中国とEU2024年12月19日 18:32

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【概要】 
 
 スペインの駐中国大使であるマルタ・ベタンソス氏は、12月18日に中国人民大学での講演において、米国次期大統領のドナルド・トランプ氏が来年1月にホワイトハウスへ復帰するまで、中国と欧州連合(EU)間の関税に関する協議は進展しない可能性が高いと述べた。彼女は、中国とEUの貿易関係の改善を求める考えを示した。

 ベタンソス氏によると、中国とEUは相互に関税措置を講じているものの、「これが最終的な決定ではない」とのことである。彼女は「トランプ氏が政権を取った後の、彼の発表内容が実際にどのように実施されるのかを見極めるまで、結果は出ないだろう」と語った。

 トランプ氏はすでに中国を含む複数の国々に対する大幅な関税引き上げを公約しており、EU諸国に対しても「十分な量のアメリカ製品を購入しない場合、大きな代償を払うことになる」と警告している。

 一部の分析家は、トランプ氏がEUに対し対中強硬姿勢を取るよう求める可能性があるとする一方で、他の分析家はトランプ氏がEUに対しても関税を課す可能性があり、それがブリュッセルと北京の結束を強める可能性があると指摘している。

 現在、中国とEUの間では関税に関する議論が公式には進行中であり、両者間の物品移動における関税率や上限価格に関する提案が検討されている。

 10月末以降、EUは中国製電気自動車(EV)に最大45%の関税を課しており、自国メーカーとの競争条件を均等化することを目指している。これに対し、中国はたびたび反発を示し、ブランデーの輸入に関税を課し、EUからの乳製品や豚肉輸入に対して反ダンピング調査を開始するなどの対抗措置を講じている。

 ベタンソス氏は、中国とEUが「お互いに懸案事項を理解しており、合意を達成する必要性を十分に認識している」と述べ、貿易関係の改善の必要性を強調した。

 ベルリンを拠点とするシンクタンク「Merics」のデータによると、スペインと中国の貿易関係は近年大きな非対称性を示しており、2022年には約340億ユーロ(約3,560億円)の貿易赤字を記録している。スペインの対中輸入額は約420億ユーロ、輸出額は約80億ユーロにとどまる。

 さらに、中国とEUの関係は、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した後、大きく悪化している。中国はこの侵攻を非難しておらず、ドローンや軍民両用の物資および部品をウクライナ戦争に供給しているとの疑惑が持たれているが、中国はこれを繰り返し否定している。

 ベタンソス氏は、中国が国連安全保障理事会の常任理事国としての地位を活用し、ウクライナ戦争において他の主要プレーヤーに再考を促すべきであると主張した。また、戦争が続く限り、欧州諸国と中国の関係や信頼は以前のようには回復しないであろうとも述べた。

【詳細】
 
 スペインの駐中国大使であるマルタ・ベタンソス氏は、2024年12月18日に中国人民大学で行われた講演において、中国と欧州連合(EU)間の関税交渉が停滞している現状について言及した。彼女は、米国の次期大統領であるドナルド・トランプ氏が2025年1月にホワイトハウスに復帰するまで、この交渉が進展する可能性は低いと述べた。さらに、トランプ政権の政策が両者の関係に与える影響について注目しているとの見解を示した。

 中国とEUの現在の関係状況

 ベタンソス氏によれば、中国とEUは互いに関税措置を講じ合っているが、「これが最終的な決定ではない」との認識を共有しているという。具体的には、EUは中国製電気自動車(EV)に対して最大45%の関税を課す措置を講じている。この措置は、EU域内の自動車メーカーに対する競争条件を均等化することを目的としており、中国政府はこれに対し強い反発を示している。中国は対抗措置として、EUからのブランデー輸入に関税を課すとともに、EU産乳製品や豚肉の輸入に対して反ダンピング調査を開始した。

 トランプ氏の影響力と見通し

 トランプ氏は、大統領就任後に中国を含む複数の国々に対して大幅な関税引き上げを実施する意向を表明しており、EU諸国に対しても「十分な量のアメリカ製品を購入しなければ、大きな代償を払うことになる」と警告している。このため、EUが対中政策をどのように進めるかは、トランプ政権の方針によって大きく左右される可能性がある。一部の分析家は、トランプ氏がEUに対し対中強硬姿勢を取るよう圧力をかけると予想しており、他方で、トランプ氏がEUにも関税を課す可能性があるとする見方も存在する。このような動きがブリュッセルと北京の関係を強化する契機となる可能性も指摘されている。

 中国とEUの貿易関係の非対称性

 スペインと中国の貿易関係について、ベルリンを拠点とするシンクタンク「Merics」のデータによると、2022年には約340億ユーロ(約3,560億円)の貿易赤字が記録されている。スペインの対中輸入額は約420億ユーロである一方、輸出額は約80億ユーロにとどまっている。このような非対称性は、スペインのみならずEU全体の貿易政策に影響を与えている。

 ウクライナ戦争と中国の役割

 中国とEUの関係は、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、大きく悪化している。EU諸国は、中国が侵攻を非難しないだけでなく、ドローンや軍民両用物資をロシア側に供給しているとの疑惑を抱いている。これに対し、中国はこれらの疑惑を繰り返し否定している。ベタンソス氏は、中国が国連安全保障理事会の常任理事国として、戦争に関与する他の主要プレーヤーに対し再考を促すべき責任を持つと指摘している。彼女は、中国が持つ外交的影響力を活用することで、戦争の解決に向けた建設的な役割を果たす可能性に期待を寄せている。

 結論と展望

 ベタンソス氏は、中国とEUが貿易関係の改善に向けて協力する必要性を強調したものの、ウクライナ戦争やトランプ政権の影響がその進展を阻害している現状を認めた。彼女は、戦争が続く限り、欧州諸国と中国の間の信頼関係が以前の水準に回復することは困難であると述べた。このような複雑な背景の中で、中国とEUは、相互利益を追求するために現実的な解決策を模索する必要があると結論付けた。

【要点】 
 
 1.関税交渉の停滞

 ・中国とEU間の関税交渉は進展が見られず、トランプ氏が2025年1月に米国大統領として復帰するまで動きがないと見られている。

 2.EUの関税措置

 ・EUは中国製電気自動車(EV)に最大45%の関税を課しており、中国はこれに対抗してブランデー、乳製品、豚肉の輸入に対し関税や反ダンピング調査を実施。

 3.トランプ政権の影響

 ・トランプ氏は、中国やEUを含む複数の国々に大幅な関税引き上げを予定しており、EUに対しても米国製品の購入を強調。
 ・トランプ政権がEUの対中姿勢や中欧関係に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 4.貿易の非対称性

 ・スペインの対中貿易赤字は2022年に約340億ユーロ(約3,560億円)に達しており、EU全体でも貿易の不均衡が問題視されている。

 5.ウクライナ戦争の影響

 ・ロシアによるウクライナ侵攻以降、中国とEUの関係は悪化。
 ・中国は侵攻を非難せず、軍民両用物資をロシアに供給しているとの疑惑があるが、これを否定。

 6.中国の国際的役割

 ・スペイン大使は、中国が国連安保理常任理事国として戦争解決に向けた外交的影響力を発揮すべきと提案。

 7.信頼関係の損失

 ・ウクライナ戦争が続く限り、中国とEU間の信頼関係の回復は難しいと指摘。

 8.今後の課題

 ・両者は貿易関係の改善を目指すため、現実的な解決策を模索する必要がある。

【引用・参照・底本】

China-EU trade ties ‘on hold’ ahead of Trump’s White House return, Spanish ambassador says SCMP 2024.12.18
https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3291309/china-eu-trade-ties-hold-ahead-trumps-white-house-return-spanish-envoy?module=perpetual_scroll_0&pgtype=article

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