ポーランド:実態としてその軍事力は見かけ倒し2025年05月12日 16:44

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【概要】

 ポーランドの軍需産業(MIC)が極めて未発達であるという実態を明らかにしたものである。特に、ポーランドの政治指導層が長年にわたり自国の防衛生産基盤を軽視し、代わりに主にアメリカ製の兵器を購入する政策を推進してきたことが、同国の戦略的自立性を著しく損なっていると指摘している。

 ポーランドはEU東部諸国の中で最も人口が多く、経済規模も最大であり、NATO加盟国としても第三の規模を持つ軍隊を有している。しかし、実態としてその軍事力は見かけ倒しである。ブルームバーグによると、ポーランドは防衛予算を倍増させたにもかかわらず、国内の軍需生産能力が非常に貧弱な状態にある。特に、ポーランドの国営軍需企業ポルスカ・グルパ・ズブロイェニオヴァ(PGZ)は、火薬製造施設の拡充に10年以上取り組んできたが、いまだに生産に至っていない。

 例えば、2025年末までにポーランドが生産予定の砲弾数はわずか15万発であり、これはウクライナがロシアとの戦闘で1か月に消費する量(年間200万発)と同程度に過ぎない。一方、ドイツのラインメタル社は2022年以降に生産能力を10倍に拡大し、年間75万発の砲弾を生産する計画を示しており、ポーランドの数値はこれと比較しても大きく劣る。

 また、防空ミサイルシステム「ピオルン」についても、2016年から生産が開始されたにもかかわらず、依然として生産ラインは一つだけであり、拡充の動きは見られるが過去の失敗例から不安が残る。

 本来であれば、自国防衛を前提に火薬・砲弾・防空ミサイルなどの基幹装備の国産化に注力すべきところを、ポーランドは外国製兵器の購入に大半の予算を充ててきた。特にアメリカ製兵器の調達が多く、例えば韓国製戦車を部分的に国内で組み立てようとする試みも、契約交渉の停滞によって頓挫していると報じられている。

 こうした状況の背景には、ポーランドの主要政党である「市民プラットフォーム」と「法と正義」という与野党が共に、アメリカとの関係強化を重視するあまり、自国の軍需基盤の整備を二の次にしてきたという政治的判断がある。この戦略は、NATO第5条の集団的自衛義務に対するアメリカの忠実な履行を期待してのものであったが、その代償としてポーランドはアメリカへの過度な依存状態に陥っている。

 現在、ロシアがポーランドを侵攻する計画を持っているという直接の証拠はなく、仮にそうなった場合でもアメリカが支援を放棄する可能性は低いとされる。しかし、歴史的経緯からロシアに対する強い不安を持つポーランド国民の多くにとっては、米ロ関係が融和の方向に向かい、アメリカが欧州防衛から段階的に手を引く姿勢を見せている現状は深刻な脅威と映っている。

 実際、2025年3月に発表された世論調査によれば、ポーランド国民の半数以上がアメリカを信頼できる安全保障上の保証人とは見なしておらず、同月には国家安全保障局長が「弾薬備蓄は2週間分にも満たない」と明かしたことも重なり、国防に対する不安は急激に高まっている。

 4月に政府は防衛産業の迅速な整備に向けた法案を発表し、改革に乗り出しているが、依然としてアメリカ製のパトリオットミサイルシステム(約20億ドル規模)を追加購入予定であり、これがアメリカ依存のさらなる強化につながる可能性がある。

 以上の事実と分析を踏まえれば、ポーランドの「大国」志向は非現実的であると言わざるを得ない。同国は現在、ウクライナへの軍事支援により保有装備をほぼ空にした状態にあり、自国で持続的な戦争を遂行するに足る軍需生産能力を備えていない。これは「大国」ではなく「張り子の虎(paper tiger)」の姿であり、ポーランド軍の脆弱性と、それに起因する国民的な不安は、すべて長年にわたり自国のMICを軽視してきた政治的指導層の責任に起因するという評価である。

【詳細】 

 ポーランドは、EUの東側で最も人口が多く、最大の経済規模を有し、NATOで3番目に大きな陸軍を保有することから、「かつての大国」としての地位の回復を目指している。しかし、Bloombergの報道によれば、ポーランドの軍需産業(MIC: Military-Industrial Complex)は、国防予算を倍増させたにもかかわらず、著しく発展しておらず、深刻な構造的課題を抱えている。

 ポーランドのMICは、2013年に設立された国有の軍需企業連合体「ポルスカ・グルパ・ズブロイェニョヴァ(PGZ)」が中核をなしている。50以上の企業を傘下に持つPGZは、過去10年以上にわたり火薬(推進薬)の生産拡大を試みてきたが、いまだに実現していない。具体的には「プロジェクト44.7」および「プロジェクト400」という二つの施設建設計画があるが、いずれも稼働に至っていない。この結果、国内での砲弾生産能力が大きく制限されている。

 ポーランドは2025年末までに15万発の砲弾生産を予定しているが、隣国ドイツのラインメタル社は、2022年以降に生産能力を10倍に拡大し、同年に75万発を生産予定である。Forbes誌によると、ウクライナ軍は毎日155ミリ砲弾を5,000発以上発射しており、年間約200万発を消費している。これと比較すると、PGZの年間生産量は、ウクライナが1か月で使用する量に相当するにすぎない。

 ポーランドの代表的な製品とされる携帯型防空ミサイルシステム「ピオルン(Piorun)」についても、生産体制は貧弱である。2016年から製造が続けられているが、生産ラインは1つしか存在せず、2025年4月にようやく新たなラインの設置が発表された。しかし、過去の火薬生産拡張の失敗例を考慮すると、その実現性には懐疑的な見方がある。

 ポーランドは、防衛装備の国内生産よりも外国からの調達を優先しており、特にアメリカ製装備の導入に大きく依存している。韓国製戦車を国内で部分的に組み立てる計画もあったが、条件交渉の難航により進展していない。外国製装備の組立では、根本的な技術蓄積や自立的な防衛産業の確立には繋がらず、問題の本質的な解決にはならない。

 このような政策の背景には、ポーランドの政権を担ってきた「市民プラットフォーム(Civic Platform)」および「法と正義(Law & Justice)」という二大政党による対米依存志向がある。両党とも、アメリカに接近することでNATO条約第5条に基づく防衛義務を確保しようとし、その見返りに防衛産業の育成を二の次にしてきた。

 この戦略は、米ロの対立が明確だった時期には大きな問題とされなかったが、現在のように米ロ間に「新デタント(緊張緩和)」が見られる状況では、ポーランド国民の不安感が急速に高まっている。多くのポーランド人は、歴史的な経験によりロシアへの恐怖感が根深く、米国の関与が薄れれば、ロシアの侵攻がいつでも起こり得ると懸念している。

 トランプ政権は、中央・東ヨーロッパからの米軍撤退やNATO第5条の完全放棄までは考えていないが、中国封じ込めのために兵力をアジアに再配置する方針であり、欧州の安全保障を単独で担うことはもはやしないと宣言している。国務長官ピート・ヘグセットは、NATO加盟国に対して自らの防衛責任をより多く負担するよう求めており、ポーランド国内ではこれが重大な警戒感をもって受け止められている。

 2025年3月初旬の世論調査では、すでにポーランド国民の過半数がアメリカを「信頼できない同盟国」と見なしており、その後のヘグセットの発言により、この傾向はさらに強まったと考えられる。さらに3月末には、国家安全保障局のトップが、ポーランドの保有弾薬が2週間分未満であると公表した。これは、仮にロシアの侵攻があった場合、アメリカの軍事的支援なしには国家としての生存が困難であることを意味する。

 ロシアにそのような意図はなく、アメリカがポーランドを見捨てる現実的可能性もないが、「新デタント」「防衛責任の欧州移譲」および「軍需産業の未発達」という3要素が重なったことで、ポーランド社会の不安はかつてないほど高まっている。

 一方で、2025年4月に発表された防衛関連法案の草案では、防衛産業関連プロジェクトの迅速化が盛り込まれており、政府がようやく状況の打開に本腰を入れ始めた兆しもある。しかし、アメリカからのパトリオットミサイル購入(約20億ドル相当)を予定しており、これにより部品供給や整備でも引き続きアメリカ依存が続く。

 以上の事実から見て、ポーランドが独自の軍事的影響力を広域地域で行使する「大国」となるのは非現実的である。ポーランド陸軍はNATO内で3番目の規模とされるが、装備はほとんどウクライナに供与され、自国の戦時生産能力も極めて低いため、ロシアとの長期戦を想定した戦争遂行能力には欠けている。

 このような状況は「大国」の要件を満たすものではなく、むしろ「張り子の虎(paper tiger)」と形容されるのが妥当である。これらの問題と、それに起因する社会的不安は、長年にわたり防衛産業の育成を怠り、対米装備調達を優先した政権の責任に帰せられる。

【要点】

 ポーランド軍需産業の未発達に関する主張(要点)

 ・ポーランドはEU東側で最大の人口と経済を持ち、NATOで3番目に大きな陸軍を保有しているが、軍需産業は著しく未発達である。

 ・中核企業である国有軍需連合「PGZ(ポルスカ・グルパ・ズブロイェニョヴァ)」は、火薬工場建設(プロジェクト44.7および400)を10年以上前から計画しているが、いまだに実現していない。

 ・砲弾生産能力は著しく低く、2025年の年間予定生産量は15万発である。これは、ウクライナが1か月で消費する量に過ぎない。

 ・比較として、ドイツのラインメタル社は2022年以降に能力を10倍に増強し、2025年には75万発の砲弾を生産予定である。

 ・携帯型防空ミサイル「ピオルン(Piorun)」も、生産ラインが1つしかなく、量産体制が整っていない。新たな生産ライン設置は発表されたばかりである。

 ・ポーランドは防衛装備を国内生産するのではなく、アメリカや韓国からの購入や組立に依存している。韓国製戦車の国内組立計画も停滞している。

 ・政権を担った市民プラットフォーム党および法と正義党は、対米依存を深め、独自の軍需能力育成を後回しにしてきた。

 ・米国は現在、中国封じ込めを優先し、欧州の安全保障を単独では担わない姿勢を示している。ポーランドではこれが深刻な懸念となっている。

 ・世論調査では、ポーランド国民の半数以上が米国を「信頼できない」と見なしており、不安が高まっている。

 ・国家安全保障局は、ポーランドの弾薬備蓄が2週間分以下であると公表し、軍事的自立性の欠如が明らかになった。

 ・2025年4月には、防衛プロジェクトの迅速化を含む法案草案が発表されたが、同時に約20億ドルのアメリカ製パトリオットミサイル購入も決定された。

 ・結果として、ポーランドは自前の防衛産業を育てることができず、装備の多くをウクライナに供与してしまったため、長期戦遂行能力に欠けている。

 ・現状のポーランドは「大国」ではなく、外見だけの「張り子の虎(paper tiger)」と評されるのが妥当である。

【桃源寸評】

 日本とポーランドの軍需産業における共通点

 人口・経済規模の割に軍需産業が未発達

 ・日本もG7の一員で経済大国であるが、防衛装備品の自国生産能力や輸出体制は弱く、兵器の量産体制に問題を抱える。

 弾薬やミサイルの備蓄不足

 ・日本の防衛白書などでも、弾薬備蓄は「数日分」とされ、ポーランド同様、継戦能力に疑問がある。

 海外製兵器への過度な依存

 ・日本もF-35戦闘機やイージスシステム、パトリオットなど、米国製兵器に依存しており、自国開発兵器の国際競争力は低い。

 法制度や手続きの遅さに起因する軍需生産の停滞

 ・日本では防衛装備庁の調達制度の硬直性や、防衛産業の民間企業からの撤退などにより、生産体制の強化が進みにくい。

 国民の安全保障への信頼が揺らいでいる

 ・日本でも「アメリカが本当に守ってくれるのか」という不安が高まっており、同盟頼みの安全保障に対する懸念が存在する。

 ウクライナ戦争に影響された危機感

 ・ポーランドも日本も、ウクライナ戦争によって脆弱な継戦能力や備蓄不足を痛感し、ようやく法整備や予算増額に動き始めた。

 国防産業の中核企業が国有または民間依存で不安定

 ・ポーランドではPGZ、日本では三菱重工などが中心だが、量産インフラの整備は不十分で、撤退企業も多い。

 したがって、ポーランドが直面する問題の多くは日本にも共通しており、両国とも「見かけ倒しの防衛大国」と批判され得る構造を抱えている。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Poland’s Military-Industrial Complex Is Embarrassingly Underdeveloped’
Andrew Korybko's Newsletter 2025.05.12
https://korybko.substack.com/p/polands-military-industrial-complex?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=163371510&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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