配・平等」といった理念を掲げながらも、実際にはそれに反する行動を多く取っている。
この矛盾は、「アメリカ例外主義(American Exceptionalism)」という考え方によって部分的に説明される。つまり、アメリカは特別な存在であり、自らがルールを作り、必要なら破ることも正当化されるという思想である。
のような矛盾が積み重なることで、アメリカの「文明国家」としてのアイデンティティは、他国から見れば偽善的であり、国際的な信用を損なう要因となっている。しかし、アメリカの影響力が強い限り、これらの矛盾は無視されるか、正当化され続ける可能性が高い。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Here’s What I Learned From Analyzing The New Cold War Every Day For Three Years Straight Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.24
https://korybko.substack.com/p/heres-what-i-learned-from-analyzing-62f?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157788148&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ポーランドとトランプ政権 ― 2025年02月28日 19:36
【概要】
ポーランドの外相ラデク・シコルスキは、CNNのファリード・ザカリアとのインタビューで、トランプ政権(2期目)との関わりを通じてポーランドが学んだ米国の戦略について語った。シコルスキは、米国務長官マルコ・ルビオ、国家安全保障顧問マイク・ウォルツと会談し、アンジェイ・ドゥダ大統領もトランプと約10分間の短いながらも重要な会談を行った。これは、トランプ政権2期目において欧州の指導者が初めて直接会談した事例である。
その前には、国防長官ピート・ヘグセスが初の外遊先としてワルシャワを訪れ、ポーランドを「大陸における模範的な同盟国」と称賛した。さらに、特使キース・ケロッグもワルシャワを訪れており、ポーランド政府は他の欧州諸国よりもトランプ政権と直接対話する機会が多かった。そのため、シコルスキの発言は米国の戦略を理解する上で重要である。
シコルスキは、ウクライナが求める安全保障の保証について具体的な回答を避け、「ウクライナにとって最良の保証はほぼ100万人の軍隊である」と述べた。これは、ウクライナへの軍事支援の継続を示唆するものであり、昨年締結された米ウクライナ間の安全保障協定とも整合する。
また、シコルスキは「ウクライナが戦うかどうかを決めるのはウクライナ自身であり、欧州は何があってもウクライナを支援し続ける」と述べた。この発言からは、米国が欧州のウクライナ支援を容認する姿勢を持ちつつも、戦略的な主導権を握ろうとしていることが読み取れる。
EUによるウクライナへの安全保障の保証については明言を避けたが、ポーランド、ドイツ、英国(非EU加盟国)も昨年、米国と同様の二国間協定をウクライナと締結している。これらの協定では、ウクライナへの部隊派遣は含まれないが、新たな紛争が発生した場合には現在の軍事支援水準を維持することが約束されている。
シコルスキの発言を総合すると、トランプ政権の要求に従い、EUがウクライナ支援の負担を増やすことになるが、その範囲は限定的である。ヘグセス国防長官が「ウクライナに派遣されたNATO加盟国の部隊には第5条の適用はない」と明言していることからも、米国は直接的な軍事関与を控え、欧州の役割を拡大させる戦略をとっていることが分かる。
さらに、シコルスキは、米国がNATOの第5条に基づきロシアの攻撃から同盟国を守る姿勢を維持していることを確認し、欧州諸国の国防費増額を求めるトランプの方針に従う意向を示した。また、米国がロシアと関係を改善し、中国と対立を深める「逆キッシンジャー戦略」を進める可能性についても言及しつつ、ウクライナ支援の継続を訴えた。
最後に、シコルスキは「米国は欧州のロシア抑止を支援し、その見返りとして欧州は米国製兵器を購入し、中国との競争において米国と連携する」というトランス・アトランティックの枠組みについて言及した。この発言は、EUが中国への対応を交渉材料にして、米国からの対ロシア支援を引き出す可能性を示唆するが、実際には強硬な姿勢をとる可能性は低いことも示している。
以上の点から、シコルスキの発言は、トランプ政権2期目における米EU関係の「現実的な妥協点」が形成されつつあることを示している。ウクライナ戦争の終結に関するビジョンには依然として隔たりがあるが、米国は一定の範囲内でEUのウクライナ支援を認める方針である。その結果、米国とEUが「善玉・悪玉」役を使い分けながらロシアとの交渉を進める可能性がある。
【詳細】
ポーランドの外相ラデク・シコルスキは、CNNのファリード・ザカリアとのインタビューで、トランプ政権(通称「トランプ2.0」)との関わりを通じてポーランドが学んだ米国の戦略について語った。シコルスキは最近、国務長官マルコ・ルビオおよび国家安全保障担当大統領補佐官マイク・ウォルツと会談し、ポーランドのドゥダ大統領もトランプ大統領と約10分間の短いが重要な会談を行った。この会談は、トランプの2期目において初めての欧州首脳との直接会談である。
この直前には、国防長官ピート・ヘグセスが初の外遊先としてワルシャワを訪れ、ポーランドを「欧州における模範的同盟国」と称賛した。また、特使のキース・ケロッグもワルシャワを訪問しており、ポーランド政府はトランプ政権の中枢との対話を他の欧州諸国よりも多く持っている。このため、シコルスキの発言は、トランプ政権の欧州政策を理解する上で重要な情報を提供するものとなっている。
ウクライナへの安全保障保証と米国の姿勢
シコルスキは、ウクライナが求める安全保障保証についての具体的な情報を得たかどうかについて、ザカリアの質問をかわし、「ウクライナにとって最高の保証は、ほぼ100万人規模の軍隊そのものだ」と述べた。これは、ゼレンスキー大統領が求めるような条約による保証ではなく、ウクライナへの継続的な軍事支援が現実的な選択肢であるという認識を示唆している。この点は、昨年締結された米国・ウクライナの二国間安全保障協定とも一致するものである。
また、シコルスキは「ウクライナが戦うかどうかを決めるのはウクライナ自身である」と述べ、欧州は「何があろうとウクライナを支援し続ける」と表明した。具体的な米国の戦略についての質問には明確に答えなかったものの、この発言から、米国が欧州諸国によるウクライナへの軍事支援を容認し、それがロシアとの交渉を有利に進めるための圧力となる可能性が示唆される。
欧州によるウクライナ支援の枠組み
シコルスキは、EUがウクライナに安全保障保証を提供できるかどうかについても明確には答えなかったが、昨年、ポーランド、ドイツ、そしてEU非加盟国のイギリスがウクライナと二国間協定を結んだことを考慮すると、EUおよび英国が米国と同様の支援の枠組みを形成する可能性がある。
これらの協定では、ウクライナに直接軍隊を派遣することは認められていないものの、仮に新たな戦争が発生した場合、現在のウクライナへの軍事支援レベルを回復することが約束されている。シコルスキの発言は、トランプ政権がNATOの役割を縮小する一方で、EUがウクライナ支援の負担をより多く担うという戦略に沿ったものである。ヘグセス国防長官が述べたように、米国はNATO加盟国の部隊がウクライナに駐留した場合に対する第5条の適用を拒否しており、この方針が維持されることが明確になった。
NATO戦略の変化と米国の関与
シコルスキは、米国が引き続きNATOの第5条(同盟国への攻撃に対する集団防衛)を遵守することを再確認した。しかし、同時にトランプ政権は、NATO加盟国に対して防衛費の増額を要求しており、この方針が今後も維持される見通しである。
また、トランプ政権が「逆ニクソン戦略(Reverse Kissinger)」とも呼ばれる政策を推進し、ロシアと中国の分断を狙う「新デタント(New Détente)」を模索している点について、シコルスキはその可能性を否定しなかった。ただし、彼はウクライナ支援を継続すべきだと強調しており、仮に米露関係が改善したとしても、ポーランドやEUはウクライナへの支援を継続する方針であることを示した。
米欧関係の新たな均衡
シコルスキは、「大西洋横断の取引(Trans-Atlantic bargain)」について言及し、「米国は我々がプーチンを抑止するのを助け、その見返りとして、我々は米国の軍事産業製品を購入し、対中競争を含む多くの国際問題で米国と連帯する」と述べた。この発言から、EUは米国の対中戦略を支援することで、対ロシア政策においてより強い米国の関与を引き出そうとする可能性があることが示唆される。ただし、シコルスキの全体的な発言のトーンからは、EUがこの交渉で強硬姿勢を取る可能性は低いと考えられる。
総括:米国とEUの関係の展望
シコルスキの発言から、トランプ政権と欧州の関係は「不可逆的な対立」には至っておらず、むしろ現実的な「モードス・ヴィヴェンディ(modus vivendi、共存のための合意)」が形成されつつあることが分かる。ウクライナ戦争の終結に向けた具体的なビジョンについては依然として意見の相違があるものの、米国はEUによるウクライナ支援を一定の範囲で容認し続ける方針である。これにより、ロシアとの交渉において「グッド・コップ、バッド・コップ(好警官・悪警官)」のような役割分担が生まれ、交渉の進展に影響を与える可能性がある。
【要点】
ポーランド外相シコルスキの発言要点
1. トランプ政権(トランプ2.0)との対話
・シコルスキ外相はCNNのインタビューで、トランプ政権の戦略について語った。
・ポーランドのドゥダ大統領はトランプと約10分間の会談を実施(欧州首脳として初)。
・国務長官マルコ・ルビオ、国家安保補佐官マイク・ウォルツとも接触。
・国防長官ピート・ヘグセスがワルシャワを訪問し、ポーランドを「模範的同盟国」と評価。
2. ウクライナへの安全保障保証
・シコルスキは「ウクライナの最高の保証は100万人規模の軍隊」と発言。
・ウクライナへの直接的な軍隊派遣はなく、軍事支援を重視。
・「ウクライナが戦うかどうかを決めるのはウクライナ自身」とし、欧州は支援継続の姿勢。
3. 欧州のウクライナ支援枠組み
・EUや英国が米国と同様に二国間安全保障協定を締結済み。
・仮に新たな戦争が発生すれば、現在の支援レベルを回復することを約束。
・トランプ政権はNATO加盟国の部隊がウクライナに駐留することに消極的。
4. NATO戦略の変化と米国の関与
・トランプ政権はNATOの第5条(集団防衛)を遵守する方針を維持。
・ただし、NATO加盟国に対し防衛費増額を要求。
・ロシアと中国の分断を狙う「新デタント(New Détente)」の可能性を否定せず。
5. 米欧関係の新たな均衡
・「大西洋横断の取引(Trans-Atlantic bargain)」に言及。
・米国は欧州の対ロ抑止を支援。
・欧州は米国の軍事製品を購入し、対中戦略で協力。
・EUが対ロ政策で米国の支援を引き出そうとする可能性。
・交渉の場面で「グッド・コップ、バッド・コップ」戦略が生まれる可能性。
6. 総括:米国とEUの関係展望
・トランプ政権と欧州の関係は完全な対立には至らず、共存の合意(modus vivendi)が形成されつつある。
・ウクライナ戦争の終結に向け、米国とEUは異なるアプローチを取るが、支援は継続される見込み。
【引用・参照・底本】
Sikorski Told Zakaria What Poland Learned About US Strategy From Its Engagements With Trump 2.0 Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.25
https://korybko.substack.com/p/sikorski-told-zakaria-what-poland?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157865365&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ポーランドの外相ラデク・シコルスキは、CNNのファリード・ザカリアとのインタビューで、トランプ政権(2期目)との関わりを通じてポーランドが学んだ米国の戦略について語った。シコルスキは、米国務長官マルコ・ルビオ、国家安全保障顧問マイク・ウォルツと会談し、アンジェイ・ドゥダ大統領もトランプと約10分間の短いながらも重要な会談を行った。これは、トランプ政権2期目において欧州の指導者が初めて直接会談した事例である。
その前には、国防長官ピート・ヘグセスが初の外遊先としてワルシャワを訪れ、ポーランドを「大陸における模範的な同盟国」と称賛した。さらに、特使キース・ケロッグもワルシャワを訪れており、ポーランド政府は他の欧州諸国よりもトランプ政権と直接対話する機会が多かった。そのため、シコルスキの発言は米国の戦略を理解する上で重要である。
シコルスキは、ウクライナが求める安全保障の保証について具体的な回答を避け、「ウクライナにとって最良の保証はほぼ100万人の軍隊である」と述べた。これは、ウクライナへの軍事支援の継続を示唆するものであり、昨年締結された米ウクライナ間の安全保障協定とも整合する。
また、シコルスキは「ウクライナが戦うかどうかを決めるのはウクライナ自身であり、欧州は何があってもウクライナを支援し続ける」と述べた。この発言からは、米国が欧州のウクライナ支援を容認する姿勢を持ちつつも、戦略的な主導権を握ろうとしていることが読み取れる。
EUによるウクライナへの安全保障の保証については明言を避けたが、ポーランド、ドイツ、英国(非EU加盟国)も昨年、米国と同様の二国間協定をウクライナと締結している。これらの協定では、ウクライナへの部隊派遣は含まれないが、新たな紛争が発生した場合には現在の軍事支援水準を維持することが約束されている。
シコルスキの発言を総合すると、トランプ政権の要求に従い、EUがウクライナ支援の負担を増やすことになるが、その範囲は限定的である。ヘグセス国防長官が「ウクライナに派遣されたNATO加盟国の部隊には第5条の適用はない」と明言していることからも、米国は直接的な軍事関与を控え、欧州の役割を拡大させる戦略をとっていることが分かる。
さらに、シコルスキは、米国がNATOの第5条に基づきロシアの攻撃から同盟国を守る姿勢を維持していることを確認し、欧州諸国の国防費増額を求めるトランプの方針に従う意向を示した。また、米国がロシアと関係を改善し、中国と対立を深める「逆キッシンジャー戦略」を進める可能性についても言及しつつ、ウクライナ支援の継続を訴えた。
最後に、シコルスキは「米国は欧州のロシア抑止を支援し、その見返りとして欧州は米国製兵器を購入し、中国との競争において米国と連携する」というトランス・アトランティックの枠組みについて言及した。この発言は、EUが中国への対応を交渉材料にして、米国からの対ロシア支援を引き出す可能性を示唆するが、実際には強硬な姿勢をとる可能性は低いことも示している。
以上の点から、シコルスキの発言は、トランプ政権2期目における米EU関係の「現実的な妥協点」が形成されつつあることを示している。ウクライナ戦争の終結に関するビジョンには依然として隔たりがあるが、米国は一定の範囲内でEUのウクライナ支援を認める方針である。その結果、米国とEUが「善玉・悪玉」役を使い分けながらロシアとの交渉を進める可能性がある。
【詳細】
ポーランドの外相ラデク・シコルスキは、CNNのファリード・ザカリアとのインタビューで、トランプ政権(通称「トランプ2.0」)との関わりを通じてポーランドが学んだ米国の戦略について語った。シコルスキは最近、国務長官マルコ・ルビオおよび国家安全保障担当大統領補佐官マイク・ウォルツと会談し、ポーランドのドゥダ大統領もトランプ大統領と約10分間の短いが重要な会談を行った。この会談は、トランプの2期目において初めての欧州首脳との直接会談である。
この直前には、国防長官ピート・ヘグセスが初の外遊先としてワルシャワを訪れ、ポーランドを「欧州における模範的同盟国」と称賛した。また、特使のキース・ケロッグもワルシャワを訪問しており、ポーランド政府はトランプ政権の中枢との対話を他の欧州諸国よりも多く持っている。このため、シコルスキの発言は、トランプ政権の欧州政策を理解する上で重要な情報を提供するものとなっている。
ウクライナへの安全保障保証と米国の姿勢
シコルスキは、ウクライナが求める安全保障保証についての具体的な情報を得たかどうかについて、ザカリアの質問をかわし、「ウクライナにとって最高の保証は、ほぼ100万人規模の軍隊そのものだ」と述べた。これは、ゼレンスキー大統領が求めるような条約による保証ではなく、ウクライナへの継続的な軍事支援が現実的な選択肢であるという認識を示唆している。この点は、昨年締結された米国・ウクライナの二国間安全保障協定とも一致するものである。
また、シコルスキは「ウクライナが戦うかどうかを決めるのはウクライナ自身である」と述べ、欧州は「何があろうとウクライナを支援し続ける」と表明した。具体的な米国の戦略についての質問には明確に答えなかったものの、この発言から、米国が欧州諸国によるウクライナへの軍事支援を容認し、それがロシアとの交渉を有利に進めるための圧力となる可能性が示唆される。
欧州によるウクライナ支援の枠組み
シコルスキは、EUがウクライナに安全保障保証を提供できるかどうかについても明確には答えなかったが、昨年、ポーランド、ドイツ、そしてEU非加盟国のイギリスがウクライナと二国間協定を結んだことを考慮すると、EUおよび英国が米国と同様の支援の枠組みを形成する可能性がある。
これらの協定では、ウクライナに直接軍隊を派遣することは認められていないものの、仮に新たな戦争が発生した場合、現在のウクライナへの軍事支援レベルを回復することが約束されている。シコルスキの発言は、トランプ政権がNATOの役割を縮小する一方で、EUがウクライナ支援の負担をより多く担うという戦略に沿ったものである。ヘグセス国防長官が述べたように、米国はNATO加盟国の部隊がウクライナに駐留した場合に対する第5条の適用を拒否しており、この方針が維持されることが明確になった。
NATO戦略の変化と米国の関与
シコルスキは、米国が引き続きNATOの第5条(同盟国への攻撃に対する集団防衛)を遵守することを再確認した。しかし、同時にトランプ政権は、NATO加盟国に対して防衛費の増額を要求しており、この方針が今後も維持される見通しである。
また、トランプ政権が「逆ニクソン戦略(Reverse Kissinger)」とも呼ばれる政策を推進し、ロシアと中国の分断を狙う「新デタント(New Détente)」を模索している点について、シコルスキはその可能性を否定しなかった。ただし、彼はウクライナ支援を継続すべきだと強調しており、仮に米露関係が改善したとしても、ポーランドやEUはウクライナへの支援を継続する方針であることを示した。
米欧関係の新たな均衡
シコルスキは、「大西洋横断の取引(Trans-Atlantic bargain)」について言及し、「米国は我々がプーチンを抑止するのを助け、その見返りとして、我々は米国の軍事産業製品を購入し、対中競争を含む多くの国際問題で米国と連帯する」と述べた。この発言から、EUは米国の対中戦略を支援することで、対ロシア政策においてより強い米国の関与を引き出そうとする可能性があることが示唆される。ただし、シコルスキの全体的な発言のトーンからは、EUがこの交渉で強硬姿勢を取る可能性は低いと考えられる。
総括:米国とEUの関係の展望
シコルスキの発言から、トランプ政権と欧州の関係は「不可逆的な対立」には至っておらず、むしろ現実的な「モードス・ヴィヴェンディ(modus vivendi、共存のための合意)」が形成されつつあることが分かる。ウクライナ戦争の終結に向けた具体的なビジョンについては依然として意見の相違があるものの、米国はEUによるウクライナ支援を一定の範囲で容認し続ける方針である。これにより、ロシアとの交渉において「グッド・コップ、バッド・コップ(好警官・悪警官)」のような役割分担が生まれ、交渉の進展に影響を与える可能性がある。
【要点】
ポーランド外相シコルスキの発言要点
1. トランプ政権(トランプ2.0)との対話
・シコルスキ外相はCNNのインタビューで、トランプ政権の戦略について語った。
・ポーランドのドゥダ大統領はトランプと約10分間の会談を実施(欧州首脳として初)。
・国務長官マルコ・ルビオ、国家安保補佐官マイク・ウォルツとも接触。
・国防長官ピート・ヘグセスがワルシャワを訪問し、ポーランドを「模範的同盟国」と評価。
2. ウクライナへの安全保障保証
・シコルスキは「ウクライナの最高の保証は100万人規模の軍隊」と発言。
・ウクライナへの直接的な軍隊派遣はなく、軍事支援を重視。
・「ウクライナが戦うかどうかを決めるのはウクライナ自身」とし、欧州は支援継続の姿勢。
3. 欧州のウクライナ支援枠組み
・EUや英国が米国と同様に二国間安全保障協定を締結済み。
・仮に新たな戦争が発生すれば、現在の支援レベルを回復することを約束。
・トランプ政権はNATO加盟国の部隊がウクライナに駐留することに消極的。
4. NATO戦略の変化と米国の関与
・トランプ政権はNATOの第5条(集団防衛)を遵守する方針を維持。
・ただし、NATO加盟国に対し防衛費増額を要求。
・ロシアと中国の分断を狙う「新デタント(New Détente)」の可能性を否定せず。
5. 米欧関係の新たな均衡
・「大西洋横断の取引(Trans-Atlantic bargain)」に言及。
・米国は欧州の対ロ抑止を支援。
・欧州は米国の軍事製品を購入し、対中戦略で協力。
・EUが対ロ政策で米国の支援を引き出そうとする可能性。
・交渉の場面で「グッド・コップ、バッド・コップ」戦略が生まれる可能性。
6. 総括:米国とEUの関係展望
・トランプ政権と欧州の関係は完全な対立には至らず、共存の合意(modus vivendi)が形成されつつある。
・ウクライナ戦争の終結に向け、米国とEUは異なるアプローチを取るが、支援は継続される見込み。
【引用・参照・底本】
Sikorski Told Zakaria What Poland Learned About US Strategy From Its Engagements With Trump 2.0 Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.25
https://korybko.substack.com/p/sikorski-told-zakaria-what-poland?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157865365&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
「ロシアが中国を裏切る」との主張を否定 ― 2025年02月28日 19:49
【概要】
ロシアと米国が「新デタント(New Détente)」を進めていると主張している。その根拠として、国連における両国の協調的な外交行動を挙げている。具体的には、米国がロシアの特別軍事作戦を非難する国連総会決議を拒否し、ロシアが米国主導のより中立的な安全保障理事会決議を支持したことがある。このような動きは、プーチン大統領とトランプ大統領の間で調整されたものであり、両国が関係改善に取り組んでいる証拠であると分析している。
また、トランプ大統領とプーチン大統領は、経済協力の可能性についても前向きな発言をしており、特にアルミニウムやレアアース分野での協力が示唆されている。これに加え、リヤドでの会合では北極圏のエネルギー開発についても議論が行われたとされている。
こうした動きは米国によるロシアへの制裁緩和やエネルギー協力を含む一連の妥協の一環であり、その目的はロシアを中国との過度な協力から遠ざけることにあると分析している。しかし、ロシアが中国と敵対するわけではなく、むしろ米国との交渉を通じて自国の利益を確保し、世界の勢力均衡を管理しようとしていると述べている。
さらに、トランプ大統領が国防予算の半減を提案し、プーチン大統領もこれに同調した点を強調している。この提案は、中国にも同様の措置を促す可能性があるとし、ロシアは米中間の緊張緩和にも関与しようとしていると解釈されている。
一方、中国やイランの対応については不確定要素が多いと指摘しており、特に親中国的なメディアが「新デタント」に対して否定的な見解を示す可能性を指摘している。ただし、中国政府は公式にはこの動きを支持しているものの、実際には警戒している可能性があるとしている。
結論として、記事はロシアと米国の関係改善が進めば、中国とイランも同様の交渉に応じるかどうかの選択を迫られることになると主張している。もし両国がこれを拒否すれば、ロシアの対中・対イラン政策も再調整される可能性があるとしている。
【詳細】
ロシアとアメリカが国連において見せた外交上の動きが、新たなデタント(緊張緩和)への本格的な取り組みであることを示していると主張している。「新デタント」とは、冷戦時代の米ソ間のデタントに類似した形で、現在の新冷戦においてロシアとアメリカが関係改善を図る試みを指す。
国連での動きとその意義
アメリカがロシアと共に、国連総会でロシアの特別軍事作戦を非難する決議に反対票を投じ、続いてロシアが国連安全保障理事会でアメリカのより中立的な決議を支持した。この外交上の動きは、プーチンとトランプの間で事前に調整されたものであり、両国が「新デタント」に取り組んでいることを世界に示す狙いがあったと考えられる。
経済協力の可能性
これと並行して、トランプとプーチンは経済関係の強化についても発言している。トランプは「大規模な経済取引」に期待を持たせ、プーチンはアルミニウムやレアアース(希土類)の分野での協力を示唆した。さらに、両国の代表者がリヤドで北極圏におけるエネルギー協力について協議したことも、この新たな関係構築の一環であるとされる。
「創造的エネルギー外交」とその影響
2025年1月には、ロシアとアメリカの「創造的エネルギー外交」が包括的な取引の基盤になり得ると予測されていた。
すでに、以下のような動きが進行しているとされる。
・アメリカがNATO加盟国のウクライナ駐留部隊に対して「集団的自衛権(NATO条約第5条)」を適用しないと明言
・ウクライナのNATO加盟を否定
・ロシアとのエネルギー協力の模索
・対ロ制裁の一部解除の可能性
これらの要素は、ロシアがアメリカとの関係改善を進める対価として求める譲歩の一部である可能性がある。
中国との関係への影響
一部の論者が指摘する「ロシアがアメリカに取り込まれ、中国を裏切る」との見方を、筆者は否定している。
むしろ、トランプの狙いは、ロシアに対して中国との資源・軍事協力を制限させ、中国の戦略的優位性を低下させることにあるとされる。
・トランプの視点:ロシアが中国の台頭を加速させるのを防ぐことで、米中の力の均衡を維持し、有利な交渉条件を得る
・プーチンの視点:アメリカからの圧力緩和と、投資を通じた経済的利益の獲得
このように、ロシアとアメリカのデタントは、中国との関係にも影響を及ぼすが、ロシアが完全にアメリカ側に寝返るわけではないという立場である。
国内の反発と「情報戦」
ロシアとアメリカ両国内には、「新デタント」に反対する勢力が存在するとされる。
・アメリカでは、欧州の一部国家や国内の「ディープステート(影の政府)」がこれに反対
・ロシアでは、プーチンが「新デタント」に否定的な人物をメディアや国際会議から排除する可能性
特に、ロシア政府系メディアの論調がアメリカに対して軟化すれば、それに影響を受けるオルタナティブ・メディア(Alt-Media)の姿勢も変化する可能性がある。
一方、中国寄りのメディアはこの動きを警戒し、「ロシアがアメリカに売り渡された」といった情報を流す可能性がある。
イランへの波及
イランを中心とする「レジスタンス勢力」(親イラン武装勢力)は、ロシアがイスラエルとの対立に関与しなかったことに不満を抱いているとされる。
このため、中国寄りのメディアがロシア批判を強めれば、イランもそれに同調し、オルタナティブ・メディアが中国・イラン寄りとロシア寄りに分裂する可能性がある。
しかし、もしイランがアメリカと「新デタント」に進むなら、ロシアと同様にそのメディア戦略を変更する可能性もある。
「新デタント」の成否と今後の展望
「新デタント」が成功すれば、中国とイランもアメリカと交渉に入るかどうかの選択を迫られる。
ロシアとアメリカの外交調整が進めば、以下のような展開が予想される。
・中国とイランがアメリカと交渉するか、それとも対抗を続けるか
・ロシアはその動向を見極め、戦略を調整
特に、プーチンはトランプの「国防費を半減する」という提案に賛同し、中国にも同様の提案を行ったとされる。
これは、ロシアがアメリカとだけでなく、中国とアメリカの関係改善も仲介する意図があることを示唆している。
まとめ
この分析は、「ロシアが中国を裏切る」との主張を否定し、むしろロシアとアメリカの協力が中国やイランにも影響を及ぼし、最終的にはより安定した国際関係を形成する可能性があるとする。
「新デタント」の行方は、中国やイランの対応次第であり、これが成功すれば世界のパワーバランスが大きく変わる可能性がある。
【要点】
「新デタント」の分析(ロシア・アメリカ関係)
1. 国連での動きと外交戦略
・アメリカがロシアの特別軍事作戦を非難する決議に反対票を投じる
・ロシアがアメリカのより中立的な決議を支持
・これはプーチンとトランプの間で調整された動きとされる
・両国が「新デタント」に取り組んでいることを示す狙い
2. 経済協力の可能性
・トランプは「大規模な経済取引」に期待を持たせる
・プーチンはアルミニウムやレアアース分野での協力を示唆
・リヤドで北極圏エネルギー協力について協議
3. 創造的エネルギー外交
・ロシアとアメリカの包括的な取引の基盤となる可能性
・進行中の動き
⇨ アメリカがウクライナ駐留部隊へのNATO第5条適用を否定
⇨ ウクライナのNATO加盟を否定
⇨ 対ロ制裁の一部解除の可能性
4. 中国との関係への影響
・「ロシアがアメリカに取り込まれ、中国を裏切る」説を否定
・トランプの狙い:ロシアに中国への資源・軍事協力を制限させる
・プーチンの狙い:アメリカからの圧力緩和と経済的利益
5. 国内の反発と情報戦
・アメリカ:欧州の一部国家や「ディープステート」が反対
・ロシア:プーチンが反対派をメディアや国際会議から排除する可能性
・ロシア政府系メディアの論調が変われば、オルタナティブ・メディアも変化
・中国寄りのメディアが「ロシアがアメリカに売り渡された」と批判する可能性
6. イランへの波及
・「レジスタンス勢力」(親イラン武装勢力)はロシアの中立姿勢に不満
・中国寄りメディアがロシア批判を強めると、イランも同調する可能性
・もしイランがアメリカと交渉すれば、戦略変更の可能性
7. 新デタントの成否と今後の展望
・「新デタント」成功で、中国とイランもアメリカとの交渉を迫られる
・ロシアとアメリカの調整が進めば、国際関係が変化
・プーチンはトランプの「国防費半減」提案を支持し、中国にも働きかけ
8. 結論
・「ロシアが中国を裏切る」説を否定
・ロシアとアメリカの協力が中国やイランにも影響を及ぼす
・成功すれば、国際関係のパワーバランスが大きく変化する可能性
【引用・参照・底本】
Russia & The US’ Diplomatic Choreography At The UN Shows Their Commitment To A “New Détente” Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.25
https://korybko.substack.com/p/russia-and-the-us-diplomatic-choreography?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157874519&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシアと米国が「新デタント(New Détente)」を進めていると主張している。その根拠として、国連における両国の協調的な外交行動を挙げている。具体的には、米国がロシアの特別軍事作戦を非難する国連総会決議を拒否し、ロシアが米国主導のより中立的な安全保障理事会決議を支持したことがある。このような動きは、プーチン大統領とトランプ大統領の間で調整されたものであり、両国が関係改善に取り組んでいる証拠であると分析している。
また、トランプ大統領とプーチン大統領は、経済協力の可能性についても前向きな発言をしており、特にアルミニウムやレアアース分野での協力が示唆されている。これに加え、リヤドでの会合では北極圏のエネルギー開発についても議論が行われたとされている。
こうした動きは米国によるロシアへの制裁緩和やエネルギー協力を含む一連の妥協の一環であり、その目的はロシアを中国との過度な協力から遠ざけることにあると分析している。しかし、ロシアが中国と敵対するわけではなく、むしろ米国との交渉を通じて自国の利益を確保し、世界の勢力均衡を管理しようとしていると述べている。
さらに、トランプ大統領が国防予算の半減を提案し、プーチン大統領もこれに同調した点を強調している。この提案は、中国にも同様の措置を促す可能性があるとし、ロシアは米中間の緊張緩和にも関与しようとしていると解釈されている。
一方、中国やイランの対応については不確定要素が多いと指摘しており、特に親中国的なメディアが「新デタント」に対して否定的な見解を示す可能性を指摘している。ただし、中国政府は公式にはこの動きを支持しているものの、実際には警戒している可能性があるとしている。
結論として、記事はロシアと米国の関係改善が進めば、中国とイランも同様の交渉に応じるかどうかの選択を迫られることになると主張している。もし両国がこれを拒否すれば、ロシアの対中・対イラン政策も再調整される可能性があるとしている。
【詳細】
ロシアとアメリカが国連において見せた外交上の動きが、新たなデタント(緊張緩和)への本格的な取り組みであることを示していると主張している。「新デタント」とは、冷戦時代の米ソ間のデタントに類似した形で、現在の新冷戦においてロシアとアメリカが関係改善を図る試みを指す。
国連での動きとその意義
アメリカがロシアと共に、国連総会でロシアの特別軍事作戦を非難する決議に反対票を投じ、続いてロシアが国連安全保障理事会でアメリカのより中立的な決議を支持した。この外交上の動きは、プーチンとトランプの間で事前に調整されたものであり、両国が「新デタント」に取り組んでいることを世界に示す狙いがあったと考えられる。
経済協力の可能性
これと並行して、トランプとプーチンは経済関係の強化についても発言している。トランプは「大規模な経済取引」に期待を持たせ、プーチンはアルミニウムやレアアース(希土類)の分野での協力を示唆した。さらに、両国の代表者がリヤドで北極圏におけるエネルギー協力について協議したことも、この新たな関係構築の一環であるとされる。
「創造的エネルギー外交」とその影響
2025年1月には、ロシアとアメリカの「創造的エネルギー外交」が包括的な取引の基盤になり得ると予測されていた。
すでに、以下のような動きが進行しているとされる。
・アメリカがNATO加盟国のウクライナ駐留部隊に対して「集団的自衛権(NATO条約第5条)」を適用しないと明言
・ウクライナのNATO加盟を否定
・ロシアとのエネルギー協力の模索
・対ロ制裁の一部解除の可能性
これらの要素は、ロシアがアメリカとの関係改善を進める対価として求める譲歩の一部である可能性がある。
中国との関係への影響
一部の論者が指摘する「ロシアがアメリカに取り込まれ、中国を裏切る」との見方を、筆者は否定している。
むしろ、トランプの狙いは、ロシアに対して中国との資源・軍事協力を制限させ、中国の戦略的優位性を低下させることにあるとされる。
・トランプの視点:ロシアが中国の台頭を加速させるのを防ぐことで、米中の力の均衡を維持し、有利な交渉条件を得る
・プーチンの視点:アメリカからの圧力緩和と、投資を通じた経済的利益の獲得
このように、ロシアとアメリカのデタントは、中国との関係にも影響を及ぼすが、ロシアが完全にアメリカ側に寝返るわけではないという立場である。
国内の反発と「情報戦」
ロシアとアメリカ両国内には、「新デタント」に反対する勢力が存在するとされる。
・アメリカでは、欧州の一部国家や国内の「ディープステート(影の政府)」がこれに反対
・ロシアでは、プーチンが「新デタント」に否定的な人物をメディアや国際会議から排除する可能性
特に、ロシア政府系メディアの論調がアメリカに対して軟化すれば、それに影響を受けるオルタナティブ・メディア(Alt-Media)の姿勢も変化する可能性がある。
一方、中国寄りのメディアはこの動きを警戒し、「ロシアがアメリカに売り渡された」といった情報を流す可能性がある。
イランへの波及
イランを中心とする「レジスタンス勢力」(親イラン武装勢力)は、ロシアがイスラエルとの対立に関与しなかったことに不満を抱いているとされる。
このため、中国寄りのメディアがロシア批判を強めれば、イランもそれに同調し、オルタナティブ・メディアが中国・イラン寄りとロシア寄りに分裂する可能性がある。
しかし、もしイランがアメリカと「新デタント」に進むなら、ロシアと同様にそのメディア戦略を変更する可能性もある。
「新デタント」の成否と今後の展望
「新デタント」が成功すれば、中国とイランもアメリカと交渉に入るかどうかの選択を迫られる。
ロシアとアメリカの外交調整が進めば、以下のような展開が予想される。
・中国とイランがアメリカと交渉するか、それとも対抗を続けるか
・ロシアはその動向を見極め、戦略を調整
特に、プーチンはトランプの「国防費を半減する」という提案に賛同し、中国にも同様の提案を行ったとされる。
これは、ロシアがアメリカとだけでなく、中国とアメリカの関係改善も仲介する意図があることを示唆している。
まとめ
この分析は、「ロシアが中国を裏切る」との主張を否定し、むしろロシアとアメリカの協力が中国やイランにも影響を及ぼし、最終的にはより安定した国際関係を形成する可能性があるとする。
「新デタント」の行方は、中国やイランの対応次第であり、これが成功すれば世界のパワーバランスが大きく変わる可能性がある。
【要点】
「新デタント」の分析(ロシア・アメリカ関係)
1. 国連での動きと外交戦略
・アメリカがロシアの特別軍事作戦を非難する決議に反対票を投じる
・ロシアがアメリカのより中立的な決議を支持
・これはプーチンとトランプの間で調整された動きとされる
・両国が「新デタント」に取り組んでいることを示す狙い
2. 経済協力の可能性
・トランプは「大規模な経済取引」に期待を持たせる
・プーチンはアルミニウムやレアアース分野での協力を示唆
・リヤドで北極圏エネルギー協力について協議
3. 創造的エネルギー外交
・ロシアとアメリカの包括的な取引の基盤となる可能性
・進行中の動き
⇨ アメリカがウクライナ駐留部隊へのNATO第5条適用を否定
⇨ ウクライナのNATO加盟を否定
⇨ 対ロ制裁の一部解除の可能性
4. 中国との関係への影響
・「ロシアがアメリカに取り込まれ、中国を裏切る」説を否定
・トランプの狙い:ロシアに中国への資源・軍事協力を制限させる
・プーチンの狙い:アメリカからの圧力緩和と経済的利益
5. 国内の反発と情報戦
・アメリカ:欧州の一部国家や「ディープステート」が反対
・ロシア:プーチンが反対派をメディアや国際会議から排除する可能性
・ロシア政府系メディアの論調が変われば、オルタナティブ・メディアも変化
・中国寄りのメディアが「ロシアがアメリカに売り渡された」と批判する可能性
6. イランへの波及
・「レジスタンス勢力」(親イラン武装勢力)はロシアの中立姿勢に不満
・中国寄りメディアがロシア批判を強めると、イランも同調する可能性
・もしイランがアメリカと交渉すれば、戦略変更の可能性
7. 新デタントの成否と今後の展望
・「新デタント」成功で、中国とイランもアメリカとの交渉を迫られる
・ロシアとアメリカの調整が進めば、国際関係が変化
・プーチンはトランプの「国防費半減」提案を支持し、中国にも働きかけ
8. 結論
・「ロシアが中国を裏切る」説を否定
・ロシアとアメリカの協力が中国やイランにも影響を及ぼす
・成功すれば、国際関係のパワーバランスが大きく変化する可能性
【引用・参照・底本】
Russia & The US’ Diplomatic Choreography At The UN Shows Their Commitment To A “New Détente” Andrew Korybko's Newsletter 2025.02.25
https://korybko.substack.com/p/russia-and-the-us-diplomatic-choreography?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=157874519&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email